仮面ライダージオウ~Crossover Stories~   作:壱肆陸

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146です。うっすうっす。
サブタイは既視感ありますが…というか原典をちょこっと変えただけですが、これしか思いつかなかったんで勘弁してください。

今回は響鬼らしく、鍛えます。「成長する主人公」をテーマにした本作にとっても、これは真のスタートになるかと(一年経ってやっと)。

あ、オリジナル魔化魍出してみました。


始まる少年

俺、日寺壮間は2005年で鬼になって戦う仮面ライダー、ヒビキさんに出会いました。俺たちの弟子入りを頑なに拒否するヒビキさんですが、アナザー響鬼に変身した少女を見た途端、様子が変わってしまって…

 

 

_____

 

 

山奥で川の流れに混ざって聞こえる打撃音、そして、二人の少年の荒い息。

 

 

「はぁっ!」

 

「せやっ!」

 

 

木刀を持ち、壮間とミカドが一人の男に斬りかかる。

男は両手に持った短い木刀でそれを防ぎ、まずは壮間の腹部に一撃。次に残ったミカドの動きに冷静に対処し、生じた隙に木刀を叩き込んだ。

 

壮間とミカドは、2005年に来てからヒビキに一撃を加えようと狙っている。

しかし、この場合においては、相手はヒビキではなかった。

 

 

「27点、まだまだだな。

起きろ。次だ」

 

 

打ちのめされた二人の体に、鋭い眼差しが浴びせられる。

 

この男は「サバキ」。弦の鬼の一人で、バンキの師匠らしい。

一目瞭然であるように、これは「特訓」である。何故二人がサバキに修行をつけてもらうことになったのか。それは数日前に遡る。

 

 

 

 

 

トウキの見舞いの後、ヒビキたちは妖館に帰ってきた。

壮間としてはやっと目的地に到着して嬉しいのではあるが、それ以上にヒビキが気になって仕方が無かった。

 

 

「あっ、ヒビキさん!ヒドいじゃないですか、勝手に行っちゃうなんて!見舞いなら俺も行きますよ、水臭いっすねホント……」

 

 

ヒビキたちが妖館に入るとほぼ同時に、待ち構えていたようにバンキが大声で歩み寄ってきた。しかし、そんなバンキの言葉がすり抜けるように、ヒビキは表情一つ変えないでバンキを素通りしてしまう。

 

 

「え…無視…!?ちょ、壮間。ヒビキさんどうしちゃったワケ!?」

 

「それが…俺たちにもよく分かんなくて…」

 

 

アナザー響鬼の正体、ツクモと呼ばれた少女と対面してから、ヒビキはずっとこうだ。ほとんど口を利かなくなり、時折酷く辛そうな顔を見せるようになった。

 

ミカドはそれでも構わずヒビキに奇襲をかけたのだが、この状態でも全く相手にならなかった。自分を負かしたアナザー響鬼の正体が女だったことへのショックもあってか、ミカドもどこか落ち込んでいるように口数が減った。

 

ヒビキとミカドだけじゃない。

トウキの事や、アナザー響鬼の概要を知らされたこともあり、妖館にいる人たちが皆、明るいとは言い難い雰囲気になっていた。

 

 

「どいつもこいつも辛気臭い顔しやがって…

いいぜ!こーゆー時こそ俺のギターで盛り上げてやるぜ!ヒャッハーっ!!」

 

「重い空気を気にしないドS!ならば私がボーカルだ!

怯えるM奴隷どもよ!貴様らを耳から従順な身体に調教してやるぞー!」

 

 

バンキと蜻蛉を除いて。

こういう時、馬鹿って楽でいいな、と壮間は思った。

 

えげつない温度差も気にせず、刀弦響を振り回すバンキ。

その背中に、彼より一回り小さい体がぶつかった。

 

バンキが振り返った瞬間、汗が噴き出す。

そこには、恐ろしく冷たい表情をしたアマキの姿が。

 

 

「あ、ゴメ―――」

「邪魔」

 

 

弁明が口から出る前に、アマキの脚が彼の鳩尾に突き刺さった。

白目剥いてダウンするバンキ。イブキ以外の誰にでも厳しいアマキだが、バンキに対しては特に容赦がない。

 

 

「何かが折れる音が聞こえたぞ!なかなかにドS!」

「あんたもいい加減黙りなさい」

 

 

今度は雪女に変化した野ばらが、蜻蛉を凍らせた。

妖館は再び静かになったが、ここの女性陣が恐ろしすぎる。余計な事言わないよう、壮間は強めに口をつぐんだ。

 

 

「呼ばれたから来てみれば、何を寝ているお前は」

「ギャアァァァっ!?」

 

 

気絶していたバンキを、思いっきり踏みつけるという雑極まりない方法で叩き起こした。飛び起きたバンキはその人物の顔を見て、かつてないほどの顔面蒼白を見せた。

 

 

「し…師匠…!?いや…今のはアマキの奴が!」

 

「だとすると一撃で伸びたお前が貧弱ということだ。

それに聞いたところによると、また太鼓の修練を怠ったらしいな」

 

「いやでも夏の魔化魍出るまでまだ一か月も…」

 

「0点だ。それを怠慢と言う。今度は一か月山籠もりするか?」

 

 

無精髭を生やした、前髪の長い強面の中年男性。煙草がこの上なく似合いそうな風貌をしたこの男は、バンキの師匠である「サバキ」である。

 

 

「これでみんな揃ったね~☆じゃ、始めよっか」

 

 

残夏の声で、一同が席に着く。

出席者は壮間とミカド、4人のシークレットサービス、4人の鬼。

会議が始まった。議題は当然、一つしかない。

 

 

「アナザー響鬼とやらの出現。それに伴う時間消滅…か。いつものお飾り定例会じゃ考えられない重さの議題だな」

 

 

