仮面ライダージオウ~Crossover Stories~ 作:壱肆陸
今回はVS令央……の予定だったんですけどね……
本当は今回で決着させたかったんですが、長くなりすぎたので分割します。
気が向いたら「ここすき」もよろしくお願いします!
魔法少女は有史以前から存在している。
地球外生命『インキュベーター』が人間の雌個体に接触し、超常的な力を授けることで歴史は作られてきた。
古代エジプトにも、フランス百年戦争にも、弥生時代の日本にも、偉大な歴史の多くに魔法少女がいた。
人にとっては余りに永く、悪魔にとっては余りに短いその時間の中で、とある大きな因果を抱えた1人の魔法少女が願った。
『永遠の命が欲しい』と。
魔女化による感情エネルギー回収を目的とした魔法少女システムとは相反する願い。だからその祈りは奇妙な形で成就した。
「ユグドラシルが燃えてから暫くだけど、そろそろ壊れるか。岳晴もやっぱ死んだかな。どっちにしても、もう今回は無理かなー」
誰よりも早く異変を察して避難し、雲隠れを貫いていた少女は、ひたすら無感情に現状を吐き連ねる。
ユグドラシル・コーポレーションの特別技術顧問、葦那しきみ。
戦の時代の魔法少女が、魔法の力で築いた『戦極一族』。その末裔が彼女だ。
戦極の祖が願った『永遠』は、受け継がれる形で成立した。彼女の血を継ぐ子が彼女の因果を受け継ぎ、魔法少女となる。それを何代も繰り返した。
これは絶対的な呪いだった。
戦極の娘は必ず魔法少女となり、子を産み、魔女となって死んだ。
故に戦極の一族はその解呪に没頭した。魔法少女を研究し尽くし、インキュベーターを人間と切り離す手段を模索した。
「そして見つけた。『黄金の果実』という、宇宙の真理をも書き換える力。私の代で呪いに終わりに……なーんて、思ったことも無いんだけど」
しきみにとって、そんな事はどうでもよかった。
彼女はただ魔法で全てを掌握したかった。
黄金の果実を手に入れ、宇宙さえも自在に支配したかった。
盤上に広げられた、ヒビの入った無数の人形の『駒』。
彼女の魔法は『支配』。舞茂を覆う領域を常に広げ、その中の人間、および彼らと因果で繋がった外部の人間の思考や運命を誘導することができる。
「魔法少女を閉じ込めて、魔法で民衆をバカにして、インベスゲームやって、楽しかったけどもういいや。全部やり直そ」
しきみはチェス盤を蹴り飛ばし、散らばった駒を踏みつけてラボの奥へと進む。
そこにあったのは、巨大な部屋を埋め尽くす、濁りを溜め込んだ無数のタンク。
先祖代々の宿命なんてどうでもいい。
一族の魔法少女が子を成し続けたのも、自分だけが不幸なのが許せなかったからだ。そんな短絡的なバカよりももっと、好きなように、死ぬまで世界を乱してやる。
「それがキューブで回収した魔法少女の『穢れ』か。この私に手を煩わせたな、小賢しい贋作が」
「キミが混沌の源か。ようこそ、私のラボに。歓迎するよ」
タンクの奥から現れた令央を見て、しきみは軽々しい笑みを浮かべて細い両腕を広げた。
「理解していないのか。私が来たということの意味を」
「いやいや困ってるよ。ゲネシスドライバーは10メートル先、背を向けた瞬間にキミは私の背骨を砕けるだろう? つまり避けようのない死だ。もう少し遊びたかったけど」
「恐怖は無いと言いたいのか」
「だって歴史が消えるんでしょ? 魔法で彼らの話は聞いてる。この世界線は必ず消滅し、私の死はもはや意味を持たない。私は変わった世界で変わらず好きにやるだけさ」
ルールの上で足掻く壮間や燈理を嘲り、しきみは指先を自分の脳天に指した。
「じゃあね」
その瞬間、仕掛けが作動して銃弾がしきみを撃ち抜いた───
「死を恐れない、全てを理解した狂人。超越者か。
抜かすな贋作。そんな高尚なものに成れたつもりか?」
「……は?」
自決用の弾丸は、空中で速度を失って粉々に砕けていた。
令央はその距離を少しずつ、溶かすように、しきみへと近付いていく。そして、その目に何も映さなくなった彼女の顔を掴み、翡翠の瞳孔で覗き込んだ。
「己が住む世界を全知しただけのゴミが、そんな浅瀬で溺死するなど片腹痛い。貴様には教えてやる、本当の狂気の作り方をな」
令央の指先から、記憶が流れ込む。
誰かが見た歴史。物語。真実。
無数の物語を辿って行き着く、始点の一つ。
『その通りだ。イレギュラーな事態ではあるが、まだプロジェクト全体から見れば許容の範囲内だ。ここは暫く様子見ではどうかな、貴虎』
この男は、誰だ?
