ガーリー・エアフォース-カラフルアロウズ-   作:鞍月しめじ

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ALT.38『流星』

「よし、ここにいる全員が出撃可能要員だな」

 

 ブリーフィングルーム。八代通は席についたパイロット達を見渡して語る。

 アニマたちは勿論のこと、いよいよ差し迫った空中空母型ザイ撃墜作戦の頭数合わせとして、通常機のパイロットも混じっている。

 

「随分日が経ったが、今度は逆に時間が無くなった。今まで姿を消していた空中空母型が、まもなく小松に飛来する」

 

 プロジェクタースクリーンに表示されるデータを次々に指しつつ、彼は手早く説明を済ませていく。

 空中空母型こそ撃墜すべき敵であるものの、それ以上の危険目標が控えているのも忘れてはいない。

 

「YR-29-ANMヘリオスも、恐らくは我々が飛び立てば勘づく。襲い掛かってきた場合は、相手にせず逃げろ。あくまでも、我々航空自衛隊の相手はザイだ。ドーターじゃない」

 

 あらゆる性能が未だアンノウンとされるYR-29-ANMとの邂逅の危険がある任務。だがしかし、怖れて逃げているのでは守護者として意味がない。

 ザイが現れて以来、航空自衛隊小松基地とは日本だけならず世界を守るための重要拠点なのだから。

 

「いよいよかー」

 

 ブリーフィングを終えて伸びをするライノ。米海軍に指揮権があるとはいえ、彼女も参加パイロットの一人だ。

 長らく駐機していたサファイアブルーのF/A-18は、目撃した一般人から注目の的だった。

 

「本当にキミは、大丈夫なんだね。ライノ」

 

 その隣に座るトムキャットは相変わらず、ライノの状態には懐疑の目を向けていた。

 

「大丈夫だよ、もう。確かに最近妙にふわふわしてたけど、ルフィナを見たんだ。あの――基地攻略の時にさ」

「彼女も出撃していた、当然だろう?」

 

 トムキャットの言葉に対して、ライノは手を振りつつ「違うよ」と否定する。

 

「あのEPCMアタックの時、なんていうんだろうね……凄く眩しかった」

「眩しかった」

「そう。あたし、きっと()()()()()んだ。でも、眩しい光を見て……無性にその光を追いかけたくなって……。でも行けなくて。そうしたら、ルフィナが手を引いてくれたんだよ。うーん、うまく言えないなぁ」

 

 ライノも言葉をうまく引き出せないらしく、どこか物語を語るような曖昧な説明ばかりが飛び出す。

 トムキャットは前方に座るスカイグレイの髪へ視線を配らせた。

 

「灯火の案内人、か……」

 

 クフィルやファルクラムたちと会話するルフィナを眺め、トムキャットはそう形容する。

 

「ルフィナ、ビゲンの分も働いて帰りましょう」

 

 トムキャットたちが後ろで席を外す。クフィルの紅い髪は彼女たちをルフィナから遮るようだった。

 

「当たり前だ。レーベンにヴィゴラスも、宜しくな」

「昨日は随分とファルクラムとはお楽しみだったらしいが、まあいい。ヘリオスが現れたらどうする」

 

『航空自衛隊の相手はザイ』であるが、PMCソレイユの相手はそれだけではすまない。

 レーベンが問うと、ルフィナは一番機として隊へ通達する。

 

「指示あるまで攻撃は無し。……使い捨てるようだが、自衛隊じゃヘリオスを落とすのは無理だからな。利用しつつヤツと話す時間を稼ぐ」

「やはりお前は落とさないか。ヴィゴラスはどうだ」

 

 レーベンがコメットブルーの髪色を持つ少女へ視線を投げた。

 ヴィゴラスは明るい色の髪をかきあげつつ、毅然とした口調で言い放つ。

 

「無理ですわ。あのバケモノが、素直に話し合いのテーブルにつくとは到底思えません。自殺行為ですわ」

「テメェ、ヴィゴラス。お姉さまの指示に従えないっての?」

「従わないとは言ってませんわ、ファルクラム。無理だと――ただそう言っているに過ぎません」

 

 にらみ合うファルクラムとヴィゴラス。ヘリオスを説得するというルフィナの提案に、ソレイユ飛行隊は概ね賛成ではあったものの、ヴィゴラスのように『不可能だ』として乗り気でない者もいた。

 ブリーフィングルームを後にしつつ、ステラ飛行隊と共に研究室へ向かう。アニマ用のパイロットスーツは研究室に保管されている。

 その道中、シュペルエタンダールがルフィナに並ぶ。手元のスマートフォンに文字を打ち込むと、彼女はそれをルフィナに向けてかざした。

 

『Je crois en toi(私はあなたを信じる)』

 

