仮面ライダーエグゼイド ~M in Maerchen World~ 作:コッコリリン
ロボットアクションゲーマーへとレベルアップしたエグゼイドは、手近にいたゴーストヴィラン目掛けて左の剛腕を振りかぶった。
「はぁ!」
空を裂くスピードで振るわれる左からのストレートパンチをモロに受けたゴーストヴィラン。本来ならば打撃系の武器に対して対抗力を持つゴースト種であるが、左腕のアーム『ゲキトツスマッシャー』は、ただでさえ常人を上回るエグゼイドのパンチ力をその内部で受け止め、10倍にして相手に叩きつける武装。そんな武装を前にして流石に無事で済むことはなく、衝撃を全身に受けてその体をゴム鞠の如く吹き飛ばされ、数体のヴィランを巻き添えにして消滅した。
「よし、効いてる!」
レベル3の力が通用したことを確認し、エグゼイドはさらに他のヴィランへと拳を振るう。巨大な槌の如く叩きつけられる剛腕により、次々とゴーストヴィランは成す術なく吹き飛ばされ、消滅していく。
「おりゃあ!」
最後の一体を、地面にクレーターを作るほどの豪快な叩きつけで倒し、残すところはリーダー格、メガ・ゴーストヴィランのみとなった。
「行くぜ!」
左腕を構え、ヴィランへと走るエグゼイド。ヴィランはその細長い手から、闇のエネルギー弾を連続して射出、エグゼイドを迎え撃つ。それらをエグゼイドは、左腕を盾にするかのように眼前を覆って防いで行った。
速度を緩めないエグゼイド。その後ろ、レヴォルは空白の書を手に取り、挟んでいた栞を抜き取った。
「よし、援護する!」
栞を裏返し、再び書に挟み、閉じる。すると、栞の裏面に込められたヒーローの魂とコネクトしたレヴォルの体が光に包まれた。
光が消えると、現れたのは一人の少年。身を包む豪勢にして威厳に満ちた白い装束は、さながら王族のよう。
否、ようではなく事実、王族が着る物。そしてその服を身に纏う少年は、かの有名な『千夜一夜物語』で語り継がれる物語の一つ、『アラビアンナイト』の主人公。
「はぁぁぁぁ……!」
レヴォル扮する、アラビアンナイトの主人公、アラジンが手に持った金色の杖を掲げる。すると、先端の宝玉から雷が迸り始め、
「はぁっ!!」
気合いと共に杖を振り下ろす。すると、ヴィランの頭上を幾つもの雷が降り注ぐ。突然の奇襲に成す術なく、ヴィランは雷をまともに喰らい、全身に電流が走った。痙攣するのを見るに、電流に縛られたかのように動けなくなっているのがわかる。
「はっ!」
≪HIT!≫
そこをエグゼイドの左アームパンチからなる洗礼を容赦なく受けるヴィラン。
「せい! おりゃ! だぁっ!!」」
≪HIT!≫≪HIT!≫≪GREAT!≫
さらに連続で振るわれる豪腕は、容赦なくヴィランの体力を奪っていく。いまだ痺れから抜け出せないヴィランは、最後の一発を食らって大きく吹き飛んだ。
メガ・ヴィランは総じて体力が高い。それを知る彼らは、さらに追い打ちをかける。
「そぉれもいっちょ!!」
アリシアが大砲の照準をヴィランへ合わせる。大砲内で力をチャージしたことで、最大火力となった砲弾が、炸裂音と共にヴィランへと飛んでいく。
そして、着弾、爆発。爆風によって巻き上がる煙塵が晴れると、元々ボロ布を纏っていたかのようなその外見がより一層みすぼらしくなったような、瀕死に近いヴィランがよろよろと浮いていた。だが、目から光が消えておらず、まだまだ健在だった。
「エムさん、今よ!」
そんなヴィランに、アリシアがトドメをエグゼイドにさすよう促した。エグゼイドもまた、確実に仕留めるために、必殺技を発動させる。
「こいつでフィニッシュだ!」
≪ガッシューン≫
ゲキトツロボッツガシャットをゲーマドライバーから抜くと、左側のキメワザホルダーへ。
≪ガシャット!≫
≪キメワザ!≫
左のアームでスイッチを押し込むと、キメワザホルダーがガシャットを読み込む。すると、キメワザホルダーを伝って左腕のアームへ。カラフルなエネルギーに包まれたゲキトツスマッシャーを引いて、構え、そして、
「喰らえ!」
スイッチを押した。
≪GEKITOTSU CRITICAL STRIKE!!≫
突き出されたアームパンチ。距離が離れているヴィランにはその攻撃が届かない……と思われた瞬間、ゲキトツスマッシャーがエネルギーを炎のように噴射し、エグゼイドの腕から飛び出す。
