仮面ライダージオウ~Crossover Stories~ 作:壱肆陸
仮面ライダードライブに変身した青年。24歳。木組みの街の交番で働く警察官。女性免疫は無し。飲み物でテンションが変わる特異体質。アナザードライブとの戦闘では重加速エネルギーを半分以上削るという奮闘を見せるも、殺害されたことでドライブの歴史が消滅した。2014年では壮間の「仲間を信じる心」とミカドの「自分を信じる心」を認め、仮面ライダードライブの力を託した。修正された歴史では東京での戦いも無くなったため、木組みの街に行くことも無くなった。
本来の歴史では・・・街の平和を守るため、事件を起こすロイミュードたちと戦い続ける。数年間の戦いで107体のロイミュードを撃破し、最後に残ったのは人間として友情を結んだトーヤ(108)だった…
新年あけましておめでとうございます。146です。
かなり間が空きましたが、コツコツ書いておりました。今年も書いていきますのでよろしくお願いします!
今回からはラブライブサンシャイン×ゴースト編の後半戦。時系列はサンシャイン二期の6話です。
今回も「ここすき」よろしくお願いします!
襲来!未来の侵略者!
「この本によれば…普通の青年、日寺壮間。彼は2018年へとタイムリープし、王となる使命を得た。スクールアイドルAqoursと仮面ライダーゴーストの繋がりを見つけた我が王は2015年へとやって来るも、仮面ライダーゴーストこと『朝陽』は姿を消し、この世から消え去ってしまうという危機にあった。残された時間は、あと7日…」
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「対象の生存を確認。消去再開」
猛烈な竜巻が道路を抉りながら、一人の戦士に迫る。
黄色の球体が青緑の風を帯びたような人型の怪人は、風を操る謎の存在『ガンマイザー・ウィンド』。
圧倒的に規格外の力に対するのは、2015年の仮面ライダーネクロム。
「私は朝陽を探さなければいけない…邪魔をするなっ!」
《Destroy!》
《ダイテンガン!ネクロム!》
《オメガウルオウド!》
荒ぶる暴風の中にある一筋の隙間。そこを狙った正確無比な一撃がガンマイザーを打ち砕いた。
精神力と体力が音を立てて削れていくような一戦だった。消耗が激しいがネクロムは休めない。一刻も早く、消えた朝陽を見つけなければ。
「見つけたよ。今のがガンマイザー、君は仮面ライダーネクロムの…名前はなんだっけ」
疲弊したタイミングを見計らってか、ネクロムの前に新たな刺客が姿を現す。しかし、謎の存在であるガンマイザーに比べてもそれは異質と言わざるを得ないような、違和感を放つ少女がそこにはいた。
2015年にやって来た、タイムジャッカーのオゼだ。
「眼魔世界の冥術学には興味があるんだよ。あなたはゲートを開けられるんだよね。わたしを眼魔世界に案内してくれないかな」
「何者かは知らないが…敵と見て良さそうだな」
「…わたしの願いに応えてはくれないみたいだね。じゃあ、英雄の眼魂だけでも貰って帰るとするよ」
オゼは生身だが何かが計り知れない。そう判断したネクロムは白い眼魂を取り出し、使おうとする。だが、それはオゼの期待通りの展開だった。
ネクロムが眼魂を起動する前にオゼは時間を止め、ネクロムの手から眼魂を取り上げる。
「中国からインドの陸路を踏破した僧、玄奘三蔵の眼魂だね。信仰によって強大化した死者の情報を規格化して再現・召喚する技術は知ってるけど、死者の魂を物体に定着させて端末とし、強化した肉体に下ろすという発想!技術!それ即ち生命の物質化!あぁなんという神秘!奇跡!魔術!そして科学ッ!!これがこれこそがこの物語の願望器、グレートアイの力!!」
しかし、オゼの狂った恍惚に反発するように、サンゾウ眼魂の周囲の時空が歪んでいく。歪みはそれでも眼魂を放そうとしないオゼの腕を飲み込み、時間が巻き戻るように眼魂はネクロムの手の中に戻っていってしまった。
「何がどうなっている…!?」
「ペナルティだよ。この程度の干渉も駄目なんて…まぁそうか。それが無かったら仮面ライダーゴーストは生き返れないんだったよね」
歪みによってオゼの右袖は消し飛び、細い腕には指先から肘にかけて、割れる寸前のガラスのようなヒビが刻まれた。だがオゼは苦痛の素振りを見せず、愛おしそうに割れた指先に舌を滑らせる。
そうして消えようとするオゼに、漠然とした切迫感を覚えたネクロムは叫んだ。
「待て!貴様は何者だ!」
「自己紹介…なるほど、自己紹介を経て関係を縮めれば眼魂世界に連れて行ってくれるということ?それもそうか努力なしに願いが叶うことは無い…その発想は無かったよ、仮面ライダーネクロム!
