仮面ライダージオウ~Crossover Stories~   作:壱肆陸

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相場連二
アナザードライブに変身した青年。警視庁捜査一課巡査。11年前の事件で警察官だった父親を亡くしており、アナザードライブとなってその犯人を殺害した。そして「悪人を裁く」ことが警察官の使命だと解釈し、父に代わってその使命を全うするという歪な大義を掲げ、殺人鬼として暴走を始めてしまう。

本来の歴史では・・・
指名手配犯が木組みの街に逃げ込んだと聞き、無断で捜査を開始。ロイミュードや悪人を許さないという考えで走大と衝突していたが、018とシャロの絆を見て考えを改め、走大と和解。藤川も殺さずに、己の手で逮捕した。その後は走大たちの良き協力者となる。


146です。
今回は響鬼×いぬぼく編前半ラスト。ちょっと訳あって文字数多いです。
ついに響鬼が登場、魔化魍とバトル!そんで例の三人目も……


あ、今回はいぬぼく最終話のネタバレあるんで注意。


冷める響鬼

「俺は渡狸卍里!ヒビキさんの一番弟子で……不良(ワル)だぜ!」

 

 

金髪の少年——卍里が胸を張ってそう名乗った。

ヒビキの弟子というのは驚いたが、不良とはなんなのだろうか。不良って名乗るものだったっけ?といった思考が壮間の頭を巡った。

 

 

「それなら丁度いい。響鬼のもとへ案内しろ」

 

 

道を教えてください、とは絶対に素直に言わないミカド。案内してもらう分際で偉そうだ。

 

 

「嫌だね!俺は不良だ、誰の指図も受けねー!」

 

「黙れ。案内しろ」

 

「な…なんだ!やるってのか!かかってこいよ俺は…ぎゃああああ!」

 

 

卍里の言葉を聞くまでも無く、ミカドが首根っこを掴んで勝負は決した。何度も思うが、この男は初対面の相手に厳しすぎる気がする。

 

壮間は慌ててミカドを止め、卍里は土の上に雑に解放された。

 

 

「大丈夫…ですか?」

 

「し…心配いらねーぜ。俺は鍛えてるからな、不良だから!」

 

(この人も大概変な人だ…)

 

 

ひとしきりの不良アピールが終わったみたいで、立ち上がった卍里はなんだか満足そうだった。

 

 

「俺はヒビキさんの弟子として、この山にいる“魔化魍”を倒しに来た。ヒビキさんに会いたけりゃ、それが終わってからだ。ついて来な!」

 

 

こうして、壮間とミカドは卍里に同行する事となった。

歩きながら、壮間はふと気になった事を口にする。

 

 

「“魔化魍”って…何?響鬼がそれと戦ってる…ってのは察しがつくんだけど」

 

「おうよ。魔化魍ってのは…」

「魔化魍とは名の通りの怪物だ。自然環境の中に発生し、人間を喰って成長する。俺の時代では滅多に発生しないから詳しいことは不明だが、さっき倒した童子と姫が育て親らしい」

 

「そ…そうだ!ヒビキさんたち鬼は、そいつらを倒すヒーローなんだぜ!」

 

 

ミカドに説明を取られ、少し落ち込んでいる卍里。それを誤魔化すように、こんな事を言い出した。

 

 

「でもお前の説明には一つ間違いがある」

 

「そんな訳があるか。俺は冗談が嫌いだ」

「ちょ!ミカド落ち着け、話聞こう!?」

 

「本当だ!最近の魔化魍は自然発生じゃねぇ…本物の妖怪に動物の遺伝子と人を喰わせ、凶暴にした怪物なんだ」

 

 

「そんな話は聞いたことが無い」と反発するミカド。卍里とミカドの言い合いが続く。

しかし、壮間が違和感を感じているのも事実だ。卍里が悔し紛れを言っているようにも見えないし、ミカドが情報を間違えるのも変。この認識の齟齬は何だ?

 

そんな違和感を意識から流し去るように、木々の隙間から雨粒が落ちてきた。

数滴の雨粒はすぐに土砂降りとなり、山道を歩く三人に降り注ぐ。

 

 

「やべぇ、雨だ!」

 

「おいミカド、飲み水確保とか言わないだろうな」

 

「川があるのにその必要が何処にある。馬鹿なことを言う前に走れ」

 

「…なんか釈然としない。あ、あれ見て!」

 

 

ぬかるんだ土を走っていると、木の少ない開けた場所に、古い木の小屋を見つけた。人の気配は無い。三人は急いでそこの屋根の下へと避難する。

 

歩いているうちに日も暮れてきた。このまま雨が降り止まなければ、今日これ以上の活動は難しい。

 

