真っ青に晴れた空の下を多くの人々と航空機が行き交う、ある日のアローズ社。その本社である建物の前に一人の少女がたどり着く。
「さて、ご主人様がしっかりした人であれば良いのですが…」
メイド服に身を包み、長い黒髪が整った顔だちに映える彼女は姿こそ人間に酷似していたものの、その正体は人形と呼ばれるアンドロイドであった。人間に仕え、奉仕する事を目的に製造された彼女達は2030年に起きた世界的大災害で減った労働力を補完する存在として世界的に広まっていた。
受付に来訪を伝え、社長室の前に着く。コンコンとドアをノックすると返事はすぐに返ってきた。
「どうぞ」
「失礼いたします」
扉を開けると社長室の奥に置かれた執務机に四十代ほどの男性が一人座っていた。彼は社長室に入ってきた彼女を当初珍しいものを見るような困惑の表情で眺めていたが、目の前の少女が予定の来客であることに気付くと椅子から立ち上がって自己紹介した。
「初めまして。私がアローズ・エア・ディフェンス&セキュリティの代表、グッドフェローだ。我が社へようこそ」
「本日よりご奉仕させていただくエージェントでございます。ご要望があれば何なりとお申し付けください」
エージェントがスカートの端を摘まんで挨拶するとグッドフェローは驚いた顔をした。
「どうかなされましたか?」
「失礼、ここまで人間そっくりだとは思わなかった。ところで、君は自身の仕事について事前に伝えられているか?」
「いえ、製造元からは雇用主に会えば知らされると言われました」
「そうか。では、案内ついでに教えよう。一緒に来てくれ」
グッドフェローについて建物を出る。向かったのは本社と隣接した飛行場だ。グッドフェローが格納庫の前を通りつつ説明を始める。
「わが社は2030年に起きた例の大災害による影響をうけて発展した会社だ。主な業務として民間の航空輸送やメンテナンスを請け負っている。しかし、現在この事業は伸び悩み始めている。この状況を打開するため、わが社はこれまでに培った航空機のノウハウを活かして傭兵事業に参入することになった。だが、ただでさえ人不足の世の中だ。正規軍から何人か引き抜いたものの、世界的に事業を展開するには圧倒的に数が足りない。そこで、君たちの出番だ。君たち人形なら数の問題は解決する。そのうえ、ドローンとは違って突発的な事態が起きても臨機応変に対応することができる。機体を使い捨てにできるほどわが社の懐は暖かくないのでね。とはいえ、人形を輸送機ならともかく戦闘機のパイロットにしたことなど前例が無い。したがって人形がどれほどGに耐えられるのか、そもそも空戦をこなせるのか一切分からない。頑丈さに定評のある鉄血製を採用したのもそれが理由だ。さて、長々と話してしまったが何か質問はあるか?」
「肝心の仕事内容についてまだ説明してもらっていません」
「そうだったな。今話したとおり戦闘機に乗った人形がどうなるか誰も分からない。君にはテストケースとして戦闘機を駆って実戦に出てもらう」
「お任せください。信頼に報いることができるよう努力いたします」
「それは心強い。言い忘れていたが、君は単独で飛ぶわけじゃない。まずはパイロットとしてのイロハを学んでもらう。これから会うのは君の先生達だ」
再び移動して着いたのはブリーフィングルーム。グッドフェローに続いて入ると二人のパイロットがそわそわした様子で座っていた。
「皆、今日から配属になった人形のエージェントだ。隊員として鍛えてやってほしい。エージェント、私はここまでだ。あとは彼らと話を詰めてくれ」
グッドフェローが出ていくと、端に座っていた四十代くらいの男がまず口を開いた。
「んじゃあ俺からだな。俺はボーンアロー隊のヴァイパー。この隊の隊長だ。人形だろうと手は抜かないからしっかり学べよ」
次に隣の男が立つ。年は二十代くらいだろう、若い男だった。
「俺はオメガだ。お前のフォローをする。美人と飛べて光栄だぜ」
「人形のエージェントと申します。ヴァイパー様、オメガ様、ご指導ご鞭撻よろしくお願いします」
「呼び捨てで良い。空では実力が全てなんだ。人形だからって畏まらなくて良いぞ」
こうしてボーンアロー隊との顔合わせは友好的に終わり、人形初のパイロットとしてエージェントの仕事が始まった。
2020/12/25…改稿しました。