仮面ライダージオウ~Crossover Stories~   作:壱肆陸

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田舎出身のせいか、大学の同級生と全く波長が合いません。146です。
なんだろうね、ウェイ系の人たちと気が合う気が全くしない。まぁ恐らく僕が悪いんですけど。

愚痴は終わりにして、ビルド×バンドリ編の続きです。今回は仮面ライダービルドが……


逆転のタイムジャンプ

「お前…倒したはずじゃ!?」

 

 

破壊の音が聞こえ、羽沢珈琲店に戻った壮間。

そこにいたのは、昨日倒したはずの怪物だった。

 

怪物は倒れるAfterglowのメンバーたちを見て、理性のない声で呟く。

 

 

 

「ミツケタ……」

 

 

 

ゆっくりと彼女たちに近寄る怪物。

壮間は咄嗟にドライバーを取り出し、怪物にタックル。一時的に引き離すことに成功した。

 

 

「まさか、またコレを使うなんてな!」

 

 

壮間はドライバーを腰に装着し、ジオウライドウォッチを手に。カバーを回転させ、ボタンを押してウォッチを起動。

 

 

《ジオウ!》

 

 

ウォッチをドライバーにセットし、ロックを解除。変身待機音が流れる。

 

 

「変身!」

 

 

《ライダータイム!》

 

《仮面ライダー!ジオウ!!》

 

 

ポーズを取りドライバーを360°回転させると、背後の時計から現れた「ライダー」の文字が、宙を舞う。そして壮間の体にアーマーが出現し、複眼の部分に文字が刻まれた。

 

 

《ジカンギレード!》

 

《ケン!》

 

 

仮面ライダージオウに変身した壮間は、手元にジカンギレードケンモードを出現させ、怪物に斬りかかる。

 

斬撃音と呻き声が交互に鳴り響く中、倒れていた羽沢つぐみが体を抑えて目を覚まし、立ち上がった。

 

 

「…!羽沢さん!よかった、無事だった!」

 

「その声…日寺さん?」

 

「説明は後!早く逃げて!!」

 

 

ジオウは戦いながらそう言うが、他の4人を置いてはいけない。

つぐみは近くに倒れていた蘭の腕を肩にかけ、なんとか持ち上げる。

 

 

「つぐ…み…」

 

「…蘭ちゃん!」

 

 

目を覚ました蘭。2人は倒れている巴とひまりを見て即座に駆け寄った。

一方で戦いを続ける怪物とジオウ。ジオウはジカンギレード上部のスイッチ「ギレードリューズ」を押し、ジカンギレードがオーバーロード状態に移行。ピンク色のエネルギーが蓄えられていく。

 

 

《タイムチャージ!5・4・3・2・1…ゼロタイム!》

 

 

「せやッ!」

 

 

《ギリギリ斬り!》

 

 

 

トリガーを押すと同時に、エネルギーが斬撃となって開放。怪物の胴体に鋭い一撃が入った。

ジオウが彼女たちの方を見ると、蘭とつぐみが目を覚まさない3人を連れ、なんとか逃げようとしているのが見える。このまま怪物を引き留めておけば、無事に逃がせる。

 

 

そう思った、一瞬の油断。

それが怪物の行動を許してしまった。

 

 

《鉄球投げ…、マジシャン…、ベストマ~ッチ…》

 

 

怪物の手に鉄球が現れる。怪物がそれを高く投げ上げると、空中で巨大化。逃げる彼女たちの前に落下し、商店街の道を塞いでしまった。

 

 

「しまっ…」

 

《ボクシング…、花火職人…、ベストマ~ッチ…》

 

 

今度は怪物の両拳にエネルギー状のグローブが現れ、ジオウを殴りつける。それと同時に大爆発。派手な音と爆発と共に、ジオウは吹っ飛ばされ、さっき投げられた鉄球に激突してしまった。

 

 

「日寺さん!」

 

 

吹っ飛んだ先には逃げられずにいる蘭とつぐみが。

さっきの一撃は、かなり深い。体が激しく痛む。でも、退路は塞がれ、彼女たちは逃げることができない。

 

 

「俺が…倒すしかない…!」

 

 

ジオウはドライバーからジオウウォッチを外し、ジカンギレードにセット。

先ほどの攻撃よりも、大きなエネルギーが刃に充填されていく。

 

 

《フィニッシュタイム!》

 

 

「はぁっ!!」

 

 

《ジオウ!ギリギリスラッシュ!!》

 

 

突っ込んでくる怪物に向かい、タイミングよく剣をスイング!

