仮面ライダージオウ~Crossover Stories~   作:壱肆陸

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壱肆陸です。
3週連続投稿に成功していますがそろそろ限界が来そう。
VS令央、そしてVS麻沼。今回で決着します。

遂にここまで来れたって感じの回です。

よろしければ「ここすき」もお願いします!


変身!覚悟の鎧武アーマー!

 

「一つ、教えてほしいんだが」

 

 鎧武とバロン、ジオウとゲイツが各々の刃を振り抜く。狙いを澄ませるのはアナザーブレイド。

 

 しかし、刃が交錯することは無い。

 異常発達した体躯から繰り出される剣戟は、向けられた敵意をただ一方的に挫き、平伏させる。

 

「あれだけ苦労して戦力を集め、得意顔で粋がって増やしたのはたった2人の愚図。それで、どうやって、私を倒すつもりだったんだ?」

 

 アナザーブレイドの力は、圧倒的としか言いようがなかった。

 

 スペクターとネクロムを瞬殺し、仮面ライダーゴースト───朝陽を消滅させ、壮間に惨敗を刻み込んだのがこの男、令央だ。

 

 仮面ライダーWがその撃退に成功したが、彼らに比べて燈理と神威の実力はまだ未熟なのは明らかだった。彼らが、そして壮間たちが令央に勝てる道理は、机上には存在しない。

 

「……言いたいことは、それだけだな」

 

 倒れ伏したバロンの頭を踏みつけようとした、その足を体を起こしたバロンの腕が押し返し、舌打ちしたアナザーブレイドに黄色い眼光を向け返した。

 

「好みの死因の話か? 希望なら聞いてやる、断頭台の上でな」

 

 唾棄された程度で穢れる誇りなど捨てた。

 バロンはいくら傷付こうと、どこまでも気高く、頭を上げる。

 

「奏多! いつまで寝てる、仮にも頂点に立つ者が情けない!」

 

「はっは! うるっせぇな、父ちゃんかよお前は! 3秒ルールだよ知らねぇのか!?」

 

「落とした食い物は捨てろ汚らしい!!」

 

 再起した鎧武が無双セイバーと大橙丸を叩き付けた。

 

 アナザーブレイドがカードから行使する『怪人』の力。『カメレオンイマジン』の炎弾は『アルターゾディアーツ』の念動力で操られ、炎の竜巻と化す。

 

 さらに『ロイミュード』の重加速で動きを封じられ、迫る猛熱を待つことを強いられた。

 

「うおおおおおおおっ!」

 

「はぁッ!」

《バナナスカッシュ!》

 

 しかし、重加速を力ずくで突破した2人は逆に炎へと突っ込んでいく。旋回するバナスピアーが炎を巻き取り、その後ろから飛び込んだ鎧武が───

 

《オレンジスパーキング!》

 

「必殺、マキシマムミカンヘドバン!」

 

 オレンジの形状に戻したアームズを頭突きの要領でアナザーブレイドに激突させ、そのまま高速回転。

 

 アナザーブレイドが一歩退き、重加速が解けた。

 

 そこに追い打ちをかけるジオウとゲイツ。

 アナザーブレイドが、ようやく僅かに体勢を崩した。

 

「燈理さん、いつもよりテンション高いですね」

 

「瑠翔がいるとなんかな! な!?」

 

「手を置くな、肩に。再々言うがお前のことは嫌いだ」

 

「俺は大好きだけどな!」

 

 腹の底から嫌そうな息を吐くバロンも、ゲイツには普段と違うように見えた。

 

 相棒、ともまた違うのかもしれない。

 同じ方向は見ない。ぶつかり合うことの方が多い。でも気付けば肩を並べている。そして間違いなく、互いを高め合う関係。

 

 互いの物語に欠くことができない、楔のような存在。

 壮間はミカドと目を合わせ、その真理を確信した。

 

「たった2人じゃないんだよ、令央。俺達には最高の2人だ」

 

 借り物の皮で威張るだけの虫の癖に。

 怒りで令央の喉が震える。それなのに、言葉が出るよりも頭が痛むのは何故だ。

 

 腹の奥から熱い泥が込み上げて、止まらない。

 

 片手で兜を掻き毟る。苦しむ様子とは裏腹に、アナザーブレイドの威圧感は高まっていくばかり。狂気を増す怪物を前に、ジオウは再び誓いを立てる。

 

 彼らが歩んだ瞬間。

 交差し、受け継いだ物語。

 自分たちが重ねてきたもの。

 

 その、全部で。

 

「お前を倒す!!」

「ぶっ殺す」

 

《アーマータイム!》

 

《ダ・ブ・ルー!》

《ウィ・ザード!》

 

 ダブルアーマーに換装したら、もはや呼吸など待たない。神速がアナザーブレイドへと肉迫し、逆手持ちしたジカンギレードで斬りつける。

 

 巨体に叩き込む怒涛の連撃、それは大物喰らいを常とする冒険者の戦い方。

 

「『縛り上げろ───」

 

 ウィザードアーマーを纏ったゲイツが言葉を紡ぎ、一文字ごとに魔力が明確な形を帯びていく。

 

 ミカドが異世界で出会った魔法使いは、『詠唱』を行っていた。それは魔力を練ると同時に効果を組み上げる不可欠な工程で、ミカドもその重要さを体感した。

 

