仮面ライダージオウ~Crossover Stories~   作:壱肆陸

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アナザーウィザード
2012年の皇=ルシフェル=セイントが変身したアナザーライダー。改変された歴史では絶望した人間から奪った魔力でファントムの軍勢を生み出し、天界へ戦争を仕掛けていた。(ただし戦力を逐次投入していたため消耗が激しく、その兵力はアナザー鎧武の10分の1以下)
自他の魔力と精神に干渉する能力を持ち、それによって自身の魔力を変質させることで属性を問わず様々な魔法を操ることができ、他人の魔力をファントムに変えることもできる。一定条件下で撃破しない限り、何度でも蘇る。


内定が決まったので復活した壱肆陸です。
今回から鎧武×まどマギ編、後半戦。舞台は沢芽と似た境遇の舞茂市。本編鎧武で言う所の序盤~中盤辺りの話となります。


EP19 コネクトオン2013
いざ始動、チームジオウ!


「この本によれば、普通の青年、日寺壮間。彼は2018年にタイムリープし、王となる使命を得た。我が王は見滝原という街で中学時代の旧友、梓樹美沙羅と再会し、魔法少女となっていた彼女と共にその戦いへと巻き込まれた」

 

 

 預言者は語る。悠久の時を駆け、宇宙の理に起源を遡るこの物語は、人類という種に与えられた残酷な運命にして試練。そんな壮大な物語の中で、壮間が見つけるべき答えはたった一つ。掛け替えのない友人を救い出す、そんな未来。

 

 

「我が王は麻沼───アナザー鎧武とインキュベーターが導く絶望に仲間の力で抗い、戦うことを決意した。その先の結末で、彼を待ち受ける運命は───」

 

 

 読み過ぎてしまう前に、預言者は本を閉じた。

 この交差(クロスオーバー)を壮間が踏破した、その先。それはもう選ぶことのできない運命だ。

 

__________

 

『ハロー舞茂ユーザーズ! バーチャルMC、千織カノンのインベスゲームホットライン~! 今日もリスナーの皆と一緒に、インベスゲームの動向をチェックしちゃうよ!』

 

 

 『千織カノン』。舞茂市の若者の間で大人気の正体不明バーチャルMC……と言えば聞こえはいいが、実際の所は舞茂市に関する事を配信する極めてローカルな存在。ご当地ゆるキャラのようなものである。

 

 インベスゲームは舞茂市周辺でのみ行われている特別なコンテンツであり、千織カノンは活動の一環としてそれを実況する。しかし、その狭く閉じた遊戯の実態に反して内部の熱狂は凄まじく、ここ半年で市内の注目は彼女の配信に釘付けになっていた。

 

 

『昨日のミッションをクリアしたのは“チームジオウ”! その後の“魍魎”と“レッドホット”との喧嘩も返り討ちにしてポイントゲット! これにより皆さんお待ちかね~……“チームジオウ”は一気にトップ10に躍り出た! ロックシードを使わないアーマードライダーに、リスナー諸兄に大人気の祝えニキ、謎だらけのチームジオウはどこまで行って───』

 

「祝え! 我が王率いる“チームジオウ”が、見事ランクインした瞬間である!!」

 

 実況をお馴染み祝えニキの声量が掻き消した。

 そこに遅れて着け鼻と安いトンガリ帽子を被ったミカドが、無言のクラッカーで追撃。

 ケーキや料理、空を舞う紙テープを眺めながら沈黙する壮間と香奈。

 

 とんでもなく微妙な時間がパーティー会場もとい、チームジオウの拠点ガレージで経過した。

 

 

「貴様俺のパーティーが楽しめんのか、殺すぞ……!」

 

「どっから何言えばいいか分かんないんだよ」

 

 

 壮間たちが2013年に来て1週間ほど経っただろうか。この街に来てインベスゲームのことを知るまで時間はかからず、そのゲームの仕組みに加えて『とあるチーム』を知った壮間たちは迷わずインベスゲームに参戦。

 