『私は戦極凌馬。君達が使った戦極ドライバーの、設計者だ』
『戦闘には慣れていなくてね……加減を間違えてしまった。お願いだ、もう一度だけ変身して』
『君は───私の理解者ではなかった』
『ハッハッハ、すまないね湊君。まぁ、後は任せた』
『いいねー熱い友情。実に感動的だ』
『私の才能が! 研究が! 唯一価値あるものなんだ。この世界の真理なんだ!』
『いずれ貴様は破滅する……それが貴様の、運……命……』
「あああああああああああああああああッッ!!」
慟哭などでは掻き消せない真理。
拒めない理解が、葦那しきみを殺す。
「違うッ! 違う違う違う違う違う! そんなわけがない私はそうじゃない、私はそんなものじゃない! 操るのは私なんだ私は私の意思で生きたんだ……描くのは私なんだ! 私の描く脚本こそが、この世界の真理───あああああああああああ!!」
手を伸ばした先の、グリーフシードが一斉に砕け散った。絶望が、ソウルジェムの穢れが止められない。
「そうだ『贋作』。世界を壊す舞台装置となって、消えろ」
魔法少女の穢れを溜め込んだタンク。
時が来たら破壊し、魔法少女に逆流させ、同時に無数の魔女を生み出して対ヘルヘイムの戦力にする計画だったその膨大な量の穢れは、しきみのソウルジェムへと収束していく。
「人間は考える葦である。そう、誰もが
毒草は己の毒に蝕まれ、身体に滅裂な物語を刻み続ける老いた世界樹───『ト書きの魔女』となって、再誕した。
この絶対的な恐怖を以て、贋作の物語は潰える。
そのはずだったのに、到底受け入れ難い光景が、そこに作り出されてしまった。
「ここからは、俺たちのステージだ!!」
───現在。
アーマードライダーとその仲間、そして魔法少女が集結し、世界の終わりに抗わんとしている。
その起点となったのは、何の力も無かったはずの、介入者の少年。
「日寺……壮間……ッ!」
不愉快で脳が軋む。選ばれた理由も無い、依怙贔屓だけで都合よく用意された典型的な贋作が、どんなに手を尽くしても眼前から消えない。
「自分が物語を創る側であると、勘違いした贋作がこの街にはいた。私が殺し、物言わぬ破滅となったアレの事だ。貴様も同じだジオウの贋作」
令央───アナザーブレイドが指差す魔女の姿。
正義という名の無数の敵意に囲まれ、アナザー鎧武はあらゆる『私』を滅して考える。
「運命の奔流に抗うには、まだ……力が……!」
アナザー鎧武がアナザーブレイドの影でクラックを開き、その中へ飛び込んだ。
この期に及んで逃走に意味は無い。考えられる意図はただ一つ。
「喰らいに行ったか。勝手な真似を……もういい。全員形も残さず磨り潰してから、あの男も解体だ。お前たちに物語は、与えない」
これだけ戦力がいるのに、誰もアナザーブレイドに手を出せない。ただ武器を下ろして話しているだけなのに微塵も隙がなく、触れようと考えるだけで死の予感に突き刺される。
それを理解する彼は、己から切り離した『力』を、不用意で無造作に地に落とした。
「ウォッチの融合には強力な素体が必要だ。だが、『歴史』を内包するウォッチは、それそのものが確固たる肉体と成り得る」
令央が落とした2つのウォッチ、『龍騎』と『アギト』に、更に多数のライドウォッチが吸い込まれていく。物語が骨となり肉となり、それを覆う混沌の鎧と仮面。
《アギト》《ゼロノス》《威吹鬼》《メテオ》《エボル》《チェイサー》
《龍騎》《アクセル》《カイザ》《G3》《デューク》《G電王》
「ゴミ掃除には、少し上等すぎるがな」
光輪を背負い鉄の血管を持つ巨大な金色の天使は、数多の惑星が成す星雲の中心に揺蕩う。その手に携える巨斧は、傲慢なる断罪の意思。
もう一方は人型大の肉体をした騎士。しかし限界を超えた質量の兵器をその身に搭載したその姿は、まさに人類が築いてきた業と殺意の化身。
「キメラアナザー。しかも2体か」
苦々しくゲイツが吐き捨てる。
2015年で圧倒的な力を見せつけた反則級の怪人2体分に加えて、アナザーブレイド。乱戦は論外の愚策だ。どう戦力を振り分けるか、壮間に迷いは無い。
「浮かんでいる方、行ける人全員でアレを討ってください」
「はぁ!? どんな分け方だよ、普通3等分だろそこは」
「断る。雑兵の処理は下々の務めだ、討ち取るべきは王の首ただ一つ」
「俺も引っ込めねぇな、アイツにやられっぱなしでよ!」
龍玄が反発する中、鎧武とバロンがアナザーブレイドに武器を向けた。一方で斬月の複眼が見るのは、騎士のキメラアナザーの、蒼い装甲とマント。
「……逸月さん」
そんな斬月に、龍玄が何かを短く伝えた。
突き付けられたその言葉を一息で飲み込み、斬月は眦を決する。
「お前の相手は私だ」
「私もご一緒させてもらえるかしら? 一緒に森を生き抜いた仲、ですものね」
皮肉めいた口調で、マミが斬月の隣に立つ。
「えーマミさん! せっかく戻ってきたのに助けてくれないの!?」
「ま、いいだろ。あたしらはありがたく楽な相手を享受しようぜ。それともマミがいないと不安か?」
