ガーリー・エアフォース-カラフルアロウズ-   作:鞍月しめじ

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ALT.03『アニマたちの仕事始め』

 騒がしい一日もなんとか終わりを迎えた。クフィルに引き摺られて会計を手伝わされたルフィナは当然、処理を担当していたビゲンも一日が終わる頃にはぐったりと項垂れていた。

 三人がそれぞれ宿舎に戻って眠りについて、再び陽は昇る。

 

「んー……」

 

 鳥のさえずりが聴こえる寝室で、ルフィナはゆっくりと身を起こした。

 すっきりと心地よい目覚めとはいかなかったのか、ルフィナはぼさぼさで跳ね回った髪もそのままに、寝ぼけ眼をごしごしと手で擦る。

 クフィルたちとは相部屋だが、既にクフィルは居ない。ビゲンは掛け布団を抱き枕がわりに、射し込む朝陽も気にせず寝息を立てている。

 昨晩はルフィナにとって地獄と言っても間違いでなく、結局仕事終わり間近ではまともに意識すら保てなかった。ベッドに飛び込んでからは泥のように眠って、それでも疲れが取りきれない程だった。

 

「あれ……今日なんかあったかな」

 

 まだ頭が働かない。スケジュールもろくに思い返せない程度には、彼女もまだ眠ったままのようだった。

 

「……ヤバイ、そろそろクフィルが怒鳴り込んできそうだ」

 

 クフィルの世話焼きは尋常ではない。ルフィナ自身、あまりしつこく言われて行動するのが好きではなくむしろ反発したくなってしまう。それも深い意味も何もなく、単にクフィルとルフィナではまるで性格が合わないだけなのだが。

 とにかくクフィルがアラームがわりに飛び込んでくる前にと、ルフィナは後ろ髪を引かれる思いで重たい身体をベッドから引き剥がす。

 とにかく予定が欲しかった。出来るなら空に上がりたいとは思うものの、懸念がある。

 

(ドーターの修復、終わってねーよなぁ)

 

 盛大にドーターで暴れまわったのも、つい十数時間前になる。いくら彼女のいる『会社』が、周囲も驚くような技術を持っていたとしても流石に整備は終わりきらない。ドーターとは、そんなに簡単な物ではないのだ。アニマであるルフィナとの繋がりもある。

 ぼんやりとした目付きで歯を磨きながら、ルフィナは考えた。なんとしてでもスケジュールを入れなければ、間違いなく昨日のような雑務が待っているに違いないのだ。

 

(しゃーねえ。クフィル探すしか無いか)

 

 うがいを終わらせ、一度寝室へ戻る。相変わらずビゲンはまだ眠っていた。起きる気配も無いどころか、起こしたところで起きない雰囲気すら漂っていた。

 

「やっぱコイツはほっといた方がいいな……」

 

 起き抜けのビゲンは凄まじく対応が悪い。一度ルフィナが起こそうとした時は蹴り飛ばされた事もあった。それ以来、彼女を起こすのはクフィルの仕事である。

 そそくさと自室を出たルフィナは眼鏡を直しつつ、クフィルを探すため足を進めた。

 

 □

 

「ルフィナ、探しましたよ」

 

 なんとか朝食までを終え、社内を練り歩いていたルフィナを呼び止めたのはまさに彼女が捜していたクフィルだった。

 

「ちょうどいいや、アタシも探してたんだ」

「え? ……珍しいですね? てっきりまだ寝ているかと」

 

 少し怪訝そうに眉をひそめるクフィル。片手に持っていたスマートフォンには、ヘヴィメタルが選曲された音楽プレイヤーが最大音量で準備されていた。思いがけず画面を見てしまったルフィナの背に悪寒が走る。

 

「私はビゲンを起こしてきますので、ルフィナは先にブリーフィングルームへ行っていてもらえますか?」

「あ? ブリーフィングあんの?」

「というより、先の予定を共有する話でしょうか。仕事があるようですから」

「ふーん……まあ、了解」

 

 小さく頭を下げて去っていくクフィル。その小さな背中を見送って、ルフィナはブリーフィングルームへ目標を定めて再び歩き出す。

 会社はかなり広大な建物だ。航空機を多数扱う関係上、使われなくなった民間の飛行場を購入し改修したものを利用する。多数のハンガー、広大な敷地に広大な滑走路、そして広大な社屋。

 その中をひたすらブリーフィングルーム目指して練り歩くルフィナ。代わり映えしない廊下をいくつも曲がって、漸く目的地へ到着する。

 

「入るぞー」

 

 特に返事も待たずにブリーフィングルームへと立ち入ると、中で待っていたのは白衣の対アニマ研究員であるエイベルと数人のスタッフだった。

 それらの人物とは別で更に数人、彼女には見覚えの無い人物がいる。

 

「誰だ、コイツら」

 

 変わることの無い態度。ルフィナの警戒から生まれる無遠慮な質問には、一人の男がその中から抜け出して答えた。

 

「ロシア航空宇宙軍――いや、複雑な肩書きは無しにしよう。ロシアから来た、と言えば分かるかな“フランカー”」

 

 ロシアからの来客らしい男は、ルフィナをフランカーと呼ぶ。刹那、ルフィナの目付きが殺気をはらんだ。

 

「地上ではルフィナだ。よく覚えとけよ、でなきゃ次は殺す」

「ルフィナ! そこまでだ!」

 

 エイベルが声を張り上げて場を制する。ルフィナは舌打ちと共にロシア人の男へ早く行けと手を振りかけて、止めた。

 

