仮面ライダージオウ~Crossover Stories~ 作:壱肆陸
今回の余談。本作の兄さん枠である岳晴の名前、たまにやる他作品の推しからそのまま取る方式なんです。この元ネタが分かる人とは上手い酒が飲める。
今回も「ここすき」をよろしくお願いします!
俺は人よりも出来がいい子供だったらしい。
皆が必死こいて時間をかける勉強も、運動も、苦労と呼べるものをした覚えがない。するべき努力や挑むべき試練が見つからなかった。今ここが皆の言う幸福だと言うのなら、俺にはその価値が分からなかった。
だから大人に漠然と憧れを持っていた。大人になれば、この鬱屈とした孤独から抜け出し、自然と自分に意味が生まれる気がした。幸福もそこにあるように思えた。
それまでは暇で退屈だったから、馬鹿と同じように生きていた。どうせ今に意味なんてないのだから、規範から外れ、怠惰と暴力の中にいることにした。
「そりゃアレさ。アンタにやりたいこととか、なりたい自分が無いってだけの話だ。賢ぶって偉そうなこと言ってんじゃねぇよ」
高校時代、そんな俺の悩みを馬鹿馬鹿しいと笑い、ついでにボコボコにしてきた奴が現れた。
一つ上の女の先輩だった。豪快で男勝りな性格の、まぁいわゆる不良生徒。しかし彼女の言葉は、自分以上に俺を理解し、その芯を殴りつけて来た。
「やりたい事ってなんだよ。社長? アスリート? 年収幾ら稼げば俺は幸せになれる? 具体的に思い描かなきゃいけないものなのかよ、それって。馬鹿でも平気で笑えるこんな世界で」
「なんでもなれると思い込んでるから、そんな事言えるんだよ。出来ない事に本気で取り組んだことねぇだろ? 人間なんざ空も飛べねぇんだ、やりたいけどできないことなんて誰でも絶対に見つけられる。そうなりゃきっと後は楽しいもんさ。和子を見てみなって、毎度懲りずに彼氏作っては玉砕して楽しそうだろ?」
「……確かに、早乙女のアレは病的だ」
「人は誰しもあぁいうバカになれんだよ。だから煙草はやめときな。辛くもねぇうちに吸っちまったら、後の楽しみ無くなって損するぜ?」
先輩は俺が持ってる煙草を見もしてないのに、笑ってそう言った。彼女だけには敵わないと、その日思った。歳は一つしか変わらないはずなのに、彼女もまだ自分と同じで迷っている子供なはずなのに、先輩はいつだって強い意志を持っていた。
そんな先輩に憧れを抱くのは自然だった。
彼女に横に立つ時、恥じないで済む自分でいたい。先輩のようになりたい。それが一先ずの目標になって、大学に行くことを決めたのだが、そこから先は先輩の言う通りだった。いざ挑戦を決めると躓くことが何度もあって、自分の楽観を思い知らされた。でも、そんな失敗も楽しいと思えた。
俺が大学に入ってすぐ、先輩が結婚したと聞いた。
あの人はやっぱり思い立ったらすぐに叶えてしまう。尊敬していた彼女は大人になっても変わらないままだった。
それからも先輩と交流を続けながら時間は過ぎた。俺によく構っていたもう一人の先輩は、相変わらず独り身らしいが中学の教師になったらしい。そして先輩には長女が生まれ、それから忘れた頃に長男まで生まれた。
先輩たちはすっかり大人になって、子供を導く立場になった。
俺も精一杯の努力をして社会の一部となった。あの日なりたいと誓ったように、そんな先輩たちと並んで恥じないような、若者の未来を導ける大人に───
そんな、なりたかった自分になれたと、思っていたかったんだ。
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『インベスゲームの運営、ユグドラシル・コーポレーションに潜入しませんか?』
香奈は自身の無力を打ち明け、巴マミに答えを求めた。そうして帰って来たのがこの返答。この誘いに乗るべきか否か、香奈は夜通し考えてしまった。
『ここに来る前、ある配信で魔法少女が堂々と姿を晒して戦っているというのが、私たちの中で話題になってました。魔法少女っていうのは普通、存在を隠すものなんです。しかも話によれば、各地で消えた魔法少女が配信に出ていると。この話のどこが変なのか分かります?』
『……魔法少女だって普通の女の子だよね、ミサがそうだったみたいに。学校に通ってるし、家族もいるはず。その人たちが押しかけたりしないの? 今ごろゲームなんて、できる状況じゃないんじゃ……』
『えぇ、その通りです。外の人間はインベスゲームを知らないし、知ったとしても誰もほとんど不自然に思わない……私たち魔法少女を除いて。情報統制じゃ説明できない何かが起きている、私はこれが魔女か魔法少女の仕業だと睨んでます』
壮間もミカドもインベスゲームを不審に思っていた。それが昨日の通話でマミの口から根拠として語られ、香奈の中でも形ある不安となって広がっていった。
『この街は何かがおかしい。この街には、何か得体の知れない存在が潜んでいる。私はそれを確かめに、見滝原から舞茂に来たんです』
