たった二機で、ザイ前線基地の偵察に赴くとあって、PMCからやってきたアニマたちは揃って不安な顔を見せていた。
離陸するSu-35SK-ANMをじっと見守る仲間たち。すぐにそれを遮るようにMiG-35-ANMが並んだ。
〈いきますよ、お姉さま〉
どこか不機嫌なファルクラムの声が響く。先日クフィルに見せた冷たさすら感じさせた。
「コールサインは」
〈ソレイユ06です〉
「了解06。ソレイユ01、離陸する」
アフターバーナーの炎を軌跡として残しながら、スカイグレイのドーターは空へ上がっていく。
次いでMiG-35-ANMも離陸。ギアが地面から離れるとすぐにギアアップし、Su-35SK-ANMに追従するようにピッチアップした。
小松基地で自分達を見上げるアニマたちをフライパスし、二機は一路、目的地へと向かっていく。
□
〈ふむー……〉
「なんだよ、ソレイユ06」
飛行開始から数十分。まだ前線基地までは遠く、辺りは見渡す限りの海だ。
ルフィナに届くのは、息の荒いファルクラムの交信だけ。むしろなぜ回線を開けているのか気になって仕方ないが、それよりも今のファルクラムの状態だ。
Su-35SK-ANMに寄り添うように飛ぶMiG-35-ANMは、ゆらゆらと舞う。危なっかしくも、しっかりぶつからないように飛んでいた。
〈いえ、今お姉さまと空を飛んでるんだなって思ったら身体が熱くなってきて……〉
「なに言ってんだ、お前」
憮然とした表情で一蹴するルフィナ。
〈だって、あんなに憧れたお姉さまと一緒に空を飛べるなんて……んん、あっ――〉
ブツン。
半ば強引にルフィナが回線を閉じた。危ない予感がした。巻き込まれると大変な事になりそうな、そんな予感が。
〈酷いです! 無線封止しようとするなんて!〉
「むしろなんで封止を抉じ開けられたんだよ、オマエ……」
背中に寒い何かを感じながら、ルフィナは今、目的地だけを見つめて飛んでいる。
そうしないと、ファルクラムのペースに呑まれれば、大変な事になりそうだと。
ルフィナが考えるのも束の間、異形の建築物が視界に入った。緩みかけていた気が、一気に引き締まる。
〈ソレイユ06、ザイ前線基地までの距離を計測しろ。アタシも測る〉
「了解です、お姉さま」
鼻唄交じりにHUDの表示を切り替えるファルクラム。既に視界には米軍機を食い散らかしたレーザー塔が映っている。
「ふふっ。おっきぃ……」
前方を飛ぶSu-35SK-ANMのテールを眺め、彼女はまた艶っぽく舌を舐めずる。
レーザー攻撃範囲はまだだ。まだ近づけそうだと、そう思った刹那に空が光る。
〈まずい! ブレイクブレイクッ!〉
ルフィナの指示で二機は直ぐ様その場を離れた。次の瞬間、青い光が縦に薙ぎ払われる。
危うく攻撃範囲から逃れ、更に距離を詰める。
〈攻撃開始範囲、基地から約10キロ。上下への回避は危険。ファルクラム、お前もレポート頼む〉
「はい、お姉さま」
ファルクラムはルフィナに言われた通り、データを作成。保存する。
レーザーを回避しながら、なおもデータを収集していく二機。インターセプトのザイをかわし、今度はレーザー塔が放つレーザーの角度限界を調べる。
塔の近くは危険だが、下を狙えないならば待避エリアにもなりうる。今回はそのチェックも含めていた。
「ソレイユ06、花火の中に突っ込むぞッ!」
「はいッ!」
二機のエンジンが共鳴し、ノズルが開く。アフターバーナーの軌跡を残し、二機は基地へ向けて増速した。
響くアラート音、二人のアニマは揃った動きでその正体を確認する。
「地対空クラスターミサイル! 来るぞ!」
〈安全高度不明、地面に向けて飛びます? お姉さま〉
「もうすぐ塔だ、攻撃可能範囲を確認したら引き返すぞッ!」
〈ラージャー!〉