 そして、よくよく記憶を辿ると思い当たったのだ。

 ウィザードのやたらと煩いドライバーの声。

 

 あれが圧縮された『詠唱』だと気付いた時、ミカドはウィザードウォッチを地面に叩きつけた。

 

「───命惜しくば凍てつく定めに服従し、平伏を寄越せ』」

 

 気付いてからも長かった。修練を重ね、学んだ魔導の知識と経験を糧とし、ようやくミカドは『魔法』をものにした。

 

「『バインド』」

 

 魔法陣から錬成された鎖がアナザーブレイドを拘束した。こんなものは数秒と保たないからこそ、ジオウの選択に迷いはない。

 

《響鬼!》

《スレスレシューティング!》

 

 Wアーマーを『ヒートトリガー』へと切り替え、妖気で強化された爆炎の砲撃を零距離で解き放った。

 

 引き千切られた鎖ごと吹き飛ぶアナザーブレイドは、空中で『マンティスオルフェノク』と『ウルフイマジン』を使い、空を裂く鎌を飛ばす。

 

「お粗末な反撃だな」

 

 鎧武とバロンが斬撃を受け止め、軌道を逸らした。その勇ましき走りで、アナザーブレイドとの間合いを踏み荒らす。

 

「『(おれ)の声を聞け風の覇竜。大地を砕く至上なる爪よ、翼を広げ大空を統べる者よ、雷鳴を以てその名を高みに轟かせろ』───『サンダー』!」

 

「サンキュなミカドくん! そぉらよっと!」

 

 そして、ゲイツの雷魔法で建造物の壁面まで追い詰められたアナザーブレイドに、2人は刀と槍の一撃を見舞った。

 

「……今の、違和感は、なんだ?」

 

 うわ言のように、アナザーブレイドが声を漏らす。

 これだけの攻撃を受けてなお、体力は揺るがない。今、彼の脳細胞を掻き回しているのは、ジオウとゲイツの戦法だ。

 

 Wとウィザードからは逸脱した戦い方。

 確かなのは、不快で、腹立たしく、この世から消え去るまで否定し尽くさなければいけないということだけ。

 

「……邪魔だ!!」

 

 アナザーブレイドが背中で触れていた建物が粉々に砕け、叫びの衝撃だけで鎧武とバロンが地を転がった。こんな小物、眼中に無いと言わんばかりに。

 

 だが、見開いた目にジオウとゲイツの姿は映らなかった。知覚を置き去りにする駆動音が、衝撃となってアナザーブレイドの鎧を叩く。

 

《DRIVE!》

《ドライブ!》

 

《MACH!》

《マッハ!》

 

 ゲイツドライブアーマーとジオウマッハアーマーが、ターンと加速を繰り返して、アナザーブレイドへと攻め立てる。

 

「愚かだな! 戦闘力を落としてまで機動力を取るか!? 無駄なんだよ、素人の浅知恵が!」

 

 不意のアナザーブレイドの一撃が地面を砕き、足場が変化した2人の加速が止まった。そこに剣先を突き刺さんとするアナザーブレイドを、

 

 横から迫る小さな車両が吹き飛ばした。

 

「ッ……! シフトカーを分離していたのか!?」

 

 その瞬間、音速のラッシュが火を吹く。

 『シフトスピードスピード』を腕に戻したゲイツも、加速させたブローを叩き込んだ。再びアナザーブレイドが怯んだ好機を、逃さない。

 

《カイガン!》

 

《ゴー・ス・トー!》

《スペク・タ・ー!》

 

「後で返せよ」

「元々俺が貰ったやつだからなコレ」

 

 ジオウが橙色の、ゲイツが青色の幽霊を羽織り、2つの拳が同時に突き刺さった。その魂まで響く打撃で、アナザーブレイドが後退する。

 

「忘れてないよな。これはお前に傷つけられた、朝陽さんの分だ!」

 

 さらに、召喚されたムサシ、ベンケイ、ノブナガゴーストが空から追撃。その幽霊の幻惑に、令央は惑ってしまった。

 

「───アリオスさんと蔵真さんの分!」

 

 気配を殺し、背後を取ったジオウが、ベンケイを憑依させた剣で確かな傷を刻んだ。激昂するアナザーブレイドの反撃を、宙に浮かび、ひらり、ひらりと躱す。

 

「それでこいつは俺の分だ」

 

 そこを地上からゲイツの直接攻撃が刺した。一撃一撃に闘気を込めた、それはまさに死力の拳。

 

《ファイズ!》

《ザックリカッティング!》

 

 ダメ押しとでも言わんばかりに。フォトンブラッドが伝う斧が、スペクターの膂力で叩き込まれ、その時またしてもアナザーブレイドの鎧に傷が入った。

 

 届きつつある。理屈じゃない何かが、許容し難い現実となって令央の視界に滲み出す。

 

「調子に……乗るなよ! 虫がッッ!」

 

 カードが舞う。異形の咆哮が轟く。

 

 『バッファローロード』

 焼滅のプラズマが空を巡る。

 

 『アリゲーターイマジン』

 時空を歪ませるほどの波動が現界する。

 

 『タイガーオルフェノク』

 死をも克服する生命エネルギーが燃え上がる。

 

「消え失せろ」

 

