君がいる理由   作:ショタシドが可愛い

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双子だらけの場所

 

 

 

 

「アーク」

「……」

 

「アーク」

「…………」

 

「アーク」

「………………」

 

「ア「だぁあああ!!もう何!?」」

「何でもない」

「なら何故呼んだ!?!?」

 

痺れを切らし勢い良く振り返った俺をクスクスと小さく笑うイケメン君もといリンク。さっきからずっとこの調子で俺は少しうんざりしていた。

ハイラル王の話を聞き、約束通りパラセールを貰って大地の孤島である“始まりの大地”から抜け出した俺たち。ハイラル王の言葉通りに、百年前のことを知るシーカー族の長老インパを訪ねるためにカカリコ村を目指すことになった。

目印である双子の山に向かって歩く最中、ずっとリンクが俺の名前を連呼するのだ。なんだ?と聞いても何でもないと答えるばかりで、小さく嬉しそうに笑う姿に毒気が抜かれる。でも無視しようとしても、ころころと優しく鈴を転がすように言葉を綴られては恥ずかしくもなる。こんな名前連呼されたの、授業をサボった俺を探しに来た先生以来だわ。

 

「君の名前初めて知った……けど、初めてじゃない気がする」

 

矛盾してません???

そう言ったリンクは嬉しそうに手を繋いで来る。左手で俺の右手を掴むのは別に良いが、これ完全に俺の立場が彼女扱い。利き手を封じられた……辛いね。

 

「懐かしくて、嬉しくて、愛おしくて。何故だろう、僕の名前も姫の名前も何も思わなかったのに……君の名前だけ」

 

くるりとリンクが振り返った。空いていた右手で俺の左手をも繋ぐ。その動作をゆるりと目で確認してから、彼の顔を見て息が詰まった。

 

「なんだか、切ない」

 

リンクは微笑んでいた。慈愛の笑みを浮かべていた。その瞳から読み取れる感情は慈しみ、愛、喜びという(プラス)だけでなく、切なさ、悲しみ、苦しみ、憎悪という(マイナス)の感情も含んでいるように思えた。

なんで憎悪が混じってるのかはこの際無視しておこう。俺的にそう思っただけで、実際は混じってないかも知れないし。何か別の似た感情かも知れない……ダメじゃん。

そう微笑んだ後、さっきと同じようにまた歩き出す。その様子は全身から嬉しいオーラが漂っているような気がして、呆れたくなる。

記憶がない今、身に覚えのない依頼を受けてカカリコ村に向かっている。百年前の人々が成し遂げなかったことを一人で成そうとしているのだから、そのお人好し加減がわかるだろう。逃げても良いはずだ。姫様には悪いけれど、勇者だからと言って背負わす荷が重すぎる。こういうのは二次元だから許されるんですよ。俺は現に逃げたい。

 

「(ま、約束してしまった以上……仕方ないんだけどな)」

 

道中で落ちていた旅人の剣というものを見つける。拾ったリンクが何度か振り回してから、奥にいる赤い皮膚を持った者達を見た。

後から聞いたのだが、あれは魔物と言うそうだ。動物以上に知恵が高く、群れを成し、木の上に巣を作る事もある。その建設技術は人にも劣らない。いや多分、人の方が作れないわ。

豚の鼻をした小さな角を生やした彼らの名前はボコブリン。うん、ゴブリンをちょっともじったってすぐわかる名前ですね。

 

「ギャァアア!」

「ググググ!」

 

およそ人では出せない声を出し、ボコブリン達は倒れた。隣にいたはずのリンクはもうおらず、奥で手を振っている。いつの間に移動したんだろうか。速すぎやしませんかね。

それから近くの箱を剣で壊して中身を拾っていた。それをこちらに渡して来た。五本が束になった弓矢だ。顔を上げてリンクに貰っていいのか聞く。

 

「良い。弓はアークの方が得意だから」

 

