仮面ライダージオウ~Crossover Stories~   作:壱肆陸

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津川駆
仮面ライダーマッハに変身した青年。20歳。ロイミュード事件を追い、2014年では木組みの街の大学に通っていた。人呼んで「最速の情報屋」。ナンパ癖がある。2014年では壮間と共にアナザードライブの正体を探り、壮間の「怒りを制御する心」を認めて仮面ライダーマッハの力を託した。修正された歴史では暴力団の下で働いていたことで逮捕されるも、とある警官との出会いで更生。2018年ではフリーのカメラマンとして活躍している。

本来の歴史では・・・上述の通りグレていた時期があったが、ある事件で走大の協力者となり、木組みの街にも来たかと思うとマッハに変身して走大を驚かせた。最終局面では超進化した004との激闘の末、自爆という形で004を道連れにし……


あけましておめでとうございます146です。今日と明日はセンター試験ですね。居ないと思いますけど、受験生で読んでる人が居たら、さっさとブラウザバックして寝るのが吉です。

今回は喧嘩回?です。マジでAqoursメンバーは台詞が分からん…
あと、壮間がまたウジウジ悩むので…そこはちょっと我慢していただければ…

今回も「ここすき」よろしくお願いします!




激突!譲れぬ想い!

 

 

「こんなところにいた。探したよ?ゴースト」

 

 

内浦にある寺で、オゼは墓場に完治した右手の指を向ける。

傍から見れば、ただ墓石を指さす少女。しかしオゼの双眸には、その姿がクッキリと映っていた。

 

 

「幽霊には興味があるんだよ。ちょっとでいいからわたしの実験材料になってくれないかな?ダメだというのなら…そうだ、お友達というものから始めよう」

 

 

言い慣れない単語を出したせいか、少しぎこちなくオゼは手を差し出す。笑みを浮かべてはいるが、その笑顔は観察対象に向ける好奇のそれだ。

 

 

「ごめんねお嬢さん、そのお願いは聞けない。

みんなのこと、ちゃんと見届けなくちゃいけないんだ」

 

 

『幽霊』は、ぼやけた声でそう答えた。

オゼは笑顔を引きつらせるも、今回は機嫌が良いのか発作のような発狂はせず、もう一度幽霊に尋ねる。

 

 

「…じゃあゴーストの力をわたしに頂戴。わたしの王に渡す前に、色々と実験がしたいんだよ」

 

「うーん…それもできないかな。この力は()()()()()()()()()()

 

 

そう言うと、幽霊の姿は消えてしまった。

風の音のように、こんな言葉を残して。

 

 

「この力をどうするか、この世界をどうするか、この先の未来をどうしたいか……それを決めるのは僕じゃなくて、この時代に生きるあの子たちだ」

 

 

________

 

 

アナザーゴーストの体から出現した、謎の芸術家風の男 令央。彼は4人のライダーの前に立ちふさがると、なんと二人目のアナザーライダーへと変身した。

 

2007年の歴史を奪ったアナザーライダー。

その名も、アナザー電王。

 

 

「破壊もまた芸術。私の前から消えろ、醜い贋作共!」

 

 

アナザー電王は腰回りの短剣を取り外し、両手に構えてライダー達に襲い掛かる。

 

先陣を切って飛び出したゲイツとスペクター。それぞれジカンザックスとガンガンハンドを使って応戦するが、戦闘開始数秒で彼らは全力の防御を強いられる。

 

 

「ふざけるな…なんだこの勢いは!?」

 

 

ゲイツから苦悶の言葉が漏れる。

アナザー電王の戦闘スタイルは、まさしく「最初からクライマックス」。一撃目から渾身の殺意を込めた全速全開で、初手を甘く見ていると一瞬で戦いの流れを持っていかれてしまう。

 

防御体勢も万全では無かったためすぐに崩され、ゲイツとスペクターに刃が炸裂した。

 

 

「脆い」

 

 

アナザー電王は倒れたゲイツに足を進め、逆手に持った短剣を心臓に突き下ろす。しかし、流石にジオウが寸前でアナザー電王を殴り飛ばし、そのトドメを防ぐ。

 