 『パラドキサアンデッド』

 その力を総て、ハートの王の不可視の斬撃に乗せ、放った。

 

「行くぞ瑠翔ぁ!!」

「上等だ、奏多!」

 

《ソイヤ!》

《オレンジスカッシュ!》

 

《カモン!》

《バナナオーレ!》

 

 万物を裂く殺意を肌で感じながら、恐怖など忘れたかのように、鎧武とバロンは前に出た。残された力を振り絞って武器を振るい、鎧だけに命を委ねて。

 

「うおおおおおおおおおッ!」

「はあああああああああっ!」

 

 果実が弾け、燃え尽きた大地の上で(つわもの)達は斃れた。砕けた体で振り向くと、そこには前に進むことを躊躇わない彼らの姿があった。

 

 初めて会った時に感じた、己を脅迫するかのような焦りも、仲間に向けていた迷いと恐怖も、壮間は全て自分の力へと変えてみせたのだ。

 

「そうだ……行け! 壮間!」

 

 間違いながら、変わりながら、

 どんな困難も越えて真っ直ぐ進め。

 

 壮間のプロトウォッチに、オレンジ色の輝きが宿った。

 

「死に損ないが……次こそ消し炭にしてやる! お前達のあるべき姿に還る時だ。何も成せずただ在るだけの、名前の無い死体にな!」

 

「物語は終わらせない! 俺達のあるべき姿は……在りたい姿は! 俺達が決めて、突き進む!」

 

《アーマータイム!》

 

《ベストマッチ!》

《ビ・ル・ドー!》

 

《Wake up burning!》

《クロ・ーズ!》

 

 天才科学者の力を継いだ、生命と文明を宿した叡智の鎧。仮面ライダージオウ ビルドアーマー。

 

 令央から奪還した静かなる猛りの力。目を覚ました蒼き龍の炎。仮面ライダーゲイツ クローズアーマー。

 

「───勝利の法則は決まった!」

 

「今の俺は、負ける気がしない……!」

 

「穢らわしい口を閉じろ! 贋作の分際で!!」

 

 アナザーブレイドが振り抜いた腕が、止められた。

 押し返している。令央の底の無い殺意を、壮間の腹が叫ぶ激情が。

 

「いい加減にしろよ……! 怒ってるのは俺の方だ! 香奈を傷つけたお前を、俺は絶対に許さない!!」

 

《フィニッシュタイム!》

 

「もう貴様の中身の無い罵声は聞き飽きた!」

 

「お前に贋作と吐き捨てられてきた、俺たちが受け継いだ怒りを!! 全部まとめて食らえ!」

 

《ビルド!》

《クローズ!》

 

 弾かれたスペードの剣が宙に逃げ、具現化した放物線が標的を式の中に捕らえた。

 

《ボルテックタイムブレーク!》

《ドラゴニックタイムバースト!》

 

 ジオウとゲイツ、並んだ両雄が線に沿って放つ蹴撃。しかし、その力は計算など超えていく。2人の思いと、ビルドとクローズの力が、無限に共鳴を続ける。

 

「馬鹿な……ッ! 在り得てなるものか、そんな事が……!!」

 

 その時、奇跡が輝きを放った。

 黄金の兎と、白銀の龍が成す、究極の掛け合わせ(ベストマッチ)が吼える。

 

「この、贋作共がアアアアアアッ!!」

 

「「うるせええええええええええええッッ!!」」

 

 アナザーブレイドの僅かな傷が広がっていく。積み上げられた痛み、撃ち込み続けた報いの一矢が───実を結ぶ。

 

 世界が砕けるような衝撃が、アナザーブレイドの体を貫き、舞い散るカードの中で鋼の鎧は大爆炎を吹いて砕け散った。

 

 解放されたアナザーブレイドのウォッチが、爆風に乗ってジオウの手に収まる。

 

「……俺たちの勝ちだ」

 

「馬鹿が。自分に酔って脳が溶けたか!?」

 

《フォーゼェ……》

 

 即座に新たなウォッチを起動した令央が、爆炎の中から這い出てきた。

 

 その呆れ返る執念に、もはや壮間は動じない。

 この道を走る物語は自分だけじゃない。

 

「ウィル」

 

「承知した、我が王よ」

 

 時間停止を相殺し続けていたウィルが、壮間の声で力を解いた。何故なら、もうその必要はどこにもないのだから。

 

 次の瞬間、ジオウの姿が消え、アナザーフォーゼの眼前を爆発が覆った。時計を絡繰る音と同時に、黒髪が風に靡く。

 

「カードの中から見ていたわ。私が何千回と繰り返しても、この景色は実現しなかった」

 

「暁美ほむら……!」

 

 ブレイドの力が消え、定着していない封印が綻んで解放されたのだ。だが、令央が感じるこの途轍もない嫌悪は、それだけじゃない。

 

 龍玄、斬月、美樹さやか、佐倉杏子、巴マミ。

 アーマードライダーと魔法少女たち。キメラアナザーに歯向かっていった者たちが、再びこの場所に戻ってきていた。

 

「そんなはずがあるか。アギトと龍騎を核とした私の傑作が、討ち破られただと……!?」

 

「進め、日寺。俺達はコイツのお望み通り、全員で相手をしてやる。言ったはずだ、貴様は殺さねば気が済まん」

 

