ガーリー・エアフォース-カラフルアロウズ-   作:鞍月しめじ

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第二幕タイトル『カラフルハーツ』


新たなるスタート地点
ALT.41『漆黒の太陽』


 フランス、某所。

 オフィスビルの地下駐車場から、一台のセダンが飛び出してきた。

 ギャップで小さくジャンプしながら走るセダンを追うのは、銃撃を伴った複数のSUV。

 

「うわわっ!」

 

 必死の様相でステアリングを回すのは、スカイグレイの髪色をした少女。

 リアガラスを貫通してくる銃弾を伏せてかわしながら、ただ無我夢中にアクセルペダルを踏み込む。

 

(うひい! たかだかコンピューターハッキングして、社長にデータ流しただけだってのに戦争かよ……!)

 

 非現実的な速度で車窓の景色は流れていく。事情を知るよしもない一般車のクラクションに晒されながら、少女はただ必死にステアリングを振り回す。

 市街地では流石に銃撃は無かったが、不意に後ろから追っ手の姿が消えた。

 

「ふー……」

 

 逃げ切ったか。少女はもとより運転に慣れているわけではない。何度物にぶつかったかもわからないが、車の持ち主はあのMiG-35-ANMを操り、YR-29-ANMヘリオスでアニマの選別を図ろうとした男が持っていたPMCのものだ、気になどならない。

 警察に追われることになろうと、とにかく身を隠すだけ。

 

 アクセルペダルから足を離し、交差点を走り抜けようとしたその刹那だった。

 追っ手のSUVはセダンのドアめがけて、少女の左手側から全速力で突進してくる。

 

「うっ……」

 

 ひしゃげるボディパネルに弾け飛ぶガラス。少女は頭を伏せながら、しかしどうすることも出来ずに二転三転と横転する車の中でもがいた。

 遠くにパトカーのサイレンが複数に重なって聴こえていたが、それよりも追っ手が早い。

 

「くっ……」

 

 頭がぐらぐらする。シートベルトを外す余裕すらない。

 車は上下逆さになってしまっていた。白煙が車内に流れ込む。

 靴音と共に、少女の視界に黒いブーツが入り込む。じゃきりと重い金属音が聴こえて、軍用ピストルがひしゃげた窓枠ごしに見えた。

 

(ヤバイ……)

 

 身動きが取れぬまま、このままでは撃たれて死ぬまで何も出来ない。

 まだパトカーのサイレンが遠い。とてもではないが、地元警察は間に合わない。それよりも早く銃口は少女へ向けられるだろう。

 ここまでか。少女には、諦めるしかなかった。PMCを破滅に追い込めるだけのデータは、少女のいるPMC『ソレイユ』へと送信が完了している。

 それを使ってくれると信じて、少女は目をつむる。

 

「……?」

 

 銃声も、衝撃も無い。待てども痛みはなく、反対に車外で武装した人間たちが倒れていく。

 風を切る音と、微かな吐息。それだけが少女には聴こえた。

 

『これで全員?』

『全員な訳あるものか。だが、少なくとも追っ手は片付いた。すまないが私には立場がある。先に行くから、地元警察が来る前に助け出してくれ』

 

 声も聴こえた。片や聞き覚えのある声だった。すぐにひしゃげたドアが外され、アイリスの輝きが少女の目に飛び込む。

 

「見つけた、お姉さま!」

 

 満面の笑顔と共に、藤色の髪の少女は車内へと手を差し伸べた。

 

 □

 

「なんだってファルクラムがここに……」

 

 地元警察から姿を隠す形で、ファルクラムがとある人物の手引きで用意していたというアパートに逃げ込んだ二人。

 すっかり日が暮れたにもかかわらず、部屋の明かりは最小限だった。リビングのライトもつけられてはいない。

 その薄暗いリビングでSu-35SK-ANMフランカーことルフィナは、車内でぶつけた頭をタオルで冷やしつつ、スカイグレイの髪に触れる。

 

「前だってそうです。私、お姉さまのバイタルを追跡してるんですよ? 一度欺瞞されて見失ったので、本気で落ち込みましたけど」

 

 窓の傍に背中を預け、手に持ったピストルをチェックする少女。MiG-35-ANMファルクラムは外の喧騒から、リビングに座るルフィナへ視線を移して語った。

 

「ソレイユは頼むってメッセージ残したろ……」

「それはそれ、これはこれです。お姉さまのいない部隊に用はないですから」

 

 まるで話にならない。

 ファルクラムは元々我の強いアニマ故、話をして聞くタイプではないが。

 

「お姉さま。そこにある銃っぽいパーツ取ってもらえます?」

「これか? また大袈裟な……」

 

 テーブルの上に投げ出されていたピストルカービンキットを手にとって、ルフィナはファルクラムへ手渡す。

 渡されると、ファルクラムはピストルからスライドを手早く取り外してカービンキットへと移し変えた。

 スライドを何度か引いて作動を確かめ、弾倉を押し込み初弾を籠める。

 

「戦争でもやる気かよ、お前」

「お姉さまの為なら戦争でもなんでもしますよ? もしあなたが望むなら――」

 

 ファルクラムが言い掛けると、玄関のドアがノックされた。素早い反応でピストルカービンの銃床を展開し、覗き穴へと向かう。

 ルフィナがその背中を追う。左手は腰に着けたナイフの柄へ添えつつ、ファルクラムは足音を立てる事無く玄関先に立つ。

 

「……」

 

 ピストルカービンをドアに突き付け、だが正体がわかったのか鍵を開ける。

 