 

「こっちにもいるぞ…来い!」

 

「語る価値も無いな。それで虚勢を張っているつもりか?」

 

 

ジオウとの距離を詰めたアナザー電王が、荒々しく両手の剣を振るう。

避けつつジカンギレードを装備しようとしたジオウだったが、剣が手元に出現した瞬間にアナザー電王に蹴飛ばされてしまった。

 

その動揺は最小限だったが、アナザー電王にとっては十分。その一瞬で右に一閃、袈裟斬りで一閃。最後に投げつけた短剣がジオウの体を斬り付け、変身解除まで追い込んだ。

 

 

「模範的だが芸術性に欠ける不意打ちだ。これ以上、私を不快にさせるな」

 

「なんだと…!?」

 

 

ジオウを倒した油断を突いた、ネクロムの不意打ち。アナザー電王は空いた右手で三本目の短剣を抜刀し、一撃でそれを返り討ちに。

 

体勢を崩したネクロムを痛みを刻み込むように踏みつけ、その首元に短剣を押し付けた。

 

 

「あまりに質が低い。仮面ライダーネクロム、お前は女だな。受けが軽い上に非力で話にならない。ゲイツもそうさ。鍛錬を積んだ所で本物には全く才能が及んでいない粗悪品だ」

 

 

刃から伝わってくる感情は、純粋な殺意以外に無い。「殺しはしない」と彼は言った。だが、その激しい憎悪によって自分は数秒後に死ぬ、そう恐怖してしまうほどの気迫と強さだ。

 

 

「特にジオウ。何なんだお前は。理想も、野望も、力も才能も素質も何もかもが贋作というにも粗末!ジオウは、時代を統べる圧倒的な『魔王』でなければならない。お前の存在がジオウに対する冒涜だ」

 

「魔王…!?」

 

 

アナザー電王が並べる理解のし難い文言たち。分かるのは、それが強烈な「思想」の下にあるということだけ。今はただ、その思想の理解に苦しみ、強さの前に平伏すことしかできない。

 

 

《Dive to Deep…》

《アーイ!》

《ギロットミロー!ギロットミロー!》

 

 

アナザー電王が最後の一人に目を向けようとした瞬間、そこで放たれた力に戦慄した。それはアナザー電王も知る『深淵の力』なのだから。

 

 

「既に()()を持っていたのか…」

 

「お前の話を聞くつもりはない!世界の秩序を乱し、俺の友を傷付ける存在を…俺は徹底的に排除する!」

 

《ゲンカイガン!ディープスペクター!》

《ゲットゴー!覚悟!ギ・ザ・ギ・ザ!ゴースト!》

 

 

怪物の瞳のような眼魂『ディープスペクター眼魂』を使い、スペクターは銀色のトランジェントへと変化。そこに新たなパーカーゴーストを羽織ることで、仮面ライダーディープスペクターへと強化を果たした。

 

しかし、スペクターの力の激流は留まらない。

目の前の存在の危険性。己の腹から溢れる怒り。それらを加味して、スペクターは己の命を滅ぼすリスクを軽々と踏み越えた。

 

 

《ゲンカイダイカイガン!ゲキコウスペクター!》

《デッドゴー!激怒!ギ・リ・ギ・リ!ゴースト!》

《闘争!暴走!怒りのソウル!》

 

「俺の生き様…見せてやる!」

 

《キョクゲンダイカイガン!ディープスペクター!》

《ギガオメガドライブ!》

 

 

ディープスペクターの更に一段階上、それがゲキコウモード。ゲキコウモードになったスペクターは鋼の翼を手に入れ、己の激しい怒りと生命力を引き換えに、絶大な力を発揮できる。

 

その力は一縷も余さずアナザー電王に向けられる。

空間を裂くような雷で短剣が朽ち果て、アナザー電王は武器を失った。

 

 

「悪鬼退散!!」

 

 

その身一つとなったアナザー電王に、スペクターが全身全霊のライダーキックを放つ。アナザー電王のエネルギー波とぶつかりあった結果、この空間が耐え切れずに地面が爆砕し、双方の姿は土埃に隠された。