サバキが話を切り出した。皆の雰囲気が一気に緊張する。

心臓が縮むような思いをする壮間だったが、これが普通なのだ。これまでの歴史では偶然無かっただけで、普通ならばこの過程は生じる。

 

次に発言したのは残夏だった。

 

 

「突飛な話だけど、未来少年の記憶を見る限り確かな話だよ。驚くことに、来世のボクや別の時間軸のボクとも会ってるみたい」

 

 

この時代の残夏とは2004年12月31日のタイムジャンプで会っているはずだが、あれは似ているようで響鬼の物語が消滅した時間軸の残夏だ。

 

残夏の百目の能力には何度も助けられた。彼が言うのであれば、信用せざるを得ない。だが、そうなると今度は野ばらが声を上げる。

 

 

「あたしは嫌よ。皆のこと忘れたくない。

イマイチ話の全体像が見えないけれど、時間を変えないで済む方法は無いの?」

 

「私も…野ばらちゃんと同じ…忘れたくない…」

 

 

カルタもそう言うが、視線を向けられた壮間にも詳しいことは分からない。ハッキリしているのは、アナザーライダーが倒されれば歴史が消えるということだけだ。

 

 

「ならば、我が王に代わって私が説明しよう」

 

 

パタンと本を閉じる音が聞こえ、壮間の後ろに彼は現れた。

預言者ウィルだ。誰もが驚きを見せるが、壮間はその限りではない。どうせ今回も来るとは思っていた。

 

 

「貴方は誰ですか」

 

「仮面ライダー天鬼、嵐山藍。君のことも知っているよ。

私はウィル。我が王、日寺壮間のシークレットサービスだと思ってくれればいい。

 

この本によれば、歴史が消える条件は一つ。『物語の継承者が決定した時』とある」

 

 

耳馴染みのない言葉に、ほとんど理解は得られていないようだ。

ウィルは言葉を続ける。

 

 

「継承権を持つのは、我が王やミカド少年か、アナザーライダーの二通り。そしてアナザーライダーの体内のアナザーウォッチが破壊された時か、ライドウォッチがアナザーライダーの手に渡った時、物語の継承者は決定する。

 

これまでの物語ではアナザーライダーがライダーを殺し、ライドウォッチを強奪していた。だが、今回は既に響鬼から力を受け取っているようだね。そうなれば、もうヒビキは蚊帳の外ということになる」

 

「つまりこういう事でしょうか。

彼がそのライドウォッチという物を持って逃げてしまえば、時間は書き変わらない」

 

 

双熾の言葉に、ウィルは微笑みで返す。

確かに歴史を維持する方法は存在するようだ。しかし、

 

 

「ですが、未来では凛々蝶さんと夏目さんは生まれ変わっていると聞きました。ならば、なんとしてもアナザー響鬼を排除するのが僕の役目です」

 

「そうね。問題の先送りは好きじゃないし、そんな危ないヤツ放置しておくわけにはいかないわ」

 

「忘れちゃうのは嫌…でも、みんな死んじゃうのはもっと嫌…!」

 

「オッケー♪じゃ、決まりだね。鬼の皆々様はどう?」

 

 

「アナザー響鬼を倒す」。それが妖館のシークレットサービス達が決めた結論だった。

反応を見る限り、鬼の面々もそう心境は変わらないようだ。

 

 

「わかんねーけど、要は偽響鬼ぶっ潰すんだろ?余裕余裕!」

 

「となると、我々の役割も見えたな。アマキ」

 

「はい。イブキさんにも連絡しておきます」

 

 

サバキは立ち上がり、壮間とミカドの腕を掴む。

バンキがその光景に冷や汗を垂らす中、サバキの口からこう告げられる。

 

 

「アナザー響鬼を倒せるのはこの小僧共だけだったな。

ヒビキの奴がやらないなら、俺達がコイツ等を鍛え上げる」

 

 

 

 

 

 

 

 

それから山籠もりでサバキの修行を受ける事、数日が経った。

サバキの修行は、実戦を通して動きと戦い方の向上、そして体力づくりを図るというもの。サバキは音撃打、音撃斬、音撃射の全てが熟練しているため、壮間にとって武器の扱いの参考にもなった。

 

非常に実りある修行ではあったのだが、問題はそのスパルタ具合。

休みは最低限。手加減容赦は一切無し。ミカドでさえも消耗を隠せないほどハードな特訓。バンキがあぁなるのも納得はできる。

 

 

「茨田は才能だけはあったが、お前達はてんで駄目だな。センスが無い分、ゲロ吐いてでも喰らいつけ」

 

 

そしてサバキは言葉も容赦が無い。それで逆に燃え上がるミカドはともかく、壮間は心身ともにズタボロだった。

 

 

「特に日寺。お前に関しては体作りから始めたかったが、そんな悠長を許してくれそうにも無い。一旦実戦から外れてこい」

 

 

その言葉を最後に、サバキは壮間とミカドの修行を止めた。

サバキの代わりに呼ばれたのは、バンキとアマキ。バンキはミカドと実戦訓練の続行らしいが、壮間はアマキが担当するようだ。

 

 

「サバキさんから話は聞いています。

では、着替えてください」

 

 

アマキと対面して数秒。

壮間の前に白装束が差し出された。

 

 

 

_____

 

 

 

アマキの修行はサバキよりも典型的と言うか、イメージしやすいものだった。

滝に打たれながら精神統一を行う修行。所謂「滝行」だ。

 

正直、甘く見ていた壮間だったが…

 

 

(無理。死ぬ!)