 

「どうしよう…また野宿か」

 

「少し行ったら俺たちの拠点があるけど…ヒビキさんのテントは狭いし、こんなに泊まれねぇぞ」

 

「ならば此処で寝る他無いだろう。どうせ誰も使っていない空き家だ」

 

 

ミカドの思考がサバイバルに特化しすぎているが、意見は的を射ている。本当に人の気配は感じないし、この際物件に文句を言っている場合でもないだろう。

 

 

「おい、一応挨拶した方がいいんじゃないか?こういう空き家も、持ち主がいるって聞いたことあるし」

 

「卍里さん…もしかして育ちが良かったりします?」

 

「ナメんなよ!俺は不良だ!」

 

 

出会って少しで「不良」の肩書が型落ちし始めた。壮間は薄々思っていたが、多分イキりたい年頃のお坊ちゃんなのだろう。

 

「おじゃましまーす」と気持ち程度の挨拶を小声で口にすると、壮間はガタつく引き戸を開けた。

 

空に雲がかかり、一気に薄暗い闇が広がる。不安定になる視界で、その戸の先に彼らの双眸が捉えたのは

 

 

闇に浮かび上がる、大きな「顔」だった。

 

 

 

「「ひぎゃああああああ!!」」

 

 

ミカド以外の二人が阿鼻叫喚。途端に小屋が震えだし、屋根、壁、全てを突き破り、雨の中にその巨体が飛び上がった。

 

 

「喚くな。よく見ろ、ヤツは魔化魍だ」

 

 

六本の腕に、四枚の翅。濃い黄色の体に、下半身は白い腹部となっており、先端には針が。早い話が「巨大な蜂」。さっき顔と見間違えたのは、腹部に黒い線で刻まれた、人の顔のような模様だ。

 

 

「あれが魔化魍!?デカいなんて聞いてないよ!?」

 

「出やがったな“オオクビ”!お前ら手出しは無用だぜ。アイツを倒して、俺も鬼になってやる!」

 

 

「大首」。山道などで空中に現れ、人を驚かす妖怪。名前の通り大きな女性の首の見た目をしており、お歯黒をつけているとされる。

 

卍里の話が確かなら、その「大首」に蜂の遺伝子を融合させ、人を喰って成長したのが、あの魔化魍「オオクビ」ということになる。

 

 

「魔化魍だって怖くねぇ。ヒビキさんの鞄から持ってきた、この音撃鼓があれば!」

 

 

卍里はポケットから鼓のような装置を取り出し、頷く。

だがオオクビはそれを待たない。棘の生えた腕で、卍里を串刺しにしようと襲い掛かる。

 

オオクビの腕が届いた瞬間、ボンと煙を立て、卍里の姿が消えた。

 

煙の中から飛び出したのは、頭に木の葉を乗せた、枕くらいの大きさの小さな狸。

 

 

「化けただと…!?」

 

「まさか…卍里さんも残夏さんたちと同じ、先祖返り!?」

 

 

渡狸卍里は、妖怪「豆狸」の先祖返り。

他の妖怪や先祖返りと比べ、体が小さく戦う力は全く持たないが、「化かす」という一点においてなら、最強の妖怪である「九尾の狐」にも比肩する。

 

 

「愛玩動物上等だ!食えるもんなら食ってみやがれ!」

 

 

二度目の煙を立てて、狸姿の卍里が無数に分身した。

それはもう多数。背中に背負った音撃鼓まで再現しているため、目視ではどれが本物かを見破る術は無い。

 

 

「おぉっ!前の凜々蝶さんや、あの男の人も凄く強かった。やっぱり卍里さんも…!」

 

 

無数の卍里はオオクビを翻弄している。

が、卍里が飛んでいるオオクビに接近する方法は無いし、卍里の分身は攻撃がかすりでもしたら瞬時に消滅してしまう。

 

というか、あっという間にその数は両手で数えきれるようになり……

 

 

「やっぱダメじゃないですか!変身っ!」

 

《ライダータイム!》

《仮面ライダー!ジオウ!!》

 

 

ジオウに変身した壮間は、ジカンギレードを出し、剣脊でオオクビの腕を受け止める。

 

 

「手出し無用だって言っただろ!」

「言ってる場合ですか死にますよ!?」

「そうじゃない!おまえらじゃ魔化魍は倒せねぇんだ!」

 

 

そこに同じくゲイツに変身したミカドが参戦。

ジカンザックスでオオクビの腕の一本を切り落とし、オオクビを空中に退けた。

 

 

「貴様が言いたい事は把握している。だが、案ずるに及ばん。

魔化魍は本来、鬼石を用いた清めの音でのみ撃破が可能だ。しかし、ジクウドライバーには敵に対して有効打となるよう、攻撃を変質させる適応機能が備わっている」

 

