仮面ライダーエグゼイド ~M in Maerchen World~ 作:コッコリリン
「皆さん、お騒がせしました。それと、助けていただいてありがとうございます」
場所はパン屋。目の前に集う再編の魔女一行と永夢に対し、深々とシンデレラは頭を下げた。
「もう歩き回って平気なのか?」
「はい。エムさんのおかげで、大分体が楽になりました」
気遣うレヴォルに、シンデレラは微笑みながら返す。血色もよく、まだどこか弱々しさは感じるものの、目には光が戻ってきているのが見て取れた。それだけ見ただけでも、不安要素はある程度取り除けたと言えるだろう。
「けど、病み上がりなんだから無茶だけはしないようにね?」
「は、はい」
永夢に注意され、小さく頷くシンデレラ。それが少ししおらしく見えたものの、永夢はそれに気付かずにいつものように笑う。
「さて、病み上がりの方に質問をするのもあれですが、そうも言っていられない状況なので色々聞かせていただきますよ」
と、話を切り出したのはシェイン。今回の騒動の渦中にいるのは、間違いなく物語の主人公であるシンデレラ。そんな彼女から話を聞くというのは至極当然であると言えた。
「え、えっと……私に答えられることなら……」
有無を言わさぬ、といった風のシェインに、若干怖気づくシンデレラ。それに気付き、怯えさせたことを反省してコホンと小さく咳払いして気を取り直す。
「……一先ず、あなたのことはこの家の住民の方々からある程度は伺っております、シンデレラさん」
彼女が目覚めてからしばらくし、見舞いに訪れた一行とは互いに自己紹介を終えており、ある程度の情報は手にしていた。
「まぁ、単刀直入にお聞きしますが……一体何があったのですか? あなたは王子と結婚されていて、幸せになっていると思われていましたが」
シンデレラの筋書きを知る者として、目の前にいる彼女は外見、雰囲気共にシンデレラだと断言できるものの、今の状況が筋書きと異なっている。確実に物語とは違う何かが起きたとしか思えない。シェインは、周りくどいことはせずに結論から先に求めた。
しかし、俯き、意気を失った彼女からの返答は芳しくはなかった。
「……わかり、ません」
「わからない?」
レヴォルが問い返し、それに頷くシンデレラ。
「気付けば、私の代わりの人が王子と結婚されていて……その後に、あの怪物に襲われるようになって、私は身を隠しながら逃げ回っていました」
“私の代わりに”……それを聞いて、シンデレラの偽物が王妃となっている説はほぼ確実となったことを、一行は悟った。
「怪物に襲われる心当たりとかあるんですか?」
アリシアの質問に、シンデレラは俯きながら首を振った。
「……では、フェアリー・ゴッドマザーは? あなたにとって彼女は特別な存在のはず」
シェインの脳裏に過る、シンデレラの童話を語るにおいて重要な人物、妖精の魔法使い。彼女の存在なくてはシンデレラは語ることはできないと言っても過言ではない。
そんな彼女の姿は、いまだ見かけていない。シンデレラならば知っているかもしれないと質問したが……それすらも、彼女は首を振った。
「確かに、私は以前フェアリー・ゴッドマザーと出会い、素敵なドレスを纏って、お城の舞踏会へ行きました……けど、舞踏会へ行って以降、姿を現してくれないんです」
シンデレラのことをいつも気にかけているフェアリー・ゴッドマザーが、当のシンデレラが悲惨な状況に陥っているにも関わらずに不在……これだけでも、異様な状況であるとも言えた。
「……ごめんなさい……ごめんなさい、本当に何もかもわからないんです……何も……」
「……仕方ない、これ以上聞くのは酷だ。質問は一度打ち切ろう」
両手を重ね、堪えるように力強く握る。傍から見て悲痛な思いを抱えていることがわかる彼女に、これ以上の質問は厳しいと考えたパーンは話を切り上げた。情報が大して集まらなかったことに軽い落胆はあるものの、彼女の精神状態で質問を続けることは、彼女を追い詰めることになりかねないということもあり、誰も異議は唱えなかった。
「しっかしまぁ、フェアリー・ゴッドマザーはどこ行ったのかね。誰よりもシンデレラの幸せ願ってるはずだろ?」
「そのはずなんだけど……何か危険な目に合ってなきゃいいわね」
ティムとアリシアが言う。シンデレラがいる以上、確実にフェアリー・ゴッドマザーは存在している。しかし姿を現さない。もしかすると、危険な状況に陥ってしまっているのではないか……そんな不安が一行をよぎった。
「……私なんて、いいんです。幸せになる資格なんてない……」
と、風に吹かれればすぐに消えるような、シンデレラの小さな呟き。耳をすませなければ聞こえない程の声を拾う人間は、誰もいない。
一人を除いて。
(……え?)