 

 

それは想像を絶する過酷さだった。

まず滝に打たれるのが想像の何倍も痛い。そんで寒い。しかも音が凄い。こんな状況で集中なんて出来ない。

 

アマキ曰く、「苦痛で雑念をかき消すなんて誰にでもできる。苦痛の中で真に集中することで、戦闘で力を発揮できるようになる」だとか。要は彼女に言わせれば、滝行の苦痛を感じているうちは雑念らしい。

 

 

「集中。途切れてますよ」

 

 

横でアマキも滝に打たれているのだが、彼女は壮間の心理状態まで的確に読んでくる。これが真の集中という物なのだろうか。

 

壮間も頑張ってはいる。しかし、そう簡単には苦痛に慣れはしない。そもそも、横に水に濡れた装束姿の美女がいるのだから、壮間とて心が穏やかではない。こんな調子では集中なんて夢のまた夢だ。

 

 

「集中…!」

 

 

 

 

この修行を続け、また数日が経過した。

アマキが思ったより優しく、壮間の身体的精神的なケアも含め、修行スケジュールを管理してくれた。そのお陰もあって修行は充実を極め、滝行の最中でも思考の余裕が生まれ始めた。

 

眼を開いたまま、精神の海の中に沈む。

痛み、寒さ、音。それらの苦痛に慣れるのではなく、乗りこなす。自在に操作するイメージ。

その先に広がる凪。水面を立てず、必要な思考だけを紡ぐ―――

 

 

 

『時間は重みだ。僕は、そう思う』

 

 

 

「っ……!」

 

 

 

水辺から離れ、髪をタオルで拭いて落ち込む壮間。

結局、今日も集中には至れなかった。

 

思考がクリアになればなるほど、あの言葉が、迷いが蘇る。

歴史を変えることで消える存在がある。分かっていたはずなのに、それは壮間にとって余りに重い。

 

壮間とは違い、努力で力を掴み取った「鬼」の仮面ライダー。彼らの積み上げた時間を、無かったことにしていいはずがない。その重圧が鋭い風になって、壮間の心をかき乱す。

 

 

「随分と大人しいんですね」

 

 

タオルを被ったまま止まっている壮間に、アマキが声をかけた。

 

 

「こんな地味な修行です。普通なら修行に文句をつけたり、実戦に逃げようとするものです。かくいう私が、イブキさんに弟子入りしたての頃そうでしたから」

 

「えっと…いや、アマキさんがそう言うなら間違いないかと」

 

「素直なんですね。目上の言葉を信じられるというのは、無条件にとは言いませんが美点です。だから白鬼院さんに言われたことを、必要以上に考えているんですか」

 

 

やはりアマキには壮間の心中がお見通しなようだ。

気休めにもなりはしない。だが、壮間はこれを聞かずにはいられなかった。

 

 

「アマキさんは…時間が消えるって聞いて、どう思いましたか」

 

「…そうですね。イブキさんやバンキと出会わなくなり、鬼になることも無くなる。妖館の皆さんとも出会わない。事実上、今の私は消えるわけです。正直、余命宣告を聞いた気分になりましたよ」

 

 

アマキは淡々と言葉を発する。分かってはいたが、当事者の言葉は何より重く、壮間に圧し掛かる。

 

 

「やっぱり…でも、俺がやるしかないんです。だから……」

 

「少し違いますよ、日寺さん。私たちは妥協の選択肢を取ったわけじゃありません」

 

 

それは予想してない言葉だった。

アマキは壮間の目を見て、確固たる意志を言葉で示す。

 

 

「人を見通す夏目さんが、あなた方を信じた。皆あなた方だから信じたんです。でなければ、別の方法を遮二無二探していたはずです。そういう人たちですから、皆さん」

 

 

その後に「過去に手紙を送るような人たちですよ?」と続け、アマキは初めて笑顔を見せた。

 

 

「ともかく、文句や弱音を言わない、貴方の素直なところは嫌いじゃないですよ。私は貴方を信じます」

 

 

心に染み渡るような笑み。濡れた髪と白装束から透けて見える肌が美しく扇情的で、壮間の心臓が突発的に跳ね起きた。

 

「集中」と呟く壮間。

そんな紅潮する心を踏み荒らすように、荒く太い声が二人の間に割り込んで来た。

 

 

「い゛や゛ぁぁぁぁぁぁぁ!!ちょ無理無理無理!!?助けてアマキぃぃぃぃッ!!」

 

「待て…!109戦54勝55敗、勝ち逃げは許さんぞ勝負しろ!」

 

「嫌だね!お前、組手でガチで命取りに来んじゃん!?殺す気じゃん!!

もう無理!限界!アマキ代わってぇぇぇぇぇ!!」

 

 

聞き覚えのある声が喧しい足音で近づいてくる。

当然バンキだ。その後ろに彼を追うミカドの姿が見える。

 

笑顔から一転、すごく嫌そうな顔をした後、

アマキはバンキに無造作な蹴りを放った。

 

 

「テメ…何すんだこの暴力女!」

 

「うるさい。修行を放り出すなんて、それでも鬼?戦績もほぼ互角、年下相手に情けない。才能だけしかない男。軟弱者。恥知らず。ヘタレ金髪男。留年間際。カス。」

 

 

さっきまで励ましてた口から放たれる、一切躊躇の無い罵詈雑言。言葉の暴力でボコボコにされたバンキは地面に伏し、そのままミカドに連れて行かれてしまう。

 

アマキが少しだけ怖くなった壮間だった。

 

 

 

_____

 

 

 

その後もアマキによる精神統一修行、バンキやサバキによる組手修行が続いた。

基本的に山に籠りっきりな壮間とミカド。そんな彼らに来訪者も現れた。

 

 

「ふん。負けられて困るのはこっちだ。僕らも力を貸してやる」

 

 

やって来たのは凛々蝶を始めとした妖館の先祖返りたち。

彼らも組手を始めとして、壮間たちに修行をつけてくれた。

 

若干甘く見ていたが、まずシークレットサービスでもない凛々蝶が相当手強い。双熾が過保護でほとんど実戦は出来なかったが、変化した状態なら恐らくバンキと張る強さだろう。