「え、つまり!?」

 

「物分かりも悪いのか貴様は!俺も貴様も、ジクウドライバーの仮面ライダーに倒すことが“不可能”な敵はほぼいないということだ!」

 

 

その言葉を真実と示すように、ゲイツの放った一撃がオオクビの体を抉った。

危険と判断したのか、オオクビは翅を震わせ、更に高度を上げた。

 

腹部の針のような器官が、風船の口のように広がる。

蜂の針は産卵管が発達した器官と聞く。しかし、ベースとなった大首が仮にも哺乳類だからか、そこから出てきたのは卵ではなくオオクビの幼体。しかも怖気が走るほど大量に。

 

 

「なぁミカド。俺、実は虫が苦手だって言ったことあったっけ?」

 

「知るか」

 

 

恐怖紛れの軽口も雑に返され、とうとう立ち向かうしかなくなった。

いつの間にか雨が止んでいるが、それを喜ぶほど馬鹿にはなれない。

 

オオクビの幼体――仮に子蜂とすると、子蜂が塊になってジオウとゲイツの姿を覆う。

 

剣と斧の斬撃では子蜂の集合体を散らすことは出来ても、全部斬ってたらキリが無い。

隙を見つけ銃と弓でオオクビ本体を狙うが、敵が巨大すぎて当たった所で意味を成さない。

 

しかも、子蜂が通り過ぎた樹木の表面が溶けている。子蜂一匹一匹が猛毒持ちであるため、変身を解除した日には即死だ。オオクビ本体よりも遥かに厄介が過ぎる。

 

「勝てない」そう真っ先に判断したのは卍里だった。

変化を解いて人間の姿に戻ると、卍里は声を張り上げてオオクビの注意を引き付けた。

 

 

「俺はこっちだぜ!!」

 

 

先祖返りは半妖半人という性質から、妖怪に襲われやすい。オオクビも元は妖怪。卍里を前に子蜂を産み落とすこともなく、直線的な動きで口を広げて突っ込んでいく。

 

卍里は自称不良だが頭は良い。

目的を持った足取りで、全力で走る。攻撃を変化でかいくぐり、それなりの距離を走った。そして、限界もまたやって来る。

 

奇声を上げ、オオクビが卍里を目掛けて突進。右側三本の腕は卍里の足元を削り、ぬかるんだ泥に放り込んだ。

 

 

「…!やべぇ!」

 

 

卍里が絶望の声を漏らした。

音撃鼓が卍里の手から離れた。勢いのまま音撃鼓は、宙で放物線を描き……

 

 

その人物の手に、収まった。

 

 

 

「卍里ぃ!勝手に音撃鼓持って行きやがって!失くしたかと思ったろうが!」

 

 

そう叱りつける彼の姿を見て、悔しいが卍里は心の底から安堵した。

登山用パーカーにジーンズ姿の、若い顔立ちの男。何故か手には湯を注いだカップ麺とタイマーを持っている。

 

 

「ヒビキさん!」

 

「ありゃやっぱりオオクビか。全く…空飛ぶバケモンは藍ちゃんやトウキさんの管轄だってのに。卍里、これ持ってろ。絶対こぼすなよ」

 

 

この男こそ「ヒビキ」。卍里はヒビキのキャンプ地を目指して走っていた。近づけばその音で、ヒビキが気付いてくれると踏んだから。

 

ヒビキは卍里にカップ麺とタイマーを手渡し、腰のホルダーに手を伸ばす。

渡されたカップ麺は「たぬきそば」で、三分を計るタイマーは、もうじき残り一分を示そうとしていた。

 

 

「卍里さん!」

「チッ…手間取った」

 

 

そこに子蜂を片付けたジオウとゲイツが合流。

複眼越しの視界に映るその男は、腰から外した装置を手首のスナップで変形させた。金の鬼の顔から、銀の二本角が伸びたような「音叉」。

 

 

―――キィィィン

 

 

音叉を木の幹に当てると、高く、清らかな音が、木々の間に響き渡る。

音を発する音叉を顔に近付けると、共鳴するようにヒビキの額に鬼の紋様が浮かび上がった。

 

ヒビキの体から蒸気が立ち昇る。その体は赤く輝く。

そして、燃える。燃え上がる紫の炎が、衣服を燃やし、肉体そのものを焼き尽くす。

 

違う。紫苑の炎とは妖の炎。

妖気を帯びた肉体は音と響き合い、炎をその身に宿し、

 

 

人を……“鬼”へと変える。

 

 

「はぁぁぁ………たぁっ!」

 