それを偶然、一番近くにいた永夢の耳が拾った。今の憔悴している彼女に追及こそしなかったものの、その小さな呟きが永夢の耳から離れなかった。
「おや、お話はもう終わったかい?」
ふと、扉が開いて老婆が入室してくる。それに気付いたシンデレラが、先ほどの暗い空気を纏っていたのを払うように老婆へ振り返った。
「あ……お婆さん。ごめんなさい、お騒がせしました」
「いいんだよ、あんたと私の仲じゃないのさ。エ……いや、今はシンデレラ様って呼んだ方がいいかい?」
「あ……その、私、は……」
しどろもどろ、言うか言うまいか悩む素振りを見せるシンデレラ。そうしてから、力無い微笑みを老婆へ向けた。
「……私は、王妃でも何でもない、ただの“エラ”です。そう呼んでください」
一瞬、老婆が驚きに目を開く。が、それはすぐに我が子を見るかのような穏やかな笑顔へと変わった。
「そうかい……そうかい。あのお城にいる人とアンタは、やっぱり別人なんだねぇ」
以前の善王が暴虐無人な政策の限りを尽くす切っ掛けとなったやもしれない王妃の正体がシンデレラ本人ではないと確信した老婆は、笑顔を絶やさぬままシンデレラの背中に手を回し、背中を軽く叩いた。
「何があったかは知らないけれど、そんなになって……大変だったねぇ……」
「っ……お婆、さん……」
暖かい言葉をかけられ、そして老婆の優しい抱擁に、シンデレラは泣きそうな声を上げる。しかし、寸でのところでぐっとこらえ、僅かに潤んだ瞳を手の甲で拭うにとどめた。
「……さ、お腹すいたろ? みんなで食事にしようか」
やがてそっとシンデレラから離れた老婆はそう提案する。そんな老婆の手を、シンデレラは包み込むように掴んだ。
「あの、私もお手伝いさせていただけませんか? お部屋を貸していただいたお礼もさせてください」
「え? そりゃありがたいけれど……アンタは病み上がりなんだろ? 大丈夫なのかい?」
「はい。おかげ様で先ほどよりも元気になりましたから」
シンデレラの申し出に、老婆は少しだけ考え込んだ。
「ん~……わかったよ。じゃあ、お願いしようかねぇ」
「は、はい!」
そう返答するや否や、シンデレラは足早に部屋を出て行く。その後ろ姿を見て、先ほどよりも覇気を取り戻したことが手に取るようにわかる永夢は安堵の笑みを浮かべた。
「彼女とは面識があったんですね」
「ああ、あの子が小さい頃からの付き合いさ」
パーンの呟きに、笑いながら返す老婆。シンデレラを見つめている目つきは、まさに我が子に対する物と何ら変わりがない。
「母親が死んで、今の継母が来て、そして今度は父親も死んで、さらにはその継母と連れ子があの子をいじめ続けて……そんな境遇の中でも、あの子は私らに笑顔を向けてくれる、優しくていい子なんだよ」
言って、老婆は部屋を後にする。シンデレラと一緒に食事の準備をしに行ったのだろう。
「……どうやら、物語の筋書き通りの人のようですね。シンデレラさん」
「ええ。不遇な境遇にもめげない、プリンセスに相応しい人のようです」
成り行きを見守っていたシェインに、アリシアがうんうんと頷きながら同調する。先ほどの老婆とシンデレラのやり取りに、どこか感動している節が見えた。
「……それだけに、今の彼女の姿はやはり腑に落ちない」
シンデレラの筋書きを知っているレヴォルから見ても、やはりあのシンデレラの状態は大きな疑問が残る。
わかっているのは、継母たちからの仕打ちに耐えてきた彼女があそこまで疲弊するような、物語の筋書きにない出来事があった……それは確かだ。
「……正直に聞いちまえばいいんじゃねぇの? 何があったのかって」
「ちょっとティムくん、それはさすがにデリカシーがないわよ」
「今の彼女の精神衛生上、それは悪手としか言いようがないな」
「相変わらずそういうところは本当ティムですね」
「う……ってババァ! 人の名前をバカみたいな意味合いで言ってんじゃねぇ!!」
何となしに提案したティムに対し、アリシアとパーンが異論を唱える。一名ほど異論とは少々異なる発言ではあるが。
「何にせよ、シンデレラさんがああなってしまった“何か”を解決しない限り、エレナさんの再編を使うことはできそうにありませんね」
シンデレラの身に何が起きたのか。カオステラーを倒すことも重要だが、何よりもシンデレラの身に何が起きたかを把握しなければ根本からの解決にはならない。
「……再、編?」
と、シェインの発言を聞いていた永夢が首を傾げる。再編という単語は昨晩の話の中では出てきたものの、改めて聞くと何のことだかわからない。ゆえにほぼ蚊帳の外状態だったため、沈黙せざるをえなかった永夢に、エレナが「あ」と思い出したかのように掌を叩いた。