いやまぁそうだけどさ。だからと言ってお前だって弓使えるだろに。

常人よりは撃つのが早く、正確性はあるだろうに弓は俺の方が得意だからと弓関係のは全て渡してくる。その代わりと言ってはなんだが、剣や盾などはリンクが装備している。

有り難く貰っておくと彼は満足そうに一つ頷いてボコブリンが落とした素材を取る。角に牙、ちょっとしたレア素材な肝を四次元ポケットみたいなポーチに入れていくリンク。常々思っていたが、時々脈動するその肝を難なく素手で触れるの本当に凄いと思う。俺が前触った時なんてちょっと滑っていたから、気持ち悪くて仕方がなかったんだけど……彼は何も思わないのだろうか。

 

「?」

「いや、なんでもない……」

 

俺の視線を感じたのかリンクが首を傾げてくるが、無自覚過ぎて追求する気になれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで一日以上かけて双子山の麓にある馬宿に到着。途中で双子山の塔を起動させたり、反応があった祠を登録したりしたけれど、日が暮れる前に到着してよかった。地味に遠かったので野宿なんて人生初体験なこともしたが、やっぱりベットで寝たい。硬い地面で寝るのは身体に悪いからな。

 

「なぁ、アレ」

 

やっとぐっすり寝れると背伸びしていたら祠が見えた。淡く青色に光るそれは勇者を待ち侘びているようにも見える。そんな祠をうっとりとした表情で眺める女性がいるが無視して、リンクに祠がある事を知らせる為に裾を引いた。

 

「祠じゃないか、リン---近ッ!?」

 

嫌悪感が少しあるあの祠にあんな表情を向ける女性の心理状態がわからないまま、リンクへと振り返ると思ったより顔が近かった。突然の事に数歩後ずさる。

 

「何!?」

 

心臓に悪いことをしないで欲しい!

そう心の中でツッコミながら驚かして来た相手であるリンクを見ると、彼は何やらほんわかとした雰囲気を醸し出しながら人差し指を立てた。

ん?なんだ……?

 

「今のもう一回やって」

「何を!?」

 

今のってどれ!?

そう問うと彼は不満そうにしながらも実演してみせた。近づいて来たリンクは俺の服の裾をクイクイと二回程引っ張ってみせる。

あー、それ…………ん?

 

「そんなのした?俺」

「した。可愛かった」

 

すらりと可愛いとか言わないで欲しい。俺は男です。え?知ってる?そっかー。

まぁ可愛い女の子がすれば、こう胸にくるのはわかるけどな。この世界の可愛い女の子少ないけど……可愛い女の子で思い浮かぶのゼルダ姫ぐらいだ。顔知らないけどな!

リンク、ゼルダ、ハイラルでゼルダの伝説だと気づいたけれど、正直この世界がどのゼルダの伝説なのか知らない。そもそも人気シリーズだけれどやった事はあるけど、やり込んだ事はない。友達のを借りてちょっと謎解きを手伝ってやった程度だ。因みに時のオカリナで城に警備を掻い潜り忍び込むシーンである。どう言う場面だよ。

その時にゼルダの伝説のストーリーを大まかに教えてもらっただけで、主人公とヒロイン、そして敵役の名前は同じだという設定しか知らない。あれ?それじゃぁ、厄災ガノンがラスボスなら、“ガノン”が共通のラスボスか。

 

「男に可愛いとか言うなよ」

 

少し睨みつけて文句を言うも彼は目尻を柔らかくしたまま、はいはいと受け流す。

 

「カッコいいカッコいい」

「扱いが雑い!?」

 

今までの過保護ぶりはなんだったのか。

肩を落とす俺に対してリンクはクスクスと小さく笑う。この数日間で思った事だがリンクは表情がないと思いきやある方だった。こうして笑うこともしばしばある。最初の無言の圧があるよりはまだマシだ。こうして俺の事をからかうのも最近になっての事である。

その小さな笑顔を見るとどうでもよくなって俺も笑身をこぼした。

 