 

腕を振って残り火を振り払い、その姿が顕現した。

鍛え抜かれた紫紺の肉体、胸部に被さる銀の金具、額には二本の角。目、口を形作るように顔に刻まれた紋様は、燃える炎が如き紅。

 

 

「響鬼、見参…ってな」

 

 

音撃戦士 響鬼。

アナザー響鬼の面影を探す前に、その背中が目に焼き付いて離れない。なんて逞しい姿だろうか。

 

 

「あれが…」

「あの男が響鬼か」

 

 

卍里の持つタイマーが、残り一分を示した。

鬼を知っているのか、妖気を感じ取ったのか、オオクビが子蜂をまたしても大量に産み落とし、一斉に響鬼に飛び掛かる。

 

 

「知ってるよ。オオクビと“何度”戦ったと思ってんだ」

 

 

走り出すと同時に息を吸い込み、子蜂の群れに到達する寸前で吐き出した。

ただし、吐いたのは息ではなく「火炎」。

 

「鬼幻術 鬼火」。紫の妖炎は一瞬で群れ全体に燃え移り、子蜂は響鬼の足を止めることすら出来ずに灰塵と化す。

 

ギィィィと甲殻が軋むような咆哮。オオクビの針は鞭のように伸び、響鬼を刺し貫こうとする。毒を帯びた一撃、「生身」の響鬼が喰らえばひとたまりもない。

 

 

当然、喰らえばの話だ。

淡々とオオクビの攻撃を躱し、木が密集している区域に踏み入ると、響鬼は木の根を足場にして跳躍。さらに木の幹や枝を次々と足場にしていき、あっという間にオオクビの高さまで飛び上がった。

 

 

「さて…と」

 

 

最後に太い枝に体重を乗せた。しなる枝の反動が、響鬼をオオクビの元へと連れて行く。

 

知能が無いとはいえ、オオクビとて向かってくる獲物を見逃す道理は無い。

避ける素振りは見せず、五本の腕を飛んでくる響鬼に向ける。その挙動を目視した瞬間、響鬼が動いた。

 

 

「…馬鹿な」

 

 

ミカドの口から感嘆が漏れた。

瞬きの間も無いうちに、オオクビの二対の翅が焼き斬れている。

 

響鬼が両手に持っているのは、先端に赤い鬼石が付いた太鼓のバチ「音撃棒 烈火」。

そこから伸びるは炎の刀身。圧縮した炎を音撃棒から放出し、剣として敵を斬る「鬼棒術 烈火剣」という技だが、問題なのはその速度。

 

斬る動作は愚か、抜刀の瞬間でさえ、ミカドの目にも捉えられなかった。

 

 

飛行能力を失ったオオクビは、響鬼に伸し掛かられ、そのまま地面に墜落。落下の衝撃が全てオオクビに反転し、身動きが取れなくなった所に、響鬼はバックルの音撃鼓を押し付けた。

 

音撃鼓が起動し、オオクビの胴体の上で巨大化。

響鬼は音撃棒を片手で回した後、強く握り、両手を振り上げた。

 

 

「音撃打 火炎連打の型!」

 

 

刹那の静寂。

それをかき消すように、響鬼は音撃棒を鼓へと打ち付けた。

 

一定の鼓動を刻むが如く次々と繰り出される音撃は、一撃一撃が魔化魍の体の芯にまで反響し、魂をも清める。それこそが音撃打。

 

「火炎連打」は連撃の型。邪な気を全て焼き尽くすまで、何度も、何度も、打ち付ける。鼓が奏でるのは、さながら燃え盛る火炎の音。

 

 

連打が止み、再び腕を振り上げる。

音撃棒を打ち合わせ、軽い音が鳴った。そして、最後の一撃を―――

 

 

「はぁっ!」

 

 

振り下ろした。

 

 

爆散。オオクビの体が、内側から破裂。

肉片の代わりに飛び散る、木葉、土塊。彼らは無限の存在。いずれまた“妖怪として”生じるだろう。

 

 

「やっば…あれが、この時代の仮面ライダー…」

 

「アナザー響鬼が強かったのも頷けるな。この男は…強すぎる」

 

 

ピピピピ。卍里の手元から音が鳴った。

タイマーの音だ。今丁度、三分の計測を終えたようだ。

 

それを聞いた響鬼が、ともすれば戦闘時よりも必死に走り出し、ジオウとゲイツを押しのけて、卍里の手からカップ麺を奪い取った。

 

 

「ハイ仕事終わり!よっしゃ時間ジャスト。そんじゃ、いただきまーす」

 

 

