グッドフェローの到着から数日後、ボーンアロー隊に出撃命令が下った。
作戦目標はオデッサ東部の州境に位置するソブレフ市。
ブリーフィングで聞かされた事前情報によれば、この街には戦車部隊が集結しておりこちらへ王手をかける為、侵攻の準備を進めているという。これを撃滅して東の脅威を取り除き、ソブレフからさらに東にある都市『ムィコラーイウ』で籠城している友軍の救出に向けての足掛かりを得るのが今回の作戦目的だった。
《ボーンアロー各機へ、これより敵地上部隊を攻撃し、味方地上軍を援護する。しっかり働けよ》
作戦空域に進入すると同時にグッドフェローから攻撃許可が下りる。空は僅かな雲を残して晴れ渡り、眼下に広がる街がよく見えた。絶好の対地攻撃日和である。
《ヴァイパーからボーンアロー各機、対地攻撃だ。勢い余って地面にぶつかるな》
《ヴァイパー、エージェントのサポートを頼む》
《あいよ。ヴァイパー先生の個人授業を始めるぞ、『エースへの道』その1だ》
エージェント機のHUDに敵地上部隊が映る。
《敵が見えてるな?お前が載せてるミサイルはマーベリックともう一つある。『ニュート』だ。まずは前方にいる攻撃ヘリに撃ってみろ。番号はAAG-700だ》
ヴァイパーの言う通りにニュートを選択し、ヘリをHUDに映し出されたシーカーサークルに収める。回避不能距離まで接近するとエージェントは発射スイッチを押した。撃たれたヘリはフレアを放出しながら上昇して逃げようとするが、近接信管の作動によりそれは叶わず螺旋を描いて落ちていく。
《次は地上の敵を狙ってみろ》
建物の影から出てきた戦車に狙いを定めると先程と同じようにミサイルを発射する。ミサイルは正常に動作し戦車に直撃したものの、破壊するまでには至らず履帯を引きちぎる程度にとどまった。
《今ので分かっただろうが、ニュートは威力が低い代わりに陸空どちらにも撃てる。『使えるもんは何でも使え』だ》
ヴァイパーはそう言いながら爆弾を投下、オメガも空対空ミサイルで敵の攻撃ヘリ部隊を蹂躙していく。その時、敵の対空砲火がエージェントのイーグルを掠めた。敵の対空部隊がようやく動き出したのだ。尤も、彼らが守るべき部隊はこちらの攻撃でとうに半壊しているのだが。
《ようやく動き出したか。ここいらで『エースへの道その2』だ。一旦距離をとるぞ》
対空砲火を躱しつつ街から離れる。戦況はこちらが優勢となり、街中にひしめいていた戦車部隊も密集していたのが災いして殆どが燃える鉄屑に変わっていた。
《あの対空砲は俺達を警戒して西に注意を向けてる。俺とオメガが引き付けてる間に回りこんで別方向から攻撃しろ。『急がば回れ』だ、覚えとけ》
ヴァイパーに言われた通り、機体を雲で隠しつつ迂回して対空部隊の裏に飛び出る。対空部隊はヴァイパー達に夢中でこちらに全く気が付いていなかった。
「ボーンアロー3、ライフル!」
敵が爆炎に消える。命中の直前、こちらに気付いた何基かが砲を向けようとしていたがそれは遅きに失した。
《対空兵器の破壊を確認。あとは正規軍の仕事だ。全機帰投し――》
《まだだ、遅刻してきた奴らがいる》
多目的ディスプレイに表示された
《確認した。ボーンアロー各機へ、交戦を許可する》
《ボーナスタイムだ。稼ぐぞ!》
声を張り上げたヴァイパーに呼応してエージェントは機体を東に反転させた後、左手を添えているスロットルレバーを前に倒す。エンジンの推力が増した反動で背中を押しつけられ、HUDに表示された速度計がその数字を増やしていく。SAページに表示された敵機との距離はみるみる縮まり、自機のレーダーでもその機影を捉える。そして距離が三十マイルを切った時――
レーダー照射を報せる甲高い
「スパイク!」
操縦桿を右に傾けて機体を急旋回させる。機体のコンピューターが、事前に設定されたプログラムに従ってチャフを放出。高度を下げて速度を稼ぎつつ出来るだけ距離をとる。ミサイルの射程外に逃げるためだ。
(早くこの警報が鳴りやみますよう!)
アラートが満ちるコックピット内で祈りに近い感情を抱きながら操縦桿を握りしめる。
中距離空対空ミサイルを用いた
「さて、どうしたものか……」
エージェントが独りごちたその時、視界の隅を二発のミサイルが弓から放たれた矢の如く駆けていった。
2020/12/25…改稿しました。