「いや、ちょっと待て。さっき『ロシア航空宇宙軍』って言い掛けたか? なんであのバーバチカの関係者がここに来るんだ」

「鋭いな、ルフィナ。次の仕事はバーバチカと飛ぶ」

「冗談だろ。うっかり手が滑って撃ち落としかねないぞ」

「仕事だ。しがらみだなんだは割り切ってくれ」

「無理だっつーの!」

 

 いくらルフィナが突っぱねたとしても、会社側が折れる事もない。譲歩もなく、話は進んでいく。

 苛立つルフィナの元へ、ブリーフィングルームに到着したクフィルとビゲンが歩み寄る。

 

「おせーぞ」

「ごめん。クフィルにヘビメタ聴かされてたのよね」

「なかなか起きないので3曲ほど使ってしまいました……」

「ふーん、あっそー……」

 

 心底興味の無い話。ルフィナは退屈そうに顔を背けて溜め息を吐く。

 

「ロシアからだっけ? 話は粗方先に聞いてるけど、ザイの関係?」

「まあアニマの力が必要だとするなら、十中八九そうでしょうね」

 

 アニマである三人は部屋の隅で、スタッフとロシア航空宇宙軍関係者はスクリーン側で話を練っているようだった。

 ビゲンは心底嫌そうなルフィナに比べれば、かなり乗り気な方だ。クフィルは会社の方針に従うタイプ故、特に目立った変化はない。

 

「国が相手ってなれば、そこそこお金取れそうねー。支払いも悪くないでしょ」

「アタシとしちゃ、金も要らないから奴等とは働きたくねーな」

「ジュラーヴリクさんですか?」

 

 クフィルの出した名前にルフィナも静かに頷いた。Su-27M-ANMジュラーヴリク、ロシア航空宇宙軍のアニマ部隊『バーバチカ』の一番機。生粋のロシア機には、ルフィナの存在を素直に認めきれない物があったようだ。Su-35SK-ANMは量産輸出型のSu-35SKをベースにしていて、ロシア生まれでも生粋のロシアのそれではない。

 特にSu-35SKのアニマが生まれてしまった為に、事実上本国ロシアがSu-35Sのアニマを生み出せなくなった背景もジュラーヴリクには納得がいっていないようだ。

 定期的にロシア空軍はルフィナを頼りに来るものの、過去にバーバチカと飛行した際はルフィナもジュラーヴリクも互いに言い合いばかりで作戦遂行に支障も出ていた。

 

「冗談じゃない。アイツと飛ぶくらいなら金なんて要るか」

「えー、勿体無い。ていうかルフィナのドーター修理中でしょうに、もしかしてアンタ不参加じゃないの?」

「水を差すようですが、ルフィナも頭数には入っているようです。すぐに作戦開始とはなりませんし、ドーター整備はそれまでには間に合わせると」

 

 逃げ場は塞がれてしまった。先ほどよりもずっと大きい溜め息と共に、ルフィナはがくりと項垂れる。

 

(まあ、関わらなきゃいいんだけど……どうしても空じゃな)

 

 アニマ相手には、無線不調をでっち上げるのも無理な話だ。無関心を決め込んでいては、ジュラーヴリクもルフィナたちも仕事にならない。

 

「ビゲン! 話がある、来てくれ」

「おっ! ギャラの話?」

「お待ちかねだろ。まとめてくれ」

「オッケー!」

 

 スタッフに呼び出されてルフィナたちの元から駆け出すビゲン。

 遂に腕を組んで壁に寄りかかったルフィナは、面白くなさそうに膨れていた。

 

「まあ、今はとにかくビゲンが上手くやってくれることを祈りましょう? 逃げ道がないなら、貰えるものは貰った方がいいでしょう?」

「そりゃそうだけど……」

 

 言い掛けて、ルフィナは諦めた。報酬を貰わず、だが拒否出来ないのなら貰えるものは貰った方が良い。アニマといえど、このPMCに所属するアニマは比較的自由に買い物をしている。軍属となるアニマと異なり、その扱いはやや特殊だった。

 クフィルにも少なからず『金ありき』の精神はある。ただ他のスタッフより欲がないだけで。不平不満は漏らさないが、明細に記される額面が少なければ嫌な気持ちになるくらいには、彼女も『傭兵』だった。

 

 ロシアとの仕事が決まり、PMCスタッフたちもルフィナのドーター修復に本腰を入れる。

 任務中は会社からは離れ、ロシアの基地へ行くことに決まっている。ルフィナにとってはまず間違いなく、長く辛い期間になるだろうとはクフィルも懸念している。

 

(機動に影響は……まあ、彼女も空に上がれば性格は変わるけれど)

 

 ルフィナのフラストレーションは空に上がれない事からも来ている。仕事が決まれば、ドーターも動かせる。ルフィナのストレス解消も出来るはずだ、とクフィルは半ば強制的に自身を納得させる。

 仕事始めまではアニマ三人での飛行訓練が組まれる。今この瞬間からが、三人にとって忙しい時間の始まりだった。




皆様お久しぶりでう。
なんだか久し振りに物書いたので、なんとなく感覚が掴めずに困っております。

さてさて、既に三話まであるカラフルアロウズ。ツイッターのハッシュタグ企画のようなものがそもそもの発端でした。
楽しいんですよ……オリジナルアニマ。

話は戻しつつ、既にガーリー・エアフォースは三作品あります。なんとか色々やっていきたいなとは思うのですが、光る星を繋げては……ちょっと一旦休載で。
暫くはカラフルアロウズとカナリアを宜しくお願い致します。

またなんかオリジナルアニマでも考えましょうか……。
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