仮面ライダージオウ~Crossover Stories~ 作:壱肆陸
また触発されて書きました。サブタイトルから分かる通り、あの回です。10000字でここまで時間かかるとは…相当退化してますね。
今回は壮間が一皮剥けて若干踏み外します。
時刻は昼過ぎ。ビルドラボの電気は消えており、誰もいない。
ただ天介の開発用デスクに、水色でスパナのようなハンドルが備わったドライバー、そして青い龍が描かれたゼリーパックのような物が、メッセージの書かれた紙と共に置いてあった。
天介がいたのは羽沢珈琲店。今日が定休日だというのは分かっていた。もちろん、今日はAfterglowのライブで、つぐみはいないということも。
言葉はいらない。ただ深く息を吸い、ここに来てからの6年間を噛みしめるように思い出す。
そして目を閉じ、背を向けた。
「どこ行くの」
店の奥からその声が聞こえた時、天介は「ギクッ!」と声に出すようなリアクションで振り返った。誰なのかは見なくても分かってる。
「つぐみ…お前、ライブに行ったんじゃ」
「忘れ物」
「そうか、それは珍しいな。それじゃ…」
「待って!」
足早に立ち去ろうとする天介を、つぐみは袖を掴んで引き留める。
「ライブ、来てくれないの?みんな、今日は兄さんが来るからって楽しみにしてたんだよ!?」
「ちょっと遅れるけど、ちゃんと行くって。だから…」
「嘘。だって兄さん、昔みたいな顔してる」
つぐみは周りをよく見ている。自分の事より人の事に関心があるタイプだからだ。血は繋がっていなくても、そこは天介とよく似ていた。
やっぱり、彼女に嘘は付けない。
でも、ここで退くわけにはいかなかった。
そして、それはつぐみも分かっていた。
だから
「また演奏するから。兄さんのために、みんなで。
だから絶対……」
「あぁ、帰ってくるよ。約束だ」
天介は泣きそうなつぐみの頭に手を乗せ、笑った。
こんな約束が楔になんてならないのも分かっていた。
それでも言わずにはいられなかった。言わなければ、“その後悔すら忘れてしまう”気がして…
顔を上げた時には、そこに彼の姿は無かった。
___________
「すごいな、なんだよあのガーディアンの数」
「だよな。なんでも近々、仮面ライダーが攻めてくるらしいぜ」
地下の研究室で、防護服を纏った2人の男が気楽そうに話している。
ここでは、ネビュラガスで人間をスマッシュ化させる研究がおこなわれている。まさに悪のアジトといったところだ。
「あの数を相手取るのかよ!正義のヒーロー様が可哀そうに」
「それもそうだな!死んだあと念仏でも上げてやるか?」
冗談を言って頭が悪そうな笑いを上げる研究員。そんな片方に、フラフラと歩いてくる人影がぶつかった。
しかし、その人物はぶつかった事に気付いていないように歩き続ける。そんな姿を気味悪そうに見る研究員。
「ありゃ四谷か?我らがナイトローグ様がなんてザマだ」
「惨めだよなぁ。才能が無くて親に見放され、こんな危ない仕事しかできないなんて」
そう言ってまた笑う。
そして、その笑い声を耳にも入れず、ただフラフラと歩き続ける生気の無い男──
「この戦いで…この戦いで俺は……」
取り出したコウモリのフルボトルを軽く振り、変身銃トランスチームガンに装填する。
《バット…!》
「蒸血…!」
《ミスト…マッチ…!》
《バット…!バ…バット…!》
《ファイヤー!》
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「落ち着け落ち着け…下手したら死ぬとか考えるな落ち着け。本番前はちゃんと練習や復習を…あれ?とにかく今は素数を数えて気を…あと手に人書いて…」
「お手本かってくらいビビってるな。こんなんで寿命縮んでたら、仮面ライダーやってけないぞ?」
「この力貰ったの最近ですよ!?いや、ま正確には来年だけど。とにかく、すぐにホイホイ順応する方がおかしいんです!」
バイクでしばらく走り、バイクから降りて歩く天介と壮間。
向かう先は言うまでもなく、パンドラパネルの発信機が示す場所。すぐにソレは姿を現した。
「さてと、随分と豪勢なお出迎えじゃないの」
「うっそぉ…」
眼前にいるのは、数百にも及ぶ機械兵士 通称“ガーディアン”。その中には少数ではあるがスマッシュの姿も確認できた。
「行くぜ、助手君!」
「あぁもう!やるしかない!」
天介はビルドドライバーを、壮間はジクウドライバーを装着。それぞれフルボトルとジオウライドウォッチを取り出す。
《ラビット!》《タンク!》
《ベストマッチ!》
《ジオウ!》
それぞれアイテムをベルトに装填し、変身待機状態に。
ポーズを構え、戦いのゴングを叫ぶ!
