仮面ライダージオウ~Crossover Stories~   作:壱肆陸

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壱肆陸です。
このままだとまどマギ新作映画公開に間に合わないので、急ぐことにしました。よろしくお願いします。

前回のあらすじ、
麻沼がキチゲ解放してユグドラシルタワーが燃えました。

気が向いたら「ここすき」もお願いします!


これが私の物語

 全てが燃えた。かつて抱いた未来への期待も、それから続いた罪悪の日々も、定められた犠牲と果たされるはずだった救済も、甘く腐っていた自分自身も。

 

 燃えて崩れたユグドラシル・コーポレーションの残骸を踏み付ける麻沼に、タイムジャッカーのヴォードが落とした視線を戻して声を掛けた。

 

「随分派手に燃やしたね。で、どうする気?」

 

「力が欲しい。もう、健全な理想に未練は無い」

 

「そっか……もう少し、踏み止まれると思ってたんだけどな」

 

 ヴォードの手に、ガラス細工のような角張った透明な果実が現れた。

 

 境界線はもう越えた。

 戦うための、あの狂気を手に入れるには、

 どんな果実でも喰らう。怪物になるしかないのだから。

 

──────────

 

 ユグドラシルタワーが炎上して数日。

 原因不明の大事故に舞茂市は大混乱。何らかのテロなのではないかと騒ぎも起こったが、気味の悪いことにそれらの騒動は瞬く間に鎮静化された。

 

 インフラが大打撃を受け、街の至る所が閉鎖され機能を失う中、人々は変わらず暮らそうとする異常だけが正常な者の目に浮き彫りになる。

 

 そして、運営を失ったインベスゲームもまた、制御のできない混沌と化していた。

 

「出迎えがなっていないな、あまりにも手薄い。失望したぞチームジオウ」

 

「尽くす甲斐を用意してから言え。ノックの作法も知らんのか不調法貴族が!」

 

 香奈が見守る中、バロンとゲイツが再び刃を交えていた。

 殺意は無い。だが互いに本気で屈服させんとする気迫の攻防。どうして始まったかも分からない戦いは、示し合わせたかのように突然終わりを告げた。

 

「奏多はどこに消えた」

 

「鎧武の動向など俺が知るか」

 

「ウチの魔法少女が鎧武に襲われたと聞き、報復に行ったがもぬけの殻だ。まぁヤツがそのようなつまらん手段を取るとは思えんが、逃げ出す男とも思えない」

 

「燈理さん……アナザー鎧武が出たから、やっぱり……!」

 

「その様子、やはり何か知っているか。ジオウのリーダーが不在なのも関係あると見てよさそうだ」

 

 あの一件から、多くのプレイヤーが姿を消した。

 魔法少女はこの街から出られないが、インベスゲームが機能を失った以上、彼女らは魔女を探し回る他ない。

 

 そして、鎧武は巴マミに加えて奏多燈理、美樹さやかが雲隠れ。チームジオウからも壮間が行方知らずだ。

 

 加えて、チームを襲うアナザー鎧武に、『蒼天』の惨事を電波に流した令央。自棄になって暴れ回ったり、自衛のために籠城したり、どのチームも正気を失っている。

 

 こんな状況で手を組んでアナザー鎧武に勝とうなど、もはや夢物語でしかなくなってしまった。

 

「この程度のことで型を失うなど弱者の証。強者ならばその手で下々の首輪を縛り上げろ。リーダーが姿を消すなど言語道断だ」

 

「全く同意見だな、俺も片平も怒り心頭ブチギレ三昧だ。貴様が力を貸すなら、アナザー鎧武への報復とやらも果たせるかもしれないんだがな」

 

「聞いてなかったか。この程度の混沌さえ捻じ伏せられぬ弱者に用など無い」

 

「ならさっさと帰れ。従順な手下と今のうちに天下でも取ればいいだろう」

 

「今この街を掌握するのは容易い、そう思うなら浅はかだな。姿を見せない卑劣な支配者がいる。それに、飼い慣らせない野良猫も一匹いるのでな」

 

 変身を解き、神威瑠翔が黒いコートを翻す。

 

「この街はチームバロンが支配し混乱を収める。そのアナザー鎧武とやらも、これ以上仇を成すなら討つまで」

 

 そう言って背を向ける神威の前に、先回りした香奈が立ち塞がった。振り払うのは簡単だが、神威は以前とは違う香奈の呼吸に、興味を持ってしまった。

 

「ソウマはなんで私を置いて行ったんだろう」

 

「知れたこと、お前が弱いからだ。日寺壮間を弱いと言ったことは訂正するが、お前の目は依然として怯えた兎の如く矮小だ」

 

「だったら私はあなたについて行く! 強いって何なのか、一番強い人から知りたい! いいよねミカドくん!?」

 

 今回は一蓮托生で戦おうとは何だったのか。本当にこの時代の連中は手に負えないと、ミカドはため息混じりに笑う。

 

「夕飯には帰れよ、ピザの日持ちがそろそろ限界だからな。俺も用ができたし好都合だ」

 

「……付いてきたければ好きにしろ。歩幅は合わせんがな」

 

──────────

 

 ユグドラシルタワーが爆発した時、壮間は確信した。

 アナザー鎧武が動き出した。この物語は、終局に向けて歩み始めたのだと。

 

 正直に話して動けば香奈も来る、それは危険だ。巻き添えになって死ぬ未来もあり得るし、今の街に安全地帯は無い。頼れる相手がミカドしかいない今、香奈の側にミカドを置いて壮間一人で動くしかないのだ。

 

 問題ない。誰も手を取らないのなら、己の想像通りに動かせばいい。それが壮間の選んだ、王としての道だ。

 

「こんな場所に呼び出して何の用? 一応立ち入り禁止なんだけど、案外不良だねキミ」

 

「落ち着いてていいでしょう。今この街はどこを見ても具合が悪くなる」

 

 壮間の前に現れたのは、チーム龍玄の勇深辰明。以前渡された連絡先を使って2人が待ち合わせた場所は、崩壊したユグドラシルタワーの跡地だった。

 

「パニックになりながら逃げようとしない。あれが辰明さんの言ってた、目が曇った人たちですか」

 

「そう。噴火する火山を真下から楽しむバカ共だ。けど、流石の人間もそこまで頭が悪くないはず。誰かの意思が民をバカにしてる。僕の……大嫌いな、魔法少女の力だよ」

 

「魔法少女……?」

 

「僕の目的は、そいつを殺すことだ。そうしないと滅ぶだけだからね」

 

 2人は話しながら更地を歩む。

 辰明の話は核心を突いていた。この非常時に壮間の協力は渡りに船、彼も形振り構わず壮間を引き入れようとしている。

 

 だが、今の壮間の狙いはそこには無い。

 

「───辰明? それに、ジオウの壮間さん? なんでここに!?」

 

 瓦礫が音を立てて倒れたかと思うと、そこにいたのは美樹さやかだった。辰明の表情が分かりやすく歪む。

 さやかがいたからではなく、彼女がいたことに全く驚いてない壮間を見たからだ。

 

「どういうこと?」

 

「さやかさんは森に囚われたマミさんを助けたい。でもロックビークルを提供するユグドラシルは崩壊した。それなら、跡地に行けば見つかるかもと考えるのが自然です」

 

 他のチームに勝負を挑んでロックビークルを奪う選択肢もあるが、景品ではなく人助けを目的にしていた彼女には、今掛け金として提示できる物が無いはず。

 

 そもそもロックビークルは流通数が少ない。この大恐慌で虱潰しをするより、ここに来る方が遥かに現実的。少なくとも彼女ならそうする。

 

