仮面ライダーエグゼイド ~M in Maerchen World~   作:コッコリリン

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最近投稿早いと思うでしょ? もう少しで構想段階から書きたい展開に辿り着くとなると、書くテンションも上がります。

気分屋故にどこまで続くかわかりませんがこのテンション。維持したいのーん(´・ω・`)


第9話 暴走Girlにご用心!

 

 

 長い階段を下りた一行が辿り着いた場所は、周囲が石造りの通路だった。地上に比べて気温が低く、肌寒い程ひんやりとしている。薄暗いが、壁に掛けられた松明によって視界は確保されてはいるものの、空間は埃や湿気によるカビの臭いが充満しており、衛生環境はあまりよくない。

 

「城の地下へ繋がっていたようだな」

 

「うへぇ、暗いなぁ……」

 

 周囲を警戒するパーンの横で、エレナが暗い通路を見て顔を顰めた。

 

「ここからどう進めばいいんだろう……」

 

 レヴォルが周囲を見回しても、左右に続ている通路と、途中にいくつもある曲がり角があるだけで、その先に何があるのか示す物は何もない。

 

「……ひとまず、先へ進むしかありませんね」

 

「だな。とっととこっから出たいもんだぜ」

 

 シェインに同意するティムは、鼻を腕で抑え、カビによる異臭を防ごうとしていた。不衛生な環境と不気味な雰囲気。それらが相まって一刻も早くここから出たい様子だった。

 

「あ、そういえばシンデレラちゃんって一回お城に来たことあるんだよね? 場所とかわかったりしない?」

 

 ふと思い出したようにエレナがシンデレラに振り返る。突然話を振られて肩を震わせたシンデレラは、申し訳なさそうに頭を振った。

 

「ごめんなさい、確かに舞踏会には行きましたけど、お城の中庭とダンスホールしか入ったことないんです……」

 

「あ、そっか……こっちこそごめんなさい」

 

 今のシンデレラは、運命の書で言うところの王子に落としたガラスの靴を履かせてもらう前の状態。まだ正式に城に迎え入れられたわけではないことをエレナは思い出し、同時に今の彼女には無粋だったかもしれないと思って謝罪した。

 

「……けど、この地下にもしかしたら町で捕えられた人たちがいるかもしれない」

 

「あぁ、地下牢ですね」

 

 捕えた罪人は、牢屋に閉じ込めておくもの。永夢の予想に、アリシアは頷く。場所はわからずとも、シェインの言う通り、進まなければ見つかる物も見つからない。と言っても、ここは敵地。人が長居できる環境とは言えないにしても、警備兵などがうろついている可能性も多いにある。

 

「とにかく、進もう。みんな、周りには十分警戒しておいてくれ」

 

 レヴォルが先頭に立ち、通路を歩き始める。一同、何が飛び出しても平気なように、周りを見回しながら進んでいく。

 

 しばらく石造りの通路が続く。一行の靴の音と、どこからか聞こえてくる水滴の音が響く。湿気が多いのは、地下水脈が近いせいかもしれない。

 

 死角となっている曲がり角では、細心の注意を払ってから進む。今のところ人影もなく、ヴィランすらも見当たらない。どこへ進んでいるかはわからないが、順調であるとも言えた。

 

「うぅ、やっぱり不気味だなぁ……」

 

 歩き続けていると、エレナが怯えながら一人ごちる。年季の入った壁や天井、肌寒さ、そして松明の火が消えたことで明かりの届かなくなった通路の奥まった先。それらが何とも言えない不気味さを醸し出していた。

 

 そんなエレナを見て、ニヤリとティムが笑う。

 

「おチビ、怖いなら帰っていいんだぜ?」

 

「べ、別に怖くないもん!」

 

「こらティム君! エレナちゃん虐めないの!」

 

「ちょっとしたジョークだろうがよ」

 

「三人とも、ふざけてないでもう少し緊張感を持った方が……」

 

 薄暗い通路を歩きながら、和気藹々(?)とする三人に、ここが敵の本拠地であることを意識するようにとレヴォルが口を挟もうとした。

 

「はは、やっぱり皆仲がいいんだね」

 

 場を和ませるためにあえて弄るティムとムキになって反論するエレナのやりとりを見ていると、苦楽を共にしてきた旅の仲間の絆を感じられる。そのことに永夢は笑い、元いた世界にいるであろうCRの仲間たちは、今頃何をしているのだろうかとふと思う。永夢を連れ戻すために尽力してくれているのだろうか、或いはバグスターが現れて戦っているのだろうか等、思いを馳せていた。