響鬼の顔が光に包まれたかと思うと、顔の部分だけ変身解除していた。ヒビキは割り箸を口と手で開け、カップそばを嬉しそうにすする。

 

 

「あぁ~、やっぱ仕事の後はカップ麺だな。昼飯抜いた腹に染みるわ。たぬきそばね、たぬきそば。たぬき美味いなー」

 

「誰が狸だ!」

 

「いや狸だろ、どう足掻いても。ごちそーさん」

 

 

わざとらしく狸連呼するヒビキに噛みつく卍里。ヒビキはそんな卍里を軽くあしらい、スープまで飲み干してカップ麺を完食。空の容器を卍里に押し付けると、ヒビキは突然振り返り、ミカドと壮間の方を向いた。

 

 

「そういえば、オマエら誰?」

 

「「今!?」」

 

 

ミカド以外の二人が、またしてもハモった。

 

 

 

______

 

 

「連絡もせず突然帰ってくるドS!!ただいま!我が肉便器達よ!!」

 

 

高級マンション メゾン・ド・章樫。無駄に無駄を重ねる程元気に、青鬼院蜻蛉は勢い良く扉を開けて帰宅した。旅が趣味であるため滞在しないが、彼はこのマンションの2号室の住人である。

 

笑う蜻蛉。だがその反面、

広いロビーで彼を迎え入れたのは、ただ一人だけだった。

 

 

「ふははは!人が少ない!なるほど放置プレイか、ドS!」

 

「急に帰ってきて何を言っているんだ、君は」

 

 

冷たい目をしてそう答えたのは、現在マンションにいるただ一人の住人。

壮間が言う所の、「前世の」白鬼院凜々蝶だった。

 

 

「他の家畜共はどうした?特に双熾が貴様を置いていないのは珍しいな」

 

「御狐神くんは買い出しだ。彼だって四六時中僕の近くにいるわけでは…」

 

 

そこまで言って、凜々蝶は言葉を濁した。

思い返さなくても、放っておけば24時間体制でベタベタな気がする。初対面で「貴方の犬になりたい」と言い出すような男だ。

 

 

「…雪小路さんは霊障相談。反ノ塚はそれに同行してる。髏々宮さんはバンキくんに連れて行かれたのを見たな。雷堂さんは河住くんと遊んでいる。渡狸くんは…」

 

「卍里はヒビキと山籠もりか。奴はM家畜の癖に中々骨がある」

 

「そっちこそ何故一人なんだ。夏目くんと鴉丸さんはどうした」

 

「帰国してすぐにトウキの奴に仕事が入ってな。クロエとトウキはロクロクビを倒してから帰るらしい。あの二人の御目付役として、残夏が残ったというわけだ」

 

「つまり役に立たない君だけが帰されたと」

 

「ふははは!辛辣だな、やはり貴様にはSの素質がある!と見せかけて…その実、反逆されたいドMだ!悦いぞ悦いぞー!

 

そうだ、喜べ!貴様にも土産を持ってきてやったぞ!」

 

 

マントを翻し、笑い声を上げながら、土産とやらを取りに蜻蛉は出ていった。

 

話によると、今回は海外の先祖返りに会いに、アメリカまで行って来たらしい。だが、土産には全く期待できないだろう。というのも彼が持ってくる土産は、決まって蝋燭や三角木馬や鞭といった、旅行先関係ない上にいかがわしいラインナップばかりなのだ。

 

またしても派手に扉を開け、蜻蛉が戻って来た。どうせ今回は荒縄あたりを渡してくるのだろう…そう思っていた凜々蝶だったが、彼が渡してきたのは

 

 

「あ…ど、どうも……」

 

 

強引に腕を掴まれ、すごく疲弊した様子の女の子。

片平香奈だった。

 

 

「友達のいない貴様に奴隷のプレゼントだ!!」

「元居た場所に帰して来い!!」

 

 

 

事情説明、その他諸々。

とりあえず蜻蛉は外に追い出しておいた。

 

 

「災難だったな…君も」

 

「え?あ、いや、そんな事ないよ。蜻蛉さんはちょっと変だけど…良い人だったし!ずっとよく分からないこと言ってるから疲れちゃったけど…」

 

「アレを“ちょっと変”で済ますのか…逞しいな」

 

 

山道で蜻蛉に拾われ、その勢いで振り回されつつも、なんだかんだ打ち解けていたらしい。勢いのまま状況確認もロクにせず、こんな所まで来てしまったが。

 

香奈は凜々蝶が淹れてくれたコーヒーを口に含む。

美味しい。苦いだけの印象だったコーヒーとは別物だ。淹れる際、物凄く細かく分量を量っていたが、それほどのこだわりがあるという事か。

 

 