「はぁ!? あんなやつ、あんたと一緒でも余裕でぶっ倒してやるんだから!」
斬月とマミの2人だけが騎士のキメラアナザーに相対し、自然と戦力は分けられた。それを見て満足そうに、ジオウはゲイツと目を合わせる。
「これも読み通りか」
「いや。でもこれが最適だ。そうなる確信だけはあった」
「それなら俺も従わんぞ。あの芸術家気取りは、この手で殺し返さないと気が済まん」
勝利条件はここで令央を倒し、アナザー鎧武に追いつくこと。
鎧武とジオウの横に並ぶ、バロンとゲイツ。
条件は揃った。あとはその夢想を、必然の奇跡を以て実現するだけだ。
「やるぞミカド。俺たちで、今度こそ! 令央を倒す!」
「やかましい、当然だ」
──────────
龍玄、さやか、杏子、そして香奈の演説で駆けつけたアーマードライダーと魔法少女たちが、天使のキメラアナザーを視線を集わせる。
「いやいや、やっぱり大きすぎない!?」
各々が各々の呼吸で攻撃を仕掛けるが、あまりの巨体に叩いている気すら起きないほどだった。
「こりゃもう正真正銘の怪物だね。というか、この不気味で嫌な感じは……あたしらお馴染みの『魔女』だ」
杏子がそう称したように、この神々しい異質さはまさに魔の存在。仮面ライダーアギトの力を核に産まれた『ウィッチ・キメラアナザー』が、その巨大な斧を振り上げる。
それと同時に、2本の角が展開し6本となり、帯びる濁った青の輝きを強めた。明らかな攻撃意思に、全ての戦士が回避姿勢を取る。
それは、まるで日が落ちるように。
生と死、有と無の境界を跨ぐ一撃。振り下ろされた斧が空間を圧縮し、周囲一帯を文字通り消し飛ばした。
「バカみたいな威力だね。あんなの食らったら、髪の毛一本残さずお陀仏だ。そこんとこどう思うよブドウのアンタ」
「あんなノロい攻撃食らうマヌケがどこにいるんだよ。どっかのバカ女なら分かんないけど」
「食らうわけないでしょ!? アイツ、無駄にデカいけど遅いし、動きも隙だらけ。いつもの魔女のほうがよっぽど手強いよ。そんなのに、あたしは負けない!」
「だからって突っ込むなよ……そういう所がバカだって言ったんだ!」
さやかの言う通り、さっきの一撃を放ったら角は元に戻り、斧も微かに赤く輝くのみで力を感じない。
ウィッチキメラは動かない。いや、動けないと見て間違いない。次の一撃に、力を溜め込んでいるのだ。
「あたし、迷ってた。どいつも自分のことしか考えないこの街で、誰のために戦えばいいんだって。でも、香奈さんが教えてくれた!」
香奈は言った。この戦いは歴史には残らない。
でも、必ず来る最悪の未来を変えるための戦いだと。
「だからもう迷わない! あたしは、その未来のために戦う!」
さやかの剣と、他の魔法少女たちの攻撃が、ウィッチキメラへと届こうとした。その瞬間を、魔女は待っていた。
ウィッチキメラは動かないまま牙の生えた口を開き、ラッパの音のような爆音を響かせた。
思わず顔を歪め、叫びたくなるような不協和音。平衡感覚が狂い、色調が反転する。だが、その貫く意志だけは変わらないと、さやかは剣を突き出した。
しかし、違った。その意志こそが、ウィッチキメラの獲物だったのだ。
「───あれ?」
力ってどう入れるんだっけ。
剣ってどう振るんだっけ。
『いつも本当にありがとう。さやかはレアなCDを見つける天才だね』
『この人の演奏は本当にすごいんだ。さやかも聞いてみる?』
確か、大切な人がいて、
その人は、絶対に治らない怪我をしてて、それで
誰だっけ。顔が、名前が、思い出せない。
「さやか!」
弾丸となった惑星がさやかに迫ったその時、寸前で杏子の鎖槍が彼女の体を巻き取って退避させた。
「くそっ、何が起こった!? 今の音を聞いたら……何か、大事なもんが燃えて消えたみたいな……!」
杏子は距離があったからまだ影響が薄いのだろう。しかし、攻撃を仕掛けていた魔法少女たちは皆が呆然とし、まともに動けなくなっていた。
彼女らが気付く余地も無い。
戦うたび自身の存在───記憶を代償とする『ゼロノス』の特性を、『威吹鬼』の音波に乗せて強制的に付与したのだ。
消えるのは人との繋がり、その証明。
「おい、さやか! しっかりしろ、さやか───って……誰だよ、こいつ……」
すなわち、他者にとっての自分の存在も、燃えて消える。
「いや……なんで、やめて! みんな嫌い! なんでいつもこうなの!? レナなんて大嫌い!」
「なに……? ここどこ、怖い……! ごめんなさい、助けて……助けて!」
互いに互いの記憶が消え、支え合う存在を失った。
寄り添いあって、後付けで作られた戦う意志が焼失し、願うことしかできなかった弱い『少女』だけが残った。
ウィッチキメラの斧が、再び青緑の光で満ちた。
しかし今度はさっきと訳が違う。あの一撃を避けられる『戦士』でない者が多数を占め、そのまま犠牲者となる。
「……ムカつくな、あぁ無性に腹が立つ。中途半端な真似しやがって」
《ハイーッ!》
《ブドウスカッシュ!》