 

 そんな日数は経っていないのだが、ここしばらくは色々なことがありすぎて、長いことこの世界にいる気がする永夢。そう思うと、CRが恋しくなってくる。

 

「フフ、そうですね」

 

 隣で永夢と同じく、小さく笑うシンデレラ。彼女にとっても、この閉鎖された空間を黙々と歩き続けるのは正直辛いと感じていたところ、彼らの賑やかさは寧ろありがたかった。

 

「三人とも。あまり騒がしいと敵に見つかるかもしれないから気を付けるように」

 

「あぅ……ごめんなさーい」

 

「ほらティム君のせいで先生に怒られたじゃない」

 

「いや俺だけかよ!?」

 

「元はティム坊やがエレナさんをからかったのが悪いんですから責められてしかるべきですね」

 

「う……ここぞとばかりに、ババァ……!」

 

 恨みがましそうに睨むティムだったが、シェインはどこ吹く風と相手にしなかった。

 

「はぁ、全く……」

 

 場所が場所だけにもう少し緊張感を持って欲しいと思ってため息をつくレヴォルは、次の曲がり角まで差し迫った時、ふと足を止めた。

 

「……え?」

 

「っと、レヴォル君?」

 

 急に止まったレヴォルに、永夢が何事か問う。他の面子も気付いて、同じく足を止めた。

 

「しっ」

 

 レヴォルは人差し指をたて、『静かに』というジェスチャーを送る。そして、耳に手を当て、全身系を耳に集中させる。

 

 少し離れているが、水の水滴以外の音が聞こえてくる。それは徐々に、徐々に近づいてきているのがわかった。

 

「……誰か来る」

 

 それは、靴音。数にして一人だけだが、何者かがレヴォルたちのいる所まで歩み寄ってきているのにレヴォルは気付く。

 

 レヴォルが言った瞬間、全員気を引き締める。各々手に栞を、永夢はガシャットを取り出し、シンデレラを庇うように立った。

 

 すぐに戦闘態勢に入れるように身構えた一行の近くまで、足音が来る。兵士か、はたまた非戦闘員かはわからない。しかし、ここは城の地下。高い確率で敵だろうと全員の意思が一致する。

 

「1、2の3で飛び出そう」

 

 小声でレヴォルが言うと、全員頷く。合図を出すレヴォルが、壁ギリギリの位置で足音の主の位置を探る。音からして、もうすぐそばだ。

 

「1……」

 

 レヴォルの栞を握る手に力が入る。

 

「2の……」

 

 エレナたちも同様に栞を握り、永夢もガシャットのスイッチに親指をかけた。

 

「3!!」

 

 足音が曲がり角すぐそこまで来た瞬間、レヴォルが叫び、全員一斉に飛び出した。

 

 先手必勝、相手が動く前にコネクトをしようと、空白の書を取り出して

 

 

 

「ヒャァァァァァッ!?」

 

 

 

 戦闘体勢に入ろうとした瞬間、全員動きを止めた。

 

 相手が尻もちをついて甲高い声を出したことで驚いたのもある。が、それ以上の衝撃が、一行に走る。

 

「お、お前は……!?」

 

 その中で、一際驚いている者がいた。ティムである。手に持っている栞を、思わず取り落としそうになった程だった。

 

「え……な、何で……!?」

 

 対し、声の主である相手もまた同様に驚愕の表情を見せ、一行を見上げる。羽の髪飾りを付けた濃い緑の髪と、幼さを残した顔立ち。それらはどことなく、面影がティムと似ている。それもそのはず、その相手は、

 

 

 

「ルイーサ!?」

 

「ヘカテーちゃん!?」

 

 

 

 今は別々の道を歩み、敵対しているはずのティムの妹なのだから。

 

 

 

~第9話 暴走Girlにご用心!~

 

 

 

「な、何でアンタたちがここに……!?」

 

「そりゃお前、こっちの台詞だ! 何でこんな場所にお前が……それにその恰好どうしたんだよ」

 

「そんなの、アンタには関係ないでしょ!? それと私はヘカテーよ! ルイーサじゃないって言ってるでしょ!」

 

