アメリカ、PMCステラ航空隊基地。
ブリーフィングルームに、ソレイユのアニマは集められていた。
「まず改めて、ステラ社社長のセイイチ=ミキだ。空ではアルナスルと呼んでくれ」
椅子が並べられ、そこに座るスタッフたち。その前で、ジェーンを傍らに控えさせてセイイチは名乗る。続いたのは、黒髪の少女ジェーン。
「ついさっきも話したアニマはいるけど、あたしはジェーン。よろしくねー!」
両手をぶんぶんと振り回す、変わらずのオーバーアクション。彼女の強烈な馬力には誰もついていこうとはせず、しんとした静寂が広がる。
「それから、うちのアニマのトムキャットだが……検査中だ。挨拶は各自で済ませてほしい。こっちも話を先に進めたい」
セイイチが指示を出すと、ステラのスタッフの一人が部屋の照明を落とした。
暫し暗闇が辺りを包み、続いて部屋の壁に掛かっていたスクリーンが輝いた。
「まずソレイユについてだが、君たちが居たロシア航空基地は完全に使えなくなったと見ていい」
彼の言葉に合わせて、恐らくソレイユ基地へ突入したであろうステラ社オペレーターのヘッドギアカメラの映像がプロジェクターに流される。
電力が復旧しているが、やはりスタッフは誰一人生存していないようだった。
そこでビゲンが挙手する。
「なぜ、何のために、誰がソレイユを皆殺しに?」
彼女は噛み潰すようにして問う。家を焼かれ、家族を殺されたのと何も変わらない。ビゲンたちにとっては、何よりも重要な事だった。
セイイチは悩む素振りもなく、語った。
「内部だ。さっきアニマたちには軽く話したが、あの会社が外から襲われるとは考えにくいし、やり口的にクーデターの可能性が高い」
「何のためにクーデターなんて起こすんです?」
クフィルが問う。膝の上に置いていた手を、力強く握った。
「どうして皆殺しになんてする必要があったんですか?」
ソレイユ社ロシア航空基地から来た数少ない生き残りとなったスタッフたちは、揃って顔を伏せる。クフィルの言葉には、どこか必死さがあった。
「細かい原因については調査中だ。今はすまないが、それしか言えない」
対したセイイチは、申し訳なさそうに小さく頭を下げる。
プロジェクターは映像を切り替え、一度スクリーンに空白を映した。
「おとと! スライド間違っちゃったよ!」
ジェーンがプロジェクターに繋がったノートパソコンを操作するためにアニマたちの横をぱたぱたと走っていく。
その姿をルフィナが追う。彼女の目は、どこか訝しむようにジェーンを見ていた。
□
それから数時間が経過した。
結果として、ソレイユ社ロシア航空基地所属スタッフおよびアニマ、航空機はステラ社に指揮系統が委譲される事となったこと。事件に巻き込まれることのなかったソレイユ社社長もまた、今回の事件について哀悼すると共に、セイイチの提案を呑んだことがブリーフィングルーム内で説明がなされ、解散となった。
アニマには休み無く、クフィルがシミュレーターを利用した飛行訓練を行う。
〈用意はいいか、クフィル〉
シミュレーター内に、担当のエイベルの声が反響した。すぐに応答し、ダイレクトリンク。
作戦内容は、ソレイユ製アニマを指す機動データ『ANM-S』を使用する、Su-35SKの撃退。ルフィナとの、実質敵対シミュレーションだった。
疑問が湧く。なぜこんなシミュレーションを? 思うと、問わずにはいられなかった。
「どうしてSu-35SKを敵として戦わなければならないのですか? ソレイユ02から、アミュレットへ返答を求めます」
アナウンサーのように明瞭で、かつハッキリとした語調。クフィルの問いに、ルフィナが人形遣いと呼んだ『アミュレット』――エイベルはすぐに答えを返した。
〈DACTだよ。だけど、アイツの機体はボロボロだし、それにアイツに振り回されるだけっていうのも非効率だ〉
確かにルフィナを変えた方が早い、とエイベルは告げながらも、それでもと続けた。
〈お前たちにもルフィナについていく力が必要なんだ。理解してくれ〉
懇願にも似た話だった。シミュレーター内のクフィルは暫し悩む。だが、拒否する理由もなかった。
レーダーに映し出されたエネミー表示のSu-35SKへ、機体を前進させる。
見えてくる機影は何処かクフィルには大きく見えた。毎回機体を損傷させるソレイユの金食い虫と言われたルフィナ。
だが、それは転じて『ドーターの限界を常に最大まで引き出してくる』ということに他ならない。
「ソレイユ02、エンゲイジッ!」
眼前に迫ったSu-35SKが急激に角度を変え、上昇する。クフィルも後に続くが、パワーがあまりにも違った。
ガタガタと軋み、揺れる機体。それでも前方のSu-35SKは離れていこうとする。
ふと、クフィルの脳裏にルフィナの機動の癖がよぎった。
(急上昇。そこからの急降下――!)
