先進飛行実験研究所。荘厳なその巨大な建物は、今まで姿を見た者に何も伝えることはなかった。人々が気付けばそこに在り、気付けば極東に続く第二の盾と名乗っていた。
ソレイユ、ステラの両PMC――S.I.A.S.がアメリカを飛び立つほんの数時間前、この第二の盾は騒々しく内部の人間が行き交っていた。
「フランカー……」
F-15S/MT-ANM、イーグルプラスはタブレットに表示された画面をノックする。
PMC両社は書面で研究所へ通知を出したが、ソレイユ側は更に遭遇した者としてアニマ側へメッセージを残していたのだ。
小難しい字面の否定、拒否。それらが踊ったのち、明らかにルフィナの個人的メッセージとしてイーグルプラスらへの文章が記されていた。
『Fuck you』
画面の最後に記されていたのは、そういった口汚い言葉、文字。彼女らしいと言えば彼女らしい。イーグルプラスにも納得は出来た。納得をしたら負けだと思ったが、彼女は無理矢理飲み込んだ。
S.I.A.S.の飛行プランを取得したのがつい先程。勿論、イーグルプラスたちポールスター隊に命ぜられたのは追跡だ。今はクルーたちがあちらこちらと走り回り、ドーターの整備完了を急いでいる。
太陽が昇るのだ、夜である彼女たちも飛ばない理由は無い。まだPMCは気付いていない、タイフーンの危険性に。
アニマ用のパイロットスーツの具合を確かめ、靴紐を結び直す。ミグ、ビスタとも準備は出来ている。あとはドーターだけ。
そんな最中、タブレットがメッセージの受信を告げた。
「なんだ? リースベット……?」
宛名にはただ、リースベットと記されている。内容を読むべくメニューをタップして、イーグルプラスは目を丸くした。
『タイフーン計画にSu-35SK-ANMを利用するのであれば、それは彼女の破滅を意味する。こちらも警戒はしておく』
「これは……。ビスタ!」
「ん? なになに?」
メッセージの内容は不可解だ。まるでPMC内部からのメールであるかのような振る舞いが見受けられた。
ビスタへ画面を見せると、彼女は鼻息も荒く、いそいそとUSBデバイスをタブレットへ突き入れた。
「どうだ?」
「今すぐはムリっぽい。めちゃくちゃ厳重な暗号化だねー。機体側のコンピューター通せば秒で解けるけど、これたぶん字面通りだよ」
ハッキングも進まない画面に苛立ち半分でデバイスを引き抜き、ビスタはパイロットスーツのポケットにそれを押し込んだ。
上手く役に立たなかったのが気に食わないのか、不機嫌そうに口をへの字に曲げている。
「まだ機体掛かるかな……最悪ダイレクトリンクだけでも……」
前のめりになりかけたビスタを、イーグルプラスが肩を引いて止めた。
「いい。字面通りということは、奴等の内部に話の分かる誰かがいるってことだろう?」
「まぁ、ね。隊に付いてるのかは別にして」
話が分かるだけ良いさ。イーグルプラスはタブレットの画面を消灯し、準備が出来たドーターへと歩み寄る。
タラップを上がり、コックピットへ腰を下ろす。手持ちのタブレットをホルダーに差し込み、NFIに両手を置いた。
「ダイレクトリンク」
イーグルプラスの落ち着いた声音と共に、ドーターは青い輝きを放つ。電源が入り、専用の計器盤に交じってタブレットも起動した。
研究所のタブレットはメッセージをやり取りするための端末で、機体接続時は電源を利用して計器の補助機となる。
〈すみません。03、トラブルです〉
まさにこれからタキシングというところで、カナリアイエローのドーターがその輝きを失った。
離陸中止。ポールスター隊全員へ向け、離陸を止めるよう指示が下る。整備完了とはいえ、一機がトラブルを起こしたのだ。内部構造の丸っきり違う機体とはいえ、F-15S/MT-ANMもNF-16-ANMも何かトラブルを起こさないとも限らない。
それに、今回は少々場所が遠い。別々に送り出せばタイムラグが大きくなるし、何より研究所も多額の金を払って飛行する。何度も飛ばすより、もう一度チェックをやり直した方がいいという判断だった。
「……全く。また待機かよ」
クールを決め込んでいたイーグルプラスにも、少々苛立ちが見え始めている。
機体から下りるためにタブレットを取り上げる動作も、少々乱暴だった。タラップをわざとらしく音を立てて下り、クルーに目もくれず待機室へ向かった。
結局各機のチェック、特にトラブルを起こした1.44-ANMの機体検査に時間がかかり、彼女たちが空へ飛び立ったのはS.I.A.S.がフランスへ向かった約二時間後だった。
久々だとジェネレーションギャップ来ますね……。
今回は幕間の48話です。
スト魔女二次更新後、49話を書いて参りますので暫しお待ちを……。