 立ち上がったヘカテーと名乗る少女は、いまだ驚きから抜けないティムを罵倒する。服のいたるところが汚れ、若干やつれているようにも見えるが、声にはまだ覇気があり、そしてその目には明確なまでの敵意が宿っていた。

 

「……レヴォル君、彼女は?」

 

 彼女が何者かわからない永夢はレヴォルに耳打ちする。驚きから立ち直ったレヴォルは、永夢に答えた。

 

「あ、ああ。彼女はヘカテー。ティムの……妹だ」

 

「妹ぉ!?」

 

 再び少女を見やる。なるほど、髪色、瞳の色だけでなく、雰囲気もティムに似通っている部分はある。兄妹と言われたら納得できた。

 

 が、目の前で繰り広げられているのは、妹であるヘカテーが兄であるティムを一方的に罵倒している光景である。ティムはというと、いつもの皮肉屋な部分は消え、ただ言い返せずにたじろいでいる様子だった。

 

 過去に何かあったのは、間違いない。そうじゃなければ、兄妹喧嘩とも言えないこの光景に説明がつかなかった。

 

「そこまでにしていただけませんか?」

 

 永夢が考えている間、シェインが割って入る。それでも、ヘカテーは不満の顔を隠そうともしなかった。

 

「何よ? ババァは引っ込んでて」

 

「そういうわけにもいきませんからね。お子様の癇癪に付き合ってる状況ではありませんから……まぁ、それはそれとして」

 

 ヘカテーの悪態なんて聞いちゃいないとばかりに、彼女を窘つつ周囲を見回す。あることを確認してからヘカテーを見て、呆れたようなため息をついた。

 

「その様子を見るに、“彼”はここにはいないようですね。十中八九、まぁたはぐれましたか」

 

 自分たちにとっての敵である“彼”がいないことに、ひとまずの安堵を覚える。同時に、 “彼”とはぐれた彼女と遭遇したのは、実はこれが初めてではなかった。

 

 図星をつかれて頬を赤くし、ヘカテーは逆上する。

 

「う、うっさいわねこの……ぅ」

 

 が、途端にふらつき、壁に手を着いた。

 

「お、おいルイーサ!?」

 

 咄嗟に手を伸ばすティム。だが、ヘカテーはそれを払いのけた。

 

「触らないで! アンタに心配される筋合いなんて、ない!」

 

「で、でもヘカテーちゃん……」

 

 叫ぶヘカテーの様子がおかしいことにエレナは気付く。いつもの強気な発言をする彼女だが、今日はその勢いがないように見受けられる。今のようにふらついているだけでなく、気温は低いにも関わらずに汗を流し、少し息も荒いように見えた。

 

「うっさい! 私に構わないで!」

 

 叫び、縦笛を手に持った。

 

「よせ! 今争っている場合じゃ……」

 

 ヘカテーの持つ笛は、ヴィランを呼び寄せ、操る代物。過去に何度もそれで辛酸を舐めさせられてきた。それを知るからこそ、レヴォルは止めようと手を伸ばした。

 

 が、それより前にシェインが叫ぶ。

 

「っ! 危ない!」

 

「え」

 

 瞬間、ヘカテーは背後から敵意を感じ、咄嗟に横へ跳んだ。彼女がいた場所に、槍が突き刺さる。

 

「ルイーサ!」

 

 ティムの叫びを耳にしながら、ヘカテーは顔を上げる。そこには、羽を生やしたヴィラン、ウィング・ヴィランが浮遊しながら、手に持った槍をヘカテーが立っていた場所に突き刺していた。悪意のある黄色い目が、ヘカテーを見据える。

 

「ヴィラン!? いつの間に!?」

 

 レヴォルが叫ぶのを合図にしたかのように、何もない空間からヴィランがわらわらと出て来る。前方だけでなく、背後からもヴィランが現れた。

 

 再び尻もちを着く羽目になったヘカテー。慌てながらも、笛を吹こうとした。

 

「しま……笛が」

 

 しかし、それは叶わず。笛は避けた拍子に彼女の手から離れて転がっており、吹こうにも吹けない状況となった。

 

 まずいと、彼女は背筋が凍る。ヴィランを操れない。即ち、目の前にいるヴィランは彼女を襲う。

 

 再び、槍を持ち上げるヴィラン。今度は逃さないと、真っ直ぐ矛先をヘカテーへ向けた。

 

「くっ……」

 