わたしはオゼ。未来からあなた達の存在を歴史ごと奪いに来た、知的侵略者だよ。わたしの王が目覚める頃にまた会おうね」
そう残してオゼは時間の狭間に消えて行った。
変身を解除したネクロム。幾つもの不安が渦巻く中、緑のマフラーが風に揺れた。
「未来からの侵略者…!?」
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壮間たちは2015年の浦の星女学院に赴き、そこで朝陽があと7日でこの世から消滅することを聞いた。
「これが武蔵の眼魂で、こっちが弁慶。これは五右衛門と龍馬で…これ誰だっけダイヤ?」
「発明家トーマス・エジソンと物理学者のアイザック・ニュートンですわ」
「ですわ…?」
「で、こっちが新しく力を貸してくれることになった、ナイチンゲールさんにコロンブスさん、ガリレオさん、カメハメハさん、最後にシェイクスピアさんの眼魂ずら!」
「ずら…!?」
Aqoursの松浦果南から眼魂の説明を受けていた壮間。黒澤ダイヤと国木田花丸の語尾に若干戸惑いを見せるが、それ以上に目の前の偉人たちの魂に驚きを抑えられない。
「教科書に載るような偉人ばかり…これだけの偉人の魂があれば、人ひとりを生き返らせられるってのも…まぁ納得しちゃうよな」
彼女たちから色々と話を聞いて、ようやく状況が理解できた。
まず、仮面ライダーゴーストである朝陽という男は既に死んだ幽霊。仮面ライダーゴーストになってから99日で消滅する運命にあるらしく、15個集めると願いが叶う英雄眼魂の力で生き返ろうとしているらしい。
眼魔という敵との戦いの末に15個の眼魂を集めたはいいが、今度は「ガンマイザー」という謎の力によって願いが叶えられなくなってしまう。
そのガンマイザーの力を少しの間でも抑え込めば、その隙に朝陽を生き返らせられる。そのために必要な力の数は、追加の英雄眼魂5つ分。
そして、朝陽が消滅する7日前。ついに英雄眼魂15+5個が集まり、全ての準備が整ったが…当の朝陽の姿が見えない、というのが今の状況だという。
「ありがとうございます皆さん。急に押し掛けたのに、こんなに丁寧に説明まで…」
「構いませんわ。未来人という話も驚きましたが…説明も無くよく分からないものを連れてくる蔵真さんには慣れっこですから」
話題に出てきた蔵真という男だが、部室の隅で狂犬未来人のミカドと何やら揉めっぱなしだ。
「ダイヤ、余計な情報を彼らに与えるな。未来人が知るべきではない情報を与えると正常な歴史の流れを乱す恐れがある。俺たちがとるべき行動は彼らが知る歴史から各地に残った予言の正誤を確認し対策をいち早く立てることだ。協会本部からポリグラフ装置が届くまで彼らを拘束する」
「予言だと?馬鹿馬鹿しい。貴様のような愚か者にくれてやる情報など一片も無い。貴様も何をしている日寺!情報が欲しければ殴って叩き出せばいいだけのこと!」
「深淵を監視する者VS未来の狂戦士…ファイッ!」
「3人ともやめるずら」
眼魂を構える蔵真、ウォッチを構えるミカド、便乗する津島善子。花丸が一旦落ち着かせたが、少し目を離すとあの二人は殺し合いを始めそうだ。
そして、もう一人の未来組の香奈は
「こここっここここんにちわ!私2018年から来ました片平香奈ですっ!現役時代のAqoursの作曲担当桜内梨子さん…!?感激恐縮感動です!!あの…サインと握手いいっすかっ!?」
「曜ちゃん、この人は…?」
「未来から来た私たちのファン…らしいよ。うん…握手してあげて」
「え未来?え…えぇ…握手くらいするけど…えっ…!?」