 そして順調にポイントを稼ぎトップランカーの仲間入りを果たした。ここまではいい。が、何故か突然ミカドが祝勝会をやると言い出し、それを聞きつけたウィルが便乗し、今に至る。

 

 

「……チッ、おい片平。バカ騒ぎは貴様の専門だろう、俺には分からん!」

 

「あ、ごめんミカドくん。ミカドくんがこういうことするのって、なんか珍しいっていうか……嬉しいなーって! ありがとう、でも私まだ……なにも……」

 

「貴様らがいつまで経っても辛気臭いと俺の調子も狂うんだ。悩んでいれば答えが出ると思うなバカが。さっさと飯を食ってクラッカーを鳴らして正気のバカに戻れ。でなきゃチーム名を“チームゲイツ”に変えるぞ」

 

「いや別にいいけど……」

 

 

 2018年で遭遇したアナザー鎧武やキュゥべえの圧倒的な悪意と、美沙羅が魔女になったという悲劇のせいで、2人の心は余裕を受け付けられない。それでもミカドなりに壮間たちに寄り添い、気を遣ってのこの行動は今までじゃ考えられなかった光景だ。それが少しだけ2人の心を解く。

 

 

「……でもピザとケーキとフライドチキンとハンバーガーはやりすぎだろ。これ全部自腹?」

 

「貴様も知ってるだろう。インベスゲームの獲得ポイントはロックシードなどの景品と交換できる。減ってもランクに影響はないらしいから一気に使ったまでだ」

 

 

 インベス討伐、ミッションクリア、市民からの支持率、それらによってポイントは付与され、そのポイントは実質的には市内限定の貨幣を意味する。ポイント次第では貨幣では買えないような権利も与えられると聞く。市内の若者たちがそのポイントを巡って抗争を続けている、というのがインベスゲームの構造だ。

 

 

「それにしても、怪人を倒すだけで正当な賃金を得られ、このガレージのように賭け次第で他のチームから景品の所有権を奪うこともできる。これが全て合法とは……全くいい時代だ」

 

「前から思ってたけど、ミカドくんって海賊とか向いてそうだよね」

「ヤクザだろ」

 

「もっとも、『運営団体が信用できる』という前提ありきの話だがな」

 

「ユグドラシル・コーポレーション……この本を読まずとも、この会社は君たちの思う通り、ほとんど間違いなく『黒』。何かを企んでインベスゲームを運営していると見て間違いないよ」

 

 

 インベスゲームは怪人をロックシードという装置で使役し戦わせる、正気とは思えないゲーム。インベスが人間が果実を食った成れの果てと知っている壮間たちからすれば尚更だ。しかも、そのプレイヤーは『ロックシードを使う人間』とこの時代の仮面ライダーに相当する『アーマードライダー』だけじゃない。

 

 丁度今、配信の映像がそれを映した。若者がロックシードで呼び出したインベスと戦っているのは、仮面ライダーではなく『魔法少女』だ。それを見て観客は驚くこともなく声援を送っている。

 

 

「仮面ライダーも、魔法少女も、この街ではゲームとして認知されている。さっきの絵の女のカメラで公に映され、軽率にその戦いを民間人に消費されている。異常だ」

 

「確かに。今までの時代だと、『仮面ライダー』を普通の人に公言してるのは見たことが無い」

 

「カイザが公務員だったように例外もあるだろうが、魔法少女も本来は明るみに出るような存在じゃないはずだ。魔女を狩らねば死ぬ体で、何故わざわざ正体を晒してまで遊びに興じている。何故ユグドラシルは魔法少女をインベスゲームに組み込んだ」

 

 

 これが壮間たちがインベスゲームに参戦した理由だ。この謎を解かなければ、きっとアナザー鎧武を倒すことはできない。

 

 壮間たちの目的は3つ。1つはユグドラシル・コーポレーションの調査。

 2つ目はアナザー鎧武の正体である麻沼を探すこと。もしまだアナザー鎧武の力を手に入れていないのなら、先手を打つことができるはずだ。

 