 どうすることもできず、手で顔を覆う。ヘカテーを刺し貫かんと、ヴィランの敵意の宿った槍が迫る。

 

 

 

「大・変身!」

 

≪マイティマイティアクション・X!!≫

 

 

 

 妙な声がしたかと思うと、ガキィンという硬質な音をたて、ヘカテーの命を奪わんとした槍は防がれる。痛みが来ないことに、ヘカテーは恐る恐る手を下ろした。

 

「な……」

 

 目の前に立つ、マゼンタを基調とした、背中に顔のような物を付けた妙な人間? が立っている。それがヴィランからヘカテーを守っていた。

 

「下がってろ!」

 

 咄嗟に飛び出しながら変身し、槍の矛先を手で掴んで受け止めていた “それ”ことエグゼイドは、ヘカテーに向けて叫んで槍を逸らし、ヴィランを蹴り飛ばした。そしてそのままの勢いで、集団で固まっているヴィランへ向けて拳と蹴りを見舞う。常人を遥かに凌ぐ仮面ライダーのパンチとキックを前に、ヴィランは次々吹き飛ばされていく。

 

「僕たちもやるぞ!」

 

「クソッたれが!」

 

 レヴォルが栞と本を手にエグゼイドに続く。ティムもまた、ヘカテーに手を出そうとしたヴィランを前に怒りを湛えて悪態をつき、栞を使ってヴァルト王子とコネクトし、槍を手にした。

 

「みんな、包囲を詰められないよう立ち回るんだ!」

 

 パーンがラ・ベットとコネクトしつつ、斧で目の前のビースト・ヴィランを両断しながら叫ぶ。前後を挟まれた状態で、中央にヘカテー、そしてシンデレラを守るように位置取りをする一行。これ以上ヴィランを進ませると、戦えない二人に危害が及ぶ。

 

 そうはさせじと、エグゼイドは拳をウィング・ヴィランへ放つ。盾で防御したヴィランだったが、凄まじい威力に耐えきれず、吹き飛んで壁にぶつかり、消滅した。

 

「きゃぁ!」

 

「っ!」

 

 エグゼイドの背後を横切る形で、ブギー・ヴィランが爪を振り上げてシンデレラへ向けて跳びかかろうとする。思わず悲鳴を上げるシンデレラに、エグゼイドは即座に反応。後方宙返りをしつつ飛び上がり、シンデレラの前に着地。飛び掛かってくるヴィランをストレートパンチで迎え撃った。

 

「はぁっ!!」

 

≪HIT!≫

 

 ライフル銃の如く繰り出された拳は、ヴィランを消滅へと追いやる。

 

「大丈夫か!?」

 

「は、はい……」

 

 エグゼイドが振り返り、腰が抜けたように座り込むシンデレラに声をかけた。返事を聞いて無事を確認し、すぐさま前で密集するヴィランを見据える。

 

「くっ、思ったよりも数が多いな」

 

「このままだと押し切られてしまうぞ!」

 

 エグゼイドの呟きに、ロミオとなったレヴォルが剣を振るい、手近のヴィラン一体を倒す。確実に倒し、数を減らしていってはいるものの、相手の物量が多すぎて徐々に詰められる一方だ。このままではシンデレラたちに被害が及んでしまう。

 

「二人とも、離れてなさい!」

 

 突如、エグゼイドとレヴォルの背後からシェインの声が響く。振り返れば、赤ずきんとなって大砲を抱えるアリシアと、毛皮で作られた身軽そうな服を纏った、癖のある髪をした少女が、羽飾りのついた弓を手に矢を番えていた。

 

 彼女の名は『タチアナ』。アンデルセン童話の『雪の女王』の登場人物であり、シェインが栞の裏面を使ってコネクトした姿。山賊の娘である彼女の弓は、猛禽類である鷹の如く鋭く、狙った獲物はかならず射止める。

 

 弓の弦が軋み、力一杯引かれた矢からは、稲妻のようなエネルギーが蓄えられ、鏃から溢れて迸る。暗い通路を明るく照らすその光を放つ矢は、真っ直ぐヴィランが密集する通路の先へと向いていた。

 

「いきますよアリシアさん!」

 

「はい!」

 

 同様に、大砲にパワーをチャージするアリシアも照準をシェインと同じくヴィランたちへ合わせる。やがてシェインの矢のエネルギーが臨界点ギリギリにまで到達すると、

 