「おっほぁぁぁ!?やっべぇありがとうございます!うおぉぉぉっ!」
オッサンみたいなテンションで喜ぶAqoursファンの香奈。興奮のあまり、そのまま死んでしまいそうで怖いまである。
あのテンションが今度はこっちに向かうんだろうな、と若干怯えるダイヤと果南。壮間が申し訳なさそうに軽く頭を下げる。
「それで、あなた達が来たのは3年後からなんですよのね。なぜこの時代に来たのか、なぜ朝陽さんを知っていたのか、今度はそちらが答えていただけます?」
「それは…えっとですね…」
壮間は少し言葉を濁す。というのも、あの神楽月蔵真という男がいる状況で「仮面ライダーゴーストの歴史を貰いに来ました」なんて言えば面倒事に一瞬で発展するのは明白だ。かなり慎重に言葉を選ばなければ。
「俺たちのいた時間では仮面ライダーゴーストは消滅している。俺たちはそれを回避しに過去に来た。貴様らに力を貸してやる」
そんな壮間の懸念を蹴っ飛ばすように、ミカドがストレートな言葉で一突き。
状況的に嘘は言っていないが、ミカドが「仮面ライダーを助ける」と言うなんて絶対に本心じゃない。壮間は慌ててミカドに小声で問いただす。
「どういうつもりだよミカド。協力するのはいいけど、それならもっと詳しい事情とかアナザーライダーの事とか言っておかないと」
「馬鹿正直に伝える必要がどこにある。貴様は状況が分かっていないのか?」
「状況?」
「俺たちの時間軸ではゴーストは消滅し、アナザーゴーストに歴史を奪われている。片平が聞いた高海千歌の話が本当なら、『助けられなかった』というのはゴースト消滅の瞬間に立ち会ったということだ。つまりゴーストが見つかりはするが、生き返らせる作戦は失敗が確定している」
「そんな…いや、ちょっと待て。じゃあゴーストの歴史が消えたのって!」
「アナザーゴーストが何もしなくとも時間経過でゴーストは消え、歴史の所有権がアナザーゴーストに移動する。つまりあと7日…それまでにゴーストの力を手に入れる必要があるんだ。奴らより先にゴーストを見つけてな」
確かにそうだ。事情を説明し、信用を得ている時間は無いかもしれない。ミカドはそれを踏まえ、Aqoursを既に「敵」と見なしている。
「壮間さん?」
「あっ…いや何でもないです!ミカドの言う通り、朝陽さんを探すのを手伝わせてください!」
ダイヤは少し考えたが、信用してくれたのか首を縦に振った。
壮間の心中が罪悪感で曇る。だが、2018年の浦の星を救うにはこれが最善のはずだ。
一方で興奮のあまり話を聞いていなかった香奈。壮間とミカドの考えなんて一切の興味は無く、ただ部室とメンバーを凄い熱量で見渡している。
「そういえば千歌さんいない…鞠莉さんもいないですね」
「鞠莉ちゃんはアリオスと一緒に朝陽くんを探してる。千歌ちゃんは…特訓かな?」
「特訓…?」
曜の口から出てきた知らない名前と「特訓」の二文字に、香奈は首を傾げた。
_______
曜と梨子に連れられて、香奈は学校から離れた海岸に。
その砂浜には、派手にすっ転ぶ千歌の姿があった。
「千歌さん…現役時代の千歌さんだっ…!」
「おーい千歌ちゃーん!」
「特訓の調子はどう?」
曜と梨子に気付いたのか千歌が手を振って応えてくれる。
が、近づくと何故か涙目で震えている知らない女子がいたので、千歌はまず一言。
「誰?」
2015年のAqours2年生組が揃って感極まった香奈が泣いている間、曜が千歌に状況を説明。全然理解は出来て無さそうだったが、目の前の彼女がAqoursのファンで良い人だというのは分かったようだ。
