また今日もステラ社は外部の人間たちにより騒々しさに包まれていた。
それでも、ザイによる脅威が近付いているとなれば作戦を放棄するわけにはいかなかった。
日本を最終防衛ラインに押し留められているザイではあるが、大規模な前線基地構築により小松航空自衛隊基地に本拠を置く独立混成飛行隊、通称『独飛』から、友好関係にあるステラ社社長直通で攻撃参加依頼が舞い込んだ。
Su-35SK-ANMもようやく修復されたが、前線基地攻略のために一度実機訓練が必要という話になり、まずはシュペルエタンダールの対地攻撃観測のため、ルフィナも空に上がることになった。
「よりにもよって言葉通じないとか、有り得ねーだろ」
ドーターのコックピットに背中を預け、カメラ越しに映る少々小型の単発機を眺める。
垂直尾翼の根元あたりに直接据えられた水平尾翼が上下に動いていた。
『Ne t'inquiète pas. En regardant l'indicateur(心配しないで。インジケータの確認を)』
声の無いメッセージがSu-35SK-ANMのLCDに届いた。アニマ当人は首を捻る。なにしろ全く理解できないのだ。仕方なく機体経由で無理矢理メッセージを翻訳させる。
アニマ当人は理解できないが、それを受け取る機体は文字を理解できているのだから、ニュアンスくらいはつかむのに充分だった。
(ったく、次はエイベルにフランス語でもインストールしてもらえねーかな)
心中でごちりつつタキシング開始。動翼良好、エンジンの調子もいい。ソレイユでの整備以上と言えなくないほどに、よく回る。
マリーヌ・ディヴェールの濃い紫に輝くシュペルエタンダール-ANMは排気炎と共に蒼天の空へ舞い上がっていく。
「よっしゃ! ソレイユ01、いくぞ!」
久しぶりの空、自らの帰る場所。それを目の前にしてルフィナの心は激しく昂っていた。エンジンも甲高い音を上げ、回転数を上げる。
ブレーキを外すと、ドーターは勢いよく加速し地面から離れていった。空。白い雲の少ない、快晴とも言える空はルフィナの帰りを歓迎するようだった。
自然と笑みがこぼれる。笑いがもれる。それを聞いてか、シュペルエタンダールは機体をロールさせて、あえてSu-35SK-ANMの横へドーターを並べる。
彼女も事情は知っているらしく、刹那にメッセージがルフィナへ送られた。
『
ただ、それだけのメッセージ。だが受け取ったルフィナには、とても大きな意味のあるメッセージだった。
自分を歓迎してくれるのは空だと。並んで飛ぶシュペルエタンダールも、そう言っているようだった。
「よし、やるか!」
一気にやる気が湧いてきた。まるでエネルギーの塊。声を張り上げると、シュペルエタンダール-ANMは機体を左右に振った。
準備はいいぞ、とでも言いたげだった。
〈こちらソレイユのアミュレットだ。いいか、ステラ02にソレイユ01。もうじき、ダミーの爆撃目標が見えてくる。ソレイユ01は現地観測を頼む、テンション高いのはわかるが、遊ぶなよ〉
アミュレット――エイベルの声がルフィナに釘を刺した。図星だったのか、彼女は小さく唸る。
機体サイズもパワーも上のSu-35SK-ANMでシュペルエタンダールの後をゆっくりと追う。少し前のルフィナなら、すぐに放棄していたかもしれない。
「来たか」
今はただ、指示に従う。そうした方が良いと今更ながらに気付いた。
コックピット内の全周囲カメラに、シュペルエタンダールからの情報が次々に送られてくる。攻撃予定目標、座標、使用武装、
『Point cible atteint. Début d'attaque(目標地点到達。攻撃開始)』
シュペルエタンダールからのメッセージからすぐに、翼下パイロンの爆弾が切り離された。
投下地点を見逃さないよう、ルフィナは機体を旋回させて待機する。
安定軌道で投下された爆弾は目標地点へ真っ直ぐに落ちて、すぐに爆炎を上げた。
