仮面ライダーエグゼイド ~M in Maerchen World~   作:コッコリリン

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第8話です。戦闘は次回ですが、今回もお楽しみいただければ幸いです。

あ、そうだ(唐突)

今回は幾つか注意事項があります。

注意!
・序盤は少しト書きありです。そういうのに拒否反応がある方はご注意ください
・序盤はおふざけあります。どこら辺がおふざけかはお察しください
・あとがきにちょっとオマケもあります。よろしくお願いいたします

以上を踏まえて、どうぞデース。


第8話 敵地へintrusionせよ!

 むかしむかし、ある王国にエラという少女がおりました。

 

 幼くして母を亡くしたエラは、それはそれはとても美しい娘でしたが、彼女の父親の再婚相手である継母と彼女の連れ子である姉妹から嫌われ、意地悪されておりました。

 

継母(シェイン)

「ほらほら、きちんと掃除なさい。ちゃんと綺麗にしなければ、夕飯は無い物と思いなさい」

 

シンデレラ(エレナ)

「は、はい。申し訳ありません、お母様」

 

 毎日毎日、辛い日々。暖炉の掃除もやらされる彼女の髪は灰で汚れ、いつしか彼女は継母たちから灰かぶりのエラ、『シンデレラ』と呼ばれるようになりました。

 

 そんなある日のことです。お城でとても豪華な舞踏会が開かれることになり、そこでは王子様も参加するとのことで、国の女性たちは王子様に見初められようと躍起になりました。

 

 当然、継母たちも参加します。しかし、シンデレラはお留守番を命じられてしまいました。

 

継母(シェイン)

「シンデレラ。私たちはこれから舞踏会へ行ってまいります」

 

姉1(レヴォル)

「あ、あなたは私たちが楽しんでいる間に掃除をしておきなさい」

 

姉2(???)

「どうせ行ったところで、クズみたいな踊りしか踊れないだろうなぁ!! ブェアーッハッハッハッハッハァァァァァ!!」

 

 意地悪な継母たちは、シンデレラを置いて舞踏会へと赴きました。

 

 掃除を命じられたシンデレラは、悲しみに暮れながら星に願いました。

 

シンデレラ(エレナ)

「くすん……私もお城の舞踏会へ行きたいな」

 

 そんな時です。光とともに妖精の魔法使い、フェアリー・ゴッドマザーが現れました。悲しむシンデレラに、彼女は言います。

 

フェアリー・ゴッドマザー(パーン)

「シンデレラ。私が魔法をかけて差し上げましょう。それで舞踏会へ行きなさい。ただし、この魔法は時計の針が12時をさすと解けてしまいます。12時になる前に、舞踏会から去りなさい。いいですね?」

 

シンデレラ(エレナ)

「あ、ありがとう、フェアリー・ゴッドマザー!」

 

 こうして、フェアリー・ゴッドマザーはシンデレラに魔法をかけて綺麗なドレスと美しいガラスの靴を与え、そして畑にあるカボチャの一つを馬車へと変えました。

 

 こうしてシンデレラは舞踏会へと赴きました。美しく着飾られたシンデレラの姿に誰もが見惚れ、それは王子様も例外ではありませんでした。

 

王子(永夢)

「お、おお、美しき君。どうか私と一曲踊っていただけません、でしょう、か?」

 

シンデレラ(エレナ)

「ええ、喜んで」

 

 王子様にダンスを申し込まれたシンデレラは、それはそれは楽しい一時をすごしました。

 

けれども、その時間はあっという間に過ぎていきます。時計塔の針が、フェアリー・ゴッドマザーに言われた魔法が解ける12時まで迫ってきていたのです。

 

シンデレラ(エレナ)

「大変、もう帰らなくちゃ!」

 

王子(永夢)

「ま、まっておくれー!」

 

 大慌てで城から出て行くシンデレラと、彼女を追いかける王子様。あまりに慌てて走っていたためか、シンデレラは途中の階段でガラスの靴の片方が脱げてしまい、そのままにしてお城を去っていきました。

 

 次の日、王子様は護衛を連れて国の人々にお触れを出します。

 

護衛(ティム)

「このガラスの靴を履けた者を、王子様の結婚相手として城に迎え入れましょう!」

 

 王子様と結婚したい国の女性たちは、我こそがと名乗り出ます。しかし、当然ながら靴のサイズは合いません。

 

 やがて王子様はシンデレラたちが住まう屋敷へやってきます。当然ながら、継母たちはガラスの靴を履こうとしますが、当たり前の如く履けません。

 