《Are you ready?》
「「変身!」」
《鋼のムーンサルト!ラビットタンク!!》
《イエーイ!》
《ライダータイム!》
《仮面ライダー!ジオウ!!》
仮面ライダービルド、仮面ライダージオウはそれぞれ、ドリルクラッシャーとジカンギレードを持ってガーディアン軍団に斬りかかる。
ガーディアンは一体一体は弱く、容易に破壊できる。しかし、数が多い。遠方からのライフル攻撃が着実にダメージを蓄積させていく。
「それならコイツだ!」
ビルドが2本の青いボトルを取り出すと、ジオウはそのうち一本を見て「ゲッ…」と物凄く嫌そうな声を出した。
ビルドはそれらのボトルを振り、ドライバーに装填。レバーを回してフォームチェンジ。
《クジラ!》《ジェット!》
《ベストマッチ!》
「ビルドアップ!」
《天翔けるビッグウェーブ!クジラジェット!!》
《イェイ…!》
ビルドにしては珍しい、両サイド青系統のベストマッチ。空中を駆け巡るジェットと海を制するクジラの力を併せ持つ、難攻不落の飛行要塞。仮面ライダービルド クジラジェットフォーム。
飛行ユニット「エイセスウィング」を起動させ、亜音速の衝撃波で周囲のガーディアンを粉砕し、飛び上がる。
空中では胸部アーマーから戦闘機型ドローンを多数出撃させ、制御しながら自身もドリルクラッシャーガンモードと右腕の「スパウトグローブ」から放たれるウォーターカッターによる遠距離攻撃でガーディアン達を殲滅していった。
「すげぇ…」
なんて感心していると、拳を握り固めたような姿のスマッシュ、ストロングスマッシュの剛腕がジオウに襲い掛かる。
重いのを一発喰らったが、ビルドがガーディアンを減らしたおかげでスマッシュに集中できる。大ぶりの攻撃を落ち着いて躱し、ジカンギレードで一閃。
《フィニッシュタイム!》
「これでどうだ!」
《ジオウ!ギリギリスラッシュ!!》
ジカンギレードにウォッチを装填し、必殺技を発動。ピンク色の斬撃がストロングスマッシュと周囲のガーディアンを薙ぎ払った。
スマッシュは成分を採取しない限り姿はそのまま。邪魔なので適当にストロングスマッシュをぶん投げ、ジオウは他の敵へ向かった。
何よりビルドの的確な攻撃が敵の数を順調に減らしている。未だ相当数残っているが、これは時間の問題。
そう思った、その時だった。
「ッ…!」
空中のビルドに黒い飛翔物体が激突。その一撃でジェットサイドにダメージが入り、そのまま落下してしまう。
「来やがったな…ナイトローグ!」
黒いボディにコウモリを象った黄色いゴーグルと胸アーマー。体から上向きに生えるパイプはガスを排出する煙突を彷彿とさせる。
その名はナイトローグ。トランスチームシステムで変身する、もう一人の悪の戦士。
「スタークも出せよ。ここで全て終わらせてやる」
「それは…俺など眼中に無いとでも言いたいのかッ!」
ナイトローグが右腕を上げると、待機していた数十体のガーディアンが集まり、重なり始める。まるで大がかりな組体操のように規則的に積みあがっていくガーディアンの体は脚の形状となり、瞬く間にボディを形成。
そこに出来上がったのは、全長7mを超える破壊兵器だった。
「決着といこうか、ナイトローグ!」
《ラビットタンクスパークリング!》
ラビットタンクスパークリングを取り出しタブを開け、ドライバーに装填。スパークリング用のスナップライドビルダーが展開される。