斬撃は時計盤のようなエフェクトを描き、怪物の体を横一閃。真っ二つに切り裂き、怪物の体は爆散した。

 

 

「やった……」

 

 

確かに倒した。間違いなく手ごたえがあり、実感もある。

 

安堵するジオウ。しかし、一方で蘭とつぐみの記憶には異変が起きていた。

爆炎を見つめているうちに、頭にノイズがかかる。いや、違う。“ノイズが晴れていく”。激しいめまいが襲い掛かり、既に満身創痍だった蘭は倒れてしまった。つぐみは意識を保っている中、晴れたノイズから記憶が呼び覚まされる。

 

 

「ビルド……兄さん…!?兄さんなの!?」

 

「羽沢さん!?ダメだ、危ないって!」

 

 

叫ぶつぐみ。訳が分からないジオウは、爆炎に駆け寄ろうとするつぐみを止めることしかできない。

 

その時だった。

 

雨で消えかけていた爆炎が、再び大きくなる。

と思うと、今度は炎が収束していく。そう、まるで時間が遡るように。

 

 

爆炎は一点に集まり、人の形を成す。

その姿を見たジオウの心に、絶望に近い感情が生まれた。

 

ついさっき、間違いなく倒したはずの怪物。その姿が何事もなかったように、再び現れたのだ。

 

 

「嘘…だろ…?」

 

 

怪物はまたジオウに襲い掛かる。さっきの戦いで体力を消耗したジオウ、苦戦を強いられる。しかし、それだけでは終わらない。

 

 

「ソウマ!」

 

 

置いてきたはずの香奈が、走って現れる。その瞬間、ジオウは思い出した。昨日のイベント、この怪物は香奈を狙っていた。そしてウィルの言葉。

 

 

『彼は取り込んだ人間の能力を使えるらしい』

 

 

香奈の姿を見た怪物は、不気味な口で醜悪な笑顔を見せる。背中に走る強烈な悪寒。ジオウは、ようやく理解した。この怪物が、何をしようとしているのか。

 

 

「やめろぉぉぉぉッ!!」

 

 

怪物が少しかがむと、左足のバネが縮み、伸びると同時に大ジャンプ。一瞬で香奈の前まで移動し、香奈の腕を掴んで放り投げた。吹っ飛ばされた香奈はつぐみや蘭のいる場所に。

 

 

怪物は手元に2つ、ボトルを出現させる。何も入っていない、透明なボトル。ソレを香奈たちに向けた。

 

 

「やめて!!」

 

 

その時、つぐみが怪物の前に立ちふさがる。

しかし、怪物は「お前に興味はない」と言わんばかりに、つぐみを跳ね飛ばし、つぐみは意識を失ってしまった。

 

再びボトルを向け、香奈と蘭の体が粒子に分解されていく。

 

駆け出すジオウ。だが、もう遅い。

 

粒子はボトルに吸い込まれ、2つのエンプティボトルを禍々しいモノへと変異させた。

そして、怪物はソレを放り投げ……

 

 

「ダンサー…、華道…」

 

 

ボトルは怪物の歪な口の中に。

 

 

「ベストマ~ッチ!!」

 

 

「うわぁぁぁぁあぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

香奈たちが入ったボトルは、怪物に喰われた。

怒りが壮間の心を支配する。殺意のこもった叫びをあげ、ジオウは強く握りしめたジカンギレードで、怪物へと襲い掛かる。

 

 

しかし、怪物の体から凄まじいエネルギーが放出され、ジオウの体が紙切れのように吹き飛んでしまった。

 

怪物の体が光り輝いている。体の色も赤青の2色から、濁った白に。全身に禍々しいボトルが突き刺さり、見るだけで痛々しい外見に変化。

 

1年前からこの怪物によるものと思われる行方不明事件の被害者は、58人。

そして、これで“60人”となった。

 

 

怪物は手のひらをジオウへと向ける。すると、数多の色が汚らしく混ざった衝撃波が、ジオウの体を激しく痛めつける。ジオウは声にならない叫びをあげ、変身が解除。生身の日寺壮間へと戻ってしまった。

 

 

降りしきる雨。その中で怪物は高笑いし、先ほどとは比較にならない脚力でジャンプ。圧倒的な余裕を表すように、壮間に背中を見せ、姿を消した。

 