「私、片平香奈。よく分かんないことだらけだけど…ここで会えたのも何かの縁!よろしくね!」

 

「あ……ふ、ふん。僕は白鬼院凜々蝶だ。宜しく…とでも言っておこうか。無論、宜しくするつもりは無いからそのつもりで………あ」

 

 

口から流暢に流れてきた悪態とは逆に、「やってしまった」と物凄い落差で落ち込む凜々蝶。「しゅーん…」の擬音が見えそうな程度には落ち込んでいる。

 

無駄に虚勢をはって、悪態をついてしまう。それが彼女の悪癖。

 

このマンションで仲間と出会って一年が経ち、治ったと思っていた悪癖だが、やはり初対面の相手にはまだ上手くいかない。

 

 

「可愛い…」

 

「は…?何の話だ」

 

「顔も綺麗だし、小っちゃくて可愛いし、落ち込んでるとこも可愛い!凜々蝶ちゃん可愛い!」

 

「な…!?お世辞を言っても何も出ないぞ!?」

 

「そんなんじゃないって!その、ツンツンして落ち込むやつ…ツンデレじゃなくて…そう、ツンしゅん!これは新たな萌え属性だよ!」

 

「雪小路さんみたいな事を言うな!?」

 

 

香奈は可愛いとカッコいいには目が無い。カッコいいの感性が幼児なのに対し、可愛いの感性がおっさん寄りなのは玉に瑕だが。

 

とはいえ、凜々蝶も褒められれば気分がいい。根は素直だから、お世辞じゃなければ相応に返してしまうのが彼女だ。

 

 

「もう夜が近い。家が遠いというなら、今日はここに泊っていくと良い。コンシェルジュの猫月さんには僕から話をしておこう」

 

「本当!?でも…連絡がつかないんだよね。さっきからスマホが使えなくて…」

 

 

香奈はそう言って、黒いままのスマホ画面を触って見せる。

それを見た凜々蝶は小首を傾げた。見覚えが無いものと言わんばかりに。

 

 

「それは何だ?玩具か?」

 

「スマホだよ。もしかして知らないの?携帯電話」

 

「携帯電話とはこういう物ではないのか?」

 

 

凜々蝶が出したのは二つ折り式の携帯電話。

 

 

「え?今時ガラケー使ってる人いたんだ!?」

 

「今時…?僕の所持品は全て厳選を重ねた物だけだ。当然、これも最新機種のはずだが…」

 

「いやいや、そんなわけ…だって今は……」

 

 

そこまで言って香奈は気付いた。

頭の足りない香奈でも、これだけの状況が重なれば不自然に思う。変な近未来的な乗り物、使えないスマホ、定番ともいえる携帯電話の認識の差。映画やドラマで見覚えのある展開だ。

 

香奈は震える唇で、恐る恐る定番の質問を尋ねる。

 

 

「今って、何年……?」

 

「……2005年の7月だが?」

 

 

めまいがした。

普通の女子高生を殴りつけた唐突な非現実。パニックに耐えられず、香奈は卒倒した。

 

 

 

 

______

 

 

 

「なるほど。事情は分かった…ような分らんような」

 

 

壮間とミカドはヒビキのキャンプ場で詳しい事情を説明した。

横で聞いていた卍里は驚きの連続だったが、ヒビキの方はリアクションが薄く、壮間も反応に困る。

 

そんな中、拳を固めて声を上げたのは、卍里だった。

 

 

「とにかく、その偽響鬼をぶっ飛ばせばいいんだろ!

ちよも残夏も死なせねー。全員俺が守ってやる!」

 

「弱いくせに何言ってんだ卍里。そんで、オマエらの目的は…」

 

「はい。俺達はこの時代で…」

「貴様を殺して響鬼の力を奪う。勝負しろ響鬼」

「違う!俺達はあなたから響鬼の力を貰いたいんです」

 

「ふーん…」

 

 

壮間がヒビキにプロトウォッチを手渡す。

ヒビキはそれを、興味が有るのか無いのか分からない表情で眺め、あちこちを触っている。

 

 

「すぐ受け取れるとは思ってないです。さっきも言いましたけど、アナザー響鬼を倒せば響鬼の歴史は消える。それだけの力を渡すってことだから、まずは…」

 

「ん。ほらよ」

 

 

壮間の話を遮り、ヒビキはプロトウォッチを投げ返してきた。

受け取った壮間は、自分の目を疑った。

 

なにせ、プロトウォッチに色が付いている。響鬼の顔も刻まれている。

紛れもなく、響鬼ライドウォッチが完成していたからだ。

 

 

「え…はぁ!?」

 

「それが欲しいんだろ?持ってけよ」

 