混濁とした魔女の銀河の中で、一切の精細を欠かない集中砲火が、ウィッチキメラの体勢を崩した。
龍玄はあの音を聞いてなお、変わらずその目に殺意と嫌悪を宿す。
「女どもの事なんてどうでもいいし、僕は誰にも依存しない。僕は『勇深』だ。『戦極』を思い出させるくらいなら、綺麗さっぱり消してくれ」
勇深辰明の人生は、『嫌い』で始まった。
バカが嫌いだ。魔法少女が嫌いだ。女が嫌いだ。一族の奴らが嫌いだ。怪物になってしまったアイツが、殺したいほど嫌いだ。
縋る記憶など無い。敵に牙を剥く理由は微塵も揺るがない。
「消える記憶は、深い部分から順なのか。直近のことは覚えてる。なるほどバカにしてくれちゃって、大勢で叩けってのはそういうことかよ」
持ち直そうとするウィッチキメラの体を、三方向からの追撃が削り取った。
「なんだかよく分かんねぇけど、やったんぞオラァ!」
「女の子が見てるのに、今さらイモ引けっかよおおお! 喰らえイケメンアタック!!」
「ビジネスチャンスは嗅覚で掴むもの。刈り取るわよ、金のなる首を!」
黒影、グリドン、ブラーボが、記憶の混濁を突破してウィッチキメラへと食らいついたのだ。
アーマードライダーは、確固たる意志なく戦う若者だ。ただ刹那を生き、己の人生のみを背負う将に、過去など必要ない。
「とにかく魔女は、オレがぶっ潰す!!」
巨大なハンマーを持った魔法少女が、100%の全力でキメラアナザーの身体の一部を叩き割った。
彼女───深月フェリシアの魔法は『忘却』。同質故に、記憶消去を跳ね除けたのだ。
「立てる? ももこ」
「……助かったよ、やちよさん。ていうか来てたんだね、舞茂」
「時間が書き変わるんでしょ、言い合いはその時にして。それより分かってるわよね。お節介があなたの性分でしょう?」
7年の戦闘経験を持つ魔法少女、七海やちよは、ウィッチキメラの音波を喰らう前に耳を塞いだ。
その咄嗟の指示に反応し攻撃の回避に成功したのは、かつてのチームメイト、十咎ももこ。
神の天罰が如き、理不尽な一手だった。
しかしまだ途絶えていない。例え一つになっていなくても、星々はまだ燃え尽きていない。
「……あんたの名前も、どんな話をしたのかも、全然思い出せないけどさ。解るよ。あんたはあたしと真逆のタイプだ」
かつて願った恋慕を忘れた。
ただ痛みと恐怖だけが残り、ソウルジェムを濁らせるさやかに、杏子は語りかけた。
「他人のために戦ってたんだろ、だから立ち上がれないんだ。あんたとあたしが知り合いだったなら……仲は良くなかっただろうね。殺し合ったりも、したのかもな」
想像するだけでイライラする。正義感が強くて、それを他人にも押しつけて、そのくせいつも余裕が無い。
真っ直ぐで融通の効かない彼女は、屈折した現実に耐えられなくて、魔法少女として長くは生きられない。
そんな光景が、嫌にリアルに浮かんできた。
「でもさ、多分あたしは……あんたのこと、嫌いじゃなかったよ」
さやかに飛来するキメラウィッチの流星弾を、杏子が身を挺して叩き落した。傷付く杏子を、さやかはその目に映す。
「今生きてるあたしらは、ここで消える。そうさ、だから! 今ここで一番正しいのはあんたなんだ! 報いもなけりゃ未来もねぇ! それでも戦えるんだろ、他人のために!」
正しいと思いたかった。
愛を欲しがった自分じゃなくて、無償の愛を捧げた自分でありたかった。
恋が自分の中から奪われて、この先には何が待っていたのだろう。声も出せず沈んでいく、無音の深海で
「戦え! 美樹さやか!」
杏子の声が、さやかを水面へと引っ張り上げた。
「───あんたに、言われなくたって!!」
飛沫が弾ける。錬成された無数の剣を足場に空を駆け、目にも留まらぬ光がウィッチキメラの喉を斬り裂いた。
再びウィッチキメラの青い輝きが霧散し、赤に戻った。
「ってあれ? あたし何してたんだっけ……あたたたた、頭がなんかキーンってなる!?」
「喉を潰したから音が消えたのか。まだボーっとして気持ち悪ぃ……なんか、夢の中でガラにもないこと言った気がする」
「あたしも変な夢見てたのかな……でも、あんたが助けてくれて、目が覚めた」
胸の中が晴れやかで、悩むことなど一つもない。
未来の平和を守るために全身全力ぶつけるのみ。
「ありがとね、杏子」
「な、なんだよ……あーもう! 夢でもするもんじゃないね、人助けなんか!」
しかし、ウィッチキメラは倒れない。
またしても斧を掲げて力を溜め始めた。それと同時に、その様相が一変する。
ウィッチキメラが無数の腕を伸ばして広げ、周囲の惑星が重力波を放ちながら高速公転を始めた。
ここからが、真の戦いだ。
「顔を上げろ! 立ち上がれ魔法少女! 未来をアタシたちの手で奪い返すんだ!」
大地に剣を突き立て威風を示す。十咎ももこの声が戦場に響き渡った。
錯乱の怪音波を塗り替えた彼女の言葉、それは『激励』の魔法。記憶が戻りかけ、意識が浮いていた魔法少女たちを一斉に目覚めさせた。
「やるわよ、かえで!」
「わっ、レナちゃん急に元気……本当、レナちゃんってチョロいよね」