シンデレラ(エレナ)

「あの、私が履いてみてもよろしいでしょうか?」

 

 そう言って、シンデレラが現れます。継母たちは彼女には無理と笑いますが、ガラスの靴はぴったり、シンデレラの足に収まりました。

 

王子(永夢)

「おお、あなただったのか。どうか私の結婚相手となっておくれ」

 

シンデレラ(エレナ)

「はい!」

 

 こうして、シンデレラは王子様のお嫁さんとしてお城に迎え入れられ、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし……。

 

 

 

 

 

 

 

「と、いうのがシンデレラのお話よ!」

 

「は、はぁ……」

 

 やり切った、と言わんばかりに輝く笑顔のアリシアに、永夢は若干疲れた顔で頷いた。

 

 アリシア監修の下で始まった説明もとい寸劇。突然彼女から台本を渡された時、正直かなり焦った。何せ、普通に説明してくれるのかと思いきや、自らが寸劇のキャストに選ばれるなどとは思わなかったのだから。

 

「……あの、何で僕が王子役に?」

 

 しかも、永夢が王子役ときた。疑問に思ってアリシアに聞いてみる。

 

「いやぁ、初めてだし、せっかくだからいい役やってもらおうと思いまして。何よりエムさんって顔立ちいいから結構ハマり役じゃないかしらって」

 

 そんな理由か。楽しそうに言うアリシアに、永夢は力なく「はぁ……」と返事するしかなかった。

 

「似合ってたぜ、お医者さん?」

 

「ティム君、ホントにそう思ってる……?」

 

 台詞が一つしかなかったティムのニヤニヤ顔に、永夢はたまらずジト目を送る。

 

「しかし……見事な棒読みでしたねぇ」

 

「まぁ、突然王子役をやらされたんだから無理もないと思います」

 

 お世辞にも上手とは言えなかった永夢の演技に笑いをこらえるシェインに、永夢に同情の眼差しを送りながらレヴォルはフォローした。以前ならば適任として自身が選ばれていたであろう役ではあるが、永夢に役割を譲る形となったせいで少し後ろめたさもあった。

 

「で、でもほら! お話の内容はよくわかったでしょ?」

 

 あまり言い過ぎると永夢が落ち込むかもしれないと思ったエレナが、少し慌てながら話を進めた。

 

「あ、あぁ、うん。形はどうあれ、よくわかったよ」

 

 何はともあれ、シンデレラの物語についておさらいをすることができた。

 

 虐げられ、魔法をかけられ、やがては幸せになる。シンデレラストーリーという言葉の元となった童話は、永夢の世界でも人々に愛される物語。まさに王道というべきストーリーだ。

 

(わかった? パラド?)

 

『ププ……ああ、永夢の演技が下手だってことがよぉくわかった……ウクク』

 

(それじゃないんだけど!?)

 

 シンデレラの話を知りたがっていたパラドから、笑いを堪えながらの返答をもらって思わず心の内で永夢は叫んだ。

 

 気を取り直して、永夢はシンデレラの物語を反芻(はんすう)する。

 

 最初、彼女は己の境遇にもめげずに、継母たちからの虐めに耐え、やがて訪れる舞踏会の日にフェアリー・ゴッドマザーと出会う。そして彼女からドレスとガラスの靴、そしてカボチャの馬車を与えられ、舞踏会へ行って王子と踊り、12時になるとガラスの靴を残して城を去り、そしてシンデレラを見つけた王子に見初められて結婚する。

 

 これがシンデレラが辿るべき運命。不幸な生活から一転し、華やかな人生を送るようになる。

 

 

 

 そうなる()だった。

 

 

 

「……やっぱり、今王妃になっている人に会いに行かないといけない、か」

 

 舞踏会へは行ったものの、それから王子と再会するまでの間に、彼女の運命を狂わせる程の何か(・・)があった。それが原因で、今の彼女は幸せとは縁遠い境遇に陥ってしまっている。

 

 彼女がどうして、こんな目に遭ってしまっているのか……主人公であるはずのシンデレラが辿るべきはずの運命を正さなければ、最悪世界が崩壊しかねない。

 

 だからこそ、現在シンデレラに成り代わってその座に就いている人間と直接対面し、真実を突き止めなければいけない。

 

「しかし、城に行くには問題があるな」

 

 と、パーンが窓の外を見やる。窓の外では、甲冑に身を包んだ兵士が数人一組となって町の中を巡回し、警戒態勢をとっている。見つかれば戦闘になる上、下手をすればまた町人を巻き添えにしてしまいかねない。