そして真っ直ぐ、猛スピードでヴィランへ。
『――――ッ!!』
腹部にゲキトツスマッシャーが直撃、スピードとエネルギーを乗せた一撃を前に、ヴィランはたまらず悍ましい叫び声を上げる。しかしそれでもまだ倒れず、逆にゲキトツスマッシャーのアームを両手で持ち、押し返そうと抗った。
と、そこへ、
「うおおおおおおおおおお!!」
猛烈な勢いで駆けるエグゼイド。目指すは、いまだエネルギーを噴出するアーム。そして、そのアームへと左拳を突き出した。
「も一つオマケだ!!」
再びエグゼイドの腕に収まるアーム。そして、
≪PERFECT!!≫
ゲキトツスマッシャーの威力を10倍にする機能によって倍増されたエグゼイドのパンチが、衝撃となって抑え込んでいたヴィランの体へと伝わった。
『―――――――ッ!!』
それが追い打ちとなり、トドメとなる。たまらず吹き飛んだヴィランは、宙で爆散。断末魔の悲鳴を上げながら、跡形もなく消え去った。
≪会心の一発!!≫
もうヴィランは見当たらない。強力な攻撃が決まった時に鳴り響くサウンドが、戦闘の終了の合図となったのだった。
「退けたか」
「ふぃ~、さすがに二日連続で来るときついな」
空白の書から栞を取り、一息つくレヴォルとぼやくティム。
≪ガッチョーン≫
≪ガッシューン≫
「ふぅ……」
永夢もまた、レバーを戻し、ドライバーとホルダーからガシャットを抜いて変身を解く。昨日同様、永夢が変身を解除すると、周囲を覆っていたゲームエリアも消失した。
「皆さん、怪我はありませんか?」
「ああ、僕たちは大丈夫だ」
「ま、今更あんな連中に遅れは取らねえよ」
医者としての性か、ガシャットを懐にしまいながらレヴォルたちに問う永夢。レヴォルは異常がないことを伝え、その横でティムは軽く笑いながら体についた埃を払った。
「よかった……被害も最小限に抑えられたみたいです」
周辺の住民は無事に逃げ出せたことで、建物が一部破壊されているに留められているのは、不幸中の幸いだったと言えた。
「……しっかしまぁ、仮面ライダーってのは随分」
「ねぇねぇエムさんエムさん! 今のすごかったよね! 仮面ライダーって他にもいろいろなれるの!?」
「あ、ちょ、おチビテメェ!?」
ティムが何か言いかけると、そこに割り込む形でエレナがエムに詰め寄る。その目は純粋な子供というのを絵に描いたような、憧憬に煌めく瞳をしていた。
「あ、あぁ、うん。ガシャットを変えればレベルアップして、状況に応じた姿になれるんだ」
「おぉぉぉぉ……他にもあるんだぁ……!」
「エレナ……こういうの意外と好きだったんだな……」
それが何とも微笑ましいように映る永夢の返答に、より一層輝きを増すエレナの目。その後ろで、エレナの意外な一面を見たレヴォルが呆れながら呟いた。
「……」
「アリシア? どうかしたかい?」
と、そんな永夢とエレナのやり取りを見ていたアリシアが、顎に手を添えて考え込んでいるのを、パーンが訝し気に聞く。
「いえ、ちょっと……」
気のない返事をしてから、おもむろに足を永夢の方へと進めた。
「エムさん、ちょっといいですか?」
「え? 何?」
アリシアに呼ばれ、永夢はエレナとはまた何か違った異様な雰囲気を漂わせている彼女へと向く。そして、眼鏡の奥で光る真剣な眼差しを永夢へ向けたまま、ずいっとエレナ以上に詰め寄った。
「そのゲーマドライバーとガシャットって分解させてもらえたりしますか!?」
「えぇ!?」
「落ち着け」
「あだっ」
スパーンと、とんでもないことを言い出したアリシアの頭を迷わず叩くティム。割と強めだったのか、思わずつんのめった。
「ったぁ! 何すんのよティムくん!」
「いや唐突に変なこと言い出すからだろ」
「だって気になるじゃない! コネクトとも違う未知の変身技術よ!? それも超強力な! 一研究者として気にならないはずないじゃない!!」
「だからって人様のもん『分解してもいいですか』って聞くか普通」
好奇心が暴走したアリシアを窘めるティム。と、興奮冷めやらぬ彼女の肩を、ポンと叩く人物がいた。
「ティムの言う通りですよ。落ち着きなさい」
「シェインさん……」
ティムと同じく冷静な様子でアリシアを窘めるシェイン。
