仮面ライダージオウ~Crossover Stories~ 作:壱肆陸
割とお久しぶりですが、もう少し開けるつもりでした。例の某和人さんの作品に触発されなければね…
まぁ、要は僕程度の奴はもっと書けってことだと思いました。
この時間のお父さん、お母さん。お元気ですか?日寺壮間です。
2018年から2017年にやって来た俺は、どうしてこうなったのか、仮面ライダービルド、羽沢天介さんの研究助手をすることになりました。
上司の天介さんは優しく、給料もいいアットホームな職場で、とても充実してます。
それでもただ一つだけ、声を大にして言いたいことがあります。それは…
「助けてくださぁぁぁぁぁぁぁぁい!!」
「おー、いい感じみたいだな。スピード上げるぞ!」
「待って死ぬ!死にますからぁぁぁぁぁぁ!!」
今、背中には機械の翼が装着され、俺は超スピードで空を飛んでいる。まるで飛行機にしがみついている気分で怖いなんてもんじゃない。楽しかったのは最初だけで、今ではもう泣きたくなってきた。ていうか泣いてる。それどころか吐いてる。
なんでこうなったのかというと、事の発端はこの間の戦闘で手に入ったボトル。
あのスマッシュとかいう怪物の力を封じ込めたボトルは、浄化することで変化するらしい。
空を飛ぶスマッシュの成分は、ジェットのボトルに変化。その結果、その力の研究の一環でこんな事になっている。
「お疲れさーん」
「うっ…気持ち悪い…また吐きそう……」
天介さんは翼からジェットフルボトルを取り外し、嬉々として何やらデータを取っている。
「ジェットボトルは案の定ジェットエンジンの代用として機能するか…ボトルを振るスピードと生み出すエネルギーは比例すると考えていいだろう。果たしてこれが飛行以外でも使えるのかどうか…」
なんかぶつくさ言ってるけど最早どうでもいい。
この人は確かに優しい。悪意は全く感じない。何が質が悪いって、一切の悪意無しでこの悪魔じみた所業を行っているという事だ。よくもこの有様であんなことを言えたものだ。
『少しでも俺が怪物になると思ったら、その時は俺を殺してくれ』
あの言葉の真意を、今も考えている。
怪物になると告げた時も、天介さんは強く否定しなかった。自分が怪物になる可能性を、肯定しているようにも見えた。
あの人は一体、何を思っているのだろう……
「よーし、じゃあ次の実験だ」
「…次?」
そう言って天介さんは、俺の手に一本のボトルを握らせる。もう既に嫌な予感しかしない。
「昨日説明したように、フルボトルは振ることで力を発揮する。そして、その力はボトルによって違うんだ」
「それは覚えてますけど…」
「それはトゲトゲのスマッシュから出来た、ハチのフルボトル。君にはこのボトルの能力を調べて欲しい」
言われるままに今度は森に。天介さんは石を掴み、俺の後ろに向けてソレを投げる。
完璧なコントロールで投げられた石は、吸い込まれるように
蜂の巣に直撃した。
「え?」
当然、巣を壊されて怒ったハチが大量に出てくる。
一方で天介さんはというと、いつの間にやら自分だけ安全な距離まで避難してやがった。
「うそぉぉぉぉぉぉっ!?」
襲い掛かるハチの大群に、俺は逃げる。一心不乱に逃げ惑う!
「おーい!ボトル!ボトル振ってみ!」
「何も起きませんけど!?」
「えー?ハチを使役する能力だと思ったけど違うのか…
じゃあ後は頑張って逃げろよ!そいつらスズメバチだから二回刺されたら死ぬぞ!」
「ふざけんなぁぁぁぁぁぁっ!」
あの時、羽沢さんたちが俺を止めた理由が本当に分かった。
この人の助手は、冗談抜きで死ぬ!!
