Doll fighter   作:佐野

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 ヨーロッパ東部の国、ウクライナにてロシア軍と対峙するボーンアロー隊。束の間の休息を楽しんでいた彼らに突如下されたのはロシア軍補給基地への攻撃命令だった。再び戦場の空を舞うボーンアロー隊。そこに新たなる敵が襲い掛かる。


補給基地奇襲

 早朝のリマンスク空軍基地。その一角に位置する格納庫の前にて朝日を浴びながら、エージェントは自身を設計した鉄血工造の研究者へと電話をかけていた。

 

「報告書は送信致しました。そちらにはもう届きましたか、主任?」

《確認した。しかし、文字だけの報告にはやはり限界があるな。できるなら生のデータが欲しいものだ」

「仕方ありません、ここは最前線ですから。スタッフを派遣するのは万が一の可能性がありますでしょうし……」

《そうだな……。まあ、それについてはこっちで考えておく。ところで、報告書によるとそちらはかなりの頻度で出撃しているそうだがフレームは大丈夫か?》

「問題はありません、よほど強い衝撃でも加えない限りは大丈夫でしょう」

《そうか。念のために頑丈に作ったのが功を奏したな》

 

 そんな他愛もない会話を交わしていると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「仕事がありますので、これで」

 

 通話を切って振り向くと肌をよく日に焼いた若い男が目に入った。

 

「おはようございます、オメガ。どうかなされましたか?」

「グッドフェローが召集をかけた。直ちに待機室へ集合だとよ」

 

 それだけ言うとオメガは小走りで去っていった。

 

「今日は出撃の予定は無かったはずですが……」

 

 暫し訝しむも、今は急がねばと思考を切り替えてオメガの後を追う。人も疎らな基地内を早足で歩いて待機室の扉にたどり着くと静かに扉を開けた。

 

「全員集まったな、席についてくれ。ブリーフィングを始める」

 

 グッドフェローに促されてヴァイパーとオメガの間にある空き椅子に座ると、部屋の照明が落とされ正面の壁に掛けられたスクリーンへ映像が投影される。

 

「この前の作戦はご苦労だった。正規軍は無事にソブレフを奪還し、ムィコラーイウ進軍への橋頭堡を手に入れた。現在、正規軍はムィコラーイウ奪還に向けて準備を進めている。だが、俺たちに休みは無いらしい」

 

 スクリーンに世界地図が映る。それが段々と拡大され、ウクライナ東部のロシア国境線をスクリーンに写した。

 

「司令部からの緊急依頼を受けて国境付近へ飛ぶことになった。目標は国境近くに位置する補給基地。この基地はウクライナに展開するロシア軍への補給を担う中継基地で、奴らにとって重要な拠点だ。現在、この基地にロシア軍が大規模な物資搬入を行っていることが分かった。今ここに集積している物資が前線に届けば敵は戦力を増強し、正規軍のムィコラーイウ奪還は厳しくなるだろう。我々の任務はこの補給基地を爆撃し、敵にプレッシャーを与える事だ。あえて言うまでもないだろうが、現地は敵の勢力下にある。あらゆる状況に備えておけ」

 

 

《ドニエプル川を通過した。第3ウェイポイントまで約80キロ》

 

 無線特有のノイズに混じってヴァイパーの声が届く。片道およそ1000キロという長い行程にもかかわらずその声に憂鬱の色は混じっていない。リマンスクを飛び立ってからここまで35分。ウクライナを実質横断する飛行経路の丁度半分に差し掛かったボーンアロー隊の面々は周囲に目を配りつつ目標に向けて飛翔していた。

 

《第3ウェイポイント通過。お前ら大丈夫か?あとは補給基地まで真っすぐだぞ》

《こちらオメガ、機体も身体もピンピンしてるよ。エージェント、そっちは?》

「機体及びフレームに異常なし、バッテリー残量も問題なし」

《よし、全員大丈夫そうだな。ここからは一直線だ、駆け抜けるぞ!》

 

 地上一面に広がる畑の上を三機の戦闘機が飛び去って行く。起伏の少ない農地である一帯を畑から畑へ、さらにその向こうにある畑へ。地を這うような低高度で。彼らは確実に目標へ近づいていた。

 

「ロシア国境線を通過、レーダー起動。燃料消費も想定通り」

《目標まであと少しだ。攻撃は打ち合わせ通りにやれ》

 

 補給基地まで30マイル。

 

《発砲無し、敵機無し。まだ敵は気づいてないんだ》

《このまま仕掛ける。高度上げろ!腹を括れ!》

 

 アフターバーナーを作動させると、それまで飛行していた200フィートから4500フィートまで一気に急上昇する。正面に目標である基地が見えた。あと20マイル。

 

「前方に目標を視認!」

《向こうも気づいたぞ。トラックが動き出してる》

《エージェント、そのまま突っ込め!オメガは俺と対空砲を引き付けろ!》

 突然現れた敵機に慌てているのか、基地からはミサイルはおろか砲弾すら飛んでこない。エージェントは操縦桿を押して機首を下げると目標である補給基地の一角に設営された倉庫目掛けて急降下する。対空砲が今更砲火を上げるがもう遅い。

 CCIP(命中点連続計算)モードに設定された火器管制システムが、爆弾の着弾点を示す円(ピパー)をHUDに表示する。高度が下がり地面が近づくなか、エージェントは全センサーを操縦桿とペダルに集中させてピパーと目標の倉庫を重ねた。

 

「ボーンアロー3、爆弾投下!」

 

 瞬間、兵装投下ボタンを押して直ちに操縦桿を引く。

 

(さあ、どうなった?)