「つまりキミはこの女がいると分かって、僕をここに呼んだわけだ。言ったはずだよね、僕は魔法少女と組む気は無い」

 

「あたしだって、まずマミさんを助けに行かなきゃいけないの! あんたみたいなの、頼りにするわけないでしょ!」

 

「組む気が無いのは分かってます。だから、そうも言ってられない状況にしました」

 

 壮間はインベスゲーム用の端末を掲げた。

 運営が消えて殆どのサービスは機能停止しているが、公式告知用のオープンチャットそのものは生きている。

 

「ポイントを使えば、運営の承認なしにオープンチャットで匿名アナウンスが可能です。だから少し前に晒しました。ここで墓荒らしをしてる奴がいるって」

 

「はぁ!? なんでそんなこと……!」

 

 壮間が変身してなかったさやかを突き飛ばし、その不意打ちから庇った。完全に読み通りのタイミングだ。

 

「呼ぶためですよ、ゲームプレイヤーを狩る落ち武者を……麻沼!!」

 

「成る程、お前もそうか。世界を脅かす狂気は……ここで潰す!」

 

 この状況で居場所が割れた駒を無視する道理が無い。クラックを通って現れたアナザー鎧武は、その場にいた全員に敵意を撒く。

 

「鎧武の……偽物、そういうことね」

 

「コイツが麻沼!? でも、だからってこんなやり方!」

 

「ガタガタ言うなよ美樹さやか。まんまと罠に嵌ったんだ、僕らまとめてね!」

 

《ブドウ!》

《ジオウ!》

 

 壮間がジオウに、辰明が龍玄に、さやかも魔法少女に変身してアナザー鎧武に応戦する。いくら感情論でいがみ合おうが、こうなったら拒絶するような人たちじゃないのも、想像通りだ。

 

「じゃああんたが、マミさんを攫った犯人ってことでいい!?」

 

「巴マミか、彼女は危険だった。だから消えてもらった! いずれ彼と共に死んでもらう。俺の力の、肥やしとするために」

 

 アナザー鎧武が片手に持つのは透明な果実。いや、僅かに色味がかっているのが分かる。

 

『それは君の意思を吸って熟れていく。完全に色付いて、君が森を完成させれば……君はハイクラスへと覚醒する。どうする?』

 

 ヴォードの提案に麻沼は二つ返事だった。要は覚悟の強さを示せばいい。アーマードライダーや魔法少女を襲い、犠牲を重ねて、後戻りできない足跡を刻むんだ。

 

 それを知らない壮間も、あの果実の脅威は肌で感じた。やはり彼はここで討たなければいけない。

 

「そんなことさせない! あんたは絶対ぶっ倒す! それでマミさんも取り戻す!」

 

「巴マミはどうでもいいけど、誰の許可で燈理さんの真似してんだって話よ。気に食わないね」

 

 さやかの猛攻に、それを巻き込む勢いの龍玄の乱射。それをジオウがサポートに回って補完し、アナザー鎧武を攻め立てる。

 

 しかし、アナザー鎧武の攻勢は中々崩れない。流石と言わざるを得ないが、この時点でも並の怪人を遥かに凌駕した強さだ。

 

 そもそも麻沼は、3人なら倒せるという算段のもとにここに来ているはず。

 

「だから、ここから二の矢だ」

 

 アナザー鎧武が振り上げた大剣が、突如爆ぜた。

 そして次々に龍玄のものとは違う鉄の弾丸が、枯れ木の鎧を削り取っていく。

 

 その光景に、さやかが既視感を覚えて声を上げた。

 

「まさか……なんであんたが!?」

 

「決まっているでしょう。その男を、殺すためよ」

 

 壮間がアナザー鎧武の出現を読んだなら、同じ情報を持ってアナザー鎧武打倒を掲げる彼女も、必然ここに現れる。

 

 もう一人の時間遡行者、暁美ほむら。

 この戦力に時を止める魔法があれば、勝利に手が届く。

 

「……悪く思うな、世界を救う為だ」

 

 刀の大振りが空を裂き、編集で差し込まれたような大爆炎がアナザー鎧武を覆う。それを予期していたジオウが、龍玄を後方に突き飛ばした。

 

 一方でさやかは爆炎に突っ込んで、アナザー鎧武に追い撃ちを叩き込んだ。当然深い火傷を負うが、爛れたさやかの肌は瞬く間に回復していく。

 

(意思の合わない協力は巻き添えがある。だからさやかさんは攻撃の駒で必須だ)

 

 燈理から聞いていた、さやかの固有魔法は『治癒』だと。だからさやかを中心にして、壮間は戦略を組み立てた。

 

《ブドウスカッシュ!》

 

 距離を取らされ、隙がある敵に対して龍玄が取る選択はブドウ龍砲からの一斉一点照射。それをアナザー鎧武はクラックで受けて透かす。

 

 能力の発動が不慣れだ、片手が塞がる。ほむらの時間停止+銃火器とタイミングをズラし、ジオウは死角からジカンギレードを握って全力で斬り込んだ。

 

「ッ……! この、子供が……!」

 

「気味が悪い。どこまで見えてるんだよ、君には」

 

 ここまで壮間の描いたシナリオ通りだ。

 勝てる。その背中を捉えた確信が、

 

「暁美ほむら……!」

 

 一つの不協和音が乱した。

 ほむらはインベスゲームに不参加だ。なんで麻沼が、彼女の名前と顔を知っている?

 

 嫌な予感が、未来を曇らせていく。

 

「そうよ、私が暁美ほむら。あなたを殺す魔法少女よ。この先の未来で、あなたにまどかは奪わせない」

 

「まど、か……!?」

 

 その名前が、麻沼の脳を揺さぶる。

 

「どういうこと!? コイツがまどかを……? まどかは見滝原にいるし、ただの女の子でしょ!?」

 

「見滝原……!?」

 

 さやかの言葉が最悪の像を描く。

 そういえば、気にもしていなかった。確か、プレイヤー情報にあった巴マミと美樹さやかの出身地は見滝原で、年齢は中学生。知り合いに『まどか』。

 

「見滝原中学、早乙女和子の……教え子か、お前ら……?」

 

「なんであんたが先生のこと知ってんのよ!?」

 

「じゃあ……『まどか』は、『鹿目まどか』……!」

 

 アナザー鎧武の血気迫る太刀筋が、崩れ落ちた。

 犠牲の数だけ力を得る果実。麻沼が払うべき犠牲とは───

 

「詢子先輩の……娘を……俺が……!?」

 

 そんなことがあっていいはずがない。

 守るために選ぶ犠牲が、友人の教え子と、あの人の娘だなんて。ただ、大事なこと人達が幸せになれる世界が、ただそこにあればよかったのに。その為なら何でもできたのに。

 

 でも、そんなはずはないと、否定できない。

 

「あの男が言った。暁美ほむらは、必ず俺の障害になると。お前の全てが、俺の選ぶべき道を……示している……!」

 

 選べ。

 憧れの人の娘と、友人の教え子を殺すか。

 それとも世界の滅びを許容するのか。

 

 どこを探しても、迷う余地が無い。

 

《レモンエナジー》

 

 肌を裂くようなアラートが壮間の神経を走る。

 『あの男』、令央だ。あいつの意思が介在した瞬間、想像が砂のように瓦解する。このロックシードもきっと令央が───

 

 そんな事を考えているうちに、アナザー鎧武が透明なロックシードを解錠し、貪った。

 

 白いカビに蝕まれ、黒く腐食した果実が陣羽織に飾られる。赤い幹を束ねた弓を、アナザー鎧武が振るう。

 

