ガーリー・エアフォース-カラフルアロウズ-   作:鞍月しめじ

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神域の戦い
ALT.35『死神』


 小松基地、ブリーフィングルーム。

 そこにアニマたちの姿があった。ルフィナ、ファルクラム、ビゲンの姿だけがそこにはない。

 

「よし、想定外のダメージだが揃ったな」

 

 八代通は眼前に並ぶアニマ、そしてドーターパイロットの慧らの姿を見て声を上げる。

 照明が落ち、彼の背後にあったスクリーンに情報が表示される。

 大きな図体をスクリーン脇に退かし、表示される衛星画像を指した。

 

「本日より、ソレイユ01および06が作戦に復帰する。中には06へ不信を抱くものもいるが、まだ01が生きているということは06が作戦を諦めたことと考えよう」

 

 衛星画像には、洋上を飛行する二機のドーターが鮮明に撮されている。Su-35SK-ANM、そしてMiG-35-ANMの二機だ。

 八代通は更に続ける。

 

「二機はロシアから既に離陸、間も無く到着する。問題なら仕事が終わってから起こしてくれ。それから、空中空母タイプザイ以外に敵がいることも改めて伝える」

 

 ズームしていた衛星画像がスライドし、次にはビゲンが命懸けで手に入れた機体の三面図が表示される。

 

「YR-29ヘリオス。この図の中ではY-1となっているが、既に飛行可能であるとソレイユ社社長からの聞き取りで判明した。本来は第五世代級対ザイ用有人戦闘機で、突出した性能も、お前たちに比べれば大したことの無いものだ」

 

 ファントムが八代通の指す三面図を睨む。

 

(限りなく機体後部に配置された前進翼にカナード。水平尾翼の無い機体。人間の考えうる限界……といったところか)

 

 彼女の考えうる限り、とても実用的ではない。

 極論で、机上の空論だけで武装し、設計図の中で生きるような機体だった。

 

(それでも飛行に漕ぎ着けていたのなら……)

 

 ファントムの脳裏を、ソレイユのアニマたちが過る。

 

(あの会社の技術力は、並大抵ではありませんね)

 

 暫し考えて、再び彼女は八代通の言葉を聴き始める。

 

「信じられん話だが、試験機にも関わらず、コイツはドーター化されてる。アニマがいるということだ」

 

 八代通は「更に悪い話がある」と続ける。

 

「コイツの武装は何一つ情報がない。通常のミサイルは搭載するだろうが、アニマをソレイユからの独立後に実用配備するような技術屋連中でもある。他にどんな試験兵装を搭載してくるか、どんな機動をするかの予測も一切立たん」

 

「何しろ今までの常識からあまりにもかけ離れてるからな」八代通はため息交じりに語る。

 不意に、慧が手を上げる。

 

「えっと……『R』ってことは、偵察機なんですか? ファントムみたいな」

 

 慧の問いに、八代通はかぶり振って答えた。

 

「対ザイ用だ。現用機的な付け方をすれば、スウェーデンの『JAS』に匹敵するマルチロール機になるとソレイユ社社長は言っていた。正直、反則級だな」

「ヴィゴラスはどうだ? レーベンも社長の傍にいたんだろ?」

 

 慧は後ろを振り返り、コメットブルーの輝きを持つアニマへ問う。

 

「私は後に生まれましたから。レーベンも同じ。なのでルフィナと同時期生まれで開発が停止していた戦闘機なんて、知りもしませんわよ?」

 

 ヴィゴラスはまるで他人事のように返す。

 ついで、漆黒の髪を右手でかきあげつつレーベンが答えた。

 

「残念ながら、同じだ。ファルクラムも知らなかっただろう。社長はY-1……いや、YR-29については何も語ったことはない」

 

「ただ」とレーベンは続ける。気付けばブリーフィングルーム全体が彼女の言葉に耳を傾けているようだった。

 

「元々が対ザイ用だ、それに相応しい装備は考えていた筈だ。曰くの話も、問い詰めたら聞けた。室長、社長に聞いたんだろ?」

「ああ、確かに聞いた。共有しておくか……危険度くらいはアタリがつくかもしれん」

 

 YR-29の設計図がスライドしていくのを背に、八代通はその機体の危険度を語る。

 

「既に飛行可能なのは当然だが、機動試験で三人のパイロットが死亡している。死因は内蔵破裂、頸椎骨折、その他諸々。計測したGは、有人操作下にありながら15から20G以上。有人機でありながら、アニマのフルパワーに匹敵する機動を見せたらしい」

 

 八代通の言葉に、慧が息を呑む。そんな死神のような機体が、仮にGを掛け放題のアニマが本当に操縦したら?