 

更に甘く見ていたカルタやクロエは、更にとんでもなかった。

 

カルタは変化すると魔化魍レベルで巨大化する。体の一部だけを変化させることもでき、しかも空間操作の能力を持っているようで、死角から巨大な骨の腕が攻撃を仕掛けてくる。動きも完全に玄人だった。

 

クロエはかつて先祖返りの頭目の護衛だったらしく、その分強さも凄まじかった。烏天狗の能力で暴風と衝撃波を自在に操る上に、空中を駆けるような常識離れした動き。壮間だと変身しても勝てず、ミカドですら怪しいレベルだ。

 

野ばらも一度だけ来てくれた。男嫌いなこともあってか、凍らせては吹っ飛ばしての連続。サバキより容赦なかった。しかし、それでも稽古は付けてくれる辺り、優しさも垣間見える。

 

 

そして、御狐神双熾。彼はハッキリ言って強すぎた。

刀を武器とするのだが、その剣捌きには一分の隙も無い。一人でもとんでもないのに、それが分身で更に増えるのだから冗談じゃない。最強の先祖返りと呼ばれるだけはある。

 

 

そんな修行が続き、二週間が経った。

 

 

 

「ピクニックしよー♬」

 

 

 

今日も修行だと意気込んでいた時、

壮間たちの前に現れた残夏が、突然そんな事を言い出した。

 

 

_____

 

 

 

「ピクニックかぁ…いいですね!」

 

 

今日の妖館は人がいない。というのも、今日は皆で揃ってピクニックに行っているようだ。香奈は皿洗いをしながら声を間延びさせ、羨ましそうにする。

 

妖館で働くようになって、半月が経過した。

未来に帰る手がかりだった謎の機械は、一週間少し前に姿を消してしまい、結局まだ妖館に留まっている。香奈はそれに不満は無いようだが、不安そうではあった。

 

 

「仕事終わったら行ってもいいってー!でもサボってると童辺さんに怒られちゃうよ~」

 

「うぅ…それは…頑張ります」

 

 

横で皿を洗うちのが、怪談でも話すようにその名前を出した。

童辺あゆむ。ガタイのいいオカマのメイド。これで「座敷童」の先祖返りというのだから、人は見た目によらない。

 

 

「ピクニックには妖館の皆に、あの鬼っていう人たちも来るんですよね?」

 

「うん。それと、最近シークレットサービスや鬼の人たちの弟子になったっていう、男の子2人も来るみたい」

 

「へー…弟子かぁ…知らない人もいっぱいいるんだ。仲良くなれるといいなぁ」

 

 

浮かれた様子で、香奈の皿を洗うスピードが上がる。

そんな彼女の視界の隅に、ある物が映る。

 

 

「これって…弁当箱だ。忘れて行っちゃったのかな?」

 

 

確かに用意された弁当は多かった。一つくらい置いて行っても無理はない。

弁当を持ち上げて「うーん」と頭を悩ませる香奈に、何かを思いついたちのが肩を叩く。

 

 

「その弁当持って、一足先にピクニック行ってなよ!」

 

「えっ…でも、いいんですか?」

 

「童辺さんには説明しておくから。あとは先輩に任せて!」

 

 

いい笑顔にウインクとサムズアップ。

そんな彼女に感じるべき不安を感じることもなく、香奈はサムズアップを返して駆け出した。

 

 

 

_____

 

 

 

「いいんでしょうか…この非常時にピクニックなんて」

 

「まーまー、休息も修行のうちっていうじゃない。あいたん☆」

 

「アマキです」

 

 

残夏によって半ば強引に集められ、久しぶりに山を下りたと思えば、突然のどやかなピクニック。公園は金と権力に物を言わせて貸し切ったらしく、妖館のメンバーと鬼、壮間たち以外には誰もいない。

 

壮間とミカドは辺りをぐるっと見回す。

稽古をつけてくれたシークレットサービスの人たちに、凛々蝶、卍里。あとは妖館で凍らせられていた仮面マントの変な人(蜻蛉)。それに四人の鬼を加え、知らない人は二人だ。

 

 

「おー、お前が弟子になったっていう」

 

 

そのうちの一人、褐色肌の青年=反ノ塚に話しかけられるミカド。

ビジュアルが堅気では無かったため、思わず身構えてしまう。

 

 

「ちょちょ…警戒しないで?俺、無害なイケメン一反木綿よ。略して無害イケモメン」

 

「…?」

 

「無反応かー。お兄さん悲しい」

 

 

野ばらの隣に座る反ノ塚。ミカドも誘われるまま、警戒は解かずにレジャーシートに腰を下ろす。

 

 

「貴様も先祖返りだな。何のつもりだ」

 

「せっかくだろ?楽しくおしゃべりしたいだけだって。

俺、反ノ塚連勝ね。そこの野ばらちゃんの雇い主」

 

「ちょっと、あたしは鳴ちゃんのSSよ。デタラメ言わないで。

魔化魍のせいであんたが妖館出て行かないから、仕方なく片手間で護衛してあげてるの」

 

 

野ばらがそう言って抱きしめているのは、金髪の幼い女の子。壮間とミカドが知らないもう一人の人物。彼女は雷堂鳴。この春から妖館に住むようになった、「雷獣」の先祖返りである。

 

 

「そういえば…魔化魍が消えれば反ノ塚が出ていく世界になるのね。いいじゃない」

 

「うわー冷たい」

 

 

別のシートでは、壮間が卍里や鬼たちと盛り上がっていた。

バンキとサバキ、蜻蛉は既に酒を飲んでおり、特にバカ二人が昼間からテンションが酷い。

 

そんな中、一人だけ次々と弁当を口に運ぶカルタの隣で、卍里はちびちびとコップの中身を啜っている。

 

 

「卍里さん、お酒飲んでたりは…」

 