『でもなんで……私が? 私なんかよりマミちゃんが自分で調べに行った方が絶対いいし、さやかちゃんみたいな魔法少女とか、それこそアーマードライダーの人たちだっているのに……?』
『えぇ。私たちはインベスゲームに参加しているせいでユグドラシルに顔を知られているんです。変装したとしても、内部に魔法少女がいた場合、私たちじゃ魔力で正体がバレてしまうかもしれません。でも片平さんは……』
香奈はまだ何もしていない。それが、マミが香奈を潜入役として選んだ理由だった。
ロックシードを使ったことも無く、それどころか配信は壮間たちばかりを映していたため、香奈はユグドラシルに顔を知られていない可能性が高い。仮に知られていたとしても、警戒はされていないはずだ。
無力の無能だからこそ得られた好機。壮間にもミカドにもできない、香奈だけの役割。
怖かった。だから考えに考えた。考え抜いた。それでも思いつく答えはただ一つだった。
「……ミカド。香奈知らないか?」
「さぁな。朝の散歩だろ」
壮間たちが日課のトレーニングから戻った時には、香奈の姿は消えていた。
彼女と一緒にスイカ模様のウォッチが消えていることに、ミカドは気付いて、口をつぐんだ。
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「こちら香奈。目の前にはデッカいタワー。ドーゾ」
『こちらマミよ。私も所定の位置に到着したわ。ドーゾ』
「……ごめん、まさか乗ってくれるとは思わなくて。ビックリした」
『まだ中学生ですもの。こういうの、結構好きなんですよ? せっかくだからコードネームで呼び合ったりします?』
「コードネーム……! いや、自分でやっといて何だけど遊んでる場合じゃないよね。ちゃんとします……」
マミの誘いに乗ることを決めた香奈が赴いた先は、舞茂の中央に聳え立つ『ユグドラシルタワー』。街の中心部に巨大な塔が立っているという構図は、異世界の
いくら顔が割れてはいないとはいえ、香奈はどちらかといえば童顔な方。化粧なんてしたことのない香奈に代わりマミが彼女をメイクアップし、ビジネススーツを着て、見てくれは立派な社会人に仕上がった。
髪で隠した耳にイヤホンを付けてマミの声もしっかり聞こえる。後は普段の幼い挙動が出なければ、というのが潜入の前提なので、香奈はもう一度気を引き締めた。
『片平さんの足に私の魔法で作ったリボンを繋いであって、そちらの音と場所が分かるようになってます。会話を聞きながら通信でサポートしますし、正体を見破られた時はすぐに助けに行きます。ですがあくまで身の安全が第一です。お気を付けて……!』
マミに言われて足元を確認すると、どこまでも長く続く黄色いリボンが薄っすらと見え、そして再び消えた。気付かないと見えないような仕組みになっているのだろうか。
香奈は深呼吸をして表情と姿勢を正し、堂々とタワーの中に入る。そして内外を隔てる自動ドアは社員証のカードキーで開くのだが、それはマミが事前に用意していたものを使った。
(これがあるからスパイできてるんだけど、どうやって手に入れたんだろう……全然知らない人のだし……聞かない方がいい気がする)
マミはお淑やかで優しそうな魔法少女だが、どこかミカドに近い印象も覚えた。香奈をスパイに仕立て上げる手際が非常に良く、ここまでの対応も含めて彼女の『経験』を強く感じたのだ。彼女は目的達成のため、ある程度なら過激な手段も取れるだろう。
『戦う意志の無い者は消えるがいい、お前には品格を感じない』
昨日、チームバロンの神威に言われたことが内から反響する。
香奈が杏子やほむらに感じた、魔法少女としての強い意志。平和な世の子供はまず身に付けない、戦いに対する覚悟。それがマミにもあるのだと理解できた。それは壮間やミカドにはあって、香奈には無いものだ。
「マミちゃんは……選べなかったんだよね。ごめんね、関係ないんだけど……気になっちゃって」
周囲に人がいないのを確認し、電話するフリをして香奈は呟いた。
さやかが言っていたことだ。マミは運命を選べなかった、と。マミも答えを詰まらせるが、これで心を乱すことがあってはいけないと考え、端的に事実のみを返した。
『えぇ。事故に遭った私は、生きたいという願いで魔法少女になったんです。そうするしか助かる方法がなかったから』
「そっか……でも後悔なんてしてなくて、今度は皆を助けるために強くなったんだね。すごいなぁ。ねぇ、マミちゃん。私も魔法少女になったらそんな風になれるかな……? 後悔、しないかな……?」
『片平さんは、魔法少女になりたいんですか?』
「わかんないんだ。なれたらいいはずなのに、怖いの」
そこから先は言葉に出来なかった。マミはきっと魔法少女の末路を知らない。
それに、美沙羅のように───誰かを呪いながら死にたくないなんて、本当は言いたくない。
