仮面ライダージオウ~Crossover Stories~ 作:壱肆陸
平日よく寝てしまうこの頃、少し遅れましたが鎧武×まどマギ編、最終話です。
ラスボス爆誕のどうしようもねぇ局面からの再開ですが、「ここすき」とかも気が向いたらよろしくお願いします。
最初は、素っ気ないほどの感傷だった。
目の前の異形。悪魔のような角に加えて禍々しい体色、苦悶が貼り付いた仮面。アナザーディケイドと呼ぶであろう、あの怪物。
2019年5月1日。壮間の世界が滅び、時間が戻ったあの日。
その元凶を前に、壮間があの日の痛みを、絶望を思い出して、
この王になる旅の始まり、その激情が奥深くから浮かびあがろうとした時、
「あ」
アナザーディケイドが、呼吸をして、手を伸ばした。
大気を割る波動が空間を通り過ぎた。
壮間の周囲で、人だったものが、糸の切れた人形になった。
アーマードライダーが鎧ごと粉々に砕けていく。
魔法少女たちが目を開けたまま、倒れる。
悲鳴を上げることもできない。まるで肉体が名前を忘れたように。あらゆる意義を忘れて、ただの自然物になったように。
壮間とミカド、香奈、ウィルだけが立つ荒野の上。
アナザーディケイドの足元から地面が捲り上がり、造形物が塵となって、世界が滅んでいく。
そして、その手が。
疑いようのない終わり。確実な死が、壮間の眼前に───
「そう、彼が『令和』を破壊した魔王だ」
「───っ!?」
その時、壮間の目に映ったのはまだ壊れる前の世界。
ウィルが告げ、まだこの時代の戦士たちが立っている、その瞬間だった。
「なんだ今の……また過去に、いや……!」
違う。壮間が未来を見たのだ。
この強大すぎる力を感じた時、想像よりも遥かに鮮明な滅びが壮間の脳裏に焼き付いた。
これが何かは分からない。ただ、猛烈な頭痛が告げている。
それはこれから必ず訪れる終焉なのだと。
アナザーディケイドが、呼吸をして、手を伸ばした。
壮間が見た未来をなぞる。動かなければ皆死ぬ。いや、動いたところで、絶対に止められない。
足が一歩も動かない───
その時だった。
「久しぶりだね。確か名前は、令央……だったかな?」
「お前」
銀色のカーテンを通って現れた、次元を抉じ開けるような砲撃が、アナザーディケイドの波動を散らした。
「カーテンコールにはまだ早い。そう、僕が決めた」
混沌の闇を上塗りする、新たなる鮮烈な闇。
アナザーディケイドをレンズに通したような姿だった。破壊の化身に刃向かったのは、蒼き『悪役』。
「アオイ……! ディエンド……に、ディケイド……!?」
異世界のダンジョンでベル・クラネルに敗れ、姿を消していたアオイ───仮面ライダーディエンド。何故彼がこの時代にいるのか、そんな謎を差し置き、壮間は遅れて気付いた。
異世界での冒険を通じて知った英雄譚。
『世界の破壊者ディケイド』。
そして、壮間が持つ『ディケイド』のプロトウォッチが、あの2人に激しく呼応している。
「生き残っていたのか」
「死ねないさ。奪われたものを取り戻すまでは。僕らの物語の仇を討つ、その復讐を果たすまでは。そうだろ、『アナザーディケイド』!」
「夢を見るな。贋作に、物語など存在しない」
乱入したディエンドは、アナザーディケイドに肉薄して軽々とした足取りで立ち回る。壮間が予期した、あの理不尽な破壊が、ディエンドには適用されないように。
しかし、彼は魔王を倒す英雄にはなり得ない。誰の目にも明らかな実力差が、そこにはある。
アナザーディケイドがディエンドに拳を叩き付け、その延長線───脆くなった世界が視界の果てまで吹き飛んで砕け散る。
だが、変身を割られたアオイは、不敵に笑う。
その時、舞茂市の空が崩壊した。それは世界が壊れたのではなく、倒れながら未だ顕在だった『ト書きの魔女』の結界の外殻が砕けたのだ。
「僕は悪役だ。悪役は手段を選ぶんだ、『手段を選ばない』という最も悪辣な手段をね」