___________
「し…死ぬかと思った…」
命からがらスズメバチから逃げた俺は、また天介さんに連れられて何処かに向かっていた。
「次は何ですか?人体実験?生物兵器ですか!?」
「何言ってんだ。そんな酷い事するわけないだろ?」
「どの口が言ってるんですか」
天介さんは完全に警戒100%の俺を引っ張り、到着したのは…
「ここって…」
「俺たちの家、羽沢珈琲店だ」
2018年でも来た、羽沢珈琲店だった。外見は変化なし。当然だが、一年後に破壊される壁もきれいなままだ。
「これからつぐみ達の手伝いをする予定なんだけど…
そいつを君に任せる!」
「はい!?」
「じゃあ頼んだぞ!俺はちょっと所用があっから!」
文句を言わせないスピードで、天介さんはどこかに行ってしまった。
なんなんだあの人…人使い荒いし適当だし…
それでも、何故か分からない。人としてクソなのは分かったけど、怪物になるかと言われると疑問が残る。
何より、俺はあの時の目が。天介さんが変身する前に見せた目が忘れられない。
「まぁいいか。まずは手伝いってのを…」
俺はドアノブに手をかけ、そのまま停止した。
(アカン!なんか恥ずかしい!)
窓をのぞき込むと、Afterglowの5人がいる。いや、5人しかいない。
この空間に入っていくの?俺が?1人で?女子しかいない空間に?ムリムリムリ!
あー楽しそうに話してんな…余計入りづらいよ。知り合いですら話しかけんのちょっと恥ずかしいのに、これはハードル高いわ。よくよく考えれば俺が天介さんに付き合う理由がないわけで、もうこのまま帰って良いんじゃないか?
よし、そうしよう。俺にここに入っていく勇気はない!俺はかえ…
窓越しで5人と目が合った。
見つかったっぽいです。
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羽沢天介は人目がつかない場所まで移動し、軽く息を切らす。
壁に寄りかかり、変形スマートフォン ビルドフォンである番号にかける。
数秒と経たないうちに相手が受話器を取った。天介は少し笑い、ビルドフォンに語り掛けた。
「よっ、生きてるか?」
『……別に死んでないぞ?』
ビルドフォンからは、少し低い男の声が聞こえる。
「お前どこにいるんだよ。ハロハピのみんなも一緒か?」
『オーストラリアだ』
「オースト…またどうして」
『“コアラさんと一緒にライブ”というお嬢のご提案だ。俺は遅れて出発したから、まだお嬢達とは会ってない。さっき川に入ったら魚に足を食われて止血中なんだ、今忙しい』
「オイ、お前そこオーストラリアじゃくてアマゾンだ。ピラニアに襲われてんじゃないか」
『アマゾンってオーストラリアにあるんじゃないのか?』
「どっからツッコめばいいんだよ…」
天介はため息をつきながらも、一連のやりとりに慣れを感じさせる。そして少し躊躇った後、聞いた。
「なぁ、俺がスマッシュみたいな化け物になるとしたら、どうする?」
『あり得ない。お前はいいやつだ』
天介は小声で「どうするって聞いてんだろ」と言うが、それをかき消すように笑った。
まぁそうだろう。この男なら、そう即答するに決まっていた。
「今日ばかりは、そのバカさが嬉しいよ」
『バカって誰の事だ』
「お前だよバカ。じゃあな」
天介は電話を切った。少し名残惜しそうに。
ビルドフォンをバイクに変形させ、ヘルメットをかぶり、またがる。
そしてエンジンをかけ、商店街を出る方向にバイクを走らせた。
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「えーっと…」
「どうしたんですか。するなら早く始めてください」
美竹さんに急かされ、状況を確認する。強引に店内に引き込まれた俺は事情を説明。天介さんの代役だと伝えた。
で、今は5人が机を囲んで教科書や問題集を開いている。
「これは…夏休みの宿題?」
「そうですけど…それが何か」
美竹さん怖い…てか、手伝いって家庭教師かい!!
「すいません、日寺さん…でしたっけ?
兄さんの助手ってだけで大変なのに、こんなことまで…」
「あ、いえ。こっちこそすいません。その…」
「蘭は天さん来なくて不機嫌みたいだけど…気にしないでください」
「巴…余計なこと言わないで」
「ひーちゃん以外は大体終わってるんで~後で日寺さんも一緒にスゴロクしましょ~!」
「ちょっと待ってモカ、私だけ仲間外れ!?」
そんなこんなで宿題が始まった。こんなことをしてていいのか?とも思うけど。
それにしても夏休みだったのか…2018年は春だったけど、ピッタリ1年戻ったってわけでもないのか。
2018年でこの5人は2年生だったから、今は1年生か。ざっと見たところ、のんびりしてそうな青葉さんは案外できてる。あれ?俺が1年のときここまで頭良かったか?
本当に皆けっこう終わっているが、上原さんはヒーヒー言いながら解いている。そのくせ集中力は散漫。こっちの方がシンパシーを感じる光景だ。
「……」
俺の出番無くね?