 利害を超えて力を寄せ合い、一つの絶望に抗う。

 それはいくら繰り返そうと届かない、未来を覆す『人の力』。

 

 それを実現したのは、遠くから見ているあの少女───片平香奈。これは全てを誰かに委ねることでしか生まれなかった未来。ほむらが決して辿り着けなかった結末だ。

 

 頼ることをやめたことが、間違いだったとは思わない。でも、自分では作れなかったこの奇跡が、この時間にしか無いと言うのなら。

 

「私は……あなたに賭けるわ。日寺壮間」

 

 ほむらがジオウの手を取り、魔法が世界に干渉する。

 止まった時間を共に進み、目指す場所は一つ。

 

 舞茂市の中心、萎みつつある『ト書きの魔女』、その頭部にあたる毒々しい花の舞台。そこに彼が───全ての悲劇の始点がいる。

 

「追いついた。やっと、ここまで来た」

 

「来るとは思わなかったよ。早乙女の教え子と、世界を知らないだけの化け物が」

 

 これから彼は鹿目まどかを奪い、ほむらを現在に縛り付け、数多の魔法少女と人間を森の養分とインベスにする、 爛れた果実の墜ち武者。

 

 そして、美沙羅を魔女に変えた、この戦いの元凶。

 

 アナザー鎧武───麻沼恵吾。

 

───────────

 

「君はアヴニル氏やオゼとは違い、自分の王に深く干渉しないね。しかし、それ故か、君の王は実に壊れやすい」

 

「気乗りしないだけだよ。他人の人生まで面倒見るのは」

 

 終局に向かいつつある物語を遠方から覗き、ウィルとヴォードは重さのない言葉を交わし合う。彼らの言葉は遠い星を見るかのように無感情。

 

 だが、腐っていくアナザー鎧武を映すヴォードの目に、ウィルは哀しみという名前の落胆を見た。

 

「四谷西哉、火兎ナギ、麻沼恵吾……君が選ぶのは『成れなかった者』たちだ。自分の手で未来を壊した者たちに最後のチャンスを与える。やはり、君と私は似ている」

 

「一緒にすんな。僕はお前みたいなパンピー趣味じゃない。僕はただ……『あの日々』ってやつの価値を、確かめたかっただけだ」

 

 結局、誰も過去には辿り着けなかった。

 過去に負け、過去に狂い、過去を諦め、人は知らないナニカとして未来に進むしかないのだ。

 

「誰かが言った。『人間は無知ゆえに夢を抱き、大人になったと言ってそれを忘れる』」

 

 ウィルは本を取り出し、再び物語に視線を戻す。

 

「───『そんなモノを成長と呼ぶから、生きるだけで苦しむのだ』。未来とは変わることじゃない、望み続けることだ」

 

 出番を察して身勝手に消えたウィルに、ヴォードは浅く息を吐き、もう一度だけ目を凝らした。この物語が出した答えに。

 

───────────

 

 ジオウが刀を抜く。

 この争いを終わりにできる、唯一の宝刀───燈理から受け継いだ鎧武のライドウォッチを。

 

《鎧武!》

 

 アナザー鎧武が手を伸ばした。

 油断や躊躇はとうに捨てた。こじ開けたクラックから蔦の束が、ジオウとほむらへ襲い掛かる。

 

 その刹那、蔦の腕が弾け飛んだ。絡繰は分かっている。

 暁美ほむらが時間を止め、爆弾で攻撃を散らしたのだ。ジオウはその後ろで、起動したウォッチをドライバーに装填し、廻した。

 

《ライダータイム!》

《仮面ライダー!ジオウ!!》

 

《アーマータイム!》

 

 ジオウの頭上に召喚される、鎧武の兜を模ったオレンジ。

 降下するそれを頭から被ったジオウは、アームズの展開と共に再臨する。

 

《ソイヤ!》

《ガ・イ・ムー!》

 

 両肩にオレンジの錠前。纏いし鎧もまた橙の威光を放つ。

 瑞々しい輝きが弾け、複眼に収まる『ガイム』の文字。

 

 その誕生を待ち構えていたウィルが、高らかに祝福する。

 異界の植物蔓延る魔女の結界、その中心に佇む、王の───新たなる将の誕生を。

 

「祝え! 全ライダーの力を受け継ぎ、時空を超え、過去と未来を知ろしめす時の王者! その名も、仮面ライダージオウ鎧武アーマー!」

 

 肩から抜刀した二刀、『大橙丸Z』がヘルヘイムの植物を斬り払う。愚直なまでの猛進は止まることなく、一息でアナザー鎧武の胴に斬り傷を刻み込んだ。

 

「───果実の鎧武者の力を継承した瞬間である」

 

 その戦い方。その姿。よく知っている。

 逃げ続け、目を背け続け、最後に向き合うことを辞めた、あの青年は。奏多燈理は、やはり麻沼の前に立ち塞がるのだ。

 

「それなら……殺すだけだ。俺のやるべき事は何一つ変わらない」

 

 アナザー鎧武が手に持っていた、角張った果実。

 以前よりも色が濃くなったそれは、踏み締めるこの場所───『ト書きの魔女』の体を徐々に吸い込んでいるように見えた。

 

「魔女を……吸収しているのね。それがかつて何だったのか、理解していながら」

 