動きを止め、空を見上げるアナザーディケイドの姿が、それが予期せぬ瞬間であることを示している。
街を覆う暗闇が解け、真昼の光芒が差した。
「あれは……!!」
アナザーディケイドとディエンドの戦闘の余波で砕け、倒壊した建物が転がる大地に、柔らかな光が舞い降りた。その光景は余りにも、見慣れた終末に似ていた。
「あ……あぁっ……! そんな……どうして……っ!」
だから、ほむらは、その眩し過ぎる希望を嘆いた。
一人の魔法少女。桃色の光を纏った、どこにでもいるような女の子が破壊者と対峙する。それは壮間が見滝原の街で見かけた、あの絵を思い出させた。
見滝原を襲った厄災『ワルプルギスの夜』をただ一人で消し去った、『救済の少女』。
「さやかちゃん、マミさん、杏子ちゃん……ほむらちゃん。助けに来たよ」
「まどか……!」
鹿目まどか。彼女が魔法少女として現れたということが何を意味するのか、壮間も未来のほむらから聞いている。
だが、その小さい体から溢れる強大すぎる力は、ほむら以外の人間にとっては希望に成らざるを得ない。その先にあるのは不要な希望を全て背負い、犠牲になるという変わらない結末。
「アオイさんが教えてくれた。全部聞いて……私が自分で選んだんだよ。だから大丈夫。ごめんね……ありがとう、ほむらちゃん」
まどかの覚悟もまた、どの世界でも変わらない。
彼女の足跡が破滅を浄化し、空に浮かび上がる軌道から暗闇が染め替えられていく。
「世界は壊させない」
「無駄だ。壊すのは、私だ」
まどかが樹の弓を引き、空に描かれる幾何学模様。
アナザーディケイドが腕を突き出し、空に稲妻が駆けて次元が砕かれていく。
一面の青空から放たれた光矢の雨が、死んだ地表へと降り注ぐ。
解放された破壊のエネルギーと、鹿目まどかの浄化の輝き、それらが舞茂全体に波及する規模でぶつかり合った。
それは神話の一節にも等しい戦いだった。
アナザーディケイドの一挙手一投足は不条理に生命を刈り取る。充満していたヘルヘイムの植物やインベス、使い魔達が、余波だけで塵になっていく。
だが、その破壊という事象そのものをまどかが相殺し、自身や周囲の人々を守っていた。一方、光の矢でアナザーディケイドを射抜かんとするが、矢もまた彼に到達する前に朽ちて消えてしまう。
世界の破壊と再生が因果律を超えて繰り返され、時が止まったかのように戦禍のない戦いだけが続く。
一歩でも出しゃばればまどかの加護を抜け、瞬く間に滅ぶ。その確信は反証するまでも無い。だから、誰も動かず、この聖戦に固唾を呑むしかできなかった。
「だが、鹿目まどかは勝てない」
そんな中、口を開いたのはウィルだった。
「『円環の理』───宇宙の法則をも書き換え、あらゆる世界線に干渉する存在。鹿目まどかは神にさえなる筈だった。正当な道を歩んだのならば」
「やっぱりそうか、彼女は完成には至らなかったというわけだ。邪道の限界だね、それもまた美しいが致命的な誤算だった」
傷ついたアオイが、画の中に閉じ込められたように硬直した世界で軽薄な言葉を紡ぐ。言葉が出ない壮間に、ウィルとアオイが今を語り聞かせる。
「恐らく『友人を守りたい』という願いで契約した彼女は、あらゆる害から世界を護る力を得た。例え地球滅亡でも覆せる力が今の鹿目まどかにはある」
「だけど彼……『令央』はあらゆる世界───『物語』を否定して破壊する『概念』そのものだ。鹿目まどかも物語の一部である以上、例外じゃない」
矛盾、その2文字が壮間の脳裏に浮かんだ。
理を超越した矛と盾は雌雄を決することを許されない。
「理屈の上では、戦いは永遠に続くだろう。しかし……」
「まどかさんは魔女になる……!?」
ようやく声を出せた壮間が、この先の終焉を予告した。
未来のほむらが言っていた。魔法少女となったまどかは一度きりの戦いの後、必ずソウルジェムの限界を迎えて魔女となり、星を滅ぼす。