 

 急上昇のGに耐えつつ目標を確認してみると、倉庫があった場所は着弾による煙で覆い隠されていた。

 

「当たりましたか?」

《ドンピシャだ。敵さんはしばらくこの基地を使わないだろうよ》

《エージェント、よくやった。敵の迎撃も激しくなってる。長居は無用だ》

 

 侵入者を撃ち墜とさんと地上から壁の如く打ち上げられる猛烈な砲火を回避機動でいなしつつ、襲撃者である三機は悠々と空域を離脱した。

 

 目標である補給基地からリマンスクまで飛行している間、三機の間で交わされる通信は一つも無かった。先程の戦闘で疲労が蓄積していた事もあったが、道中に存在するロシア軍のレーダー網を回避するためにぎりぎりの超低空飛行を行っていた事で軽口すらたたく余裕が無かったというのが主な理由だった。

 だからこそ、ウクライナ側の勢力圏まで目前というところで基地から通信が聞こえたことに安堵したのも無理のない事だったのだ。

 

《グッドフェローからボーンアロー隊へ、そちらの機影をレーダーで捉えた。任務は無事に成功したようだな》

 

 グッドフェローの声が耳に響く。その声はノイズ交じりであったが、レーダーをかいくぐりつつここまで飛んできた三人の緊張をほぐすのには十分だった。無線からは体を伸ばすオメガやエージェントの声が聞こえ、ヴァイパーも思わずシートにもたれかかっていた。

 

「さすがに今回のような長距離飛行は体がこたえる。戻ったらゆっくり休ませてもらうぞ」

《もちろんだ、帰ったらゆっくり休め》

《どうせなら皆で飲みに行こうぜ。エージェントもどうだ?》

《私は報告書を書いてからにいたします》

《相変わらず真面目だねぇ》

 

 ここまで来ればもう安全。先程とは打って変わって弛緩した空気が流れる。しかし、それはほんの一時でしかなかった。

 

「なんだ?レーダーに反応」

《どうした?》

「後方から一機、接近してくる。グッドフェロー、この辺りで作戦飛行している味方はいるか?」

《いや、いないはずだ。振り切れるか?》

 

 ちらりとヴァイパーはレーダー警報画面に目をやる。接近している不明機は速度こそこちらを上回っているものの勢力圏に入るまでには追い付かれなさそうだ。だが、それは――

 

「奴が勢力圏で帰ってくれればな。ここに来て現れたんだ、おとなしく帰るとは思えん」

 

 暫しの間、沈黙が流れる。 

 

《……ボーンアロー隊、現在の武装は?》

「ボーンアロー1、空対空ミサイル4発」

《ボーンアロー2、空対空ミサイル4発》

《ボーンアロー3、空対空ミサイル2発》

 

 不明機が更に近づく。そろそろ長距離空対空ミサイルの射程に捉えられる距離だ。

 

《不明機は敵機と判断、全機へ交戦を許可する!基地の航空隊にスクランブルをかけた。到着まで持ちこたえろ!》

「了解!ボーンアロー1、エンゲージ!」

《ボーンアロ-2、エンゲージ!》

《ボーンアロー3、エンゲージ》

 

 機首を反転させて不明機と向かい合う。互いの距離は急速に縮まり、長距離ミサイルの射程内に入った。同時に敵機からミサイルが放たれる。

 

「カウンター!散開、散開!」

 

 お返しとばかりにヴァイパーとオメガもミサイルを発射し、チャフを撒きながら三手に別れる。一方、不明機の方はチャフを撒くと同時に近くの雲へ飛び込んだ。

 

《奴は雲に隠れた!》

「逃がすな!」

 

 雲に逃げ込んだ敵機を追って雲に入る。視界が雲の白色に染まる中、その向こうに微かに見える敵機の背中に食らいつく。しかしその姿は徐々に朧んでいき、遂には雲の向こうへ消えてしまった。

 

《チッ、見失った》

「雲を抜けるぞ、編隊を組み直す」

 

(一旦、仕切り直しだ)

 ヴァイパーの指示に従い、三機がヴァイパーの元へ集まる。そして、敵機を再び見つけようと雲より高く高度を上げたところでそれは起こった。

 

《下方に敵機!》

 

 鋭く叫んだエージェントの声。その声にヴァイパーは機体を傾けて下を覗き込んだ。その目に映ったのは――

 

《速い!》

 

 雲から飛び出して突き上げてくる敵機と

 

《クソッ、喰らった!》

 

 火を噴くオメガの機体だった。 




2020/12/25…改稿しました。
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