ガーリー・エアフォース-カラフルアロウズ-   作:鞍月しめじ

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ALT.36『小松基地にて』

「ビゲン……」

 

 日本にようやく帰ってきたルフィナたちが、まず最初に立ち寄ったのはビゲンの病室だった。

 いつもなら彼女の不始末にビンタ一発は張ってくるであろうビゲンは、今や医療機器に繋がれて眠りについている。

 ルフィナが名を呼んでも、彼女が応答することはない。拳を握りしめ、だがルフィナは弱音を呑み込む。

 

「ありがとな、ビゲン」

 

 無機質な機械音の中、まるで不釣り合いな礼が述べられた。だが一方で、ルフィナが握る拳はぎりぎりと握る力を増す。

 

「役に立ちそうだぜ……アンタの情報。だから……今は休め。アタシも仕事終わったから、起きたら通帳でも見なよ。きっと笑えるからさ」

 

 ぐっと握った拳に更に力を込め、そして手を開く。

 ルフィナはビゲンの顔をしばらく眺めると、病室を後にした。

 

 □

 

「もういいんですか? ルフィナ」

 

 自衛隊病院前で待っていたのはファントムだった。意外にもファルクラムは見当たらなかった。

 夕陽の灯りを背に、ファントムはただルフィナを待っていただけのようだった。何も裏はなく、ただ待機する。

 それでも会ってしまえば、ただ共に戻るだけではないのもファントムだった。

 

「大丈夫なんですか、ファルクラムを再編入させて」

 

 並んで歩く二人。ファントムは横目にルフィナを見遣りつつ問う。

 

「アイツはもう心配ない。多少メンタルが不自然な気はするけどな。メンバーについて不満があれば言ってくれていいぜ、それは依頼者の当然の権利だからな」

 

 ルフィナはただ、何の気なしに語る。

 では、とファントムが呟くと立ち止まった。

 

「ファルクラムは外すべきです。彼女を信頼するには不確定要素が多すぎます。いきなり背中を撃たれたらどうするんです?」

 

 遠慮無し。それがファントムであり、彼女の思考であり、比較的まともな思考であればそう考えるのも致し方無しだった。

 限りなく100パーセントの確定要素が無い限り決定しない。それが、RF-4EJ-ANMという存在だった。

 

「なるほど」

 

 ルフィナは立ち止まると、続いてファントムへ歩み寄る。

 真っ直ぐに、ファントムの冷酷にも見える鋭い瞳に彼女は向き合った。

 

「メンバーに不満があれば言ってくれていい。だが、拒否出来るとは言ってない。それは此方の権利だ。文句があれば、アンタらだけで空中空母型をやってくれ。ヘリオスだけはこっちでやる」

「そうしたいところですよ。あなた方を引き入れたが為に、とんでもないオマケまで付いてきたんですから」

 

 ですが、とファントムが続ける。

 

「今はあなた方が居なくては困ります。先程の不満は私個人のものであり、独飛の総意ではありませんから。お父様は少なくとも、彼女も共に飛ばす気でいます」

 

 微風だった小松基地に、一瞬の強い海風が流れる。

 二人の少女の髪を靡かせ、冷たい風がその頬を撫でていく。

 

「そうか」

 

 ルフィナは下へ視線を移しつつ小さく笑う。

 

「まあ、よろしく頼むよ」

「ええ。ただ、何かあればの忠告はしましたよ」

 

 ファントムはそれだけを告げると、コルセットスカートを靡かせて去っていく。

 その背中を眺め、ルフィナは小さく息をつく。強気に出てはみたが、彼女には未だに馴れないものだった。

 少し気が引ければ、圧されてしまいそうだった。冷や汗とまではいかないが、少しだけ鼓動が早くなる。

 

「ルフィナ」

 

 病院から、見馴れたカメリアの輝きが射した。

 二番機であるクフィルの声は、ルフィナにどこか安心感を与える。

 