『……ゆっくり考えた方がいいです。魔法少女なんていいものじゃない。本当は、全然後悔が無いわけじゃないんですよ。私は、美樹さんを魔法少女にしてしまったから』
「さやかちゃんは自分の意思で決めたって言ってたけど……」
『私には止められたはずなんです。でも、そうしなかった。魔法少女として独りで戦うのが心細くて、怖かったから。彼女の願いと決断に、私は甘えてしまったんです』
香奈が吐露した弱さに、マミも自身の弱さを打ち明けた。
魔法少女になることそのものが願い、そんな少女をマミはもう一人知っている。見滝原に置いて来た彼女のためにも、早くインベスゲームの秘密を解き明かさなければ。
『ただ、何を叶えたいのかだけは、はっきりと言葉にしておくべきです……自分じゃない誰かのための願いは、いつかあなたを苦しめるかもしれないから』
願いを他者のために捧げた献身の末路。
彼女の去り際の言葉を、マミは思い出してしまう。
『もうあんたとは覚悟が違うんだ』
『あたしはもう誰かのために魔法を使うつもりは無い』
『期待に沿えなくて悪かったね。さよなら、巴マミ』
香奈の口ぶりからマミにもわかった。香奈は壮間の力になるために魔法少女になろうとしている。その健気で純粋な願いは、その優しさのせいで消えない傷を負って去って行った、初めての仲間の姿と重なった。
「何のため……私はソウマの何になりたいんだろう。いつか大人になったとき、私が本当になりたい私って……」
思い悩む中、足音が聞こえて香奈は我に返った。今は潜入調査中だ。
意識を切り替え、背筋を伸ばす。目指す先はインベスゲームを運営する部署。社内マップやマミの下調べを合わせ、カードキーを使ってなんとかバレずに目的地へと辿り着いた。
「おはようございます!! お疲れ様です!!」
「お、おはよう……」
「今日からこちらに配属になりました!! よろしくお願いします!!」
社会人の基本は挨拶、くらいしか知識が無い香奈。持ち前の快活さですれ違う社員たちの不審な視線を押し返し、白昼堂々と部署内に侵入した。ちなみにもう全然お早くない昼前である。
職員たちはモニターで何かを観察しながら、手元の資料で何かを確認し、コンピューターで何かを記録している。この通り香奈から見れば何をしているのかはサッパリなのだが、分かることが一つだけあった。
(画面で見てるのって、あの森……!)
複数のモニターに映っていたのは、香奈が2018年で迷い込んだヘルヘイムの映像。ユグドラシルはあの森からインベスを連れてきてゲームにしているということだろうか。だが、何のために。
香奈は別の部屋に向かう。しかし奥に行くにつれて警備が厳重になり、カードキーでは通れない扉も出て来た。このままでは重要な情報に辿り着けない。
『それは困ったわね……ロックはパスワードですか?』
「ううん、多分指紋認証だ。扉の向こう側には認証する機械見えないし、あっちからなら開くと思うんだけど……」
一応向こう側に続くダクトは見つかったが、ハリネズミが通れるかどうかの幅。それこそ小さくなる魔法でも使えないと無理だ。
(誰かが通ったすぐ後ろを通る? いや怪しすぎ! ウィルさんから貰ったウォッチみたいな携帯が銃になるらしいし、それでドアを壊せば……大騒ぎだなぁ。ん? ウォッチと言えば……)
なんとかならないかと頭を捻っていると、零れ落ちるように香奈はあることを思い出した。お守りにとなんとなく持って来た、あのスイカ柄のウォッチ。思い付きでそれを取り出し、ボタンを押してみた。
《スイカアームズ!》
すると、ウォッチが起動し変形を始めた。ウォッチの形態から顔や手足を出現させ、緑色の全身甲冑のような人型形態がその姿を現す。
《あ、コダ~マ~!》
「お、おぉ……ちっちゃい」
ただし、サイズは据え置きで。
壮間が持つバイクとは違って大きくなるようなことはなく、手のひらサイズのままの武将が誕生した。少し肩透かしというか、ガッカリしてしまった香奈。
しかし、香奈はすぐに顔を挙げた。
よくよく考えるとこれ、まさに打開策なのではないだろうか。
試しにダクトの蓋を外して放り込むと、あっという間にソレは扉の向こう側に行き、反対側からセンサーにタッチしたことで扉が開いた。
「開いた!! ちっちゃいのにすごいよキミ! よくやったよ偉いぞコダマちゃん~!!」
ヘルヘイムの果実がジクウドライバーの機能で変化したウォッチ『コダマスイカアームズ』は、香奈によって『コダマちゃん』と命名された。
しかもコダマの有能具合はそこで留まらず、勝手に別のダクトへ飛び込んでいくと香奈のファイズフォンⅩに着信が。そこにはコダマの視界の映像が映し出されていた。
「なんか、スパイとしてもうボロ負けな気がするけど……これでもっと奥を探せる! よろしくお願いコダマちゃん!」
コダマと仕事を分担し、香奈はマミの指示のもと捜索を始めた。運がいいことに昼休憩の時間になったらしく、職員たちのほとんどが部屋を離れている。香奈はこの隙に紙の書類やコンピューターを探る。
