Su-35SK-ANMのレーダーに、IFFへ応答の無い不明物体が映し出される。
じきにそれは戦闘機で、しかもドーターであるということをルフィナは目視で理解した。
「冗談だろ……」
まだアメリカまで程遠い。フランス空域の中で空中給油機までたどり着いていないのに、誰かがルフィナへ向かっている。
固有色に見覚えは無く、少なくとも援軍とは思えなかった。
〈あれがSu-35SK-ANM? 大したこと無さそうだね〉
無線から少女の音声が流れた。まるでルフィナを挑発するように、わざわざ回線をオープンにしているらしい。
「F-16? アメリカか」
真正面から向かってくる三機のドーター。うち二機はアメリカの機体だった。
不死鳥のように強く輝く真紅のF-16、夜闇に解ける淡藤色のF-15。少なくとも一機、既に存在しているドーターがあった。
「F-15がなんで……」
ルフィナが声を震わせた。アニマとは戦闘機の魂である。一つの戦闘機からは基本的に一つの魂しか生まれない。
Su-27M-ANMであるジュラーヴリクや、MiG-29SMT-ANMであるラーストチュカが存在しながら、ルフィナやファルクラムという存在が生まれたのは、人間で言う双子や本物の姉妹という関係といえる。
日本にF-15Jというアニマがいるなら、通常のF-15からアニマは誕生しない。もっと根本から違うバリエントである必要がある。
〈知りたいか、渡り鳥〉
先ほどの挑発とは別な声が、ルフィナへきっぱりとした語調で応えた。刹那、先頭のF-15がバレルロールしながらSu-35SK-ANMへ接近する。
全周モニターに大写しになった巨体の戦鳥。それをルフィナは目で追った。
F-15には本来備わらない、槍のような長いピトー管はともかく、上反角付の巨大なカナードが主翼の前方に備わっている。エンジンノズルはF-22ステルス戦闘機を想起させる、箱型の推力偏向ノズル。
「F-15アクティブか!?」
〈惜しいな。私はF-15S/MT-ANM……その名前に変わる前さ〉
「じゃあF-15S/MT“D”だろ。アルファベット忘れてきたのか、デカブツ」
強がってはいるが、ルフィナは絶えず計器類に目を配らせている。
既に三機ともに背後についているが、とても機体を翻し交戦するだけの燃料は無い。
〈01はデモンストレーターじゃないの! 覚えといてよ〉
〈02、問答はいい。Su-35SK-ANM……フランカー、今回の任務からは降りろ〉
F-15S/MT-ANMだと名乗る少女の声が、ルフィナへ任務の中断を促した。無論、なぜ他人にそんな指示をされなければならないか理解など出来ない。
「わりーな。一見からの意見は訊かないことにしてる」
〈タイフーンは起こすなって話をしてるだけさ。これはアンタらの為でもあるんだけどな〉
〈いきなり話しても理解は出来ないでしょう。フランカー、私たちは貴女に敵意を持っている訳ではないんです〉
F-16、F-15S/MTとも違う、優しげな少女の声がルフィナを宥めた。金糸雀色の大型戦闘機がF-15S/MTと入れ替わる。
「1.44。ロシア生まれが、なんでそこにいる」
〈私のことは気になさらず。ただ敵意が無いことを理解してください〉
「あのな。いきなり戦う気全開で出てきておいて、依頼を蹴れだの戦う気はないだの言われたってアタシは混乱するだけだぞ」
巨大なクローズドカップルドデルタの概念実証機、1.44はルフィナの言葉を受けて困惑するように機体を揺らした。
〈すみません。ただ、事態が急で……〉
「このまま黙って帰ってくれるっていうなら、あとでアメリカのソレイユ本社を通して連絡してきてくれると有り難いんだが?」
〈そうだな。我々ポールスター隊としても、手負い一機を三機で追い回しても楽しめやしない〉
事実だ。だが、ルフィナは悔しげに顔を歪める。
〈それに、私たちは人類守護の盾だ。その為に東西の隔たりを越え、手を組んだんだからな〉
「いきなり何を……」
Su-35SK-ANMのレーダーが不意に、敵飛行体の接近を告げる。ルフィナが問答無用に敵反応に変える相手など、ザイしか存在しない。
〈行けよ、フランカー。願わくば……今の話で納得してくれる事を祈るが〉
Su-35SK-ANMを囲む編隊から、真紅のF-16が離脱した。アフターバーナーの炎が、微かに方向を変えている。推力偏向ノズルを使用しているとルフィナは推測した。
純粋なファイティングファルコンではない。NF-16だ。
「F-16もビスタ型かよ……」
〈フランカー。最近ザイの動きは極東だけに留まらない。私たちはそれから人類を守るためにいる〉
「何が言いたい」
〈タイフーンがどうして消されたかを調べるといい。早く行け、イーグルプラスとしての私は、お前にチープな死に方をされちゃ困ると言ってるんだよ〉
「燃料満タンなら追っ掛けたがな。まあせいぜいアンタらも海水浴を楽しみな」
ルフィナはドーターの進路を維持。イーグルプラスと名乗りを改めたF-15S/MT-ANMに続いて、1.44-ANMも包囲から離れていく。
「ったく。いったい何が絡んでるのか、本社行ったら聞いてみなきゃな」
燃料ビンゴ。警告がルフィナを急かすがスロットルは維持し、操作しない。