 

 それだけでなく、来る者を拒むかのように城を取り囲む高い壁が、永夢たちの行く手を遮っている。侵入するのは困難であるのは明白だった。

 

「兵士に、壁。ヴィランだけでなく、これらも突破しなければいけないのか……」

 

 困ったように言うレヴォル。正直、これらの難関を突破しようと考えることすら諦めてしまいそうになる。

 

「……でも、城の中に入らない限り、捕まっている人たちを助けることもできないし……」

 

 シンデレラの件もあるが、何より城には恩人である兄妹の親が、他にも無実の罪で捕らわれている町人たちがいるのを忘れてはならない。永夢の脳裏に浮かぶ、悲観に暮れる子供たちの顔。あんな顔を見るのは、もうごめんだった。

 

 どうにかして、城へ潜り込めないものか。最悪、正面突破という手もあるにはある。リスキーな選択であるため、最終手段として取っておきたいところではあるが……永夢たちは思考を巡らした。

 

「あ、あの……」

 

「え?」

 

 と、そんな彼らに声がかけられる。永夢たちが振り返ると、部屋の扉を開けた状態でこちらを見つめている少年と少女の兄妹の姿が目に入った。

 

「どうしたの?」

 

「ごめん、食事の支度ができたから呼びに来て……盗み聞きするつもりはなかったんだけど……」

 

「あぁ、いいんだよ。呼びに来てくれてありがとう」

 

 扉の前で、永夢たちが話し合っていたのを聞いていたらしく、伏し目がちに謝罪する少年。永夢は二人の前に来て膝を着き、笑みを浮かべて気にしなくともいいと伝えた。

 

「そ……それと、さ」

 

「ん? 何?」

 

 言うか、言うまいか。何か悩んでいる様子の少年は、しばらく目を右往左往させていたが、妹と視線が合うと、二人して小さく頷いた。

 

 そして、改めて永夢へと、強い眼を向ける。

 

「お、俺たち、知ってる」

 

「知ってる?」

 

「……お城に入る方法……知ってる」

 

「な」

 

「なんと!?」

 

「あいだぁっ!?」

 

 少年の告白に、永夢は思わず声を上げようとした瞬間に、同じく驚愕したアリシアの勢いに弾き飛ばされて遮られてしまった。

 

「……それは、本当かい?」

 

 そんなアリシアに呆れながらも、パーンも少年に尋ねる。他の面子も、侵入の糸口が掴めたことに興味を示し、注目を集めた少年は一瞬肩を震わせるも、しっかりと頷いた。

 

「こ、こないだ、友達と遊んでたら偶然見つけたんだ。俺達、そこまでの道、知ってる」

 

 少年の目に、嘘はない。パーンはそう確信する。そして同時に、彼が縋るような目で自分たちを見ていることを。

 

 パーンはシェインへと顔を向ける。シェインは、考えることなく頷いた。それだけで、『信じるに値する』という意思が伝わってくる。

 

「その話、詳しく聞きましょう」

 

 彼らの言うルートについての詳細を聞くため、シェインは兄妹を部屋に招き入れる。二人が部屋に入って、パーンが扉を閉めようとドアノブを掴んだ。

 

 

 

「ま、待ってください!!」

 

 

 

 が、それは突然響く声に中断される。同時、部屋に慌てた様子で飛び込んできた人物が、一行の目に留まった。

 

「あれ……シンデレラ、ちゃん?」

 

「エラねえちゃん?」

 

 現れたのは、シンデレラ。突然の事に、少年も驚いて彼女を見る。

 

 当のシンデレラはというと、「えっと……」と言葉を探しているのか、或るいは何か迷っているのか。しばらく言い淀んでいた。

 

 やがて意を決すると、頭を勢いよく下げ、言った。

 

「お……お願いがあります!!」

 

 

 

 

~第8話 敵地へintrusionせよ!~

 

 

 

 

「そう、取り逃がしたの……」

 

 場所は王城。とある一室。豪華なクローゼットやテーブル、ベッドだけでなく、飾られた絵画や調度品も一級品といった、玉座の間に負けず劣らず豪華絢爛を絵に描いたような部屋。そこの主である白いドレスを纏った美しい容貌を持つ女性、外見が完全にシンデレラである王妃が、テーブルの前の椅子に座りながら優雅に紅茶を口に運んでいた。その横、燕尾服を着た初老の執事が、ティーポット片手に直立不動のまま控えている。