「そっか。エムさんに再編の説明とかしてなかったよね」
「そうだな。今の彼にも説明しておいた方がよさそうだ」
昨晩のうちに話せていなかったことを、今ここで話すことに賛成するパーン。
「でも……」
そんな中、レヴォルは難色を示す。再編を説明すること、即ちこの世界とは無関係であるはずの彼を実質戦いに巻き込むことと同様なのではないかと。
その意図を読んだシェインは、半ば呆れつつレヴォルを諭す。
「正直、二度も町の中で騒動を起こしてしまった以上、彼も無関係とは言いにくいでしょう。後のことは、彼自身が決めたらいいのではないですか?」
「……」
確かに、彼は子供たちを守るため、シンデレラを救うためとはいえ、エグゼイドのその異質な姿を大勢の人たちの前に晒してしまった。こうなっては、城の人間にも嫌が応にも注目されてしまっているだろう。
結果論で言えば、すでに巻き込まれている……そう言わざるをえない状況だった。
「……わかりました」
その事実に、自分たちではどうすることもできないことに歯痒い思いをしつつ、レヴォルは永夢に向き直る。
「すまない、エム。ほったらかしにしてしまっていた……今朝のヴィランの親玉についての話は覚えているか?」
「あ、うん。放っておいたら大変なことになるって……」
以前は巻き込む以前に、不安を煽るかもしれないというレヴォルの配慮から中断された話。その話を、再びレヴォルは話し始めた。
「……その親玉は、カオステラーと呼ばれている」
混沌の語り手、カオステラー。その存在の恐ろしさを。
~ 第7話 深まるmystery ~
カオステラー……運命を破壊する存在についての説明から始まる。
自らの運命の書に記された生き方に疑問を覚える者、憤りを感じる者……それらが運命に反抗しようとする者が、カオステラーと成り果て、やがては歪んだ形で想区の運命を変えていき……やがてその想区が辿るべき物語が破綻してしまい、消滅する。
レヴォルたちは今まで訪れた想区で、何度もカオステラーを倒してきた。その後、エレナの持つ『運命を新たに書き換える』という力、“再編”と呼ばれる力を行使し、初めて想区は救われる。
「そんな旅を、僕たちは続けてきたんだ」
そう締めくくり、レヴォルは説明を終えた。
「……何と言うか、想像以上にすごい旅をしてきたんだね……」
話を聞いて想像以上にスケールの大きい内容、そして世界を文字通り変えるという大きな力を、エレナのような幼い子供が使えるという事実に、永夢は絶句せざるをえなかった。
「けど、再編の力も想区の物語の流れを見極めなきゃ使えないの」
そう説明に付け足すエレナ。今回の場合、偽物のシンデレラが王妃となっている以上、この想区の主役は確実にシンデレラだ。つまり、シンデレラそのものが物語の要。想区によって物語が変わるため、今回のシンデレラに起こった“何か”を解決しない限り、物語の流れを完全に見極めることはできない。即ち再編の力を行使することができない。
「親玉を倒せば全て解決、というわけにもいかない、か」
「そういうことね」
得心がいったという永夢に、アリシアが締めくくる。つまるところ、この世界を救うには、まずシンデレラを救うのが先、ということがわかった。
「……君がこの話を聞いて、この戦いに参加するか否か、決めるのは自由だ」
「正直、カオステラーの力は想像よりも遥かに強大です。事が解決するまで隠れているというのも手ですよ?」
本来ならば、この世界とは無関係の存在である永夢。そんな彼にカオステラーとの戦いを強制させるつもりのないパーンとシェインは、選択を永夢に促した。仮面ライダーの力は彼らにとって大きな戦力になりえるが、今まで彼の力が無くとも脅威を退けてきたのだから、何ら問題はない。
しかし、ここまで話を聞いた以上、永夢が言うべき言葉は決まっている。否、話を聞かずとも大して変わらなかっただろう。
「……誰かが苦しんでいるのに、黙って見ているだけなんて僕にはできません」
「エム……」
語る永夢の目は、決意に満ち溢れている。仮面ライダーとしてだけではなく、ドクターとしても、苦しむ人々を放っておくことなど到底できない。それならば、苦しみの素を断ち切るために自身も戦いに身を投じる……そう、暗に語っていた。
その眼が眩しく見えると同時に、彼の性格が短い期間で何となくわかっていたレヴォルは予想通りの答えだと思った。無関係であるはずの彼の力を借りることに対する罪悪感を覚えつつも、頼もしい彼の返答に思わず小さく笑みを見せた。
「……では、あなたも力を貸してくれる、という方向でよろしいんですね?」
