ガーリー・エアフォース-カラフルアロウズ-   作:鞍月しめじ

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ALT.45『カムバック・トゥ・ホーム』

「ポールスター、か」

 

 ソレイユ本社では、早速ポールスター隊が所属する『先進飛行研究所』からの通達により、三体のアニマの存在が明らかになっていた。

 ルフィナがフランスへ行っている間に、個人売買でのハイパーカー購入と納車を終えたビゲンが、新車のフロントノーズを撫でつつ呟く。

 

「横槍が入るとは思わなかったわね」

 

 フランス軍からの依頼は、難しいが単純。そう思われていた。だが、ポールスター隊の介入と通達で、そうではないことを知る。

 日本で大破したレゲーラに代わり購入した新型ハイパーカー、ケーニグセグジェスコの様子もそこそこに、ビゲンは滑走路へ視線を配らせた。

 

「まあ、アイツが一番混乱してるでしょ」

 

 着陸体制に入るスカイグレイのドーター。Su-35SK-ANMフランカーこと、ルフィナの帰還だ。

 日本での任務後にすぐ姿を消した彼女の帰還に、仲間たちはこぞってエプロンへ飛び出していく。クフィルにヘリオス、クールなレーベン達でさえ例外ではなかった。

 

 

「ふう……なんとか見慣れた場所に帰ってきたな」

 

 機体を停止させ、飛行場を見渡すルフィナ。見慣れた景色に、見慣れた顔が向かってきている。

 格納庫にも、彼女と翼を並べたドーターが眠っていた。

 

〈ルフィナ、検査をさせてくれ。なにせ空けて長いからな〉

 

 無線で聴こえたのは彼女たちに付く代表研究員、エイベルの声。かなりの長期間、ルフィナは安定剤などの投薬が無いと考えられた。

 実際そうだ。薬が切れたとしてもすぐに影響は無いだろうが、身体に負担がかかる。アニマは人工物だが、心は確かに存在する。綱渡りをするように儚く崩れやすい存在を繋ぎ止める手段が、今の人類には投薬しか無かった。

 

「了解だ。……休みてーけど」

 

 キャノピーを開放すると、嗅ぎ慣れた空気がルフィナを取り巻いた。フランスの飛行場とは比べ物にならない、オイルの匂いもする。

 検査は覚悟していたが、この後にやることとなると身体が重くなるようだった。間違いなく、ポールスター隊に関する聞き取りと書類整理。最悪は部隊を空けたことで始末書かもしれない。

 タラップを降り、駆け寄ってきたクフィルへルフィナは問う。

 

「ポールスター隊って、わかるか?」

 

 問いに、クフィルは頷いてから答える。

 

「本社に連絡がありました。フランス軍からの依頼を、破棄するようにと」

 

 ルフィナが頭をかきむしる。イーグルプラスへ冗談めかして語った言葉も、どうやら本気にとられたようだった。もしくは、初めからそうする気だったのか。それは分からない。

 研究棟に向かいつつ、ルフィナは空を見上げた。ポールスター隊は必ずまた来るだろう。敵意は無いと1.44-ANMミグは語っていたが、それも何処までが境界かなど分かりはしない。

 

「タイフーンを起こすな……か」

「え?」

 

 ルフィナの呟きに、クフィルが反応を示した。何気ない独り言。それでも、彼女が呟いた言葉は興味深いものだった。

 

「次の依頼内容はEF-2000-ANMの復旧再構成でしたね。それをポールスターは知っているんですか?」

「らしいな。タイフーンを起こすな――リーダー機らしいアニマはそう言ってたが」

 

 それから、それがソレイユの為だとも。ルフィナがクフィルへ告げる。イーグルプラスの語った言葉を。

 飛行場を重たく風が吹き抜けた。一体何があるというのか、クフィルが頭を悩ませる。

 

「実質提携先のステラ社は既にシュペルエタンダールに話をしているそうです。何か知っているかも、と」

「用があるのはアタシの力だろ? なんでシュペルに……いや、後にしよう。エイベルに呼ばれてる」

 

 やや強引ながら話を切り上げるルフィナ。研究棟へ消えていく彼女と入れ替わりに、ヘリオスがクフィルの傍らに立った。

 

「少々面倒な話になってきたわね。やっとルフィナと空を飛べると思っていたけれど、そうもいかない」

「そうですね。まだ当面は動けないかと」

 

 あいにくの曇り空を見上げ、クフィルは先を憂いた。何もかもが混乱以外なにも呼び込まない。

 空に広がる分厚い鈍色の雲。まるでその空に飛び込んでしまったように、今は何も見えないのだ。

 タイフーンというアニマに何があるのか。ポールスターが教える情報にも、まだ謎が多く付きまとっていた。

 

 □

 

「全く。身一つとドーターで敵地に乗り込むなんて、バカだバカだと思ってはいたが、本当にバカだったのか? ルフィナ」

 

 検査の最中で、エイベルは心底呆れたようにルフィナへ投げ掛けた。予防接種を終え、薬剤注射へ。

 投薬だけではすまなかった。それほどまでに、Su-35SK-ANMという存在には限界が近かった。

 

「バカバカうるせーなぁ。しゃーねーだろ。あっちじゃろくすっぽ検査も無しだ……いてて」

 

 注射針が白く細い腕に突き刺さる。腕から視線を逸らしながら、ルフィナは痛みに顔をしかめた。

 