 

「ええ、どうやらそのようで。あと少しのところを、といった時に邪魔されたと聞きました」

 

 無言のまま差し出されたティーカップに、執事はすぐさま注ぎ入れる。湯気を上げながらティーカップに満たされた香しい匂いを放つ紅茶に再び口を付けた王妃は、しばし無言となった。

 

「まったく、たかが小娘一人を捕まえるのに、どいつもこいつも……」

 

 荒々しい音をたててティーカップをソーサーに置く。美しい顔を僅かに歪ませ、王妃は歯ぎしりした。

 

「しかしながら、相手も相当のやり手のようです。一筋縄ではいかないかと思われます」

 

「……誰に物申しているのかしら?」

 

 王妃はギロリと、目を鋭くさせて側にいる執事を睨みつける。並の者ならば背筋を凍らせる程の絶対零度の視線を浴びた執事は、硬直しているかのように相も変わらず動かない。

 

「……申し訳、ありません」

 

「フッ、あまり図に乗らないことね。いくらあなたが有能であっても、王妃はこの私。拾ってやったことを感謝されど、生意気な口を利いていいと許した覚えはないわ。立場を考えて発言なさい」

 

 謝罪する執事に、鼻を鳴らして視線を外す王妃。紅茶を飲み干すと、カップとソーサーをテーブルに置いた。

 

「それで? あの小娘一人が逃げおおせるには、それなりの理由があるはずでしょう?」

 

「はっ。どうやら昨日騒ぎを起こした反乱分子の仕業であると報告が挙がっております」

 

「……へぇ? つまりそいつらが匿っていると」

 

 反乱分子。その言葉を聞いて、王妃は形のいい眉を吊り上げる。

 

「十中八九、あの娘はそいつらと一緒にいるでしょうね……とっとと町に捜索隊を出して、反乱分子共々ふん縛るように王に直訴しましょうか」

 

 スッと立ち上がる王妃。しかし、立った瞬間、王妃の頭が僅かに揺れる。

 

「くっ……」

 

「王妃様?」

 

「っ……な、何でもないわ。ずっと座っていたせいよ」

 

 不意の立ち眩みに思わず再び椅子に座ることになった王妃。声をかける執事に向けて手を振り、何事もなかったかのように振る舞う。

 

そんな彼女を見つめつつ、執事が一歩前へ出て、頭を下げた。

 

「王妃様。無礼を承知の上、発言をよろしいでしょうか」

 

「……何かしら」

 

 出鼻を挫くような形で遮られた王妃は、先ほど同様の冷たい眼差しを執事へ向ける。それでも尚、執事は頭を下げたまま微動だにしない。

 

「私の提案ですが、その者たち、泳がせてみてはどうでしょう?」

 

「何ですって?」

 

「その反乱分子の目的が何であれ、娘を匿ったのであれば、娘から事情を聞くでしょう。さすれば王妃様に対する疑いの目を向けるのは必然。そうなれば、真実を明らかにするために彼らが目指すのは王妃様がおわすこの王城であることは想像に難くないかと」

 

「……」

 

 執事が言っていることは、つまるところ連中を探しだすという手間を省き、あえてこちらへ誘き出してやろうということだろう。確かにそれなら理には適っているし、虱潰しに探し回るよりは楽だろう。

 

「……奴らがここへ来るという確証は?」

 

 だが連中の目的がわからない以上、ここへかならず来るとは限らない。それにここは王城。警備がどこよりも厳しい、付け入る隙間がない場所。そこへ好んで足を踏み入れる者はいない。執事の案はある意味賭けではないだろうかと、王妃は疑問を口にした。

 

 対し、執事は変わらず平坦な口調を維持し、その疑問に答える。

 

「ええ、かならずや。運命を変えようなどという無駄な正義感を持ち、その正義感に酔った者たちというのは、真実を明るみにするためならば、どんな愚行をも平然と行う。そういうものなのです」

 

 王妃は考える。過去、今の困窮を打破するため、王家に盾突いた輩たちがいた……が、それらは全てこの城の厳重な警備の前に敗れ去り、或いは化け物どもの餌食となっていった。

 

 そう、どれだけ強がろうと、所詮蟻では象に勝てないのだ。弱い者は強い者に圧し潰され、蹂躙される。それが嫌ならば、大人しく従っていればいい。それが世界のルールであり、真理だ。何も間違っていない。

 