 そして3つ目が最重要。アナザー鎧武を倒し、美沙羅を魔法少女の運命から解放するための仲間を集める。インベスゲームで魔法少女の動きを見れるのは幸運だった。まずは2018年で会った佐倉杏子が、既にインベスゲームに参戦しているのを壮間たちは確認済み。他の魔法少女やアーマードライダーも出来る限り仲間にしたい。そのための“チームジオウ”なのだから。

 

 何より、壮間はこの時代で仲間を作ると決めた時、真っ先に思いついた人物がいた。それが暁美ほむら。壮間と同じように時を遡り、たった一人の友達のために戦い続けた魔法少女。

 

 壮間はほむらから受け継いだプロトウォッチを握りしめる。

 そして忘れてはいけない。アナザー鎧武を倒すためのキーパーツを、まずは取りに行くべきだ。

 

 

「このスタートラインから始めるぞ。まず仲間にするべきなのは、この時代のほむらさん。そして、仮面ライダー鎧武だ」

 

 

 ライドウォッチに宿るライダーと同じ名前のチーム、つまりこの時代の『主人公』。インベスゲームランキング第1位“チーム鎧武”。ランキングの頂に手を掛けた今、ようやくそれは届く距離になった。

 

 

「おい、作戦会議もその辺にしてピザを食え。一人ノルマ1枚だ」

 

「その通りだ我が王。フライドチキンにレモンは絞っておいたよ」

「うわっ余計なことしやがって」

 

「……私はハンバーガー食べよっかな。たくさん食べて、頑張ろうソウマ。これ食べたら杏子ちゃんに会いに行くの? それともほむらちゃん?」

 

「何のためにわざわざランクを上げたと思っている。こちらから動かなくとも必ず───」

 

 

 ミカドがピザを完食すると、丁寧に三度、ガレージにノックの音が響く。噂をすればなんとやらだ。ガタついた扉が開かれると、そこにいたのは緑の法被を羽織った長身の少年。ミカドの予想通りの来訪者だった。

 

 

「お楽しみのところ失礼。こちらチームジオウでよろしいかな?」

 

「待ってたぞ。一先ず……ピザを1枚食っていけ」

 

「は?」

 

 

 ミカドは来訪者に対し、まず大量に余ったピザを押し付けた。

 

__________

 

 

「……ごちそうさまでした。まさか挨拶に来たら、こんな有難迷惑な歓迎をされるとはね」

 

「すいません……」

 

 

 壮間たちは来訪者を招き入れたのだが、何故か残飯の処理を手伝わせる羽目になり、全部食べ終わる頃には過剰カロリーで完全にノックアウト。ただでさえ細身な少年なのに、テンションの高いミカドに出くわしたのが運の尽きだ。

 

 

「吐きそう……まぁ気を取り直して自己紹介ですチームジオウの皆さん。僕は“チーム龍玄”の勇深(いさみ)辰明(たつあき)。高校2年生17歳、血液型はAB型、視力は両目0.1以下でコンタクト、必要なら他の個人情報も開示するけど」

 

「いや別にいいです。でもチーム龍玄? ランキングにそんな名前は無かった気がするけど……」

 

「それはまだ僕一人のチームでランク外だから。ユニフォームもこの通り、安物の法被」

 

「帰れ。俺たちに冷やかしを相手する暇は無い」

 

「仲間が欲しいんだろ? 僕の話は聞く価値があるよ、新参者(ニュービー)

 

 

 壮間たちはまだ何も言ってない。それなのに辰明はチームジオウの第一目標を容易く言い抜いてみせた。

 

 

「この料理、ユグドラシルの系列店の出前だ。つまりランクインまでに稼いだポイントを結構派手に使ってるし、目的は景品じゃない。それなのに大急ぎでランクを上げた理由は今分かった。冷やかしの雑魚お断りってことは、強いヤツは大歓迎ってワケだろ? でもバトルジャンキーにしては動きに計画性があるし、消去法で『仲間集め』が目的と見たけど、どう?」

 

「わ……当たってる! 最近会う年下の子みんな凄いなぁ、賢いんだねぇアキくん」

 

「話しかけないでくれる? 僕、女は嫌いなんだ。あんたみたいな頭の悪そうなのは特に」

 