「駄目だ」

 

 連携が取れてない。回避が間に合わない。

 飛躍的に上昇した膂力、そこから繰り出された薙ぎが4人を一手で捻じ伏せた。

 

 薄氷の上を走るような勝機だった。そんなもの、不意に投下された石一つで崩れる。

 

「まだよ……まどかは、私が……!」

 

「そうだ……先輩の娘は、俺が殺す……!」

 

 動くほむらの左手、ソウルジェムを踏み付ける。苦痛を叫ぶ彼女の体に、アナザー鎧武は1枚のカードを落とした。

 

 令央が見せつけていたカードだ。

 壮間の予想通り、ほむらの体がカードに吸い込まれ、消えた。

 

 一番守りたかった物を捨てる決心をした。

 もう躊躇う物など無い。果実の色が濃くなったのを確認し、アナザー鎧武は刀を振り上げる。

 

《ブドウオーレ!》

 

 地に伏しながら龍玄がドライバーを操作し、出現したブドウのオーラが分離・破裂。飛び散る果汁が空間を染め上げたかと思うと、ジオウ達の姿は消えていた。

 

─────────

 

「何やってんのよ辰明! あいつ、まどかを殺す気なのよ!? マミさんも……ほむらも奪われて、なに逃げてんのよ!」

 

「誰だよまどかって、死にたきゃ勝手に死ね! 冗談じゃない……こんな状況で、あんなのと戦えって!?」

 

 さやかと辰明の不平は壮間に集中する。

 だが壮間は言葉を見つけられない。

 

「……僕はもう降りる。この街はもう終わりだ。付き合ってられない」

 

 そう言って、辰明はさやかにタンポポのロックシード『ダンデライナー』を投げ渡した。さやかが求めていた、ヘルヘイムにアクセスするロックビークルだ。

 

「これをやるから巴マミを助けにでも行けばいい。だからキミらは二度と僕に関わるな」

 

 それだけ言い残して、辰明は去って行った。

 戦う意思を失った者を、引き止める方法が壮間には思いつかなかった。

 

「……さやかさん」

 

「あたしも……これでマミさんを探しに行く。あいつを倒すなんて無茶言うより、まずマミさんだよ」

 

「でも、今あいつを倒さないと! 取り返しがつかない! 麻沼が現れる場所だって、俺なら読めます! だからもう一度……!」

 

「信じられるわけないでしょ、あんな戦い方されてさ。あんな道具みたいに使われて、よく思うやつなんていないわよ」

 

 心臓が凍りついたように、呼吸が冷たい。体が動かない。血管が縮み上がり、視界が真っ黒になったのを感じた。

 

 道具のようになんて、そんなつもりじゃなかった。

 壮間の全身全霊と、思い描いた最善は否定された。

 

 じゃあどうすればよかったんだ。

 

 泣き言を叫ぶ暇は無い。

 一筋の光も無い世界を、壮間は歩き出した。

 

──────────

 

 壮間の敗北から、また1日が経過した。

 各々が何かを探す中、最初に見つけたのはミカドだった。

 

「火事場泥棒か。変わらんな貴様は」

 

「気になってんだけどさ、あんたどっかで会ったっけ? どーにも記憶に無いんだけど」

 

「変わってなかったのか、の間違いだ。気にするな。貴様が食い意地の張った野良猫だと知ってるだけだ、佐倉杏子」

 

「あっそう、お上品な野良犬さん」

 

 ユグドラシル炎上の余波で棄てられたコンビニで賞味期限切れの弁当を漁る杏子は、ミカドを見ると話しながら歩き出し、売り物の傘を握ると同時にミカドへと襲いかかった。

 

 ミカドもまた傘で強襲を防ぐ。そう来ると思ったと言わんばかりに、レインコートを投げつけて杏子の視界を奪い、広がった死角を突く反撃を繰り出した。

 

「訂正する。知っていたより物騒な挨拶をする女だ」

 

「お互い様だろ? で、わざわざあたしを探して、何が目的なのさ!」

 

「前に言ったはずだ、貴様の願いを叶えに来た」

 

「もうこりごりなんだよ、願いとか……そういうの!」

 

 ミカドの反撃も、投げつけたカラーボールも、傘の槍先で巧みに軌道をズラされる。既に槍の技術は一級品だ。

 

「だが2018年の貴様には劣るな。今度は勝てるかもしれんが、ここまでだ」

 

 突然ミカドは傘を捨て、座り、クーラーボックスに入れてきたピザを杏子に差し出した。

 

「食え」

 

 そのまま成り行きで戦いは終わった。杏子としてもミカドが敵だと思ったから攻撃したまでであり、あれ以上戦う理由もない。

 

「まっず。やっぱピザは出来立てに限るね、まぁ残さず食べるけどさ」

 

「さっきの店から失敬したタバスコだ。多少食えるようになる」

 

「お、サンキュ。それにしてもお金まで置いてくなんて律儀だねぇ。育ち悪そうなのに」

 

「郷に入っては、だ。今のこの時代は多少親近感が湧くがな。貴様はチームには戻らんのか」

 

「まぁ魔女探さなきゃだしね。競争率が酷いもんだけどさ」

 

 やっと全部無くなったピザを見て一息つくと、ミカドは杏子に話を切り出した。

 

「話は聞いていただろう。俺達に手を貸す気は無いか」

 

「無いね。あたしは誰かのために魔法は使わない。自分の身に危険が及ぶなら別だけど、そうなってから考えるよ」

 

「だろうな、貴様はそういう女だ。貴様は自分に何も期待していない。自分がしくじった時、割を食うのは自分だけでいいと考えている」

 

 思っていたのとは違う返答に、杏子の目線が尖る。

 

「知ったふうに言うじゃん。的外れだけどね、あたしは自分がよければそれでいいだけさ」

 

「そういうヤツは規則を守り、他人と群れ、盾にするものだ。我が身が可愛ければ戦うはずがない」

 

 杏子の振る舞いは、死にたがっている者のそれだ。

 それが何かを聞くことはないが、彼女は贖えない何かを胸に抱えたまま、己を傷付けるように感情のまま戦う。

 

「……そうさ、弱いやつは弱いくせに、恩返しとか献身を気取って失敗する。そんなものに希望なんて持たない方がいいんだよ、どいつもこいつもね」

 

「貴様は自分に期待しない。他人にも期待しない。だが、やはり教会の娘か。貴様は……奇跡を信じたがっている」

 

 杏子の腕がミカドの襟を掴む。それは、尾を踏まれた獣のような、剥き出しの威嚇。

 

「なんでそれを知ってんだ」

 

「俺が未来から来たと言ったら信じるか?」

 

「はぁ?」

 

「貴様は奇跡に賭けて死んだ。俺達が未来を変えるという奇跡にな」

 

 杏子にとっては雲を掴むような話だ。

 だが、そこには思わず耳を傾けてしまう、正しさという名の強さがあった。

 

 だとしても、他の誰がこんな言葉を聞き入れる。

 そんな奇跡は決して起こらないと、杏子は知っている。

 

「無駄だよ。どんな祈りを捧げたって、心だけは届かない」

 

「そうかもな。そんな日もある。だが、今日はそうじゃないかもしれない」

 

「運次第って? 馬鹿にしてんのか?」

 

「そんな馬鹿がそのうち奇跡に挑む。失敗したら笑ってやれ。どちらにせよ、それが貴様に贈ってやる景色だ」

 

 例え記憶に残らないとしても、それがミカドが杏子に捧げる敬意と恩返しだ。

 

 チームバロンに置いてきた馬鹿を気にして、ミカドが立ち上がった時、

 