コックピットにレーザー塔の攻撃予測を表示、一気にMiG-35-ANMと共に高度を下げて塔の根元に飛び込んだ。
レーダーが赤く染まる。だが、根元は狙えないようだった。レーザー発射装置自体に可動範囲は無い。あるのは回転のみと理解した。
あたかも二機を見失ったようにレーザーを放ったザイのレーザー塔は、ルフィナたちによってその安全圏を見破られる。
〈お姉さま! ミサイルがッ!〉
「ザイ放って逃げるしかねー! 奴等は深追いはしないからな!」
クラスターミサイルの衝撃波が激しく双方の機体を揺らす。
「キャア!?」
〈食らったか!? 06!〉
「い、いえ……。揺れに驚いて……」
ルフィナが横に並ぶMiG-35-ANMを眺めるが、傷は見あたらない。
ザイも敵性反応が遠く離れたからか、再び基地防衛へと引き返していった。
レーザー塔の攻撃開始範囲も越えた。あとは小松に帰るだけだ。
夕日に染まる海の上、その遥か高くを飛ぶ二機のドーター。カメラが夕日を取り込んで、ファルクラムの表情に哀愁めいた影が浮かぶ。
「お姉さま」
〈なんだ?〉
「これだけは本当です。私はずっと、この身体を得る前からずっと……私に勝ったSu-35という機体を気にしていました」
ファルクラムが語り出したのは、ロシアにおけるMiG-35とSu-35の採用状況についてだった。
現状、MiG-35スーパーファルクラムはロシア空軍においてごく少数の納入しか無く、空軍自体もSu-35Sスーパーフランカーに興味が寄っているという。
彼女はまず、そこから切り出していた。しかし、次に紡いだ言葉は勝ち負けや憎しみなどではなかった。
「それからずっと、そのSu-35Sを原型にしたアニマを調べ続けていたんです。機体の勝ち負けから、気付けばアニマとして……人の身体を得たものとして、貴女を気にしていました」
〈……ファルクラム〉
「女の子同士なのに、なんていう常識はありません。私は人間と同じように、Su-35SK-ANMフランカー、ルフィナを愛しています」
寄り添うように飛ぶSu-35SK-ANMに視線を向けるファルクラム。夕日を背負ったその機影は、いつもよりずっと幻想的で、儚く見えた。
「MiG-29SMT-ANMのものとは違う。私は必ず、あなたを守り抜く。あなたが許してくれるまで、アプローチを続けます」
〈……〉
「私には、あなたしか要らないんです。ごめんなさい、今の話は私らしくないですけど……心に留めてください。ルフィナお姉さま」
交信が終了する。静かな帰還。ルフィナはファルクラムの語調が、ふざけたものとは到底考えていなかった。
きっと彼女の本心なのだと。しかし、周囲に見せる冷酷さにはきっと何かあるとも感じる。
小松基地にランディングアプローチしながら、ルフィナは暫くファルクラムの声が頭から離れることが無かった。
機体を降りて、ファルクラムはルフィナの前へ躍り出る。
身体を前のめりに、手は後ろ手に組んでルフィナを見上げた。
「私、絶対に諦めませんからね!」
「でも、アタシは……」
「やーです。その先は聞きません。じゃあ、先に検査行ってますね」
くるりと軽やかにターンして去っていったファルクラムを、ルフィナはどこか呆けた頭で見送っていた。
良く分からない。だが、ルフィナはファルクラムの想いには応えられない。それでも彼女は諦めないのか。
ゆっくり歩き出したルフィナ。すっかり暗くなった小松基地には、少し冷えた風が吹き抜けていた。
彼女の表情は複雑で、憂いを少し帯びていた。
まあ、お察しの通りです。
エクスキャリバーです。
いや、ばらしちゃダメじゃん!とは思うんだけど、ね?(
間もなくレーベンやヴィゴラスたちも到着し、いよいよ攻略作戦が始まります。
次回もまた、よろしくお願いいたします!