君がいる理由 作:ショタシドが可愛い
結局の所、馬を捕まえて登録した。一匹20ルピーの登録料を取られたが、これによって手綱とか貰えたし、口笛を吹けば寄ってくるらしい。捕まえたのはブチ種と呼ばれる白と黒が混じった種類だ。ちょっと牛っぽいなと思って、ギウと名付けた。ぎゅうからゅを取っただけの安直な名前だけど、それでも喜んでくれたのか懐きMAXなのか頬に擦り寄ってくるギウ。馬って可愛いんだな!ちょっと鼻水付いたけど!
因みにリンクは焦げ茶と白のブチ種。彼でもやっぱり単色は無理だったらしい。がんばり系の料理なきゃ無理、と呟いてたけど、暴れる馬の上で料理食べるとかそれこそ無理じゃないだろうか…………深くは突っ込みはしまい。そして名前はウマである……深くは突っ込まないぞ!!!!!
「これで楽に行けるな、リンク」
ギウの首を撫でながらそう言うとコクリと頷いた彼は早速とばかりにウマに跨った。
もう出発する気の様だ。確かにもう昼近いし、そろそろ出発せねばならない。カカリコ村までは馬に乗って約一日かかる。今出ていけば、明日の昼には到着するだろう。
「よろしくな、ギウ」
一回軽く叩いてから鞍へと飛び乗る。手綱をしっかりと握れば完璧だ。行こうぜ、とリンクに声かけてから軽く腹を蹴った。軽く動き出すが、思ったより怖くない。寧ろ心地の良い揺れで思わず寝てしまいそうになる程だ。寝たらずり落ちるけれど。
「マラカスを取り戻して欲しいんだよぉ」
そう言ったボックリンと名乗った変な奴は頭であろう部分をショボくれたように下げた。雰囲気がしょんぼりしていることがわかるから余計に断りにくい。
双子馬宿からカカリコ村とハテノ村の分岐点を過ぎ、整えられていない大きな石橋を渡って見えてきた坂の途中でいたよくわからない生命体。関わりたくはないがリンクが其奴に向かっていくから俺も仕方なく付いていった。
ショボくれていた其奴はボックリンと名乗り、みんな見えないからスルーされていて困っていたと話した。その口振りで言うと普通の奴は見えないらしい。そんなボックリンは音楽家だが大事なマラカスを魔物に取られてしまったようだ。自分で取り戻せば良いのに、と思ったが図体がでかいだけで弱いんだろうな。マラカスを奪われるんだから……ボコブリンに。
「青いな……」
こくり、とリンクが頷く。この世界の魔物はどう言うわけか、強さによって肌の色が変わる。最初は赤、次に青というようにだ。つまりあの青い肌を持つ三匹のボコブリンは今の俺たちにとってそれなりにつよいということになる。
キャンプ的なものをしているのか、三匹がテンション高くジャンプしているのをアーチ状になった岩の上から眺める。彼らがそうして火を囲んでいるのは度々見るが、何故あんな風に飛び上がるのかは未だ不明だ。いくら考えても、意味なんて思いつかない。
いや、魔物の行動原理なんて考えても仕方ないんだけどさ。
「俺が弓で牽制しとくから、リンクは……突っ込んでも大丈夫か?」
「大丈夫」
「青い奴三匹相手とか初めてだろ?」
「大丈夫。攻撃パターンは同じだから」
だから大丈夫。
ハッキリとした口調で言われてしまえば俺が逆らえる気が起きるはずもなく、わかったと頷いて弓を引き絞った。
狙うはヘッドショット一択。彼らは丈夫なので矢が刺さっても動き続けるが、頭に刺さった時だけは仰け反ったり一瞬気絶して倒れたりする。それを狙う。というよりそれしか牽制の方法はない。
目覚める前よりもめちゃくちゃ良くなった視力を元に弓を限界まで引き絞る。周りの風景が止まったような……流れている時間が遅くなったような感覚になり、リンクが駆け出して岩から飛び降りたのを横目で確認してから、弦を離しヘッドショットが決まったのを確認した途端に集中が切れる。気力が足りないのか、一本射つだけでしんどくなるのだが今はそういうのを気にしている場合ではない。
因みにヘッドショットしたのは一番奥にいる個体で、気絶して身体がちょっと吹っ飛んだ仲間に気づいたボコブリン達は其方に向かって振り向くのが自然だ。そんな自然な行為から生み出された隙、敵に背中を無防備に晒すという大きな隙を晒した。そんなのを見逃すリンクではなく。
「ハァアッ!」
今持っている武器の中で一番攻撃力が高いであろう騎士の剣で背中を二、三回斬りつけた後、数歩程後退するリンク。その目の前に棍棒が通り過ぎだんだから、彼の戦闘センスには脱帽する。
「ま、感心している場合ではないか!」
もう一つ矢を取り出し、リンクに近づいている奴に一つ、起き上がった奥の奴にも一つ。そしてリンクに斬りつけられて満身創痍な一番手前の個体の目玉に矢を射ってやった。悲鳴をあげながら消える手前の個体。
「まずは一」
そして彼は一番奥ではなく次に手前だった奴に斬りかかり、華麗に避けてはラッシュを決めていた。目にも止まらない速さだが、彼にはきっとどう斬っているのか自覚できているのだろう。剣の才能が凄まじいな、と心の中で賞賛を送りながら弓をまた引き絞る。
集中。時間が止まる。息を吐き…………射つ!