「ビルドアップ!」
《シュワっと弾ける!ラビットタンクスパークリング!!》
《イェイイエーイ!》
「勝利の法則は決まった!」
「捻り潰せ、ガーディアン!」
仮面ライダービルドはクジラジェットからラビットタンクスパークリングフォームにビルドアップ。合体ガーディアンはその巨体と重量でビルドを踏みつぶそうとするが、
「遅い!」
一瞬で合体ガーディアンの背後に回るビルド。それもそうだ、ラピッドバブルとラビットサイドが生み出す圧倒的運動速度。それこそがスパークリングの最大の武器。
さらにビルドは空中に泡を作り出し、それを足場にして跳躍。
ドリルクラッシャーにハチボトルを装填し、合体ガーディアンに突き出す。
《ボルテックブレイク!》
スズメバチの力を帯びた刺突が、合体ガーディアンの右足付け根を粉砕。かろうじて立っているが、これで機動力は奪った。
「すっげ…もう天介さんだけでいいんじゃないかな?」
余ったガーディアンに対処するジオウだが、ビルドのあの強さを見るとそう思ってしまう。
自分にできるのは残りのスマッシュの撃破。幸い、前に見た個体よりも弱い。これならジオウの力でも十分戦える。
「行くぞ!」
ジカンギレードを銃モードに切り替える。ガーディアンに命中すると、「ジュウ」の文字が刻まれ爆散した。
一方でビルドVSナイトローグ。ナイトローグはコウモリボトルの力で翼を展開し、スチームブレードで斬りかかる。
「ビルドぉッ!」
《エレキスチーム!》
電撃を放ち、空中を蹴るように移動するビルドを攻撃。怯んだところをトランスチームガンで撃ち落とそうとするが、防御機能も大幅に上がっているスパークリングの前には、大した意味を成さない。
「スタークがよく言ってるだろ。俺はもう、お前のハザードレベルを超えている!」
「黙れ黙れ黙れェッ!!」
合体ガーディアンの援護連続射撃もかわしつつ、ビルドは海賊レッシャーフォーム専用ベストマッチウェポン カイゾクハッシャーを呼び出し、電車型攻撃ユニット「ビルドアロー号」を引いてエネルギーを充填。
《各駅電車》《急行電車》
《出発!》
カイゾクハッシャーから三つのエネルギー弾が放たれ、ナイトローグに命中。
その瞬間を見計らい、ビルドはドライバーのレバーを回した。
ビルドの全身から赤青白の泡が溢れ出し、ナイトローグの背後にワームホールの幾何学構造が現れる。ワームホールの吸引力に抗ったところで、ナイトローグに出来るのはその場で往生することのみ。
《Ready go!》
「これで終わりだ!」
《スパークリングフィニッシュ!》
弾けた泡が推進力と変わり、ビルドを加速させる。ビルドの必殺キックが炸裂すると同時に、無数の青いインパクトバブルが破裂。さらに赤いラピッドバブルを破裂させ、凄まじい勢いでナイトローグをワームホールに放り出す。
白い泡──ディメンションバブルが空間を歪めた先には、合体ガーディアン。
「グアァァァァッ!!」
ビルドの着地を待っていたかのようなタイミングで、ナイトローグは合体ガーディアンと激突し、大爆発。断末魔を上げ、その姿は爆炎の中に消えた。
「喰らえ!」
《ジオウ!スレスレシューティング!!》
ジオウの砲撃がミラージュスマッシュを撃破し、残すは10数体のガーディアンのみ。勝敗は…誰の目にも明らかだった。
壮間が安堵する一方で、天介は油断しない。奴らが易々とアジトを手放すとは思えない。スタークが何か手を打ってくるはず…