「あぁ。あの悪魔のような少女は死んだ。俺を慕う若者も、早乙女の教え子も、先輩の娘も……何もかも食らう。そして」

 

 色付いた果実から力がアナザー鎧武へと還元されていく。『ト書きの魔女』、すなわち足場から無数に枝と毒々しい花が生え、それらは全てアナザー鎧武の支配下に墜ちた。

 

「俺は怪物になる。奴らと、貴様らと、同じように」

 

 火蓋が斬られ、地に落ちたのを感じた。

 周囲の領域全てがジオウに牙を剥き、襲い掛かるのを時間停止で切り抜ける。

 

 間合いに入り込んだところを、『大橙丸Z』の一閃。

 それを大剣で受け止めるアナザー鎧武だったが、ジオウの背中から翼のように生えた装甲もまた『大橙丸Z』。

 

 これで実質四刀流。その両の手では凌ぎきれない猛攻を、アナザー鎧武は生やした蔓で対応する。

 

 しかし、4本の腕を捌き切ったと思えば、体勢を崩したジオウの蹴りもまた、鋭い斬撃を帯びていた。

 

「四本の腕に加えて両足に刀を備えた六刀……単純かつ飛躍的な戦闘力強化、それが鎧武の能力か」

 

 実に鎧武らしい、そんな感傷を麻沼は噛み砕いて飲み込んだ。

 

 アナザー鎧武は今、魔女の肉体である地形を自在に操れる。その権利を巧みに使ってジオウの手数に追随し、鍔迫りあっていた。

 

 鎧武アーマーの力は、アナザー鎧武の力を確実に削るのを感じる。逆もまた然り。鎧などもはや見せかけに過ぎない、文字通り抜き身の刀の斬り合いだ。

 

「ほむらさん!」

 

 ジオウが刀を一本手放し、そこに現れる暁美ほむら。

 その手を握った瞬間、時間は止まった。

 

 静止した敵意の間を縫って駆け、動かないアナザー鎧武の胴体に刀を振り抜く。

 

 ───時計が瞳を閉じ、時間が動き出す。

 理を超えた必勝の一撃。そうなるはずだった。しかしアナザー鎧武は浅すぎる傷と共に、変わらず佇む。

 

「『暁美ほむらの時間停止には致命的な弱点があった。制止した時間の中で、同行者の力は暁美ほむらと同一になるのだ』」

 

「あなた、何を……!?」

 

「この魔女の力だ。結界内の『法則』を好きに書き換えられる。尤も、養分を吸い出す過程で寄生し、弱った彼女を操っているに過ぎんからこれが限界だがな」

 

 麻沼の中にあったのは、ほむらへの陰湿なまでの『警戒』。

 

「時間を止める魔法。化け物じみた力だが、攻撃を人工の重火器に頼る辺り膂力は無い……人間並と見た」

 

 それならばと銃を抜き、停止した時間で弾丸と爆弾を配置する。しかし、再始動の瞬間にその全てが魔女の茨に阻まれる。

 

「飛び道具は止まった世界では動けない。今の俺なら、いくら敷き詰めようが着弾までの数秒で対処可能だ。お前には何もさせない、暁美ほむら。幾度と繰り返した時間と同じようにな」

 

「……随分と知れ渡っていたものね」

 

「タイムジャッカーから聞いた。鹿目まどかを救うために時間遡行を繰り返す、駄々をこねる子供だとな」

 

 アナザー鎧武には、令央のような侮りは無い。

 その攻防の一つ一つに熟考がある。確実に、どんな手を使ってでも、壮間とほむらを倒そうとしている。

 

 どんな手を使ってでも、まどかを殺そうとしている。

 

「どうして、まどかを殺すの。まどかは誰かに殺意を向けられるような子じゃない! それなのに、運命は必ずまどかを殺す! どうして!?」

 

「力を得るためだ。そもそも世界を滅ぼす魔女になるんだろ。お前の友達だろうが、先輩の娘だろうが……! 必要な犠牲だ。世界を救うために」

 

 馬力が無い。つまり、拘束に弱い。それを狙ってほむらを蔦で縛り上げたのを、ジオウが斬り刻んだ。

 

 過去の未練を断ち切らんと、ほむらへ振り下ろされた大剣を、ジオウの刀が真っ向から受け止める。

 

「麻沼。お前は『鹿目まどか』を殺して、ほむらさんの物語を奪って、何を守るつもりなんだ」

 

「知れたこと。あの狂った化け物共から世界を守る。王として、俺が正常な世界を作る。それ以外に何がある? 俺がやらなければ世界は腐り落ちる!」

 

「魔法少女を騙して、インベスにして! 屍の森で無知な子供たちを閉じ込めるのが正常な世界なのか!?」

 

「何……!?」

 

 アナザー鎧武の刀が押し返される。

 麻沼の知らない未来。しかし、未来人の壮間が見た、この先に必ず訪れる自身の末路に、思考が止まる。

 

「そんなはずがあるか。俺が……先輩の娘を殺してまで得る未来が、そんなものな訳が……!」

 

「お前の言う『必要な犠牲』に終わりは無い。曖昧な境界を広げて世界を蝕むだけだ」

 

「違う! 俺は変わるんだ、この力で! 狂気を得て、あの怪物共を倒して、今度こそ……世界を、俺が……!」

 