「うるさい! 余計なこと言わないの!」
2人の魔法少女、水波レナと秋野かえでが手を取り合う。その瞬間、発生する魔力の接続。
『コネクト』。2つの魔力とその性質を共鳴させ、一つにして放たれる魔法少女の奥義───いわば合体技。
反射を重ね無限に並んだ鏡から、鏡像の刺突がウィッチキメラへと降り注ぐ。それは数の力で惑星の防御を突破した。
そして、刺した傷跡に根を張って生命を奪い、呪いの樹木が幹を伸ばして葉を茂らせる。それは致命傷には届かないが、闘志の呼び水となるには十分な先制攻撃となった。
「……全く単純な奴らだよ。場の空気に流されて、あんなバケモノにも突っ込んでいく」
一歩引いたところで、龍玄は呟いた。
次々と魔法少女が奮起し、アーマードライダーと共に巨大な悪夢に刃を立てる。まるで絵に描いた逆転劇だ。
「少人数なら初見殺しで全滅濃厚だった。誰か飛び抜けたリーダーが落ちても同じだ。とんだ名監督だな」
だが、以前は寒気すら感じた壮間の予測が、今では純粋に頼もしい。
どんな未知なる攻撃が来ようと、誰かが適応し、周りを引っ張り上げるという予測。壮間が向けてきたのは前とは違う、紛れもない「期待」と「信頼」だ。
信頼は辰明の嫌いな言葉だ。
でも期待は少しだけ理解できる。辰明が燈理に抱いているのがきっとそれだ。
あの人の進む先を見たい。他のものなどどうでもいいと思えるほどの、空想めいた光。
「王の器……か、彼も。煽られてやるよ、今世だけね」
少年少女の奮闘も一歩届かず、ウィッチキメラを穿てない。その猛攻を凌ぎ、大地を割る斧の一撃を躱して、戦士たちは息をついた。
その現状にわざとらしく溜息を吐いた龍玄が、肩で息をするさやかと杏子に言葉を投げる。
「おい、黙って見てたら何ダラダラやってんだ、死にたいの?」
「辰明……!? あたしたちだって必死にやってんでしょ!? あんたこそ何やってんのよ!」
「見てたって言ってるだろ、話聞けよ」
「はぁ!?」
「まぁ落ち着けってさやか。なぁ兄ちゃん。そこまで人をバカにできるんだ、見てるだけのバカなわけないよな?」
杏子の挑発に舌打ちし、龍玄はウィッチキメラの斧を指す。
「斧の攻撃、次に溜め時間───この間、動かない代わりに厄介な能力を使ってくる。これの繰り返しなわけだけど、サイクルの度に強化してる」
それを証明するように、ウィッチキメラの身体から召喚される蛇龍と牛鬼の使い魔。
アギトの『際限のない進化』。それが斧の一撃をスイッチに、新たなフェーズとして発現しているのだ。
「ま、薄々勘づいてはいたけどさ……このままじゃ全滅かよ畜生……!」
「でも、だからって……皆が本気でやって攻めきれないってのに!」
「これだからバカは嫌いだ。本気は常に出すもんだと思ってる」
龍玄が前に出た。その手に掴むのは、インベスゲーム最上位のロックシード。
《スイカ!》
《ハイーッ!》
《スイカアームズ!》
《大玉・ビッグバン!》
全員の目を引く巨大なスイカが龍玄と一体化し、変形。その姿を空を舞う機構武者と成す。
「使い所ってものがあるんだよ、何事にもね」
召喚された使い魔を、その能力が発動される前にスイカアームズの火力が叩き落とした。
このフェーズが分水嶺だ。これ以上何かさせれば、戦況は一気に崩れると直感した。だから龍玄は一気に本体へ迫らんとした。
『スイカ双刃刀』を振り回し、障害を叩き斬る。
しかし、無秩序な規則で動く惑星が空間を歪め、予測しない方向に衝撃を放つ。想定以上に進めない。
極大の質量を持つ木星が龍玄に向けられ、その引力は回避を許さない。
その時、龍玄に背後から降り注いだハルバードの雨が、木星を消滅させた。
「勝算があるんでしょう!? 進んで!」
魔法少女、七海やちよの援護射撃。
それに呼応したのか、単なる偶然か。戦士たちの全霊が次々と飛来する。
《ドリアンスカッシュ!》
《ドングリオーレ!》
《マツボックリスカッシュ!》
アーマードライダーが、魔法少女が、ウィッチキメラの力を散らし龍玄の道を切り拓く。そして遂に辿り着いた。二本角を備えし黄金の魔女の兜、その頭上に。
それを待っていたと、神秘の悪意が微笑む。
ウィッチキメラが口を開いた。この至近距離から繰り出されるのは、再生した喉から放つ、記憶消去の爆音波───
「だろうね」
《スイカスパーキング!》
揺れない声ですかさずカッティングブレードを3度倒す。龍玄はスイカアームズから分離し、大玉モードとなったスイカをウィッチキメラの頭部に覆い被せた。
爆音がスイカの中で反響し、完結する。
自身の音で完全に静止したウィッチキメラを見上げながら、落下する龍玄は言葉を落とす。
「僕はバカな女が……魔法少女が嫌いだ。でも、お前らの『怖さ』を侮ったことなんか一度も無い」
彼女たちは目敏く、小賢しく、都合よく、必ずこの好機を掴む。龍玄が身を挺して開けた、ウィッチキメラに直通する風穴を決して見逃さない。
「こういうの好きだろ!? ぶっ殺せ!!!」