まもなく空中給油機の座標だ。そこまでは何とか飛行できそうだった。
□
「ポールスター各機、フランカーは離脱した。ザイを叩くぞ。数は少ないが使える燃料が限られてる。油断するなよ」
〈02、リョーカイ〉
〈03了解です。スターリーダー、貴女は?〉
F-15S/MT-ANM機内。全周モニターを眺め、ペールブルーの髪を揺らす少女は暫し悩んだ。
それも一秒に過ぎず、彼女はすぐに問いに返した。
「折角気になってる相手に会えた私たちを、わざわざこんなところまで追っ掛けてきてくれたんだ。ラブコールには応えなきゃならないだろ?」
〈では、各機個別警戒で〉
「頼む。一丁見せてやるか、ザイの分からず屋どもに――北極星の力をな」
コックピットは比較的簡素だった。必要な情報が素早くアニマにフィードバックされていく。ただそれだけながら、無駄が一切無い。余計な演算は必要無かった。
故に、彼女は編隊の中でもずば抜けた機動を見せた。
素早く編隊を解き、制空型ザイを引き付けた少女。背後からのミサイルロックによるアラートさえ無視し、一気にクルビットで前後を入れ替える。
ザイ側からの反撃はない。カウンターマニューバーすら仕掛けては来なかった。
「エンジンパワーの低い、ビスタ狙いか」
F-15S/MT-ANMが背後にいる状態から、ザイは複雑にドーターを振り切ろうと左右へ揺さぶる。
ミサイルロックが上手く行かないが、彼女にはさほど関係なかった。胴体下部中央に据えられたM12ガンポッドが吼える。
内蔵されたM61ガトリング機関砲から発射される20mm砲弾が、飛行するガラス細工をいとも容易く食いちぎった。
「撃破。02、狙いはお前だぞ」
〈はいはーい!〉
NF-16-ANMの機内。追い掛けてくる二機のザイを相手に、単発機の軽量さを生かしたドッグファイトを演じつつ、フェニックスレッドの髪を軽く振り上げて、アニマは余裕を見せていた。
不意に真紅の機体が急上昇する。暗闇の中へ吸い込まれるように飛行し、続く機動で縦フラットスピン。まるでルフィナが見せる機動。それをそのまま利用し、後部に張り付いていたザイ二機を同時にロックオン。
バレルロールですれ違いざまにミサイル二発をレリーズし、同時に撃破してみせる。
〈ふふーん。太陽なんて言われてるけど、案外ラクショー!〉
炎に包まれ散り行くザイを置き去りに飛ぶ真紅のドーターを眺め、F-15S/MT-ANMのアニマは直ぐ様に下へ目を配らせる。
「最後だ。残り物には福があるって日本じゃ言うらしいぞ? いるか、ミグ」
〈では、お言葉に甘えます〉
海面付近で逃れようとしたザイを、今度はカナリアイエローのドーターが捉えた。
前方宙返りの出鱈目な機動から急降下、GSh-30-1航空機関砲の唸りが止むと、今度は空に静寂が訪れた。
「反応無し。武装は積んでおいて正解だったな」
〈もちろん! いつだって臨戦態勢だし?〉
〈話がわからない相手ではない筈ですが、フランカーが反撃する可能性もありました〉
F-15S/MT-ANMことイーグルプラスは周囲に再集結した僚機を見渡し、頷いた。
NF-16-ANMビスタ、それに1.44-ANMミグも無傷。
「全機帰還するぞ。作戦時間三秒オーバー、これ以上飛ぶと本当に海水浴する羽目になる」
〈リョーカイ、スターリーダー! 今度はワイキキビーチがいい!〉
〈海へは皆さんで来たいですね。叶うなら、渡り鳥の皆さんも〉
ミグは言う。PMCとも仲良く出来れば、と。
確かに敵ではない。彼女たち『先進飛行実験部隊』からすれば、PMCはむしろ取引先にもなりうる。
ただ、今はそうなれない。イーグルプラスは、ルフィナへの説得に手応えを感じていなかった。
恐らくはまだ動く気だと彼女は考える。そうある限り、止めなければならない。
(フランカー、タイフーンはダメなんだ。彼女はもうライノのようには行かない)
誘導するものもない暗闇を、イーグルプラスたち『ポールスター隊』は飛ぶ。
その闇を見つめる彼女の目は、憂いに満ちていた。
今回は比較的短いスパンでガリエアを更新いたしました。
というのも、新しい部隊のお披露目を引っ張る意味もないな……と。
F-15S/MT-ANMはツイッターのフォロワーさん、そしてそのご友人が考えられたオリジナルアニマを許可を得た上で、カラフル世界線に合わせて設定を付与、一部変更し、登場させています。
カナードイーグルカッコいいよね……!
本来はエースコンバット世界ベースであったようで、3のS/MT名称のようですが、現実世界に合わせて『デモンストレーター機ではなくなったから』という理由付けでS/MT名称にしました。
アクティブなどへの名称変更は、考案元を尊重して行っていません。
ミグも私の『カナリアは大空を夢見る』からの出演です。こちらではがらりと設定が変わっていますので、そちらを見るお手間は煩わせません。
もし気になったらエタっていますが、見ていただけると嬉しいです。
つまり、この中で新造したのはビスタちゃんだけです。
ちょっと派手めな現代っ子な雰囲気が出せるように描きたい……。
次回もカラフルな空を。またよろしくお願いいたします!