「未知の技術ゆえに、分解して元に戻るという保証はありません。これからの戦い、彼の力は必要なのは皆わかっていることでしょう? 諦めなさい」
「……わかりました」
年長者としての貫禄を出しつつ、冷静に諭されたアリシアは、さすがに気持ちも落ち着いたらしく、大人しく引き下がる。
「……まぁ、気持ちはすごくわかりますがね……すごく」
「おいババァ。目がマジじゃねぇか」
「シェイン、君も落ち着いた方がいい」
年長者ではあるが、その好奇心は下手すればアリシア以上とされるシェインの永夢、もといゲーマドライバーへ向けられた目は、何だか猛禽類の如く鋭かった。思わずティムとパーンが呆れてツッコんだ。
「は、はは……」
当の永夢は苦笑するしかなく、気持ち腰のゲーマドライバーを庇うように後退った。
「あ、あの……」
「え?」
そんな永夢の後ろから声がかかる。振り返ると、頭巾を深く被って顔を隠した少女が、どこか所在なさげに立っていた。よく見れば服も汚れており、所々破れていたりと、痛々しい姿が目に映る。
「あ、君は……怪我はない? 大丈夫?」
レヴォルたち同様、先ほどの騒ぎでどこか怪我をしたかどうか問う永夢。対し、少女は一瞬肩を震わせてから、首を横に振る。そして、すぐに頭を下げた。
「あの、助けていただいて、ありがとうございました……それじゃ」
「え、ちょっと待っ」
礼を言ってから去ろうとする少女に、何故ヴィランに襲われていたのか事情を知りたい永夢は手を伸ばした。
瞬間、フッと少女の体から力が抜けるように、永夢に向けて倒れ込んでくる。
「っと!?」
咄嗟に伸ばした手で少女の肩を掴む。少女からは反応はなく、ただ永夢に身を任せるような形となって意識を失っていた。
「し、しっかりして! 君!」
「そんな、どこかやられたのか!?」
のっぴきならない状況に、永夢だけでなくレヴォルも慌てる。少女の顔を覗き込んだ永夢は、容態を確認する。
呼吸は、ある。ただ気を失っているだけのようだった。
「気絶しているだけみたいだ。けどどこかで休ませないと」
ただ、衰弱している様子が見られる。やむを得ず、永夢は少女を抱き上げた。身長は低くはないのに対し、驚くほど軽い。
「しょうがない、失礼を承知で先ほどの家へ運ぼう。彼女を頼む」
「はい!」
パーンが先導し、永夢は少女を抱えたまま歩き出す。その際、結び目が緩んでいたのか彼女が被っていた頭巾がハラリと落ちた。そして露わになった顔が、シェインの視界に入る。
「……っ! ちょっと待ってください!」
「え?」
突如、シェインが呼び止める。いきなりのことで急停止して疑問符を浮かべる永夢を余所に、シェインは少女の顔を覗き込んだ。
薄汚れてはいるが、それでも尚色褪せない煌めくサファイアのような蒼い髪。幼さを残しつつ、気品すら感じさせる端麗な顔立ち。誰もが見惚れる程の美貌を備えた、美しい少女。
「この人は……」
しかし、シェインが注目したのはそこではない。というのも、シェインは彼女をよく知っている。それはシェインだけでなく、レヴォルたちも見知った顔だった。
「シンデレラ、さん?」
不幸な境遇から、奇跡の魔法で幸せを掴み取る運命にある人物。かの有名な童話の主人公の姿が、そこにあった。
~ 第6話 明かになるStory! ~
「……アリシア、彼女の容態は?」
「エムさん曰く、栄養失調による衰弱と極度の疲労による気絶らしいです。傷も大したものじゃなくて大事には至ってないようで、しばらくすれば目を覚ますみたいです」
再びパン屋へと戻って来た一行は、老婆に事情を話して一室を貸してもらい、少女をベッドへと運び込んだ。それから永夢が診察し、今は付きっ切りで看病している状況だ。
「そうか……彼は研修中とは言っていたが、あの迅速な対応。ドクターとしてそれなりの場数は踏んでいるようだね」
「ですね。彼女が目覚めるまで、今は彼に任せておいた方が賢明です」
適切な処置を施した永夢に感心するパーンとシェイン。永夢を除いた全員が、神妙な面持ちで朝に集った部屋に集まっている。
「……しかし、彼女がここにいるということは……」
「ああ、恐らくそういうことだろう」
テーブルに肘を着きながら言うシェインに、パーンが頷く。