 

 あまり人から嫌われた経験がない香奈。直球の悪口を向けられ、壮間も見たことのない顔で辰明を睨みつけていた。それを気にも留めずミカドと辰明は会話を続ける。

 

 

「僕も仲間を欲してる。信頼出来て、強くて、賢い仲間を。インベスゲームの裏にある大義を果たすためのね。そう、僕らの利害は一致してるんだ。まだ誰からもプロポーズされてないのなら、是非ともあんたらと手を組みたい」

 

「話を聞いてなかったのかクソガキ。さっさと消えろ、役不足だ」

 

「それは誤用の方? だとしたら問題ないね、チーム龍玄はチーム鎧武の下部組織だ」

 

「チーム鎧武!?」

 

「元は僕もチーム鎧武だったけど、ちょっと喧嘩して別居中。でも交渉を取り付けることくらいはできるよ。その反応を見るに、チーム鎧武に興味があるんでしょ」

 

 

 想定より遥かに早く訪れた好機だ。彼を仲間に引き入れれば、芋づる式に鎧武にまで手が届く。しかし、壮間は決断を踏みとどまった。麻沼を信じた結果、美沙羅を喪った痛みがそうさせた。

 

 

「……貴方はまだ何か隠してる。そう簡単に手は取れない」

 

「それはまぁ、初対面で全部晒すほど僕だって浅はかじゃない。少し外に出て散歩でもどう? 相互理解も兼ねてね」

 

「何を……?」

 

「上ばっか見てまだこの街のこと何も知らないでしょ? その上で、外から来たあんたらの眼が曇ってないかを確かめる」

 

 

______________

 

 

 辰明が散歩と称して壮間たちを連れて行ったのは、使われていない工場の跡地か何か。この街はユグドラシル・コーポレーションが来て大規模な再開発があったと言うが、その名残だろうか。

 

 そこを中心に縄張りとするのは“チーム魍魎”。先日壮間たちに敗れ、ランキングTOP10から脱落したチームだ。いかにも街のチンピラといった風貌のリーダーの男は、壮間たちを見て声を荒げる。

 

 

「誰かと思えばチームジオウじゃねぇか! 鎧武の次男坊まで連れて何しに来やがった!?」

 

「僕は鎧武から抜けた。情報が古いよ、そんなだからランキングから漏れるんだ。プライドが高いあんたのことだ、ジオウへの報復でも企んでそうだと思って、ちょっと告げ口をね」

 

「はぁ、報復!? 聞いてない!」

「そのくらいは想定しておけ日寺。こんなゲームに参加するヤツが素直に負けを認めるか」

 

「なんだお見通しかよ。ありったけのポイントを錠前に変えてよ、ついさっき準備もできたから、こっちから出向くつもりだったんだがなぁ!」

 

 

 魍魎のリーダー、そしてメンバーたちはその両手に大量の錠前───ロックシードを取り出した。ロックシードはインベスを呼び出し、使役するインベスゲームにおけるコントローラーのようなもの。チーム魍魎はそれぞれがロックシードを開錠し、クラックが開いてそこからインベスが現れる。

 

 しかし、通常はゲーム用のホログラム体として現れるインベスだが、現れた個体は何故か実体を持っていた。その理由に関して、辰明と、そしてミカドは勘付いていた。

 

 

「……リミッターカットか」

 

「なんだ、意外と情報通だね。まだ一部のチームしか知らないのに」

「リミ……カ……ってなにミカドくん!?」

 

「ロックシードでインベスの実体を召喚できるようにする……つまりドライバー無しでロックシードを実戦投入するための改造のことだ。俺たちの時代では、敵から奪ったロックシードを使うのにこの改造が必須だった」

 

「そんなの、ゲームで遊ぶ分には無駄な技術だろ!? なんでそんなこと……!」

 

「はぁ、何言ってんだ? ゲームなんて関係ねぇ、こいつら使えば何でも奪える、何でも壊せる。現実で怪物を操れれば何でもできるだろうが! ゲームで負けた仕返しに、お前らのアジトぶっ壊すこともな!」