杏子とさやかが、龍玄の後を追って飛び出していた。
2人が互いの手を握り、魔力が共鳴───『コネクト』が発動する。
「合わせろよな、さやか!」
「杏子こそ!」
赤と青が一つとなり、燃えるような音色を奏で、剣と槍を束ねて構築されたのは、天高く伸びる一本の刃。
全ての想いを乗せて、この時間に残すものなど何一つ無いんだと叫ぶように。杏子とさやかは結んだ手を振り下ろし、魔女を被ったスイカごと叩き斬る。
「「いっけええええええええっ!!!」」
空から地を繋げる一筋の光。
ウィッチキメラの正中線から光が差し込む。
分かたれた両半身は断末魔の代わりに爆風を吐き出し、6つのウォッチと塵だけを残し、この世から消え去った。
「勝った……けど、この人数でギリギリかよ。世界の終わりも加減しろってんだ」
杏子の言う通り、これは奇跡的な辛勝だ。
さやかと辰明はこれと同格の怪物に向かっていった2人の姿を思い浮かべるが、すぐにそんな心配は笑い声と共に散っていった。
「マミさんなら大丈夫でしょ!」
「ま、逸月さんだしな……」
───────────
その騎士が剣を振るうと、大地と大気が破壊された。
ガトリングにグレネードランチャー、あらゆる重火器をも備えた肉体は、もはや戦車や戦艦───一国の武力にも匹敵する。
巴マミと斬月が相手取るのは、そんな怪物だった。
「まだ動けるか、巴マミ」
「えぇ。でも欲を言えば、少し休みたかったかしら。あの森での生活は、快適だったとは言えませんもの」
「若い女子学生に無理はさせたくない。私の後ろに下がっていろ」
「逸月さんこそ、お疲れのように見えますけど?」
目視できない振動を帯びた剣戟は、いかなる防御も貫いてダメージを生む。斬月の『メロンディフェンダー』では防げないため、必死にいなすしかない。
「硬い鎧に銃と電撃、炎、それに高度な知能まで……なんでもアリね」
「まさに力の化身。身体に見合わぬ過積載の力、人智を遥かに超えた存在。我々の研究に重ねるのなら、コイツも『オーバーロード』と呼ぶべきか」
人類の力を一笑に付す超常の武力。
オーバーロード・キメラアナザー。
「そして、そのテクノロジーを束ね、底上げしているのが」
他のアーマードライダーを凌駕するようあらゆる技術の粋を搭載し、それを自在にコントロールできるように設計された、管理者仕様のライダーシステム。
アーマードライダー『デューク』。葦那しきみが使うはずだった力が、オーバーロードキメラには組み込まれている。
さっき、辰明が言った。
『あの魔女は恐らく、葦那しきみです』
斬月が見上げる『ト書きの魔女』。
あれは紛れもなく、彼女だと分かる。
命に代えても守ると誓った彼女は、もういない。
その力がここにある事実の意味など、考察するまでもない。
「逸月さん!」
一瞬、怒りで判断が鈍ったところをマミの銃撃がフォローする。
「すまない」
「どういたしまして。こんな時に悩み事なんて、もっと冷酷な人かと思ってました。私たちを利用していた、あなたは」
「そうだな……後悔する権利など、私には無い」
マミはあの日、タワーでユグドラシルの陰謀を覗き見た。だから森の中で岳晴は、魔法少女を計画に利用した事実を認めた。
歳に似合わない冷静な仮面が、その瞬間に剥がれたのを見て、岳晴は彼女も『少女』なのだと認識した。
きっと彼女は、魔女の真実を知るだけでも壊れてしまう。そんな繊細な女の子が、己の身体で戦わなければいけないという、異常な現実。
こんな怪物との戦いの中でも軽口を叩けるようになるまで、彼女はどれだけのものを積み重ね、時に捨ててきたのだろう。
「私は魔法少女を知った時、絶望したよ。社会がくだらない大人の餌場と化している中で、幼い少女が命を賭けて人々を守っている。己の情けなさに、絶望した」
「それならどうして、魔法少女を利用したんですか? この街に呼び寄せて、人の心を操ってまで、どうして!?」
「迫りくる世界の終わりに、屈したんだ。だからその余りに小さな背中に縋ってしまった」
せめて、その現実を知らぬようにと。
優しさを装って搾取を繰り返し、罪を背負うのは自分だと言い訳で身を守った。
その結果が、今だ。これはきっと避けられなかった滅び。愚かな大人に与えられた罰なのだ。
「……話す余裕が無くなってきたな」
オーバーロードキメラが作動する。一歩毎に爆発的に加速し、視認できない速度に達した鋼の塊が無差別に破壊をばら撒く。
斬月は無双セイバーと盾で、マミはリボンを使った移動と銃身の防御で、その猛攻をなんとか凌いでいた。しかし、その破壊は境界線を知らない。
飛び交う斬撃は領土を超え、ロックシードのインベスで敵性インベスや使い魔と戦う、生身のプレイヤーにまで届こうとしていた。
「───やらせるものか」
メロンディフェンダーはもう瓦礫同然だ。だが、斬月の一歩に迷いはない。人々の前に立ち、盾となることを微塵も厭わない。
自分の命で他者を救えるのなら、余りに安い対価だ。
「贖罪のつもりか知りませんけど、勝手に死にに行かないでもらえます?」
