ガーリー・エアフォース-カラフルアロウズ-   作:鞍月しめじ

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落陽
ALT.08『ブラックアウト』


 仕事で訪れていた空港から撤収するソレイユ隊。研究スタッフ、機材を運ぶ貨物機を中心にしてドーターは空を飛んでいた。

 

「フランカー。おーい01、聴こえる?」

 

 JA-37、ビゲンが後方を飛ぶSu-35SKへ交信する。すぐに「なんだよ」と機嫌の悪そうな声が届いた。

 護衛任務めいた配置ではあるものの、ルフィナのドーターであるSu-35SKはとてもではないが戦闘を行えない。エンジンは破片を吸い込んだ左エンジンを使えず、旋回も慎重に行わなければ空中分解すら有り得る損傷。

 現在の護衛も半ば形式のみでしかない。妙な気さえ起こさなければ、特に問題の無いものではあった。

 

「変な機動はしないでください。空中分解は大袈裟ではありませんから」

〈わーかってるよ。先頭切れないのがもどかしいな〉

 

 ビゲンの本音に触れてか、クフィルの話にも多少は素直な反応を見せるルフィナ。

 彼女がリンクするドーターからのレスポンスは明らかに悪化していた。

 上手く身体を動かせない感覚。人間であれば大問題になるような、麻痺めいた感覚。それが接続と共にアニマにも伝わる。

 

(気味わりーなぁ)

 

 こきこきと首を鳴らして、ルフィナは言うことを利かないドーターに鞭を打つ。

 まもなくソレイユの基地にアプローチも始まるというときだった。

 

〈ん。なんか通信来てない?〉

 

 ふと、ビゲンがソレイユ隊へそう訊ねた。しかし特に何が来ているかもわからないまま、当のビゲンにすら何の通信かすら理解できない有り様だった。

 

(謎の通信? まさか)

 

 カメリアのおかっぱ髪がコックピットの中で揺れた。クフィルは暫し考えて、前方を飛ぶヘルメスブルーのドーターに視線を向ける。

 

「ビゲン、その通信……ノイズだらけだったりしませんか?」

〈だねぇ。ろくに聞こえやしないんだけど、弾いて良いかしらねコレ〉

 

 返ってきた答えを聞いて、クフィルの背筋に悪寒が走る。

 ルフィナに同じ質問を振ろうとしながら、だが違和感が拭えなかった。アプローチを始め、貨物機は専用の滑走路へ。ビゲンを先頭にした飛行隊は同じ滑走路へ降りて行く。

 

「なんだよ、ずいぶん閑散としてねーか?」

 

 ギアから異音こそさせたものの、ルフィナは無事ドーターを着陸させた。しかし、いつもは迎えに来るはずのスタッフの姿がなかった。

 

「イヤに静かだ……」

 

 ルフィナは周囲に映る映像を見回す。不安感のまま呟いた。

 

「まるで使われてないみたいだぞ……」

 

 三色のドーターは機体をエプロンに退避させたが、スタッフの姿が無い。

 普段は機体整備等で少なからず人の姿があるはずなのにである。タラップが用意されないとなれば、機体を降りる事すら難しい。

 

「タワー、もう着陸したぞ。見てないのか?」

 

 ルフィナの交信に管制塔は応えなかった。疑念がより一層膨らむ。あまりの人気の無さにコックピットカメラの異常すら疑った。

 キャノピー開放、飛び降りるには勇気のいる高さを見下ろして嘆息する。

 

「マジで誰もいないのかよ」

 

 シートに寄り掛かり、風に身を任せる。静かながら、優しい風がキャノピーを走り抜けた。

 ビゲン、クフィルもキャノピーを開けたようで、二人もまた状況を掴めていなかった。非常用タラップで降りるしかないとルフィナが動いたその瞬間、キャノピーで火花が散った。

 

「なっ!?」

 

 驚いて座席に逆戻りしたルフィナが次に聴いたのは、風に乗る銃声だった。

 

「マズイ、狙われてる! ルフィナ、出ちゃダメ! 一旦閉めて!」

 

