ガーリー・エアフォース-カラフルアロウズ-   作:鞍月しめじ

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ALT.21『問題児の正体』

 小松で飛行機に乗り込んだソレイユ隊は、独飛メンバーらと共に厚木基地へ降り立つ。

 接続されたタラップの下で、迷彩服の米兵たちが睨みを利かせている。気分良く旅行、とは行かないようだった。

 そして、白衣を着た痩せぎすの男と共にルフィナたちには見慣れたサファイアブルーの輝きが近付いてくる。

 真っ先に駆け出したのはシュペルエタンダール。米兵が止めようとしたのを、白衣の男が手を上げて抑えた。

 

「久しぶり、シュペル」

 

 何度も聞いた声、何度も見た笑顔。シュペルエタンダールは小さく頷いて、だが身に付けるバッジにステラ社のサジタリウスが無い事に気付いて、下を向く。

 

「久しぶりだな、ライノ。上手くやってるか?」

 

 ふて腐れぎみなシュペルエタンダールを優しく引っ張りつつ、ルフィナはライノへ訊ねた。

 彼女は笑顔で答える。

 

「勿論。選択はまちがってなかったよ!」

 

 トムキャットだけは、その表情に違和感を抱くが、隣の研究者が離れない限りはまずいと、そこにはまだ触れない事にする。

 研究者は飛行機から降りてきたメンバーを見回して、頭を下げた。

 

「わざわざすまない。き、来てくれて光栄だ。私はDARPAのウィリアム・シャンケル、宜しく頼む。そ、それから貴様もな」

 

 シャンケルの視線は八代通へ向いたが、当の八代通は軽く手を振り上げただけで応えた。

 どうやら良好な仲とは言えないらしい。

 

「じゃ、改めてあたしも。米海軍、太平洋艦隊所属、F/A-18E-ANMライノだよ! 宜しくねー!」

 

 眩しいばかりの笑顔と共に、芝居がかった敬礼。ステラに居た頃の空気とは似たようで、少し違っていた。

 

「まだ打ち合わせには少し、じ、準備があってね……。もう少し待ってもらうことになる。ライノ、任せたぞ」

「ラジャー! みんな、ついてきてー!」

 

 シャンケルとは別な方向へと皆を誘導するライノ。

 ファントムは怪訝そうにシャンケルの背中を眺めつつ、静かに笑みを浮かべる。冷たく、全てを見下すような笑みだった。

 

 □

 

 カフェテリアに案内されたメンバーは、それぞれベンチに腰を下ろす。

 八代通は途中、シャンケルの部下に呼ばれ居なくなってしまった。

 それぞれがソフトドリンクやエナジードリンクを買って飲む中、ライノは鼻唄交じりにコーラに口をつける。

 

「ライノ」

 

 ふと、傍らに座っていたトムキャットがライノの顔をまっすぐに見つめ訊ねる。

 

「君は、一体ここで何をされた? まるで笑顔の仮面だぞ」

 

 コーラを飲んでいたライノの視線が、トムキャットへ向けられる。

 不穏な空気が走り抜け、トムキャットの視線はよりきつくなる。

 

「何にもされてないってば! センパイも大袈裟だねぇ」

「じゃあその笑顔はなんだ!? シュペルエタンダールを部屋から出した時のお前とは違う。あのウィリアムとかいう男かい?」

「何が?」

「君を変えたのが、だ」

 

 ライノは少しあきれたようにかぶりを振りつつ、「そんなんじゃないよ」と笑って返す。

 やはり、笑って返した。トムキャットの疑念は余計に膨らむばかりだ。

 そんな中、持ち込んでいたソレイユの端末が通信を知らせる。また、ルフィナにだけだった。

 

「出てはいかがです?」

 

 ファントムに言われ、通信画面を見るとやはり航空機無線の周波数だけが表示されている。

 嫌な予感に押し潰されかけながら、ルフィナが通信開始をタップ。同時に厚木飛行場が一気に騒がしくなった。まるでルフィナが何かのスイッチを押したかのように、突然。

 

『お姉さま! 出てくれないかと思いました!』

「お、おう……。小松着いたんだろ? 今は何してる?」

 

 相手は勿論ファルクラム。彼女は『コマツ?』とおうむ返しに訊ね、小首をかしげる。

 

『フナトっていう整備員から、皆はアツギにいるっていうからアツギに来ちゃいました!』

「ハァァァァ!?」

 

 この騒ぎの原因は、やはりファルクラム。悲鳴にも似たルフィナの叫びがカフェテリアに響き渡った。

 

「おま、オマエは一日に何回領空侵犯する気だ!?」

『えー!? 日本じゃないですか!!』

「横田空域だ! そこは米軍が管制を行ってる、日本の旅客機だって迂回する空域だぞ!」

『よ、ヨコタクーイキ? うわわ! なんか怒られてる!』

「早く引き返せバカッ!」

『やーです! 強行着陸します!』

「バカッ! やめろ!」

 

 通信終了。ルフィナは魂が抜けたかのように、ぐったりとしてしまった。

 シュペルエタンダールが優しく彼女の背中を撫でるが、もはや手遅れに近かった。

 