 そんなものを問うことすら、恐ろしくなる。無意味に思えてしまう。

 

「既にこの話で危惧したと思うが、人間が操ってドーター並みの機動を見せたヘリオスが本物のドーターとして運用されているとすれば、ザイよりも恐ろしい存在になりかねない。ザイはまだ効率重視で動くが、ヘリオスはソレイユ、ステラを含むお前達を全力で殺しに来るぞ」

 

 八代通の声は真剣だった。誇張、過大何一つ含めず本気でYR-29という機体を警戒している。

 ブリーフィングを進めようとした八代通だったが、不意に横から研究スタッフが近付いて彼に耳打ちする。

 

「なんだと?」

 

 ただでさえつり上がり気味にしていた眉が、なお険しくつり上がる。

「最悪だ」八代通は噛み締めるように呟いて、皆の前へ向き直り告げた。

 

「ソレイユ01、06共にヘリオスと交戦しているらしい。ヤツは既に日本領空内にいる。我々は航空自衛隊としてヘリオスを迎撃、ソレイユ01、06をエスコートしなきゃならん。バービー隊、至急離陸準備だ」

 

 八代通が告げると、バービー隊各員が立ち上がる。

 慧が、グリペンが、ファントムにイーグルも。

 PMCアニマたちには、入れ替わりでの待機が命じられ空を飛ぶことは叶わなかった。

 

「まさかPMCが先に潰しに来るとはな……」

 

 八代通は眉根を寄せつつ呟いた。

 ブリーフィングルームはすっかり静かになって、代わりに外が騒がしくなっていた。

 

 □

 

「クソッ! もう基地は目の前だってのに!」

 

 日本領空内で、Su-35SK-ANMとMiG-35-ANMはたった一機の戦闘機に追い回されていた。

 シトロンミストの薄まった肌色の輝きを放ち、そして装甲化されたキャノピーはまさしくドーターのそれだった。

 機体形状は角張った面を張り付けたようで、しかし流線型もしっかり持った現代におけるステルス機のような形。

 水平尾翼は無く、時おり見せる上昇機動で角張った前進翼を持ったカナード付の機体であることも分かった。

 

〈――〉

 

 交戦する機体からは絶えず何かのノイズが流れている。何かを語ろうとして語ることが出来ないのか、ルフィナたちに話し掛けているようにさえ思えた。

 

〈クッ! 何なの、この機動!?〉

 

 ルフィナを超える機動を持つよう作られたファルクラムですら、全く追従できていない。

 あらゆるアニマの機動、クセを集めて状況に応じて解放するような、読めない機動に二機は苦戦していた。

 

〈『System booting』〉

「なんだ?」

 

 ルフィナの耳に、コックピットからの機械音声らしきものが飛び込んだ。

 前方を飛行していた戦闘機は苦もなさげにトリプルクルビットを繰り出し、ルフィナをオーバーシュートさせ、その後ろについた。

 

(さっき、機体の下に稲妻が……まさか)

 

 ファルクラムが更に下を飛び、上空のルフィナ達を見上げる。

 不明機の腹下には、青い稲妻を煌めかせる長大な砲身が見えていた。

 

〈お姉さまッ! すぐに離脱を!〉

 

 ファルクラムが叫ぶ。ルフィナは言われるまでもなく回避行動に移っていたが、まるで敵が離れない。

 機動をコピーしたかのように、不気味なほどピッタリと付いてきていた。

 

〈『System power at fifty percent』〉

「なんだ、この音声は……」

 

 無線に入る音声に交じり、ジリジリとした奇妙なノイズが更に大きくなる。

 付いてくる不明機下部が不気味に輝くのを見た刹那、ファルクラムの叫びが届いた。

 

〈レールガンですッ! 喰らったら木っ端微塵になりますッ! お姉さまッ!〉

〈『Ready to fire』〉

 

 ファルクラムの声に、機械音声による射撃準備完了の宣告が交じり込んだ。

 

「ふっざっける――なァッ!」

 

 急速な機首上げから、コブラフラットスピンで衝突を回避しつつ離脱。次の瞬間、クルビットで後ろを向いた不明機の機首がルフィナを捉え、落雷めいた発射音が機体内部をすら揺らす。

 飛翔体は衝撃波だけでルフィナの駆る機体を激しく揺らし、雲を割った。

 

「ヤバイ。ヤバイ、ヤバイ!」

 

 あんなものに撃ち抜かれればファルクラムの言う通り、バラバラになる。ルフィナの生存本能に似た何かが危険信号をより強めていく。

 こんな所で散るわけにはいかない、だからロシアからも生きて戻ったのだと。

 

(どうやって逃げる? こんなバケモノから……)

 

 編隊を組むわけにはいかない。未だ不明機はレールガンでルフィナを追っている。

 増速して引き離すと、直ぐ様不明機が差を詰める。それは、凄まじく奇妙な加速だった。

 瞬く間に加速して追い付いてくるそれは、まるでロケットブースターを点火させたようなものだった。

 

「06! まさか、コイツがヘリオスか!?」

〈機体形状的に間違いありません。いよいよ私たちを潰しに手を打ってきた、ということですね〉

「笑えねえ……! こんなバケモノッ!」

 