「えーと…とりあえずこの香奈ちゃんは置いといてもいいのかな…?」
「はいっ!放置して結構です!私なんぞに構わず御三方でお話をどうぞ!」
「うん…ありがと。それで曜ちゃん、眼魂は…」
「ばっちりであります!これで20個揃ったよ!でも朝陽くんはまだ…」
「そっか…私が探しに行けたらいいんだけど……」
「今からセンター代わるなんて無理だし…やっぱりあのパフォーマンスはやめにした方が…」
「ダメだよ梨子ちゃん!絶対成功させる!私ができることを、ちゃんと形にしたい!それを…生き返った朝陽くんにも見て欲しい。だから絶対!」
3人が何かを話し合っている間、香奈は激しく感動しながらも何かに気付いた。この時期、千歌が転んだ様子、会話の内容。思い当たった愛を、ファンやオタクという人種は我慢できない。
「MIRACLE WAVE!」
「え?」
「MIRACLE WAVEですよね!2回目のラブライブ地区予選で披露した新曲!」
「確かに曲名は合ってるけど…」
梨子が千歌と顔を見合わせて驚く。スクールアイドルの全国大会 ラブライブの地区予選は朝陽が消滅する日と同じ7日後。そのために用意した曲こそがMIRACLE WAVE。しかし曲名はつい最近決まったもので、作詞の千歌と作曲の梨子しか知らないはずなのだ。
「すごい!本当に未来から来たんだ!疑ってはなかったんだよ?でもやっぱりすごいよ!」
「実は私…ちょっと疑ってた」
「私も。でも私も知らない曲名知ってたし、本当に未来のAqoursのファンなんだ」
「もちろんです!MIRACLE WAVEといえば千歌さんのアクロバット!私ダンスやってるんですけどあれ何回も見て練習したんですよ!ちょっと待っててください確かこうやって…」
テンションが上がり切って沸騰直前の香奈は、勢いに乗って砂浜に手を付けて脚を上げ、そのままロンダートからのバク転を完璧に……
「あ」
決めてしまった。
MIRACLE WAVEの最大の見せ場、センターである千歌のバク転パフォーマンス。現在3年生の3人が考案しながらも成功せず、それを受け取った千歌もまだ練習中だった「この時点では未完成だったパフォーマンス」を部外者が勝手に披露してしまった。
「あわわわわわすいませんすいません!自慢とかアピールとかそういうのじゃなくて私のは千歌さんのバク転を見て学んだ言っちゃえば猿真似みたいなもんで凄いのはこれを完成させた千歌さんたちで私なんかが真似することすら本当はオコガマシイっていうかなんとゆーか…」
「すごいよ!」
「へっ!?」
千歌は絆創膏だらけの腕で香奈の手を握った。唐突な握手に瞬間爆発する香奈だが、千歌は構わず熱い感情をぶつけ続ける。
「私、何回やってもできなくて…それをやっちゃうなんて絶対すごい!」
「曜ちゃん、これって…」
「あーうん。私も千歌ちゃんの考え分かる。でもそれっていいのかな…?」
感情の暴風にやられて混乱する香奈だけが、千歌の無茶苦茶な考えを理解していない。それはきっと、常識を超えた反則行為。
「香奈ちゃん!私にさっきの動き教えて!」
あまりの衝撃展開に香奈が卒倒した。
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「朝陽をこれで実体化させて捕まえる!」
「怪奇現象管理協会特製、不知火マークⅱ改ver3ずら!」
壮間とミカドは果南と花丸から掃除機のような装置を手渡された。朝陽がいそうな場所にこれを発射しろということだろう。
「そもそも、なんで朝陽さんは消えちゃったんですか?」
「そうだ。まず貴様らは幽霊が見えていたのか」
