ガーリー・エアフォース-カラフルアロウズ-   作:鞍月しめじ

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ALT.28『収束』

「準備は出来たのか?」

 

 昼、研究室でアタシはジュラーヴリクにそう声をかけられた。

 予定通り、Su-35SK-ANMフランカーはジュラーヴリクとのリンクに挑む事になった。

 周囲の視線が突き刺さるようだ。見張りをどうやって取り込んだのか、ファルクラムまで試験を見に来ている。

 

「いつでもいい。やるぞ」

 

 アタシは少し、視線を落とす。ジュラーヴリクとの間にはNFIパネルがある。

 まるで足か触手のように伸びる複数の太いケーブルは、研究員の端末に繋がっていて準備も万端のようだった。

 

 ドーターに一緒に乗り込む前に、まず彼女と行うのは『同期』だ。

 いくらフランカー同士でも、その本質は違う。いきなりドーターに乗り込んで問題を起こす前に、軽いテストということらしい。

 

「いいんだな? あたしとはずっと敵だった。その相手に、本当に心の奥底から何から何まで見せても」

 

 くどいくらいにジュラーヴリクはアタシに確かめる。

 ダイレクトリンクしてなくたって、彼女のちょっとした不安は伝わってきた。ジュラーヴリクに繋がるということは、向こうの全てをアタシは知ることになる。

 文字通りに、何もかもを。だけどアタシは彼女の問いを笑い飛ばした。

 

「今更だよ。ここまで来たんだ、敵と手組んで、本当の敵に挑むなんて展開もいいだろ?」

「……そうか、わかった。やるぞ」

 

 彼女の返答は意外にもあっさりとしていた。先程までの、しつこく確かめるような雰囲気はない。

 NFIパネルに手を置いて、正面のアニマに視線を合わせる。ジュラーヴリクも真っ直ぐにアタシを見つめていた。目を逸らすことなく、真っ直ぐに。

 

「ダイレクトリンク」

「収束モード」

 

 目を瞑る。感覚が解ける。クロームオレンジの輝きが、陽光のように走った気がした。

 向こうも同じだろう。アタシにも分かる。ジュラーヴリクが背負う、ロシアに対する忠誠も責務も。

 

(ああ……)

 

 向こうもアタシを見ている。見るがいいさ、アタシの見てきた地獄も、楽しい時間も。

 だからアタシも、ジュラーヴリクの小さな身体にのし掛かる重責を見せてもらう。二人で半分にしよう。

 願いに救い、痛みも恐怖も。何もかも、二人で半分に。ネガティブもポジティブも分け合おう。

 

「う……」

 

 ダイレクトリンクが切れた。目の前でジュラーヴリクが呻いている。

 額を右手で押さえ、肩で息をして。

 

「とんでもねーモン背負って、そして見てきたんだな」

 

 アタシを見る目が、少し揺れていた。直視出来ていないようだった。

 

「ああ。アタシには国はないが、ソレイユの為にアタシは作られたんだからな」

 

 違う。ジュラーヴリクはすぐにかぶり振った。

 

「確かに、ANM-Sとやらもヤバイさ。だけどもっとヤバイのが見えた。ロジックコアに刻まれるほど、トラウマなのか」

 

 ラーストチュカに支えられるジュラーヴリク。彼女は小さく息を吐いた。

 

「ソレイユのクーデター。家族が皆殺しか」

 

 ああ。彼女は『アレ』も見てしまったのか。シールドなんてしないから、当然アタシに刻まれた全てを見るのか。

 

「その為に力が欲しいってんなら、あたしも力になるよ。中佐にも頼んでんだな? なら、あたしも個人的にな」

「ジュラ!? そんな……」

 

 ラーストチュカがこの世の終わりみたいな顔をしている。よほどアタシに寄っていくのがショックらしい。

 

(あれ?)

 

 この状況、上手く使えばラーストチュカとファルクラムで上手いことやれるんじゃないだろうか?

 まだ状況はシリアスだったが、ふとそんな事を考えてしまう。

 

「それにしても、クソ生意気なお前にそういう使命がねぇ」

「だったらそっちの解決も手伝えよ」

「そうしたいが、ちょっとばかしヤバイ匂いもするしな」

 

 ラーストチュカの手を退かしつつ、ジュラーヴリクはこちらへ歩み寄る。

 

「ツラ貸せ、ルフィナ」

 

 アタシの手を取ったジュラーヴリクは、松葉杖を渡しながら言う。

 今更なにをしようというのか。ただ、彼女は他のアニマや人間たちにも付いてこないように言っている。

 流石、信頼はあるのだろう。試験を見守っていたカジンスキーからは30分まで、という条件こそ出たものの、見張り無しでジュラーヴリクと二人きりになる。

 研究室を出て、更に工場を練り歩く。

 