「お前は今もこれからも変わらない! 犠牲を許容し続ける、ただのバケモノだ!」

 

 アナザー鎧武の身体に十字の斬撃が刻み付く。不意に襲い掛かる体の重さにふらつくのを、アナザー鎧武は剣を地面に突き立てて踏み止まった。

 

「……だから、なんだ。俺はもう止まれない。間違っていたから何だと言うんだ!? ただ世界の終わりと夥しい犠牲を傍観していればよかったのか!?」

 

 叫びに呼応して魔女の体がうねる。デタラメに荒れ狂う魔女の攻撃が襲いかかり、挙句の果てに老木の巨大な両腕が、ジオウたちがいる頭部を握り潰した。

 

 クラックを通って退避していたアナザー鎧武、ほむらの時間停止で難を逃れたジオウが、再び対峙する。

 

「あなたが正しいかなんてどうでもいい。私はただ、私のたった一人の友達を守るだけ。例え、誰の敵になったとしても」

 

 ほむらが言う。

 何の責任も無いからそんなことが言えるんだ。

 そんなことを言える時期はとっくに過ぎ去った。

 

 気付いた時にはもう、欲しかったものはどこにも無かった。

 

「俺も同じだったよ、麻沼。絶望を前に変わることを強いられた……そう思い込んでた。でもお前は変えちゃいけないものまで変えすぎたんだ」

 

 気付けばジオウが懐に入り込んでいた。正面からの立ち合いではない。低い姿勢、予測できない方向から向かってくる、律動に乗った連撃。

 

 6本の刀の斬撃が次々に繋がり、形を成していく。

 鎧武の力を最大限に活かす『ダンス』の動作。

 

 壮間がずっと見続けてきた、香奈の動きだ。

 

「人は成長しなきゃいけない。でもそれは、自分を否定するためじゃないはずだ。俺たちは、変わらないために変わるべきだった!」

 

「黙れ……ッ!」

 

「俺の願い、俺が選ぶべきだった道。それは物語を信じる覚悟だ! その答えを、俺は見つけた! お前はどうなんだ、麻沼ぁッ!」

 

「何も知らない子供が……自分を貫いたって世界は変わってくれねぇんだよ! 子供じゃ願っても何も叶えられねぇ! だから黙ってろ。俺が世界を救ってやる!」

 

 果実から力を自身に移し、アナザー鎧武の斬撃が次元を裂いた。刀の軌道上にクラックを開ける防御無視の攻撃を紙一重で回避し、繰り広げられる決死の殺陣。

 

 だが、その最中で麻沼は気付いた。

 

(暁美ほむらは、どこにいる!?)

 

 息つく隙もない斬撃の嵐の中で、ほむらが姿を消す瞬間が何度もあった。それ以前でもそうだ。

 

 僅かな時間。それが暁美ほむらにとって何を意味するのか。気付かないわけはないが、遅過ぎた。

 

「あなたは私を警戒していた。でも同時に、侮っていた。私もあなたと同じよ」

 

 再び現れたほむらは、空中で何かのリモコンを手にしていた。

 

 ほむらは誰にも頼らず、まどかを守る方法を探し続けた。ただ一人で『ワルプルギスの夜』を倒す手段もまた同じ。

 

 麻沼を倒せばほむらは時間のループに戻れる。この世界線で『ワルプルギスの夜』と戦うことはもう無い。だから出し惜しむ理由も無い。

 

 時間を止め、準備し終えたのだ。

 最強の魔女を倒すために蓄えた、最適最大の兵力を。

 

「まどかを守るために、私は手段を選ばない」

 

 スイッチを押した。

 

 街が揺れる。火薬を積んだ無人トラックが発車し、別の場所では爆発でビルが倒壊。無数の爆弾が降り注ぎ、対空ミサイルにロケットランチャーの大群が飛来する。

 

 そして、止まった時間から解放されたその全てが、『ト書きの魔女』へと浴びせられた。

 

 ───轟音。激震。大爆発。

 

 絶叫する魔女の身体は崩壊し、足場を失ったジオウとアナザー鎧武が、炎の中を重力に従って落下する。

 

 致命的な誤算だった。暁美ほむらが、ここまで度を越した兵器を有していたなんて想定できるはずがない。

 

 アナザー鎧武はクラックを開いて森に入り、落下と炎からなんとか逃れた。だが、クラックを開いたその数秒、

 

 それは止まった時間では永遠を意味する。

 

「これでもう、魔女の力は無くなった」

 

 クラックに飛び込んでいた2人が森に降り立つ。

 ほむらが宣告し、ジオウの手を取った。

 

 アナザー鎧武が刀を強く握り、守りの姿勢を取る。

 わかっている。それが何の意味も無いことは。

 

 わかっていたんだ。何かのために変わるんじゃなくて、変わってしまったことに理由を付け続けてきた。叶わなかった夢を書き換えて、ただ苦しむことに逃げ続けた。

 

 時計が起動し、時間が止まる。

 今、六振りの刃が研ぎ澄まされ、若武者が制止の静寂の中に踏みこんだ。

 

《フィニッシュタイム!》

《鎧武!》

 

 仮面ライダー鎧武は『志』の戦士。

 残酷な運命に抗うため、必要なのは未熟な自分を変える覚悟。己の手で選び、戦い、傷つけ合い、それでも信念を貫いた者だけが最後に立つ勝者となる。

 