「「はぁっ!!」」

 

 弓から矢が放たれ、砲口からは燃え盛るエネルギー弾が飛んでいく。その刹那、エグゼイドとレヴォルはそれぞれ左右へと跳び退る。矢は一筋の光となり、それは傍からみればレーザーのようにも映る。エグゼイドとレヴォルの眼前を通った矢と砲弾は、ヴィランの集団へ到達した。

 

 矢は突き刺さらず、そのままヴィランを次々貫通して飛ぶ。矢が通った後は、溜め込まれたエネルギーが遅れて爆発。矢の軌跡を辿るように爆発は連鎖していき、ヴィランは巻き添えを食らっていく。爆発に巻き込まれなかったヴィランは、アリシアの大砲によって業火に焼かれていった。

 

 後に残ったのは、爆発によって床に焦げ跡のみ。ヴィランは塵一つ残さず消え去った。

 

「すっげ……」

 

 シェインの一撃を間近で見て、エグゼイドは絶句する。今の一撃、エグゼイドの仲間である花家大我こと仮面ライダースナイプの武器である『ガシャコンマグナム』を使った必殺技『バンバンクリティカルフィニッシュ』に勝るとも劣らない威力を持っているのではないだろうか。しかも弓矢を使ってあの威力。恐らく魔法の類なのだろうが、魔法を使うとあそこまで強力なパワーが扱えるのかと思い、戦慄した。

 

 が、驚きも束の間。前方のヴィランが掃討されたや否や、すぐさま行動に移す者がいた。

 

「くっ……!」

 

 ヘカテーは落ちていた笛をすぐさま拾い上げると、通路の先へ向かって走り出した。

 

「ルイーサ、待て!!」

 

 脇目も振らず駆け出したヘカテーを、ティムは迷わず追いかけた。

 

「バカ! 待ちなさいティム!!」

 

 仲間を置いてヘカテーを追いかけるティムを窘めるも、止まる気配がない。やむを得ず、シェインもティムを追って走り出した。

 

「まずい、今分断してしまうのは得策ではないぞ!」

 

「ティム君、シェインさん! 待って!」

 

 パーンとアリシアが叫ぶも、すでに暗闇の向こう側へ二人は駆けて行ってしまった。今追わなければ、敵地の中で二人を見失ってしまう。パーンとアリシアの中に焦燥感が現れる。

 

 しかし、前方のヴィランは倒したものの、まだ通路の後方のヴィランは残っている。数こそ減ったが、このまま追えば連中も引き連れて行くこととなり、さらなる騒ぎとなってしまい、より多くの敵を集めてしまいかねない。

 

「パーン、アリシア! 先に行け!」

 

≪ガシャコンブレイカー!≫

 

 そんな二人に向け、エグゼイドは武器を召喚しながら叫んだ。振り返ると、伏せているシンデレラを守るようにヴィランの攻撃をブレードモードにしたガシャコンブレイカーで受け止めているエグゼイドと、ヴィランへ剣を突き刺しているレヴォル、そしてカーレンとなったエレナが魔法陣でヴィランを吹き飛ばしていた。

 

「こっちは僕たちが食い止めます!」

 

「パーンさんたちはシェインちゃんたちを追って!」

 

 促され、パーンとアリシアは互いの顔を見合わせる。今二人がこの場から離れると、戦えないシンデレラを除いた三人だけがヴィランたちを相手取ることになってしまう。パーンは彼らを残して行くかどうか、一瞬判断に迷う。

 

 しかし、永夢ことエグゼイドの実力は折り紙付きな上、レヴォルとエレナも場数を踏んでいる。そうそうやられはしないはず。悩んだが、やがてパーンは頷いた。

 

「……わかった。君たちもすぐに追いつくんだよ!」

 

「気を付けて! 油断だけはしないようにね!」

 

「ヘッ! 誰に向かって言ってんだよ? こんなんイージーモードだ!」

 

≪HIT!≫

 

 二人にそう軽口を叩きながら、エグゼイドはヴィランを一体切り伏せた。パーンとアリシアは、ティムたちを追って駆け出していく。二人を追おうとした一体のヴィランを、エグゼイドはガシャコンブレイカーで一閃、両断した。

 

「っしゃあ! 気合い入れていくぜ二人とも!」

 

「ああ!」

 

「うん!」

 

