ガーリー・エアフォース-カラフルアロウズ-   作:鞍月しめじ

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ALT.51『ダイブアウト』

 ルフィナが歩く先は、どこまで見ても漆黒だ。建物を思わせる青白いドット状の構造体が道を作っているが、輪郭がはっきりせずに真っ直ぐ歩いているかすら分からない。

 傍らを歩くシュペルエタンダールに視線を配らせるが、彼女は意に介することなく歩みを続ける。

 

「なぁシュペル」

 

 ルフィナがシュペルエタンダールを呼ぶと、彼女は音もなくルフィナへ顔を向ける。

 

「この先に何がある?」

 

 漆黒の闇。不気味な輝きだけが見える空間に、ルフィナは少なからず不安を覚えている。

 何が待っているのか。シュペルエタンダールは知っているように振る舞っている。

 

「この先はユジーヌ。工場と呼ばれる場所、その概念のようなエリア」

「噂に聞いた、あの『工場』か」

「そう。ラファールの誕生で体制は少し変わって『研究所』と呼ばれている。皆が見たあの場所――そこが、私たちの居た場所」

 

 自身の辛い生い立ちもあるだろうが、シュペルエタンダールは気にする素振りもなく話し終えた。

 ラファールが生まれ、そしてその事故でシュペルエタンダールが生まれた場所。そう聞けば、あの研究所の怖じ気立つような雰囲気にも合点が行った。

 人の形をした何か、人の形すらしていない何かがいたあの空間がそこなのだ。

 

「つまり、あのアニマ共と話すのか」

 

 そして、これからそのアニマたちと話をしなければならない。平静を装うが、ルフィナの頬を汗が伝う。

 

「そう。それがルフィナの役目。私は案内役にされただけだから、干渉できない」

 

 でも、やるしかない。シュペルエタンダールは淡々と告げる。

 逃げ場はないのだ。ルフィナは固唾を飲み込み、果てなく広がる空間を見据えて拳を握る。それから重たく、一歩を踏み出した。

 

 □

 

 暫く歩むと、不定形の人形が視界に映った。周囲の構造物と同じく、ぼんやりと形が分かるだけだ。

 

「アンタ、アニマか?」

 

 人形に問う。脳内に肯定が返ってきた。どうやら喋ることはできない個体のようだ。

 

「色々あって、話を聞きに来た。タイフーン……EF-2000-ANMについて何か知らないか?」

 

 良く分からない。否定にも困惑にも似た返答が、ルフィナの頭を過る。

 この不定形のアニマはタイフーンを知らないようだ。先に進んでも良いだろうが、ふとアニマはルフィナを呼び止める。

 

 ――空を飛びたい。

 

 ただその願いをルフィナに託し、アニマは姿を消した。

 

「反応消失。異常に気付いた研究員が接続を切断(シャットダウン)したか、そもそもアニマ自体が消失した」

「クソッ! 空を飛びたい……か。気持ちはいてーほど良く分かるけどな」

 

 どうにもしようがない。ルフィナは姿を消したアニマの意思を背負い、更に工場の奥深くへ進む。

 また少し歩くと、アニマとおぼしき人影がさ迷っているのを見つけた。

 

「なぁ、そこのアンタ」

 

 ルフィナが声をかけると、アニマは少々驚いたように体を仰け反らせた。

 

『誰……? どうやってここに?』

 

 今度は話が通じるようだ。少々ぼんやりとした声ではあるが、言葉はわかる。

 

「それについては後だ。EF-2000-ANMについて分かることがあったら話してくれ」

 

 ルフィナの問いに、アニマは少々戸惑い気味に右往左往した。

 十秒ほど迷うような素振りを見せて、アニマは語りかける。

 

『もう、彼女は起きてる。もっと近くにいる。貴方を見て、貴方を探ろうとしてる。彼女は何も知らないから』

「なんだって? どういうこと――」

『ごめんなさい。私は消えたくないの。どんな形でも、私は空に居たい。だからこれ以上、研究員にイレギュラーを見せる訳にはいかない』

 

 頭を下げて、アニマは逃げるように走り去っていく。ルフィナが手を伸ばすが、届く事はなかった。

 

「……反応消失。恐らく、バイタルの変化によって気付かれた」

「クソが……! アニマたちを飛ばしてやれって伝えるために、どうやって帰る?」

『少し待ってください。()()()()()()

 

 帰る方法もわからずに燻るルフィナに、声が語りかけた。空間中に響き渡るような声は、優しい語調で二人を待機させる。

 すぐに、ルフィナの意識は概念の海から引き上げられた。

 

 □

 

「う……。戻ってきたか?」

 

 周囲を見渡す。椅子に座った自分自身、モニタールームの景色が広がっている。

 シュペルエタンダールが座っている機材へ目を向けるが、彼女はまだ目を覚ましていなかった。

 

「……シュペルはどうした?」

「現在反応を探っていますが、戻ってきません」

 

 傍らにいた一人の研究員にルフィナが訊ねるが、研究員自身困惑しているようだった。

 

「不正なアクセスを検知したのちに、シュペルエタンダールANMの反応をトラッキング出来なくなりました。……疑似空間からのサルベージ、不可能です」

 

 シュペルエタンダールが帰ってこられなくなった。ルフィナの身体を、冷たい何かが走り抜けた。

 

「どうにかなんねーのか?」

「ムリです。反応が……」

「反応反応うるせーんだよ! どうにかしろッ!」

「やってますよ! とにかく、貴方は一度休んでください。じきに次の仕事があります」

「クソッ! 一刻も早く助け出せ。じゃなきゃ契約は破棄だッ!」

 

 手近にあったNFIパネルを殴り付け、ルフィナは椅子から立ち上がる。

 安らかな寝顔を見せるシュペルエタンダール。死んだ訳ではない。バイタルを示す心電図などは正常を示しているようだった。

 だが、仕事が終わった訳でもない。シュペルエタンダールを置いてはいけない。ルフィナは通りすがりにあったモニター台を蹴りつけ、モニタールームを後にする。

 仲間に会わせる顔が無い。ルフィナは右手で目元を覆い、背後で閉まったドアに力無く背中を預けた。




久々に文章書きました……。
ちょっと短いですが、今回はここまで。
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