「ヘルヘイムの森……戦極ドライバーで果実をロックシードとして安全に摂取可能……果実は大きく14の型に分けられて、栄養価や特性で劣る0型が50%、1~3型が40%、10型は特に希少で0.1%未満……ヤバい全然わかんない。えっとこっちは……」
ダメ元でコンピューターに目を向けてみると、そこにある文字列は知ってるものだった。『KAMUI RUKA』───仮面ライダーバロン、神威瑠翔の名前とその観察記録、そして戦闘のデータが細かく記されていた。その上にある名前も、聞き覚えがある。
「カナタ……トウリ……? マミちゃん! トウリさんってチーム鎧武のリーダーさんだよね!?」
『えぇ。でも、燈理さんはユグドラシルに監視されている……? いいえ、他のアーマードライダーもそうだとするなら、まさかインベスゲームの真の目的は……!?』
ユグドラシルに対する疑念がどんどん膨れ上がっていく。この時代は今までに行った時代よりも遥かに、人が作り出す闇が深い。
「───あぁ、今すぐに手配しろ。一機でも多くドライバーを生産するためだ、何一つ惜しむつもりはない。融資先には私が話をつける」
廊下から男の声が聞こえ、香奈は思わず隠れた。しかし声は部屋の前を素通りし、遠くなっていく。なんとなくその声が気になった香奈は、声が聞こえるギリギリで後をつけることにした。
遠くから見るその男の背中は、思ったよりも小さく見えた。背筋はピンと伸びているがどこか若いというか、力強さが無いような。
「……私だ。また例の襲撃犯か。トルーパー部隊の被害は……そうか、ドライバーは全機修復不可、隊員はやはり行方不明……直ちに部隊を再編制し、救助を最優先にヘルヘイム内の捜索を進めよう。インベスの仕業ならヘルヘイムに連れ去られた可能性が高い。……あぁ、そうだ、それでいい。悪いがよろしく頼む」
男は電話を切ると、一度だけ深く息を吐いたように見えた。
「何を見ている」
男───逸月岳晴の言葉は確実に香奈に向けられており、心臓が破裂したかと思った。十分距離を開けたつもりだったが、しっかり香奈の尾行は気付かれていたようだ。しかしまだスパイだとはバレていないはず。
「お、お疲れ様です……」
「ここに入れる者は限られているはずだが」
「ええっと……上司の手伝いで来たんですけど、道に迷ってしまって……」
「そうか。すまないが道案内をできる時間は無い。もう少し後に再度君の上司に連絡を取るといい。今は休憩時間だ、休める時にはしっかり休んでおけ」
怪しまれない内に退散するのが吉。愛想笑いをしながら転進しようとした香奈だったが、いつかと同じようにまた足を止めてしまった。こうやって大局を見て行動ができないから、いつまで経っても子供と言われるのかもしれない。でも、見て見ぬふりは、香奈が一番苦手なことだ。
「えっと……ご自身は休まれないんですか……? すごく、疲れてるように見えるんですけど……」
香奈は岳晴の余裕のない表情が、どうしても心配に思ってしまったのだ。それを指摘された岳晴は異国の言葉でも聞いたように目を丸くして、しばらくして意味を飲み込むと同時に軽く笑った。
「休んでいる暇などないさ。聞いただろう、また戦闘部隊が襲われた。破壊されたドライバーの映像記録機能も的確に壊され、襲撃犯の正体は不明だ。ただ、記録機能を知っていたことから内部犯の可能性が高い。つまり俺は今から、仲間の誰かを疑わなければならないわけだ」
「それは、嫌ですね……」
「考えにくいが、裏切られとすればそれも私の責任だ。世界を救うための最善手を私がどこかで怠ったというのなら、見限られても仕方がない。そうやって誰もが私を見限る前に、一刻も早くこの命を使い果たし、世界を救って速やかに地獄に墜ちなければならないんだ」
岳晴の言葉の意味はほとんど分からなかった。でも、香奈だって分からないなりに感じるものはある。この会社はあの森を研究し、その脅威に適応することで、世界を救おうとしているのだ。それはきっと良くない方法で。そして岳晴は、皆の代わりにその責を全て背負う気でいる。
「……どうして一人で抱え込むんですか? 強い敵には皆で立ち向かえばいいじゃないですか! この街には、強い人がたくさんいるのに」
「それは魔法少女やアーマードライダーたちのことか。奴らは所詮は素人だ、戦うのはその使命を持つ者だけでいい。生まれながらに選ばれなかった者が、身の丈に合わない宿命に殉じることはない。私は彼らとは違う。この世に生まれた責任がある」
「そんなの勝手すぎますよ……自分はこうあるべきとか、皆はそうあるべきとか、誰が決めたんですか?」
「何だと?」
「裏切られても仕方ないなんて、自分から壁を作ってるから言えるんだ! 見てるのは人の顔じゃなくて責任とか理想でしょ!? そんなに隣の誰かを信じるのが怖いんですか!?」
あれ? これは、誰に対する怒りなんだろう?