 それに、今の彼女にはあの力(・・・)がある。反乱分子に遅れを取る理由がない。

 

「……フフ、それもそうね」

 

 先ほどまでの不機嫌な様子が一転。王妃は笑う。否、嗤う。弱者を弱者と知らない哀れな者たち。そいつらを悉く蹂躙する。湧き上がる高揚感に、王妃は口の端を吊り上げた。

 

「いいわ。あなたの案に免じて、勝手な発言をした無礼は許してあげる」

 

「有難き幸せにございます」

 

 執事が深々と頭を下げる。そして、王妃は気を取り直してテーブルの真ん中に置かれた銀皿から、お茶請けのクッキーを一枚手に取った。

 

 しばしクッキーを見つめる。混じりっ気のない、シンプルにして最高峰の素材を使われたクッキー。町に住まう民ですら、おいそれとは口にできない代物。

 

「さぁ、来なさい。私があなたを、真っ白で美しいその存在ごと潰してあげるわ」

 

 そのクッキーを握りつぶす。白手袋の隙間から零れ落ちる、元クッキーの残骸である欠片。それらは全て、彼女の足元のカーペットに降り注いでいく。

 

 

 

「シンデレラ……!」

 

 

 

 笑う。笑う。愉悦に嗤う。悪意に満ちたこの部屋に、王妃の笑い声が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 時刻は進み、日が落ちて代わりに月の光が世界を照らし出す夜。夜道を歩く人はほとんどおらず、皆各々の家の中へと入り、就寝している時刻。王城の裏手にある大きくも小さくもない山の中は、梟の鳴き声のみが、夜の静寂を破る。

 

「みんな、足元に気を付けるんだよ」

 

 しかし、今夜限りは動物たち以外の者たちがいる。永夢含めた再編の魔女一行は、生い茂る木々の葉や草を払いのけながら、慎重に山道を歩いていた。

 

「うーん、さすがに暗いわね」

 

「月が無かったら、こんな山でも遭難してんなこりゃ……」

 

 兄妹を守るようにパーンが先頭を歩き、その後ろをアリシアとティムがぼやきながらも歩く。巡回する兵士に見つからないように、松明などといった明かりの類は厳禁。故に、彼らにとっての光源は月の光のみしかない。しかし、大きな月の光は十分、森の木々の間から差し込む物でも視界を確保できる程の明かりを保っており、光源が手元にない今の状況、それだけでもありがたい物だった。

 

「うへぇ、葉っぱが髪の毛に付いちゃう……」

 

「エレナ、ちゃんと足元を見ないと」

 

 その後ろ、エレナとレヴォル、シェインが続く。

 

「……しかし、なるほど。裏山からの侵入ですか。確かに、警備も手薄ですから、侵入にはもってこいですかね」

 

 シェインは振り返り、木々の隙間から見える王城へと目を向ける。城の中だけいまだ日中かのように、窓からは明かりが漏れ出ており、まるで城が光を放っているかのよう。

 

 兄妹が見つけた侵入口とは、裏手にある山から入れる場所とのことだった。壁は王城の周りをぐるりと取り囲むように聳え立っているが、山の方は警備の人間がおらず、子供たちはここに来てこっそり遊んだりしていたらしい。と言っても、今の国の状況に陥ってからは遊びに行くことも無くなってしまったが、少年曰く、恐らく以前と変わっていないと思うとのことだった。

 

 警備の目を欺くために、夜に家を出て、少年の案内通りに町から山へ。子供だけが知っている秘密のルートを通り、無事に兵士に見つからずに山にまで来ることができた。今のところ順調に進めている。

 

「大人の人たちからはお城の人たちに怒られるから山で遊んではいけないってよく言われてたから、この道を通ってこっそり遊びに行ってたんだ」

 

「なるほど。今回はそのおかげで功を奏した、というわけですか」

 

 前を歩く少年は、少し楽しそうに、そして懐かしそうにそう言う。国が今の状況になる前、友人たちと一緒にここで遊ぶのが楽しみだったのだろう。大人たちにとっては誉められるようなことではないが、子供たちの好奇心、冒険心によって、こうしてレヴォルたちに貢献してくれている。皮肉と言えば皮肉だろうか。

 

 と、そんな会話をしている間、レヴォルたちより後ろから会話が聞こえてくる。

 

「シンデレラちゃん、足元に気を付けて」

 

「は、はい」

 

 レヴォルがチラと振り返れば、足元が不安定なせいで少しフラついているシンデレラの手を持った永夢が先導する形で歩いているのが目に入った。

 

