ガーリー・エアフォース-カラフルアロウズ-   作:鞍月しめじ

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ALT.49『不穏なスタート』

 フランスへやってきたS.I.A.S.のアニマたち。

 旅行などする暇があるわけも無く、彼女たちが真っ先に車で連れられていかれたのは研究所だった。

 外の出で立ちは何の変哲もない、単なる研究施設だ。門があり、守衛が立っておりアポイントの確認を取る。至って()()()()()()施設、それがアニマたちの抱いた印象だった。

 

「で、タイフーンとやらはどこにいんだよ」

 

 堅苦しい契約だとかそういったものに興味の無いアニマ、Su-35SK-ANMことルフィナは退屈そうに吐き捨てた。

 アニマらしい姿は見当たらない。

 

「そう簡単に姿を現すとは思えないけどね。取り敢えず、仕事の内容を訊きましょ」

 

 ビゲンは軽く髪をかき上げると、つとめてクールに言い放った。ビジネスモードのビゲンだ、ルフィナでは彼女を言い負かせない。

 とにかく、急ぐに越したことはない。いつポールスター隊が妨害に入るかも分からない以上、今は一秒ですら惜しい。

 所員の案内で、S.I.A.S.のメンバーはそのまま会議室へと通される事となった。フランス対外治安総局の人間は、そこで待っているのだと言う。

 

「お待ちしていました、PMCの皆様」

 

 スーツ姿の女が一人、ブリーフィングルームに入室するルフィナたちへ声を掛けた。

 少々明るい黒髪――というよりは茶髪に近いセミロングの女は座席から立ち上がると、深々と一礼する。

 

「DGSEのフランシーヌです。会えて光栄です、あー……ルフィナさん」

 

 フランシーヌと名乗る人物は、何より真っ先にルフィナへ手を差し出した。

 妙な違和感を感じはしたが、ルフィナはこの部隊の代表だ。そう考えれば、彼女に真っ先に取り入ろうとするのも間違いではない。

 

「ま、よろしくな」

 

 差し出された手を取り、交わす。

 別に化物を相手にしている訳ではない。先出しの情報が物々しく、警戒はしていたが特段意味は無いようだった。

 

「皆さんも、長旅ご苦労様です。まずは当施設の居住スペースへ。ブリーフィングはその後にしましょうか」

 

 荷物を抱えたままのアニマたちへ、フランシーヌは苦笑を交えて伝えた。

 対外治安総局などと堅苦しい肩書きがあるが、彼女はどこか物腰柔らかな女性だった。ラファールとはある意味、対極と言える。

 

 それから案内を受けて居住スペースへ。物々しい研究所ではあったが、居住スペース――宿舎は比較的モダンで綺麗な造りだった。通り道さえ見なければ、ちょっとしたビジネスホテルくらいには見えたろう。

 

「さて、荷物は……」

 

 部屋は全員が別室。不自然に余裕のある作りだとは思ったが、ルフィナは孤独に荷物を部屋に置きながら鞄を確かめる。

 忘れ物は無い。着替えから何から何まで、きっちり揃っている。

 だが、妙な無機質さを感じる。とはいえ実験施設だ、相応の雰囲気はあって然るべきだろうが。

 

「なんだろうな、この感覚」

 

 ルフィナは部屋を見渡した。まるであちらこちらから自らを呼ばれているように彼女は感じていた。不気味な事この上無い。

 まさか幽霊じゃないだろうな。ルフィナはぶるりと身体を震わせる。

 

「縁起でもねー……。早く集合しちまうか」

 

 恐怖、不安は心を許した仲間や家族の元で打ち消される。ルフィナは荷物を一瞥すると、やや足早に自室を後にした。

 

 □

 

「ぶっ……! あっはっはははは! それで逃げてきたんだ。案外怖がりよね、アンタも」

 

 ブリーフィングルーム。ルフィナが話をすると、待っていたのは腹を抱えて笑うビゲンの言葉だった。

 

「うるせーなぁ。逃げてねーし、聴こえたんだっての! ホントに!」

「あははっ! いや、ムリ……! 腹筋つりそう……!」

 

 机に突っ伏して腹を抱え、ふるふると肩を震わせるビゲン。対するルフィナは怒りに拳を震わせていた。

 関わるとろくなことにならない。アメリカのソレイユ隊であるレーベンたちはそれを分かっているのか、着席姿勢のままブリーフィングの開始を待っている。

 

「失礼。お待たせ致しました」

 

 ブリーフィングルームの扉を開け、入ってきたのはフランシーヌ。颯爽と部屋の奥へ進むと、部屋の照明を落としてスクリーンを下げた。

 

「他の方々は?」

 

 研究者や関係者らしい姿はない。クフィルは不審に思い訊ねる。

 

「今回はアニマの作戦です。ここにはあなた方を道具としてしか見ていない者もいる。なので、今回の指揮は大まかに私が。細かい指示は研究員に」

 

 ブリーフィングに他の関係者が不在の理由は、フランシーヌがつらつらと述べていった。

 

「まず、事情は皆様の会社にも相談した通り。EF-2000-ANMについてです」

 