会って間もない年上の男に、一体何を言っているんだろう。
今まで喉の奥に沈んでいた想いが色々混ざって、全部言葉になって出て来た。香奈は自分でそんな風に感じた。
「っ……ごめんなさい! なんでもないです! 失礼します!」
「待て。わざわざ話しかけてくるものだから何かと思ったら、驚いたよ。まさか侵入者に怒鳴られる事になるとは」
「え……?」
「私は身近な人間の顔と名前は全て記憶している。この会社の職員の中に、君のような女性はいないはずだ」
危機感を認識した時にはもう遅い。香奈の行く手は岳晴が呼んだ警備員が塞いでおり、既に完全に包囲されてしまっていた。気付かないフリも警備員への通達も悟らせず、最小限の手間で侵入者を捕らえる手腕。「頭いい~」だなどと感心している場合ではない。
「ごめんマミちゃん、見つかっちゃった! って……あれ嘘でしょ!? マミちゃん!?」
「話は後でしっかり聞かせてもらう。調書でな」
そういえば、岳晴を見つけた直後辺りからマミの声が聞こえなくなっていた。事情はどうあれとにかくマズい。ここで捕まれば役に立つどうこう以前の論外だ。明らかにオーバーキルな数の警備員を前に泣きそうになる香奈を救ったのは、ダクトから現れた小さいヒーロー。
《コダマシンガン!》
「なんだ……!? ロックビークルか!?」
「コダマちゃん!! もう最高っ! 頼りになり過ぎる!」
香奈の危機を察知したコダマスイカアームズは、スイカの種のような低威力弾丸を連射し、警備員たちを怯ませた。その隙を突いて香奈は走り出し、体勢を崩した警備員の背や廊下の壁面などを利用して、身軽なアクロバットで包囲網を突破。
「あの動き……素人とは思えん。そうは見えなかったが、訓練された諜報員の可能性がある。絶対に逃がすな!」
現在、ユグドラシルタワー20階。
先行き不安にも程がある香奈の脱出作戦がスタートした。
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マミの事前準備は完璧だった。香奈の脚につけたリボンから音を拾うことができるし、遠隔の魔法で簡単な補助や攻撃も繰り出せる。ただしそれは、マミに他人のサポートができるほどの余裕があればの話だ。
「あなたは……一体何者……?」
マミはユグドラシルタワーの潜入を香奈に任せている間、街に出現するユグドラシルの部隊を見つけ、観察していた。彼らは人目につかないような場所で稀に現れ、大人数で周囲を封鎖し、何かを処理すると去っていく。マミはそんな彼らの行動からユグドラシルの目的を探ろうとしたのだ。
しかし、ユグドラシルの兵士『黒影トルーパー』たちの作業中、突如クラックが出現。そこから飛び出した影は動揺に乗じてトルーパーたちを瞬く間に撃破し、彼らをクラックの中へと連れ去ってしまった。
異常事態に対し、退避よりも情報収集を優先して一歩踏み出してしまったマミを、その影は察知した。そして今、対面するその姿。マミにとっては幻影にも見紛う様相がそこにはあった。
くすんではいるが植物を想起させる橙色の甲冑に、半月形の単眼。朽ちた果実の鎧武者。
「───アーマードライダー鎧武……!? 奏多さん……じゃないわね……!?」
「詮索はしない方がいい……と言っても無駄そうだな。見られたからには消えてもらう」
鎧武者───アナザー鎧武は下ろしていた剣を持ち上げる。逃がす気は無いと言わんばかりの静かな敵意に対し、マミもまた魔法少女へと変身した。
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香奈が逃走を始めてから数分後。既に侵入者の報せはタワー全域に行き渡っており、コダマや銃でカメラを破壊しながら逃げるので精一杯。そして、マミの声は依然聞こえないままだ。
捕まるのも時間の問題なのは自明。
壮間に助けを求め、香奈はファイズフォンⅩのテンキーに指を乗せる。しかし、そうなれば香奈は何のためにここに来たのだろう。役に立ちたかった、自分も戦えると証明したかった、戦う意志があるのだと自分自身に示したかった、助けを求めればその全てが否定されてしまう。
「そっか、私って……ひとりだとこんなにダメダメなんだ……」
目的も手段もグチャグチャで、まともに頭が回らない。いつもみたいに気丈に振舞えない。今までずっと、やりたいことのために真っ直ぐ走って来れたのに、今はどこを走っているのかもわからない。不安で仕方なくて、泣きそうなくらい怖かった。
『3つ目の角を曲がって2つ目の部屋に入って。鍵は開けてあります』
耳に入れたイヤホンからそんな声が聞こえた。聞き覚えがある気はするが、マミの声じゃない。でも香奈は不審な声にも縋るしかなかった。
言われた通りに部屋に逃げ込んだ。その部屋にはパソコンが1つだけ置いてあり、電源が入った画面にはCGの女性が映し出された。
『よく来てくれました。無謀な若きスパイさん』
「あなたは……インベスゲーム配信のバーチャルユーチューバー!? なんでここに……!?」
『怖がらないでよいのです。わたくしは敵ではない。あくまで中立の野次馬なのです』
バーチャルユーチューバーというのは、この時代では少し先取りした呼び方ではあるが、その姿と声はインベスゲーム配信を行っている『千織カノン』だった。言われてみればインベスゲームの広報を行っているのだから、運営のユグドラシルと関わりがあってもおかしくはない。
しかし、配信で見た時とは随分雰囲気が違う。無邪気な実況とはまるで逆で、今は慈しみに満ちた精霊や神様のような口調だった。
『この世界で何を望むのですか、先の世───未来から来た少女よ』
「えっ、なんで私が未来から来たって知ってるの!?」
『わたくしは観測者にして案内人、そしてレースの賭けに興じる博奕打ちなのです。誰が黄金の果実を手に入れるのかを見極めるため、電脳の目を通じて全てを知るようにしています』
「別に果物なんかいらないけど、つまり盗撮だよね!?」
『そうとも言いますね、実に良き時代なのです。疑り深いのに寂しんぼ、歪な精神構造によって行き着いた進化は面白いものでしたが、この辺りで頭打ちなのです。種の進化に必要なものが、何だかわかりますか?』
スケールの大きな話になってきた。自分という人間一人の行く末も分からないのに、そんなことまで考えられるはずもない。香奈が答えに迷っていると、目の前の画面からカノンの姿が消えた。
『それは“苦難”。不条理な運命こそが、生命を進化させるのです。だからわたくしは種に試練を与える』
さっきと同じく、香奈のイヤホンから囁くような彼女の声が聞こえた。すると今度はファイズフォンⅩの画面にカノンの姿が浮かび上がる。
『この端末に帰り道を送っておきました。その通路の警備システムは無効にしてます。鼻歌でも歌いながら帰るといいでしょう』
「……ありがとう。でも、どうして?」
『ここであっけなく終わるのは、考え方によっては救いでしかない。わたくしはもっと見たいのです。先の世の少女、貴女がもっと大きな苦難に抗う様を』
「苦難……うん、私もそう思う。皆が辛い目に遭ってて、だから強くなったんだ。強くなったから……辛い目に遭っても生きられてるんだって、やっとわかった」
不幸な事故で魔法少女になってしまったマミのように、香奈が今まで会ってきた強い人たちは何かしらの理不尽に抗ったからそこにいた。きっと壮間も、香奈が知らない苦難を幾つも乗り越えてきたのだろう。
「でも、それだけなのかな……? 辛いのを我慢して、無理して、それって自分の心を削ってるのと同じだよ。そうやって何かを犠牲にするのが、強いってことなの?」
それが、子供じゃなくなるってことなのだろうか?