 シンデレラを守りつつ、三人は群がるヴィランを打ち倒していく。怒涛の勢いで戦う彼らの前では、ヴィランは最早雑魚敵と呼ぶに相応しく、次々と消滅していくしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ……もう、何だっていうのよ……! クラウスとははぐれるし閉じ込められるしで……もう、ホント最悪!」

 

 いつもより身体が重く感じながらも走り続けていたヘカテーは、肺に十分な酸素が行き渡らなくなったことで走るのをやめ、立ち止まった。膝に手をつき、肩で大きく息を吸う。気分が優れなくとも、悪態をつくのはやめなかった。

 

 そもそも、この想区に迷い込んでから碌な目に合っていない。いつも付き従っている男とはぐれたばかりか、目覚めて歩き出した瞬間に急に体が気怠くなって、気付けば何もないじめじめした牢屋の中。小柄な身体を活かして、牢屋の中で崩れていた壁の一部から外へ這い出る際に服は汚れるし、暗くてジメジメした通路を延々と歩き続けるし、何より身体が怠い上にしばらく何も口にしていないしで、さらには先ほど会いたくない連中と遭遇してしまった。本当に散々な目にしか合っていない。

 

「……というより、あの変な奴は何なの?」

 

 ふと、自分をヴィランの攻撃から庇ったピンク色の妙な恰好をした存在を思い出す。再編の魔女一行に、あんな存在はいなかった。先ほどは気にしていなかったが、一行の中に白衣を身に纏った見慣れない青年もいたが、そいつがコネクト? をしたのかもしれない。あんなヒーローは見たこともないが。

 

 まぁ、もう関係ない。気を取り直し、無我夢中で逃げてきたヘカテーは改めて周りを見る。

 

 明るい。先ほどの暗い地下通路から、いつの間にか地上へ出ていたらしい。煌びやかな調度品や絵画が飾られ、床には赤いカーペットが敷かれた廊下に、彼女は立っていた。窓の外には夜の闇が広がり、景色を見ることはできない。

 

 しばし無言で立ち尽くしていたが、やがてポツリと呟く。

 

「……こ、ここからどうしたらいいのかしら?」

 

 考え無しに走っていたツケが回ってきたことに改めて気付く。どうしようもなく、途方に暮れていた時。

 

「ルイーサ!」

 

「っ!」

 

 背後から聞き慣れた、しかし聞きたくなかった声。コネクトを解除したティムが、ルイーサに追い付いてきていた。彼の姿を視認するや否や、ヘカテーは顔を大きく顰めた。

 

「お前、何考えてんだ!? こんなところ逃げ回ってたら危ねえだろ!?」

 

「うっさい! 追いかけてまで兄貴面してんじゃないわよ!」

 

「っ……!」

 

 ここまで来て兄として振る舞う彼に、堪らなく腹が立つ。憤怒と嫌悪を隠そうともせず、ヘカテーは叫ぶ。ティムとしては心の底からの言葉であったが、それが彼女の苛立ちを助長していることに気付き、言い返すこともできない。

 

「ティム!」

 

 そんな時、背後からまた別の声。着物を揺らしつつ、シェインが駆けてくるのが見えた。

 

「あ、姐さん……」

 

「全く、何を考えているんですか! 一人で勝手に突っ走らないでください!」

 

「で、でも……」

 

 追いつき、ティムに向かって叱りの言葉を投げつける。言い返そうとするティムだったが、シェインはふぅとため息をひとつついた。

 

「……気持ちはわかります。けど場所が場所です。迂闊な行動は慎みなさい」

 

 シェインとしても、かつて(・・・)の彼女がそうであったように、兄が妹を追いかける気持ちも痛い程わかる。しかし、ここは敵地。迂闊な行動で仲間を窮地に立たせてしまいかねない。

 

 そう諭すシェインに、ティムは言い返そうとした口を閉じる。やがて、罰が悪そうに頭を掻いた。

 

「……わりぃ。軽率だった」

 

「わかればいいんです……まぁ、追いかける原因となった相手は反省してる素振りは……」

 

 言って、シェインはジト目でヘカテーを睨もうとした……が、それは怪訝な目つきへと変わる。

 

「ちょっと……?」

 

「な……何よ?」

 

 顔色が悪く、冷や汗を流す彼女の身体は、体調が思わしくないようにしか見えない。放っておいたら、すぐにでも倒れ込んでしまいそうだ。

 