「朝陽は確かに幽霊だったけど、見えたし会話もできたし触れたよ。なんか気持ち次第で実体化できるんだって」
「そうか…なら問題ないな」
「お前今ほっとしただろ。やっぱ幽霊怖いんだろ」
「黙れ。実体があるなら殴れる、それを確認したに過ぎん」
「殴る」なんて物騒な事を言い出すので、壮間は慌ててミカドを黙らせて愛想笑いで誤魔化す。どう考えても怪しすぎて凄く嫌だ。
「でもちょっと前に朝陽さんが実体化しなくなっちゃったずら。それはもう突然に。どうも本人が実体化したがらないみたいで…」
「そうそう。千歌には見えてたみたいだけど、千歌が言うには逃げるみたいにどこかに飛んで行っちゃったって」
「ちょっと待て。高海千歌にはゴーストが見えていたのか」
「うん。朝陽が眼魂を持つより前から…というか昔からかな。昔から幽霊の友達の話は聞いてたけど、本当に見た時は驚いちゃったよ」
「じゃあ千歌さんに探してもらえば…」
「千歌ちゃんは今、地区予選ステージのために練習してるずら。廃校のタイムリミットも地区予選も、朝陽さんが消えちゃうのもあと7日ずら……」
「私はまだ反対だよ、あのフォーメーションを無理してやるべきじゃない。本当は千歌を諭すか、そうじゃなくても支えるべき時だってのに…なんで消えて千歌の負担増やしてるのよあのバカ朝陽!」
果南は憤りを発散させるように、虚空に不知火を発射した。空間に舞い散る金色の粒子は美しいが、それはただ降るだけで何も映さない。
花丸は「廃校のタイムリミット」と言っていた。それが朝陽の余命と同じとも言っていた。
(3年後では朝陽さんは消えてた。学校も廃校になっただけじゃなく、あんな未練だらけの棺桶みたいに……)
あれだけ必死に努力して、あれだけ輝いたのに、彼女たちは二つの大切な存在を同時に失ってしまった。
「悲しい」「虚しい」「切ない」
2018年の曜の話を聞いた時にも浮かんだ、たった三文字の簡単な感情の羅列。他人事でもこんなに苦しいのに、これから待ち受ける悲劇で彼女たちはどれだけ辛い思いをするのだろう。
あれだけやっても報われないのなら、「輝き」は何のためにあるのだろう。
「驚いたじゃないか果南。あまり不知火を無駄打ちするな」
聞かない声が壮間の思考を断つ。清涼感のある声で果南の不知火の銃身を押し下げる、凛々しい人物。その姿を見て、壮間とミカドの頭に共通の疑問が生じる。
「アリオス…ごめん、朝陽に腹立っちゃって。あれ?鞠莉と一緒じゃなかったっけ?」
「鞠莉は廃校を止めるのに少し動くらしい。あとやはり朝陽はまだ見つからないか…それはそうと、そこの二人は何者だ?」
名前はアリオスらしい。背はまぁまぁ高い、170くらいか。服装は今風な重ね着に緑のマフラーを着けた厚着で体のラインが見えづらい。髪はウェーブがかかっているが、そこまで長くはない。
色々と容姿を文字化させると迷うが、実際見てみると顔立ちというか、所作というか、立ち振る舞いというか、諸々を総評して結論は直感的に出る。
「女の人…ですよね?」
壮間の結論に、アリオスは頭を打ったようなリアクションでのけ反り、銃で撃たれたように膝から崩れ落ちて果南の脚に縋りついた。
「果南…私は……やはりそんなに女々しいか…!?」
「えっ…もしかして男性でした?」
「いや、合ってるよ。アリオスは女の子だし、女の自分が嫌だとかそういうのでもなくて。ただ…ちょっと…凄くこじらせててさ」
「大丈夫、リオちゃんはしっかりイケメンずら!」
「リオはやめてくれないか花丸…ちゃん付けもやめてくれ…アリオスで頼む…やはり私は完全な存在にはなり得ないのか……」