 べっとりとした黒が、絵の具のように街を染め替えた。

 

「なんだアレは……!?」

 

 

─────────

 

 チームバロンは完全な独裁組織。リーダーの意思が全てで、世界の在り方などに左右されない。この状況で唯一秩序を成立させているチームだった。

 

「おい瑠翔! コイツまた調理器具壊しやがった、なんとかしてくれ!」

 

「オーナー! 新人のドリンクを飲んだヤツが失神しました!」

 

「つまみ出せ」

 

「わーーーっ! すいませんすいません! おっかしいな……今度は絶対行けると思ったんだけど」

 

 1日前までは。

 押しかけでバロン運営のクラブの厨房に入った香奈によって、秩序は破壊された。

 

 2005年で妖館の手伝いをした香奈だが、接客や掃除はまだしも料理はまるで壊滅的。壮間の看病でお粥を作り、完治を数日遅らせたことがある。

 

「……お前は何をしに来たんだ」

 

「やる気のあまり、動き出したら止まれなくて」

 

「スーパーボールかお前は」

 

 香奈は強さとは何かを探しに来た。

 だが、ここで感じたのは神威の類稀なる求心力のみ。有り体に言えばカリスマ性だ。それは香奈には真似できないものだった。

 

「私、まだ戦う目をしてないかな」

 

「マシになったと言いたいが、借り物の色など知れている。奏多燈理に当てられたのだろう」

 

「えっ!? なんでそれを……」

 

「ヤツの光は眩い、それが強さだ。先日、お前達のリーダーもここに来た」

 

「ソウマが!?」

 

 ユグドラシル炎上のほとんど直後、壮間はチームバロンに現れたという。そして、瑠翔にこう持ち掛けた。

 

『麻沼はグリーフシードを使って森を広げます』

『ユグドラシルの跡地から必ず持ち出しています』

『キューブに頼りたくはないですよね』

 

「屈することは無い、だがヤツは違う景色を見ていた。アレは人間を視て殺す目だ。もし仮にあの男や奏多をチームに入れれば、腹の中から喰い破られる」

 

「ソウマが……?」

 

「解るか? 強さとは、有害だ。そこにあるだけで他者に影響を与えるのが強者だ。その点、お前は毒にも薬にもならない」

 

 いてもいなくても同じ、そう言いたいのは分かった。

 それは、壮間にとってもそうなのかもしれない。

 

「魔法少女は最期に、溜め込んだ強さを以て世界を蝕んで、死ぬ。それこそが強者の在り方。強さの本質は毒なのだ」

 

 神威の言葉は、嫌でも美沙羅の最期を思い出させた。香奈は救えなかった。壮間も美沙羅も、香奈の意思なんか関係なく進んでいた。

 

『俺は───王様になりたい』

 

 見たことないほどに息を切らして、ボロボロになって、そう言った壮間の姿は忘れられない。

 

 あの日聞かせてくれた彼の物語は、もうとっくに見えないくらい、遠い。

 

「そっか、だからミサは告白しようとしたんだ。強いなぁ……」

 

 自分が生きた証を刻む為に。美沙羅の言葉の意味が今なら分かる。今ようやくそれを理解した自分の弱さが憎い。

 

「私、ここに来る前、変わらないで欲しいって言われた。私の優しさは十分に人を救えるって」

 

「弱者であれと、そう言っているだけに過ぎんな。優しさは尊きものだが、強さではない」

 

「だよね。そう思う。だけど、本当にそうなのかな」

 

 でも、香奈はもう弱さを怖がらない。

 いつか来る未来を他人に押し付けたりしない。

 

「ならば、お前はどう進む」

 

 神威は香奈に、美沙羅と同じ問いを投げ掛ける。

 『何になりたい?』。どの道を進もうが、待っているのが痛みや苦しみだとしても、ただそう成りたいと望んでいいのなら

 

 私が、本当になりたいのは。

 

「……心を決めたか」

 

「うん。じゃあ私行くよ! ソウマに伝えなきゃ───」

 

 踏み出そうとした瞬間、狂った運命が再び街を揺らした。

 

──────────

 

 壮間から全てを聞き、香奈との対話で頭が冷えた。だから、ユグドラシルタワーが燃えた時、誰の仕業か分かってしまった。

 

 病院に行った。行方を聞いて回った。走って、声を枯らして、遮二無二探したつもりでいた。

 

「───恵吾さん」

 

 麻沼恵吾の姿で現れた彼は、言葉を交わす前にアナザー鎧武となって剣を握った。

 

 必死で必死になった。本当は思いたくなかったからだ。

 メッセージでたった一言。それだけで彼は、燈理を殺しに現れるだなんて。

 

「恵吾さん! 本当にあんたが……街を目茶苦茶にしたのか!? これから魔法少女を殺すつもりなのかよ!!」

 

 避けなかったら首を切り落としていた刀が頭上を掠め、燈理は歯を食いしばって戦極ドライバーを構えた。

 

「もう話もしねぇのかよ……それなら俺が、止める!!」

 

《オレンジ!》

 

「変身!」

 

 鎧武に変身し、大橙丸を抜刀。しかしその刀はかち合った瞬間に弾かれ、鎧武の体は小石のように吹き飛ばされた。

 

 アナザーライダーの前では、オリジナルの歴史は大きく減衰する。

 

「恵吾さん……!」

 

 その絶対のルールを痛みで体感しても、鎧武は立ち上がるのだ。

 

「分かっていた。だから……殺すしか無いんだ!」

 

 ただ一言、一方通行の嘆きを噛み殺し、アナザー鎧武はクラックを開いた。植物のツタが鎧武を捉え、首を締め上げる。

 

 もう言葉を聞かずに済むように、締める力を強めていく。首を砕けば、これでやっと、後戻りできなくなるはずだから。

 

「麻沼あああぁぁぁぁッ!!」

 

 充血して濁った視界の裏から、ジオウの剣が鎧武を縛るツタを断ち切った。ジオウの足はそのままアナザー鎧武の間合いを踏み荒らし、二つの刃が火花を散らす。

 

「壮間くん……!」

 

「またお前か、どこまでも俺の邪魔をする気だな」

 

「その為に来た! お前だけは、絶対に許さない!」

 

「許さない……か? 怪物かと思ったが、やはり所詮子供だな。そんな意思を通せるほど、大人の社会は甘くない」

 

 アナザー鎧武と相対する。想像を巡らせる。

 どんなウォッチを使おうと、どんな戦いをしようと、アナザー鎧武の首に届かない。見える未来が余りに細い。

 

「燈理さん! 鎧武の力を俺に渡してください! そうしないと、コイツを倒せない!」

 

 ジオウが放つ怒号に、鎧武は言葉を詰まらせた。武器を握ったまま足を止め、逡巡して、それでも───

 

 鎧武は自分の力で、アナザー鎧武へと斬り掛かる。

 

「どうしてっ……!」

 

 分かっていたことだ。それが最善だとしても、燈理は知人を討つための力を他人に渡せる人間じゃない。

 

 だが、その無力な優しさの先には何も無い。

 必然で不可逆のバッドエンドは、もう壮間の背中を掴んでいる。

 

「こんなはずじゃなかった、とでも言いたいか?」

 

 声だけで背筋が凍てつき、吐き戻したくなる嫌悪感。

 

 両手を広げ、死線の直上を闊歩しながら、翠の瞳孔を見開き口角を吊り上げる───令央がガラスの鏡面から姿を現した。

 

「中々面白い形に仕上がったものだ。樹を焼いた甲斐があったというものさ」

 