「アタシら、追い出されねーかな」

「まあ、追い出されたとしたら私たちから情報は共有致しますよ。それにしても、騒々しい妹さんですね?」

「まだ実際会ってすらいねーけどな。それより……」

 

 ファントムと共に、ライノへ視線を向ける。

 やはり彼女はどこか違ってしまっている。データ抹消等はされていないようだが、雰囲気に自身の感情を感じられない。

 セイイチたちが恐れていた事が彼女に起きたのか、シュペルエタンダールが買ってきたフライドポテトをライノに食べさせる姿を眺めつつ、ルフィナは一時的にファルクラムの存在を忘れた。

 

 かと思った次の瞬間だった。

 

「おっねえさまー!!」

「ぐっえ!?」

 

 ルフィナを吹き飛ばす勢いで、藤色の光が彼女に飛び付いた。

 押し倒した体勢のまま、端末越しにしか見たことのなかったファルクラムがルフィナを真っ直ぐに見下ろしている。

 ふわふわとしたショートツインテール、黒のパーカーにヘソ出しのインナー、ショートパンツとニーハイソックスは少し過激な印象を与える。

 

「オマエ……なんで……」

「シャンケルって人が、出してくれたんです! 帰りの燃料も保証してくれるって!」

「そうか……お前らも次の任務には参加するんだもんな……。取り敢えず、下りてくれよ」

「やーです! やっとお姉さまの匂いを直に……」

 

 すっと、ルフィナの首筋に顔を寄せるファルクラム。

 身体をわななかせながら、全力で首を振るルフィナ。流石のクフィルやビゲンも、こんな彼女を見たことはなかった。

 

「やっ! やめろォッ! てかオマエ、マジで何しに来たんだァ! ……ンンッ!」

「フフッ、可愛い声ですよーお姉さまー。あ、目的ですか? 勿論、お姉さまに会うためです。作戦の打ち合わせはついでですよ」

 

 びくびくと身体を強張らせるルフィナに、ファルクラムが艶っぽい笑みを浮かべる。

 ただ、時間は時間だった。ビゲンに半ば強引に引き剥がされ、慧に助け起こされるルフィナ。

 

「また時間が出来たら続きをー!」

「イヤだッ! 絶対にイヤだからなッ!」

 

 慧たちに保護される形でシャンケルに呼ばれ、ブリーフィングルームに向かうメンバー。

 ファルクラムという新たなアニマを増やし、打ち合わせへ向かう。

 問題があるとすれば、ライノとルフィナのオーバーヒートしかけた頭だった。

 

 □

 

「こ、これは……説明を始めても大丈夫なのかな?」

 

 飛び掛かろうとするファルクラム、怯えるルフィナ。二人を見てシャンケルは打ち合わせを始めるタイミングを図りかねていた。

 

「構わん、あとで俺からも情報を共有する。さっさと始めてくれ」

 

 八代通がぶっきらぼうに言うと、シャンケルは少々気分悪そうに眉を潜めつつ、スライドを指した。

 その間にファルクラムは素早くルフィナの横へ移動、パイプ椅子を半分使って彼女の腕にしがみつく。

 

「我々が観測した、ザイの前線基地だ。全長は15キロほど、かなり広大な基地だな」

 

 ルフィナが近くにいるからなのか、ファルクラムは比較的真面目に話を聞いている。自身の足をルフィナの足に絡める以外は。

 

「問題なのはこの先なんだー。UAVが撮影した映像には、何かの発射器が映ってたの」

「まさか……」

 

 慧にはひとつ、覚えがあった。

 海鳥島に作られたザイの前線基地。そこで使われた、敵味方無視の空間制圧兵器である地対空クラスター弾。

 

「あれがあるのか……」

「可能性は高そう」

 

 慧の考えに、グリペンが静かに同意した。

「さらに」とシャンケルがスライドを切り替えた。

 

「ここに塔のようなものが見えるかね? が、画像測定の結果では……こ、この塔が前線基地で一番高いものになる」

「問題はその塔が何か、ですが。単なるオブジェを彼らは作りませんよね?」

 

 ファントムの疑問に、シャンケルは頷いてから答える。

 

「これは、先行して前線基地に飛んだパイロットが、最後に見た光景だ。命を懸けて、か、彼らは情報を遺してくれた」

 

 次いで再生された動画はパイロットの視界カメラ。

 

〈What is that tower?(あの塔は一体なんだ?)〉

 

 視界にはっきりと、ガラスで出来た垂直の塔が映し出されている。

 瞬間、空が光った。編隊僚機が爆発四散する。

 

〈Griffon02! Damn! What happened!?(グリフォン02! クソッ! 一体何が起きた!?)〉

 

 再び空が瞬く。次はカメラ機の背後の機体が吹き飛んだ。

 

〈Damn it! This is not the cluster bullet that was supposed!(畜生ッ! これは想定されていたクラスター弾とは別物だ!)〉

 