が、しかし。まずはナイトローグの確認が先決だ。ビルドは爆炎から現れる影に目を凝らす。
そこに浮かび上がってきたのは、見覚えのある男の姿だった。
「な…四谷さん!?」
四谷西哉は、閉店したライブハウスSPACEによく顔を出していた人物だ。Afterglowとの直接な関わりは少ないが、Poppin'Partyともよく絡んでいた天介とは顔なじみだった。
ジオウも「え、誰?」と近寄る。炎の中で四谷は力なく佇んでいたかと思うと、突然走り出した。
「追うぞ!」
「え…あ、はい!」
四谷が走っていった先は、発信機が示す場所の方向。そう、アジトの内部だった。
罠を警戒して変身したまま追うが、到着したのは中心部。人間をスマッシュ化させる水槽のような装置が安置されていた。
「なんのつもりだ四谷さん…いや、ナイトローグ!」
「羽沢天介…俺は貴方が羨ましい。俺は才能がないせいで、父にも反抗できず、何一つ自由なんて無かった。貴方のような才能さえあれば…俺にだって成れたはずなんだ。彼女たちに誇れる、正義の味方に!」
その言葉を聞き、壮間は既視感を覚える。その正体はすぐに分かった、自分自身だ。
主人公に…正義のヒーローになりたいがために、奇跡と力を望んでいる。
彼もまた、“自分”がない人間だ。
それを否定することは、壮間にはできなかった。
「だから…今、俺は変わる」
そう言って四谷が取り出したモノを見て、壮間は戦慄した。それは恐怖か、絶対に忘れることのできない顔が…2018年に現れた怪物の顔が刻まれた、黒いライドウォッチ。
「今日から俺が!“仮面ライダービルド”だ!!」
《ビルドォ…》
ウォッチを起動させ、自信の体に埋め込む。
不気味な軌道音と共に、四谷の体が変異。見なくたって分かる。そこに現れるのは、赤色と青色の異形。背面には「2017」、正面には「BUILD」の文字。
「まさか、アレが…」
「はい……俺達の時代に現れた…美竹さんと香奈を取り込む怪物です!!」
「ウォォォォォォ!!」
怪物の咆哮で空間に衝撃波が走る。それを受けた2人、ビルドはラビットタンクへと戻ってしまう。
「大丈夫ですか!?」
「平気だよ。それにしても…そうか……
俺じゃなかったんだな…」
身を隠しながらも、ビルドは安堵の声を上げた。
それを機に、ビルドはあることを打ち明ける。
「この作戦の結末は3つ用意しててな。一つは普通に失敗。もう一つは…作戦成功した後、俺は死ぬつもりだった」
「はぁっ!?」
「暴走してアイツらを襲うくらいなら…って話だよ。でも、違った。だったら俺は…約束を守れる」
ビルドは怪物に駆け出し、キックをお見舞いする。その一撃は怪物を怯ませた。
「最高だ!あとは四谷さんを元に戻せば、万事解決ってことだろ!」
ビルドはさらに攻撃を続ける。この怪物は、2018年ではジオウでも2回倒せている。復活するしくみは厄介であるが、天介なら問題なく倒せるはず。
そう思っていた。
「フンッ!」
「ガァハッ!」
怪物の一撃がビルドの腹部にヒット。すると、ビルドは不自然なほどに吹っ飛び、壁に激突した。
「天介さん!」
「なんだコイツのパワー…ナイトローグん時とは…比べ物にならない…!」
ジオウも応戦しているが、それほどのパワーは感じない。なんなら1年後よりも少し弱くも感じる。しかし、ビルドに対してだけダメージは大きく、反対にビルドの攻撃はダメージがほとんど残っていない。