「うん。微力ながら、僕も手伝うよ」
再確認するシェインに、永夢は力強く頷いた。
シェインとしても、彼の力を利用するような形となってしまったことに自嘲しつつも、大きな戦力として期待していた。
(まぁ、私としても仮面ライダーの力をもうちょっと見たい気持ちがありますからねぇ……)
ついでに目が妖しく光ったことにはパーン以外気付かない。
「ありがとう、エム。礼を言わせてくれ」
「いいんだ。気にしないで」
そんなシェインを余所にして、微笑みながら礼を言うレヴォルに、永夢は手を振った。
「やったね! 永夢さんがいればひゃくにんりき? だよ!」
「うんうん! 仮面ライダーの力もまだまだ未知数だし、正直楽しみね!」
「あのな……」
片や仮面ライダーに魅力を感じているエレナ、片や仮面ライダーの未知なる力に興味津々なアリシア。自然とテンションが上がる二人に、ティムが呆れながら窘める。
「あ、あはは……」
そんなやりとりを、永夢は苦笑しながら眺めていた。
『……なぁ、永夢?』
と、そんな時に永夢の頭に声が響く。それは慣れ親しんだ、現在彼と一つとなっている彼の相棒の声だった。
「パラド?」
永夢は声を上げると、思わず口を抑えた。実際、パラドは彼の体の中に入っている状態であり、周りからすれば唐突に誰かの名を永夢が呼んだようにしか見えない。それに気付き、永夢はレヴォルたちを見るも、誰も気付いた様子はなかった。
『お前、本当に今回の件に首突っ込むのか?』
そう窘めるように言うパラドの考えを、心が繋がっている永夢は理解した。
要は、帰る方法そっちのけで、彼らと行動を共にするのか……そう暗に言っているのだろう。口調こそ責めているようにも聞こえるが、パラドとしてはそういう意図で発言したわけではない。
(……パラド、気付いているだろ?)
『……?』
(僕たちは、確かにこの世界……携帯のゲームの中に入り込んでしまった)
この世界がゲームの世界であることは間違いない……最初の頃、永夢はそう思っていた。
しかし、だんだんと疑問に思い始めて来る。目の前ではしゃぐエレナと呆れながらも笑うレヴォルを見て、改めてその疑問は深くなっていった。
(なのに……僕ら以外の人たちが、
このゲームの概要通りなら、この世界はRPGのジャンルに分かれる物のはず。RPGには、予めコンピューター入力された台詞だけしか喋らない、あるいは道案内するために存在するNPCという存在がいるのが通例だ。この町にいる人間が、NPCであると最初は考えていた。
ところが、永夢たちは確かにゲームの世界に迷い込んだにも関わらず、そんなNPCのような人間はどこにもいない。町の中を見て回っていた時も、皆が皆それぞれの生活のために働き、食べ、飲み、そして怒り、笑い、悲しむ。NPCには、そういった生活、喜怒哀楽が存在していないはずなのだ。
故に、この世界にはNPCと呼ぶべき者は存在していない。この世界の人間は、全員生きている人間だ。
『……それは俺も思ってた。でも』
(ああ……そうなんだよ)
そして同時、永夢がこの世界をゲームだと思っている理由もある。
(気のせいじゃないのならば……この世界は、紛れもなくゲームの世界のはずなんだ)
それは、何も証拠があってこそ思っているわけではない。ゲームの中の存在、バグスターであるパラドと一心同体となっているからこそ、この世界の空気はゲームの世界特有の物なのだとわかるのである。
が、どうにも違和感は拭えない。ゲームの世界の空気、そして普通の世界の空気……それらがまるで一つとなっているかのような、奇妙な感覚だった。
(多分……僕らが脱出するには、この感覚が何なのかを突き止めないといけないかもしれない)
ゲームのはずなのに、ゲームじゃない。この矛盾を解き明かすことが、脱出の糸口になるのではない……永夢はそう考えていた。
『なるほどな……それで、連中と一緒に行こうって考えたわけだ』
(うん……まぁ、大勢の人たちを苦しめている存在を放っておけないのは事実だからね)
鍵は恐らく、黒幕ことカオステラーがいる城にある。彼らと共に行けば必然的にカオステラーと遭遇するだろうと考え、彼らに同行することを決意した。
打算的な考え。しかし、彼らを手伝いたい、大勢の人たちを助けたいという気持ちは、紛れもなく本物であった。
『……ま、永夢らしいな!』
永夢の考えに納得いったのか、パラドは楽し気に言う。いつだって二人は行動を共にしてきた。ならば今回も、二人がいれば何だってできる。そう思っているのは、パラドと永夢も同じだった。
『で、さ? ちょっとわかんないことがあるんだけど』
(ん、何?)