悩んだ末に果南がひねり出した大雑把な紹介に、花丸の丁寧かつ雑なフォロー。それにまた凹むアリオス。
よく見ると靴は厚底だし、服のポケットから「男らしさとは」というタイトルの本が見える。事情は知らないがこの人は面倒くさそうな印象が拭えない。
「所詮私は不完全……完璧にはなれない……」
「なんだこの面倒な女は。というよりこの時代の女は何なんだ、どいつもこいつも訳が分からん。置いて行っても構わないか」
「おいやめろ女を連呼するな、アリオスさん悶えてるから。すいませんアリオスさん、ちょっと信じてもらえないと思うんですけど、俺たち未来から来ました。壮間とミカドって言います」
「…未来だと……!?」
壮間の取り繕いの自己紹介で、アリオスが急に立ち上がった。しかも一瞬で雰囲気まで変わり、一転して壮間たちに向けられたのは明確な敵意。
「花丸、果南、奴らから離れろ」
「ずら!?」
「ちょ…どうしたのアリオス!」
「ガンマイザーとの戦闘の後、彼らのように未来から来たという人物が現れた。そいつはこう言っていた…『存在を歴史ごと奪いに来た侵略者』と」
ミカドが舌打ちする一方で、壮間は息が止まるような苦しみを感じた。何せ、彼女の言う事は「壮間が敢えて言わなかったこと」なのだから。
「…違う。それは恐らくタイムジャッカー、俺たちの敵だ。俺たちはゴーストを救うためにこの時代に来た」
「お前は兵士だな。任務のためなら虚偽も厭わない軍人の言葉だ。私はそっちの少年に問いたい。お前達の目的は何だ、我々の存在を消すために来たのか?」
壮間は声を出せない。ゴーストの歴史を消したいわけでは無いのだ、否定したい気持ちはある。だが、彼女の指摘は何も間違ってはいない。どう言い換えても、壮間はゴーストの歴史と存在を奪いに来たのだ。
「沈黙は雄弁だな。お前達は私の…敵だ!」
「チッ…馬鹿が」
アリオスが左腕にブレス型変身装置『メガウルオウダー』を装着。同時にミカドもジクウドライバーを装着する。双方ともに最初から殺意に満ちあふれている。
《Stand by》
《ゲイツ!》
「「変身!」」
《テンガン!ネクロム!》
《メガウルオウド!》《Clash the Invader!》
《仮面ライダー!ゲイツ!!》
ミカドは装甲を纏い、アリオスは空飛ぶパーカーを纏って仮面ライダーへと変身。その姿には壮間も見覚えがある。
「あの仮面ライダー…浦の星に出てきた一つ目!」
ゲイツとネクロムの戦闘が始まると、どこからか駆け付けてきた人影がゲイツに突撃。誰だと確認するよりも早く、その人物は容赦なくゲイツと壮間に襲い掛かる。
「あ…って蔵真さん!?」
「やはり危険因子だったか。怪奇現象管理協会の名において、お前達未来人を捕縛する!」
「ちょっと話を…って言ってる場合じゃない!」
蔵真が眼魂を取り出すのを見て、壮間も慌ててウォッチを構えた。薄々勘づいてはいたが、やっぱり彼も仮面ライダーだ。
蔵真が腰に手をかざすと『ゴーストドライバー』が出現。カバーを開いて脚を大きく開くと、起動させた青目の眼魂を投げ入れてレバーを引く。
「変身!」
《カイガン!スペクター!》
《レディゴー!覚悟!ド・キ・ド・キ・ゴースト!》
ドライバーが『開眼』し、出現した黒いパーカーが蔵真が変身した『トランジェント』と一体化。
二本角の青いライダー、仮面ライダースペクターが顕現した。
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「うーん、見つからないなぁゴースト」