 

 

それから何分経っただろうか。

空は曇り、雨はやまない。壮間は崩れた羽沢珈琲店の壁に力なく寄りかかり、座っている。

 

最早、怒りも湧いてこない。ただ何も頭に入らず、この惨劇を見つめるだけ。

 

そうだ。最初から無理だったんだ。

カッコよく生きたいがために上部だけを取り繕ってきた人間が力を得たところで、何かを為せるわけがない。誰かを守れるわけがない。ヒーローになんか、成れるはずがない。

 

大体なんだ、何度倒しても蘇る上に、反則パワーアップって。勝てるわけないじゃないか。仕方ないんだ。俺には何もできなかった。

 

 

そう言い聞かせた所で、失ったものだけは心に残り続ける。

 

 

雨が激しくなる。

 

 

彼の叫びは雨音にかき消され、誰にも届くことは無かった。

 

 

 

 

 

_____________

 

 

 

 

 

その後、意識を失った青葉モカ、宇田川巴、上原ひまりの3人は病院に搬送。羽沢つぐみだけが軽傷で済んだ。

 

3人はまだ目を覚まさない。

壮間は廃人のような目で病院内の長椅子に座っており、その横につぐみもいる。

 

既に、香奈と蘭が怪物に吸収されたことも伝えている。

 

 

「責めないんですか…?俺の事……」

 

 

つぐみは一言も壮間を責めることをしなかった。ただ悔しそうに、涙を流すだけだった。つぐみは、壮間のせいじゃないと何度も言ってくれた。偽善を振りまいてきた壮間には分かった。それが、紛れもない本心だと。

 

 

「なんで、こんなことになっちゃったんだろう…私たちはただ、皆で一緒に…」

 

 

涙を流しながらそう呟くつぐみ。

どう言い繕っても、壮間は救えなかった。そして、香奈を失った。守れるつもりだった。その慢心が招いたのがこの結果だ。

 

壮間の心に、悔しさが溢れる。だが、あの怪物はもう手が付けられない程強くなった。もう、逃げるしか方法は……

 

 

 

「逃げるしかない。そう思っているのかな、我が王よ」

 

 

その時、目の前に現れる背の高い人影。

壮間を「我が王」と呼ぶのはただ一人、預言者ウィルだ。

 

 

「ウィル…お前、こうなることが分かってたのか…!」

 

「どうだろうね。だが、これで分かったはずだ。君はまだ、あの怪物を倒せないと。

そしてあの怪物は1年の時を費やし、高位の存在となった。彼は直に暴虐の限りを尽くし、1日後にはこの街は荒地となるだろう」

 

 

力自体では負けていなかった。だが、何度倒しても生き返るのなら、何をしたって無意味。

 

 

「君に道を与えに来たんだ。よく聞くと良い。あの怪物を倒し、吸収された人々を救う方法が、一つだけある」

 

 

その言葉に、つぐみと壮間の顔が変わる。目の前の男がどれだけ胡散臭かろうが、期待せざるを得ない。この、最悪のバッドエンドを覆す方法が、本当にあるのなら。

 

 

「一体どうやって…」

 

「簡単な話さ。あの怪物が人々を襲う前に倒してしまえばいい。君も覚えがあるはずだ、その方法に」

 

「まさか……またタイムリープを!?」

 

「少し違う。今回、君がすべきなのは“タイムスリップ”だ」

 

 

その時、病院の外から飛行機が着陸するような轟音と、機械音が聞こえた。

外に出る壮間とつぐみ、そしてウィル。そこにあったのは、巨大なビークル。黒いボディにピンクの窓。

 

 

「“タイムマジーン”。文字通り、時を超えるマシンだ。ご所望とあらば、これを我が王、君に献上しよう。ただ、話はそう単純ではない。あの怪物を倒すためには“失われた過去”に行く必要がある」

 

「失われた…過去…?」

 

「そこの彼女なら、何か分かるんじゃないかい?」

 

 

ウィルはそう言って、つぐみを指さす。

 

 

「そういえば…さっき何かを思い出したような気がします。でも、もうそれが何だったのかは……」

 

「それこそ失われた過去の記憶だ。君にその記憶があるのなら、持っているはずだ。その“鍵”を」

 

 

“鍵”と言われ、つぐみは思い出した。ジオウが使っていた、時計型のガジェット。アレには見覚えがあった。

 

