ガーリー・エアフォース-カラフルアロウズ-   作:鞍月しめじ

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ALT.42『嵐の幕開け』

「やべえ、寝ちまったか」

 

 窓の外から射し込む明かりに目を細め、ルフィナの意識が覚醒する。

 モダンな作りのアパートは柔らかな色使いだったことに、今更ながら気付かされる。とても『一時的な避難場所』として扱うには豪華すぎる家だった。

 辺りを見渡していると、不意にするりと掛け布団が身体から滑り落ちる。

 

「え……」

 

 自分の身体を見て驚愕する。服は着ていた筈だし、脱ぎグセもない。しかし今ルフィナが纏うのは下着だけだ。

 誰が脱がせた? そんなもの、一人しか浮かばなかった。次の瞬間、その人物の名前を叫ぶ。

 

「ファルクラムッ! テメーッ!」

 

 空虚なアパート。その寝室の壁にルフィナの声が、がんがんと反響する。

 

「あ、起きましたか。お姉さま」

 

 呑気に扉からひょっこりと顔を出すファルクラム。藤色の髪はアパートの色使いから少々浮いていた。

 しかしそれより、ルフィナの怒りが収まらない。

 

「『起きましたか?』じゃねー! アタシに何した!?」

「何もしてませんよ。窮屈そうだったんで脱がせたんです!」

「テメーなぁ……」

「そんなことしてる余裕なんかありませんよ! 早く服着て出てきてください、やることありますから」

 

 ぱたんと音を立てて寝室の扉が閉まる。珍しくファルクラムがからかってこない。

 ルフィナは首を折れんばかりにかしげつつ、だが自供を引き出せないとあっては無駄と諦めざるを得なかった。

 

(そりゃあ、無防備なお姉さま見つけた時は考えたよ。『チャンス!』ってさ)

 

 まだルフィナが出てくることはなく、ファルクラムはピストルカービンを片手にソファに座っていた。

 

(いざとなったら『意識無いお姉さまをそうしても』――なんて浮かんだんだから、ホント私ヘタレ……)

 

 深いため息と共に、柔らかなソファに背中を預ける。

 ソレイユの端末を掲げ、画面を開いた。そこには『フランス軍より依頼あり』との文字が綴られている。

 送り主は社長。そして連名でステラ社社長、セイイチの名前もあった。

 

「S.I.A.S.か。いよいよそんな堅苦しい名前背負うのね」

 

 文頭にある略字。『Soleil International Anima Squadron』――要するに、ソレイユが国際的にアニマを飛ばすための飛行隊。

 今まではそういった飛行隊名も無いままだったが、機体数が増えたことで一纏めにしたようだった。

 ともかく、憂いつつ画面を眺めるファルクラムはまたため息をつく。

 

「わりー、ファルクラム」

 

 寝室の扉が開いて、申し訳なさそうに縮こまったルフィナが姿を見せた。

 

「別に良いです。私も、そういったことしたくなかった訳ではないので」

「……で、やることって?」

 

 ルフィナが訊ねるとファルクラムは身体を跳ね起こし、テーブルの上に端末を滑らせた。見るように促すと、ルフィナはそれを手に取る。

 

「フランス軍の依頼って、随分タイムリーだな。――これ、なんか関係あんのか?」

「……まあ、普通はそう思いますよね」

 

 ルフィナが放った端末をキャッチしながら、ファルクラムは首を鳴らす。身体もそろそろ限界が近い。ファルクラムがフランスに来てから、半月の時間が立っていた。

 アニマへの投薬用薬剤など、すでに切れかかっている。

 

「このタイミングで私たちソレイユ――折角ですし、S.I.A.S.と呼んでおきましょう。そこへフランス軍からの依頼が来た。お姉さまを逃がさなきゃいけない、このタイミングで――です」

「軍からの依頼なんてマトモな使いっぱしりじゃねーが、確かに話は出来てる。ラファールも『軍を動かせれば』って……まさか」

 