 ビゲンの言葉を聞き、ルフィナも慌ててキャノピーを閉めた。再び風を遮られる。

 コックピットカメラを起動、周囲を見渡すと社屋建物の窓で小さな光が煌めいた。

 

「スナイパー!? なんでウチの会社にそんなもん張ってんだよ!?」

〈わかんないけど味方なら私たちは分かってるハズ。つまり――〉

〈何らかの理由により()()()()()ですか……〉

 

 自陣に帰ってきながら、味方がいない。クフィルの出した答えは恐ろしいものだった。

 

〈待てよ、それじゃ貨物機は? ありゃ味方だろ?〉

「……!?」

 

 ビゲンが驚愕する。すぐに機体を揺らすほどの轟音が響いて、衝撃がカメラの映像を乱した。

 カメラが映し出した炎上する貨物機に、三人は息を呑む。

 

「そんな……」

 

 着陸が完了してさほど時間は経っていなかった。スタッフが間違いなく降りていると言うには根拠が足りず、むしろ全員が爆発に巻きこまれたと思う方が確かだった。

 クフィルの手が、確かな怒りに握り締められる。

 

 一体誰が? なんの目的で? 様々な疑問と憶測が巡っていく。しかし、更に重大な問題をクフィルは思い出した。

 エイベルは早々に社に戻っていた筈。では、味方が居ない中彼はどうなったのか?

 

「……エイベルさん!」

 

 考えるより早く、クフィルはキャノピーを開いていた。

 

〈バカ! 何やってんだ!〉

 

 ルフィナの声も聴こえなかった。クフィルにとって言えば、エイベルの存在は仲間とは違った方向で大きなものだった。どちらかを比べようはないが、欠けてはいけないものだった。

 非常用タラップを落ちるように駆け抜けて、足が引っ掛かりそうになるのも気にせずクフィルは走った。

 

〈あのバカ! アタシ以上にバカ!〉

「でも撃たれなかったわね。撃てなかった……?」

 

 ビゲンが小さくなっていくクフィルの背中を目で追いつつ、そのルートを辿る。

 途中には爆発炎上した貨物機があった。狙撃手はもしかすると立ち上る炎によって、視界を遮られたのではないか。ビゲンが考えを纏めるには時間が残っていない。

 

「ルフィナ、狙撃手から見えてない。私は別ルートと陽動やるわ。アンタ、クフィル追える?」

〈マジ? ……やってみる。自信ねーけど〉

 

 ソレイユのアニマ三人で、唯一戦闘の心得があるのはビゲンだけ。ルフィナは普段の態度からは想像もつかないほどに引け腰だった。

 キャノピーを再び開け、二人はドーターを降りる。アイコンタクトの後、頷いたルフィナはクフィルの後を追って駆け出した。

 

「まずは敵を把握しないと……」

 

 移動しつつ装備品の拳銃を準備したビゲン。彼女の役割はアニマとしての能力だけでなく、戦闘技能学習によって戦闘能力のないクフィルやルフィナを守ること。

 拳銃の扱いは、アニマとしては異常なほどに手慣れていた。

 

 □

 

「クッソ……! アイツ、どこ行った?」

 

 社屋に飛び込んだルフィナはクフィルを探すが、すぐには見当たらない。

 ビルの電源も落ちているのか、周囲は辺り一面暗闇に包まれていた。彼女の柄にもなく、とてつもない不安が襲いかかった。足を先に進める事すら恐ろしい。

 

(落ち着け……大丈夫、アタシは隊長だぞ。やれる)

 

 自分を鼓舞しながら進める重い一歩。曲がり角や部屋の入り口が見える度に、震え上がりそうになるのを押さえ付けるので精一杯だった。

 

「うわっ!?」

 

 不意になにかを踏んだ。足を滑らせて転んだルフィナは盛大に尻餅をつく。鈍い痛みに顔を歪めつつ、足元を転がった小さなものを拾い上げる。

 僅かに残った明かりで煌めくそれは薬莢だった。

 

(ビゲンなら分かるのかな、コレ)

 