『俺、シンデレラっていうのがよくわかんないんだけど』
パラドの言葉に、永夢は(あー……)と納得する。
この世界は、ゲームタイトルに“グリム”が付くくらいだから、童話がモチーフの世界であることは想像に難くない。事実、シンデレラという名前の少女と邂逅を果たした永夢は、先ほどのレヴォルの説明を聞いたのもあって、シンデレラの物語が今回の戦いの肝になるのは確実だろうと考える。しかし、パラドは生まれてそう年月は経っていない上、ゲーム以外のことには大した興味も示さなかった。それがここにきてネックになっているからこそ、永夢に質問する。
が……永夢自身、情けないと思いつつ、あまりシンデレラの物語を覚えていないのだった。
子供の頃は想像力の高さから、自分でゲームキャラを考えるのが好きだった永夢。その時に童話も多少なりとも齧った記憶はあるにはある……のだが、もはやそれも記憶の彼方。シンデレラは万人が知るとてもメジャーな物語ではあるものの、永夢自身も興味は薄れ、大まかな流れしか把握できていないのである。
今回は、シンデレラの話が中心になるため、細かい点を知らなければ問題になるかもしれない……そう考えた永夢は、仕方ないと恥を忍んでレヴォルたちに声をかけた。
「ごめん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」
「ん? どうかしたのか?」
応えてくれたレヴォルに、永夢は少し恥ずかしそうに頬を掻きながら質問を投げつけた。
「少し恥ずかしいんだけど、シンデレラのお話って、僕あまり覚えてなくって……よければ教えてくれたらありがたいんだけど」
「ほほぉ……?」
部屋の空気が、変わった。レヴォルとエレナ、ティムは「あ……」と小さく声を上げ、パーンはこめかみを指で抑え、シェインはやれやれと肩を竦める。
そして空気の主、アリシアの眼鏡がなんか妖しく光った。
「……え? 何、この感じ?」
一人置いてけぼりにされた永夢は狼狽える。そんな彼を余所に、アリシアは小さく笑う。
「フッフッフ……知りたいならば、教えて差し上げましょう」
「お嬢……まさか……」
ティムの言う“まさか”とは何か……永夢が口を挟もうとした瞬間、
「『アリシア先生のメルヘン講座』、はじまりはじまり~!!」
「やっぱりかよ……」
声高らかに何かの開催を告げるアリシア。顔を手で覆って大きなため息をつくティム。
そして何のことやらとポカンと口を開ける永夢。
「……エム」
そんな彼の肩にポンと手を置くレヴォル。永夢が振り返ると、そこには半笑いのレヴォルとエレナの姿。
「付き合ってあげてくれ」
なんとなく、永夢は思う。
『(もしかして地雷踏んじゃった?)』
まさしく二人で一人、一字一句全く同じことをパラドも思っていたのだった。
お待たせして申し訳ありませんでした。というのも、書いてみると滅茶苦茶長くなってしまって、さすがにこれは冗長すぎるなぁと考えてもっかい書き直しました。読者の皆さん許して。
尚、永夢とパラドがシンデレラのお話をよく知らないというのは独自設定です。パラドはともかく、永夢は知らないのはおかしいんじゃないか? とも思いましたが、医療の勉強とゲーマーMとしての活動に明け暮れていた永夢なら大筋以外は知らなくても違和感ないんじゃないかなーと思ったんです。ダメ?
後、『アリシア先生のメルヘン講座』は絶対やりたかった。ので、これ入れるとさすがに長いので次回に。次回は進展あります。あります。
ではこれにて失礼、また次回。