ガーリー・エアフォース-カラフルアロウズ-   作:鞍月しめじ

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ALT.47『欠けたピース』

 ソレイユ本社、入り口前は騒然としていた。

 MiG-35-ANMファルクラムがタクシーで乗り付けて、停車するなりそのまま車外へ倒れたのだ。

 ストレッチャーで運ばれるファルクラムに意識はなく、ルフィナが後を追おうとも彼女はなんら反応を示さない。ただ人形のように、ファルクラムは横たわっていた。

 すぐに研究室に運ばれ、人払いがされた。ルフィナたちでさえ立ち入りは制限され、やきもきとする彼女は、廊下でかつんと音を立てて床を蹴飛ばす。

 

「止めなさいな。向こうじゃ薬も検査も無しでしょう? 限界が来るのは見えてたわよ」

 

 同じ廊下の壁に寄りかかったビゲンは腕を組み、淡々と告げる。

 

「けど……!」

「いや、ビゲンの言う通りだ。そしてルフィナ、お前もああなる可能性があったことを忘れるな」

 

 言葉を返す前に、レーベンがルフィナへ釘を刺す。それは少なからずヘリオスにも言えたことだ。

 検査もなく長期間いれば、いつ拒絶反応を起こしドーターとさえ繋がれなくなるか分からない。

 

「あー、もー!」

 

 気持ちのぶつけ処の無いルフィナは髪をかきむしる。

 ファルクラムがダウンしていても、作戦開始は決まってしまったのだ。じきに彼女たちはフランスへ旅立つ。

 ファルクラムを欠いた作戦になるかはまだ決まっていないが、このままではすぐに戦線復帰するのは不可能だと判断せざるを得ない。

 

「本当、あの子は猪突猛進ですわね。私でさえ、止めようがない」

 

 コメットブルーの髪をかきあげつつ、ヴィゴラスが呟く。元々ファルクラムとは僚機で、同じ編隊で飛んだ時間はルフィナよりも長い。

 素直でないのは彼女らしさで、ヴィゴラスはヴィゴラスなりにファルクラムを気にかけている。

 

「ファルクラムのことは、スタッフにお任せしましょう。私たちに手伝えることはありませんし……。ブリーフィングを始めましょう?」

 

 クフィルはクフィルなりに、先を見据えた提案を持ちかける。

 その通り。その通りなのだ。皆にファルクラムを救うことは出来ない。スタッフに任せるしかない。だから、今は依頼契約の確認と段取りの話し合いを詰めるべきだと。

 クフィルはそう考えていた。

 

 ルフィナは心底悔しそうではあったものの、切り替えてブリーフィングルームへ向かう。

 ソレイユ隊改め、S.I.A.S.はルフィナを先頭に、廊下を移動する。

 

 □

 

 ブリーフィングルーム。メンバーは飛行隊メンバーと、社の人間だけだ。

 研究員は手の空いた数人だけ。

 

「まずフランスへ向かう。それはともかく、その後は?」

 

 レーベンが椅子に背を預けつつ、語りかける。

 

「DGSEの人間が出迎えらしい。らふ……わりー、ブーランジェはちょっと手が空かないらしくてな」

 

 テーブルに置かれた缶ジュースを飲みつつ、ルフィナが問いに答える。

 

「つまり、我々は見張り付って訳ね」

 

 肩を竦めつつビゲン。

 

「ソレイユ07、ヘリオスからはなにか無いのか?」

 

 研究員がヘリオスに話を振るが、彼女は静かにかぶりを振る。

 彼女が主張したことは今まで無い。まるで周りを査定するようにだが、ただただ周囲に従っている。

 

「待った、メッセージだ」

 

 研究員の言葉と共に、全員の端末が小さな着信音を上げる。

 その中身は、皆が少々重くなっていた腰を上げるには充分だった。

 

 □

 

「結局、避けられないのか」

 

 アメリカ、ソレイユ社でフランス行きの準備をしながらルフィナは呟く。

 数刻前のブリーフィングでメッセージを送ってきたのは、例のポールスター隊だった。

 

『手を引かないならば、我々は全力を以て破談にさせるまでだ』

 

 強気な文面からは話し合いの姿勢など感じられず。

 要するに、完全にPMCとの対決姿勢が作られてしまったのだ。

 仕方ないとは思いつつ、自室の荷物をまとめながらルフィナは物憂げに嘆息する。

 

「戦闘、戦闘、また戦闘だ。最近ザイと戦ったか? アタシ」

 

 他のアニマたちはすでに準備を終えている。残されたのはルフィナだけ。

 ただ一人ぼやいても、相槌すら返っては来ない。それにファルクラムだって、まだ目覚めてはいないのだ。

 仲間を一人欠いての出撃は、得体の知れない不安があった。

 

「……とにかくとっとと行って、タイフーンとやらを拝むか」

 

 ボストンバッグを片手に、部屋を見渡す。忘れ物は無し、火の始末なども問題無しだ。

 全飛行隊員アニマの私物は研究員が旅客機に持ち込む手はずになっている。タイムラグを考慮し、エイベルたちは先に出発している。

 ルフィナもエプロンへ向かい、自身の機体に乗り込んだ。何度も見慣れた光景だ。

 全周モニターには味方機の姿がある。彼女にとって今回初めてなのは、YR-29-ANMヘリオスが滑走路待機していること。

 各部機体にデチューンを加えた代わりに、完全なるS/VTOL機へと変貌したその異形と飛ぶのは、ルフィナにとっては初めてだ。

 

「だいぶ酷かったらしいな、ソレイユ07」

〈ええ。でももう大丈夫、ドーターとのリンクも今まで以上。オールグリーン〉

 

 ヘリオスはヘリオスで高い適合率を保ったまま、新しいYR-29-ANMへの接続を果たしており、水平尾翼の代わりとなる二段式の大型主翼フラップがパタパタと上下する。

 

「よし、ソレイユ全機。ファルクラムを欠いた作戦になるが、まずはフランスへ向かうぞ。途中空中給油がある、装備に問題ないな?」

 

 ルフィナの機体が前へ出ると、その後ろへ互い違いにドーターが並んでいく。

 問いかけにノーは返って来なかった。

 Su-35SK-ANMはエンジンを回し、前進していく。少ししてクフィルANM、JA-37-ANMと続いて、YR-29-ANMが最後に空へと飛び立った。

 

「ソレイユ01だ。全機レディオチェック」

〈02、オーケー〉

〈03問題なしよ〉

〈04、いつも通りだ〉

〈05も問題はありませんわ〉

〈07、異常無し〉

 

 無線異常は無し。しかし、06のナンバーが飛んでいる。ファルクラムは今回の作戦には恐らく参加できない。

 もしかするとそれでいいのかもしれないが、ルフィナにはどこかそわそわとした焦燥感のような物があった。落ち着かない。

 ふと、レーダーに味方が二機編隊でやってくる。

 

〈ステラ01、ソレイユ隊へ合流する〉

『Stella 02, Rejoignez-vous là-bas(ステラ02、そちらへ合流する)』

 

 大型の可変翼機、ST-21-ANMトムキャット、そして痩身の後退翼機、シュペルエタンダールも編隊に加わって、ソレイユは海を渡る。

 念のためポールスター隊の追跡も警戒したが、あちらが手を打つ前にソレイユ、ステラ共に動けたようだ。追撃は無い。

 

 曇天を紫電が迸る。天気としては最悪だが、視界の数キロ先には晴天が広がっている。

 ドーターはそこを目指し、編隊を保ったまま空を行く。空中給油機まで距離はあったが、邪魔は入らなさそうだった。

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