 残念ながら、ルフィナにはそれが火器に使われるものだということしか分からない。クフィルを追う手がかりになる訳でも無く、置いていくしかなかった。

 立ち上がろうとしたその時、今度は左手が何かに触れた。金属ではないが、ひやりと冷たい少し柔らかい何か。

 理解できた。傍らになにか()()()()()()()()()()が転がっていると。だがどういうわけか、恐怖が増すと同じくらいの好奇心が湧いた。

 

「あ……」

 

 ぴちゃり、と水のような何かの音がした。水溜まりに手を突っ込んだようだ。

 視線だけを、左手のほうへ向ける。倒れている何かと視線が合った。焦点の合わない目と、真っ直ぐに向き合う。

 

「――ひっ!」

 

 悲鳴は途中でかき消えた。声がでなくなって、ただ固まる。

 横にあるのは間違いなく亡骸だった。触れたのは、その亡骸の手。血溜まりに沈んだそれは、社内で戦闘があったことをありありと示している。

 ライフルを投げ出し、苦悶の表情をルフィナへ向ける亡骸。彼女は慌てて立ち上がり、行き先も考えず走った。

 

(クソッ! なんなんだよ!? アタシは――帰ってきたんだよな?)

 

 壁に手をつき、立ち止まって上がった息を整える。現実味の無い光景ばかりを目に焼き付けてしまった。

 しかし暗闇に慣れた目は更に残酷な現状を見せ付ける。

 

「あっ……」

 

 人が倒れている。一人ではなく、何人も。恐らくはルフィナも会話した人物がいるだろう。普段娯楽で観ていた戦争映画や、アクション映画でしか見なかったような光景が、現実に広がっている。

 壁に飛び散った血飛沫が鈍く輝いていた。それが放つ鉄錆のような匂いが、ルフィナに現実逃避すらさせない。

 

「あぁ……!」

 

 ついに彼女は立っている事すら出来なくなった。膝をつき、頭を抱えて叫ぶ事しか出来なかった。

 

「あぁぁぁぁ!」

 

 暗く冷たいソレイユ社(我が家)に、ルフィナの悲痛な叫びが反響した。

 

 □

 

「エイベルさん……」

 

 クフィルは真っ先にエイベルの居室に来ていた。ルフィナがたどり着かなかったエリアにその居室はあった。

 そこで彼女は、血にまみれた彼の白衣を抱き締めていた。

 

(……そんな)

 

 遺体はない。しかしポジティブに考える余裕がない。

 血のついた白衣には間違いなくエイベルの名前があって、彼は居ない。それだけで絶望するには充分だった。

 何も考えられなかった。しかし白衣に視線を落とすと、頭の中にまるで彼が語りかけるような感覚が突き抜ける。

 

(ルフィナと行動しなければ……。恐らく私を探している筈)

 

 クフィルが立ち上がると、白衣は何かの重さにつられて地面へ叩き付けられた。

 重い鉄が落ちたような音。白衣のポケットを漁ると、小型の拳銃がクフィルの手に収まった。

 

「撃ったことは無いけれど……」

 

 現状が分かっていない今は、武器があった方が有り難かった。拳銃を手に暗い社屋の探索に出ていくクフィル。

 不安以上に、彼女には使命感があった。ルフィナを探さなければ。それが自身の役目であると。

 

 □

 

「陽動とは言ったけど、なかなかキツそうじゃない」

 

 ルフィナと別れたビゲンは真っ直ぐに格納庫へ向かっていた。ソレイユ社には一棟、使われていない格納庫がある。

 内部には趣味で車やバイクを仕舞うスタッフが居たが、ビゲンもその一人だった。アニマとしてはやはり異例だったものの、戦闘機としてでなく、人として扱うスピードは楽しいものだった。

 それ故、彼女は社内でも最高額の車を持っていた。

 陽動にその車を使うため格納庫の様子をうかがっているが、到底味方とは思えない人影が巡回していて、思うように近付けない。

 

(どうするか。入れれば終わりなんだけど)

 

 近くにあったコンテナの陰に場所を移し、暫し悩む。

 車にさえ乗り込めれば、振り回せる自信はあった。鍵も格納庫内の指定の場所に隠してある。

 しかし、気付かれれば銃撃戦は避けられない。最悪はそれを陽動としても悪くはなかったが、あいにくとビゲンには拳銃一挺しか武器がない。航空機に乗る関係上、予備の弾薬も満足ではなかった。