今ベッドで眠っている少女は、紛れもなくシンデレラ本人だ。服装こそ彼女が虐げられていた時期に着ている質素な物だったが、これまで何度か見てきた顔立ちから見間違いようがない。あの姿から、彼女は妖精の魔法使い、フェアリー・ゴッドマザーによって美しいドレスとガラスの靴を授かり、城の舞踏会で王子に見初められ、その後ガラスの靴が切っ掛けとなって王子と結ばれる……そういう筋書きの運命を辿る筈だ。
「確か、前にシンデレラちゃんに会ったのって、オーロラ姫ちゃんがいた想区以来だったっけ?」
「ああ、それと影の塔でも会ったな」
エレナとレヴォルが、以前出会ったシンデレラの姿を思い出す。最初は、二つの物語が一つとなった想区にて。もう一つは、カオステラーによって滅ぼされたことで新生ヒーローとして新たな力を得た時だ。そのどちらも、彼女はたおやかな女性という印象が強く、それでいて芯の強い性格をしていた。
「……けど、どうしてあんな状態に……」
が、今回出会ったシンデレラは、どこか弱々しい。傷だらけで衰弱していた姿から、100%何か厄介な問題に巻き込まれたと見て間違いはない。
「わかんねぇけどよ、どうもキナ臭くなってきたぜ」
「そうね……ここがシンデレラの想区というなら、おかしい点があるわ」
ティムに同調し、アリシアが語る。
「私たちが今まで見てきたシンデレラの想区には、城を取り囲むような壁なんて無かったわ。無論、想区によって語られる内容が変わるから一概には言えないけれど」
「それと……この国の王、だな」
アリシアに続くように、エヴォルも自身が感じた違和感を話した。
「お婆さんから聞いた話では、この国の王子は結婚したらしい。ここがシンデレラの想区というなら、相手はシンデレラさんのはずだ」
「けど、ここにそのシンデレラがいる。それも、服装も舞踏会に行く前の服にしか見えねえな」
「……もしかして、違う人と結婚した?」
エレナがそう疑問を口にした。その時、
「いいや、そりゃないよ」
部屋の扉が開き、老婆が入室する。手には先ほどまでシンデレラが眠る部屋に置かれていた水の入った桶があり、中身の交換してきたものと思われる。
「お婆さん?」
「私も遠くから見たけど、確かにありゃ現国王とシンデレラちゃ……王妃だったねぇ。彼女の姿はそりゃあもう綺麗なもんだったさ。国中がお祝いしたんだ、見間違いようがないよ」
そう断言する老婆。だが、それが事実ならば、謎が深まるばかりだった。
「……じゃあ、今眠ってるシンデレラちゃんは誰なの?」
エレナの問いに、一瞬沈黙が走った。
「いや……逆かもしれねぇぞ?」
そこを、ティムが口を開いて静寂を破った。
「今この国の王妃として乗っかってる奴……そいつがシンデレラに成り代わってる可能性がある」
「それじゃ……偽物が王妃様ってことになるの?」
「正直、本来のシンデレラさんが今この国をそんな状況に追い込んでいる、というのが納得できませんからね。私はティムの言う通り、後者だと思います」
シンデレラという人間を知るシェインにとって、まだ断言こそできずとも、彼女がこの国の困窮を放置するとは思えない。
「……それじゃ、まさか」
そして、一同はその偽物の正体に気付く。物語の根源を壊し、想区を破壊しうる存在。王が結婚した瞬間に圧制が始まったことといい、ここにいるシンデレラが本物だとするならば、寧ろ王妃として城にいる存在がそうであると、そうとしか考えられなかった。
「そいつが、カオステラーか……!」
レヴォルが静かに、その忌まわしき存在の名を言う。物語の運命を歪める、絶対に断たねばならない“敵”だった。
「……ん」
微睡から目が覚める。まだ視界がぼやけるが、徐々にそれもはっきりしていく。完全に回復すると、木の天井が視界に飛び込んでくる。最初こそ何も思わず、ただぼんやりと見つめていたが、唐突にここにいることに疑問を感じるようになる。
「……あれ……私……」
「あ、目が覚めた?」
突然、横から声をかけられて驚き、顔をそちらへ向ける。あまり見慣れない顔立ちをした、首に何か管のような物をかけている白衣を纏った青年が、微笑みながら少女を、シンデレラを椅子に座りながら見下ろしていた。
彼には見覚えがある。確か先ほど、化け物に襲われた時に奇妙な姿へと変わり、連中を瞬く間に退けていた。その後、彼に礼を言って立ち去ろうとした瞬間、ふっと意識が遠のいていき……その時、誰かに抱き留められたのを、かろうじて覚えている。