「よし……」

 

 きょろきょろと周囲を見回して、改めてジュラーヴリクは尾行がないかを確かめた。

 ちょっとした休憩所なのか長椅子があって、ジュラーヴリクはアタシにそこへ腰掛けるように言った。

 歩きずくめで少々疲れたところだ、遠慮無く腰掛ける。転ばないように、慎重に。

 

「アニマにアクセスする機能か。お前、もしかしてあの試験さえ必要無かったんじゃねぇか?」

 

 ジュラーヴリクは乱暴に長椅子へ腰を下ろすと、唐突にそう切り出した。

 ANM-Sはファルクラムから聞いていただろうが、確かにその機能については話していない。

 だから人目を避けたのか。

 

「アタシにはなんでこんな力寄越されたのか、わかんねーよ。ジュラの質問に答えるなら、これはアタシからしか対象にアクセス出来ない。相互間は無いし、逆もない」

 

 壁に背中を預けつつ、足を伸ばす。

 ジュラーヴリクはアタシの顔を不思議そうに眺めていた。

 

「それで仲間を助けたわけか。ザイの侵食の盾になって」

「まあな……。死に損なったけど」

 

 アタシが自嘲気味に言うと、ジュラーヴリクは強めに頭を叩いてくる。

 

「死ねないんだよ、あんたは。あたしが見たのはお前のロジックコア――いっちまえば、心の中だ」

 

 ジュラーヴリクも自分と同じように壁に背中を預けると、足を大きく伸ばす。

 

「だから未来のことはわからねぇ。だけどさ、前も死にかけて今回も……それで死ねないんだ、きっとルフィナには何か役目があるんだよ」

 

 そう語りかけてくるジュラーヴリクの眼差しは、いつもとは違って優しく見えた。

 言葉の雰囲気も不思議と柔らかく感じる。

 

「役目、ねぇ」

「PMC初のドーターだ、同じ国無しアニマどもの灯火にでもなるんじゃねぇか? なんてな」

 

 なんだかジュラーヴリクらしくない気がする。いつもの彼女は自分に対して敵対的で、高圧的で。

 でも、ここに来てから妙に気に掛けてくれている気がする。

 

「あー! もう、あたしらしくねぇ。研究室もどんぞ、銀色」

「おーよ、オレンジ。アタシが前席だったら、振り回されて狙い外さないように今から練習しとけ」

「はっ! なら、お前が後席に決まった暁には、ミサイル一発外す毎にウォッカ奢りだからな」

「出たよ、ロシアのウォッカ好き。ま、有り得ねーけどな!」

 

 工場の来た道を戻る。気付いた時には、席での役割分担くらいは決まっていた。

 いつもの下らない言い合い。でも、不思議と悪い気がしなかった。楽しくてどんどん言葉が出てきて、高揚する。

 多分これが、ジュラーヴリクというアニマなんだろう。ラーストチュカがご執心なのも分かる気がした。

 

 □

 

「……」

 

 研究室はジュラーヴリクら不在の間、休憩時間として緩やかな時間が流れていた。

 見張りがついていながら、椅子に座るファルクラムは珍しく静かで、じっと目を瞑っていた。

 ふと、彼女はそっと右耳を押さえる。

 

(……お姉さま)

 

 右耳には無線式のイヤホンが嵌められていた。ファルクラムが聞いているのは、ジュラーヴリクと部屋を出たルフィナの声だった。

 

(アニマに繋ぐ力……か)

 

 先日、彼女の松葉杖を蹴って抱き寄せた拍子につけた盗聴器が会話を全てファルクラムに届けていた。

 ただでジュラーヴリクに彼女を渡すつもりはないと、ファルクラムは自由にしていた左手を握り締める。

 

「遅いな、ジュラ……。まさか、あの銀色に何かされたんじゃ……」

「大丈夫ですよ、ラーストチュカ姉様。ルフィナは悪い人ではありません」

「いや、もしかしたら本性を隠しているかもしれないだろ!」

 

 ファルクラムの視界がアクアマリンのアニマを捉える。

 彼女は見張りの肩を叩き、ラーストチュカとの会話を希望。そのまま歩き出す。

 

「ラーストチュカさん」

 

 彼女はにこやかにラーストチュカとベルクトの輪に飛び込み、弾むような調子で語った。

 

「ジュラーヴリクさんが気になるんでしたら、よかったらお手伝いしますよ」

 

「は?」とラーストチュカが目をしばたたかせる。

 手を後ろに組んで、ファルクラムは満面の笑顔を浮かべた。

 ファルクラムの様子を横で見ていたベルクトだけが、彼女に違和感を感じていた。




さて、いよいよSu-30SM-ANMが飛ぶ……はず!
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