 

(いこう)

 

 悩んでいては時間ばかりが過ぎていく。ビゲンは足音を立てないように、静かに格納庫へ近付いていった。

 

 大きく口を開けた格納庫の中は遮蔽物も少なく、隠れるのは難しい。なんとか巡回の隙を突いたが、以降は時間との勝負だった。

 大袈裟な格納庫とは反対に、鍵は安っぽいブリキ缶に仕舞われている。音を立てないように鍵を取り出し、スイッチボタンを操作。

 近くに停められていた黒いスポーツカーのドアが音もなく開いた。

 

(よしよし!)

 

 素早く愛車に乗り込み、エンジンを掛ける。

 ビゲンの身長よりも圧倒的に低い車体はまるで地面を這うように走り出す。リアタイヤを鳴らし、踏みつけたアクセルペダルの分だけ誤差もなく車は加速していった。

 値段にして190万米ドル。走る不動産とも呼べるビゲンの愛車は、銃弾に追われながら滑走路をひた走る。

 

 □

 

 同時刻、混乱のソレイユ社へ一機の戦闘機が近付いていた。

 

〈ステラ01、状況報告〉

 

 敷地の上で周回を始めた戦闘機は地上の状況を告げる。炎上する貨物機や、色とりどりの戦闘機がパイロットにも見えていた。

 

〈なるほど。もう始まってたか〉

「どうする、アルナスル」

 

 パイロットが応答を待つ。一拍置いて、通信が返ってきた。

 

〈チャンスだろう。行け〉

「了解」

 

 戦闘機は大きく旋回し、滑走路へアプローチを開始した。

 バレヌブルーの深く暗い青を纏ったF-14は、槍のようなシルエットを変化させながら滑走路へ降り立つ。

 

「ん?」

 

 滑走路に降り立った段階で、注意を引くのはパイロットも覚悟の上だった。指示を出した人物も同じく。

 しかし、想定外に何もない。首をかしげるパイロット。外を見回して、その理由がすぐに理解できた。

 どういうわけか、漆黒に包まれた自動車が滑走路を走り抜けていく。銃撃はその後を追っていた。

 

(チャンスは今しか無さそうだ)

 

 キャノピーを開けて、パイロットは機体を降りる。機体と同じ色の髪を靡かせながら、まっすぐ自分めがけて疾走する自動車と正対した。

 獰猛なエンジン音を高鳴らせたかと思えば、タイヤを激しく鳴らしながらパイロットの寸前で車は停止する。

 

「まさかキミから来てくれるとは、探す手間が省けた」

 

 フロントウインドウの向こうに見えるビゲンを真っ直ぐに見つめ、パイロットは告げる。

 

「アンタ、まさか!?」

 

 ドアを開いて身を乗り出すビゲンは、その姿を知っていた。遠くに見える機体も。

 バレヌブルーのF-14、そのキャノピー部分はドーター化の特徴である装甲キャノピー化が為されていた。

 

「時間がない。他のアニマは?」

「中よ。捜さないと無理!」

「わかった、一緒に行こう。その方が早い」

 

 ドーターパイロットは車の助手席に乗り込んでドアを閉める。

 

「しっかり掴まりなさいな、ステラのトム猫!」

「ラジャー、ビゲンさん。やってくれ」

 

 ホイールスピンしながらバック、すぐにステアリングを一杯に切って車を滑らせながら前後を反転させて前進する。

 瞬く間に時速は200キロを超過する。ビゲンは刹那の反応でステアリングを操りながら、社屋めがけて車を向かわせた。




二章。

ぶち壊しにかかってる?
はは、さて何のことやら。

次回もよろしくお願いいたします。
ていうか次回無いと最悪な終わりっすね()


調べる人/わかる人用作中資料

ビゲンの銃
ベレッタPx4サブコンパクト

エイベルの白衣にあった銃
ワルサーPPK/S

ビゲンの愛車
ケーニグセグレゲーラ
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