ハッとした表情を見せ、つぐみはポケットから、黒い装置を取り出した。

 

 

「これって…ライドウォッチ!?」

 

 

そう、それはライドウォッチ。色は真っ黒だが、前に壮間が持っていたブランクウォッチではない。

形状はジオウライドウォッチと同じ。ただ、正面にライダーの顔は無く、歯車のようなマークと、その下に「2017」の文字が。

 

 

「1年前…ちょうど兄さんがいなくなった頃、いつの間にか持ってた物です。なんでか分かんないけど、持ってなきゃいけない気がして、ずっと持ち歩いてました」

 

 

つぐみはそのウォッチを、壮間に差し出す。

 

 

「これで蘭ちゃんや香奈さんが…皆が助かるなら…!

お願いします。私たちの日常を…皆の幸せを取り戻してください!」

 

 

そのウォッチを、壮間は取ることができなかった。

理解できない。ついさっき救えなかったんだぞ?間柄だって、今日会ったばかりの薄いものに過ぎない。俺が悪人とか、黒幕とか、無能とか、どうして考えない。何故、自分たちの運命をこんな奴に任せられる。

 

 

 

(この人もだ。なんでそうやって…)

 

 

 

分かっている。今日会った5人は皆、強い絆を持ち、本心から優しかった。友達を守るため、全く迷わず自分を犠牲にするような人たちだった。その中には、確かな、ゆずれない“自分”があった。

 

彼女は壮間を信じている。彼が、決して悪人ではないと。歴史を変えるだけの力を持っていると。わずかな付き合いでそう断定できるほど、彼女の中には信じられる“自分”があった。

 

何より、彼女は自分に力がないことも分かっていた。他人に運命を委ねる勇気があった。

 

 

どれも、壮間には無いモノ。

 

主人公の素質だ。

 

 

 

今ここで、自分だけが中途半端だ。

差し出されるウォッチを見て、堪らなく悔しくなる。

 

やめてくれ。俺はそんな人間じゃない。

俺は他人のためになんか戦えない。あなたの足元にも及ばない人間なんだ。

 

 

それでも………

 

 

 

「俺が…やるしかない……!」

 

 

 

壮間はつぐみの差し出したウォッチを受け取る。

 

香奈が幸せになれないのは、いい奴が報われないのは、何より嫌だ。

これも結局自分のためだ。いい奴が報われない物語が認められれば、俺は何を信じていけばいい。

 

香奈を守れなかったままの無様な自分を抱えながら、生きていけるわけがない。

 

この悲しみを抱えたまま…生きていけるわけがない。

 

 

 

壮間はタイムマジーンに乗り込む。

すると、受け取ったウォッチが発光し、コックピットの年代表示モニターが「2017」を自動的に示した。

 

空中に穴が開く。タイムトンネルだ。

 

 

壮間は両手で左右のレバーを掴み、思うままに叫ぶ。

 

 

「時空転移システム、起動!」

 

 

タイムマジーンが浮かび上がり、タイムトンネルに吸い込まれるように進んでいく。

その様子を祈るように見るつぐみ。そして、ウィルは本を開き、高らかに笑う。

 

 

「旅立ちの君に、この言葉を贈ろう。

“思い立ったが吉日、その日以降は全て凶日”。今、君が旅立ったことに大いなる意味がある。

 

時を越え、全ての力を手にする。それこそが時の王者。祝え!我が王が新たな一歩を踏み出した瞬間を!!」

 

 

 

タイムマジーンがタイムトンネルの奥に消える。

 

そして時代は、一年前に遡る──

 

 

 

 

___________

 

2017

 

 

「ここ…は……」

 

 

全身の痛みに叩き起こされるかのように、壮間は目を覚ました。

場所は森林。後ろには煙を出したタイムマジーンが倒れている。

 

頭が痛い。記憶が曖昧だ。

 

そうだ、思い出した。2017年に来たと同時にタイムマジーンが操縦できなくなり、そのまま落下した。なんとか外に出られたが、すぐに意識を失ってしまっていたのだ。

 

幸先は最悪。とにかく、街に出なければ……

 

 

 

「あ~っれ?何で人がいるんだァ?」

 

 

 

声が聞こえた。

壮間は反射的に後ろを向く。いや違う、上だ。

 

太い枝に少年が立っている。

目の下には縫い目のようなタトゥーが。首に巻いたスカーフは蛇皮の柄をしている。

 

 

