「航空自衛隊、独飛との依頼は『ザイの撃破』をもって完了……とはいえ」
すっかり身体の調子を取り戻したビゲンは、個人売買で手に入れた乗用車のボンネットに腰掛けて空を仰ぐ。
任務は完了。構うことはない。まだライノの問題はあるが、ルフィナ単体ではどうしようもないのが現実である。ゆっくりとやっていく、とルフィナ自身語っていた。
「こっちは車も失ったし、妙ちくりんを拾うし……あの社長にどう説明すりゃいいのかしらね」
「私の事かしら。妙ちくりんというのは」
語りかけてくるシトロンミストの髪色の少女をビゲンは横目に見遣りつつ、「他に誰がいるのよ」と声を低めた。
「アンタの機体パーツはアメリカ行かないと出ないから、また長旅になるわよ。まあ、ライノの働きかけで米海軍様が気ぃ利かせて、給油タンク積んだF/A-18回してくれるみたいけど」
「空中給油プローブを搭載していて正解。今はあの会社に感謝しなくては」
くすくすと笑う少女――YR-29-ANMヘリオス。
ドーターは比較的軽傷だった。先日の空戦でルフィナが放ったミサイルは直前で自爆した。YR-29-ANMのエンジンが少々破片を吸い込み、パネルに破孔がいくつか出来はしたものの、戦闘機動を取りさえしなければ持つと判断出来るものだった。
勿論常時システムチェックを行い、些細な異常も探し続けての飛行になるが、元々が対ザイ用有人機。並大抵の耐久力ではなかった。
「フランカーは行ってしまったのね」
「ええ。……多分、アイツなりに考えはあるはず」
ビゲンが携帯端末を取り出し、メッセージを開く。
ルフィナの残したメッセージが画面に表示された。
『ヘリオスのいた会社に行ってくる。暫くソレイユを頼んだ』
「ホント、バカね」ビゲンはメッセージを閉じつつ、嘆息する。
突然吹いた強い風に目を細めつつ、ボンネットに寝転んだ。ボディから投げ出された足を揺らして、空を見つめる。
「もっと頼れって言ったつもりだったけど」
身体を起こしつつ、ビゲンは首を鳴らす。
悩んでいても仕方ない。とにかく今は帰らなくては。車はまた空輸するはめになるだろう。
端末でスタッフに連絡を入れ、ビゲンは基地内部へとヘリオスを連れて戻っていった。
□
「あ、ビゲン。探しましたよ。基地側は、出発はいつでも可能だと言っています」
ちょうど滑走路が空く時間だったのか、クフィルが二人の目の前に現れて告げる。
「そっ。なら、最後にグリペンたちに挨拶してくるわ。……ファルクラムは?」
「あからさまにうつ状態です。飛行は可能でしょうけど、問い掛けにもろくに反応しません」
「彼女がフランカーを気に入っているのは知っている。自分を操っていた組織に行ったとなれば、不安定にもなるでしょう」
髪をかき上げつつヘリオスは語った。
現在の実質一番機であるクフィルも、どこか表情は沈んでいた。
「アイツがいないと、案外寂しいモノね」
いつもある喧騒。スカイグレイの輝き。
日本での仕事終わりに、欠けたものは大きかった。
「ヘリオス、アンタは大丈夫なのね?」
「貴方も“私”を見た筈でしょう。誰一人、私のテストパイロットは『死にたくない』と言わなかった……私を最後に人類の側へ繋ぎ止めた彼等のため、また私は飛ぶだけよ」
また後で。ヘリオスは手を振り上げ、ビゲンたちから離れていく。
「ルフィナのヤツ。せめてアイツをなんとかしてから部隊空けてほしかったわ」
「同意見です。今は早く、そして無事に戻ってきてもらえるように祈りましょう」
クフィルに同意しつつ、重たいため息がビゲンから漏れた。
これ以上は長居できない。ファルクラムに異常があるなら、誰かが操縦を受け持つしかない。
クフィルとビゲンは二人並んで、着替えに向かう。
小松基地滑走路に、再び色とりどりの機体が並んだ。
スカイグレイのSu-35SK-ANMに代わり、カメリアレッドのクフィルANMが先頭に立っていた。
「帰るまでが任務です。我々ソレイユは一度ステラ社飛行場に着陸、社長からの指示があり次第ソレイユ本社飛行場に向かいます。ランウェイで訊き直すのもなんですが、異議はありませんね?」
整然と並ぶドーターを見遣りつつ、クフィルは無線に投げ掛ける。
異議無し。少なくとも、目立った反論はクフィルの耳に届く事はなかった。
「今度は騒がしい
YR-29-ANMのコックピットでヘリオスは呟く。
Su-35SK-ANMに良く似た全周モニターには、常時システムチェックのログが流れ続けている。
前方でクフィルANMが加速していく。次いでJA-37-ANMが。F-4X-ANM、J-10-ANMと離陸し、少し置いてMiG-35-ANMが加速していく。
「これから見られる世界は、どんなものか……」
呟いて、ヘリオスはドーターのブレーキを外す。
パワーダウンこそあれど、全くの新造エンジンであるYR-29-ANMのパワーユニットは凄まじい勢いで機体を前進させた。後ろで待機していたF-14D-ANMたちは瞬く間に小さくなっていく。
「フランカー……いえ、ルフィナ。早く戻ってきて。貴方がいなければ、私もここに来た意味がない」
小松の街が眼下に消えていく。
色とりどりの戦闘機たちは、雲一つ無い青空へと羽ばたいて行った。
短いながら、二幕へ続く。
ルフィナは一旦離脱しますが、すぐ戻るんじゃないですかね(?)
二幕はこのまま、新章として書き続けます。
以降もどうかよろしくお願いいたします。