「取り敢えず、祠へ行ってこい。お前しか行けないんだから」

「うん」

「馬宿で宿、取っとくからさ」

「うん。ねぇアーク」

「なんだ?」

 

背中を押して送り出すと数歩進んだリンクが振り返る。

 

「楽しいね」

 

そう言って微笑む彼の顔は何処かで見たことあった気がするけれど、思い出せないからまぁ良いや。

……楽しい、か。

 

「そうだな、楽しいな」

 

自分が何故この世界にいるのか、自分が何故お前と一緒に寝ていたのか。疑問に思う事は沢山あるけれど、このやり取りが、この旅が……彼といることをどこか楽しんでいるのは確かだ。

そう言って微笑むとリンクはより一層嬉しそうな雰囲気を醸し出しながら頷いて祠の方へと歩いて行った。

 

「さて、と」

 

彼が祠の中に消えていったのを確認してから踵を翻し馬宿のカウンターへ向かう。カウンターの中にはここの亭主と思しき男性が立っており、その側には同じ顔をした男性がいる。二人はカウンター越しに楽しそうに談笑していた。多分あの人もここのスタッフなのだろう、同じ服着てるし。

楽しんでいるところ悪いがこちとらお客様だ。踏ん反り返る訳ではないけれど、それぐらい強気でなけりゃ話を中断できない。よく思わないって言われるが俺はコミュ障である。喋るタイプのな……まぁこの旅ではコミュ障なんて言ってられないんだけども。

 

「あの、すみません」

 

話を中断してごめんな!止めさせてくれ!

と意を決して話しかけると、二人は談笑をやめてこちらへ振り返った。

 

「あぁ、旅の方ですか。ようこそ!双子馬宿へ。この付近の案内なら私に」

「馬登録ならば私にお願いします」

「い、いえ、宿を取りに来たんで」

「そうでしたか。それならば、中のカウンターへ。そこで宿を受け付けております」

 

馬宿の中を覗き見る。どうやら外に面したカウンターと中で宿を受け付けるカウンターと分けているようだ。楕円形の形をしたカウンターはどことなく、す◯家を思い出させる。牛丼食べたくなってきた。

 

「って、馬登録?」

 

気になった単語を反芻する。馬登録って、馬を登録するんだろうなってわかるけど、馬持ってなきゃ登録しないといけないなんていう規則でもあるのだろうか。

 

「おや、馬登録を知らない?それでは説明させていただきましょう!野生馬捕獲最短記録を持つ私なら的確にアドバイスもできますし」

「はぁ」

 

答えたのはカウンター前に立っている人だった。中にいる人と比べてテンションが高い。これが通常運転なのだろうかと中の人の方へ向くと、彼は諦めたように首を縦に振った。なるほど、いつもこうらしい。

 

「馬宿とは捕まえてきた野生馬や、元からお持ちになっていた馬を登録したり、預けたりできる場所です。もちろん宿と言うからには宿泊施設も提供しておりますが」

「野生馬?」

 

野生の馬がいるのだろうか。魔物が跋扈するこの世界に?家畜種としてではなく?野生とな?

 

「えぇ、ここら辺にもいますよ」

 

珍しい事もあるものだ。俺の世界じゃ野生の馬なんて数えるほどの種類しかいないのに。あとは家畜種が逃げ出して繁殖した奴とか。

ほら、と指差されて先にいたのは色とりどりな馬達。ホルスタインの様な模様を持った馬や、単色であり足だけ白いとか、馬の顔にある星と呼ばれるものもそれぞれ模様が違う。色は茶色、黒、クリーム、青、灰色とか。いや、青て。

しかしながら野生の馬と言われたけれど、あれ普通に良く想像する馬だ。サラブレッドの様に人が乗りやすく脚が長いというわけでもないようだが……それでも想像してた野生馬と違った。ポニーとかそこら辺だと思ってたわ。逃げ出した家畜種が野生化したやつだろ、アレ。

いや起源とかどうでも良いんだ。アレを捕まえるとか、相当苦労しそうなんだけど。

そういえば、彼はふるふると首を振った。

 

「確かに少し苦労しますけど馬は懐くものです、半端な知性がある魔物を捕まえるわけではありませんから。それに単色種は気難しい性格をしていますけれど、ブチ種は穏やかなので比較的捕まえやすいですよ」

 

後ろからこっそり近づいて飛び乗ったら一発ですよ!