「二」
ラッシュを決めたがまだ襲い掛かりそうだったボコブリンにヘッドショットを決めて倒し、リンクの後ろから襲おうとしている奴にも続いて矢を放つ。
「三」
気づいたリンクが剣を斬りつけ始めたのを確認して息を吐く。どっと疲れが来たが無視して、彼の方を見た。最後の一匹になったボコブリンを危なげもなく相手取っている。あの様子なら確実に倒すだろうと、息を整え終えた俺は岩から飛び降りた。
そして数歩程歩くと、祭壇のようなものの上に祀られた宝箱が空いた音がして、ボコブリンを倒せたのだと自覚する。
「いっちょあがりだな、リンク」
こくりと頷く彼と軽くハイタッチして戦闘は終わりだ。
リンクがボコブリン達が落とした武器やら素材やらを回収している間に、俺は祭壇の上に登って不気味な骨の様なものでできた宝箱を開く。中には赤いマラカスが入っていて、これが奪われた奴だとわかった。わざわざこんなものを盗んで何が楽しいのかわからなかったけど、多分これの何かがボコブリン達には神聖なものに見えたのだろう。こうして祀ってあったんだし……まぁ魔物の思考なんて予想しても仕方がない。頼まれたものを達成できたことを喜ぼう。
「アーク、見て」
「ん?どうした、リンク」
祭壇から飛び降りたらリンクに話しかけられ、返事をしながらそちらを向くと少し口角を上げたリンクが手の平を上にしながら差し出してきた。そこには脈動する紫色の肝達が……。
「三体とも落とした。ラッキー」
「そだな」
「これ売ればちょっとは足しになる。矢を買って、あとは保存食用に食料とか」
「そだな……」
「あ、アーク。矢の束あったからあげる」
「ソダナ……」
「アーク?元気ない?」
お前のせいだ、とは言えなかった。純粋な瞳で此方を心配するアークから目を逸らしながら、大丈夫と言いながらも手元にある肝達に眉を顰めそうになる。
どくどくと生々しく脈打つそれからは、ボコブリン達の体液だろうものが滴っている。なんか変な色も混じっているのは気にせず、必死にそれから目を逸らした。首が鳴った気がするけど、気のせいだと思いたい。
「アーク?」
「ぼ、ボックリンに報告しに行こうぜ。待っているだろうし」
頷くリンクを尻目に歩き出す俺は息を吐く。赤だったらまだ良いが、何で紫なのだろうか。俺は青い血とかそういうのが無理なタイプである。赤はいけるのだが。
「アーク、矢」
「あぁ……ぁっ」
受け取るのを忘れていたと彼から弓矢の束を貰うと、何かネチョッと明らかな体液が手についてしまって思わず目が死んでしまったが……これは余談というものだろう。
俺にとっては余談じゃないけど!!
「キュルン!?取り戻してくれたの?」
るんるん!と嬉しさを身体全部で表現するボックリンはちょーらい!と腕を突き出してきた。その手の平があるであろう場所にマラカスを置くと、彼?は嬉しそうに振り回し始める。だがその動作にはマラカスという楽器特有の音がなかった。
「音、してねーけど?」
「ハッ!そうだった!あのねあのねぇ?またボクちんのお願い聞いてくれるぅ?」
眉のような葉っぱを下げたボックリンは大きな体を小さくしながら、話し始めた。
「ほんとはね、このマラカスとぉっても良い音するんだよぅ?中に“コログのミ”ってのが元々入ってたんだけど、コログ族の子供達に取られちゃったんだぁ」
こいつ、取られすぎじゃね?と思ったのは内緒である。
「だからね、子供達から“コログのミ”を取り返してきて欲しいのぉ。コログ族は隠れんぼがだぁいすきだから、見つけたらお礼としてくれるはずだよぉ!」
今度は両腕を上げて体を大きく見せるボックリン。断られるなんて微塵も思ってないようだ。独特な話し方と陽気な雰囲気から、良い奴なのは丸わかり。だったら根っからのお人好しであるリンクが断るはずもないだろう。
リンクがどうする?と此方を向いてきたが、その表情は受ける気満々だ。別にこのお願いは期限とかないようだし、見つけたらちょーらい的なあれだ……俺はどっちでも良いし、頷いておく。
「本当ぉ!?お願い聞いてくれるのぉ!?やったやったぁ!持ってきてくれたらお礼にポーチを大きくしてあげるねぇ!」
「マジか」
それは嬉しい誤算である。
リンクのポーチは四次元ポケットみたいなものだが、あれと違って上限がある。素材に関してはないみたいだけど、武器などの入れる場所には制限があるようだ。リンク曰くなので詳細はわからないが、武器を上限よりも多く入れようとして跳ね返ってきたことはある。あれは危なかった。
嬉しい誤算にリンクも顔が綻んでいる。よかったなぁ、俺には全然関係ないけど……弓と矢ぐらいかな。俺もポーチ持ってるけど、リンクのように種類ごとに分かれてないし、上限もある。まぁ小ポーチみたいなもんだ。
「キュルン?キミ達、“コログのミ”もってなぁい?匂いがするよ?」
え?