オーバーロードキメラの暴走が、斬月の目の前で止まった。その体に巻きついた黄色のリボンが、何が起こったのかを物語る。
マミは避けながら空間にリボンを張り巡らせていたのだ。暴れ回るオーバーロードキメラの速度を利用し、その動きを封じるために。
「そうだな。また悪い癖が出た。隣にいる君を、見ていなかった」
ユグドラシルタワーで怒鳴られ、そして演説で背中を叩かれた。あの、片平香奈という少女に。
犯した過ちは数え切れない。でも、一番大きな過ちは、人を信じず、利用する立場に甘んじたことだ。
共に戦ってくれと、手を差し出せなかったことだ。
「……『彼ら』は今どの辺りにいる」
「多分、折り返したみたいです。到着までもう暫くといったところですね」
「承知した。巴マミ、今までの全てを棚に上げて頼もう。こいつを討つまで、私の命を預かってくれ」
マミが目を丸くして斬月を見る。仮面で表情は見えないが、きっと彼は恥じることもなく真剣な表情をしているのだろう。
「ふふ」とマミは笑い、マスケット銃を片手に構える。そして、膝をついた斬月に手を伸ばした。
皆を騙し、利用したことは許せない。
でも、その不器用すぎる正義だけは、やはりどうしても嫌いになれなかった。
「本当は私も、逸月さんと同じなんです。喧嘩別れしてしまった友人も、最近できた後輩も……私が面倒見てあげなきゃいけないのに、一方的に縋ってたのは私の方」
「君たちはまだ子供だ。過ぎた重荷は、本当なら大人が背負うべきだった」
「それができたのなら、きっと……なんて言っても無駄でしょうけど、今だけは甘えてみようかしら。頼れる大人、なんですよね?」
斬月がマミの手を取り、立ち上がる。
オーバーロードキメラがリボンの拘束を破って再起動した。もう一度あの殲滅が来る。
「すまない、借りるぞ」
一般プレイヤーが持っていたロックシードをいくつか借り、斬月は使い物にならない盾を投げつけた。
《マンゴーアームズ!》
《ファイト・オブ・ハンマー!》
盾が作り出した影に隠れ、マンゴーアームズに換装した斬月が深黄のメイス『マンゴパニッシャー』を叩きつけた。
高速で炸裂した超重量級の一撃に、鉄壁の装甲も僅かに歪む。
「ティロ・ボレー!」
オーバーロードキメラの死角に飛び込んだマミが、体勢を崩しながらも帽子から出した銃で、すかさず4連射。
それを予測演算で躱すオーバーロードキメラだが、それは先ほどまでの巴マミを想定した計算だ。
避けた先、そこに置かれていたのは予測外の弾丸。
意識の範囲外の遠方から、時間差で放った銃撃が着弾する。それも2発、3発と、オーバーロードキメラが動く先に必ず弾丸が現れる。
「ティロ・カティナ!」
空間に存在する無数の銃は、位置や距離、出現と射撃のタイミングもバラバラ。計算された不規則が人工の思考回路を翻弄する。
そして、重荷を他人に委ねて身軽になったのは、マミだけじゃない。
《マンゴースパーキング!》
弾丸の雨の中をすり抜けて、斬月が本命の一撃をオーバーロードキメラへと喰らわせた。
しかし、崩れた体勢からオーバーロードキメラは剣を振るう。その即死級の反撃を、マミのリボンが作り出したバリアが阻んだ。
数秒の拮抗の後、崩壊するバリア。その数秒でさらに一歩懐に入った斬月が、刃を肩アーマーで受け、傾いた姿勢でもう一撃を叩き込む。
《キウイアームズ!》
《激・輪!セイ・ヤッ・ハッ!》
弾けたアーマーを即座に交換し、『キウイ激輪』を両手に今度は回転を主体にした斬撃の嵐を繰り出した。
あらゆる装備で最大スペックを引き出す斬月を、万能にまで磨き上げられた魔法でマミが補助する。
恐らくこの時代で最も完成された2人が織り成す、二騎当万の連携。その完璧な布陣を、6人分の戦いの歴史が打ち滅ぼす。
「アレは……?」
『デューク』の機能で投影され、『G電王』の人工イマジンが思考を再現し、適正を問わない『カイザ』の力で強化された機構傀儡。
それが動き出した瞬間、斬月は悟った。
この兵士は自分の鏡像なのだと。
「大雑把な兵器かと思えば、存外器用な真似をするやつだ」
斬月とマミが強制的に引き剥がされた。
その隙を埋めようと、整列させた無限の銃で一斉照射したマミ。しかし、敵はその選択を待ち構えていた。
薄い鏡の盾が放たれた弾丸を吸い込んでいく。
それらは『ミラーワールド』を通り、反転した軌道でマミへと撃ち返された。
「もう、どこまで能力の引き出しがあるの!?」
反射された魔弾を躱すことを強いられ、攻めの精彩を著しく欠いてしまう。
能力に突くべき欠点が無い斬月。
高火力の直接攻撃を持たないマミ。
分断された上で最適解を押し付けられ、戦況は硬直し、無法の破壊を受け入れる条件が整ってしまった。
この2人が事前に手を打っていなければ。
「……来たか」
「主任! お待たせしましたぁッ!」
そこに現れたのは、ユグドラシルの隊服を着た男たち───アナザー鎧武に捕らえられていたトルーパー部隊だった。
