ガーリー・エアフォース-カラフルアロウズ-   作:鞍月しめじ

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ALT.30『空へ』

「来たぞ、イカれ野郎が」

 

 空に上がってすぐ、Su-30SM-ANMへ向けてMiG-35-ANMはヒートシーカーを向けていた。

 ミサイルアラートが鳴り響く。蛇のようにうねった煙を引きながら、短距離空対空ミサイルはSu-30SM-ANMを追尾していた。

 

「武装無しか」

「わりぃ。今回のスケジュールは、あくまで飛行試験だからな。的当てすらありゃしねぇ」

「いや」

 

 ルフィナはミサイルに追われながらも、笑って見せる。

 

「機体が軽くてマニューバも楽だ! ヤツを見失うなよ、ジュラッ!」

 

 Su-30SM-ANMが突如180度ロール、一気に降下していく。無論、ミサイルが後を追った。

 空域下には森が広がっている。木々を掠めるほどの高さで直角に水平飛行を開始、速度差からミサイルが木に突っ込み、爆発する。

 

「よしッ!」

「もう一発来る!」

 

 今度は上から撃ち下ろされるレーダー誘導ミサイルだ。下に逃げ場は無く、上はファルクラムが張っている。

 MiG-35-ANMにはノヴォシビルスクに来たままの武装が満載されている。反対にSu-30SM-ANMには一切搭載されていない。

 フランカーたちに、ファルクラムへの攻撃手段は無かった。

 

〈まさかもう終わりなんて言わないよね、お姉さま〉

 

 無線から冷たい声が響いた。フランカーたちは揃って空を見上げる。

 繋がっているからか、それとも偶然か。ルフィナにもジュラーヴリクにも、絶望の色は見えなかった。

 

「手が自由ならミドルフィンガー立ててるよ! そっちの土俵まで上がってやる!」

 

 今度は機体が急上昇する。アイリスのミサイルに追われながら、Su-30SM-ANMは真っ直ぐにMiG-35-ANMを目指した。

 機体を退避させようとするファルクラムよりも更に早く、ドーター同士が交差する。

 

「前は自滅技だったが、今回は行ける!」

 

 Su-30SM-ANMのカナード、エアブレーキが全て立ち上がった。壁にぶつかったような急制動と共に、ミサイルは距離を詰める。

 制動、そして一気に加速。

 

〈なっ……!?〉

 

 ファルクラムからも驚愕の声が漏れる。刹那、アイリスのドーターの至近距離で近接信管を作動させたミサイルが炸裂、破片がMiG-35-ANMを襲った。

 急上昇したSu-30SM-ANMは衝撃を受けただけで、今度は逆に高度を取り返す。

 

〈失敗した筈の手を……!〉

 

 恨めしそうにファルクラムが呟いた。

 

「そりゃあ失敗したからな。使うのは二度目。成功例なんて、ANM-Sには入ってねーだろ!」

 

 機体を翻し、更に増速するSu-30SM-ANM。フランカーたちの後方に、ファルクラムがついた。

 

「まただ! アイツ、相当ムカついてんぞ」

「上等だ!」

 

 三度目のミサイルアラート。間髪入れずにレーダーが二発目のミサイル発射を知らせる。

 

「二発来る! さっきの機動じゃ賭けだな。どうするよ!」

「前見ろ、ジュラ!」

 

 ルフィナに言われて、ジュラーヴリクは一瞬後方警戒を解く。目に突き刺さるような光を放つ空――太陽に向かって、ドーターは飛んでいた。

 陽光に目を細めると、すぐさまドーターは急上昇する。ミサイルの一発は逸れ、太陽へ向かう。

 

〈太陽の熱……! でも、まだ一発ある!〉

 

 ミサイルに追われるSu-30SM-ANM。ファルクラムが管制により集中を深める。

 ミサイルの機動に鋭さを増す一方、機体の機動は緩やかになっていた。

 

「ちょっと無茶だが、この隙を逃す手はねーか」

「お前、まさかアイツに繋ぐ気か!?」

 

 ジュラーヴリクが思わず身を乗り出す。

 ベルトに拘束されているのも忘れ、ルフィナが無理矢理に預けたコントロールを受け取りながら暴れる。

 ドーターはスカイグレイの輝きを失い、クロームオレンジ一色へと変わる。

 