「……頼まれたものは渡す。邪魔をしないのならな」

 

「まさか。私は歪んだ人間は嫌いじゃない、壊す意味が無いからね」

 

 令央がアナザー鎧武からカードを受け取ると、すぐにその力を行使。

 

 気付けば鎧武の装甲が滅び、燈理の体は再起不能同然の有様に変えられていた。瞬間移動、そして置いた攻撃の同時炸裂。ほむらの時間停止魔法だ。

 

「素晴らしい! 彼女の能力さえあれば、十分に電王の能力の代替品を作れる。過去の世界へ渡るのに一々苦労する必要は無くなるわけだ」

 

 令央は燈理の体を、砕いて壊すような強さで踏み付ける。怒りを燃やして向かってくるジオウを、時間を止めて背後から掴み、地面に擦り付けるようにして壁に叩きつけた。

 

「力を合わせれば未来は変わる。なんと健気な希望だ! だから私はそれを壊しに来た。恐怖を広め、混乱を作れば、愚かな紛い物共は『大局のようなもの』を見て孤立する」

 

「じゃあ……お前がこの時代に来て、やったこと全部……!」

 

「そう、全部貴様を邪魔するためだ。貴様の手など、誰も取らないと見せつけるためだ! 題名は『捨てられた王』、ジオウの贋作には勿体ない傑作さ」

 

 この男の悪意には底が無い。ただその事実だけが、どうしようもない恐怖となって壮間を沈めていく。先の無い未来という、絶望に。

 

 だが、令央の悍ましさは、そんな想像さえも超えていた。

 

 夥しい悪感情が風に乗って肌を逆撫でた。

 街が真っ黒に染まり、まるで人の叡智を嘲るような、理屈のない作り物のように変わっていく。

 

「魔女の結界……?」

 

 誰かが呟き、唖然とする中で、令央だけが醜悪に笑い声を響かせる。かつてこの街にユグドラシルタワーがそびえ立っていたように 、新たに産まれた腐敗の世界樹───魔女が、街を支配下に収めた。

 

 魔法少女の脱出を阻んでいたように、その結界の壁が街の外殻と化した。もう逃げ場は無い。

 

「世界の支配者を気取っていた贋作を魔女にした。絡まった因果が解けてこの通りだ。世界は滅ぶ! チェス盤は返され、贋作共は踏み潰されて死ぬんだ! これが私の……芸術の、完成形だッ!!」

 

 そこかしこから使い魔が現れ、クラックが無差別に開いてインベスが溢れ出す。

 

 もう言葉も出ない。心が蒸発するかのように、壮間の心臓は静かに拍動を諦め、止まっていくのを感じる。

 

 夢は叶わない。物語を奪われる。美沙羅も救えない。

 燈理も死ぬし、ほむらは令央に封印されたまま。麻沼はこれから鹿目まどかを殺して、魔法少女を肥料にする。そういえば、自分も死ぬんだった。

 

 あぁ、でも……香奈だけは現代に帰れるよな。

 

 

《コダマシンガン!》

 

 

 押し寄せる運命の重さに抵抗をやめそうになった、その時、コダマスイカアームズが種の弾丸を令央に浴びせた。

 

 壮間にとっては知らないガジェットだった。

 呆気にとられているジオウの頬に、コダマスイカアームズは重い体当たりをぶちかます。

 

「痛っ!!?」

 

『目ぇ覚めた!? ソウマ!!』

 

「香奈……!?」

 

 コダマのパーツが変形したスクリーンに、香奈の顔が映る。頭を揺らした衝撃と、僅かな痛みが、壮間に自身の命を思い出させる。

 

「いまさら何かと思えば。贋作に物語は不要だ」

 

 それを傍観する気もない令央。だが、再び時間を止める前に、逆に壮間の周囲以外の時間が止まった。

 

「運命を選ぶ時だ我が王。そして、私とは初めましてだったかな……『令央』」

 

「貴様……はッ! そうか、そうだな初めましてだ! なんという幸福な出会いだ! ここで一つ消せるんだからな、世界を穢す屑の根源を!」

 

 ウィルを見た令央から溢れ出たのは、悪意ではなく怒りなのは一目瞭然だった。すぐに時間停止を振り解き、令央はウィルに破壊衝動を向ける。

 

 しかし、再び変身した鎧武が、それを阻んだ。

 

「……は? 貴様はもう終わらせただろ、なんで立つ……!?」

 

「なんでだろうな……勝てねぇのは分かってる。そのくせ壮間くんにも託せねぇ、俺には誰も救えない。それでも! 動かずにはいられねぇんだよ! 動かなきゃ、変わんねぇだろうがよ!」

 

 少なくとも、燈理は予感を感じていた。

 香奈と壮間がようやく目を合わせた。そこから何かが変わってくれる、予感を。

 

「香奈、今すぐ───」

『一緒に戦おうって言ったよね。何してんの?』

 

 未来に逃げろ、という言葉を出す前に殴られた。

 なぜだろう。こんな状況なのに、画面越しの真顔の香奈が一番怖い。どう諭そうとしても先回りで制される気がする。

 

 それもそうか、香奈とは何年一緒にいたという話だ。

 

『……勝てない?』

 

「うん。俺だけじゃ無理だ……でも、俺は結局……! 誰にも信じてもらえなかった。俺の力じゃ、誰も動かせなかった……!」

 

『当たり前じゃん。だって、みんな強いもん。例えばミカドくんが言われたこと聞くと思う?』

 

「……そっか、だよな。俺、思い上がってたんだ。俺なら人を操れるって……皆が俺の思い通りになってくれるって……」

 

『だからさ、私を動かしてよ。ソウマ』

 

 重く垂れ下がる頭を、引っ張り上げられたような気がした。自然と顔が上がり、画面の香奈と目が合う。

 

『私は弱くて、頭が悪い! 何をどうすればいいか分かんない。だからソウマの言う事を聞くよ。ソウマは頭いいからね!』

 

「でも……でも! それじゃ、俺がしくじったら香奈はどうなる!? 梓樹みたいに……俺はまた───」

 

『うん、いいよ。死んでもいい。失敗したら一緒に死のう。成功したら一緒に笑おう! ねぇソウマ、私が初めて過去に行った時、ソウマが言ったこと覚えてる?』

 

 忘れるわけがない。虚勢を張って宣言した、自分の全てを。王様になる物語の、始まりの瞬間を。

 

『だから私も言うよ。あのね、ソウマ。この先どんなことがあっても、大人になっても、私は……!』

 

 2009年から戻った時、壮間が語った未来の想像。

 香奈はあれが飛び上がるほど嬉しくて、うまく声にできなかったのをようやく自覚した。

 

 未来は辛い。大人は辛い。自分はいてもいなくても変わらない。

 でも、どうせ辛いんだったら、そんな猛毒をコップいっぱいに注いで、一緒に笑って乾杯したい。

 

 いてもいなくても同じなら、ただ意味もなくあなたの一部でありたい。

 

 香奈が、本当になりたかったものは

 

『私は───これからずっと、ソウマと一緒にいたい』

 

 仮面の内側で、涙が壮間の頬を伝った。

 

 弱いから守らなきゃだなんて想像を押し付けて、勝手に一人で戦っていた。

 

 なんで信じられなかったんだろう。香奈はずっと、目が潰れるくらいに眩しくて、憧れた人だったのに。想像もできないくらい強いと決まっていたのに。

 

『これが私の物語だよ、ソウマ』

 

「……物語……? 香奈、の───!」

 

 他人を操ろうとしていた。

 想像を押し付けていた。

 香奈の物語。

 

 ───俺は主人公だけど、香奈も主人公だ。

 

『俺はただ、目の前に広がる瞬間瞬間を必死に生きる』

 

 2009年で、壮間がアラシに投げた言葉。

 答えはとっくに出せていたんだ。

 

 ほむらの物語は『まどかを救うこと』

 さやかの物語は『自分の正義で戦うこと』

 杏子の物語は『自分のために戦うこと』

 

 言う事を聞かないとか、別々の方向を見てるとか、当たり前だった。

 

 どの時代で誰に会っても同じだった。それぞれが重ねた瞬間こそが人間で、物語なんだ。人の数だけそんな物語はあって、それぞれが主人公なんだ。

 

 壮間は自分の想像を以て、自分の物語に他人を当てはめていた。そして、無理に形にした物語は容易く砕けるだけ。

 

 本当なら、誰もが自分の想像なんて超えていく人たちだったはずなのに。

 

(じゃあ、どうなる? 皆が完全に力を発揮できる、それぞれの物語の上で動くとしたら……!)