 玩ぶように飛び回る不明機改めヘリオス。

 ドーター化によるHiMAT機化の効果や、機体強度の向上が凄まじく効果を発揮しているのか、その機動はルフィナの見てきたあらゆるドーターを凌ぐ。

 

〈『System power at one hundred percent』〉

「ちっ――きしょォッ! いい加減にしやがれッ!」

〈『Ready to fire』〉

 

 機械音声が、まさしく機械的にルフィナへ死の宣告を突き立てていくようだった。

 今度は避けられない。ヘリオスはルフィナの機動を封じるように、わずかに上空を飛んでいた。機体を上げれば激突、下げれば急激な降下に合わせてレールガンで撃ち抜かれる。

 

〈……!〉

「なんだ!? なんの警告だ?」

 

 ヘリオスがレールガンを発射しない。代わりに、ルフィナの耳にビープ音が遠く響くのが聴こえた。

 

〈不明機を確認。バービー01、フォックス2〉

〈02、フォックス2!〉

〈03、フォックス2〉

 

 レーダーに新たな反応。そして聞こえてきた無線は、独飛のものだ。

 レールガンの砲口がバービー隊へ向けられる。

 

「やべー、全員避けろッ! レールガンがそっちに向いてるぞ!」

 

 ルフィナの声に反応してか、バービー隊各機は編隊を解いてブレイク。飛翔体は三機がいたその中心を、真っ直ぐに突き抜ける。

 

〈これが、ヘリオスか……!〉

 

 バービー01、慧の声が驚愕に染まる。

 急加速しバービー隊を分散させるヘリオス。その機動性はバービー隊三機がかりでも、苦しめられるものだった。

 

〈イーグルがついていけてない!? 有り得ないー!〉

〈クラックやハッキングの類いも完璧に防御ですか。何者です? YR-29ヘリオス、貴方は何なんですか〉

〈……〉

 

 ファントムが意外にも直接語り掛けた。

 相変わらずの機動を見せながら、アニマたちは各々の無線に少女の吐息のような音が入ったのを聞き逃さない。

 

〈私が見たいのはこんなものではない。折角出てきてあげたのに、こんなものではつまらない〉

 

 ルフィナにも、そしてヘリオスを囲うアニマたちにも聞き覚えの無い少女の声がした。

 

〈私はYR-29-ANM、ヘリオス。仕事だったのに、少し冷めたわ。また今度やりましょう〉

〈逃がすとでもお思いなんですか、ヘリオス。私たちがどういう組織か、国がなくともご存知でしょうに〉

〈貴方に私は撃墜不可能。RF-4EJ-ANMファントムⅡ〉

 

 ファントムの威嚇にすら、ヘリオスは全くの反応無しだった。

 機体は攻撃を止めると、レールガンの砲身を畳んで中国大陸方面へ離脱する。

 

〈逃がすとでも? と、私はそう言いましたよ〉

 

 ファントムがミサイルをロックオン。ヘリオスのテールをまっすぐ撃ち抜くコースで、レリーズする。

 

〈撃墜不可能。私はそう言ったわ〉

 

 ファントムの宣言に対する、ヘリオスの応酬。

 機体後方上面のインテークがせり上がり、更に機体下部からは埋め込み式のロケットブースターが顔を出す。

 一瞬にしてロケットブースターに火が入り、急加速。逆V字型に垂直尾翼を変形させ、更にエンジンが大きく火を吹く。

 チャフフレアを残し、瞬く間に五機を置いていくヘリオス。

 

「何キロ出してんだ、アレ」

 

 レーダーから消える度に、次現れる頃には遠い地点を指している。

 

〈一瞬にして、マッハ4あたりまでは加速していそうですね。ミサイルがフレアを抜けても、置いていかれています〉

〈冗談だろう? 機体がバラバラになるぞ〉

「バラバラにならない自信があるから、あそこまで馬鹿げた速度を出せるって事かもな。とにかく、助かったぜバービー隊。それにソレイユ06もな」

 

 ロシアからの帰還を果たした二機は、独飛のドーターに引き連れられ、小松基地へ向かう。

 最中、ルフィナはヘリオスの消えていった方角を振り返る。

 

(アイツが、アタシの代わりだったハズの戦闘機……か)

 

 ルフィナが完成しなければ、あの機体が世に放たれていたのかもしれない。

 しかし、完成すればしたでファルクラムのようなアニマも現れてしまった。

 どちらにも良い結末は待っていない。しかし今を受け入れるほかにもない。

 空中空母型ザイ撃墜任務が、想像以上の危険性を孕んだ任務に置き換わるのが彼女にも良く分かった。




ここからタグ追加です。
色々ぶっ飛んだドーターの登場と共に、ルフィナたちは日本へ帰還。次はビゲンに会いに行きます。

次回もまた、宜しくお願い致します。
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