「お、おいルイーサ。お前、本当に大丈夫なのか?」

 

「だ、だから……心配される筋合いなんか無いって言ってるでしょ?」

 

 反論するヘカテーの声に、いつもの覇気がない。走り回って、元々悪かった体調がさらに悪くなってしまったか。シェインはそう憶測する。

 

「風邪、ですかね。エムさんがこの場にいないことが悔やまれますね」

 

 ドクターである彼がいれば何かわかると思ったが、ティムを追って彼らを置いてきてしまった。そう考えると、自分もティムと同じだと、己の迂闊さを呪った。

 

「シェイン! ティム!」

 

「二人とも無事!?」

 

 と、二人の名を呼ぶ声がし、思考を中断して声の方へと顔を向けた。パーンとアリシアが、シェインたちが駆けてきた方向から走り寄ってきていた。

 

「パーンさん、アリシアさん……レヴォル君たちは?」

 

 二人の姿は確認できた。が、レヴォルとエレナ、そして永夢とシンデレラの姿が見えない。

 

 何かあったのだろうか? 不安になったシェインに、パーンが答える。

 

「僕たちに二人を追うようにと、殿を務めてくれた。あのヴィランの数ならば大丈夫だろう」

 

 三人ともそこいらのヴィランに遅れを取るような玉じゃない。パーンからのお墨付きもあり、ひとまず全員無事であることを知って安堵する。

 

「そうですか……しかし、それでも一旦合流した方がよさそうです」

 

「ですね。何が起こるかわかりませんし」

 

 ヴィランが現れたということは、敵に感付かれている可能性がある。合流するため、来た道を戻ろうとシェインたちは踵を返そうとした。

 

 

 

「お待ちください」

 

 

 

 が、唐突に5人以外の声に呼び止められ、すぐさま身構えた。

 

 視線の先、シェインたちと相対する形で立っていたのは、燕尾服を身に纏った男性。背筋を伸ばし、両手を腰の後ろで組むような形で、シェインたちを見据えている。

 

「……誰ですか、あなたは」

 

 シェインは栞を手に問う。その目には油断はない。

 

 何故ならば、先ほどまでそこには誰もいなかったはずだからである。気配もなく唐突に、それこそまさに瞬間移動してきたのではないかと思える程に。パーンたちも同様、目の前の男に警戒し、ヘカテーを後ろに下がらせて栞を構えた。

 

 そんな彼らに対し、男はスッと腰を曲げ、一礼した。

 

「呼び止めてしまい、申し訳ありません。私は王妃様の身の周りのお世話をさせていただいている者です」

 

 見た目通りの役職を持つ人間。そして、まさかの目当ての人物に近い立ち位置にいる者と出会えたことに、シェインたちは軽く驚愕する。

 

「……そんなあなたが、私たちに何の御用でしょうか?」

 

 だからこそ、より一層警戒が強くなる。王妃に仕える人間、すなわち敵。そう考えるのが自然というものだ

 

 顔を上げた男の表情は相変わらず変わらず、シェインたちを見る。感情が読み取れず、何を考えているのかわからない。

 

「あなた様方は、王妃様にお会いになられるためにここに忍び込んだのでしょう?」

 

「……だとしたら、何ですか?」

 

 忍び込んだとわかっているのならば、ただ謁見しに来たわけではないことを、この男は把握しているはず。シェインの目つきがより鋭くなっていく。

 

 が、その目つきはすぐに困惑へと変わった。

 

「……王妃様は現在、玉座の間にて陛下と共におります」

 

「な……」

 

 そんな彼から渡された情報に、シェインは思わず声を上げる。確かに、王妃の居場所を探ろうとも考えていたが、まさか向こうから唐突に教えられるとは思ってもいなかった。

 

「王妃様は歯向かう者全てに対して侮っておいでです。隙をつけば、あなた方少人数でもどうにかできましょう」

 

「……一体、どういうつもりでしょうか?」

 

 男にパーンが問う。何故王妃の付き人でもある彼が、王妃の居場所を喋るのか。何かの罠か、そう疑ったとしてもおかしくはない。

 

「……城の中にいる人間が、全て王妃様に、否、今の王家に忠誠を誓っていると思わないでいただきたい」

 

 パーンの質問に、初めて男は表情を変えた。暗く、悲しげに。

 