「おかしい。一体何が……」
「教えてあげよう、我が王」
その瞬間、ビルドに襲い掛かる怪物の動きだけが止まった。まるで、時間が止まっているように。
声を聞いてわかってはいたが、その姿にジオウは驚く。
「ウィル!?なんで、ここ2017年だよ!?」
「王たるもの、細かいことは気にしないものだよ。
君が仮面ライダービルド、羽沢天介だね。私はウィル。我が王、ジオウの未来を導く預言者だ」
ビルドは色々言いたそうだが、とりあえずそれどころではない。
「何か知ってるんだよな、あの怪物の事…」
「無論。彼はアナザービルド、この物語に現れた“アナザーライダー”、つまり紛い者だ」
改めて見ると、確かにビルドを怪物にしたような姿をしている。アナザーとはよく言ったものだ。
「この本によれば、アナザーライダーは同じライダーの力でしか倒せない…とある」
「だから復活したのか…でも、それなら天介さんなら倒せるはずじゃ」
「もう一つのルールがある。
アナザーライダーの前では、そのライダーの力は大幅に弱体化されるんだ」
ビルドとジオウは納得したが、同時にその状況も理解した。
ビルドの力でないと倒せないが、ビルドの力は効かない。つまり、アナザービルドを倒すことはできない。
「なるほどな、でも……
打つ手はあるんだろ?」
ビルドがそう言ったのを聞き、ウィルはその口に笑みを浮かべる。
「もちろんだ。それは君が…」
その時、アナザービルドを縛っていた時間停止が解け、動き出した。
「私の力ではこれが限界のようだ」
「えぇっ…もうどうすれば……!」
兎に角、ビルドにアナザービルドは相性が悪い以上、ビルドに戦わせるわけにはいかない。ジオウはアナザービルドに攻めかけようとするが…
銃声が鳴り、ジオウの背中に痛みが走る。
さっき取りこぼしていた十数体のガーディアンが、ここまで追ってきたのだった。
「あぁもう!こんな時に!」
ガーディアンに対処しているうちにも、アナザービルドはビルドに襲い掛かる。明らかにビルドを狙っている。このままではマズいのは考えるまでも無かった。
アナザービルドの蹴りがビルドに入る。反撃も片手で受け止められ、拳を掴んだアナザービルドはそのままビルドを地面に叩きつけ、倒れたビルドを蹴り飛ばす。
「ハハハッ!あの仮面ライダービルドが!俺の前に太刀打ちすらできなイ!
俺ハ成ったんダ!天才二…カメンライダー二!!」
アナザービルドの理性が崩れ始める。
ジオウは感じていた。あれが…不相応な力の末路……
“戦う理由”を持たない、“自分”を見つけられなかった兵器──
そして、ビルドも。
その力は既に崩れつつあった
「悪い、つぐみ……」
____________
「天兄…来ないんだ」
今日のライブ会場。Afterglowの出番は直前に迫る中、忘れ物を取りに帰ったつぐみが戻り、天介の事を伝えた。
「えー!今日は来るって言ってたのに!」
「まぁまぁ、そう珍しいことでもないだろ?これもまた“いつも通り”だと思えばさ」
「ほらほら蘭~、そんな落ち込まないで~」
「落ち込んでないし」
そうはいいつつも、蘭の機嫌が他の3人よりも悪い。
そんな中、ひまりはつぐみの様子が気にかかる。
「つぐ、どうかした?」
「え…?いや、なんでもないよ!」
すぐにいつもの調子に戻るが、やはり少し顔が曇っている。
それでも、出せるだけの元気で、つぐみは言った。