 相変わらず表情はないが、ルフィナには言葉の意味が通じていた。

 梅紫の髪に手をのせると、シュペルエタンダールの髪を撫でつつルフィナは「ありがとな」と優しげに微笑みながら語った。

 

 

 

「よし、システムはオールグリーン」

 

 次々と離陸していく自衛隊機を眺めつつ、ルフィナは次々とシステムチェックを終わらせた。

 TVCエンジンノズルも、各動翼も異常無し。

 視線を格納庫へ向ける。唯一残されたJA-37-ANMのドーターだけは留守番だ。ダイレクトリンクの輝きを纏い、空を舞うことはない。

 

「さあ、行くか」

 

 ランウェイにて、いよいよ離陸許可が下りる。後には仲間たちが離陸を待っている。迷うことなくスロットルを開き、ブレーキを外した。

 ロシアで交換されたエンジンはやはり当初のエンジンとは性能を比べるまでもなく、フル武装状態である現状でも気持ち程度に離陸距離は縮まっていた。

 

「これでヘリオスとの戦いを終わらせなきゃ……アタシたちにも先が無い」

 

 ルフィナを筆頭に、空へ上がるソレイユのドーターが色とりどりの矢じりのように、何事も無いような青い空を飛んでいく。

 この先に待つのは恐らく地獄絵図なのだろう。ザイだけならばまだしも、ヘリオスまで出てくれば一般機のパイロットの命はない。

 何機生きて帰れるか――人間たちのみならず、それはアニマたち皆も考えている。

 

 □

 

 飛行開始からさほど時を待たず、ファントムが周囲を飛ぶ味方機達へ告げる。

 

「視認範囲に入りますよ。随分とまぁ……」

 

 空中空母型ザイ。空母となれば無論、護衛機がいるのが一般的で今回も例に漏れることはなかった。

 ファントムの嘆息はそういった事ではなく、そのサイズだった。

 

「随分とデカイな……こんなのが今まで消えてたのか?」

 

 先頭を飛ぶ慧も、そのサイズ感に圧倒される。

 ほんの小さな山程度であれば、その機体を隠すことは出来ないほど。『空中空母』というよりは『移動要塞』とでも称して然るべきの重武装と、他を圧倒する巨体が悠然と空を舞っている。

 周囲を護衛する制空タイプのザイが、ちょっとした鳥程度に見えるほどのサイズだ。操縦捍を握る慧の手に、知らず知らずと力が入る。

 味方にも今までとは比にならないドーターとアニマがいて尚、彼の生存本能が『逃げろ』と叫んでいた。

 

「今さら恐がってる場合じゃない! 行くぞ――」

〈待ってください!〉

 

 スロットルを開こうとした慧を、ファントムが制止した。

 刹那、レーダーに光点が現れる。

 

「なんだ? ザイに重なってる……? だけど、高度がずっと上だ」

 

 レーダーに現れた不明機。その高度は遥か上空、ザイの真上だった。

 レーダーに記される不明機高度はみるみる内に下がっていく。

 

「まさか……!」

 

 ルフィナがレーダーを横目に叫んだ。

 

「バービー隊、近すぎるッ! ソイツから距離を取れ、早くッ!」

 

 バービー隊三機がルフィナの声に反応するその一瞬の間に、レーダーは真っ赤に染め上げられた。

 

「レーダーに多数のブリップ……! ザイじゃない……! 慧!」

「分かってる! うち一機がヘリオス、残りはなんだ!?」

 

 グリペンの叫びに反応しつつ、慧が操縦捍を倒す。右バンクからターンし、バービー01であるJAS-39D-ANMが離脱。ついで、同隊02と03が離脱した。

 離脱完了を待つこと無く、空中空母という『要塞』が突如大爆発を起こし真っ二つに折れる。

 

「ヘリオス……!」

 

 ファルクラムがザイの破片を、ほうき星めいて駆け抜けた機影を睨み付ける。瞬間、不明機の反応が敵機と変化した。

 ファントムが一足先に気付き、レーダーを更新。なんとか間に合った形だ。

 

「空中にいるのはUAVです! 今の爆発については説明が付きませんが……」

 

 ファントムの視界には既にシトロンミストの機体が海面で翻る姿が見えている。

 角張った後退翼に更に翼を付け足したような前進翼、上反角の付いたカナードも確認できた。YR-29-ANMヘリオスが、一瞬にして山のような巨体を屠り、そしてバービー隊、ステラ隊、ソレイユ隊へと向かってくる。

 

〈なんだ……!? UAVが纏わり付いて……!〉

 

 不意に、通常機のパイロットからの無線が入った。

 F-15Jの周囲を数機のUAVたちが囲んでいた。

 次第にグレーの機体には不釣り合いな紫電が纏わり付いていく。

 

〈くっ……! なんだ、これは!?〉

 