「こっちは命中確認。もう一発やるか?」
機体を旋回させながら、ルフィナはエイベルへと連絡を取る。
〈そうだな、もう一発――〉
ふと、エイベルが言葉を切った。シュペルエタンダール-ANMが、ステラ飛行場一部の爆撃訓練空域から離れ、社屋へ向けて飛行を始めていた。
〈ソレイユ01、まだRTBには早い筈だ。止めてくれ〉
「やってみるよ」
エイベルへ返し、すぐさまシュペルエタンダールへ呼び掛ける。しかし返ってきたのは、さっぱり会話にならないメッセージの一つだけ。
『Fermez vos oreilles maintenant(今すぐに耳を塞いで)』
ルフィナの前方を飛んでいたシュペルエタンダール-ANMはわずかに機首を下げた。
その更に前方では、集団が何かの言い争いをしている。白衣の男はジェーンとトムキャットを指し、なにかを叫んでいたが、ドーターが訓練空域からこちらへ向かっていると気付いてか、慌ててしゃがむ。
セイイチ、ジェーン、トムキャットも耳を塞ぎ、姿勢を低く取る。戦闘機のエンジン音など、間近で聴いてしまえば聴力は瞬く間に奪われる。
「おい、よせシュペルエタンダール! 戦闘機の音で人間がどうなるか分かるだろ!?」
『Pourtant, je dois l'arrêter. Ils doivent arrêter de faire ça(それでも、止めなきゃいけない。彼らはこうしなきゃ止まらない)』
シュペルエタンダール-ANMが、Su-35SK-ANMからわずかに離れていく。追うのは簡単だ。パワーも何もかも、フランスの単発機に負けるような機体ではない。
しかし人がいる真上でドッグファイトなど、行うわけには当然いかない。流石に、シュペルエタンダールが機体を人だかりに突っ込ませるとは思えなかったが、人の真上を通過する事態は、どちらにせよ避けねばならなかった。
「クッソ! ムリだッ!」
彼女を止めに入るには、あまりにリスキーで時間が無さすぎた。ルフィナは慌てて機首を引き上げ、人体に極力影響がでない高度を目指して上昇を開始。ついで、シュペルエタンダール-ANMもまた急上昇を始めていた。
エアショーなどとは言えない近距離飛行。シュペルエタンダールへ、ルフィナの叱責が飛んだ。
「テメー、なに考えてる!? あそこにゃアンタの仲間も社長も居ただろ!?」
応答は無く、機体はアプローチに向けて方向を変えていた。
なんなんだ、アイツは。
呆れながらもルフィナは静かに毒づいた。
間も無く着陸する。騒ぎにはなったが、許可も出ている。ゆっくりとランディングアプローチするシュペルエタンダール-ANMのテールを睨むルフィナへ、一通のメッセージが送られた。
『Rhino ne le quitte pas. Je ne peux pas vous laisser prendre une famille importante(ライノは渡さない。大事な家族を連れてはいかせない)』
単なるメッセージに過ぎないもの。しかし、ルフィナはそこから尋常ではないほどの、執念のような物を感じ取った。
知らない名前も出てきていた。機体をタッチダウンさせながら、ルフィナは小さく首をかしげた。
「ライノって、なんなんだ?」
ライノという単語だけは唯一、フランス語に訳されていない。つまりサイではなく、固有の名詞なのかと彼女は考える。
ダイレクトリンクの解けたシュペルエタンダールを眺めるルフィナの心に、より深い疑問が植え付けられる。
大規模作戦で日本へ行く前に、より大きな問題が待っている。ルフィナにはそんな気がしてならなかった。
ツイッターにシュペルエタンダールちゃんのイメージがございまする。
結構可愛くできてます(
例のあれはもっと引っ張って驚かせるつもりが少なからずあったんですが、半分バレバレだし少し予定を早めました。