 止まるな、振り向くな、走り続けろ。

 変わっていく世界の中で、信じた道を征け。

 

《スカッシュタイムブレーク!》

 

 止まった時間が解けた。

 

 一、二、三、四───数え切れない斬撃が同時に刻み込まれ、オレンジ色の波動に包まれたアナザー鎧武を細切れにする。

 

 そして、力を蓄えていた果実が、粉微塵になって弾け飛んだ。

 

 麻沼は消えゆく意識を自覚しながら、体が倒れるまでの時間で、考える。

 

 完全な敗北だ。果実は失われ、力を得る手段は無くなった。アナザーウォッチの力も萎んでいくのを感じるし、変身状態も維持できない。

 

 まだ自分の可能性を信じていた子供の頃。

 何にもならなくてよかった、あの頃。

 

 あの頃に戻りたかった。このふたりのように、何があっても望み続ければよかった。そのために変わることができたのなら、もしかして

 

「───それでも」

 

 アナザー鎧武───麻沼が、倒れる体を右足を踏み出して止めた。

 

 森は消滅を始め、アナザー鎧武の仮面も消えかかっている。その死に体で、麻沼はもう一度剣を握り、構えた。

 

 ジオウもジカンギレードをその手に持つ。

 意地だけで立ち、足を引きずって近付いてくるアナザー鎧武を、正面から待ち構える。

 

「……来い」

 

 ───それでも、諦めて、変わり果てた今が、『あの頃』の続きなんだ。

 

 麻沼と壮間が、同じ瞬間に刀を振るった。

 樹肌色の大剣が壮間の首の前で崩壊し、アナザー鎧武の鎧が枯れていく。

 

「…………俺みたいになるなよ」

 

 壮間にそう囁いた麻沼は、消えゆく森に体を預けるように倒れる。

 

 アナザー鎧武ウォッチが、砕け散った。

 

─────────

 

 瞬い熱光と共に、街の中央を陣取っていた『ト書きの魔女』が倒れた。それが何を意味するのか、アナザーフォーゼと交戦していたゲイツと、戦いを見守っていた香奈が真っ先に察した。

 

「ソウマ、ほむらちゃん……!」

 

「勝ったか。上出来だ」

 

 一方、眼前で暴れ狂うアナザーフォーゼに視線を戻し、自身の体たらくにゲイツは舌打ちをする。キメラアナザーを倒して全ての戦力が揃ったというのに、この埒外の怪物は倒れないのだから。

 

「歴史が書き換わる……敗れたのか? 私の下書きから外れるだけで飽き足らず、あんな贋作に……!?」

 

 アナザーフォーゼ───令央もアナザー鎧武の敗北を感じ取り、空を震わす咆哮に乗せて『ロケット』と『ランチャー』、『ガトリング』を放射した。

 

 無造作な破壊、それを阻む盾。

 封印から解き放たれた魔法少女、二葉さな。さらにその後ろから、同じく解放されたもう一人の魔法少女が先陣を切る。

 

「ちゃらああああーーーーっ!」

 

「由比鶴乃ッ……! 邪魔をしないでくれるか、私は君たちまで殺す気は無い!」

 

「カードに閉じ込めたの許してないからね! 最強の魔法少女、汚名返上だよー!」

 

 炎を吹き出す扇子による一気呵成の猛進。

 他の封印していた魔法少女も、『ト書きの魔女』が倒れて士気が上がった者たちも、物語の全てが令央に歯向かっている。追い出そうと拒絶している。

 

「何故だ……私は救いに来たのだ、この世界を! もっと崇高であるべきなんだ貴方たちの物語は! ゴミ共の手垢で汚れたこの世界は一度壊さなければいけないんだ! 何故それが分からない!?」

 

 贋作には死を。無かったことにするだけでは生温い。生まれてきたことへの罰を。凄惨な見せしめを。二度とこんなものが生み出されないように。

 

 贋作は、全て消えてなくなるべきなのに。

 

「帰ってきたぞ……!」

 

 令央の目が映したのは、停止した時間から現れたジオウとほむら。そして付き添うウィルの姿。

 

 歴史の書き換えが始まるまで間もない中、時間停止魔法を相手取るのは愚行だ。龍騎とアギト、ブレイドのウォッチを失い、贋作に二度目の黒星を擦り付けられて、敗走する以外に無い。

 

 ───なんでそんな目で見る。都合よく書き換えられた世界を正そうとしているのに。こんな稚拙な人形劇、存在する意味が無いじゃないか。

 

 ───作品気取りの粗末な落書きが。中途半端な借り物が、つまらない人生の慰み者が、くだらない思想の代弁者が。現実を見る度胸も無い屑共が。

 

「絶対に逃がさない! ここで終わりだ、令央!」

 

「お前に言ってるんだ!! 身の程知らずの、冒涜者が!!」

 

 もう知ったことか。何が何でも、何もかも、この物語は塗り潰す。

 

 アナザーフォーゼの紋様が光を吸い込み始める。

 そこに白い星が生まれ、アナザーフォーゼの怒号が、産声を上げたその名を呼ぶ。

 

「『超新星』───!」

 

「ご高説痛み入るよ。次はもう少しゆっくり言ってくれるかな。感情任せで何言ってるかわかんないから」

 