一瞬の判断で機体を逃がすと、次の瞬間にはSu-35SKがクルビットと共に転進し、クフィルのテールに食らい付いてきた。
左右に逃れながら、放たれる機銃弾をかわす。凄まじい反応速度だった。ルフィナの単なるデータコピーでありながら、クフィルを追って痛め付けようとする。
「フッ……!」
ドッグファイトで前を飛んでいては不利。クフィルは左右に逃れるタイミングで一気に右へ機体を方向転換させ、急激にブレーキを掛ける。
空中を滑るように飛んだドータークフィルは、その前方にオーバーシュートさせたSu-35SKを捉え、DEFA-552機関銃で撃ち抜いた。
ドッグファイトの決着はいつも一瞬。黒煙を上げながら飛んでいくSu-35SKを視界に捉え、残心。
機体は最後の抵抗とばかりに甲高い雄叫びをあげ、クルビットでクフィルへ機種を向けた。
「ルフィナ……!」
ミサイルロックオン完了、あとはレリーズすればいい。それでクフィルのシミュレーションは成績良しに終わる。
だが、向こうにルフィナがいると思うと、彼女はミサイルを撃つのを躊躇った。
反対にミサイルアラートが鳴り響き、一瞬の後に画面が暗転する。
「ん……」
シミュレーション終了でクフィルは疲れ気味に頭を押さえた。
〈どうして撃たなかった?〉
「撃てませんでした……躊躇ってしまったんです」
シミュレーターが開く。施設に回った空調が、クフィルの身体に涼しい風をやさしく運んだ。
シミュレーション終了。エイベルは情報をまとめるためにクフィルを退室させ、彼女はそれに従った。
ステラ社を歩いていると、トムキャットの姿が見えた。何をしているのか、セーラー服めいた私服の脇に日本刀を差して、ベンチに立てた空き缶を睨んでいる。
「てやぁっ!」
威勢の良い掛け声と共に抜刀。居合い抜きされた刃は空き缶を切り飛ばし、トムキャットは満足げに納刀する。
クフィルが声をかけたのは、そのあとだった。
「何をしているんですか?」
トムキャットの出で立ちに、クフィルは折れんばかりに首をかしげつつ。
「そんな、刀なんて持ち出して」
脇に差した立派な日本刀を視線で示しつつ問うと、トムキャットは軽く笑いながら語る。
「鍛練だよ。セイイチは日本とも繋がりがあると聞いたから、もしかしたら日本のサムライと一太刀交えるかもしれないだろう?」
「……は?」
全く意味がわからなかった。日本に行ったことはないクフィルでも、侍など居ないことはビゲンが教えてくれている。
しかしトムキャットの目はきらきらと輝いていて。そこに水を差すのは憚られた。
「セイイチがいつか日本に連れていってくれる。日本のアニマにも会えるし、サムライにもニンジャにも……あ、そうだ! クフィルも一緒に、スシを食べよう!」
「それは魅力的な提案ですね、トムキャット」
サムライだとかニンジャだとか、そういったものよりクフィルは寿司に反応した。やはり本場の寿司は食してみたいものだと、ソレイユの食堂で刺身を目にする度思っていた。
日本人スタッフいわく、本場より味は落ちていたらしかったから、余計にその提案は魅力的だった。
「必ず、お寿司をいただきましょう」
「ああ、必ず。共に百人斬りを達成しよう」
「それは捕まりますよ」
比較的、クフィルとトムキャットの関係性は悪くなかった。
むしろ目的が違えど、日本に憧れるものとしては変わらないのかもしれない。
□
「やあ、ルフィナ。また来たんだね」
ジェーンが目を細め、再びの訪問者を迎えた。
「アンタ、本当に人間か?」
唐突で、そしてあまりに前触れの無い質問。ジェーンは少し呆気に取られてから、すぐにいつもの柔らかな笑みを取り戻す。
「何言ってるんだよ。あたしは人間だよ、人間。もー、イタズラとかそういうのはあたしの本分なんだよ?」
「……そっか。悪い、忘れてくれ。アタシはドーター見てくるから」
訊ねるだけを訊ねて、ルフィナはあっさりと引いた。ドーターが駐機するハンガーへ歩いていくルフィナの後ろ姿を眺め、ジェーンはその表情に小さな陰を落とした。
だいぶ間が空いてしまいましたゆえ……。
またゆっくり書いていきますよ。
早く12巻読みたいんだけどなぁ。