 

 

 魍魎のリーダーは笑いながらそう言った。メンバーたちも笑っている。

 壮間たちの顔が歪むように曇っているのを見て、辰明は質問を付け加えた。

 

 

「ロックシードの改造は禁止行為、バレればランキング追放だよ。それに警察だって黙ってない。さっさとそのインベスを引っ込めなきゃ人生終わるけど、わかってる?」

 

「だから何言ってんだ? 知ってるだろ、ここ最近野性で出てくるインベスがよく暴れてる。だから俺たちが出したインベスで何が壊されようと、誰が怪我しようと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

 

 その回答は決定的だった。壮間とミカドも、普段は難しい話なんて分からない香奈も、その言葉がおかしいことは理解できた。

 

 壮間たちは何も知らない者たちがインベスをゲームとして扱っているのだと思っていた。でも彼らはこの怪物が人々を襲う恐ろしい存在だと知った上で、ゲームとして遊びに使っていたのだ。

 

 それだけじゃない。野性のインベスで実害も出ているのなら、どうして誰もインベスゲームを止めようとせず、配信もあんなに盛り上がっている? プレイヤーも観客も、それどころか街の誰も、このゲームの危険性に気付いてないとでも言うのか? そんなことがあり得るのか?

 

 

「その感じだと、あんたらはまだマトモみたいだ」

 

「どうなってるんだ。まさか……これを俺たちに見せるために?」

 

「そう。見ての通り、この街の連中はみんなバカなんだ。見えるべきものが目に映ってない。言っただろ、賢い仲間を探してるって」

 

「なにゴチャゴチャ言ってやがる。言っとくが鎧武にも借りがあるんだ、テメェにもここで消えてもらうぞ勇深ィ!」

 

「だろうね。僕だって、バカから玩具を取り上げに来たんだ」

 

 

 自分に向けられた矛先にも動じず、辰明は黒く輝く『戦極ドライバー』を携えた。腰に装着するとそこから黄色いベルトが展開される。

 

 

「そのドライバー……実際見るのは初めてだ。てことは……」

 

「アキくんが仮面ライダー……じゃなくて、『アーマードライダー』!?」

 

「トップチームの下部組織というのは伊達じゃないな。下位の雑魚相手では叶わなかったが、ようやくこの時代のライダーのお手並み拝見だ」

 

 

 敵がそうしているように、辰明も同様にロックシードを掲げる。どういうわけかロックシードとは『果物』の名前とレリーフを冠しており、彼が持つ錠前は『ブドウ』を象っている。

 

 

《ブドウ!》

《ロックオン!》

 

「変身」

 

 

 ロックシードを開錠して空いたクラックからは普通はインベスが出てくるが、ドライバーの機能で代わりに巨大な『ブドウの形のマシン』のようなものが現れた。辰明は構えを取るとロックシードをドライバーにセットし、錠前を閉じてロックする。

 

 銅鑼の音と中華の演奏が鳴り響く。その音に終止符を打つように戦極ドライバーのブレードを下ろすと、通常開くことのないロックシードの『断面』が解放され、頭上に来ていたブドウが彼の頭に覆い被さった。

 

 

「アキくんがブドウに食べられた!? 頭から!」

「いや、どういう変身だよこれ……」

「知らん」

 

 

 ブドウを被ったことで辰明の体が緑色の戦闘スーツへと換装される。そこからブドウに亀裂が入り、畳まれ、変形することで、ブドウはその戦闘スーツを覆う『(アームズ)』となって完成された。

 

 

《ハイーッ!》

《ブドウアームズ!》

《龍・砲! ハッ・ハッ・ハッ!》

 

 

 『アーマードライダー龍玄』。勇深辰明が変身する、紫龍の武将。

 魍魎のリーダーが差し向けた数多の下級インベスに対し、龍玄は銃を構える。『ブドウ龍砲』、ブドウアームズの専用武器(アームズウェポン)にして、彼がブドウロックシードを愛用する理由の一つだ。

 