 止まった時間の中で、大きくない掌が白い星を握り潰した。

 ほむらでもウィルでもない。少年───ヴォードがアナザーフォーゼと対峙していた。

 

「タイムジャッカー!?」

 

「満を持したという訳だ。時が満ちたと言うべきか!? 失敬ッ! どちらも同じ意味だ、我輩は昂っている! 違うか!?」

 

「あっ見たことある人、誰だっけ!? タイムジャッカーの……アウグストスさん……?」

 

「アヴニルであるッ!!」

 

 タイムジャッカーのアヴニルが、止まった時間に煩く入場する。

 この中で動いている香奈を怪訝に思うのを後回しにし、杖の先端を令央に向けた。

 

「あぁなんという、なんてこと、なんたる懐かしき新鮮な感動っ!! これが現世! 外界! 娑婆の空気!! 知識の海から浮上したわたしを迎え入れる満天の輝きっ……! 世界は美しいっ!!」

 

「あの女……士門永斗に敗れたと聞いていたがな。生きていたのか」

 

「えぇっと君は、ごめんね手帳を忘れてね。記憶が埋没してしまっているんだよ。たしかゲイツの、誰かさんだったかな」

 

 アヴニルが息を吸い込んで何か言おうとしていたのを、甲高い狂気が掻き消した。知的侵略生物、タイムジャッカーのオゼが全知の瞳で世界を覗く。

 

 3人のタイムジャッカーが揃うも、その視線が集中する先は令央。

 ヴォードが右腕をアナザーフォーゼの体に触れさせ、下から睨みつけた。それは側から見ていた壮間たちも背筋が凍るような、無気力な少年の、形を持った殺意。

 

「待てヴォード。それは賭けにすらなっていない狼藉である。今はまだ見に回るが定石なのは、理解しているだろうな」

 

「このための僕らだろ。『ここ』がお前だとして、我慢できるのかよ。アヴニル」

 

「……失敬、愚問であった」

 

「はぁ……ッ。やぁ久しぶり……何言っても聞こえてないか。まぁ話す気すら起きないから返してもらうよ、お前が嗤って唾を吐き、奪った僕の『権利』を」

 

 アナザーフォーゼの胸に腕を突き刺したヴォードは、一瞬だけ壮間に振り返り、微笑んだように見えた。そして腕を引き抜くと、その手が握っていた黒いウォッチが白とオレンジのライドウォッチへと塗り変わる。

 

 タイムジャッカーの姿が消え、時間が脈動を再開する。

 

 力を失った令央の変身が解けて、生身の肉体が血を吐き出した。

 

「あ、あ゛あッ……!!」

 

 何が起こったのかは猛烈な嫌悪感と無力感が雄弁に語っている。贋作を壊して奪った歴史が、これで全て手の中から消えた。

 

 令央は両手を地につけ、蹲って呻くばかり。存在が限りなく無に近づいているのが、誰の目にも明らかだった。

 

 この戦場の中心で、知らない時空間で、もはや生身の人間と化した彼は思わず手を伸べてしまいそうになるほど、あまりに孤独で弱々しかった。

 

 それなのに。

 

 そうであるべきなのに───

 

 

 それはまるで、零で割ったように。

 

 

「うあ゛あ゛ああああああああああああッッ!!!」

 

 虚の底から溢れ出す。

 意志など持たない矛盾が。

 

 無という有。

 始点と呼ばれる終点。

 

 令央が存在する地点から、世界が歪む。色を失い、砕けていく。 

 世界の焦点が、ズレていく。

 

 奪った物語を失い、終焉を描く芸術家が真の姿を現す。

 隆起した肉体が何も映さない純黒の画角に刺し貫かれ、翡翠の瞳───その狂気が顔を塗り潰す。

 

 それは、創造という名の『破壊』。

 右胸に刻み込まれた文字は、

 

 

 『2009』『DECADE』

 

 

《ディケイドォ……》

 

 『10年』を意味する名。

 それ以上でも以下でもない、ただそれだけの。

 10年を、その物語を破壊するだけの、

 

 『破壊者』を破壊した者に、与えられた名前。

 

「アナザーディケイド……!」

 

 踏み出す一歩が大地を砕き、空が割れて悲鳴を上げる。

 

 再誕した瞬間から、世界が滅亡を始めた。

 壮間の想像を未来が駆け巡る前に、ウィルが壮間に静かに告げる。

 

「彼こそがアナザーディケイド。そして……彼が2019年に世界を滅ぼしたことで、王を選ぶ戦いは始まった」

 

「……アイツが」

 

 2019年5月1日、平成の時代が終わりを告げた日。時元の壁は崩壊し、世界をただ一人の王が支配した。

 

 大学からの帰り道、一変した世界。背中を刺され、何も守れず死んだ。あの、無かったことにするべき時間を作り出したのが───

 

「そう、彼が『令和』を破壊した魔王だ」

 

 




麻沼撃破に続き、遂に正体を明かせました。本作のラスボス登場です。
タイムジャッカーもお久しぶりです。
次回でひとまず鎧武編は終了予定。よろしくお願いします。

今回の名言
「人間は無知ゆえに夢を抱き、大人になったと言ってそれを忘れる。そんなモノを成長と呼ぶから、生きるだけで苦しむのだ」
「ジャンケットバンク」より、天堂弓彦。
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