このまま戦いが続けば救済の盾は最悪の矛となり、世界は一気に滅びへと舵を切る。
「だからって……クソ……っ……!」
ディケイドのプロトウォッチを握ったまま、壮間は動けない。
誰も動けない。津波と台風に小石を投げ込んだって粉々に砕け散るだけだ。意味もなく消えるだけだ。
それでも、迷わず動いた者がいた。
「───まどか!」
止まった誰も彼もを追い越し、暁美ほむらが飛び出した。
その魔法で時間が停止し、ほむらは手持ち全て、撃てる限りの鋼鉄と火薬をアナザーディケイドへと向ける。
しかし、アナザーディケイドの双眸は凍った時空の中でほむらを捉え、薄氷を叩くように時間停止を砕く。向けた武力は全て触れるまでもなく塵となり、
アナザーディケイドの掌がほむらへと向いた。
忘れようとしていた絶望が、ほむらの心を曇らせた。
その掌は『物語』を破壊する。
物や動物、背負うドラマが無いものから無に帰す。人の物語すら、彼を前には無いも同然。
破壊の波動が、向かってくるほむらの物語を削り取っていく。彼女の悠久の戦いすら壊し尽くす。
だが、その運命に逆行したのは、彼女だけではなかった。
「だらああああああああああああッ!!」
倒れそうなほむらの背中を受け止め、その前に出た。
変身した身体を砕かれながら、死へと向かう一本道の上で、仮面ライダー鎧武───奏多燈理は笑っていた。
「聞けやシマウマ野郎!! 俺は……っ、チーム鎧武のリーダー! 魔法少女を支える男ぉ! 奏多燈理だぁ゛ッ!!」
燈理が突き出した大橙丸の一太刀が、アナザーディケイドの体を刺す。
それは、小石がぶつかった程度でしかなかったのかもしれない。
だがその波紋が───燈理へと向けられた令央の意識、ダブルに付けられた傷と重なった僅かな痛み、ほむらによって作られた時間のズレが、均衡を崩す。
まどかが放った一矢。呪いだけを焼き払う光が、アナザーディケイドを包み込んだ。
その瞬間、世界が悲鳴を上げて銀色に歪む。
アナザーディケイドの声が、アオイに向けられて響く。
「これが狙いか……」
「決着のつかない戦いに、鹿目まどかが出す答えは一つだ。のらりくらりは悪役の十八番さ」
アナザーディケイドの姿が解像度を失っていく。あらゆる時間軸、世界線の規格から外れた場所への封印。
世界からの追放。破壊者の存在は、次元の奥に押し込められて消えた。
「燈理さん!」
戦いが終わり、世界が滅びを免れた。
しかし、魔王に爪を立てた燈理の体は───限界だった。
見るに堪えない惨状。それでも、人々は倒れた彼のもとへと集まった。駆け寄った香奈が燈理の手を取り、泣き叫んでいるのを、燈理は血を吐き仄かに笑う。
「……泣くなよ。大丈、夫……アレだろ……時間が変わるんだろ。鎧武……渡せたかんな……」
「でもっ……!」
燈理の目は、壮間を見た。
壮間は動けなかった。でも、あの息をするだけで肺が潰れそうな恐怖の中、ほむらと、満身創痍だった燈理は微塵も躊躇わず飛び出した。
壮間の心を満たすのは、ただ純粋な賞賛。
泣かず、悔しそうにもしてない壮間を見て、燈理は安心して再び笑った。
「燈理さん……俺は、気付くのが遅すぎた。俺はあなたのことを、何も知れなかった」
「いいよ……見えたもんだけ覚えてりゃいい。受け継がなくていい……俺は、やりたいことやった! お前も進め……! 香奈ちゃん泣かせて、ゴメンな……!」
でも壮間は、背中を押してくれた手の感触を覚えている。決して折れない一本の刃の如き覚悟、それこそが彼の物語の全て。
その覚悟は、きっと真似も継承もできない、彼だけのものだ。
この時代に強き若武者がいたことを、壮間は決して忘れない。
「まどか……私は……!」
「ううん、言わなくていい。知ってるよ。ほむらちゃんが私のためにしてくれたこと」
その奥で、もう一つの物語も静かに幕を下ろす。