 

 

「強さだけは…まぁマシな贋作もいるようだ」

 

 

息を切らしたスペクターの前に、アナザー電王は健在だった。

だが、さっきまでの見下した余裕は感じられない。さっきの一撃は、間違いなく彼に痛手を負わせたようだ。

 

 

「この借りは返す…せいぜい私が描く結末を楽しみにしていろ…!」

 

「ッ…逃がすか!待て!」

 

 

立ち上がったゲイツがアナザー電王に拳を振るうが、軽くいなしてアナザー電王は飛び去ってしまった。

 

 

 

________

 

 

 

「それで…なんでこんな事態になったのか、ちゃんと説明していただけます!?」

 

 

アナザー電王が去った後、戦闘中は隠れていた果南と花丸によって千歌と鞠莉以外の全員が集められた。それで、今にも喧嘩が始まりそうな雰囲気を見たダイヤに問い詰められているのが、今の状況だ。

 

 

「説明なんて必要ない。奴らは歴史改竄を企てる侵略者だという話だ。きっとタイムマシンが開発された未来では歴史管理を目論む秘密結社が存在し、こいつらはその手先に違いない」

 

「蔵真さんは少しお黙りなさい!わたくしは壮間さんたちから話を聞きたいのです」

 

 

詰め寄られた壮間は横目でミカドを見る。全く協力も説明もする気が無さそうな顔で、相変わらず敵意を隠す気も無い。

 

だが、その態度を貫けば状況は悪化してしまう。ゴーストの力を手に入れるためにも、ちゃんと膝を合わせて話すしかない。

 

 

「分かりました…説明します」

 

「何を言っている。説明の必要は無いと言ったはずだ」

 

「ダイヤさんたちは敵じゃないだろ!これまでだってそうしてきた、きっと…話せば分かってくれるはずだ」

 

「……もう知ったことか。勝手にしろ」

 

 

そうして、壮間はいつも通り、ライダーの力の継承やアナザーライダーのシステム、壮間が王になるためライダーの力を集めているなどの事情を説明した。

 

ただし、未来で浦の星は廃校となり、アナザーゴーストがそこを根城にしているという具体的な事実だけは伏せて。それは今の彼女たちにとって、余りに残酷だから。

 

話を聞き終わった彼女たちは、それぞれが思い悩んでいる様子だった。壮間たちに視線を合わせず、中には泣きそうな者もいれば、理解が及んでいなさそうな者もいる。

 

 

「…やっぱり、話を聞く必要は無かったな」

 

 

最初に声を発したのはアリオスだった。

が、次の言葉を口に出す前に、その腕が壮間の胸ぐらを掴んだ。

 

 

「ゴーストの記憶が消える?眼魂システムが消える?それは朝陽も眼魔世界も消滅するということだ。それで私たちが納得するとでも思っていたのか!?」

 

「…っ、それは……」

 

 

アリオスの言葉を誰も否定しない。それは、誰もが同じ考えであることの証明。

 

壮間は自分の考えの甘さを痛感した。

これが当然の反応のはずだ。ミカドの言う通り、自分たちの存在が脅かされるというのに快く協力する方がおかしい。

 

壮間は無意識のうちに、これまで会ってきた彼らの優しさに甘えていた。

 

 

「未来を救いたいなど馬鹿馬鹿しい。お前達はゴーストの力を欲しがるだけの敵!ただの略奪者だ!」

 

 

アリオスは壮間を突き放すと、ネクロム眼魂を掲げる。

抑えきれない心を敵意として向けるアリオス。何を言い返すことも出来ず、その敵意を受けるしかない壮間。

 

しかし、その間に両手を広げて黒澤ルビィが割って入った。

それも…壮間を守るように。

 

 

「ルビィ…なんのつもりだ!そこを退け!」

 

「ダメだよリオちゃん!確かに…ルビィは未来とかよくわかんないし、さっきのお話はショックだったけど…でも…ちゃんと正直に話してくれたよ!」

 