 スクリーンに映し出されたのは、通常機タイフーンのデータだ。

 

「我々には既に、ラファールANM――厳密には、艦載仕様のラファールMのアニマが存在しています。それに続くため製造していたのが、ユーロファイタータイフーン……EF-2000-ANMです」

 

 続いてフランシーヌの操作により、地図とドーターのデータがスクリーン上に現れる。

 スクリーンの斜め前方へ出ると、レーザーポインターを用いてフランシーヌはまず地図を示した。

 

「テストを行っていたのはイギリス空軍、ベンベキュラ空軍基地。ラファールに続く、ユーロファイターのドーター化を必死で研究していたようですが……」

 

 フランシーヌは一息ついて間を空けると、少々感情を抑えるように語る。

 

「ザイの空襲により、消し飛びました。基地ごと、機体のデータも何もかも」

 

 地図上に記されたベンベキュラ空軍基地のマークが黒く塗り潰される。

 そこまでフランシーヌが語り終えて、クフィルが不意に挙手をした。フランシーヌがクフィルを指し示し、言葉を待つ。

 

(クフィル)のベース、ミラージュなら大元はフランス機です。ですが、タイフーンの製造国にフランスは含まれていない筈。それが何故フランスで再現を?」

「それの説明がまだでしたね。失礼しました、少々複雑ですが、分かりやすく共有致します」

 

 フランシーヌが再びスクリーンに映す画面を切り替える。

 今度は真っ暗だ。何も表示されない。

 

「一つ、EF-2000-ANMが最後に残したメッセージがラファール――つまり、フランス宛だったこと。二つ、イギリス空軍ではもうアニマを製造する資金も機体も回せなかったこと。三つ、フランスには工場(ユジーヌ)の存在があることです」

 

 工場と聞いて、トムキャットの肩が微かに揺れた。視線は傍らに座るシュペルエタンダールへ向く。

 

「フランス国内に“特異点”、フランカーの存在があったことがなお、彼らを急かしたようです。結局、第三国にあたる我々に、イギリスはタイフーンの再現を依頼しました。そして、フランカーに協力させるようにと」

 

 淡々とした語調で語るフランシーヌ。槍玉に挙げられるフランカーこと、ルフィナは苦虫を噛み潰すように眉根を潜めた。

 

「完全再現されれば最高ですが、目的はあくまでタイフーンのデータのサルベージ程度だと考えてください。ルフィナさんにタイフーンの残されたデータを繋ぎ合わせてもらい、そして復旧する。それが今回、我々があなた方へ依頼する内容です」

 

 フランシーヌの言葉には感情が無い。ただ告げるだけの機械のように、彼女は言い終えると真っ直ぐにアニマたちを見つめた。

 ずいぶん簡単に言ってくれる。ルフィナは少々呆れ気味にかぶりを振ったが、既に契約は成立だ。断る選択肢は無く、ブリーフィングはそのまま終わりを告げた。

 

 部屋を出るアニマたち。ルフィナも少々遅れてブリーフィングルームを出ると、トムキャットとシュペルエタンダールが彼女を待ち構えていた。

 

「少し付き合ってくれ。話があるんだ」

「ライノの事ならまだ分かってないぜ?」

「それも気にはなるけど、そうじゃない。良いから付き合ってくれ」

 

 首をかしげつつ、ルフィナはトムキャットの後をついていく。人気の無い通路の隅に着くと、トムキャットは背後のルフィナへ振り返って語る。

 

「妙だとは思わないかい? 目の前にフランス機のアニマ、シュペルエタンダールが居た。なのにあのフランシーヌとかいう女、名前すら挙げなかった。機体もあるのにだ」

「知らなかっただけじゃないか? アニマなんて、その辺でベラベラと喋るモンじゃないんだろ」

 

 だといいが。トムキャットは口許に手を当て、悩むような仕草を見せた。

 

「彼女の生まれには、工場が絡んでる。フランシーヌも工場は知っていた。何か隠しているか、知らないだけか……いずれにせよシュペルエタンダールを少し気に掛けて欲しいんだ。調子も悪そうだしね」

 

 シュペルエタンダールを見遣るトムキャット。心配そうな瞳を真っ直ぐに見つめ返すが、やはりシュペルエタンダールは言葉を発することはない。

 

「……分かったよ。こっち側でも話しとく」

「すまない。怪しまれないうちに行こうか。とにかく、この仕事にはかなりの確率で何かある。気を付けていこう、ソレイユリード」

 

 トムキャットの言葉に頷くルフィナ。彼女の脳裏に、イーグルプラスの言葉がよぎった。

 

『タイフーンは起こすな――』

 

 彼女たち『ポールスター隊』がどうしてタイフーンに拘るのか。それを知るためにも、ルフィナはやはり仕事を進めるしかない。

 しかし、初日からやや不安の残るスタートとなったのは間違いない。ルフィナの左前方を歩くシュペルエタンダールが、ちらりとルフィナを振り返っていた。

 

「心配すんなよ、シュペル。アタシも見ててやる」

 

 ルフィナが言うと、シュペルエタンダールは小さくこくりと頷いてみせた。

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