 一度引鉄を引くと同時に、インベスの体が多段の衝撃で貫かれ、爆散した。

 ブドウ龍砲の性質はガトリング砲に近い。その銃口はブドウの粒を模して6つ存在し、一回の発砲でそれらから超高速で無数の弾丸が放たれ、一瞬にして敵を葬り去るのだ。

 

 四方から迫る敵に対して行われる精密な乱射が、次々にインベスを撃破していく。ライダーと言ってもゲームに興じる若者だと壮間も思っていたのだが、その戦闘力は他の時代で会ったライダーたちに比べても決して引けを取らない。

 

 

「何見てんだよ、手伝って。これあんたらの喧嘩だろ」

 

「あ、そうだな。行くぞミカド! 香奈はとりあえず逃げて!」

 

「……わかった」

 

「もう少し見ていたかったが仕方ない。さっさと終わらせてやる」

 

 

 壮間とミカドも変身してインベスに対処する。いくら兵の数が多いといっても、所詮は素人が操る初級インベスの群れ。3人のアーマードライダーが集まれば敵ではない。魍魎が仕向けた軍勢は瞬く間に制圧されていく。

 

 

「一匹厄介なのがいるな……!」

 

「上級インベス、高ランクのロックシードを使っているのか。しかし……」

 

 

 この戦況で唯一、水色の外骨格と長い触覚を持つ昆虫型の『カミキリインベス』が、ゲイツとジオウの連携攻撃と渡り合っていた。

 

 それは魍魎のリーダーが操るインベス。他の低級のロックシードとは違い、ドリアンを模した『ランクA』のロックシードによって呼び出された、戦闘力の高い上級個体だ。それを見てゲイツは訝しむ。

 

 

「おい、貴様は高ランクのロックシードの改造法を心得ているのか!?」

 

「はぁ? んだよ命乞いのつもりか!?」

 

「……馬鹿が。さっさとコイツを引っ込めろ! 低級ならまだしも、ロックシードは強力になるほど改造には複雑な手順と技術が必要になる! 素人の改造ではすぐに───」

 

 

 ゲイツの忠告が言い終わる前に、ドリアンロックシードが暴走してショートを起こした。驚いた拍子にロックシードが手から放たれ地面を転がる。ロックシードはインベスを操作するハンドルのようなもの、つまり操作中に一度手を離せば───

 

 インベスは人間の制御を外れ、本能のまま無差別に暴力を尽くす怪人となる。

 本来の姿を取り戻したカミキリインベスは踵を返し、報復と言わんばかりにチーム魍魎へと牙を剥く。

 

 

「おい待て、待て待て! 来るな! 言う事聞けッ! やめろ、やめっ……あがっ!」

 

 

 ロックシードを拾い直した所で意味は無く、カミキリインベスは魍魎のリーダーを殴り飛ばしてロックシードを強奪。他のメンバーはリーダーを置いて我先にと押し合って逃げ始め、彼らが投げ捨てて行った下級ロックシードとドリアンロックシードをまとめて、カミキリインベスは『摂取』した。

 

 

「なんだアイツ……ロックシードを食べてるのか!?」

 

「そっちの赤い方は知ってそうだけど、ロックシードを食べたインベスはパワーアップする。しかもあの量、ちょっと面倒なことになった。これだからバカは嫌いだ……!」

 

 

 カミキリインベスの体が肥大化し、獣と甲虫を融合させたような巨大な異形と化した。

 先日戦ったセイリュウインベス強化体よりも更に大きい。しかも硬い装甲と俊敏な動きは据え置きで、辛うじて龍玄の銃撃がヒットはするが有効打にならない。

 

 

「タイムマジーンを呼べば倒せるけど……!」

 

「そう悠長に構えてられんぞ! コイツを街に出すわけにもいかない!」

 

 

 カミキリインベス強化体の顎の刃が、地面ごとゲイツの装甲を斬り付ける。その後隙を狙ったブドウ龍砲の一斉照射が顔面に浴びせられるが、大きく怯ませるだけで撃破には至らない。

 

 

「……しまった!」

 

 

