君がいる理由 作:ショタシドが可愛い
「ところで一つ問うが……お主、彼の者をどう思うておる?」
その言葉に僕は元老人だった人を見上げた。
あの後シーカータワーにワープした僕達を待っていた老人の言葉に乗せられ、遺跡改め祠が後三つある事を知った。シーカーストーンの望遠鏡の機能を使ってこの大地の孤島を冒険した。移動がそんなに楽じゃなくて一日では終わらなかったけど、それでも彼と楽しく冒険できたとは思う。
途中で小屋のそばにいる老人に会って、食べ物を作ってあげたら防寒服をくれた---僕が料理する様子を見ていた彼が意味がわからなそうな顔をしていた---り、ちょっと強そうな魔物と戦って、僕は剣が得意だけど彼は弓の方が得意だと分かったりもした。
記憶がなくて不安だったけれど、同じく記憶がない彼がいて寂しくはなかった。
そうして集めた四つの“克服の証”。最初に見た教会のような時の神殿に行くように老人に言われて、そこの女神像に祈りを捧げれば女神ハイリアの声が聞こえてきて、僕の“がんばり”を増やしてくれるのこと。何だか気力が上がった気がした。
そして何故か時の神殿の屋根の上から声をかけてきた老人に会うために登ってみれば、どうやらただの老人ではないそうで……己をハイラル王なのだと言った。
何となく只人ではないとは思っていたけれど、まさか幽霊だなんて思わず少し驚いてしまった。でも、驚いている暇はなさそうだ。
彼の者……きっと彼の事だろう。名前は知らないけれど、僕と似た容姿をしていて僕よりお喋りで、包容力があり、抱き着いていると落ち着く不思議な人だ。
「どう思ってる……?」
けどそう聞かれる理由がわからなくて聞き返した。ハイラル王と名乗るからにはこの国で一番偉かったのだろうから敬語を使わなくてはいけないのに、思わず出た言葉は敬語じゃなかった。
「そのままの意味だ、深い意味はない。ただ記憶がないお主にとって、ただの他人。目覚めたばかりでそこまで肩入れする理由がないであろう」
確かに彼は同じく回生の祠で寝ていただけの他人かもしれない。でも僕はそうは思えないのだ。
ただの他人?僕と同じ容姿をした?
そんな偶然があるか。
ただの他人が扉の空いていない祠で一緒に寝ていた?
そんな訳あるか。
なら、彼は他人じゃないだろう。
その通りだ。
「お主の考えはわかった。しかし他人ではないとしても、お主の入れ込み様は異常とも言える。何故だ?」
「離れたくないから」
「何故?」
「怖いから」
「何が?」
「わからない」
「……わからないけれど、彼が視界から消えるのが怖い」
「………………そうか」
今はそれで良い、とハイラル王は呟く。
「だが、一つ忠告しておこう。その感情、いつか切り捨てておけ」
俯いていた顔を思わず上げた。なぜ!?
「後悔する、とだけ言っておく。お主のその感情はこれからの旅の枷になるやも知れん」
そう言ったハイラル王の顔は真剣だった。朗らかに笑う老人とは違う、威厳に溢れたもの。一国を背負う者もいうのはこんなにも意思が強くあれるのか。
僕よりも長く生きて、そして国が滅びてもなお霊として生きる彼の言葉の重みは半端ない。僕の子供染みた感情などとうに見据えていて、その上で忠告してくれている。
納得はいかないけれど、絶対に切り捨てられなさそうだけれど……今は、頷くしかないだろう。
こくりと頷いた僕にハイラル王は同じ様に頷き、そして別の話題を繰り出した。
「今こそ話そう、百年前何があったのか……と、その前に件の彼を呼ばなくてはならんな」
彼もまた、当事者だ。
その言葉に驚く。回生の祠で一緒に寝ていたからもしかしたらと思ったけれど、やっぱりそうなんだろう。
「おーい!お主や。お主にも話すことがある!上がって来てはくれぬか!」
「やっとか……って!おっさん!?何か神々しくない!?」
「そんな訳なかろうて」
彼もまた百年前に生きた人物。そしてハイラル王も知る人物。なら本当にただの他人じゃないかも知れない!
そうだ……そうだ。ただの他人ならば、こんなにも声が、容姿が、性格が、愛おしく思えるはずもない。ならばそういう事だ。
「もうちょいっ!って!うわっ!いきなり引っ張んなよ!イテ!腕イテ、イデデデ!」
ただの他人じゃない。
たったそれだけを確信できただけで無性に嬉しくなってしまい、助けようと早く上がってこいと腕を引っ張った。
なんだか今は、彼を無性に抱きしめたい様な気がする。
「………………」
そんな僕達をハイラル王が見ていて、それがどんな顔をしていたのかも知らずに、ただただ早く上がってこいと腕を引っ張り続けた。
「痛いです!!離してください!!お願いしまぁあああああああすっ!!!!」
「やだ」
「駄々っ子か!?」
驚いた様に眼を見張る彼をみて、クスクスと僕は笑ったのだ。
どうも、イケメン君に腕を引っ張られもげそうになっている元現代人です。
引っ張り上げられた後、あのふぉっふぉ笑うおじさんがハイラル王だと知って驚きました。ハイラル王国とは約百年前に滅びた国だそうで、この大陸を治めていたそうな。だがその百年前に厄災ガノンという伝説では何度も復活を遂げる化け物がこの国を滅ぼした。先祖はどうにか追い払っていたそうなのだが、その先祖に伴って追い払おうとしたのが災いを呼んだ。まぁつまりは手を打たれていたんだそうな。
先祖が先手打ってボッコボコにした上に秒殺だったらしいからな(今聞いた)、そりゃ対策打ってくるだろうという。厄災もただ復活するだけの獣ではなく、知性ある奴だったということなのだろう。
「国は滅んだ……しかしその国の姫は最後まで諦めず、今もなお厄災をハイラル城に封じておる。ゼルダ。それが儂の娘であり、封印の力を受け継いだ姫」
そしてハイラル王は真っ直ぐとイケメン君を見た。
「そしてその姫を最後まで守り、半ば力尽きた退魔の剣に選ばれし騎士……それがお主じゃ、リンク」
ほぉ、イケメン君の名前はリンクと言うらしい。
……リンク?