「そんなわけねーだろ。未成年の飲酒は法律で禁じられてるんだぜ」

 

「あんたどの辺が不良なんですか…」

 

 

コップを覗いたらただのオレンジジュースだった。

放っておくとカルタに全部弁当を持っていかれそうなので、壮間も手元の弁当を開けてみた。白米に肉そぼろで「肉便器」と書いてあったので閉じた。蜻蛉の作った弁当だ、センスが逸脱している。

 

 

「穏やかだな…いいな、こういうの」

 

 

壮間は楽しげな彼らの姿を見て、呟いた。

この時間が続けばいいのに。そう思うと同時に、時間を変えることの罪悪感がこみ上げてくる。

 

こんな時間が続くべきなんだ。これからずっと先まで、時間は流れのままに進むべきだ。楽しいことだけじゃない。辛いことも悲しいことも、その証を全て積み上げて未来に進むべきなんだ。そこに手を加えていいわけがない。

 

こんな事、キリが無いのは理解している。全てを上手く運ぶことなんて出来はしない。でも、そうやって割り切れない壮間自身がいるのも事実だ。

 

 

「浮かない顔をしているな。今は楽しむことに集中しろ。休めるときに休んでおくのも、強くなる秘訣だ」

 

 

悩みの渦中にあった壮間に、サバキの声が届いた。

その声から伝わる頼もしさや力強さは、酒が入っても変わることは無い。

 

 

「不安か?」

 

「え…まぁ。正直、まだ全然勝てる気がしません…」

 

「そうか。それだけ強いわけだな、そのアナザー響鬼とやらは。

そういう事ならば、本当はヒビキに教えを請いたいんだろう?」

 

 

サバキにそう言われ、壮間は咄嗟に言葉を濁す。

正直なところ、図星だ。ヒビキの強さは、まだ鮮烈に頭に焼き付いている。しかし、ヒビキはこの二週間、一度も壮間たちの前に現れることは無かった。当然、このピクニックにも来ていない。

 

 

「…すいません」

 

「何故謝る。猛士が誇る最強の鬼だ、憧れるのも分かるさ。

奴は弟子を取らない主義でな。前はそうでも無かったんだが…」

 

「ヒビキさんに弟子がいたんですか?」

 

「あぁ。五年ほど前の事だ。まだ中学生の女だったが。名前は…槌口九十九」

 

 

「ツクモ」。その名は記憶に残っている。

その名を呟いた時の、ヒビキの表情も。

 

 

「ツクモって…アナザー響鬼…!?」

 

「何?それは確かな話か!?」

 

「…はい。人の姿のアナザー響鬼を見て、ヒビキさんがそう呼んでました」

 

「あの阿呆…!何故そんな重要な事を言わない!

ならば強さも納得だ。あの女は、率直に言って戦いの天才だった。

 

だが、強力な魔化魍に襲われ、死の淵に立つという事故が起こった。その直後だ、ヒビキが槌口を破門したのは。その際、ヒビキは彼女を徹底的に叩きのめしたとも聞いたが……」

 

 

「奴の考えは俺には分かりかねる」。と、サバキは話を締めくくった。

 

アナザー響鬼がヒビキの元弟子だった。だとすると、何故ヒビキはあの時、あれほどまでに動揺していたのか。ヒビキの破門は、彼女を守るためとも捉えられるが、彼女にあそこまで憎まれる必要があったのか。ヒビキが頑なに弟子を取らない理由に、その事件は関係しているのか。

 

壮間は、あの会議から一度もヒビキの言葉を聞いていない。

彼は今、どこで何をしているのか。あんなにあっさりとウォッチを継承した理由も、何かある気がしてならない。

 

壮間は響鬼ウォッチを空に翳し、思いを馳せる。

強くなるために鍛えているはずなのに、あの背中が遠のいているように感じて―――

 

 

「……ん?」

 

 

眺めていた空の奥。芝生の向こうから誰かが来る。

貸し切りだから部外者とは考えにくい。となると、妖館の従業員だろう。

 

全速力で走っているのが伝わってくる。女性なのは分かったが、壮間的には見覚えのある走り方だった。

 

視力はAの壮間。その姿を確認し、眼をこする。

そして一足先に、目ん玉が飛び出る程の衝撃を味わった。

 

 

「みなさーん!お弁当忘れてますよ…ん…!?」

 

「「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」」

 

 

弁当を持ってきた香奈と対面した壮間。手から肉便器弁当が落ちる。

互いに指さした壮間と香奈の息の合ったシャウト。死ぬほど驚くとは、こういう事を言うのだろうといった光景だ。

 

 

「…ソウマ?いやでも過去だし、そっくりさん?」

 

「いや壮間です。日寺壮間です。ちょっと待って、香奈?」

 

「はい香奈ですけど…」

 

「「え?どういうこと??」」

 

 

二人が顔馴染みだったことに驚く妖館一同。気づいてて黙ってた残夏は楽しそうに笑っている。ミカドは香奈と会ってはいるのだが、覚えていないのか気にせず弁当を食べていた。

 

この上なく混乱している香奈と壮間を落ち着かせ、取り合えず壮間に状況を説明した。

 

 

「マジか……!まさか香奈も付いてきてたなんて……」

 

「私だってビックリだよ!いや同時にほっとしてもいるからフクザツだよっ!なんかアイスクリーム乗っけたパンケーキみたいな気分!」

 

「うっわそのアホな言い回しは香奈本人だ…」

 

「ちょっとソウマ!?