 昼間、兄妹が侵入口の詳細を語る際、同じく話を聞いていたシンデレラもまた、同行を願い出た。しかし、病み上がりの身であるシンデレラが、敵の本拠地、ましてやシンデレラの名を騙る者がいる城へ乗り込むなど危険すぎる。最初、永夢はもちろん、レヴォルたちも反対した。

 

 しかし、それでも彼女は粘った。

 

『お願いです……私は、真実が知りたいのです……いえ、知らないと、いけないんです……連れていってください』

 

 本来の彼女は、芯が強く、何者にも挫けない強く清らかな心の持ち主。これまでレヴォルたちが出会ってきたシンデレラに共通する物を、この想区で出会ったシンデレラの第一印象によってすっかり忘れてしまっていた。例えどれだけ悲惨な目に遭おうとも、やはり彼女はシンデレラなのであると再認識する。

 

 彼女の必死の説得に、レヴォルたちは陥落。ドクターである永夢は彼女の健康状態を鑑みて最後まで反対していたが、シェインから『一人にしておいたら、部屋を抜け出して勝手についてくるかもしれませんよ? その方がより危険なのでは?』と言いくるめられるような形になり、渋々承諾。それに、確かに彼女に危険が及ぶ可能性はあるが、カオステラーから真意を問うのに彼女の力が必要かもしれないと、改めて考えなおした。

 

 そういう経緯から、病み上がりではあるが、出発前に軽い検査のようなものを行い、彼女の健康状態にさほど異常がないことを再確認し、彼女の同行が許された。もしものことを考え、主に永夢が彼女と行動を共にするよう心掛けているが……。

 

「ごめんなさい、エムさん。私、ご迷惑をおかけしないように努力はしているんですけれど……」

 

「そんな、全然迷惑だなんて思ってないよ。でも何か体に不調を感じたら遠慮なく言ってね?」

 

「は、はい……ありがとうございます……」

 

 消極的なシンデレラを元気づけようと、笑顔で語り掛ける永夢。そんな彼に礼を言うシンデレラの頬は、どこか赤く染まっているようにも見える。

 

「……ほほぉ、これはひょっとして……」

 

 と、顎に手を添えながら、永夢とシンデレラの会話を聞いていたアリシアの眼鏡の奥が光った。

 

「うーん……これはひょっとするとひょっとするかもしれませんねぇ」

 

「え? なになに? 何の話?」

 

「あぁ、まぁ、エレナにはちょっと早い話、かもしれないな」

 

 アリシアが考えていることと同じことを思っていたシェインも同意するが、エレナには何のことやらと首を傾げる。純粋なエレナに、レヴォルは知らなくてもいいと苦笑交じりに言った。

 

「いや、けどよぉ? お姫さまにゃこの国の王子がいるだろ? 舞踏会でも踊ったって言うし、それはないんじゃねぇか?」

 

 と、ティムがアリシアの考えに異を唱えた。

 

「んー……まぁ、確かに運命の書の通りならそうだけど。でも、何だかねぇ……」

 

 ティムの言うことも一理あると思いつつ、再び永夢とシンデレラのやり取りに耳を澄ませた。

 

 

 

「……あ、あの、エムさん?」

 

「ん? どうしたのシンデレラちゃん?」

 

「あ、いえ、大したことじゃないんですけど……その、えっと」

 

 指先を弄りつつ、口ごもるシンデレラ。やがて意を決したのか、再び口を開く。

 

「あの、私のこと、“エラ”と呼んでいただけませんか?」

 

「え? それって確か……」

 

「は、はい。私の本来の名前です。あ、その、呼ぶ時にいつもシンデレラだと少し呼びにくいかもと、そう思って……」

 

「うーん、別に呼びにくいなんてことないけれど……」

 

 シンデレラの言い分に首を傾げる永夢。そんな彼を見て、シンデレラは少ししょんぼりと目を伏せた。

 

「あぁ、いや、いいよ! じゃあ、エラちゃんって呼ぶけど、いい?」

 

「あ……は、はいっ」

 

 そんな彼女を見て慌てて彼女の願いを承諾する。シンデレラは、先ほどよりも明るくなった笑顔を永夢に向け、頷いた。

 

 

 

「……マジかよ」

 

「え、うそ、ホントにホントに?」

 

「へぇ……」

 

 間違いようのないシンデレラの表情と本名呼びをお願いする光景に、ティム、アリシアは絶句。シェインはどこか納得がいったとばかりに頷いている。

 