「いや、そうですけど…こんなにアッサリ継承しちゃっていいんですか?」

「そうっスよヒビキさん!これ渡したらヒビキさん、鬼じゃなくなるんスよ!」

 

 

卍里も反発する。当然の反応だと思う。ミカドだって驚いている。

だが、ヒビキは眠たそうに淡泊に答えた。

 

 

「それで魔化魍が消えるんだろ?俺の仕事も無くなる、オマエら嬉しい、ウィンウィンじゃないか。俺は強くなりたかっただけで、魔化魍と戦いたいわけじゃない」

 

「いや、でも…俺を信じちゃっていいんですか!?」

 

「面倒な考えしてんな…別にどうだっていいんだよ。オマエがどんな奴かなんて」

 

 

あの熱い戦いぶりから想像もできない程、ヒビキの言葉は冷めていた。だが、継承してもいいという意思自体は本物だ。ライドウォッチに力が宿ったことが、その証拠。

 

 

(じゃあそれでいいんじゃないか?本人がそう言うなら…)

 

 

そんな考えが過った。だが、そんな甘えを砕くのはいつだって現実だ。

 

仮にこのまま「形だけの」継承をしたところで、アナザー響鬼に勝てるのか?

奴は強かった。奴だけじゃない、2014年で出会ったガイスト・ロイミュード、彼の強さも極限に近いものだった。

 

そんな敵と相対したとして、これから先、戦っていけるのか?

「弱い奴と戦いたい」。そんな甘えが王の道で通用する訳がない。

 

 

『嘆いて強くなれるなら苦労はない』

 

 

ここに来る前に聞いた、ウィルの言葉だ。

その通りだ。今の壮間に足りないのは、心でも、知性でも、反省や後悔でもない。もっとシンプルで、具体的なもの。

 

 

足りないのは「強さ」。そして、それを手に入れるための「行動」。

 

 

 

「ヒビキさん」

 

 

壮間が口を開いた。

歯を食いしばり、決意の言葉を形作る。

 

 

 

「俺達を、弟子にしてください」

 

 

 

 

______

 

 

御狐神双熾。4号室の住人、白鬼院凜々蝶の専属シークレットサービス。

スーツ姿で買い出しを終えた彼は、帰路に着いていた。

 

長身銀髪のオッドアイ。柔らかな笑みを浮かべる顔は、間違いなくイケメン上位の部類。だが、彼の頭の中にあるのは、冗談でも何でもなく主人である凜々蝶のことだけである。

 

そんな彼が、近道である裏路地に立ち入った。

他に人は居ない。不自然なくらいに。身辺警護の専門職だけあり、一瞬で表情が警戒へとシフトチェンジした。

 

 

「何方ですか」

 

 

背後に生じた気配を察知し、双熾は刀を抜いた。

双熾の姿が変化している。彼もまた、先祖返りの一人。「九尾の狐」の先祖返りらしく着物姿に九本の尾を生やし、手に持った刀はその人物の首に接した時点で止まった。

 

止めたわけじゃない。「止まった」のだ。

双熾は首を刎ねるつもりだった。自然発生するように現れたその気配、妖怪の類と判断したが、目にしてそれが誤りだと確信した。

 

 

「存じませんが…ただの人間では、無さそうですね」

 

 

そこに立っていたのは一人の少女だった。

穴の開いた濃い空色の変わった衣装を、白衣のように羽織り、その下は簡素な白いシャツ。羽織った衣装は大きいのか、袖がかなり余っている。

 

凜々蝶ほどでは無いが、小柄な少女だ。雪のように柔らかな白の長い髪を、雑に輪ゴムで留めてポニーテールにしている。

 

凜々蝶にしか興味が無い双熾の目にどう映っているのか定かではないが、その容姿は人の目を惹く程度には美少女と言えるだろう。

 

 

「わたしはオゼ。“3人目”、タイムジャッカーのオゼだよ」

 

 

双熾の体が動かない。それもそのはず、彼女は顎以外の関節の時間を止め、双熾の動きを止めている。

 

オゼは刀身が首に接したまま、一歩ずつ双熾に歩み寄る。

首の皮が切れ、血が流れようが、全く意にも介していない。

 

 

「誰だっけ…そう、確か。これだ、御狐神双熾。12月19日生まれ、AB型、186㎝、九尾の先祖返り、4号室のシークレットサービス」

 

 

オゼは服の下に手を入れ、ヨレヨレな手帳を取り出し、そこに書いてある情報を読み上げた。そしてもう一つ、袖の上にブランクウォッチを乗せる。

 

 

「主人を守る力、欲しくないかい?どんな時でも絶対に守り抜く、鬼の力」

 

 