岳晴と共にさやかに救出された彼らは、マミのリボンを付けた上で岳晴の指示を遂行していた。少し離れた場所にある岳晴の家に行き、回収したソレを、彼らは持ち主へと投げ渡す。
「あの日、偶然自宅に持ち帰っていたのは、全く僥倖としか言えんな。ご苦労だった」
その時、岳晴は久しぶりに部下の目を見て礼を言った事を自覚した。
自分の命令を聞く時、彼はいつもどんな顔をしていたのだろうか。
「それが分かっていれば、お前を止められたのか……恵吾」
結局自分は何も背負えていなかった。
そして背負うべきだった運命は全て、奏多燈理と日寺壮間に託されてしまった。
それでも役目を果たそう。
導くことも救うこともできないとしても、命を賭す少年少女の力になろう。
《メロンエナジー》
変身を解いた岳晴が、マミに投げ渡されたライフルの銃身で鏡像の斬月の刃を受ける。虚をその双眸の中央に捉え、赤いドライバーを腰に巻き付けた。
次世代型変身機構『ゲネシスドライバー』。
この新時代の名を、今こそ捧げる。
《ロックオン》
「変身!」
《ソーダ》
《メロンエナジーアームズ!》
回転しながら降下したメロンが白き外装と一体化し、弾ける果汁と共に新たな戦士を顕現させた。
完成へと熟した甜瓜の弓将。
その名も、仮面ライダー斬月・真。
「斬り捨てて行く。貴様に用は無い」
稲光が瞬き、刹那を裂く。
振るわれた『ソニックアロー』の上弦。鏡像の斬月が、斬月・真の背後で灰となって消滅した。
「逸月さん。私、やってみたいことがあるんです」
「分かった。付き合おう」
鏡の盾が遠距離攻撃を無力化する。その上で、マミと斬月・真は射撃の戦法を貫いた。
オーバーロードキメラが殺意と共に躍動する。剣が地を削ぎ落とし、落雷と火炎が凡百の生命を無へと還す。発射と反射を応酬する弾丸と矢の密度は、もはや塵ほどの領域さえも許容しない。
無尽蔵に傷を創造する戦鬼。
砕かれる世界の中で、かすり傷すら負わない2人。
それは、強者だけが立ち入ることができる舞踏の間。
斬月・真の矢先に並んで囲うように、マミが銃を生成した。銃口が一斉に炎熱を帯び、ソニックアローに装填した『ウォーターメロンロックシード』が暴威を解放する。
「水華千輪───」
「ティロ・アングリア!」
《ウォーターメロンチャージ!》
制御を放棄した狂荒の乱れ玉が、反射された弾と衝突し、数え切れない爆発となる。それは典雅も風流も消し飛ばす、地上に満開した夏の火華。
異次元の撃ち合い。その衝撃にオーバーロードキメラの鏡盾が、最初に力尽きて砕け散った。
「……技名は必要だったか?」
「もちろんです。魔法少女は洋風の雰囲気だけれど、逸月さんは『和』ですもの。漢字を入れたのは大正解ね!」
オーバーロードキメラが全ての動きを止めた。
死ではないのは瞭然。むしろ逆に、未だ溢れんほどに漲る力を全て、一点に集約している。
その一点とは、変形した腕のバリスタ。
『G電王』のバリアが妨害を阻み、『G3』の兵装、『アクセル』の加速力を『デューク』の創世弓が束ね、畜力・増幅する。
斬月・真はゲネシスドライバーのレバーを押し込み、ソニックアローにメロンロックシードを装填。
マミは結んだリボンからただ一本の大砲を生成し、照準を合わせる。
三者の構えは同じだった。
「───しきみ。君がとうに壊れていたことなど知っていた。それでも私は……!」
犠牲者の顔も見ず、部下の憔悴からも目を背けながら、依怙贔屓と分かっていながらも守ると誓った。水を与え続けた花が、毒を湛えるだけだとしても。
《メロンエナジースカッシュ!》
《メロンチャージ!》
「───ティロ・フィナーレ!」
この瞬間、勝負は決した。
3つの矢は射手を離れ、寸分の迷いもなく激突する。
「それでも俺は、歪んだ君を守りたかった」
重なり合った弾丸が滅亡の矢を貫く。
矢の軌道を逆流した弾丸はバリアを抜け、オーバーロードキメラの中心を穿った。
「必ず会いに行く、滅びの無い世界で」
腕を下ろす。膝が崩れる。制御から外れた首が垂れる。
大爆散。
自分が狂わせた部下と少女は、この先にいる。だがこの言葉はもう誰にも必要ない。あそこに向かうべきは、自分じゃない。
「お茶はいかがですか?」
「……いただこう。流石に、少し疲れた」
足元に転がった6つのウォッチを拾う岳晴。
マミが優雅に紅茶のカップを差し出したのを、岳晴は軽くなった腕で受け取った。
ト書きの魔女(Pagliacci)
その性質は老木。何十年、何百年だろうと生き、無限の脚本を綴り続ける魔女。相対したら最期、彼女の脚本に取り込まれて永遠を生きることになるだろう。結界の中で起こることは全て意のままだが、同じ場所に根を張って動くことはなく、外の世界のことは知る由もない。
キメラアナザー2連戦でした。しきみに触れるタイミングなく、雑な扱いになってしまったのが反省点ですね、大事だったのに。
次回もまた来週になると思います。
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