ってことは、あのタイムマシンはソウマのなんだよね?アレ何なの?ちゃんと説明して!」

 

 

当然の展開だが、壮間は問い詰められて少し困ってしまう。

説明すれば、きっと理解してくれる。でも、それは彼女を戦いに巻き込んでしまう選択だ。

消えた歴史の中だが、香奈は一度アナザービルドによって殺されている。出来れば彼女を関わらせたくない、それが壮間の思いだ。

 

 

だが、香奈は変に頑固なのはよく知っている。

どうやら、「出来れば」が通じる展開ではなさそうだ。

 

 

「…分かった。じゃあ聞いてくれ、俺は―――」

 

 

意を決し、その全てを言葉にしようと口を開いた。

 

しかし、彼女の耳に届いたのは声では無く、土が抉れる音。

陽光を浴びていた芝生のあちこちで土煙の柱が上がり、不快な鳴き声と共に異形が姿を現した。

 

 

「えっ!?何!!」

 

「香奈、下がって!あれは…魔化魍…?」

 

 

緑の複眼と黒い体色。翅と鋭い嘴に触角、風貌は蝉に近い魔化魍だ。

だが、壮間の知る魔化魍と違うのは、それが人型で大きさも人に近いという点。

 

そして、個体が多数存在するという点だ。

 

 

「こんな街中に魔化魍…?それにあれは夏の魔化魍、いくらなんでも早すぎます!」

 

「ちんたら驚いている暇は無さそうだ。念のために鼓と棒を持ってきておいて正解だったな」

 

 

酔っている上に太鼓が使えないバンキを放っておいて、アマキとサバキが戦闘態勢に。アマキは音笛を吹き、サバキは音錠を弾く。額に鬼の紋様が浮かび、それぞれ体が風と闇に包まれた。

 

 

「はっ!」

 

「せいっ!」

 

 

風を切って現れるは、黒い肉体、青い紋様、三本角の管の鬼。

闇を払って現れるは、茶の肉体、赤い紋様、四本角の弦の鬼。

 

 

天鬼

裁鬼

 

 

先祖返りたちも変化し、戦えない卍里や残夏、香奈を守りながら魔化魍「ウワン」に対処する。

 

 

「俺達も行こう!」

 

「言われるまでもない」

 

《ジオウ!》

《ゲイツ!》

 

 

夏の魔化魍といえど、ジオウとゲイツならば撃破が可能。

壮間とミカドもドライバーを装着し、ポーズを構える。

 

 

「「変身!」」

 

《ライダータイム!》

 

《仮面ライダー!ジオウ!!》

《仮面ライダー!ゲイツ!!》

 

 

ウォッチを装填し、鬼と先祖返りに続き、彼らも変身。

ジオウとゲイツは次々に地面から湧いて出るウワンに向け、拳を振るった。

 

目の前で突然戦いが始まり、誰よりも激しく慄いているのは香奈だ。

ピクニックに来たつもりが、何をどう間違えばこんな事態になるなんて予想できるだろうか。

 

しかし、それ以上に驚いたのは、壮間が「変身」したことだった。

 

 

「あれが…ソウマ…?」

 

 

香奈の目に映る、怪物に果敢に立ち向かう背中。

それは、香奈の知らない壮間の姿だった。

 

 

《タイムブレーク!!》

 

 

ジオウの必殺パンチが、ウワンを一体撃破した。

しかし、まだ地上には多数のウワンが。先祖返りは魔化魍にトドメを刺せないため、数で押されてしまう。

 

ジオウは加勢に行こうと、駆け出す。

だが、そんな彼の足元が揺れた。また何かが地上に出てこようとしている。しかも、ウワンよりも遥かに大きな何かが。

 

 

「なにあれ…!!」

 

 

芝生に空いた大穴から出てきた巨体が、香奈の言葉を失わせた。

オオクビやヌリカベのような、巨大な魔化魍。シャコの甲羅を纏った巨大芋虫に、オケラの前脚を付けたような魔化魍が、ジオウの前に立ちふさがる。

 

 

「あれは…まさかヒダルガミですか!?」

 

「文献では見たことあるが、実物見るのは俺も初めてだ。厄介な相手だが…」

 

 

裁鬼は辺りの状況を確認する。

天鬼は太鼓に慣れていないため、動きが鈍い。バンキは使い物にならない。先祖返りたちはウワンを倒せない。人員に対してウワンが多すぎる現状で、これ以上戦力を減らすのは愚策だ。

 

ジオウが、壮間が、

一人でヒダルガミを相手するしかない。

 

 

「俺が…やるしかない!」

 

 

壮間はオオクビには勝てなかった。巨大魔化魍との対面で、嫌でも緊張が駆ける。

 

遅い動きで迫るヒダルガミに、ジオウは拳を繰り出す。

だが、見た目通りの硬さが攻撃を受け付けない。その装甲に苦戦しているうちに、ヒダルガミの前脚がジオウを弾き飛ばした。

 

それだけで終わらない。立ち上がったジオウの体に異変が起きた。

体から力が抜け、手足の痺れが襲ってくる。その絡繰りは理解できた。ヒダルガミを中心に放出される瘴気、いわば毒ガスだ。

 

 

―ヒダル神―

山道などを歩く人に取り憑く妖怪。取り憑かれた人は極度の空腹状態になり、最悪そのまま死に至るという。「ダル」とも呼ばれ、一説によると「ダルい」の語源であるとも言われている。

 

 

魔化魍「ヒダルガミ」は、特殊な毒ガスで獲物の動きを封じ、地中から現れて人間を捕食する。その毒ガスの症状は、空腹状態に近いものであるとされる。裁鬼をして「厄介」と言わしめた理由がこれだ。

 

 

(ヤバい…頭がクラクラしてきた…)

 

 

ジオウの足取りがおぼつかなくなり、ヒダルガミの前脚叩き付けを喰らってしまう。

その惨状に悲鳴を上げるのは香奈だ。

 

 

「ソウマ!!」

 

 

壮間を助けようにも、周りの誰もがそんな余裕が無いことくらい分かってしまう。何より、涙を流すほど悔しいのは、香奈にはどうすることも出来ないことだ。

 

 

「大丈夫ですよ。彼は…そんなに弱くは無いです」

 

 

そんな香奈に、ウワンを一体倒した天鬼が声を掛ける。

生真面目な彼女は嘘を吐けない。彼女が知りうる彼を、言葉にして香奈へと伝えた。

 

ジオウがヒダルガミの腕を払いのけ、立ち上がった。

眼を開き、息を整え、意識を集中させる。

 

 

(滝修行を思い出せ…苦しいのは無視できない、仕方ない。

だから、苦痛と思考を別の場所に分ける…!苦しくても、考えを止めるな!)