 必死に回避機動を取っても、稲妻が剥がれる事はなかった。

 パイロットは計器へ視線を配らせ、そしてある一点の異常に気付く。

 

「エンジンパワーがおかしい……。 まさか、コイツ――」

 

 シトロンミストの輝きがF-15Jを真っ直ぐに横切った。

 まるでそれを幕引きにするかのように、F-15Jはあまりに唐突に爆発、炎上。空でのそれは、すなわち死を意味する。

 

「先程の稲妻と、最後の無線……嫌な予感がします。空想の世界から出てきたような――」

〈マイクロウェーブ〉

 

 ファントムの疑惑を、意外な人物が決定付けた。

 

〈私が利用したのは、マイクロウェーブ。不意討ち程度にしかならないようね。不要、他のリソースに回した方がマシ〉

 

 答えたのは、他ならないヘリオス本人。自爆するマイクロウェーブUAVを背に、YR-29-ANMが隊列に割り込んだ。

 

〈もう準備はいいでしょう? 私が学んだドーターの力、貴方たちは上回る事が出来るのか……見せて〉

 

 ヘリオスはミサイルロックされる直前に隊列から逃れ、UAVをまるでシューティングゲームのオプションのように自機の周りに配置する。

 残された通常機めがけてコブラマニューバによる急減速を掛け、背後に回り込む。

 

〈あなた方には退場してもらいましょう。人間に用はない〉

 

 UAVがYR-29-ANMの主翼に潜り込む。二機が兵装ステーションに固定されると、UAVに搭載された大口径キャノンが発射される。

 散開して回避機動に移る一瞬を狙い撃つヘリオスに、通常機では相手にならなかった。

 

「ヘリオスッ! アンタの相手はこっちだッ!」

 

 Su-35SK-ANMが機体を反転させ、真っ直ぐに向かっていく。

 

〈ソレイユ01! 待ってください!〉

 

 クフィルが叫ぶのも待たず、ルフィナはひたすらにドーターを向かわせる。

 

〈クスッ〉

 

 YR-29-ANMの無線から、愚直なルフィナを嘲笑うような声が聴こえた。

 Su-35SK-ANMのヒートシーカーが、ヘリオスを捉える瞬間にルフィナが視界リンクするモニターに映し出されたYR-29-ANMが複数に増える。

 

「なにっ!?」

 

 レーダーにはUAVを除いても、YR-29-ANMが六機に増えている。ロックオンまでも逸らされていた。

 ミサイルを打ち出す手を止められ、Su-35SK-ANMはただ真っ直ぐに向かうだけの時間が出来てしまっていた。

 

「ソレイユ01!」

 

 スカイグレイの背後から、クリムゾンレッドの灯りが差した。

 JAS-39D-ANMがミサイルを打ち出し、離脱する。

 

〈まだ人間が居たのね。でもちょっと予想外かしら〉

 

 YR-29-ANMは回避機動を取ること無く、迫るミサイルと自機の間に別なUAVを割り込ませると、UAVに搭載された大型散弾砲の弾丸でミサイルを撃ち落として見せた。

 

「予想外? 何がだ?」

 

 慧はYR-29-ANMの双発エンジンを追いつつ、問う。

 逃げるヘリオスは笑いを含みつつ、慧へ返した。

 

〈いえ、人間は脆いと教わっていたから。まさかドーターパイロットの人間がいるなんて思わなかった……〉

 

 YR-29-ANMは直後、クルビットでJAS-39D-ANMと前後を入れ換える。

 

「慧! 回避を!」

「分かってるけど、離れない……! だけど食い付かせれば、皆も狙いやすいはずだ。耐えるぞ、グリペンッ!」

 

 慧たちバービー01をもてあそぶように追いかけ始めたYR-29-ANMには、当然のように機動制限が生まれていた。

 まさに、慧たちが命を懸けて味方にチャンスを作る状態。バービー隊は後を追うが、PMCの飛行隊はまだ後を追えなかった。

 ステラはともかく、ソレイユはルフィナの指示に従う。ヘリオスを撃墜することはない。

 

〈どうするんだ、ソレイユ01……いや、フランカー〉

〈あたしも知りたいかな。ソレイユは撃墜しないんでしょ? じゃあ、君はどうするの?〉

 

 ルフィナへレーベン、ライノからの問いが掛けられる。

 

「任せな。ちょっと席外すから、周り頼む」

 

 ルフィナの眺めるHUDには『System Complete』の表示がある。

 一回、二回、三回――右手の指をNFIパネルの上でノックさせると、彼女はがくりとその意識を失った。

 機体のHUDにはただ『Auto Pilot』と表示されている。ルフィナにはもはや、周囲からの戸惑いも何もかも届いていない。

 

 ただ彼女が感じるのは深く、深くヘリオスの意識に沈み込む感覚だけだった。




やっぱ頭いっぱいいっぱいです(
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