「今助ける、ファルクラム」

〈ミサイルに追われながら、何を――〉

 

 無線にノイズが走った。一瞬だが、Su-30SM-ANMの全周モニターにさえノイズが発生。がくん、とルフィナの意識が失われる。

 

「チキショウ! 失敗しやがったのかよ、なあ!」

 

 今、ジュラーヴリクはルフィナとも接続出来ていない。彼女の考えも読めず、完全に一人でSu-30SM-ANMという機体を飛ばしていた。

 ミサイルに追われ、逃げ回りながら彼女はルフィナの覚醒を待つ。追ってくるミサイルの推進剤も無限ではない、当然戦闘機より早く尽きる。

 

「んっ……!」

「ルフィナ!」

 

 前席で声が上がった。力無く項垂れていた身体が、再びシートに寄り掛かる。

 追ってきたミサイルは自爆し、二機のドーターは至近距離で上下に交差する。

 Su-30SM-ANMの垂直尾翼とMiG-35-ANMの機体下部が擦れ、火花が散った。

 バランスを失い、ふらふらと飛ぶファルクラムのドーター。アイリスの輝きは不安定に明滅していた。

 

「成功したのかよ、ルフィナ」

「……やれるだけはやったさ。あとはアイツ次第だな」

 

「なんだよ、それ」ジュラーヴリクは心底呆れたように吐き出した。

 

〈お姉さま〉

 

 無線が復旧する。操縦が再びルフィナに戻り、ドーターには彼女の固有色が戻っていた。

 警戒は解いていない。フランカーたちのドーターはMiG-35-ANMの背後につけ、最大の警戒と共に威嚇する。

 

〈私、なんであんな命令を聞いていたんですか? ソレイユを潰せって……〉

「本心か?」

〈え?〉

 

 ルフィナの疑念の声に、ファルクラムが間の抜けた声を上げる。

 

「今、アタシたちはお前のすぐ後ろだ。お前の機動力なら、少し増速してクルビットすれば機関砲で始末出来るぞ。チャンスだ、ファルクラム」

〈お姉さま、私は!〉

 

 ファルクラムが発したのは、否定だった。

 

〈違う、違うんです。私も何がどうなっているのか分からなくて……こんなに大好きなお姉さまを殺す……え? どうして、なんで!?〉

 

「終わった」ルフィナがジュラーヴリクへ静かに告げた。

 混乱するファルクラム。機体も彼女の意志を体現するようによたよたと揺れている。

 彼女には既に攻撃の意思は無く、あるのはただただ混乱のみ。

 

「ファルクラム、逃げた方がいい。次は連中、軟禁じゃ済ませないぞ」

〈分かってます。殺してはいませんが、そろそろ怪しまれる頃でしょうし……〉

 

 ファルクラムは「んー」と悩む。機体を翻し、Su-30SM-ANMと翼を並べた。

 フランカーたちのレーダーが更新され、ウェイポイントが登録される。

 

「なんのポイントだ? こりゃ」

 

 ジュラーヴリクが訝しげにレーダーの光点を眺めた。

 レーダーマップの拡大を繰り返し、光点を中心に再び縮小する。

 

「待てよ、これ……ソレイユ社じゃねぇのか!?」

「らしいな。来いってことか」

〈まもなく空域に入ります。私に付いてきて。――そこで、話があります〉

 

 ファルクラムのドーターが前に出る。航跡雲は機体のロールと共に捻れ、そして右へ旋回する。

 

「悪い、ジュラ。付き合わせる」

「今更かよ。好きにしろ、もう予定空域からだいぶ来てる。なんにせよ始末書だ」

 

 ジュラーヴリクからは反論の意志を感じない。既に諦観しているようだった。

 

「手伝うよ、書くの」

 

 ファルクラムのドーターへ追随するように、Su-30SM-ANMも右へターンする。

 導かれ向かう先は、全ての始まりの地。ジュラーヴリクと二人で、ルフィナはクーデターによって閉鎖された筈のソレイユ社へと向かった。




祝、ALT.30!
まあ、そのわりに短くなってしまいましたがキリがいいので次話に続きます。

ルフィナは再び始まりの地へ。
ファルクラムは本当に元に戻れたのか?

次回もよろしくお願いいたします。
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