 

 

毒は命に関わるレベルではない。精々動きを鈍らす程度だ。

だが、時間をかければかける程不利になる。打開するには、一気に畳み掛けるしかない。

 

 

「拳でダメならドリルだ!」

 

《ビルド!》

 

《アーマータイム!》

 

《ベストマッチ!》

《ビ・ル・ドー!》

 

 

ビルドアーマーを纏ったジオウは、ドリルを甲羅へと突き出した。

砕くことは出来ないが、攻撃を受けた場所が削れている。やはり、アーマータイムによる強化は効果的だ。

 

ヒダルガミの反撃を跳躍で躱し、毒ガスを出来るだけ吸わないように考えながら、俊敏に動き回ってヒダルガミを翻弄する。動きの鈍いヒダルガミの懐に入り込んだ所で、タンクの馬力が巨体を押し倒した。

 

 

「動ける…前よりずっと上手く!」

 

 

サバキやバンキ、先祖返りたちとの実戦訓練によって、戦闘の知識や基本的な動きの矯正が成された。それにより、ライドウォッチに内包されたライダーの戦いの記憶を、より鮮明に読み取れるようになった。

 

 

「頭が冴える。鍛えた分、ちゃんと力になってる…!」

 

 

遠くで、また黒い影が地上に這い出る。

それと同時に悲鳴が響いた。香奈の声だ。鬼や先祖返りが手一杯な状況で、見計らったようにウワンの魔の手が香奈に迫る。

 

 

「香奈!!」

 

 

その時、頭によぎった敗北の記憶。

アナザービルドに、蘭と香奈を殺された、消えた時間の記憶。

 

焦燥と恐怖。悪寒が走る。

 

でも不思議だ。頭だけは澄んでいた。

香奈を救う未来を、あの時掴み損ねたその未来を、今度こそ手繰り寄せる―――

 

 

(そのための力が……今の俺にはある!!)

 

 

ウワンの手が香奈に触れる。

その寸前、砂を取り込み、巻き上がる旋風がウワンを飲み込んだ。

 

風を纏って駆け付けた戦士は、香奈を守るためにそこに立つ。

両肩にバイクタイヤ、赤いライン、白い装甲。音速の戦士の力を受け継いだジオウ。

 

 

《アーマータイム!》

 

《MACH!》

《マッハ!》

 

 

「マッハ」の複眼がウワンを見据え、超速でその両拳を叩き付ける。

2014年で、壮間のブランクウォッチに宿っていたマッハの力。試しに使ったのだが、その凄まじいスピードに壮間自身がついていくことが出来なかった。

 

しかし、あの修行を経た今なら、完全でなくとも使うことが出来る。

 

 

「追跡!撲滅!あと…なんか色々マッハ!!行くぞ!」

 

 

圧倒的速度で戦場を駆け巡り、ウワンに攻撃が突き刺さっていく。

再び香奈を狙うウワンたちにも余裕で追いつき、ジカンギレードのジュウモードで迎撃。発射された銃弾は空中で拡散し、ウワンの群れに降り注いだ。

 

 

「今だ!」

「はい!」

 

 

裁鬼と天鬼が音撃鼓を取り付け、ウワンに音撃打を叩き込む。

 

 

《ゲイツ!ザックリカッティング!!》

 

 

更に、ゲイツの円を描くような斬撃が、三体のウワンを烈断。

それにより、全てのウワンの殲滅が完了した。

 

残されたのは、巨大魔化魍のヒダルガミのみ。

 

 

「ミカド、ドライブのウォッチを」

 

「チッ…今回だけだぞ!」

 

 

ヒダルガミに駆け出したジオウは、ジカンギレードをケンモードに。

前脚の打撃を全力で受け止め、弾き返す。生まれた隙に、ジオウは思いっきり地面を蹴り、飛び上がった。

 

 

《フィニッシュタイム!》

《マッハ!》

 

《フィニッシュタイム!》

 

 

ドライバーのジオウウォッチ、マッハウォッチを必殺待機状態に。

そしてジカンギレードにはドライブウォッチを装填。

 

あの硬い防御を破るには、壮間の思いつく限りの最高火力で!

 

 

「駆さん、走大さん…力借ります!」

 

 

剣を振り上げ、全身を使ってタイヤのように回転。

回転の度に速度が増し、ジオウは激しい熱気と赤い稲妻を帯びる。

 

 

《ヒッサツタイムブレーク!!》

《ドライブ!ギリギリスラッシュ!!》

 

 

赤と白が入り混じった刃の車輪。

誰にも止められない暴走機関(デッドヒート)が、ヒダルガミの体を抉り、切り裂き、一刀両断した。

 

 

「すごい……」

 

 

爆散した土塊の雨を受ける壮間の姿が、そこにあった。

それは紛れもない、強者の姿だった。

 

 

「香奈…俺は……」

 

 

毒で朦朧とする意識の中で、壮間は香奈に歩み寄る。

説明しなければいけないと思った。自分に起こったことや、これから香奈を巻き込む戦いのこと、色んなことを。

 

何から話そうか。それを考えた時、壮間の頭には一つしか浮かばなかった。

ずっと近くで見てきて、ずっと憧れてきた君に、やっと見つけた胸を張れる自分の話がしたい。

 

 

「俺は―――王様になりたい」

 