階段を上って長浜城跡まで来たオゼは、右手の指で作った円を覗き込んで辺りを見渡す。田舎だから高い建物が無く、探し者も見つからず段々と退屈になってきた。
「このままゴーストが見つからなければ勝手に歴史は消える。それもまた一つの計画通りだけど、そうして得られるのは当然の結論のみ…」
オゼの身体を底から震わせ、火照らせるのは、2005年での出来事。響鬼によって失われてしまったが、土壇場での思いつきで生まれた
「あぁ…やっぱりわたしは我慢できないよアヴニル!何より今回の彼女は…わたしの
オゼは再び内浦の景色に視線を移す。そして、その視界に見据えた一点を……未だ目覚めぬ王の居場所を指さした。
「見つけたよ」
______
《テンガン!グリム!》
《メガウルオウド!》
《Fighting Pen!》
ネクロムが呼び出したのは、かの有名なグリム童話の編集者『グリム兄弟』のゴースト。原稿用紙とペンを模したようなパーカーを羽織り、単眼が開いた本のような形状に変化する。
両肩からペンの形をした触手『ニブショルダー』を伸ばし、距離を保ったままジオウに変身した壮間を追い詰める。
「くっそ…なんでこんなことに!」
「貴様が弁明をしなかったせいだろう!黙る馬鹿がどこにいる!」
「うっ…それは…ごめんだけどさ…」
ジオウがちょっと落ち込んでいる隙に、スペクターがゲイツを退けてジオウにも蹴りを入れた。避けようとするが、想像以上に脚のリーチが長く感覚が狂う。
壮間は戦闘経験が極端に浅く、性格も最初は様子見をするタイプだ。初見の相手だとどうしても動きが鈍ってしまう。
「戦う気が無かろうが容赦はしない。こいつで終わりにしてやる!」
言い切ったスペクターが出したのは紫の眼魂。ドライバーから出現したその英雄ゴーストの姿は、服の特徴といい髷といい、見るからに思い当たるような姿だった。
「ちょっと待てあんなの俺でも知ってるぞ!英雄にも程がある!」
「眼魂の力がこれほどとはな。アレは戦国の世を力で切り開いた英雄…第六天魔王、織田信長!」
《カイガン!ノブナガ!》
《我の生き様!桶狭間!》
ノブナガ魂にチェンジしたスペクターは、火縄銃モードのガンガンハンドをゲイツに向けて発砲。カバーに入ろうとしたジオウの腕を、ネクロムのニブショルダーが絡め取る。
「捕えた!観念しろ!」
「すっげぇ今更だけど…偉人の力使えるって反則じゃない…?いや俺も他のライダーの力使ってたわ……」
「下らん事を言ってる余裕があるなら備えろ!来るぞ!」
スペクターはガンガンハンドをドライバーにかざし、必殺待機状態になった銃を構える。そこにノブナガ魂の「武器複製能力」が発動。歴史上の「長篠の戦い」を彷彿とさせる大量の火縄銃の列が、一斉に狙いを定めた。
《ダイカイガン!》
《オメガスパーク!》
激しく熱された銃口が向けられ、その蛮勇の英雄が放つ覇気に死さえ脳裏に過ぎる。
がしかし、引き金が引かれる前に異変が現れる。
それはスペクターやネクロムにとっても無視できない異変。目の前の未来人よりも、自分たちの存在を脅かすような負の予感。
「そこかぁッ!!」
全ての銃口を逆側に向け直し、予感を吹き飛ばす勢いで一斉射撃。圧巻の火力は一瞬先に大爆発を生み出し、そこにあった何もかもを消し炭に変えた。
その爆炎が揺らぐ。陽炎の中から生じた、もしくは気付かぬうちに煙が人型になったような、
少なくとも、それは『招かれざるゴースト』だった。
「アナザーゴースト!?もう生まれてたのか!」
現れてしまったアナザーゴースト。だが、アナザーゴーストは無気力に浮かび上がっているだけで、こちらに視線を向けようともしない。