「どうして……」
「君は、あの時倒れてここに運ばれたんだ。けど、食事をしっかり摂ればもう大丈夫だよ」
青年、永夢はシンデレラがここに運ばれた理由を説明し、しばらくすれば回復する旨を優しい口調で説明する。しかし、それに対してシンデレラは頭を振った。
「違うんです……どうして、私を……」
「え?」
腕を支えに、ゆっくりと起き上がるシンデレラ。そして、透き通った水晶のような蒼い瞳を真っ直ぐ、永夢へ向ける。
誰もが見惚れる美しさを秘めた瞳。が、永夢はそこにあるはずの光が弱々しいことに気付いた。
「私は……あの化け物に追われて……だから私をここに置いていたら、また化け物があなた方を……」
自分のせいで誰かが傷つけられたくはないと、シンデレラは暗に永夢に訴える。だからこそ、助けてくれた永夢たちに碌な礼を言えないのは心苦しかったが、それでも彼らを遠ざけようとすぐに逃げようとしたのに……。
そんな彼女の心境を感じ取った永夢は、しかし彼女のその考えを否定する。
「大丈夫だよ。例えまた君を狙ってきたとしても、僕が追い払うから。ね?」
どんな理由があっても、彼女を見捨てることはしない。ここの住民が襲われる危険性があるが、今の永夢は一人ではない。CRの面々はいなくとも、この世界で出会ったレヴォルたちがヴィランを追い払う手助けをしてくれる。
だから案ずることはない。永夢はシンデレラにそう伝えた。
「……私は、守られる程の価値なんてありません」
それでも、彼女の表情は晴れない。暗い影を落とす彼女の顔を、永夢は覗き込む。
「それって、どういう……」
「……私、は……」
口を開き、何かを言いかける……が、途端に言い淀み、何も言えなくなる。
シンデレラの身の内に宿る闇。それはシンデレラの胸をぐるぐると彷徨い、暴れ、彼女を蝕む。それを口にした瞬間、楽になれるだろう……そう思っても、口に出すのは憚られた。
己の闇を、“罪”を、彼に言ったところでどうにもならない。この闇は、自身がずっと抱えていくべきだ……シンデレラはそう、己を縛る。
「……君が、どんな事情を抱えているのかは、話してくれない限り僕にはわからない」
そんな彼女に、永夢は話しかける。いまだ俯く彼女から目を逸らさず、真っ直ぐ見つめながら。
「けど、僕はどんな事情があろうと、他人を心配して遠ざけようとする君が、守られる価値がない人間だとは絶対思わない」
「……え?」
断言する永夢に、シンデレラは永夢へと目を向ける。優しく、穏やかに笑いかける彼。その笑顔を向けられた瞬間、シンデレラは思い出す。
遠い過去、今は亡き父が幼い頃のシンデレラに向けられた、あの暖かく安堵を覚える笑顔を。
「僕はドクターなんだ。だから患者は絶対見捨てないし、君のことも絶対に助けてみせる」
ポンと、シンデレラの肩に手を乗せる。彼からすれば、自身より年下の少女に対して安心させるための、医師としてのコミュニケーションの一つ。そして、未だ深い闇の中にいる彼女のために、宣言した。
「そして、君の笑顔を取り戻してみせるから。だから、大丈夫」
絶対に、命を助ける。それが誰であろうと、傷つき、泣いていたら、永夢は迷いなく手を差し伸べる。それが彼のドクターとしての、仮面ライダーとして戦う者の使命なのだと信じているから。
自らが招いたこととはいえ、深い闇の底にいたシンデレラの心。しかし彼のその言葉は、今のシンデレラにとって、暗闇に差し込む光となる。
「……ありがとう、ございます……えっと」
心に染み渡る、彼の言葉。今度こそ、真摯に礼を言おうとするシンデレラ。しかし、恩人であり、光を見せてくれた彼の名を、彼女はまだ知らなかった。
「あ、ごめん! 僕はドクターの宝生永夢。よろしくね」
そんな彼女の様子に気付き、永夢は慌てて名乗る。先ほどまでどこか凛々しさを感じさせた彼の、少しドジなところを垣間見た彼女は、
「……フフ、よろしくお願いします。私は、シンデレラです」
ようやく、小さくだが笑うことができたのであった。
少し遅くなりました。6話投稿です。
そして以前、誤字報告をいただきました。よりにもよって神の名前を間違えるとは……指摘してくださったヌマクローこそ至高で最強様、本当にありがとうございました。ちょっとクリティカル・エンドくらってきます。