「久しぶり、クフィル」

「ええ。すっかり大人びましたね」

「そうか?」

「そうですよ」

 

 くすくすとクフィルは口元に手を当てて笑う。

 

「ずっと私がいなきゃダメだと思ってましたけど、改めて思いました。私は、あなたについていく存在だと」

「……? 当たり前だろ。頼むぜ、二番機なんだからな」

 

 目を細め微笑むクフィルを目にして、首をかしげつつルフィナは言う。クフィルは頷き、そしてビゲンの病室であろう窓を見上げた。

 

「次の空、彼女が居ないのが不安ですが」

「だけどずっと働きづめだ。休ませてやろう」

 

 ルフィナの言葉に静かに頷いたクフィル。

 不意にルフィナのスマートフォンが着信を告げる。ポケットから取り出して画面を見れば、そこにはファルクラムの名前があった。

 クフィルは場を読んで距離を取り、ルフィナが受話ボタンをタップする。

 

『お姉さま? 室長が次はあなたを呼べと』

「ヘリオスか?」

『恐らくは。私も聞かれましたけど、お姉さまのほうが時間はかかるでしょうね。私より信用が出来ますし』

「お前な。あまりいじけるなよ……ファントムももうあまり気にしてねーから」

『だったら、明日デートしてください。二人きりで』

 

「ん?」と、疑問と共にルフィナの頭の中でクエスチョンマークが跳ね起きる。

 話が飛躍している気がした。なぜデートに行くのか理解できなかった。とはいえ、約束自体は前からしていたものだ、無下には出来ない。

 

「分かったよ。アタシも約束は守る」

『やったっ! じゃあ時間は空けておいて、誰にも伝えちゃダメですよ?』

「まだライノのこととかあるけど……まあ、なんとかやるよ」

 

 終話。スマートフォンをポケットにしまい、クフィルへ視線を向ける。

 空気を読んだらしい彼女は全く目が笑っていない笑顔で手を振っていた。

 

(忘れてた。コイツ、なんかファルクラムに対抗心抱いてんだよな……)

 

 黒いオーラすら見えるクフィルに見送られ、ルフィナは八代通の元へ向かう。

 その道中、再びスマートフォンが鳴動した。

 

「またファルクラムか?」

 

 困惑気味にポケットを漁りスマートフォンを取り出して画面を眺める。

 しかし電話着信ではなくメッセージの受信を知らせていたらしく、待ち受け画面にはメッセージがそのまま表示されていた。

 

「……!」

 

 メッセージを見て固まるルフィナ。

 だがすぐに画面を消し、研究棟へ向けて歩き出した。

 

 □

 

「ずいぶん掛かったな、道に迷ったか?」

 

 聞き取りは八代通本人が行うらしい。

 横に幅を取る身体で缶コーヒーをルフィナの前へ置くと、彼女の前へ腰掛けた。

 

「アタシ、コーヒー好きって言ったか?」

「いや? すまんな、ポーズだけだ。必要なら出すから、あとで買ってくれ」

「必要ねーよ。コーヒーも……微糖ならまあ飲める」

 

 缶に記された『微糖』の文字を眺めつつ、ルフィナはプルタブを引き起こした。

 

「それなら良かった。さて、機嫌取りはいいだろう。呼び出した理由は分かるか」

「ヘリオスだろ」

「ああ。あとは、ロシアの話が聞きたい」

 

 ルフィナは暫し天を仰ぎ、悩む。

 なにか話すことはあっただろうか、と。

 

「悪いな。穴は空けて申し訳ないとは思うが、ロシアもクライアントだったんだ。そこは話せねーよ」

 

「ほう」と八代通は少なからず驚いたような反応を見せる。

 ルフィナの目に、今までのような虚勢は見当たらない。強気なだけではなくなっていた。

 

「顧客情報は秘匿する……か。それなら構わん、俺が聞きたいのはどちらかといえばヘリオスとの戦闘データだからな」

 

 ぎしり、と八代通の座った椅子が苦しそうに軋む。

 