そう笑う彼に頬が引きつる。一発な訳がないでしょう。野生というのは人の手を離れて暮らす動物達のことだ。元家畜というのもあるけれど、あれは完璧に生まれた時からずっと野生に違いない。つまり人を知らないのだ。そんなのを捕まえるとか、本気ですかね。

いやまぁ、そういうものとして受け取っておこう。馬を捕まえるか否かはリンクと相談すれば良いしな。

 

「何なら私の野生馬捕獲最短記録に挑戦していただいても良いのですよ!もし超えたなら良いものをあげましょう!」

 

そう言って手を大きく広げる彼だが、お生憎様そんなものに挑戦する気は無い。ミニゲーム的なのはリンクにでもやらせておけば良いのだ。彼ならきっと嬉々として挑戦するだろうから。

断る趣旨を伝えて、落ち込む様に少しの罪悪感を感じながら馬宿の中に入る。二人分の宿を取った後、情報収集する為に宿の中にいる人物に話しかけていく。彼らは色々な事を知っているらしく、話したがりなのか聞いてもない事を話してくれた。テリーとか言う商人が弓矢を売っていたが、今は少々懐が暖かくはないのでパスして料理鍋の前にいるお姉さんへと話しかけた。

 

「貴方も旅人?」

「えぇ、まぁ」

「そっか。仲間ができて嬉しいわ」

「仲間?」

 

首を傾げる。いつの間にやら彼女の仲間になったらしい。なった覚えはないけれど。

 

「だってこの馬宿、どこ見ても双子だらけだもの」

 

確かに。

双子馬宿とか言う双子山に因んでつけられたのかと思いきや、従業員も双子、その子供達も双子であり、さらにもう一組ぐらいいた気がする。気のせいだと思いたいけれど。

それに通って来た近くの橋も双子らしく、兄の橋と弟の橋がある。もう何が何やらだ。双子ではない彼女の方が珍しく見えた。

 

「兄弟が羨ましいってわけじゃないの。ただ、同じ顔を何度も見るのは疲れるのよね」

 

そう項垂れるお姉さん。苦労してんですねぇと心の中で労わる。同じ顔を何度も見て疲れるってちょっと失礼なんじゃないかと思うけれど。

あ、リンクお帰り。祠攻略早かったな。

 

「それに一人でいる私の方が珍しいからって奇異の目で見られるのもね……疲れる」

 

何、簡単だった?そりゃ良かった。変な所で頭いいよなお前。普段は頭悪そうなの、いって!殴るなよ!

 

「この気持ち、貴方にもわかるわ、よ……ね………………」

「え、あぁごめんお姉さん。聞いてませんでした」

 

リンクが帰ってきてから何か話してたのはわかっていたんだが、全然聞いてなかった。

随分失礼な事をやらかしたので素直に謝ったのだが、此方を見て固まった彼女を怪訝に思う。一体どうしたのだろうか。

 

「う……」

「う?」

「裏切りものーーーーッ!!!!!!」

「えぇーーーっ!?!!!?」

 

いきなり走り出してったぞあの人!?

ってお姉さん!!夜はスタル系の魔物がいて危な---アッ!!一撃で倒した!あの人強いや!!

 

「何だったの?」

 

いつの間にか隣にいたリンクがそう問いかけて来たが、それには答えられそうもない。

だって。

 

「さぁ?」

 

俺の方が聞きたいわ。

 

 

 

 

 




時オカ3D始めました。タゲ取るの難しすぎません?操作ボタン小さすぎて指がつる。

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