「…だからどうした!そいつらは敵だ!」

 

「さっき壮間さん、おねえちゃんたちは敵じゃないって言ってたよ。ちゃんと信じて話してくれた。だからルビィも…壮間さんが悪い人だとは思えない!」

 

 

誰もルビィを止めようとしないのもまた、皆が彼女と同じ気持ちを抱えている証明。確固たる意志で壮間の前を離れないルビィに、アリオスも眼魂を下げた。

 

 

「アナザーゴーストは私たちが倒す。朝陽も生き返らせる。お前達の出る幕は無い」

 

 

荒事にはならなかったようで、壮間とルビィ、他のメンバーも安堵の息を吐く。だが、壮間の選択のせいで状況が悪化したことに変わりはない。

 

一人で出て行ったアリオスの背中を目で追いながら、壮間の思考は暗闇に沈んでいった。

 

 

_________

 

 

壮間たちとAqoursの間に亀裂が入ったまま、日は沈んで夜を迎える。

 

一方で事情を全く伝えられないまま、千歌と香奈はあれからずっとパフォーマンスの特訓を行っていた。

 

 

「行くよ香奈ちゃん!」

 

「ばっちこいです!」

 

 

息を大きく吸って駆け出し、勢いをつける。

側転の動きからのロンダートは完璧。そこからバク転でフィニッシュだが……

 

勢いが付きすぎた千歌の体は、香奈にヒップアタックを決めてふすまを突き破ってしまった。

 

 

「こらー!夜は練習やめろって言ったでしょ!もう寝ろ!」

 

 

千歌の姉である美渡に二人ともどやされ、練習はそこで打ち切りになってしまった。一連のやり取りからも分かるように、香奈はこの時代にいる間、千歌の実家である十千万という旅館に泊まらせてもらうことになった。もっとも、客間では無く千歌の部屋だが。

 

ちなみに香奈だが、あろうことか千歌と一緒に寝泊まりできる展開を受け、二分近く呼吸を忘れて倒れそうになっていた。

 

 

「千歌さんの家って旅館だったんですね…そういえば未来の千歌さん、仲居さんの格好してました。すっごく綺麗でしたよ!ここの旅館じゃなかったですけど」

 

「じゃあ未来の私、大学行きながらどこかの旅館で修行してたりするのかな?未来かぁ……そうだ!未来の私たち…Aqoursってどうなってるの?」

 

「未来のAqoursですか!?それは…!」

 

 

嬉々として語ろうとしていた香奈だったが、そこで咄嗟に口ごもった。Aqoursがラブライブで優勝したという名誉を、今の千歌に伝えていいのだろうか。

 

それだけではない。未来のAqoursというなら、浦の星女学院が廃校になってしまったという事も伝えなければいけない。

 

 

「いや…やっぱやめた!言わなくていいよ!」

 

 

不自然に黙っていた香奈を見て何かを思ったのか、千歌はそう言って香奈の口元に指を立てる。

 

 

「いいんですか…?」

 

「未来の私たちはきっと、未来で頑張ってる。それを聞いちゃって楽するのは、未来の自分に失礼かなーって。不安はあるけど……それは今の私で乗り越えなきゃ!」

 

「でも、未来から来た私と練習するのは…あ、すいません!私程度で千歌さんの意見に口出してしまいました!切腹しますっ!!」

 

「それはそれ、これはこれ!早くこのフォーメーションを完成させたいってのもそうだけど、ホントはこうやって一緒におしゃべりがしたかったんだ。Aqoursのファンって人、ちゃんと会ったこと無かったから!」

 

 

すると千歌はベッドの上であぐらをかき、指を立てて誰かのモノマネをするように言った。

 

 

「美味しいものは食べれる時に、やりたいことはできる時に!モタモタしてても、お化けになってからじゃ遅いんだぞ~」

 

「…近所のおじいさん…ですか?」

 

「やっぱりおじいちゃんみたいだよね!これ、朝陽くんっていう男の子がよく言うんだけど…香奈ちゃんは知ってるんだっけ」

 