「かつての王家の威光は、王妃様の乱暴狼藉によって消え失せました。彼女に逆らった者は、王妃様から陛下に告げ口をされ、国を追放されるか、ひどければ処刑されるか……国の人々を苦しめ、己は権力という甘い蜜を啜り、贅の限りを尽くす。そんな王妃様を見るのは、もうたくさんです」

 

 吐き捨てるように、男は言う。パーンも彼の心の叫びであろう話を、静かに聞いていた。

 

「私は、王妃様の側に仕えながらも、どうにかできないものかと考えておりました……しかし、陛下の後ろ盾がある以上、非力な私では何もできませぬ。だからこそ、あなた様方のような方々が来るのを心待ちにしておりました」

 

「我々が、王妃を止められると思っているのですか?」

 

「化け物すら従える今の王城に忍び込もうと考えるような、大胆不敵な者にお願いするのもおかしくはないでしょう」

 

「……」

 

 侵入者であるパーンたちに全てを託すという、城の人間が聞いたらただではすまないことを、目の前の男は言っている。言葉の真偽がわからず、パーンは考えあぐねていた。

 

「……私を疑るのならば、それで結構。しかし、あなた方に託すしか道はないのです……では」

 

 男は再び一礼し、5人に背を向け、歩き出した。その姿は途中の曲がり角で見えなくなり、廊下には静寂が訪れた。

 

「……どう思います? パーンさん」

 

 シェインはパーンの顔を見る。顎に手を添え考え込むパーンは、やがて頭を振った。

 

「正直、全ての話を鵜呑みにすることはできない。しかし、王妃が玉座の間にいるという情報は信憑性がある」

 

 王の妃である人間が王の傍にいる。何ら不思議ではない。彼が語っていたこと全てが事実とは思わないが、王妃の居場所に関する情報は、今のところ男から語られた話だけ。ならばそれに従ってみるしかなかった。

 

「……まぁ、それしかないですね」

 

 急に現れたことと言い、考えが読めないことと言い、執事を名乗ったあの男の胡散臭さは半端なかった。だが、闇雲に走り回るよりかは、あえて罠かもしれない話に乗ってみるのも一つの手だともシェインは考える。

 

「……ひとまず、君は私たちと行動を共にしなさい」

 

「はぁ? 何でよ」

 

 今後の方針が固まったところで、パーンはティムの後ろにいたヘカテーへ声をかけ、共に行くことを提案する。当然、ヘカテーからは反発の声が上がった。

 

「今の君を連れて町へ戻ることはできそうにない。ならば、危険は伴うがこの想区のカオステラーを倒し、その後で治療するために診療所へ行った方がいいだろう。無論、症状が悪化する可能性もあるが、その時は出来る限り何とかしよう」

 

 パーンは、自身の栞の裏側にある回復役職のヒーローとコネクトできる『ヒーラー』のマークを見せた。

 

「まぁ、単独行動したいのならばそれでいいですけど、あっさり捕まって冷たい牢屋に行くよりかはマシだと思いますがね」

 

 病人は大人しく言うこと聞け。暗にそう言うシェインに、苦虫を噛み潰したような顔になるヘカテー。

 

「ルイーサ……」

 

 懇願するようなティムの目。兄として心配している彼の目を見て、ヘカテーはしばし考える。

 

 やがて観念したのか、甚だ不満だと思っている気持ちを隠そうともせずに鼻を鳴らした。

 

「フン……せいぜい背中に気を付けなさいよ」

 

「ご安心を。あなたのお兄さんの目を信じておりますから」

 

「……チッ」

 

 言い返すシェインは、僅かに笑いながらティムを見る。それを聞いて監視を頼まれたことに気付いたティムは、小さく頷いた。ヘカテーは小さく舌打ちせざるを得ず、そのまま黙り込んだ。

 

「さぁ、一旦レヴォル君たちの下へ戻りましょうか」

 

 アリシアが提案し、歩き出す5人。ここに来るまで、ヴィラン以外の敵とは出会わなかったことに些か不安を覚えつつ、一度元来た道を辿っていった。

 

 




そういやヘカテーってヴィランに襲われないんだったっけ……いや普通に笛吹いてなかったら襲われるんだったっけ……あかん、調べたいけどどこら辺調べたらいいんかわからーん!(錯乱)

……よし、このまま行こう!(ダメ思考)

そんな適当な作者です、ごめんなさい。

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