 叫ぶパイロット。刹那、塔が光る。

 青い稲妻を帯びた光線が、真っ直ぐに左側を飛んでいた僚機を捉え、突き抜けた。

 破片にすらならずに落ちていく火の玉を眺め、パイロットは絶望ぎみに呟いた。

 

〈I've had enough of it ..... it's enough!(もうゴメンだ……もう沢山だッ!)〉

 

 だが、彼は最後のレーザーがチャージされる瞬間、己の任務を思い出したように呟いた。

 

〈It's a laser weapon. Beware of laser weapons. I asked for the rest……(レーザー兵器だ。レーザー兵器に注意しろ。あとは頼んだぞ……)〉

 

 閃光がカメラを覆い、刹那映像は途切れた。

 なんとも言いがたい空気が一同にのし掛かる。

 

「つ、つまり、あの塔は航空機を狙うレーザー兵器の塔だ。あれも破壊しなければ、接近すらこ、困難だろう……。空間制圧兵器を二つも用意されては……」

「では、シュペルエタンダールにFAEBでも装備させるかい? 一瞬で発射器だけは潰す、そうすれば、あとはレーザーだけになる」

「駄目だ、レーザーの加害範囲が分かっていない……。あ、足元が平気なら問題ないが……」

 

 シュペルエタンダールがトムキャットを振り返りつつ、だがトムキャットの案はシャンケルに否定された。

 

「それよりも、空中空母型ザイはどうした。ザイ前線基地の破壊、さらに上がってきたインターセプトの相手、そして空母型。いくら俺達にアニマの味方が大勢居てくれているとはいえ、基地だけであの防衛力だ。到底足りんだろう」

 

 八代通の意見に、全員がため息をつく。事実、敵は基地だけではないのだ。

 すると、相変わらずルフィナに絡み付いていたファルクラムが手を上げる。

 

「レーザーの加害範囲が知りたいんですよね? 私が調べてきますよ、お姉さまと一緒に」

「おい、テメー! 勝手に……まあ、いいか。どの程度飛べるか見てやるよ」

「ふふっ! お姉さまを危ない目には遇わせませんよ」

 

 ファルクラムの案を、だがシャンケルが声を張り上げて制止しようとした。

 

「き、危険すぎる! クラスターミサイルの存在も排除できた訳じゃないんだ! そ、そこにたった二機で乗り込むなんて、死ぬ気としか思えない!」

「そうですね。確かに、普通の二機なら死ぬ気でしょう。ですが……」

 

 ファントムの視線がちらりとルフィナたちへ向けられた。

 

「彼女の噂を調べました。ロシアに発生したザイ前線基地に単機で突入、壊滅的被害を与えた後、空爆により破壊。これが事実なら、前線基地を偵察するアニマとして最高のメンバーはいません」

「ファルクラム次第だけどな」

「私は大丈夫ですー! お姉さまパワーさえあればー! んー!」

 

 キスをせがむファルクラムの顔を押し退けつつ、ルフィナはザイ前線基地偵察という大任を引き受けた。

 何度もシャンケルからは自殺行為だと言われたが、それでも誰かが解明すれば作戦も立てやすくなる。

 八代通からは特に止められることはなかった。

 

 □

 

 空中空母型に関しては、まず基地攻略によって補給を断つ事を前提に情報をそれぞれの部隊に共有する事で終わりとなった。

 

「じゃあお姉さま! コマツでお会いしましょ!」

「アタシは会いたくないけどな……」

「大丈夫です! お姉さまの乗る飛行機には鳥一匹近付けさせませんから!」

 

 ルフィナの肩をクフィルが同情ぎみに叩く。

 

「大変ですね、ルフィナ」

「ああ……」

 

 次の瞬間、目を剥いて激情を露にしたファルクラムが、ルフィナに乗せられたクフィルの手を払い落とす。

 

「お姉さまに気安く触んな」

「おい、ファルクラム!」

 

 ルフィナの反応も気にせず、ファルクラムはドーターに乗り込んでいった。

 他のメンバーも飛行機に乗り込み、厚木基地を飛び立つ。

 

 □

 

「お姉さまはどうしてあんなに心が広いの。私だったら絶対に許せない」

 

 離陸前に、ファルクラムは親指の爪を噛む。クフィル。あの赤い髪が頭から離れない。

 ダイレクトリンクが中途半端なまま、管制塔に急かされる。

 

「Shut up! Don't disturb!(黙ってろ! 邪魔をするな!)」

 

 怒鳴り散らしてダイレクトリンク再開、やや乱暴ぎみにスロットルを開き、離陸していく。

 その機動は荒く、彼女の荒んだ気性をそのまま表したように鋭敏だった。




ツイッターにファルクラムちゃんのイメージ、用意してあります(

ヤンデレというか、もはやメンヘラなのでは……??
ファルクラムちゃんはこのくらいやべーやつです。ソレイユ、なんでこんな風にしちゃったんでしょう。
早々にブレーキ役の到着を望むばかりであります。

次回も宜しくお願いします!

ツイッターに載せていたファルクラムちゃんのイメージはこちら↓

【挿絵表示】

カスタムキャスト使用。
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