「誰も近寄らないって聞いてたんだけどなぁ…まいっか、消せば問題ナシ!」

 

 

少年はポケットからボトルを取り出す。薄い紫のボトルで、そこに銀色の蛇のレリーフが造形されている。少年はそのボトルを軽く振り、同じように取り出した黒色の銃のような装置に装填。

 

 

《コブラ…!》

 

 

「蒸血」

 

 

《ミスト…マッチ…!》

 

 

銃口から煙、いや黒い霧が噴出。少年の体を完全に覆い隠す。

霧の中で赤い閃光が輝いた。まるで、積乱雲の中で光る雷のように。

 

 

《コ…コブラ…!コブラ…!》

 

《ファイヤー!》

 

 

変異した少年の体から蒸気が噴き出たことで霧が散り、赤と緑の稲妻が弾ける。露わになったその姿は、血のように赤いスーツに、コブラを模した緑のバイザーと胸アーマーを備えた戦士。額に一本と、首周りにマフラーのようなパイプが。

 

 

「仮面ライダー!?」

 

「ん?あー、違う違う。オレは都市伝説の正義の味方サマじゃあ無ェよ」

 

 

壮間が知るはずもない、その姿の名は──ブラッドスターク。

 

 

「今日はボーナス出たから機嫌良いんだ。だから出血大サービスっつう訳で……髪の毛一本残さず消してやるよ!」

 

 

ブラッドスタークは別のボトルを取り出し、変身銃 トランスチームガンに装填。

 

 

《フルボトル!》

 

 

銃にエネルギーが充填されていき、壮間に照準が合う。

ブラッドスタークは笑い声を上げ、愉快そうに引き金に指を掛けた。

 

壮間は瞬間的に死を悟った。

咄嗟にライドウォッチとベルトを出そうとする。だが、間に合わない。

 

いつものような卑屈な思考も、回る時間がない。

 

 

「チャオ☆」

 

 

逃げることも不可能。何もなすことが出来ないまま、ブラッドスタークの指は、引き金を──

 

 

 

 

「ッ…!?」

 

 

 

その瞬間、銃声が聞こえ、ブラッドスタークの腕が弾かれる。衝撃でブラッドスタークは木から落下。

 

壮間の後ろから、バイクのエンジン音が迫ってくる。

ブレーキと共に音が止まる。後ろにあったのは、ヘッドライトにあたる部分に歯車のような物が付いた、赤いバイク。そして、ヘルメットをかぶった人物。手にはドリルのような銃が。

 

 

「君、無事か?」

 

「あなたは…?」

 

 

その人物はヘルメットを外し、投げ捨てた。赤味がかった茶髪で、整った顔立ち。身長は高く、靴は何故か左右別のものをはいており、着ているのはアシンメトリーなデザインなロングコート。

 

 

「俺は…近所の天才科学者だよ」

 

 

男はそう言って、ブラッドスタークに向き直る。

起き上がったブラッドスタークは、その姿を見てまた笑う。

 

 

「やっぱり!毎度毎度、邪魔ばっかりしやがってよォ……!」

 

「それはこっちのセリフだ」

 

 

男はロングコートからある物を取り出した。

壮間はソレが何かが何となくわかった。男はハンドルと2つのスロットが備わった装置__ビルドドライバーを腰に装着。黄色いベルトが展開する。

 

 

 

「俺はともかく、アイツらの日常を…邪魔するな!」

 

 

ブラッドスターク同様、男もボトルを取り出した。

但し、2本の。一本は赤、もう一本は青で、男はその2本のボトルを振り出した。すると、空間に異変が起きた。空間に現れたソレを見て、壮間は驚きを隠せない。

 

 

「なんだコレ…数式!?」

 

 

そう、ボトルを振ると同時に空間に具現化した数式が現れた。カシャカシャとボトルを振る音と共に、空間が白い文字の数式で埋め尽くされていく。

 

 

 

「さぁ、実験を始めようか」

 

 

 

十分に降ったボトルの蓋を正面に合わせ、ドライバーのスロットにセット!

 

 

《ラビット!》《タンク!》

 

《ベストマッチ!!》

 

 

ハンドルを回すと、ドライバーからパイプのようなものが伸び、枝分かれし、赤と青の液体で満たされる。そして、男の前後に半身のアーマーを作り上げた。

 

 

《Are you ready?》

 

「変身!」

 

 

右の握り拳を体の前に、左手を手前に。ポーズを取った彼は、その言葉を叫ぶ。それに呼応し、半身の2つのアーマーは、彼に覆いかぶさって一つの完全な戦士となる!