「い、いやいや。マジであれお医者さんにホの字じゃねぇのか!?」

 

「わ、私もそんな予感はしてたけど、まさかホントに当るとは思ってなかったわよ」

 

 どうもそうにしか見えない雰囲気に焦るティムとアリシア。これまで恋愛沙汰の予感はしたことがあっても、大体はこちらの勘違いか、或いは進展しないかの二択しかなかったが、ここまで明確な物を見せられると、二人ともからかうのも忘れてしまう。

 

 そんな中、冷静にシェインは言う。

 

「いえ、案外シンデレラさんって、ああいう真っ直ぐで人のためなら全力で助けようとする人が好きという印象はありますね。100年生きてきた私の経験談から言わせてもらうと」

 

「そ、そうなんですか!?」

 

「ババァが言うと説得力違ぇな……」

 

 脳裏に過るかつての仲間の内の一人が、そんな感じだった。やはり、永夢と彼は姿こそ違えどどこか似ている。シェインは改めてそう思った。

 

「……けど、彼女は……」

 

 そんな中、永夢とシンデレラを見ながら、どこか寂し気なレヴォルが呟いた。

 

 シンデレラは本来の運命通りならば、王子と結婚することとなっている。今彼らがしようとしていることは、狂わされた運命を正しい形にしようとしていること。

 

正しい形、すなわち王子との結婚は避けられない。それは、彼女の中に芽生えたであろう永夢に対する感情は……。

 

「ええ……彼の気持ちがどうかは、わかりませんがね」

 

 見たところ、意識しているのはシンデレラの方で、永夢の方は相変わらず彼女のことを患者として寄り添おうとしているように見える。それはそれで大切に思っているのだろうけれど、シンデレラとは違うベクトルの感情だ。

 

ドクターとしては正しい在りようではあるが……シンデレラにとっては、何とも報われない話でもあるともシェインは感じた。

 

 

 

 

 

「見えた。あそこだよ」

 

 そうこうしているうちに、山から下り、城の裏の壁付近まで来たところで、少年は木々の間を抜けて開けた場所に出て前方を指さす。一行はその指の先へと視線を向けた。そこには、木々の中にひっそりと建つ小屋程の大きさの石造りの建物が見え、ところどころ苔むしている。長年放置されてはいる様子で、周囲には見張りの兵士すら見当たらない。

 

「あれは……?」

 

「あれ、お城の地下に続いてるんだ……冒険した時に見つけた」

 

「なるほど。昔使われていた、王族の脱出用口だったのかもしれないね」

 

「こんな場所にそんなのがあったんですねぇ……」

 

 パーンがそう推理し、アリシアが周りを見回しながら感心する。周囲が木で囲まれていて目立たない上、ここからなら城を抜け出して山の中へ逃げられる。今は使われている様子はないようだが、侵入口としては打ってつけだろう。

 

「……ねぇねぇ、レヴォルの時もあれあった?」

 

「い、いや、どうだったかなぁ……?」

 

 エレナが純粋な疑問をレヴォルに投げかけるが、王族出身であるレヴォル自身、故郷にそんな秘密の脱出口の存在があるなんて知らないため、そう返すしかなかった。

 

「ともかく、ここから侵入すれば城の中に入り込めそうですね」

 

「なら、ちゃっちゃとやることやっちまいますかねっと」

 

 脱出口の扉がちゃんと開くか確認するシェインの後ろ、ティムが拳で掌を叩いて気合を入れ直す。

 

「……二人とも、案内ありがとう。おかげでここまで来れたよ」

 

 永夢が兄妹の目線までしゃがみ、笑顔を見せる。彼らの力が無ければ、この場所を見つけることすらできなかっただろう。永夢たちに大きな貢献を果たしてくれた二人に、永夢は感謝を言葉を送った。

 

「……な、なぁ、にいちゃん」

 

 少年は、今にも泣きそうな顔だったが、しかし真っ直ぐと永夢と目を合わせた。

 

「お、俺……父さんと母さんを連れてかれた時、何にもできなくって。妹と、婆ちゃん守りたいって思ってたけど、そんな力なんて、無くて……」

 

「…………」

 

 永夢は、少年の話を、独白を静かに聞く。一言紡ぐごとに目から雫が垂れてくるのに構わず、少年は続けた。

 

「……にいちゃんは、俺たち守るために、変身して化け物に立ち向かってって……すっげぇ、かっこよくって……でも、俺、かっこ悪く震えてるだけで……」

 