 

 一つの気付きで世界の見え方は一変する。

 狭かった視界がどこまでも開けたのを感じた。無数に並走して無限に広がる未来が、そこにはあった。

 

 バラバラな物語は時に交わる。その瞬間にこそ想像を超える奇跡が起きたのを、壮間は何度も見てきたはずだ。

 

 人の数だけ物語を想像しろ。

 何を歩んで、何ができ、何を思い、何と戦う。

 積み重ねられた偉大な物語を、全力で信じて選べ。

 

 その物語が全て重なる、交差点(クロスオーバー)を感じろ!

 

「───香奈」

 

『なに?』

 

「街の仮面ライダーと魔法少女の心を一つにしてくれ。お前ならできる」

 

『……任せて!!』

 

 香奈との通信を切り、ジオウは前を向いた。

 ウィルがいる。鎧武が令央と戦っている。アナザー鎧武はまだ止まってる。世界がよく見える。

 

 ジオウは迷わず鎧武の援護に向かった。

 

「呆けた話は終わったか? 今さら何をしようが結末は変わらない。私の作品は完成し、世界は滅びたんだ! これ以上は蛇足だと分からないか!?」

 

「蛇足なわけあるか。誰もがただ生き抜くだけだ。己の物語を、最後まで。だから俺たちが、その物語を導く!」

 

 令央は自身の底から湧いて出てくる嫌悪を感じていた。さっきまで死人同然だったこの贋作に、何が起きたというのか。

 

「やっと仲直りできたみたいだな! それに、腹を括ったって顔もしてる!」

 

「すいません燈理さん。俺は大事なことを忘れてた。これから俺は全てを信じます。だから───」

 

「あぁ、絶対に応えるさ! この街の奴らはどいつも最高だ!」

 

 こいつらには何が見えている。それが何かなど考えたくもないが、強烈に、無性に、早急に、この贋作を否定したくて仕方がない。

 

 令央の憤怒を、2人の仮面ライダーは笑って迎え撃つ。

 

──────────

 

 ファイズフォンXでの通信が終わり、チームバロンの面々の目線が香奈に集まっていた。

 

「それで、お前はどうするつもり……」

 

 あれだけ強大な魔女は一般人の目にも見える。直にこの街から秩序は完全に消え失せる。その前にどんな手を打つのか、神威は香奈に問いかけるが、

 

 香奈は喜びを噛み締めた顔で、ぴょんぴょんと嬉しそうに跳ね回っていた。

 

「何してる」

 

「だって嬉しいよ! ソウマが私を信じてくれた……私ならできるって、そう言ってくれたんだよ!?」

 

「はっ、気でも違ったか。あんな無理難題を押し付けられたのだ、理解できんでもないが」

 

「ムリじゃないよ。ソウマができるって言ったなら、できる」

 

 そこには疑念の欠片も無い。

 信仰か、信頼か。どちらにせよ余りに弱者の思考。そう否定するのは簡単だ。

 

 しかし、神威はその弱者から目が離せないという事実もまた、否定できなかった。

 

「とりあえず今から走り回っても間に合わないよね」

 

 そりゃそうだ。

 香奈にとっては深刻な問題。とにかく街中に声を届けなければ話にならない。

 

『僕と契約して、魔法少女になってよ』

 

 この願いを叶える方法を、香奈は一つだけ知っている。そうすれば壮間を助けることだってできる。その選択肢さえも、壮間は委ねたのだ。

 

 決めるのは、香奈だ。

 

 短い時間で悩み抜き、苦しそうな表情が一気に晴れたかと思うと再び携帯を取り出した。何かを閃いたようだが、携帯を操作するでもなくただ画面をジッと見つめる。

 

「見てるんでしょ! お願いを聞いてカノンちゃん!」

 

『よい判断なのです、先の世の少女。いえ、片平香奈』

 

 インベスゲームのバーチャル配信者、千織カノン。

 彼女は電子の世界から街の全てを観測している。そして、香奈の素性を見抜きユグドラシルのセキュリティまで操った彼女なら、香奈の願いを叶えられる。

 

「神様、だよね。カノンちゃんって」

 

『そう呼ばれることもあるのです。わたくしに何を祈るのか、それもわかっています。ですが貴女はそれが何を意味するのか、わかっているのですか』

 

 カノンは二次元の存在のまま、気味の悪いほど血の通った笑みを浮かべた。恍惚と、醜悪でありながら神秘的。神々しい悪意に背筋が冷える。

 

『失敗すれば筆舌に尽くし難い恥を晒し、何も成せぬまま愛しき者と共に心中する。それは死など比較にならない辱めです。あぁなんという素晴らしき苦難! それでも貴女は……』

 

「うん。お願い」

 

 香奈は即答した。凄まじい逆境の中で喜びだけを目指して邁進する、それは狂気とも言える精神だ。カノンは眉を顰めながらも、香奈の願いに応えた。

 

『その狂気もまた人間。良き苦難を』

 

 カノンの意志のもとに、香奈の携帯のインカメラが撮る映像が、街のあらゆるモニターに映し出された。この終焉の中だろうと、誰の目にも確実に香奈が映る。

 

 カノンの悪戯か、それとも錯覚か。声を出そうとした瞬間、画面の向こうから夥しい数の視線を感じた。少し目配せをすれば、周囲の誰もが香奈を見ている。

 

「っ……!」

 

 注意、絶望、傍観、好奇、憤懣、期待、向けられるあらゆる感情に肌が掻き毟られるようだった。

 

 普段のように勢いで声を出せるわけもない。何かを成す、何かに成る、そこにあるのは『責任』というつまらなくて恐ろしい現実。

 

 それでも、そんな子供のままじゃ、成りたい自分になれないから。

 

「みんな……っ、皆さん! 舞茂市の魔法少女とライダーの皆さん! 聞いてくださいっ! どうか、落ち着いて……私の話を聞いてください。いま、もうすぐ……この歴史は消えます」

 

 香奈は上擦った声で、震えながら、今起こっている全てを発信した。

 アナザー鎧武と令央によってこの惨状が生み出されたこと。そして、彼らを倒さなければ未来が奪われること。例え勝ったとしても、歴史が消滅してしまうこと。

 

 チームバロンからも動揺の声が聞こえる。当然だ。

 

「今……私たちチームジオウのソウマと、チーム鎧武の燈理さんが戦ってます。勝つには皆さんの力が必要です! お願いします! どうか、ソウマと燈理さんを助けてください……!」

 

 言葉が刺さっていないのが分かってしまう。

 信じられていない。例え真実だとしても、自分が動く理由がない。こんな絶望の中、自分が動いてどうなるんだと、そんな声が聞こえた気がした。

 