これお茶でも入れた方がいいのか?いやでも淹れ方分かんねぇし、大体ここ珈琲店だ。珈琲こそ分からん。
やることがない。まるで空気のよう。泣きたくなってきた。
「すいません、ここなんですけど…」
「ハイ、今行きます!」
羽沢さんのヘルプに、待ってましたと言わんばかりの俺。気を使ってくれたんだろうが、今はそれでもありがたい。
「これはね…ここで置換して……」
数学の問題だったが、なんとか教えられた。ていうか、仮にも難関に引っかかった大学生(元)だからね。できないとヤバい。
すると、羽沢さんは意外そうに。
「日寺さん、賢いんですね!」
それは馬鹿に見えるってことですか?
おっといかん、少々卑屈過ぎだ。あっちはそんなこと思ってない…はず。
「兄さんの助手をしたいって言うくらいだから…将来は研究者ですか?」
「え?」
「あ、それ私も気になる!」
「ひまりは手を動かして」
「ちぇ~、蘭のケチ」
将来…か。そういえば、大学を目指したのも何でだったか。
別に就職に有利とか考えてたわけでも、夢があったわけでもない。こんなので難関に受かってしまった。
俺がいなければ、夢のある人が1人、目標に近付けていたかもしれない。そう思うと、申し訳ない気持ちになる。
ダメだ。考えれば考えるほど、自分を否定してしまう。
「俺の夢なんかよりさ、君たちの夢とか…そういうのは?」
誤魔化すように話しを強引に変えると、皆の視線が羽沢さんに集まる。「私?」「言いだしっぺじゃん」みたいな会話の後、羽沢さんは少し改まって口を開いた。
「武道館…です!」
その言葉を理解するまでに少しかかった後、思わず口に微笑を浮かべてしまう。
「へ…変ですか!?」
「いや、ごめんなさい。そういうのじゃなく、なんか…やっぱり凄いなって…」
この5人はバンドを組んでるんだった。中学生の頃に組んだとは聞いてたけど、それが夢にまでなるとは。それが本気なのは見ればわかった。
やっぱり彼女たちは主人公の器だ。
「俺なんかとは…違うよな」
思わず口からそんな言葉が出てしまった。
馬鹿か、そんなことを彼女たちに言ってどうするんだ。
空気を戻そうと、問題の解説を続けようとする。そんな時、
バン!
机を叩く音が部屋に響く。静寂が漂う中、美竹さんが机に手を置き、立ち上がっていた。
「それ、どういう意味ですか」
知っている限りだが、美竹さんはいつも少し怖い。
でも今は明らかに違う。その眼は俺に向けて刺々しい何かを放っていた。そう、それは嫌悪感のような。
「…そのままですよ。本気になれて、強い意思があって、夢があって、覚悟があって…
俺にはどれも無い。あなた達と俺なんかじゃ、比べるのも失礼だ」
「つぐみに勉強教えてたじゃないですか。それを言ったら、あたし達も日寺さんより勉強はできません」
「そんな奴はどこにでもいる。そんなのには…意味なんてないんです」
美竹さんが増々イラ立っているのが分かる。周りの4人はなだめているが、依然として敵意を放っている。
そうだ、拒絶すればいい。俺はその程度の人間だ。主人公になんてなれやしない。
「さっきから聞いてれば、自分なんかとか意味がないとか。自己否定がそんなに楽しいですか!?そんなのは傷付きたくないだけの、ただの自己満です!」
美竹さんがそう言った。
そうか、自己満足か。そうだよな、俺の考えることなんて所詮はそんなもんなんだ。
「うん…やっぱりそうだよな」
「ッ…!」
諦めたのか、失望したのか。美竹さんの肩の力が抜けたように見えた。
すると美竹さんは周りの4人と目を合わせた。まずは青葉さん、その次に羽沢さん。宇田川さんに、少し遅れて上原さんが何かを理解したようで、笑ってオッケーサインを出す。
そして美竹さんは少し冷たい表情を俺に向け、こう言った。
「今日の夕方、CiRCLEに来てください」
_____________
そして夕方。
あの後も天介さんから連絡は無し。依然として俺はフリー。
言われたとおりにライブハウスCiRCLEまでやって来た。ここの地下がビルドラボなんだよなぁ…そっちに来いってことかな?いやでもCiRCLEまでって言ってたし…
取り敢えず扉を開けると、今日の朝には閉まっていた奥の扉が、スタジオの扉が開いていた。そこからギターの音が漏れ聞こえてくる。
まさかと思い扉をくぐった。そこには、練習着に着替えた彼女らが。Afterglowの5人が各々の楽器をセッティングし、待ち構えていた。
「そこ座ってください」
美竹さんが結構冷たく言い放つ。言われたままに床に体育座りした。
そういえば彼女たちの楽器担当も知らなかった。羽沢さんはキーボード、上原さんはベース?だっけか。宇田川さんはドラム、青葉さんと美竹さんはギターだ、2人いるのか。いや、美竹さんの前にはマイクが置いてある。ギターボーカルってやつか。
宇田川さんがドラムスティックでテンポを取り始める。まずはギターとドラムがメロディを刻み、キーボードとベースが加わって勢いが加速する。
そして、激しい音と詩が一つになる。
彼女たちは俺にこの音楽を聴かせたかった、というのはすぐに分かった。
それだけに心に響いた。
──僕は僕、君は君。生きよう。
──say! “That is how I roll”!!