「約束したから、帰ってから聴いてくれるって。
だからまたみんなでやろう!兄さんのためのライブ!」
5人はその胸に誓う。
今日じゃないかもしれない、少し遅くなるかもしれない。
それでも、彼が帰ってきたとき
“いつも通り”の自分達の音楽を届けることを──
___________
「セヤッ!」
ガーディアンを全て処理したジオウ。
しかし、アナザービルドはビルドに攻撃を続ける。頭を掴んで壁に打ち付け、さらに殴打で飛んで行った体を目掛けて飛び上がり、タンク側の脚でキックを突き刺した。
一撃一撃が重すぎる。もう変身解除どころか死んでもおかしくない。
それでもビルドは立ち上がった。ここで諦めれば、近い未来で守りたかったモノが壊されるのを知っているから。
「天介さん!」
アナザービルドはビルドの首を掴み、高く持ち上げる。
ビルドの体からは力が抜けていき、抵抗することもできない。
叫ぶジオウ。しかし、その手が届く距離ではない。
その叫びはアナザービルドに聞こえていないのか、意にも介さずその手に力を籠める。
そして、アナザービルドはビルドを手から離す。
倒れるビルド。そして、アナザービルドの踏みつけるような蹴りが──
どうする。届かない。天介さんが死ぬ。また救えない。
俺は弱い。俺には何もできない。倒せないなら結局はこうなる。どうしようもなかった。
諦めるのか。主人公になりたくないのか。とにかく動けよ。何かしろよ。
それに意味は無い。無駄だ。俺も死ぬ。逃げたい。俺は悪くない。
何で俺が。死んでほしくない。死にたくもない。俺何しに来たんだっけ。
こんなの反則だ。歴史は変わらない。ごめんなさい。あきらめるなよ。
なんとかしろよ。なにもできないだろ。仕方ないんだよ。どうすればいいn
『そうでないと、生きてる意味がない』
『それが俺の“自分”、戦う理由ってやつだ』
『みんなの幸せを…取り戻してください!』
いい加減気づけよ。
そうやって、考えて、否定して、肯定して、
一歩でも前に進めたのか?
「うあぁぁぁぁぁっ!!」
アナザービルドに何かが当たり、その動きが少し止まる。
それは黒いライドウォッチ。ジオウが投げつけた、つぐみから受け取り、2017年に来る際に使ったライドウォッチだった。
「才能だとか…素質だとか。偽善とか、正義だとか、憧れだとかどうでもいい!!
何も成して無い奴の戯言なんて、何の意味もないんだよ!」
アナザービルドの意識がジオウへ向いた。
この言葉は四谷西哉へか、それとも自分自身に向けたものか
「天介さんも、美竹さんも…香奈も!俺の知ってる主人公は、己の中の“自分”で何かを成してた。その先なんか知らず、己の進んだ場所を道にしていったんだ。それが主人公なんだ!だから俺は………」
思い出せ、幼き日の俺。なんでお前は主人公に憧れた。
誰かのためになりたかった?正義を信じていた?
そんなキレイな人間じゃないだろう。
俺はただ
特別になりたかった。誰かの上に立ちたかった。誰かに認めてもらいたかった。
普通でいたくなかった、そんな普通の愚かな人間。
認めろよ。それが“自分”だ。
こんな俺は誇れるかな?誰かが認めてくれるか?
当たり前だ。文句なんて言わせない。
方向は預言者に示されていた。
今までありがとう俺の英雄願望。使い古された道路はもう、いらない。
ここからは──俺の道だ
「俺は……王になる!この力で、“俺”という存在を歴史に刻む!