気付けば画面から彼女の姿は消えていて、答えは返ってこなかった。
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千織カノンが香奈に教えた帰り道。香奈もそれが罠の可能性を考えなかったわけではないが、信じるしかなかった。結論から言って、香奈は地下に続くその道からユグドラシルタワーの脱出に成功したのだった。
しかし、事件は起きた。連絡が途絶えたままだった、マミのことだ。
香奈がタワーを降りている途中にイヤホンから彼女の声が聞こえた。切羽詰まったような余裕のない声で、ただ一言。
『奏多さんの……! 鎧武の偽物が───』
その言葉と『チャックが閉まる音』を最後に通信は途絶え、意識すれば見えていた足のリボンも消え去ってしまった。
香奈は壮間たちのもとに戻り、ユグドラシルタワーで起こったことを共有した。当然、香奈はチーム鎧武のメンバーにも伝えた。マミが行方不明になってしまったことを。
「どうしてそんな危ないことしたんだ!!」
チーム鎧武の面々がマミをを探しに行く中、
香奈の話を聞き、最初に響いたのは壮間の叱責だった。
「ごめん……でも、あの会社のこと色々分かったんだよ! 名前はわかんないけど、話し合ったら仲間になってくれそうな人もいた! 世界を救おうとしてて、それで……」
「話し合ってどうにかなるワケないだろ! マミさんもこんなことに香奈を巻き込んで……!」
行方不明になった者を悪く言うこともできず、壮間は振り上げた拳を下ろさざるを得なかった。
そしてマミが言っていた『鎧武の偽物』。それが何を意味するのかは論じるまでもない。
「アナザー鎧武がもう生まれていたか。ここからは時間の勝負になるな」
マミはアナザー鎧武と出くわし、消えた。香奈の証言から察するに、クラックからヘルヘイムの森に閉じ込められたのだろう。殺されたとは思いたくないが、現状壮間たちがヘルヘイムに行く手段は自然発生のクラックだけの、完全な運任せだ。
「ミカドの言う通り、もう時間が無いんだ! それなのに何も出来てないんだぞ! 勝手なことするなよ!」
「……勝手なことってなに? マミちゃんじゃなくて、私が自分で決めたんだよ!? 私だってみんなを救いたい、一緒に戦うって言ったじゃん!」
始まった、とミカドは察した、いずれこうなるとは思っていたが、ミカドはわざわざ止めるような真似はしなかった。中途半端な喧嘩の相手なんてしてられるかの顔だ。
「だからって自分から危険な目に遭ってどうするんだよ!」
「ソウマの方がずっと危ないことしてるでしょ!? なんでソウマは私を信じてくれないの!? 私がミカドくんみたいに強くなったら認めてくれるの!? 魔法少女になればいいの!?」
「……っ! なんでそうなるんだよ!? 香奈だって見ただろ! 俺は……お前まであんな風になるのを見たくない……! お前がいるから俺は戦えてるんだ! そのままでいいってなんで分からないんだ!」
「そんなの……! でも、ミサを助けたいの! 見てるだけなんてできるわけない! だったら私だけ怖いだなんて言ってられるわけないじゃん! 優しいとか、楽しいとか、それだけの自分じゃ嫌だから……私は……っ!」
「ストーーップ!! お前らァ!! 喧嘩、すんなぁッ!!」
香奈と壮間が互いの胸中をぶつけ合う中で、見知らぬ男が勢いよく間に飛び込んできた。喧嘩の当事者よりも大きな声で割り込み、思わず2人も口を開けて黙ってしまう。その開いた口に、男は何かを詰め込んだ
「んぐっ……なにして……! 甘っ! なんだこれ!」
「みかん餅だ! よく噛んで食えよ、喉詰まるから。余ったミカンの手作りおやつだぜ!」
「もちもちしてて、みかんの香りが鼻に抜けて……おいしい」
「そーだろ嬢ちゃん! ったくよぉ、チームの皆が大慌てだし、なんかマミが連れ去られたらしいけどよく分かんなくてさ、やっぱ話は直接聞いたがいいと思ってな? だから来たってのに、喧嘩してる場合かよお前ら!」
「経緯を全部説明してくれた。口で」
「あれ……この顔、さっき見たばっかのような……! あぁっ!」
ユグドラシルに潜入中、パソコンで見たアーマードライダーの監視記録で、戦闘データと共に香奈はその無駄に明るい髪色と顔を見ていた。
「チーム鎧武のリーダー、奏多燈理さんだ!?」
「はぁっ!? じゃあこの人が……!」
「仮面ライダー鎧武、というわけか。先が思いやられるな」
「その
少なくとも壮間たちが来てからインベスゲームに参加した記録は無く、最重要人物にも拘わらず情報の無かった男は、ミステリアスを自ら放り投げて壮間たちに大量のみかん餅を押し付けた。
____________
「なるほどなぁ。そのアナザー鎧武って俺のニセモノがマミを森ん中に拉致ったと……」