泣き崩れるほむらを暖かに照らすように、まどかが言葉をかける。
この世界線は消え、まどかが呪いを振り撒くことは無い。それで割り切れるはずがない。ほむらは胸が張り裂けそうな哀しみと悔しさを何千回と繰り返し、それでも戦ってきた。
そして、これからも戦い続ける。
「いつかあなたを救い出す。あの時の約束を……必ず! だから! もう少しだけ待ってて、まどか……!」
諦めることは、死と同じだから。
暁美ほむらの物語は、再び永遠の迷路へと回帰していく。
書き換わっていく時間の中、像を結ばない視界の奥に見える───神々しい魔法少女の背中に、燈理は手を伸ばす。
「───今度は、支えられたよな。姉ちゃん……」
あの日、何もできなかった自分を、追い越せた。
ようやく持てたその確信を抱え、燈理は目を閉じたのだった。
──────────
2018
壮間がアナザー鎧武を倒し、鹿目まどかがアナザーディケイドを退け、鎧武の歴史は消滅した。
帰ってきたのは2018年。香奈が森に迷うことなく、『高町の魔女』の結界にアナザー鎧武が現れなかった夜。
美沙羅が魔女にならなかった時間軸だった。
「梓樹……」
「あれ、日寺くん? さっき魔女を倒して行っちゃったんじゃ……どうしたの日寺くん!?」
「よかった……本当に……っ、勝ったんだ……! 梓樹……!」
生きている梓樹を見たら、涙を我慢できなかった。
壮間は勝ち取ったものを思い出すと同時に、あの時代に残してきたものも自覚した。
でも、壮間の答えは、
明日美沙羅に向ける言葉はもう決まっている。
果てしなく長かった夜が明ける。
待ち遠しかった朝もあっという間に過ぎ、眩い日差しが熱狂を連れて来る。
「なんだよ、ミカドも来てんじゃん。先帰ってもいいって言ったのに」
「当たり前だ。貴様らの話に盛大に巻き込まれたんだ、顛末を見届ける権利がある」
そう、あの夜が明ければ高校ダンス大会が始まる。
香奈と美沙羅の、最後の晴れ舞台だ。
地区予選を勝ち抜いたチームが順番にパフォーマンスを披露する。プロのダンサーなんかも審査員にいて、祭りというには厳かすぎる雰囲気だった。
「どっちを応援するんだ」
「声出せる感じじゃないだろ。俺は見届けるだけだよ、前みたいに目は背けない」
「前?」
「あ……なんでもない」
タイムリープする前の人生で、壮間は香奈の眩しさを疎んで距離を取った。後悔もしなかった。それが皮肉なことだ。時間を遡るようになって初めて、過ぎ去っていく時間の尊さを知った。
『私はこれからずっと、ソウマと一緒にいたい』
もう二度と目を離さない。彼女が選んだ物語から。
「ミサぁ!」
「香奈ちゃん!? 本番前だよ、髪崩れちゃうよ!?」
舞台袖に向かう前、美沙羅を見つけた香奈は涙ぐんだ大声を張り上げて彼女に抱きついた。昨夜からずっとこうなので美沙羅は困惑するばかり。
「日寺くんもだけど、何かあったの?」
「いやぁ、生きてるーって思って……!」
「なにそれ。死ねないよ、今日までは絶対に」
その言葉は不意に香奈の心臓に食い込む。
笑う彼女の目は、まるで明日を映していないように。
『ねぇ、香奈ちゃん。明日が終わったら、香奈ちゃんは何になるの?』
もう怯えない。香奈にはもう、明日からなりたい自分があるから。
「香奈ちゃん。私が優勝したら……覚えてる?」
「もちろん! いいラストステージにしようね!」
香奈にも勝ち取りたいものが出来た。
燈理のように、瑠翔のように、壮間とミカドのように。決めた道を突き抜ける覚悟を胸に、香奈は笑顔で拳を突き出した。
──────────
夏の昼間は長いと言うが、子供の夏は楽しくて過ぎて行くのが早く感じる気がする。
「終わっちゃったねー」
香奈は美沙羅と並び、部員たちと一緒に泣いて枯れた声を零す。二度と登ってこない今日の太陽を、ふたりの視線が惜しむように追っていた。
「2点差かぁ。私が4位で香奈ちゃんが3位……」