思えば、音楽を真剣に聞いたことも無かった。こんなにも強い力を持つことを知らなかった。演奏を終えて少し汗をかいている美竹さんは、マイク越しに問いかける。
「不器用でも、あたし達はらしく生きる。足跡残すために叫ぶ。そうでないと、生きている意味がない。そう思ってます。日寺さんはどうなんですか」
分かった。俺になかった最も大きなもの。それは“自分”だ。
俺の行動も、考えも、主人公という憧れの質の低い模倣。他人に依存した人格。否定して、矛盾して、自分が分からないとかほざいてた結論がこうだ。
最初からそこに、俺なんていなかった。
「やっぱり、俺には何も…」
「そうじゃない!」
美竹さんの言葉が、俺の思考を断ち切った。
下を向いていた俺は、ふと彼女たちを見た。その目は真っ直ぐ、俺に向かっていた。
「考えを押し付けるつもりはありません。でも、日寺さんは自分を低く見過ぎてる。まるで、自分に価値がないみたいに。そうじゃないと思います。誰の中にだって、誇れる“自分”があるはずです」
「俺の中にも……」
それが本当なのかも、何が自分なのかもまだ分からない。
でも、やっぱり人に依存しすぎなんだろうか。誰かにそう言ってもらえるだけで、こんなにも嬉しいなんて。
「そうそう~モカちゃんはカロリーをひーちゃんに遅れるんですよ~」
「ちょっとモカ!?」
「そういう話じゃないと思うぞー」
「え~そうなの?」
特技紹介とでも思ったのか、青葉さんがなんかよく分からないことを言い出す。不覚にも少し笑ってしまった。
「なんで俺にそこまでしてくれたんですか。会ったばかりなのに」
「それは…」
そう、彼女らと会ったのは未来。今の彼女らは俺が仮面ライダーということも知らない、ただの一般人のはずだ。それがどうしても気になっていた。
言いあぐねている美竹さんを見て、羽沢さんが。
「多分、思い出したんだと思います。兄さんと初めて会った頃のこと」
「初めて会ったって…みんな幼馴染なんじゃ…」
すると、羽沢さんは黙って首を横に振った。
「兄さんは6年前、私の両親が引き取った養子。血の繋がってない兄なんです」
驚いたが、少し腑に落ちた。天介さんと羽沢さんはあまり似てなかったのは気のせいじゃなかった。容姿もだが、雰囲気も。
その後、羽沢さんから詳しい話を聞いた。
天介さんは記憶喪失の状態で羽沢家に引き取られたという。身元も全く分からず、自分の事が一つも分からない。周りの人たちは家族だったり友達だったりと輪が出来上がってて、そこに自分の居場所は無いと思っていたらしい。
羽沢さんたちも近づこうとしたのだが、「僕がいたって邪魔なだけ」の一点張りだったと。店の手伝いを誘ったときも「僕なんかができるわけない。余計な事をして迷惑かけたくない」と言ったらしい。今の彼からは考えられない過去だ。
天介さんは何も欲しがろうとせず、ただ迷惑をかけないように、食事もとらずに何もせず部屋の隅に引きこもってたらしい。家出も何度もし、そんな状態が半年続いたという。
「その時の蘭ちゃんも、そんな兄さんを見てはイライラしてました。多分そこが日寺さんと重なったんだと思います」
「あの時は楽しかったな!天さんを毎日無理やり引っ張り出しては、色んな遊びで皆でボッコボコにしたっけ」
「まぁ、すぐに才能が開花して勝てなくなったんだけど…」
「蘭は今でもたまに泣かされるよね~」
「今も昔も泣かされたことないし」
あの自信満々の問題児ぶりは、ここから来てたのか。きっと天介さんも変わらないといけないと思って、あんな極端なキャラになったんだろう。今でも家に帰らないことが多いのは、昔の名残なのか。
という事は天介さんも、最初は俺と同じだったのか?