 

 

《鋼のムーンサルト!ラビットタンク!!》

 

《イエーイ!!》

 

 

2色が入り混じったアーマー。複眼は両目で異なり、それぞれ兎と戦車を模している。

それを見ていた壮間は確信した。この人は、自分と同じ、仮面ライダーであると。

 

 

「俺は仮面ライダービルド。そこで見てな、未来人君」

 

 

そう言うと、ビルドはブラッドスタークに駆け出す。

左足のバネにより、一気に跳躍したビルドは一瞬で間を詰め、左腕で戦車の砲撃のような一撃を叩き込む。

 

負けじと銃撃を行うブラッドスターク。だが、ビルドは再び跳躍し、木を足場にして不規則に移動。銃弾を避けながら接近し、死角に入った瞬間、右足でキックを放つ。

 

それに気づいたブラッドスタークは、片手でその攻撃を受け止めるが、ビルドの攻撃はそれで終わらない。

 

ビルドの右足「タンクローラーシューズ」には、戦車のキャタピラが備わっている。高速移動も可能ながら、その真価は攻撃力。

 

 

「はぁっ!!」

 

「グアァッ!」

 

 

攻撃が当たると同時にキャタピラを起動し、敵の防御機構を破壊、大ダメージを与える。腕を弾かれ、その蹴りを胴体に喰らったブラッドスターク。決して浅いダメージではない。

 

 

「ま~ったハザードレベルを上げたみたいだなァ?」

 

「守んなきゃいけないモノがあるからな!」

 

「あァ…そうかよ!」

 

 

ブラッドスタークはビルドの攻撃を蛇のような攻撃でいなし、地面を這うように距離を取った。

 

 

「やめだやめだ!金にならない残業は嫌いなんだよ。

それじゃ、後は頼むぜスマッシュ連中!」

 

 

トランスチームガンから蒸気を噴出させると、一瞬でブラッドスタークは姿を消した。代わりに、木の陰から2体の怪物が現れた。

 

一体は白と青のスマートな怪物、機械的な見た目で、体から生えた棘がその凶悪性を物語っている。

 

もう一体は両腕が大きな翼となっている、赤い怪人。頭部の副翼はまるで帽子のようだ。

 

 

 

2体の怪人、ニードルスマッシュとフライングスマッシュは、纏めてビルドに襲い掛かった。理性がないように見えるが、妙に統制の取れた連携で、ビルドを追い詰める。

 

 

「それなら、コイツでどうだ」

 

 

ビルドは別のボトルを2本取り出した。紫色のボトルと、黄色のボトル。急いでフルボトルを振り、キャップを合わせて使用待機状態に。

 

 

《忍者!》《コミック!》

 

《ベストマッチ!》

 

 

ドライバーのラビット&タンクと入れ替え、ハンドルを回す。先程と同様にビルドのアーマーが「スナップライドビルダー」に出現する。

 

 

《Are you ready?》

 

 

「ビルドアップ!」

 

 

《忍びのエンタテイナー!ニンニンコミック!!》

 

《イェイ!》

 

 

さっきまで赤かったアーマーは紫に、青かった部分は黄色に変化。体の随所も変化しており、複眼は手裏剣型と原稿用紙+ペンとなっている。

 

すると、ビルドの手元にペンと四コマ漫画を模した刀 四コマ忍法刀が出現。襲い掛かるスマッシュを斬りつけながら、刀の「ボルテックトリガー」を一回だけ押した。

 

 

《分身の術!》

 

 

再びトリガーを押すと、ビルドの周辺にペンで書いたようなビルドが現れ、煙を出してなんと実体化。その数は本体と合わせて4人。数の利が一瞬で逆転した。

 

 

「やっぱ凄いよな~。コミックボトルの絵の具現化能力を、忍者ボトルと相性のいい4つの戦法に絞って簡略&自動化!しかも武器としても使える上に、何より忍者と漫画が見事に共存するこの完璧デザイン!ああ、ダメだ…我ながら最高すぎる…!」

 

 

ビルドがなんか言っている。独り言なのか、壮間に言っているのか。どっちにせよ、しゃべりながらも攻撃を止めず、なおかつ素早い動きと左腕の「リアライズペインター」で具現化された盾で、敵の攻撃を防いでいる。

 