「でもミサの個人賞すごいよ! 嬉しくてめっちゃ泣いちゃった。ミサの勝ちだよ!」
「チームじゃ負けだよ。どっちが優勝とか、そんな話じゃなかったなぁ」
結果は勝者なしの痛み分け。子供でいられる時間は、あまりにも呆気なく、平凡に終わった。
「ミサ。私ね、決めた。ダンスはこれでおしまい。やりたいこと……できたから。ミサもやっぱりこれでおしまい?」
「私も、今日でおしまい。優勝して、プロの道が開けたらお母さんも分かってくれるとか、思ってたんだけどなぁ」
「そっか……でも、楽しかったね! 最高に!」
夕陽から目を離した香奈が、そう美沙羅に笑いかけた。
そんな香奈を直視すると、美沙羅は心に情けなさが沸き上がるのを感じた。今日で子供は終わりだと、二度と踊らないと決めていたのに、あの夕陽から目が離せない。
「ねぇ。ミサは……これからどうするの。お母さんのこともだけど、魔法少女続けるんでしょ」
「え、なんで香奈ちゃんが魔法少女のこと知ってるの!? あぁ日寺くんか……もう、内緒って言ったのに」
香奈は魔法少女にならないことを決めた。
皆の歴史を見届けたい。それを世界に届けたい。
最後まで、壮間の隣にいたい。
人を守るために魔女を倒し続け、己の願いの代償を払って死ぬ。その物語は、香奈には必要ないと分かったから。
でも、美沙羅は既に選んでしまっていた。
それだけは歴史を変えても変わることはなかった。
「……うん、私は続けるよ魔法少女。魔獣から、この街を守らなきゃ」
「あれ、香奈?」
その時、キュゥべえと入れ違うように、2人の横に現れたのは壮間だった。互いに予期しない展開で、香奈と壮間は顔に分かりやすい「きょとん」を描く。
「いや、昨日……だったよなアレ。ステージの後に話したいことあるって梓樹が。香奈も呼ばれてたんだ」
ステージの後。二人きり。
『私は日寺くんが───』
森に迷う直前、美沙羅から聞いた言葉。
「失礼しましたっ!! 帰ります!!!」
「なんでだよ!? いいだろ別に、なぁ梓樹」
「ソウマ、バカ! あぁもうすごくバカ! クソボケ! なんでそこだけ分かんないかなぁ!?」
「ううん、大丈夫。そのつもりで日寺くんを呼んだから」
美沙羅は浅く呼吸をすると、その手を壮間に差し出した。彼女の手が持っていたのは、白い紙袋。
「はい、お土産! 見滝原の美味しい洋菓子です。帰ったら皆で食べてね」
「えっ……?」
「お、おぉ。ありがとう。って、話したいことってこれだけ?」
「うん。一昨日はありがとう、会えて嬉しかったよ」
香奈はその困惑を言葉には出せない。というか、この男は言葉にでもしなきゃ伝わらないだろうに。だから一言だけで確かめる。
「本当に、いいの?」
本当は伝えるつもりだった。
好きなんだと。これからも一緒にいてほしいと。
でも、最後のステージに立った時に気付いてしまった。
壮間にはこの先の明日が見えていた。
そして、壮間が見ていたのは香奈で、香奈が見ていたのは壮間だった。
「……うん、いいんだ。負けちゃったから」
美沙羅の捧げた祈りは、ふたりには届かなかった。
これでよかった。最後まで本当のつまらない自分で向き合えなかった、そんな子供のお話は、ここで終わりだ。
「日寺くんをよろしくね、香奈ちゃん」
美沙羅がお辞儀をして、手を振って、踵を返そうとする。母の進路に従い、魔法少女として戦う運命に、足を踏み出そうとする。
「梓樹!」
「日寺……くん?」
つま先が自分の影を踏もうとした時、壮間の声が美沙羅を呼び止めた。
2013年に向かう時、壮間は誓った。
強くない美沙羅を魔女になる運命から救う。魔法少女のシステムを破壊する方法を必ず見つけ出すと。その方法は見つからなかった。
でも、気付いた。壮間には未来なんて見えない。
美沙羅が魔女になるなんて誰が決めた。
オシャレで、夢にも人生にも真剣で、困ったような笑顔が素敵な大切な友達は、あんな運命になんて負けやしない。