その時、俺の携帯にメール着信が入った。
確認すると、天介さんからだった。集合場所が書かれてある。
「俺、ちょっと用事が」
俺は急いでスタジオから出ようとするが、少し立ち止まった。
そうだ、お礼を言わなきゃいけない。“俺”を肯定してくれた、彼女たちに。
「ありがとう」
いつぶりだったろうか。その時の俺は、とても自然に笑えた気がした。
___________
「遅いぞ!」
「す…すいません…」
指定された場所までダッシュで行くと、バイクにまたがった天介さんが待っていた。天介さんからヘルメットを受け取り、俺はその後ろに乗る。
エンジンがかかり、バイクが動き出す。
「俺、羽沢さん達から聞きました。天介さんのこと」
「そうか」
「聞いてもいいですか?天介さんの“自分”って、何なのか」
しばらくエンジン音だけが聞こえていたが、天介さんは前を向いたまま語り始めた。
「6年前の話は聞いたんだよな?今から話すのは、1年前の話だ。
俺は父さんや母さんに恩を返すため、独自で研究をしてた。したら、都内の研究所からスカウトが来たんだ。
しばらくはそこで働いて、成果も出した。でも、結論から言うと、そこはネビュラガスの研究所だった」
「ネビュラガス?」
「パンドラボックスっていう箱に入ってるガス。仮面ライダービルドの力の源にして、人を怪物に変えるガスだ。研究自体は昔からあったが、俺はそれを取り返しのつかないところまで進めてしまった。
そういう意味じゃ、スマッシュを作ったのは俺だ」
その後も話は続いた。それに気づいた天介さんはデータを破棄しようとするが、時はすでに遅し。拘束され、証拠隠滅のために高濃度ネビュラガスを体内に注入された。たまたま耐性があったため一命はとりとめたが、体の構造は人間から離れてしまったという。
これで怪物の話を肯定した理由が分かった。天介さんはきっと、自分がいつスマッシュのような怪物になってもおかしくないと思ってる。
「俺は怪物を作り、挙句の果てに怪物になった。因果応報だな。皆には、恩を仇で返すことになっちまった。それでもアイツらは…もう一度、“いつも通り”俺を受け入れてくれたんだ。その時、覚悟が決まった。
この命が尽きるまで…いや、尽きたとしても。俺は守りたいんだよ、アイツらの“いつも通り”を。それが俺の“自分”。戦う理由ってやつだ」
「戦う理由…」
「結構大事だぞ。仮面ライダーは、力だけ見りゃ兵器と変わらない。理性のない怪物との違いってのは、結局はそこだけだ。お前には無いのか?」
「俺の…戦う理由は……」
それが、“自分を見つける”ってことなのか?