…………ゼルダ??
………………ハイラル王国???
まさか。
「ゼルダの伝説……?」
「ゼルダは儂の娘だ」
いやそうだけど!!そうじゃないんですよネ!!!!
経緯や形は少し違えど、これは古くから愛されて来た王道展開……魔王に囚われた姫を救い出すために勇者が旅をする話の様なものとは思っていたけれど、まさかゼルダの伝説とは。
いや、どっちにしろ俺がいる事には説明がつかない。有名作品の中にいるとしても、絶対に俺が主人公の側にいるなんて事あり得るはずがないのだ。だってプレイヤーキャラは基本的に一人だからね!!
仲間集めるってタイプでもなさそうだしな!
薄々思ってたけれど、やっぱりイレギュラーなんだなーと俺は本来存在しないはずなんだなーと落ち込んでいると、イケメン君もといリンクが俺の肩を叩いて覗き混んで来た。どアップなイケメンに思わず出ていた涙が引っ込む。
「大丈夫、置いて行ったりはしない」
いや、何の話!?!?
「ずっと側にいるから」
「どういう---」
ちゅ、と小さくリップ音がした。目尻に感じた柔らかい感触とその音は目の前で行われたそれに理解ができなくて、ただただ感覚として伝わって来た。どアップで微笑んだイケメン君は俺の反対側の目尻にも近づいて来る。
そうして反応が遅れ為すがままにしていた俺がやっとの事でイケメン君から離れれば、表情には出していないが雰囲気で“うわぁ”と言っている様な気がするハイラル王と目があった。いや、違うんですよ!!ハイラル王!!
「愛情もここまで来ると過ぎたるものだな」
「なんて???」
小声すぎて聞こえなかった。
「リンクよ、そういうのは人のいない所でするんだぞ」
「わかった」
「まって???」
まって????そういうのは止めてくれよ!!王だろ!!いや王だから無関心なのか!!
「して、これからの事だが。ハイラルの事を任せても良いか。お主一人に背負わせるには重すぎる荷……しかし、お主しか頼る者がいない。もう滅んだ国であるが、一国の王として頼む。この国を、ハイラルを救ってくれ」
話を戻したァ!?!?めちゃくちゃシリアスな雰囲気に一瞬に切り替えやがった!でもイケメン君は手を離してくれない!何だこれ!
現実逃避しながら頭を下げたハイラル王とイケメン君を見る。幽霊ではあるけれど誠意のある言葉だとわかったし、そんな王にイケメン君はジッと見つめていた。
暫くして。
「わかりました」
イケメン君がこっちを見てからするりと手を離して跪いた。俺も伴って同じ様にする。何だか形式のあるものだったけれど、懐かしく思える。
「厄災ガノン討伐の任、この私、リンクが承ります」
アッこれ俺もなんか言わなきゃいけない雰囲気だ。どうしよ、なんて言おう。ガノン討伐なんて俺には無理だし、でも記憶がない今頼れるのはこのイケメン君しかいない。
離れるのは簡単なんだろう。イケメン君の執着を見れば簡単じゃなさそうだけど、抜けているところがあるから抜け出すのは多分いける。けれど、それじゃぁ何だかいけない気がする。
「(何故俺が回生の祠で寝ていたのか、何故俺がイケメン君……いやリンクと似た容姿をしているのか…………)」
確かめなくちゃいけない。
ま、容姿に関しちゃこの大地を冒険している途中で気付いてめちゃくちゃ驚いて、崖から落ちそうになったんだけど……それはそれ。今では黒歴史である。リンクがいなきゃ死んでた。
「(確かめる覚悟はできた)」
後は、口にするだけ。
「そして勇者リンクの補佐をこの私、アークが引き受けましょう」
「「最良の結果を貴方に」」
「……ふぉっふぉ、頼んだぞ。勇者リンク、そしてアークよ」
王は微笑んだ。
って自分で言っておいてなんだが、俺の名前アークって言うんだな!初めて知ったなー!!
短めでごめんね。
今更ながらラストは思い浮かべているが、衝動的に書いたものなのでプロットも何もない見切り発車な作品です。
ところでBLじゃねぇ!とか言っておきながら、がっつりBLだなこれ。