「未来を作るのはお前の歩みだ! 俺はお前の物語を、信じる!」
だけど、ただ、この交差した奇跡が消えてしまわないように。壮間は祈りを言葉にする。
「困ったことがあればいつでも飛んで行く! だから……再来年、10年後でも。大人になってからも、ずっと! 俺と香奈と、あと成湖も一緒に……お酒とか飲もう!」
やっぱり、どうしても美沙羅は目を離せない。
怖くて、色あせていた未来が、壮間の言葉だけでこんなに鮮やかに見えるだなんて。
「じゃあな、梓樹! またな!」
このお話がまだ終わりじゃないと、貴方が言ってくれるなら。
美沙羅の指のソウルジェムは、夕陽が沈んでも澄んで輝いていた。
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「こうして夏は終わり、我が王とその旧友は別々の道を歩み始めた。しかし、その縁は消えることなく……」
「人のセリフを反芻すんな。恥ずかしいだろ」
香奈は部活として帰るので、帰路の電車はまたミカドと壮間。そこに何故か暑そうなロングコート男が付属していた。
ミカドと同じように疲れで眠ってしまう前に、壮間は美沙羅のお土産を抱えて、ウィルに尋ねる。
「ほむらさんは……まどかさんを救えたのかな。お前なら知ってるんじゃないのか」
「いや……私にも分からない。この時間は一つの結末に至ってはいるようだが、彼女の永劫の旅がどう終わったのか……それはまだ誰も知らないことだ。夜が廻転を続ける限りはね」
ウィルがそんなことを言うのは、なんだか意外だった。
「諦めはしないだろうな。どんな未来を選んだんだろうな、ほむらさんは」
二度と交わることのない予感だけが、世界に広がっているように思えた。でも、壮間はただこの時間を進めるだけだ。
美沙羅と約束した、大人になる未来を手に入れる。
未だ世界の狭間で眠るあの魔王から───『令和』を奪い返さなければ、それは叶わない。
「アナザーディケイド……『令央』……!」
ディケイドのプロトウォッチを握る壮間が噛み締めるように呟く。それを、顔を伏せて眠るミカドが、目を開けて聞いていた。
──────────
「はーい、お姉ちゃん可愛いね。ちょっとお話いい?」
「……はい?」
壮間と別れた後、チームメイトのもとに戻ろうした美沙羅の前を、長身の男が遮った。
キッチリしたスーツ姿の癖に髪型と髪色が派手で、言動が完全に軽薄なナンパ師。好きな人と別れた直後に最悪だ。美沙羅は黙ってスマホを出す。
「わーちょっと待ち! ごめん、怪しいもんじゃない。何も持ってない。企んでない。君、魔法少女だろ?」
「魔法少女を、知ってるんですか!?」
「まぁね、ちょっと個人的に。この街に一人で戦ってる子がいるって聞いてさ、そしたらさっきのステージよ! そしたらもうビビッと来ちまって!」
その男性は一言一言と身ぶり手ぶりが大袈裟で、大雑把で、疑う目線が跳ね返されるような眩しさがあった。
「会社作ってるんだ、魔法少女をサポートする芸能会社。プロのアイドルに興味無いか? 梓樹美沙羅さん!」
男はサングラスを外して、「奏多燈理」と書かれた名刺を差し出し、ニッと笑った。
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「かくして、鎧武の歴史を継承すると同時に、倒すべき宿敵を捉えた我が王。この本によれば、彼と戦うのは物語の最終局面。そのために我が王はまず、『新たなるジオウ』を手に入れる……はずでした」
ウィルが本を閉じた。
いつの間に盗られたのか、壮間から預かっていたウォッチが一つ消えている。
「果たして何処から何処までが彼の思惑なのか。悪役が目指す結末は何処なのか。全ては次で明らかにされるでしょう」
世界が歪み始めている。鹿目まどかの力を以てしても、彼を永劫に封印することはできなかった。目覚めの時は、近い。
