Doll fighter   作:佐野

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教育

 パイロットになったエージェントを最初に待っていたのは、よくテレビや書籍で目にするドッグファイトや射撃といった戦闘機を使う訓練ではなく、どうやって飛行機が飛んでいるのか、アクシデントが起きた場合どのように対処すれば良いのか、戦闘機動について等といったヴァイパーが講師となって行う座学であった。

 

「――以上のように、空戦では基本的に先に見つけた奴が有利になる。空戦は起きる前から始まっている事をよく覚えておいてくれ。今日はここまで。解散」

 

 エージェントがノートを抱えて講義室を出ていく。それと入れ替わるようにしてグッドフェローがちらりとエージェントと見て入ってきた。

 

「どうだ、彼女の飲み込みは?」

「正直、驚いた。彼女が人形だとは理解していたが、ここまで覚えが良いとはな。技術の進歩を実感したよ。人間が何度も反復して覚える事を彼女は一回で覚えちまうんだ。グッドフェロー、人形は戦争を一変させちまうかもしれないぞ」

「お前がそこまで言うとはな。……引き続き彼女を頼む。この事業の成否は彼女にかかっているからな」

「分かってるさ。俺としてもあいつがどこまで成長するのか見てみたくなった。そろそろ実機に乗せても良い頃だろう」

「怪我させるなよ?」

「当たり前だ。お前、まるで親みたいだぞ」

 

 ヴァイパーは苦笑すると講義室を出て行った。

 入社から一ヶ月ほど経った日、エージェントはそれまで座学を受けていた教室ではなく、屋外の駐機場にてヴァイパーから説明を受けていた。

 

「これから、実際に戦闘機に乗って俺と一緒に飛んでもらう。本来なら座学に一年はかけるんだが、お前は物覚えが良いからな。これまで練習機で何回か飛んだとはいえ、戦闘機は全くの別物だ。まあ、話に聞くのと実際にやるのとでは大きな違いがあるから今回は慣らしだ。空に上がったら俺の指示に従って飛べ」

「了解致しました」

 

 一旦別れてお互いに割り当てられた機体に向かう。エージェントが乗る機体はF-15Eストライクイーグルだった。ステルス機が飛び交うこの時代において旧式ともいえるが、高い信頼性と積み上げられた実績で一部のパイロットから現行機よりも高評価を得ている機体だ。エージェントはコックピットに座ると、教えられた通りの手順で機体を目覚めさせていく。

 

《こちらボーンアロー1。エージェント、俺の声が聞こえるか?》

「こちらエージェント、聞こえます」

《お前のコールサインはボーンアロー3。TACネームはエージェントだ。俺に続いて離陸しろ》

「ボーンアロー3、了解しました」

 

 誘導路をタキシングしていくヴァイパーの機体はミグ21フィッシュベッドだった。今時、博物館に飾られていてもおかしくない代物だが、未だ戦える事を誇示するかのようにミグは滑走路から空に上がっていく。

 エージェントも滑走路に障害物が無いことを確認して進入し、離陸許可を求める。

 

「タワーへ、こちらボーンアロー3。離陸許可を求む」

《タワーからボーンアロー3へ、離陸を許可する。風の影響は無し。グッドラック》

 

 スロットルレバーを押して出力を上げれば、辺りに轟音が響き座席に体が押し付けられる。Gに耐えつつ操縦稈を引いた瞬間、体が浮くような感覚とともに機体が離陸した。ランディングギアを格納し、速度が十分であることを確認。旋回してヴァイパーの横に並ぶ。

 

《どうだ、初めて飛んだ感想は?》

「そうですね……まるで鳥になったような感覚です」

《お前が乗ってるのは鷲だがな。よし、訓練を始めるぞ。まずは編隊飛行だ!》

 

 ヴァイパー機にエージェント機が追従する。両者の機体を高く昇った太陽が白く照らした。

 それから半年ほど訓練は続いた。昼夜天候問わず行われた訓練を経てエージェントは凄まじい速さで成長し、遂にはヴァイパーに撃墜判定を出させるまでになっていた。

 

「大したものだ」

 

 エージェント機の動きにグッドフェローが感嘆の念を漏らす。彼の見つめる先ではエージェントとオメガがドッグファイト訓練を行っていた。隣で同じく訓練を眺めるヴァイパーが口を開く。

 

「俺としてはもう仕事に出しても問題ないと思う。始めた時こそ教科書通りの動きが目立ったが、今じゃ相手がどう動くか予測して空戦してる。そのうえ――おっ、エージェントが仕掛けるぞ」

 

 エージェント機がオメガ機の後ろにつく。オメガ機は急旋回とシザーズで振り切ろうとするがエージェント機は楽々とそれについていく。結局、オメガ機はエージェント機を振り切る事なく撃墜判定をもらってしまった。

 

「今のを見て分かっただろうが、あいつの耐G能力は人間より遥かに上だ。以前に限界まで旋回させてみたら9Gに二十秒間も耐えて本人より先に機体が工場送りになった。恐ろしい奴だよ、あいつは。人間の限界を軽々と越えてくる」

「なるほど、人間の限界か…。実はなヴァイパー、日本国から依頼がきた。お前たちに出てもらいたい」

「分かった、あいつらにも伝えておく」

「指揮はお前に任せる。セクハラするなよ」

「今までもこれからもしないさ。世界の果てまで追いかけられる。それに、俺はもっと年を食った女が好みだ」

 

 グッドフェローの冗談にヴァイパーはそう返すと機体から降りてきた二人のもとへ歩いて行った。

 




2020/12/25…改稿しました。
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