 

そう真剣な眼で言った壮間の言葉に、疑念なんか微塵もなかった。

香奈は笑った。香奈の知らないうちに、幼馴染はヒーローになっていたんだ。そう思うと、笑えて仕方なくて、返す言葉も一つしか浮かばなかった。

 

 

「うん。私は、ソウマを信じるよ」

 

 

『時間は重みだ。僕は、そう思う』

今なら、この言葉に対する答えが出せる。

 

 

(俺もそう思いますよ。だから…)

 

 

壮間は自分を信じられない。自分がその重さを受け止められるとは思えない。

 

でもアマキやサバキ、妖館の皆。そして、香奈。

心から尊敬し、憧れる皆が、壮間を信じてくれた。

 

だったら、それに応えたい。

 

皆が信じた自分を信じる。

いつか、その重さを受け止めるほど強くなって、その信頼に足る王になろう。

 

 

その日が来ると信じて、鍛えて、時間を重ねていくんだ。

それが、日寺壮間の物語だ。

 

 

______

 

 

「誰かが言った。“信じると言われたなら、それに応えること以外考えるな”。どうやら私如きの助言など、我が王には必要なかったようです」

 

 

本を閉じ、ウィルは木の陰に姿を消す。

その奥では別の戦いが繰り広げられていた。そこには、魔化魍「ツチグモ」と戦う、響鬼の姿が。

 

 

「音撃打 一気火勢の型」

 

 

響鬼の一撃で、ツチグモは成す術もなく爆散した。

姿を見せなかったこの二週間、ヒビキは一人で鍛え続け、魔化魍を破竹の勢いで次々と討伐していた。

 

ずっと昔からそうだ。

ヒビキは思いつめた時、戦いの渦中に飛び込むことで、それを忘れようとする。

 

だが、そんな抵抗は虚しく、現実は彼の意志なんて尊重しない。

 

 

「やっと…見つけた…ヒビキ…!」

 

 

戦いを終えたヒビキの前に現れる、アナザー響鬼。

対話の姿勢なんて欠片も見せず、握りしめた棍棒をその頸に向けて振り下ろす。

 

 

「ツクモ…なんで…どうして!どうしてオマエが!」

 

「どうして…?そんなの、そっちが一番分かってるだろ…!」

 

 

アナザー響鬼の棍棒が、ヒビキでは無い何者かに受け止められた。

その姿を見たアナザー響鬼は、腕を下ろし、敵意を胸に抑え込んだ。

 

 

「同胞を…傷つけるつもりはない。御狐神…双熾」

 

 

刀を向ける白い九尾の狐、双熾がヒビキを守る。

ヒビキの様子がおかしかったため、双熾は分身をこの半月の間尾行させていた。それが功を奏し、やっとアナザー響鬼へと辿り着いたのだ。

 

 

「やはり貴女も先祖返りでしたか」

 

「そう…私は鬼の道に踏み入って、自由を手に入れた…私を受け入れてくれる世界で…」

 

「元々妖怪の力を持つ先祖返りは、鬼にはなれないはずです」

 

「分かってる…でも、それでよかったの。どれだけ辛くても…死にかけたとしても…私はそれで満足だった!それなのに!この男は…私を鬼の道から追放し、再びあの家に閉じ込めた!それが私たちにとって、どれだけの仕打ちか…あなたなら分かるでしょう……!」

 

 

先祖返りを持つ家は栄えると言われている。だから先祖返りの家の中には、そんな彼らを縁起物としてしか扱わず、軟禁状態で一生を終えさせようとする家もある。双熾の実家の御狐神家がそうだった。

 

先祖返りは孤独な存在だ。だからこそ身を寄せ合い、妖館が生まれた。

仲間も自由も、彼らにとって当然のモノではないのだ。

 

 

「だから…私はヒビキを許さない…!次に私の邪魔をするなら…同胞でも話は別だ……!」

 

 

同じ先祖返りには非情になれなかったようで、アナザー響鬼は飛び上がって姿を消した。変化を解いた双熾の目線は、今度はヒビキへと向けられる。

 

 

「今の話…真実なのでしょうか」

 

「あぁ、俺はアイツを家に追い返した。二度と自由なんか与えないようにな。

オマエも俺を許せないか?同じ先祖返りとしちゃ」

 

「まさか。僕は他人の話には露程の興味もありませんし、同情もしませんよ。ですが…貴方に関しては、その限りではないかと」

 

 

ヒビキの表情が固まる。

双熾はこの半月、謎の多いヒビキという男について徹底的に調べた。そして、ある一つの情報が浮かび上がった。

 

 

「先ほど、僕は先祖返りは鬼になれないと言いました。しかし、凛々蝶さんや蜻蛉さまのように、元々『鬼』の力を持った先祖返りではどうでしょう」

 

「さぁな。それで?何が言いたい」

 

「白鬼院家と青鬼院家以外に『鬼』の血を引く家を探したところ、少し異なる妖怪ですが、確かに『鬼』の家系を見つけました。そして、その先祖返りは二十七年前に生まれ、姿を晦ましている…

 

『牛鬼』の先祖返り、飛牛坂(ひうしざか)彦匡(ひこくに)。これは貴方ですね?」

 

 

響鬼とアナザー響鬼。

先祖返りという宿命が生んだ師弟の物語。

 

これは『ヒビキ』が積み重ねた、

長い長い時間のお話である。

 

 

 




壮間、香奈、ミカドが揃い、俺たちの戦いはこれからだ!(終わりません)
とりあえず壮間が悩みを吹っ切り、マッハアーマーのサプライズ登場でした。

そしてヒビキの本名も明らかになり…次回から響鬼×いぬぼく編クライマックスです。

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今回の名言
「信じると言われたなら、それに応えること以外考えんじゃねぇ!!」
「鬼滅の刃」より、嘴平伊之助。

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