そんな中、フライングは空中に飛び上がり、ビルドの攻撃から逃れた。

遠距離攻撃できないわけではないが、決定打に欠ける。しかし戦力をつぎ込みすぎると、ニードルにやられてしまう。

 

 

ビルドは考える。

 

 

敵の行動パターンを予測、所持ボトルの能力の把握、戦況に合った組み合わせを検索、物理学的に推測される事象の計算、自身の動きの最適化。

 

それらを脳内で行うこと“数秒”。

 

ビルドは顔を上げ、自信に満ちた声で言い放った。

 

 

 

「勝利の法則は決まった!」

 

 

 

ビルドはまた別のボトルを振り出す。今度は茶色いボトルと水色のボトル。2本のボトルを入れ替え、レバーを回転。

 

 

《カブトムシ!》《カメラ!》

 

《ベストマッチ!》

 

《Are you ready?》

 

 

「ビルドアップ!」

 

 

《密林のスクープキング!ビートルカメラ!!》

 

《イエェイ!》

 

 

右腕にカブトムシ型ドリル、左腕に一眼レフカメラのようなユニットを装備した姿、仮面ライダービルド ビートルカメラフォームに変身。

 

 

分身が消えたことで自由となったニードルが、ビルドに攻撃を仕掛ける。その鋭利な棘で攻めるも、カブトムシボトルで生み出された外骨格アーマーには、傷一つ付けられない。

 

 

「そらよっと!」

 

 

ビルドの右腕のドリルが起動。ニードルに深い一撃を突き刺し、ニードルの体が衝撃で吹っ飛ばされる。

 

と、その隙にフライングが急降下し、凄まじいスピードでビルドに襲い掛かろうとする。

 

それを予想していたビルド。ボトルを変えず、再びハンドルを回す。

ボトルの成分が活性化し、ビルドの体にエネルギーが蓄積されていく。

 

 

《Ready go!》

 

 

急降下するフライングに、ビルドは左腕のカメラレンズを向けた。

構わず突っ込んでくる敵。一方ビルドの視界には、レンズから見える景色が映っていた。

そして、フライングにピントが合った瞬間、フラッシュとシャッター音が戦場を駆ける。

 

 

次の一瞬、フライングの動きが完全に静止した。

 

 

《ボルテックフィニッシュ!》

 

《イエーイ!!》

 

 

ビルドは止まったフライングに、高速回転するドリルを突き出した。

その破壊力を前に、スマッシュの防御は無意味。緑の爆炎を上げ、大爆発した。

 

 

カメラボトルの能力は“一瞬を切り取る”能力。写真を撮られた敵は、現実世界でもその一瞬が固定される。つまり、レンズの中の領域に限り、時間を止めることが出来るのだ。

 

そして、数値にして自重の100倍の馬力を持つカブトムシ。

そのパワーを最大限込めた必殺ドリル攻撃は、当たりさえすれば大抵の敵を倒すことが出来る。

 

 

カメラで止めて、カブトムシでトドメ。それ故にベストマッチ。

しかし、その分消費する体力は大きい。

 

 

「さて、次は…」

 

 

攻撃から起き上がったニードルスマッシュ。

しかし、ここまでビルドの想定内。

 

 

《ラビット!》《タンク!》

 

《ベストマッチ!》

 

《Are you ready?》

 

 

「ビルドアップ!」

 

 

《鋼のムーンサルト!ラビットタンク!!》

 

《イエーイ!》

 

 

再びラビットタンクフォームにチェンジし、俊敏な動きで飛ばされる棘を避けながら、すかさずレバーを回転!

 

 

《Ready go!》

 

 

ラビットボトルの能力で、空高く跳躍。

すると、ビルドドライバーの機能で実体化された放物線グラフが、ニードルを挟み込む。

 

 

《ボルテックフィニッシュ!》

 

《イエーイ!!》

 

 

グラフの頂点まで飛び上がったビルドは蹴りの構えを取り、右足を突き出し、グラフを滑るようにニードルに向かっていく。

 

 

ラビットタンクは最も親和性に優れた形態。故に、より少ないエネルギーで必殺技を放てる。2度目であっても、スマッシュを倒すのに十分な火力を出すことが可能。

 

 

グラフに囚われ逃げられないニードルに、ビルドの必殺キックが炸裂、さらにキャタピラーが起動。装甲を穿ち、そのダメージがスマッシュの許容限界を超える。

 