「幽霊の朝陽さん!ですよね?今はいないって聞きましたけど…」

 

「大丈夫!朝陽くんは帰って来るよ。だから私は、香奈ちゃんとたくさん練習して、たくさんおしゃべりして、一緒にたくさん頑張りたいんだ!多分それって、今しかできないでしょ?」

 

 

そう言って微笑む千歌が、なんだか大きく見えた。今はまだ香奈の方が年上のはずなのに、まるで長い間生きてきたような言葉。

 

多分、それは朝陽の影響だろう。千歌はそれだけ、朝陽のことが好きなのだ。

 

そんな彼女を凄いと、羨ましいと思うと同時に、可哀そうだと思ってしまった。この先、千歌に待っている未来が辛いものだと知っているから。

 

 

「一緒に…頑張ります!明日からはもっと…!」

 

「…うん、そうだね…?」

 

 

浦の星は廃校になり、朝陽は消滅する。2018年で聞いた、千歌の声にならない悲しみが忘れられない。

 

こうして自分が来たことが変化になるはず。浦の星は存続する。朝陽は消えない。そんな未来にできるのは自分しかいない。

 

 

(変えれるよね?変えて…いいんだよね…?)

 

 

________

 

 

 

今日は月も出ず、夜道は暗闇に満たされている。

そんな中でもアリオスは足を止めず、朝陽、もしくはアナザーゴーストを探し続けていた。

 

 

「いたか蔵真!?」

 

「いや、いない。今日はそろそろ退くべきだろう、お前も傷を負っているはずだ」

 

「平気だ!私に疲れなどない!一刻も早くアナザーゴーストを倒す。奴らの好きにさせるわけにはいかないんだ!」

 

 

アリオスは鬼気迫る様相で、蔵真の進言を意地でも突き返す。

一方で蔵真はアリオスの想像よりも遥かに冷静な様子で、彼らに対し怒りを見せていないようにさえ見えた。アリオスにはそれが解せない。

 

 

「蔵真。まさかとは思うが、ゴーストの歴史を渡してもいいなんて思ってないだろうな!?」

 

「そうとは言ってない。だがどうする気だ?未来人は、俺たちにはあのドッペルゲンガーを倒せないとも言っていたぞ」

 

「そんなもの嘘に決まっている!」

 

「歴史が消えるという話は信じるのに…か?俺はあの話が全て真実だと思っている。もしお前も俺と同じ感覚を味わったなら、お前もそう感じているはずだ」

 

 

アリオスの言葉が詰まる。蔵真の言う通り、壮間の話は驚く程に理解できてしまった。近頃感じていた疑問や違和感、その答え合わせそのものみたいで、疑う気が起きなかったのは事実だ。

 

 

「しかし…!私は絶対に認めない!時間を無かったことになんてさせない!」

 

「……そんなに孤独が怖いか、アリオス」

 

 

それは彼女の心を的確に指す言葉。

そのまま蔵真は去り、残されたアリオスの頭では、蔵真の言葉が何度も何度も繰り返される。

 

 

「孤独が怖い…か…」

 

 

足が勝手に動くように、アリオスは海辺まで来てしまった。

砂浜に力無く座り込むと、空を閉ざしていた雲が裂け、海に月が映る。美しい光景だ。アリオスがいた眼魔世界にこんな景色は無い。

 

この感動も、忘れてしまうのだろうか。

 

 

「こんなところにいたのね、リオちゃん。珍しく堕天使センサーが当たってた」

 

「だから言ったでしょう?我がリトルデーモンの居場所など、自分の手相を見るよりも容易くわかると!堕天の絆が私をここに導いたのです!」

 

 

静謐に満ちていた世界が途端に喧しくなった。

蔵真からアリオスの事を聞き、梨子と善子が様子を見に来たのだ。

 

 

「梨子…善子…だからリオはやめてくれ」

 

「いいじゃない“リオちゃん”って可愛くて。梨子とリオってなんか似てるし」

 

「それを言うなら私もヨハネよ!そんなに気に入らないのなら、堕天使の名の下に新たな名を授けましょう…リトルデーモン、アリエル!」

 