それが俺の戦う理由だ!」
ジオウの拳が、アナザービルドの顔面を強打。吹っ飛んだ体は壁に激突して、平伏すように倒れた。
ジオウは満身創痍のビルドに近付き、体を起こす。
気が抜けたのか、ビルドは変身が解けて、血だらけの羽沢天介の姿に戻った。
「天介さん!」
「ハハ…最っ悪だよ。王になるためって、究極の自分のためじゃねぇか。でも、そう言っても変える気は無いんだろ?」
天介は立ち上がり、ジオウが投げて落ちていたライドウォッチを手に取る。
すると、黒かったウォッチは発光し、その姿を変えた。
カバーパーツとスイッチは赤、ボディパーツは青。歯車のようなビルドのライダーズクレストと2017の文字はそのままだが、文字盤に無かったはずの模様が描かれている。
「これは…?」
「さっき言ってた打つ手だ。そうだろ預言者」
「その通り!」
ただ佇んでいたウィルが、嬉々として語り始める。
「アナザーライダーの前で弱体化するのはそのライダーのみ。
ならば方法は一つ。ライダーの力をジオウに移すんだ」
「なんでかわかんないけど、その仕組みはなんとなく知ってた。
これが3つ目の結末、お前にビルドの力を託すことだ。俺はこの作戦で、お前がそれに足るかどうかを見定めてたってわけ。
まだ未熟もいいとこだが…自分の中のブレないモノ、“戦う理由”。そいつがあるなら及第点だ」
天介はそのウォッチ──ビルドライドウォッチをジオウに差し出す。
「俺達の物語を…受け継ぐ覚悟はあるか?」
進む道は決めたんだ。だからもう、迷わない。
「当然……!」
躊躇う事もなく、ジオウはビルドウォッチを受け取った。
カバーを回転させ、ビルドの顔が浮かび上がる。
そしてボタンを押し、ウォッチを起動させた。
《ビルド!》
立ち上がるアナザービルド。
ジオウはその姿を見据え、ジクウドライバーの左側のスロットにビルドウォッチを装填する。
スイッチを押してジクウドライバーのロックを外し、ドライバーを回転!
《ライダータイム!》
《仮面ライダー!ジオウ!!》
ドライバーの液晶から3文字のカタカナが具現化し、アナザービルドを牽制する。
ジオウの前にフルボトルのようなビジョンが現れ、その中に生成されるフルプレートアーマー。姿はビルドに酷似し、右手にはドリル武器を装備してポーズを取っている。
ジオウがそのアーマーに触れると、アーマーは分解し四散。
と思うと、今度は姿がジオウに重なるように装着されていく。
最後に飛んで行った三文字、「ビルド」が複眼に収まり、
物語の継承者が降誕した。
《アーマータイム!》
《ベストマッチ!》
《ビ・ル・ドー!》
ビルドの特徴を受け継いだ赤と青のアーマー。肩にはビルドドライバーの意匠が取り込まれており、それぞれ赤と青のボトルが刺さっている。そして、右手に装備される武器「ドリルクラッシャークラッシャー」。
ドライバーに表示される「BUILD」と「2017」が、その歴史を物語る。
「祝え!全ライダーの力を受け継ぎ、時空を超え、過去と未来をしろ示す時の王者!
その名も仮面ライダージオウ ビルドアーマー!まず一つ、ライダーの力を継承した瞬間である!!」
その力に呼応するように、荒々しい雄叫びを上げるアナザービルド。
最早、恐怖も迷いもそこにはない。
その力を託した戦士と、受け継いだ戦士は並び立ち、
「「勝利の法則は決まった!」」
ビルドの継承条件は「自分」「戦う理由」でした。本編でのビルドも、偽りのヒーローで記憶も存在自体も曖昧なアイデンティティゼロスタートだったというのと、Afterglowのテーマ(?)を合わせて考えてこうなりました。他にもいろいろビルド要素ぶち込めるだけぶち込んでます。
今回壮間が見つけた戦う理由は、ソウゴが否定した道なんですよね。ソウゴは「みんなを幸せにしたい」が理由だから。まだギャップは大きいですが、温かく見守っていただければ…
さて、天介は死ななかったわけですが、物語はハッピーエンドとはいきません。フラグはバッチリ回収していく146クオリティです。
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