 ルフィナはなにかに気付いたように目を見開く。

 

「ラファールが動かしたのか?」

「もしくは、ラファールが動かせるだけの理由があったか――です」

 

 ついつい、と端末の画面で指を滑らせるファルクラム。

 一つのデータを開き、それをルフィナへ見せた。

 

「EF2000、タイフーンドーター化計画……」

「失敗したそうですが。そして成功したのは、ラファール」

 

「で?」ルフィナは端末を押し返して問う。

 

「どうしろって? 見る限り基地ごと吹っ飛ばされたらしいが、まさか作れって?」

「厳密には再現だ」

 

 昨日聞いたばかりの声が割り込んでくる。ラファールは「勝手にすまないな」と謝罪しつつも、壁に寄りかかり腕を組む。

 

「ルフィナの答えは合っている。S.I.A.S.に依頼した際、軍部は君ならばアニマに深く干渉出来る点に目をつけた」

「あのなぁ……ゼロから作るなんてのは、ムリだぞ」

「そこは問題ない。――工場からタイフーン用の素体をロールアウトする。問題は、データをかき集めてもタイフーンをどうにかは出来ない」

 

 だから、とラファールは言う。

 

「だから、ルフィナの出番なんだ。タイフーンに干渉し、安定させる。軍部の狙いはそれだ」

「……何年かかる話だ、そりゃ?」

「いや、素体はあるらしい。私もいい気分はしないが、何しろあの『工場』だからな」

 

 タイフーンに適合するコアを持ったアニマ。それはもう既に存在している、とでもラファールは言いたげだった。

 

「まあ失敗にせよ何にせよ、フランス軍が動いたんです。貴方を万全にするためなら、フランシュ=コンテだろうと動きますよ」

「輸送飛行隊か……」

「それにステラ機、ソレイユ機であれば空域を通せるようになる。それで北大西洋を渡る難易度は格段に下がる」

 

 今までの問題は空域だった。軍がソレイユ社やステラ社を許可していない時点では、フランス空域にかかる部分に戦闘機や空中給油機を飛ばすことは出来なかった。

 しかし、今は話が別になる。ルフィナを一度アメリカへ帰還させるのも容易になるし、再びフランスへ飛ばすことも簡単になる。

 ザイの危険が少ない地域だからこそ出来る技でもあった。

 

「ただ――Su-35SK-ANMのドーターについては、『失われた』と言っている」

 

 ラファールの発言に、ルフィナは目を丸くした。

 

「失われた?」

「軍部はソレイユを味方に率いれつつ、だが君のドーターは分解する気でいる。だから失われたと言っている」

「ふざけるなよ……!」

 

 激昂したルフィナが拳を振りかぶるも、ラファールは涼しい顔でそれを受け止めてしまった。

 力を掛けても、ラファールは動かない。

 

「無論、嘘だ。個人的な調べで、まだ例の飛行場にあることが分かっている。取りに行くなら今日だ。明日には軍が入るぞ」

「……どっちの味方だよ、アンタ」

 

 拳を下ろし、ルフィナはラファールを睨みつつ問いかける。

 

「私はみっともない謀略の敵で、愚かなほど真っ直ぐな者の味方をする。ファルクラム、これを。この近くに車庫があるだろう? そこの24番だ。ドーター回収に必要になる」

 

 ラファールが放り投げた鍵をキャッチするファルクラム。

 

「カーチェイスしろと?」

「警察の検問を突破しつつ、ドーターまで駆け抜ける車が必要なんだ。私は行くが、あまり時間は掛けないほうがいいだろう」

 

 軽く手を振り上げて、ラファールは部屋を出る。

 日本での仕事と同じくまた一転して時間がなくなった。ルフィナとファルクラムは顔を見合わせ、そして互いに頷いた。

 ラファールやフランス軍が何を考えているにせよ、やらなければならないと。そうしなければ、ルフィナは身体を奪われるのだから。

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