壮間たちは燈理に詳しい事情を説明した。それをもう一度言葉にしながら、燈理はみかん餅を咀嚼する。
「んで、お前らはそいつを倒すために未来から来て、そのための仲間を集めてる」
他のチームには話していない壮間たちの正体も、燈理には話した。アナザー鎧武を倒すには彼に認められ、鎧武ウォッチを手に入れなければならない。下手に隠さず話すべきだと判断した。
ちょうどやっていたインベスゲーム配信で、自分たちの戦いを見せながら、「確かにロックシード使ってねぇ」と燈理も納得した。
「俺の力をお前に託せば、そいつを倒せると。そしたら俺はアーマードライダーじゃなくなって、インベスも森も全部なくなって忘れるわけだ」
みかん餅が無くなったので、壮間たちが余らせていたフライドチキンをムシャムシャ食べると、燈理は一言。
「全然ワケわかんねぇ」
声には出さなかったが、全員が「だろうな」と思った。話をしてる最中から既に、顔で疑問符を表現するしかないという様子だった。
「だってよ、偽物にしたって力を受け継ぐにしたって、なんで俺なんだ? 神威とかアキじゃなくて?」
「わかんないってそっちか……いや、その基準は俺もまだよく分かんないです。でも、今まで会った人たちは、その戦いの『主人公』って感じでした」
「余計わかんねぇな~俺、自分が主人公になりたいなんて、思ったことないけどな」
そう語る燈理は、確かに今までの仮面ライダーとは違うように感じた。強い熱と活力は感じるが、どこか浮ついているような、不安定な印象を覚える。
「まず分かるとこからだ。マミは助けに行く! と言いたいとこだが、この間ロックビークル壊して森に行けないんだよな……ポイントで交換するっきゃねぇか」
「マミちゃん……」
「心配すんな! マミは俺が知る中で2番目に強い魔法少女だ、そう簡単に死ぬもんかよ」
そう言って力強く香奈の背を叩く燈理に、壮間は思わず少し顔を歪めた。
「ただアレだな。俺は別に主役になりたいわけじゃないんだけど、アーマードライダーの力でやりたいことはあるんだ。だから悪ぃ、協力は約束するからさ、もう少し待ってくれないかな?」
「悪いがそんな悠長に構えてられんな。さっさと力を寄越せ。貴様を殺して奪ってもいいんだぞ」
「おいやめろミカド。久々だなそれ。ともかく鎧武のウォッチは別にしても、アーマードライダーの仲間がこれでやっと一人目だ……アイツを───麻沼を倒すまでの一歩目ってとこだけど」
「麻沼?」
なんのつもりもなく、自然に発したその名前に、燈理が反応した。
美沙羅が死ぬ原因を作り、魔法少女の絶滅を企てた邪悪。この時代の誰も知らず、どこにも見つからなかった男の名前───
「俺の知り合いと同じ苗字だ」
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ユグドラシル・コーポレーション。
謎のセキュリティエラーで昼間に現れた侵入者の少女を取り逃がし、システム復旧と盗まれた情報のチェックの指揮を済ませた岳晴は、少しの間だけ壁に寄りかかる。
『そんなに隣の誰かを信じるのが怖いんですか!?』
「……怖いさ。俺が信じて背負わせた責任が、そいつを殺すかもしれない。自分一人で背負えば、そんなに簡単なことはないんだ」
簡単ではあるが、楽とは言わない。それでいい。あの計画を見た時、それしか方法は無いと思ってしまったのだから。それを考えた彼女と、それを推し進める部下たちの罪を背負う覚悟は、その時に決めたのだ。
弱き者が生き、強き者が死ねばいい。それが世界の在り方だと、岳晴は信じて疑わない。
「主任」
「あぁ……恵吾か。すまない、確認する」
部下から資料を受け取り、目を通す。ここ最近に出現するユグドラシル襲撃犯についての調査結果だ。行動を見る限りトルーパー部隊のドライバーを破壊するのが目的のように見えるが、そんな芸当ができる者は限られる。内部犯に絞り量産型ドライバーや『新型』を持つ者を調べさせたが、全員のアリバイが立証されたようだ。
昼間の少女も関係があるかと睨んでカマをかけてみたが、あれで何も知らないのなら余程の演技派だ。調査は振り出しに戻ったらしい。
「次はインベスゲームのアーマードライダーと魔法少女を調べてくれ。我々の計画を知られたとして、それを妨害する意図なら愚かではあるが筋は通る。お前には奏多燈理の調査を改めて頼みたい」
「内部の犯行の筋は打ち切るということですか」
「あぁ。そもそも利点が何一つ無いからな。世界を救うという命題に対し、我々は一丸となる必要がある」
「そうですね……だから貴方は、甘いんだ」
橙色の鈍い斬撃が、岳晴の体を斬り付けた。