「導かれてやるとしよう、その先に私の探し者がいる」
それは、予言というには余りにも血の通う熱に満ちていた。
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銀色のオーロラを通り抜けたアオイ、そして自由な付き人マティーナ。
その世界は夜だった。なんとも平和で、なんとも夢に満ちていて───今にも何かが起こりそうな、そんな夜。
「待たせたねマティ、ようやく約束の時だ。君の力を魅せてくれ」
「えー。アオイってばひどい、下心でマティちゃんに近付いたみたいじゃん!」
「ははっ、もちろん下心だよ。だが同時に君自身も愛している。悪役は常に総取りさ。奪われたものは、あらゆる卑劣と欲望で奪い返す」
「もー、でもそゆとこ嫌いじゃないし。仕方ないなぁ、久しぶりにやっちゃおっかな」
マティーナに手渡したのは、壮間たちが令央から剥ぎ取り、アオイが盗んだ青いライドウォッチ。マティーナがそれを起動すると、封じられた物語が溢れていく。
「『魔王』を倒す物語は無数にあるが、やはり相応しいのは此処しかない。ありふれた正義を紡いで、ここで決着をつけようじゃないか」
「『世界よ聞きなさい。今ここに宣言する』」
歴史が書き換わり、法則が再編されていく。
二つの物語が溶け合い、新たな
「『統制者の名の下に、バトルファイトを再開する』」
《ブレイド!》
──────────
───この世界は一度滅びかけた。
悪意の権化のような怪物。この歪んでしまった社会が作り出した恐怖の象徴によって、世界は壊れる寸前にまで追い詰められた。
壊れてしまえと、彼は思った。
それからもう1年が経とうとしている。
「クソカッケェよなぁ、オールマイト!」
すれ違う少年が言う。市民の心にゆとりが戻り、壊れた街は息を吹き返し、人々は憧れと尊敬を思い出し始めた。
この世界は完全に『ヒーロー』のものになった。
「何がヒーローだよ、くだらねぇ」
青年は吐き捨てる。
その時、着信が世界を蝕む新たな『
世界総人口の約8割が何らかの“特異体質”を持つ、生まれた時から見飽きた超人社会。『個性』や『ヒーロー』がどうとか、下らない現実の話はもうおしまいだ。
『超常』は『日常』に。
『
青年が握る切り札は、『スペードのA』。
「アンデッド出現。
これは彼が───になるまでの物語だ。
NEXT>>2004?
─────────
次回予告
戻ってきた日常を過ごす壮間たちの前に現れた『悪役』は、遂にその思惑と真実を語る。
「『仮面ライダーディケイド』なんて物語は、どの時代にも存在しない」
壮間たちは令央を倒すための力を探し、『ヒーロー』の世界へ。
「危ねぇぞ、凍っちまうから気をつけろ」
「ンなわけあるかァ! どこの田舎モンだァ!?」
世界を救ったヒーローたち『雄英高校』。
蘇る原初の因子、不死生物『アンデッド』。
「ヒーローの時代は終わりだよ。ライダーシステム、金と名誉で次の時代は俺が作る」
最後の『切り札』を握るのは、仮面ライダーブレイド。
「必ず未来を奪い返す。忘れたのか、俺はその為に時を超えた」
「俺は後悔したんだ。だからもう、助けられる人を見逃せない」
「じゃあ俺は何なんだ? 生まれてきた意味をくれよ、なぁ『
それぞれの『原点』が、交錯する。
「見たことないヒーロー……! お名前、聞いていいですか!?」
次回「ライジングエース2004」
長かった夏休み編(実は)も終わり、次回からブレイド×ヒロアカ編です。
死ぬほど長くなった鎧武編で大反省したので、しっかり考えてから臨もうと思います。でもとりあえず1話目は……早めに出せるように努力します。あとキャラ数は絞ります。本当に。
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