「銃を下ろしてくれ、ファルクラム。尾行はいない」

 

 ファルクラムに警戒されながら部屋へ入ってきたのは、一人の女だった。

 眼鏡に綺麗な黒髪。黒いスーツを華麗に着込み、良く似合っている。ルフィナは女の姿に、ビジネスモードのビゲンを重ねた。

 良く似た黒だが、ソレイユ隊のレーベンではなかった。

 

「間一髪だったな、Su-35SK-ANM……いや、ルフィナか」

「アンタは?」

 

 ソファに寄り掛かりつつ、ルフィナは女へ問う。

 

「ブーランジェだ。DGSE所属、階級は中尉――」

「お姉さまを信用しないの?」

 

 ファルクラムが女の後ろで銃を鳴らす。威嚇するだけなら、それだけで充分だった。

「そうだった」ブーランジェは大きくため息を吐き、語る。

 

「ラファールANMだ。ステラではシュペルエタンダールが世話になった」

「ラファール……そうか、アンタがラファールのアニマか」

 

 ルフィナの脳裏に、一切感情が無いものの気付けば傍にいたマリーヌ・ディヴェールのアニマが過る。

 シュペルエタンダールANM――フランスが大量のラファール用アニマを生産する過程で『事故』として生まれたアニマ。

 彼女の大元である『ラファール』が、今ルフィナの目の前にいた。

 

「彼女は元気にしていたか?」

「まあな。今はわからねーけど、まあ元気なんじゃねーか?」

 

 そうか、とラファールは安堵のため息を漏らす。

 地元警察のサイレンが響く中で、三人のアニマはそれぞれソファに腰掛けた。

 

「結論から言って、まだ動くのは危険だ。会社にも捜査が入るし、飛行場にも少なからず手が入る筈だ。そこでドーターが見つかった時は、少々恐ろしいがな……」

「まさか、バラされるとか言わねーよな」

 

 冗談めかして言ったつもりだったルフィナだが、ラファールの表情は芳しくない。

『有り得る』とでも言いたげだった。

 

「元々、我がフランスもアニマ開発の失敗国だ。今は私というアニマがいるが、それも非人道的と言わざるを得ない状況の上に成り立っている。シュペルエタンダールはまさに、その負の象徴の一つだ」

 

 こつん、とテーブルをすらりと細い指でノックしながらラファールは続ける。

 

「正直、研究目的で軍が接収する可能性は充分にある。私も流石に、軍を押さえられる自信はない……だが、今動くのも危険だろう」

「ならどうする? 夜中のうちに飛行場潜り込んで、無理矢理離陸するか」

「アメリカまでどうする気だ? 燃料満タンに増槽を目一杯取り付けても、北大西洋で海水浴する羽目になるぞ。フランス空軍は手を貸せないからな、空中給油機も無い」

 

 重たい空気に、ルフィナが天を仰ぐ。せめて帰れるように会社を利用すべきだった、と心底後悔した。

 

「じゃあファルクラムは? どうやって来たんだ?」

「飛行機です」

「いや、戦闘機だろ?」

「旅客機です」

 

「は?」ルフィナから間の抜けた声が漏れた。

 

「だから、航空券を取って普通に来ました。ドーターじゃないです」

「……バカじゃねーの!?」

「バカで結構ですよ! お姉さまの為なら、いくらでもバカになれますから!」

「帰りどうすんだ!? アタシのドーターは二人乗りじゃねーぞ!」

 

 とんとん。ルフィナとファルクラムの言い合いを止める咳払い代わりか、ラファールが二回テーブルをノックする。

 

「最悪はドーターを分解、船に乗せアメリカで再度組み立てる。軍を動かせれば、多少は楽になるが……」

「とにかく、暫くは動けないんだな?」

 

 ルフィナの問いに、ラファールが頷く。

 Su-35SK-ANMの分解に関して言えば、ソレイユであれば組み立てられる。問題は輸送だ。

 ラファールの言う通りならば、まだ動くべきではない。

 ステラとソレイユに連絡を取り、連携するしかない。ルフィナは端末を取りだし、双方へと連絡する。

 

「連絡した。あとはどっちか――もしくは両方が良い考えをアタシより先に出してくれれば、フランスとはおさらばだ」

「私の方からも、なるべく良い方に事が転がるように動いてみよう。――あまり長居すると疑われるな。今日は失礼する」

 

 ラファールが立ち上がり、部屋を出ていく。

 ファルクラムがピストルカービンを手に後を追うと、鍵を閉める音がルフィナの耳に届いた。

 まだ電気はつけられない。暗い部屋は、まるでルフィナの今の心境のようだった。先も見えず、動けば何かにぶつかってしまう。

 だがじっとしていては、いつか限界が来る。ファルクラムも同様に、検査が受けられないとなれば『アニマ』としてはあまりに危険といえた。

 

「どーすりゃいいんだ……」

 

 大きなため息をついて、ルフィナはソファに身体を預ける。

 するりと背もたれから崩れ、身体を横たえる。

 考えようとすればするほど、沼に足を取られるようだった。事の重大さに反して、眠気が襲い来る。ファルクラムを放って、ルフィナはその意識を手放してしまった。




二幕!
まさかの絶望スタート。
まだまだ書いていくので、どうか宜しくお願い致します!

マニア向け

ファルクラムのピストル:シグザウアーP320(アンチソレイユPMCの物)
アパート内にて:P320+フラックスディフェンスMP17ピストルカービンコンバージョンキット
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