ニードルスマッシュは爆散。フライングスマッシュ同様、動けないまま地面の上に倒れるのであった。

 

 

 

「凄い…」

 

 

 

その戦いを見ていた壮間。驚嘆せざるを得ない。

単純な形態、単純な武器しか持たないジオウと違い、ビルドは多彩なフォーム、技、武器を持つ。

 

そして特筆すべきはビルドに変身している、あの男の力だ。

能力に合わせて戦法や動きを変え、最も有効な技を構築している。あの多彩な能力に対する完璧な理解がなければ不可能だ。

 

そして計算し尽された、“勝つべくして勝つ”戦い方。

 

壮間とは、次元が違う。

 

だが何だ?この力に対する、この嫌な感じは…

 

 

 

「さて、これで一丁上がりっと」

 

 

 

必殺技を受けたスマッシュは、姿を保ったまま倒れている。

ビルドは2本の空のフルボトル エンプティボトルを取り出し、倒れているスマッシュに向けると、素体となった人間を残してスマッシュの力はボトルに吸い込まれていった。

 

 

その光景を目にすれば、嫌でも思い出す。

 

 

ついさっき、壮間の前で起こった悲劇。この時間にやって来た理由。

 

怪物が蘭と香奈を吸収した光景と、一致する。

 

 

そう考えると、仮面ライダービルドの能力、姿、ベルトのバックル。何故気付かなかったのか不思議なほど、あの怪物と瓜二つだった。

 

 

「立てるか?」

 

 

ビルドはその姿のまま、壮間に手を差し出す。

そんなビルドに、壮間は一言だけ

 

 

「アンタ、名前は」

 

 

その質問に戸惑いながらも、ビルドは答えた。

 

 

「俺は羽沢天介。天才科学者だ」

 

 

羽沢天介。話に出てきた、羽沢つぐみの兄。

 

 

“怪物と瓜二つのライダー”

 

“羽沢天介は一年前から行方不明”

 

“あの怪物は一年かけて人間を吸収した”

 

 

聞いた話から得た情報が、噛み合った。

器が大きいわけでも、冷静でも、かといって無情でもない壮間の精神状態は、既に極限。一度結論を得てしまったら、もう止まることが出来ない。

 

 

「そうか、お前が……!」

 

 

壮間はジクウドライバーを装着し、ジオウライドウォッチを起動する。

 

 

《ジオウ!》

 

 

そう、壮間が得た結論はこうだ。

 

 

“仮面ライダービルド 羽沢天介が、あの怪物の正体である”

 

 

「ここで終わらせる…お前を消して、歴史を変えて見せる!!」

 

 

ウォッチを装填し、ドライバーを回転!

 

 

 

《ライダータイム!》

 

《仮面ライダー!ジオウ!!》

 

 

 

仮面ライダージオウに変身した壮間。手元にジカンギレード剣モードを呼び出し、怒りを込め、強く握りしめる。

 

もう既に、ジオウの目に周りは写っていない。

ただ目の前にいるビルドを、倒すべき敵として捉えているだけ。

 

 

 

「うおぉぉぉぉぉ!!」

 

 

 

迷いと足りない覚悟をかき消すように叫び、ジオウがビルドに斬りかかった。

 

 

 

 

 

_______________

 

 

次回予告

 

 

「俺が倒すんだ…俺がやるしかない!」

 

「悪いけど、まだ死ぬわけにはいかないな!」

 

 

ジオウVSビルド。戦いの行方は…

 

 

「不器用でも、あたし達はらしく生きる。足跡を残すために叫ぶ。そうでないと、生きている意味がない」

 

「俺は守りたいんだよ。アイツ等の“いつも通り”を」

 

 

2017年の物語。そして、アナザービルドが誕生する。

 

 

「兄さん……」

 

「俺の…戦う理由は……!」

 

 

その答えが、王への道を開く!

 

 

「祝え!その名も仮面ライダージオウ ビルドアーマー!」

 

 

 

次回 「ビルドアップ2017」

 

 

 

「俺は貴方を越えて行く!」

 

 




スタークも出してみました。ていうか、主人公がブレッブレで卑屈で矛盾だらけで多分皆さんイライラされてると思います。まだ壮間は“自分”が掴めてないんです。次回以降はそれがテーマです。

感想、評価等よろしくお願いします!


今回の名言
「思い立ったが吉日。その日以降は全て凶日」
「トリコ」より、トリコ。

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