 カミキリインベスが退いた先には、逃げ遅れた魍魎のリーダーがいた。いくら喧嘩をふっかけられたとはいえ民間人だ。彼を助けるためにジオウが走り出すが、カミキリインベスの標的が完全に切り替わってしまった。

 

 怯えて腰が抜け、逃げる事すらままならない魍魎のリーダー。彼ににじり寄るカミキリインベス強化体。その牙が彼を切り裂く寸前、ジオウよりも先に蒼い光がカミキリインベスを貫いた。

 

 

「……! 誰だ?」

 

「ちっ、何しに来たんだよ。こんなとこまでわざわざさ」

 

 

 倒れるカミキリインベスの上に立つ、白いマントの小柄なシルエット。その正体を知る龍玄が舌打ちをして目を逸らす。ジオウたちに振り返ったその姿は、清流を思わせるように澄んで青い、剣士の『魔法少女』。

 

 

「何って決まってんでしょ。人助けよ!」

 

「関係ないことにまで首突っ込むなって言ってるんだよ、美樹さやか!」

 

「『美樹さやか』……!? その名前、どこかで……」

 

 

 『美樹さやか』と呼ばれた魔法少女の体制が揺らぐ。倒れていたカミキリインベスが目を覚まし、体を起こしたのだ。

 

 

「うっそ刺さってない!? 硬すぎ!」

 

「油断しちゃダメよ美樹さん。魔女に比べてインベスは生命力が強いことが多いって、ちゃんと復習したでしょう?」

 

「はーい、ごめんなさいマミさん」

 

 

 さやかに続いてもう一人、今度は銃を持った魔法少女が現れた。『マミ』と呼ばれた魔法少女は、壮間の知るどの魔法少女よりも落ち着いていて、少女でありながら大人っぽく、そしてやはりその名には聞き覚えがあった。

 

 乱入者のことを知る前にカミキリインベスが再始動する。翅を展開して低空飛行の高速移動を始めた敵に対し、さやかは剣を握り直して駆け出した。

 

 

「だいじょーぶ! もう油断しません……よっと!」

 

 

 彼女は速かった。速度もそうだが、何よりその水中を泳ぐ人魚のような機動力が驚異的だ。その動きで空中のカミキリインベスを易々と翻弄し、その細腕に似合わない膂力で刃を叩きつける。

 

 

「魔女もインベスも、人を傷つけるヤツはあたしが倒す!!」

 

 

 鎧の硬さを前に、刃は一度弾かれた。ならばと彼女は更に剣を振るう。地道に、愚直に、しかし圧倒的速度で刻まれ続ける傷は、瞬く間に劇的なダメージとなって発現した。痛みに体を軋ませるカミキリインベスの姿が、それを証明している。

 

 

「本当、危なっかしいのよね……真面目ないい子なんだけど」

 

「何がいい子だよ。人の喧嘩に手を出すようなヤツは、ただの自己満足の偽善者だ」

 

 

 マミは胸元のリボンを解き、それを軽く空中に舞わせる。するとそのリボンは魔法で巨大な大砲へと変化した。龍玄もまたドライバーのブレードを1回倒し、再充填したブドウ龍砲の全ての弾丸を一か所に集約させる。

 

 2つの銃口がカミキリインベスにロックオンした。

 

 

「ティロ・フィナーレ!」

 

《ハイーッ!》

《ブドウスカッシュ!》

 

 

 大地を揺るがす巨大砲台の一撃と、全弾連射の龍の咆哮。同時に放たれた必殺射撃は、動きを封じられたカミキリインベス強化体を爆炎の中に消し飛ばした。

 

 

「……ふざけた火力だな。魔法を使う女はどいつもマトモじゃない」

 

 

 ミカドがそう評するように、マミの『ティロ・フィナーレ』の威力は凄まじかった。さやかの戦闘能力も相当高く、少なくとも彼女たちの実力は仮面ライダーに比肩すると言って全く問題ないだろう。その戦いぶりに、壮間も思い当たる節があった。

 

 

「……そうだ思い出した。『巴マミ』と『美樹さやか』って、確か……!」

 