ウォッチが起動し、アナザー響鬼ウォッチが誕生した。

双熾もオゼの言う事がぼんやりと理解できた。

 

彼女を守れなかったことは、無い。だが、“有る”のだ。そのifは確かに存在した。

守る力があれば。その願いは最強の先祖返りである彼の中にも、懇願として存在する。

 

 

だが

 

 

「お断りしましょう」

 

 

双熾ははっきりと、その誘いを拒絶した。

 

 

「凜々蝶さまを守るのは僕の役目です。その為なら、僕は手段を選びません。

ですが…今の僕は犬ではなく、凜々蝶さま…いえ、凜々蝶さんの恋人です」

 

 

直接出会って一年。その中で彼らは来世まで巻き込み、繰り返された長い戦いの時に終止符を打った。気付き、気付かされ、触れて、触れられて、重ねる時間の重みを知っている。

 

今の彼にとって、凜々蝶と並び立てない未来など、無価値だ。

 

 

「え?」

 

 

オゼがウォッチを手にしたまま、呆気にとられている。

もう双熾の顔なんて見えてないように、瞳孔を震わせ、その呼吸は嗚咽にも似て。

 

 

「拒絶?響鬼の力を拒絶?使用者が望まなければ大した結果は得られない。ハイクラス到達は不可能。もうこの人をアナザー響鬼にはできない。最強の妖怪を逃した?計画は頓挫?ウォッチに施した術式も立てた計画も仮説も展望も全てが無駄?無意味?無価値?無意義?」

 

 

オゼが向けた手から衝撃が発せられ、双熾の体が吹き飛ばされる。

そんな彼を見もしない。なにせ、これは癇癪。ただの八つ当たり。

 

 

「有り得ない在り得ないあり得ないありえないアリエナイっ!わたしがどれだけの時間をかけたと思っているんだ!この最高の研究が実を結ばないのは理不尽!不可解!あぁウザい憎い恨めしい腹立たしい!なんで思い通りに行かないなんでナンデ何で何故にッ!!わたしの“願い”は成就しない!!」

 

 

叫ぶと同時に近くのゴミ箱が破裂し、壁にヒビが入り、飛んでいた烏が落ちる。

身動きが出来ない双熾が見ているのは、その地獄絵図だ。

 

 

「いや、待とう」

 

 

突然。実に突然。その一言を最後にオゼの叫びが停止した。それに伴い破壊も止まった。まるで時雨が止んだ瞬間。

 

叫びを止めたオゼは別人のように、落ち着いた口調で続ける。

 

 

「結果が分かっている実験に何の意味がある?研究とは不確定要素の介入により、時に予期していなかった結果を創造する。それこそが醍醐味のはずだよ。歴史的発見の多くはその法則が適用されている…つまりこの人の拒絶は、わたしにとって発見の兆し。むしろ僥倖」

 

 

それを言い終わらないうちに、オゼは今度は笑った。

そこだけ切り取れば、年相応の少女の笑顔だ。しかしその本質は、ハッキリ言って異常でしかない。

 

 

「いい良いイイ!超いい!ヤバい!今日はなんて素晴らしい日だろう!新たな発見で世界の視方が変わる!“願い”に一歩近づく!なんという快感!愉悦!興奮!この悦びに勝るモノはきっと存在しない!ありがとう嬉しいよ御狐神双熾!あなたの名前とこの教えはわたしの脳に記憶しておくよっ!」

 

 

飛び上がったオゼが、空中に「着地」し、消えた。

最後に一言、彼女なりの祝言を残して。

 

 

 

「Hello, world!“願い”こそが世界の最小単位!

“願い”故に!世界は愛しい美しいッ!!」

 

 

 

 

______

 

 

次回予告

 

 

「働かざるもの、食うべからず!ですっ!」

「君は自分のやっていることを、本当に理解しているのか?」

「今日のオレ!満点!どーよオレのロックン・ロール!」

「命を…あいつを…お前なんかと一緒にするな!」

「髄の髄まで貪って!喰って!舐って!わたしの子供、最強の魔化魍ッ!」

「俺は行きますよ。ヒビキさん、貴方を倒して」

 

「時間は重みだ。僕は、そう思う」

 

 

次回「カサネル、ジカン2005」

 

 

 




タイムジャッカーオゼ、登場です。何でこうなったんでしょうね。最近リゼロ見始めたからかな?影響って怖いですね、可愛い女の子作ってたはずなのに。

オゼの名前の由来は韓国語で「昨日」を意味する「オゼ」からです。

そして次回からは後半戦ですが…今回名前出した鬼も出しますよ。オリジナル魔化魍も。
ジオウのテーマにも言及するつもりなんでよろしくです。

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