 今までならここで感情的になっていた。

 壮間も気付けたことに、香奈もやっと気づいた。世界は自分だけのものじゃない。そう理解しながら、誰もが世界は自分のものだと信じ、戦っている。

 

 だから世界はこんなにも難しくて、素敵なんだ。

 きっとこの愛こそが、大人になるということだ。香奈はそう信じた。

 

「ここで迷える皆さんは、こんな時でも考えてる。強いから迷えるんです。この世界の主人公はあなただ! だから……諦めないで。最後まで戦ってほしい! 戦える!」

 

 そう言って、香奈は外に飛び出した。

 外は餌を待つ使い魔が蔓延る魔女の結界。出歩くだけで自殺行為の領域を、香奈は駆ける。

 

 私についてこい。そう言うように、生身で壮間のもとへ向かう。

 

「燈理さんは、皆さんにとってどんな人でしたか? ソウマはどう見えましたか? いま戦ってる彼らに、負けていいんですか!? こんな、バカみたいな理不尽に……負けていいんですか!? こんな終わりでいいわけない!!」

 

 香奈は走り、使い魔たちの手を必死に躱しながら、絶え絶えの息で訴える。転んでも土を掴み、捕まる前に立ち上がる。

 

 香奈の体は震えていた。涙と泥で顔はぐちゃぐちゃで、膝が言うことを聞かなくて立つのがやっとだ。どうしようもない恐怖で声すら形にならない。

 

 それでも、香奈は走る。この歴史の中心で叫ぶ。

 

「あなたがいなきゃダメなんです! 皆さんの物語は無駄なんかじゃない! 最後まで……私と一緒に、戦ってください!!」

 

 道の半ばで、使い魔の爪が香奈の脚を撫ぜた。

 痛みで脚が止まる。逃げ場のない敵意に囲まれて、香奈は───

 

───────────

 

《パインアームズ!》

《粉砕・デストロイ!》

 

「壮間くん!」

「はい!」

 

 パインアームズになった鎧武が、パイン型のモーニングスター『パインアイアン』を振り回して令央を叩く。しかし令央は変身もせずにそれをいなし、片手でアナザー鎧武に触れた。

 

「いつまで寝ている」

 

 それにより時間停止が解除され、令央がついでにウィルへと放った破壊の波動をギリギリでパインアイアンが相殺する。

 

 破壊されて鎧武の手から離れたパインアイアンの鎖をジオウが掴み、手繰る。その持ち手に連結した無双セイバーが、ジオウによってアナザー鎧武を斬りつけた。

 

「まだやるつもりか? お前たちがやっていることは、津波に小石を投げ込むようなものだ。無意味なんだよ、生み出されてからの全てが」

 

「そうやって、全部否定してきたのか。意味が無いって思いたいだけなんじゃないのか。意味がないって決めつけてるのは、お前だけだ!」

 

「違うな! 意味があってはいけないんだ、贋作の存在なぞに!」

 

 令央の感情の猛りに力が鼓動する。

 鋼鉄を重ねて造られた威圧的な体躯に、革の内側を青き血液が巡る。鋲が無数に撃ち込まれながらも、その身体は痛みを知らない。

 

《ブレイドォ……》

 

 アナザーブレイドに変貌した令央は、封印した魔法少女の能力を行使した。ただアナザー龍騎の時とは違い、武具ではなく能力そのものが大剣へと宿る。

 

 別の魔法によって強化された『速度低下』の魔法がジオウと鎧武を地面に縛り付けた。

 

「やはり魔法少女の力はこの姿では使い勝手が悪い。私としたことが、感情を乱された」

 

 大剣の一振りで鎧武とジオウの変身が遂に解ける。

 

 そしてアナザーブレイドは『ベノスネーカー』の猛毒、『オオアリ』の酸、『バイラス・ドーパント』の細菌。各時代で封印した怪人の能力を解放し、刃に伝わせた。

 

 回避不可能にして致死率100%の極害の一撃。

 それを目にして、なぜこいつらは前を向く。

 

「美しいとは言えないが、もういい。苦しみ果てて死ね」

 

 アナザーブレイドが振り払うように剣を下ろした。

 その軌道上の生物は形を保てない。溶かし蝕み尽くされた跡地には骨も残らず、虚空と化した敗者を前に令央は───

 

「何が起こっている」

 

 腹の底からの怒りを吐き捨てた。

 動けない生身の2人を、ダンデライナーに乗って現れた美樹さやかが避難させていたのだ。

 

「あっぶなーーー!! 危機一髪、超ギリギリ! でもここで間に合っちゃうのがあたしなんだよねー!」

 

「さやか! お前……」

 

「いや、燈理さん。さやかさんだけじゃないですよ」

 

《ブドウスカッシュ!》

 

 追撃を構えたアナザーブレイドのこめかみに銃弾が命中。大して効かない不意打ちを計算に入れていた彼は、アナザーブレイドの反撃を甘んじて食らった。

 

 変身が解除された一方で、彼は予定通り別方向から自動操縦のダンデライナーを追突させ、無理矢理アナザーブレイドを怯ませた。

 

「美樹さやか……! 僕より先に来るな! あと運転が荒いんだよ燈理さんを怪我させる気か帰れ!」

 

「はぁ!? あたしがいなきゃ今ごろ……」

「アキ! お前も来てくれたのか!」

 

「燈理さん無事ですか!? 遅くなってすいません! あのねぇ日寺壮間、燈理さんのピンチなら先に言えよ!」

 

 突っかかるさやかを突き飛ばし、勇深辰明が燈理に駆け寄った。もうほとんど平伏すくらいの勢いで。

 

「俺が言ったって来てくれなかったでしょ」

 

「……僕は燈理さんを助けに来ただけだ。あの女の演説は関係ない」

 

「とか言っちゃって。あたしは香奈さんの言葉に助けられたよ! 大きい声で叫んでくれたから、見つけられたしね」

 

 さやかと辰明が駆けつけた所で、敵も一人ではない。アナザー鎧武が再起し襲い掛かるが、その身体を爆発が退けた。

 

 さやかが来た方向から砲撃を放ったのは、巴マミだ。

 

「よかったわ。この体調だから精度が心配だったけれど、これならなんとかなりそう」

 

「巴マミ……! 森から抜け出したのか!? じゃあまさか……」

 

「あぁ、戻ってきたぞ。恵吾」

 

 服は汚れ、身体はやつれ、それでも直面する威風に身がすくむ。

 

 ユグドラシル舞茂支部の若き君主、逸月岳晴。

 感情的にも、戦略的にも、最大の障害になると判断して麻沼が真っ先に排除したその男は、変わり果てた部下を睨みつける。

 

「丁寧にドライバーまで奪ってくれたおかげで、情けないことに衰弱を待つのみだった。彼女がいなければインベスに襲われ死んでいただろう」

 

 岳晴はマミを一瞥し、再びアナザー鎧武に視線を戻した。

 

「これがお前の情けだったのかは、もはや聞いても無意味だな。彼女ともども動く気力すら失った時、耳に入ったのが彼女のスピーチだ」

 

「片平さんが私たちに力をくれた。そして、その声が私たちと美樹さんを引き合わせてくれたんです」

 

 森にまで届く配信は、千織カノンを味方に付けなければ不可能だ。ユグドラシルから脱走できた事実にも、これで合点がいった。

 

 岳晴は香奈への疑いや侮りを心の中で撤回した。

 彼女は正しかった。一人で抱え込むばかりでは、この景色は決して実現しなかった。

 

 岳晴は、アナザー鎧武を前に量産型戦極ドライバーとロックシードを構える。

 