「辰明、あんた勝手にチーム抜けてどういうつもり!? みんな心配してたし、燈理さんの代わりにあたしが様子見に来たの。どういうことかちゃんと説明して!」

 

「余計なお世話だ! 馴れ馴れしいんだよ新参の癖に。僕は僕で勝手にやる。あの人ができない事を僕がやって、僕があの人を支えるんだ。お前らの代わりにな」

 

「いい加減に説明しろ。この魔法少女どもは、貴様の知り合いか?」

 

 

 ロックシードを閉じ、変身を解除した辰明は反吐が出るとでも言いたそうな顔で、ミカドの質問に答えた。

 

 

「こいつらは最近チーム鎧武に加わった野次馬連中。チーム鎧武はメンバーの大半が魔法少女……つまり役立たずのお荷物を抱えた欠陥チームだ」

 

 

____________

 

 

 ユグドラシル・コーポレーションは世界有数のバイオ企業であり、再開発後の舞茂市の医療福祉は飛躍的に成長した。この舞茂市立病院もまた優秀な医師と最新の設備が揃った砦となっており、そんな市民の信頼を集める市立病院の目の前で、ある青年は子供たちを相手に声を張り上げる。

 

 

「よぉーし見とけ! ここに取り出しますは1個のリンゴ、さっきスーパーで100円で売ってた普通のリンゴだぜ。これをこうして、こう、こう……ほい! なんとビックリ兎ちゃんに早変わり~!」

 

 

 青年は器用に包丁を滑らせ、リンゴを兎の形に切って見せた。ただしそれはお馴染みの皮を耳に見立てた飾り切りではなく、しっかり手足や目に尻尾まで造形された彫刻だった。無駄に凝った出来栄えに、子供たちも喜ぶより唖然としている。

 

 

「すげぇ」

 

「そーだろ、すげぇだろ! こいつをお見舞いに持ってけば婆ちゃんビックリするぜ? つーわけでどうよ、このウサギ一匹500円で!」

 

「いらねー」

「かわいくない」

「味同じじゃん」

「ウサギは一匹じゃなくて一羽って数えるんだよ、知らねーの?」

「もういいや。帰ろーぜ」

 

「おいちょ、待って! わかった400円、いや300円でいい! お小遣い貰ってんだろ!? 200円! 200円でいいから! おぉぉぉぉぉい!」

 

「……燈理君。病院の前では、静かにね。あともちろん商売もしないように。刃物も禁止」

 

「あ……スンマセン」

 

 

 青年は病院から出て来た顔見知りの男性看護師に諌められ、縮こまってそそくさとリンゴと包丁を片付けた。青年は不良と言えるほど高圧的ではなかったが、髪は明るく染められており、若者らしい活発で軽率な行動力が外見からも溢れ出るようだった。

 

 

「入らないのかい? お見舞いに来たんじゃないの」

 

「いや、今日はたまたま近く通りがかったんで……コレ見舞いに渡しといてもらいたくて。どっスか恵吾さん、母ちゃん元気っスか」

 

「体調はいたって健康だよ。最近は外を眺める時間も増えたし、もう少しで外に出られるようになるかもしれない。また顔を見せに来てくれたら、お母さんも喜ぶよ」

 

「またすぐ会いに行くって伝えといてください! ちょっと今からバイトあるんで、よろしく頼んます!」

 

 

 青年は看護師にフルーツの入った袋を渡すと、愛用のママチャリに乗って大急ぎで走り出す。

 

 

「やっべえええ時間ねぇ! うおおおおお唸れ俺のトウリブラックぅぅぅ!!」

 

 

 左右前後に揺らされながら青年のリュックサックにぶら下がるのは、『オレンジ』のロックシード。青年───チーム鎧武のリーダー『奏多(かなた)燈理(とうり)』は、バイト先目指して一心不乱に自転車を走らせた。

 

 




前半では出なかった見滝原の魔法少女、残り2人はチーム鎧武。
あとのチームとアーマードライダーはまた次回ということで。いや、多い。出すべきキャラが多い。

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