なんて考えていると、バイクが止まった。もう日が落ちて暗くなる空の前に、高層ビルが佇んでいる。
「さて、おしゃべりの時間は終わりだ。ここにはパンドラパネルっていうヤベーのが置いてある」
「何ですかソレ」
「スカイウォール計画の鍵…って言っても分からないか、暇があれば教えてやるよ。
俺達の仕事は、パンドラパネルを敵から守ることなんだが…ちょっと遅かったか?」
登りかけた月が揺れるほどの爆発音。ビルの最上階の窓ガラスが砕け散り、黒煙が上がっている。
そして、そこから飛び去る黒い翼。
「あれって…」
「派手にやったな。どうやら、もう奪われたらしい」
「早く追わないと!」
「いや、いい。ここまで計画通りだ」
妙に落ち着いた口調で、天介さんは言った。
そういえば、ビルの大きさに対して逃げ出てくる人の数が少ない…気がする。
「パンドラパネルには発信機を付けておいた。これで敵の本拠地を掴む」
「最初からそれを…でも、そんなの気付かれるんじゃ!?」
「まぁ気付かれるだろうな。でも、それでいいんだ。
邪魔な俺が攻めてくるなら、スタークなら逃げずに戦力を投入して応戦するはず。そこで俺達が戦力を削ぎ落す。幸いにも、アイツらはお前の力を知らないからな。手を貸してくれるか?」
流石だ。俺が来たのは予想外だったに違いないのに、短時間でこんな作戦を用意するなんて。
Afterglowのライブも近いと言っていた。きっと天介さんは一刻も早く敵を倒し、彼女たちの日常を守りたいんだろう。この危険な作戦には、それだけの覚悟を感じた。
まぁ、それに割と部外者な俺を巻き込むのも流石だと思うが。
きっとこれは、仮にも力を得た者の責務というやつだろう。俺は黙って頷いた。
「やっぱり…違う」
この時、俺はなんの証拠も無しに心から確信した。
これだけの人があんな化け物になるなんて、思えない。
2018年のあの怪物は、天介さんじゃない。
その時、俺は天介さんの呟きに気付かなかった。
「これが…最後の戦いだ」
気付くべきだった。そうすれば、きっと未来は…
____________
日が落ちて数刻、月も登りきった頃。
男はとあるライブハウスに入ろうとしたが、扉を開けずに引き返した。
身長は平均的で、少しクセのついた黒髪。服装は会社帰りのようなスーツ姿。その表情からは自信のなさが感じられる。パッと見は残業終わりのサラリーマンだ。しかし、それにしては少し若い印象を受ける。
「よォ、お疲れさん」
男の前に現れたのは、蛇柄のスカーフを巻いた少年。天介が呼ぶところの、スタークだ。
「パンドラパネルに発信機が付けてあった。近いうちに攻めてくるだろうよ。殲滅はオマエに任せるぜ。そうだな…勝てば親父さんも認めてくれるかもなァ?」
それだけ言ってスタークは消えてしまった。
男はポケットからボトルを取り出す。コウモリのレリーフが彫られた、薄い紫のボトル。
父親がくれた、唯一の信頼。
いや、分かっている。父は自分を信頼なんてしていない。
幼いころからあらゆる手を尽くした教育を受けた。それで分かったのは、自分に才能がないことだけだった。
父はそんな息子に失望し、毎日のように罵声を浴びせた。
そして回ってきたのは、こんな汚れ仕事だった。
きっと今回の作戦もそうだ。万が一失敗しても損失のない駒として、利用されただけだ。
「違う…俺にももっと才能があれば…!俺だって本当は……!」
男はコウモリのボトルを握りしめ、叩き付けるように手から放った。
しかし、ボトルは地面に激突することは無かった。
男は驚き辺りを見回すと、再び驚く。
ボトルだけじゃない。飛んでいく木の葉、街灯に群がる虫、道路の車。全てが自分を残して静止している。
「何だ…これは…?」
「聞いたよ、アンタの願い」
緑の変わった服を着て飴をなめている少年が、前に立っていた。
状況が理解できないまま、少年は男の前に歩み寄ってくる。
「僕はタイムジャッカーのヴォード。嫌いなんだけどね、この名前。さてと、才能が欲しいんだっけ?あんまり気乗りしないけど…」
少年は黒い装置を、ブランクライドウォッチを取り出した。
すると、ブランクウォッチは瞬く間に姿を変えた。その文字盤には、ビルドを歪めたような怪物の顔が。
少年はソレを男に差し出し、一言だけ囁いた。
「で、どうする?」
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預言者ウィル。彼は本を開いて悠然と語る。
「今、ここが歴史の転換点。この結末を変えられるかどうか…全ては我が王、ジオウに委ねられました」
本を閉じた。
これは、少し未来の光景。
「天介さん!」
アナザービルドはビルドの首を掴み、高く持ち上げる。
ビルドの体からは力が抜けていき、抵抗することもできない。
叫ぶジオウ。しかし、その手が届く距離ではない。
その叫びはアナザービルドに聞こえていないのか、意にも介さずその手に力を籠める。
そして、アナザービルドはビルドを手から離す。
倒れるビルド。そして、アナザービルドの踏みつけるような蹴りが
ビルドの体を粉砕した。
ヴォードの名前は、ロシア語で「今日」を意味する「シヴォードニア」からです。本当はツァイトが良かったんだけどね~先越されたんですよ。
評価、感想お願いいたします!