見るからに偽物のゴースト。その容姿にネクロムも動揺を見せる。
「アレはなんだ、お前達の仲間か!」
「違います!俺たちは…アイツを倒すために2015年に来たんです!」
「出たのなら幸運だ。奴を捕らえて正体を明かるみに出してやる」
心を淀ませる不和感に従い、ネクロムとスペクターは頷いて協力という選択に舵を切った。
4人の敵に囲まれても、アナザーゴーストはどこを見るわけでも無い。それなのに、捕まえようとしたり攻撃したりすると、スルリと間を抜けてしまう。
まるで宙に浮かぶ風船、もしくはウナギを掴もうとしているような。なんともじれったくて苛々する時間が過ぎていく。
「逃げんな…くそっ!」
腕を掴もうとしたジオウ。だが、風に揺られるようにアナザーゴーストは流れて行ってしまう。
苛立ち故に強く握った手の中、虚無ではない何かを掴んだ。手を開くと零れ落ちていくそれは、アナザーゴーストの体から出ている物。
「……砂?」
「捕まえたぞ、朝陽のドッペルゲンガー!」
「腹立たせやがって…叩き斬る!」
スペクターとゲイツ、二方向の殺意がアナザーゴーストの逃げ場を完全に封じた。
アナザーゴーストは抵抗しない。はっきりとしない記憶と感覚、その奥底から何かが来る。この世界を蝕む何よりも大きな……歪が。
アナザーゴーストのパーカーと、やつれた体の間。そこから大量の砂が溢れ出た。砂は爆発したように飛び散り、撒き散らされ、
そしてやがて一つに集まり、人間の姿になった。
「よくもまた集まってくれた。わざわざ来てやったよ、この…贋作博覧会に」
突然現れては迫っていたスペクターとゲイツを一蹴したその人物は、2005年の妖館で見た顔、令央と名乗った芸術家風の男だ。
令央が指を鳴らすと、闇の渦がアナザーゴーストを飲み込んで消えた。鳴らした指を今度はジオウに向け、忌々しそうに周囲に視線を走らせる。
「世界は美しいのに、芸術性に欠ける贋作が!全てを汚している!嘆かわしい程に駄作だが…駄作には駄作に相応しい結末というものがある。それを描くのは……私だ」
確認の必要は無い。躊躇も同様。スペクターとネクロムは、相手が生身だろうが構わず即座に「殺しに」かかった。そうしなければいけない程、この男は危険だと世界が警報を鳴らしている。
再び砂嵐が起こり、全ての者の視界を奪う。令央の影がその中に消える。竜巻の中心で練り上げられていく、赤い狂気。
「望む結末を描くため、殺しはしない。だが私は
初めての現象。一つの時代に『二人目のアナザーライダー』。
砂嵐を掻き消した異形の赤鬼、炎の翼と鎧を纏った悪魔、時間を壊す歪の仮面騎士。
「赤い角…あれが…あいつの正体…!?」
思わずジオウもゲイツも戦慄する。
腰の鎧に刻まれた年号と名前は
『2007』『DEN-O』
「失敬、決まり文句は大事だな。
―――俺、参上」
2007年、時間改変を企てる未来人『イマジン』と戦った、時の列車を乗りこなす仮面ライダー。その名前は今や、彼の物。
始まりも終わりも、全てはいつも突然。
アナザー電王、時を超えて参上。
そういえば虹ヶ咲アニメ終わっちゃいましたね…あれは良いアニメでした。栞子ちゃんも出して二期はよ。
今回はいつもより意見がぶつかりますし、いつもより話を聞かない人が多いです。未来人介入による歴史改変も結構生じます。アナザー電王も出たし色々と大変ですが、予定では3話くらいで終わればなぁ…と。
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