思考を斬られたように、倒れながら世界は止まったようだった。舞い散る資料の隙間で、岳晴が見たのは、異形の鎧武者に変化する忠臣の───『麻沼恵吾』の姿。
「恵吾ッ……!」
「貴方は正しさを信じすぎている。私も、
失血で気を失い倒れる前に、岳晴は気力で踏みとどまった。そして戦極ドライバーとメロンロックシードを構える。凄まじい精神力と執念。もはや、労しいと思える程に。
変身されるより早くクラックが足元より開き、這い出た植物が岳晴を引きずり込む。
「何故だ……! ここまで尽くしてくれたお前が、どうして……!」
「この間、久しぶりに飲みに誘われたんですよ。高校時代の先輩たちは酒を飲みながら嬉しそうに語ってくれました。よくできた娘がいる、自慢の生徒がいると、嬉しそうに。その横で笑うクズが、大量殺人の片棒を担いでいるとも知らないで」
ヘルヘイムの森に適応するための装置『戦極ドライバー』の生産は、世界滅亡までに全人類分には到底届かない。だからそれまでに、生産可能な戦極ドライバーの数と同程度まで人類を
「眠れなくなった。あの日から酒が飲めなくなった。燈理君の顔が見れなくなった。大人になんてなるんじゃなかったと、そう思った時に、時間が止まったんです」
全てに耐えきれなくなって命を絶とうとした寸前、少年が駄菓子を片手に『契約』を持ちかけたのだ。
この力があれば全部を変えられる。
じゃあ最初からやり直そう。いずれ望むものが全て手に入ると思っていた、あの頃から。
その先に幸せがあると信じた、あの日から全部。
「しばらく休んでください主任。罪も責任も全部無かったことにして、俺が世界を救ってやる」
岳晴の体を全て飲み込み、クラックは完全に閉じられた。
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「麻沼がこの街の病院の看護師……!? どこですか!? 場所を早く!!」
「や、待て待て。恵吾さんは入院してる俺の母ちゃんの面倒を見てくれてる、優しくて善い人だ。その俺のニセモノは悪モンだろ? 別人に決まってるよ」
燈理はそう言ってるが、鎧武の知り合いが「麻沼」という名前だなんて、偶然なはずがない。仮に本人じゃないにしても関係があるのは間違いない。
居場所さえ分かってしまえば取れる作戦は如何様にもある。余りにも大きい一歩だ。今まで全く見えてこなかったアナザー鎧武討伐の糸口が、ようやく手の届く距離に来たと感じた。
『チームランキングは依然“鎧武”がトップで、“バロン”と”蒼天”がそれに続く! 大躍進の“インヴィット”と“シャルモン”もそれに続けるか~!?』
配信が次々にこの時代の猛者の姿を映す。
なんとかして彼らの力を借りることができれば、きっと───
『やぁ、インベスゲームをご覧の諸君』
その時、突如として配信の映像が切り替わった。
カメラが映し出すのはロックシードを持つ面々とインベスに囲まれた一人の男の姿。そして画面に映る重要な情報がもう一つ。ランキング3位“蒼天”の旗だ。
映像の不調か、何かのパフォーマンスか、誰かの悪戯か。誰もが真剣に取り合ってはいなかった。
しかし、壮間たちは眼を離せなかった。胸騒ぎがする。その声と、背格好と、この手法。期待と展望が暗く陰っていく。どうしようもない程の不安と恐怖を掻き立てる。
一瞬、映像が乱れた。
次の瞬間に映っていたのは『血祭り』だった。インベスも、蒼天のメンバーさえも無残な姿で転がる悪趣味な光景。一人残されたリーダーの男が戦極ドライバーを構えるが、その手ごと踏み潰されて塵となる。
『誰だ、君は? 紛い物未満の粗悪品は語られる資格も無い』
倒されたとは聞いたが、死んだとは思っていなかった。
でも、音沙汰が無かったから無意識に考えることを避けていた。まさか今来ることは無いだろうと、希望的観測で決めつけていた。
知っていたはずなのに。この男はいつだって、最悪に狙いをすませて現れる。
『今一度呼びかけよう。出来の悪い舞台で踊る、哀れな贋作諸君。災厄は私だ』
カメラがその男の顔を映し出す。深淵よりも暗い、その翡翠の眼は───
「令央……ッ……!?」
映像が途切れた。
アナザー電王として圧倒的な力で2015年の仮面ライダーを全滅させ、ミカドと香奈すら一度亡き者にした破壊の芸術家、令央。壮間にとっての敗北の象徴。
見えかけていた希望の想像が、跡形も無く消えたのを感じた。
壮間の目に映っているのは、光なき深い絶望だった。
Q:クリスマスに出現してサプライズなプレゼントをする赤いやつってだーれだ
A:令央
麻沼の正体判明と令央の参戦で次回に続きます。
次は年明けすぐにお届けできるといいな!!
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