 何もできない自分を恥じることを打ち明ける少年。しかし、拳を握って目を擦り、涙を拭った。

 

「けど俺、にいちゃんみたいになりたい! 今はできなくても、これからは俺、みんなを守れるようになる! だから……!」

 

 そして、

 

「父さんと、母さんを……みんなを、お願いします……!」

 

 自分に力が無いことをわかっている少年は、自分がしたいが不可能であることを、仮面ライダーという人々を助ける力を持つ永夢に託す。

 

 自分のことを、情けないと思いつつ、そんな自分を変えようとしている少年の気持ちを汲み取った永夢は、しばし無言になる。そして、ニッコリと、少年たちをヴィランから逃し、隠した際に見せた笑顔を見せ、そして少年の肩に手を置いた。

 

「うん……絶対に、皆を、そして君たちの笑顔を取り戻すよ」

 

 嘘偽りのない、形だけではない本心の言葉。笑顔を浮かべながらも、確かな強い意志を宿す永夢の眼。少年はそんな永夢を、期待、そして強い憧れに満ちた目で見つめた。

 

 その傍ら、シンデレラは永夢のその姿が眩しく思う。優しく、そして真っ直ぐで、誰かのために尽力する……そんな姿に、たまらなく惹かれていく自身を自覚する。

 

 そして、対する自分の無力さも思い知っていた。

 

「エラおねえちゃん……」

 

 と、シンデレラの足元から声がかかる。見れば、少女がシンデレラを少年と同じ、泣きそうな目で見つめていた。

 

「エラおねえちゃん、ちゃんと戻ってくるよね? ……もう、いなくならないよね?」

 

「ぁ……」

 

 不安に揺れる瞳に、シンデレラは小さな声を上げる。

 

 昔から、あのパン屋には世話になってきたシンデレラ。その際、兄妹とも親睦を深め、今はシンデレラを実の姉のように慕ってくれている。

 

 そんな二人が、シンデレラが圧制を敷いていると知って、どれだけ心を痛めていたのか……シンデレラには計り知れなかった。

 

 だからこそ、またシンデレラが自分の知らない人間になってしまうのではないかという思いが、二人にはあるのだろう。シンデレラを見つめる少女の瞳は、そう語っていた。

 

「……うん、大丈夫」

 

しゃがみ、そしてそっと少女を胸元に抱きしめる。突然の抱擁に少女は驚くことなく受け入れ、彼女の胸に顔を埋めた。

 

「心配かけて、ごめんね? ちゃんと……ちゃんと帰って来るから。ね?」

 

「…………」

 

 シンデレラの存在を身近に感じて少女は安堵したのか、その体勢のまま頷いた。

 

 もう、二人を不安にさせるわけにはいかない。真実を明らかにして、この国の惨状を終わらせる。力の無い自分がどこまでできるかわからないけど、やれるだけやってみよう……シンデレラは、静かにそう決意をした。

 

 それから、兄妹は手を繋ぎ、山の中へと駆けて行く。ここから先は、二人を守りながら戦えるほどの余裕はないかもしれない。少年もそれをわかっているからこそ、永夢たちに託してこの場から去っていく。最後、永夢たちに向けて手を振って、二人は元来た道を戻って行った。ここまで案内してくれたのはあの二人なのだから、帰り道は大丈夫だろう。

 

 永夢たちは、兄妹たちが去ってから、改めて侵入口である建物へと体を向ける。小さな入り口だが、ここに入れば後戻りはできない。そう考えると、この扉の先が全くの別世界の入り口にも見えて、妙な雰囲気を感じ取れた。

 

「さぁ、行こう!」

 

 それでも臆することなく、一行は進む。レヴォルが号令と共に扉を開ける。それが、突入の合図となった。

 

 

 

 目指すは、捕らわれた人々の救出。そして……打倒カオステラー。

 

 

 




~オマケ~

メルヘン劇場後

エレナ
「……ね、ねぇ、アリシアちゃん?」

アリシア
「え? どしたのエレナちゃん」

エレナ
「えっと、さっきの劇でシンデレラちゃん役の私が舞踏会に連れてってもらえないシーンの時なんだけど……なんか、知らない人にクズとか言われて罵倒された気がするの」

アリシア
「え、そうなの? そんな台詞ないはずなんだけど」

エレナ
「え?」

アリシア
「え?」

エレナ
「……」

アリシア
「……」



エレナとアリシアは気のせいだったということにして、考えるのをやめた。そしてそのまま忘れていった。
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