「ここに来るまでに、プレイヤーの一人から拝借した。判るか、恵吾。この惨状がお前達の謀略だとしても、一人の少女の直向きさが、それを打ち破ったんだ」

 

 消えかけの物語を見下していたはずだ。

 2人の怪人が少し視線を上げると、そこには数多の若者が───インベスゲームのプレイヤーと魔法少女が集っていた。

 

「おーやおや、こんなに雁首揃えてと思ったら、珍しいのもいるじゃない。君も彼女の声に耳を傾けたクチかい? ま、僕には女の子の涙には弱いって言う数少ない欠点があってねぇ」

 

「鎧武には鶴乃がお世話になってるから、世界の終わりでも見捨てるのは後味が悪いってだけよ。ところであなた、どちら様だったかしら」

 

「アーマードライダーグリドンだよ!! 腹黒イケメンのインヴィットのリーダー! テレビに出てるからって調子に乗りやがって羨ましい……!」

 

 地団駄を踏む仮面ライダーグリドンと、それを無視する凛々しい魔法少女。

 

「兄ちゃん離せよ!! なんであのデカい魔女ぶっ倒しに行っちゃダメなんだよ!? 魔女はオレがぶっ殺す!!」

 

「彼女の言葉が本当ならば、優先事項は此方。ここで恩を売れば歴史改変後の儲けに繋がるわ! 特殊傭兵部隊チームシャルモンはマネーが第一! それとフェリシアちゃん、ワタシのことはお姉様とお呼び!」

 

 たんこぶをこさえた小柄な魔法少女が暴れるのを抱え、仮面ライダーブラーボが緑のノコギリでアナザー鎧武を指す。

 

「最後の祭だァァァァァァ!! チームレイドワイルド、暴れんぞォォォォォォ!!」

 

「男臭い、ほんと最悪……! やっぱ来なきゃよかった!」

 

「でも、行くって言いだしたのレナちゃん……」

 

「ここまで来たらやるしかないでしょ! あたしらも負けないくらい、気合い入れて行くよ!」

 

 仮面ライダー黒影がチームメイトと共に円陣を組む横で、3人の魔法少女も目と目を合わせて頷いた。

 

「……どういうことだ。絶望で縛りつけたはずだ。道理も奪った。贋作は足踏みし、魔法少女たちも動けない構造に描いた。こんな都合のいい絵空事は……あり得ない!」

 

「弱さにあてられたのだ。ここにいる誰もがな」

 

 令央に答えたのは、プレイヤーの奥からランウェイでも歩くかのように現れた神威だった。その後ろにいた息を切らしてボロボロの香奈は、壮間を見つけるとピースサインと笑顔で、自分の戦いの勝利を讃えた。

 

「お前がやったように強さは人を従え、人を支配する。だがこの女は己の弱さと愚かさを以て、人々の折られた強さに火を点けた」

 

 神威はそれを強さとは呼ばない。しかし、彼女が出した答え、その在り方に感銘を受けたからこそ、香奈を助けてここにやってきたのだ。

 

 そして、壮間と香奈を無慈悲に信じていた一人───ミカドも、焦るそぶりすら見せず到着した。

 

「名演説だったな、片平。まるで15世紀フランスの聖女ジャンヌダルクだ。これは貴様の指示だろう、日寺」

 

「遅いぞ、ミカド」

 

「黙れ。俺に独断行動されていた貴様の気持ちがよくわかった。後で一発殴らせろ」

 

「どの立場で言ってんだよそれ……」

 

 ミカドが壮間の変化を見るのは二度目。2015年と2009年の戦いの後、生まれた差を感じて激しい焦りを覚えたものだ。

 しかし今、また一つ飛躍した壮間を見て、ミカドは含み笑いで毒づいて壮間と拳を合わせた。

 

 そして、最後に彼女もまた、香奈の起こした奇跡に心を動かされた。

 ミカドと共に来た、佐倉杏子だ。

 

「まだ信じられないよ。あのデカい魔女を見た時、もう絶対ダメだと思った。誰も動きゃしないって。それなのに……必死な言葉なんかが、人の心を動かしたのか」

 

 誰も父の話を聞いてくれなかった。

 父は杏子の話を聞いてくれなかった。

 人を操れたのは魔法なんていうズルだけだった。

 

 意志の力で人を動かせたのか。もっと必死になれば何か違ったのか?

 そうとは限らない。だからこそ奇跡なんだ。

 奇跡は本当にあるんだ。

 

「あんたが信じ続けたから起こった奇跡だ。だからあたしも信じていいんだって思えた。忘れちまうらしいけどね」

 

 ふと杏子が視線をずらすと、さやかとマミもそこにいた。これもまた一つの奇跡だ。

 

「あっはっは、もうめちゃくちゃだ! だったら『佐倉杏子が正義に為に戦う』なんて奇跡も、あったっていいだろ?」

 

「杏子ちゃん!」

 

「最後に面白いもん見せてくれた例だ、一緒に戦ってやるよ」

 

 役者は揃った。全ては壮間が描いた想像通りに。

 香奈には人の心を動かす才能がある。壮間はそれを信じて、物語を一気に動かす起点にしたのだ。

 

 成長を重ねるうちに壮間は『自分を信じる覚悟』を身につけ、それに固執してしまっていた。

 

「俺の想像力は『未来を見る力』だと思ってた。俺だけだったら、そうだった」

 

「黙れ。贋作のジオウの分際で、何を気取っている……!」

 

 そして今、『他人の物語を信じる覚悟』を思い出し、壮間の才能は完成した。

 

「俺達の力は───『未来を創造する力』だ! 行くぞ、ミカド!」

 

「指図は聞かんぞ。あつらえ向きの終末だからな、俺が決めて救世主だ」

 

「偉業を成した者に褒美を、そして支配者を気取る愚者に引導を。それが気高き支配者の勤めだ」

 

「勝手に支配しないでくれるかなぁ!? 僕のリーダーは燈理さんなんだけど!」

 

「子供だ大人だ言うのは……もう無粋だな」

 

「よっしゃあ!! みんなで一緒に、やってやろうぜハッピーエンド!」

 

《ジオウ!》

《ゲイツ!》

 

《バナナ!》

《ブドウ!》

《メロン!》

《オレンジ!》

 

 戦う覚悟を胸に宿した6人が、それぞれのアイテムをベルトに装着し、鎧と仮面を纏う。

 

「変身!」

 

《ライダータイム!》

 

《仮面ライダー!ジオウ!!》

《仮面ライダー!ゲイツ!!》

 

《バナナアームズ!》

《ナイト・オブ・スピアー!》

 

《ブドウアームズ!》

《龍・砲!ハッ・ハッ・ハッ!》

 

《メロンアームズ!》

《天下御免!》

 

《オレンジアームズ!》

《花道・オンステージ!》

 

 仮面ライダージオウ、仮面ライダーゲイツ、仮面ライダーバロン、仮面ライダー龍玄、仮面ライダー斬月、仮面ライダー鎧武。

 6人の仮面ライダーが先頭に立ち、その後ろには軍勢となった魔法少女とインベスゲームプレイヤー(ビートライダーズ)

 

 相対するはアナザー鎧武とアナザーブレイド、使い魔とインベスの群れ。そして遥か先にいる巨大な魔女。

 

「ここからは、俺たちのステージだ!!」

 

 ここが天下分け目。未来を決める大合戦が、幕を開けた。

 

 




壮間がまた覚醒しました。
香奈も遂に言いました。
一方その頃ミカドはピザを食っていた。

次回はVS令央です。長き因縁に決着は付くのか。

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