「情報は独飛のメンバーからも聞いてるが、対峙してどうだ?」

「どうだ? ってな……化け物過ぎてなんとも言えねーよ」

 

 ぐいっと缶コーヒーを煽りつつ、ルフィナが八代通を睨み付ける。

 

「それはアンタだって百も承知だろ?」

「まあな。多少の弱点でもあれば、とは思ったが……正直なところあんな超兵器は俺も考え付いた事すらない。言うならオーバーテクノロジーだ」

 

 自嘲気味に八代通は笑う。

 

「俺たち人類にとってしまえば、アニマとドーターですら超兵器なんだ。その上を来るとは思ったこともない」

 

 タバコに火を点けつつ、八代通は語った。

 紫煙を燻らせながら、その中で視線はルフィナへ向けられる。彼女からの発言を待つように、八代通は以降の発言を止めていた。

 

「……まあ、あれだけごちゃごちゃ付いてるんだ。完全無敵なんてありゃしねー。絶対に何処かに弱点はあるさ」

「しかし、今回交戦したことで向こう側に情報を与えたのも事実だ。お前の機動、ファルクラムの解放に俺たち独飛の存在も」

 

 ぐ、とルフィナが口ごもる。

 

「向こう側がそれで対策を取るのも確実だ。空中空母型を落とせない訳でもないだろうしな。ルフィナ、奴等の目的はなんだ?」

 

 タバコの灰を落としつつ、八代通は眼前のアニマに問い掛ける。

 

「今のところは『アニマをふるいにかけて金稼ぎ』程度にしか分からねーよ。ヘリオスが役に立てば、それこそ自由にならないアニマは全部消し去りに来るかもな」

「なるほど。人類最後の盾をずいぶん安く見た物だ。ただ、理解は出来る。アニマを作り出せない小国からしてみれば、たった一機で戦争もひっくり返るからな」

 

 パワーバランスの崩壊、という点に関してしまえば八代通もよく理解している。

 一瞬の静寂。時計の音だけが喧しく聴こえるほどの静かな時間が過ぎる。

 それから八代通はタバコを灰皿に押し付けて消し、語り始めた。

 

「これは明日朝のブリーフィングで共有する予定の話だ。――あれから、ビゲンが持ち帰ったデータを更に解析した。幸いファーストコンタクトでは使わなかったようだが、ヘリオスには多数の武装UAVを管制する能力があるらしい」

 

「まあ、それだけならアニマにとって珍しいものじゃない」八代通はそう付け加えつつ、更に続ける。

 

「ヤツには武装UAVに搭載した兵装を使用する能力があるようだ。着陸し、システムを切る手間もなく、空中で次々に武器を変える……UAV自体も攻撃を仕掛けてくる筈だ。どんな武器を使ってくるかもまだ不明だが、大柄な武装もあるだろう」

「待てよ、じゃあUAVを破壊できれば……」

 

 ルフィナの言葉に八代通は頷くが、その表情は芳しくない。

 

「確かに叩けばヤツの武装を無くせるだろう。だがUAVが何機出てくる? こちらだってミサイルは無限じゃない、数十機単位で出てこられでもしたらとてもじゃないが足りないぞ」

「でも、やっぱり完全無敵なんてありゃしねーってことが分かったよ。ヤツをクーデター軍に置いとくわけにはいかない。――だけど、アタシはヤツを破壊しない」

 

 真っ直ぐに八代通を見つめ、ルフィナははっきりと宣言する。

 

 ――YR-29-ANMヘリオスを、ソレイユは撃墜しない。

 

 ソレイユクーデターチームから、彼女をすら解放する。

 それが、ルフィナが八代通との会話の最後に言い放った言葉だった。




長らく掛かってしまいましたが、ようやく更新です。
なんだか最近小説を書く頭でないのがツラい……。

まあなにはともかく、第一幕最終話に向けて突っ走っております。

次回もどうかよろしくお願いいたします!
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