「そういや、ヘリオスもかなり限界だったな。お前のメンタルアタック以上だった……もう一本行くか」

「そりゃそーだ。向こうの研究員はアニマの維持なんて、ろくすっぽ知識がありゃしねー。創るだけなら天才かもだが……それは液が痛いんだよな」

 

 他愛の無い会話に、アンチソレイユの話題が詰め込まれる。結局まともな名前など分かりはしなかった。

 別な注射針が腕へ狙いを定める。血管へ一息に突き刺さり、薬液を流し込んでいった。

 

「あ……いってて!」

「我慢しろ。あまり言いたかないが、お前らも……まあ……なんだ」

 

 言葉につまるエイベル。ルフィナはそんな彼へ視線をくれて、助け船を出すように呟いた。

 

「アニマは作り物だ。メンテナンスしなきゃ、その分やらなきゃならないことも大きくなる……アタシには別に、そう言ってくれていいよ」

 

 ルフィナは弁えていた。自身が何であるかを。人間のようにロマンチックな思考回路は頭から外して語ることが出来た。

 しかしエイベルは彼女たちの製造に関わった人間として、それは許せなかった。フランスのアニマ製造方式に難色を示してもいる。アニマを人間と同列に捉えられる。それが彼だった。

 

「終わったぞ。頼むからあんまり、自分を作り物だとか言わないでくれよ」

 

 使用済み注射器を専用のゴミ箱に捨てつつ、エイベルは椅子から立ち上がるルフィナへ視線をくれる。

 

「わりー。でも、たまには割り切れよ。でなきゃ、誰か助かる作戦もふいになる」

「そんな作戦、ありはしないさ」

 

 静かな否定だった。エイベルの言葉に、ルフィナは小さく笑う。

 彼女は小さく手を振ると、医務室を後にした。薬の効きは早くない。まだ実感できる効き目はないが、あとはファルクラムが同じ治療を受ければ終わりだ。

 反省文も何もなくて良かった。自身の髪色を写したような空を窓から見上げて、ルフィナは呟く。

 

「イーグルか」

 

 日本で出会った、パワー馬鹿で天真爛漫なF-15J-ANMイーグル。少なくとも、フランスからの帰路で出会ったイーグルプラスというアニマが同機種系統つまり、真の意味で姉妹とは思えなかった。

 自身とジュラーヴリクという存在には、少なからず共通点を見出だしていたから尚更だった。

 

「まあ、味付けは製作者次第ってか」

 

 まだアニマ本人すら見ていない。今そこを深く考えたところで、時間の無駄だった。

 まずやらなければならないのは、彼女たちに従うのか否か。だが少なくとも、訳のわからない組織からの戯れ言として切り捨てるという考え以外は無かった。

 それだけ今回の依頼主は強大な存在だ。

 

(……お前らが言ったんだぜ。アタシたちは渡り鳥さ、金さえくれりゃ何処にだって飛んでいく――世間的にはクズみたいな鳥だがな)

 

 ルフィナは改めて、自身の立場を思い改める。彼女たちがいるのは単なる警備会社程度ではない。金次第で戦地に赴く傭兵である。

 渡り鳥と呼ばれ、後ろ指を差されるのにももう慣れた。というより、何かを感じることもない。少なくともルフィナとヘリオスは、完全にPMC産なのだから。

 だから外部の指図を受ける気はない。

 

 それがソレイユ01、Su-35SK-ANMの答えだった。

 

 □

 

 旅客機でアメリカへ向かうMiG-35-ANMファルクラム。彼女はWi-Fi接続した端末から、タイフーンの情報を探っていた。

 姉と慕うルフィナの交信を盗み聴いて知った、『タイフーンが何故消されたか』を調べるために。

 

「タイフーンは肉体すら持つ前に消された。ラファールはそれを知っているハズ」

 

 機密文書では、タイフーンを試験していた基地ごとザイの攻撃で消し飛んだという。

 そのザイは航空自衛隊、独立混成飛行実験隊――独飛によって撃破された。危機が去ったなら、確かに再開発はしたいだろう。至極当然の運びに見えた、違和感はない。

 

「んー……。どうして邪魔をするんだろ」

 

 ファルクラムの手には、既に先進飛行実験隊のデータはある程度揃っていた。新たに端末を用意し、ハッキング対策にネットワークから断絶したそれにデータを移してまで。

 ポールスター隊には一人、ハッキングが可能なアニマがいるようだった。専門ではないが、腕は立つらしい。ファルクラムの端末も、一台はウィルスによりデータを消去された。

 だから必要なデータはネットワークから切り離したのだ。

 

「あとは本社に帰らなきゃダメか」

 

 旅客機の窓から外を見つめる。巨大な主翼が雲を割り、飛んでいる。

 不意に彼女をひどい目眩が襲った。動悸がひどい、思わず窓枠に体重を預けた。

 

「まずいな……薬切れてるか」

 

 間も無くアメリカに到着する。ファルクラムの意識はただその一点に向けられ、保たれていた。

 荷物にはなりたくない。ロシアでさんざん足を引っ張ったからこそ、次はルフィナの役に立って見せる。

 乱れる呼吸を整えつつも、ファルクラムは固く誓っていた。誰に話した訳でもないが、それは変わらない。




アメリカに戻ってきたルフィナたちの一幕でした。お疲れ様です。
まあ、そりゃ話し合うまでもなく依頼は続行しますよね普通。

注射って、薬液によってマジで痛かったりします。
注射嫌い。パクファの気持ちめっちゃわかります((
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