思わずリンクの方を見る。彼もこっちを反射的に見たのか目があったが、互いにふるふると首を振った。その後にリンクが目を細めたが、それはスルーしてボックリンに向き直る。
「なぁ、“コログのミ”ってどんなのだ?俺たち二人共心当たりないんだけど」
「“コログのミ”はねぇ、ちょっと艶っとした黄色い色でねぇ?ツルツルまぁるいんだけど、ちょこんと尖ってるんだよぉ」
お、おぉ。なんか心当たりあるわ。
「あとねぇ、独特な匂いするねぇ。それと“コログのミ”は彼らの---なんだぁ。キャッ♡言っちゃった♡」
肝心な所言えてないんですけど!?
めっちゃくちゃ気になるが、ポーチの容量を増やす方が先だ。隠れているコログ族を見つけて“コログのミ”を貰う。そういう行程を何度かしたことがある。ボックリの見た目からして、似たようなちっちゃいあいつ等がそれだろう。
ごそごそとポーチを探り、できる限りを取り出す。そして彼の目の前に持っていくと、大きく眉を上げて驚いたように覗き込んできた。
「キュルン!?それ“コログのミ”だよぉ!やったぁ!これで踊れるんだよぉ!ちょーらいちょーらい♪“コログのミ”ちょーらい♪」
「はいはい」
そうして手渡すと嬉しそうに体を揺らしながら、マラカスの取っ手部分をくるくると回して外し中に入れ始めた。
どうやって入れるのかね、と思ってたんだがそうって入れるんだな。興味本位で見せて貰うとペットボトルの蓋みたいに溝ができていた。作った奴凄いな、先進的だなと感心して返した。
「キュン♡これでいつでも踊れるよぉ!ありがとう!あ、でもねでもね。まだ足りないからもっと持ってきてくれると助かるなぁ。お礼にポーチの枠増やすからねぇ」
そんな事を言われてしまえば断れるはずもなく、リンクと俺はコクリと頷いた。
「じゃぁ、ポーチを増やそう!どこが良いのぉ?この数なら、武器、盾、弓一つずつ増やせるよぉ!」
「じゃぁ、お願い」
これで武器を捨てるなんて事しなくて済むな。久し振りに実りのあるお願いだったなと今回の事を振り返りながら、ボックリンが準備するのを待つ。
その時にリンクが手を繋いできたが……まぁこれぐらい許してやろう。寝てる時も何故か繋いでくるけどな、こいつ。子供か!と何度突っ込んだことか。
俺が過剰に反応しすぎてるのもあるけどな……慣れてきたから、抱きつかれる、手を繋ぐ程度はもう驚かない。あとはでこチューである。どこの彼氏?なんて思いながら受け入れてる自分がいる。
「(……あれ?これ結構ダメじゃね?)」
いやいやいや!俺はノンケ、俺はノンケである。ホモじゃないので。同性愛者ではないので…………隣の奴がどうかわからんのだよなぁ!でもさぁ!同じ顔した奴を好きになるやつなんているか!?とんだナルシストだな!おい!イケメンだもんな、ちくせう!
ハッ!落ち着け、俺。今考えても仕方がない。俺がこの世界で何者なのか、主人公についていくことで探るんだろう。ガノンを倒すのもあるが、それよりも俺自身のことである。
……わかるまで、貞操守れてるかなぁ。
思わずリンクの方を見ると、クエスチョンマークを浮かべながらも微笑んでくれた。いや笑顔を求めてないんですけどね、イケメンですね!
慌ててリンクから視線を逸らし、ボックリンの方を見る。ダンスを披露してくれるというのだから、見ないとな。うん、現実逃避とかいうなよ。
だだ、現実逃避にと見たボックリンの踊りは。
「イーーッヤッハァア!!!」
性格に似合わず、結構激しかったと言っておこう。
ブレワイ続編やっっっっっっったぁぁああああああ!!!!!!!!
ところで、ボックリンって900個もコログのミを集めて何するんですかねぇ……。