「洗剤みたいね…」

 

「アリエル…!」

 

「リオちゃん的にはアリなんだ…」

 

 

思わず目を輝かせてしまったが、慌てて目を逸らすように前を向くアリオス。とにかく思ったより元気そうで、梨子と善子も安心した。

 

 

「…私は、完璧になりたかった」

 

「どうしたのリオちゃん?」

 

「さっき蔵真に言われて気が付いた。私は完璧どころか、自分勝手な存在。私はただ…怖いんだ。奴らの言う通りなら、眼魔の世界は消えてしまうから…」

 

「そんなの怖くて当たり前じゃない。アリオスはあっちの世界の王女、眼魔もみんな家族みたいなもんなんでしょ?」

 

 

善子はそう励ますと同時に「口に出すと魅力的な設定…」と、ある種の憧れまで呟く。だが、アリオスは首を横に振る。

 

 

「あちらの世界の住人は、皆が完璧な存在だ。遥か昔から眼魂システムで生き続けている。眼魂が無くなれば、皆は遠い昔に死んでいることになるだろう。とても寂しいが、私はそれは不幸なことだとは思わない」

 

 

アリオスはこちらの世界に来て、命の儚さというものを知った。

精一杯生きて、それでもいつかは死ぬ。悲しいことだが、それが命のあるべき姿だとも思っている。

 

 

「だが…あの世界で私だけが完璧ではない…!」

 

「リオちゃん…」

「アリオス…」

 

梨子と善子は、それを聞いて彼女の恐怖の正体に気付いた。

眼魔は古代にグレートアイから力を授かった人々。だがアリオスだけは違う。アリオスは事故によって人間世界から眼魔世界に流れ着いた赤子で、眼魔世界の大帝がそんな彼女を自身の末子としたのだ。

 

 

「家族は居ないことになり、お前たち友にも出会えない…変わった時間の中で、私だけが孤独なんじゃないか……そう思うと怖くて仕方がない…!こんな風に私は、自分の事しか考えていない勝手な存在なんだ…」

 

 

その時、梨子と善子は「例えそうなっても、絶対に一人にはしない」と、そう言いたかった。「何が変わってもまた会える」と、言いたかった。

 

でも言えなかった。何故だか分からないが、それが嘘になってしまうと予感してしまったから。

 

むせび泣くアリオスを、梨子はただ、目を閉じて抱きしめた。

 

 

_________

 

 

ルビィが庇ってくれたおかげで事なきを得たが、はっきり言ってAqoursやアリオスとの関係は悪化した。このままでは朝陽を探すのもままならず、あれこれ悩んでいるうちに夜になってしまった。

 

 

「だから言ったんだ。適当に誤魔化していればいいものを」

 

「そんなこと言ったって…それはなんか違うだろ?」

 

「貴様の偽善に振り回されるのは御免だからな、ここから先は別行動だ。俺はゴーストを探す。仮面ライダーどもが邪魔をするようなら…殺す」

 

「えぇ…お前って、そこのスタンスは変わんないよな…」

 

 

とにかく今は宿を探さなければ。このままでは、またミカドと野宿する羽目になる。いや、別行動と言っていたし最悪一人で野宿だ。それは嫌すぎる。

 

スタスタと歩くミカドに付いて行こうとする壮間。そうして踏み出した一歩目だったが、前に出した右足は体の重さに負け、そのまま倒れてしまった。

 

 

「…何をしている貴様」

 

「ごめん…すぐ…起きる………」

 

 

言葉とは逆に、倒れてしまったことで一気に意識が暗くなっていくのが分かる。

 

よく考えれば修学旅行で丸一日動いた後、夜になってから浦の星に行って戦い、そこから2015年に行って半日動き回った後、更に戦った上に叩きのめされたのだ。人並みの体力しか無い壮間に耐えられるスケジュールではない。

 

 

「おい…貴様はどれだけ俺の足を引っ張れば気が済むんだ」

 

 

ミカドの言葉にも反応は示さず、壮間の瞼はキッチリと閉じられて死んだように動かなくなってしまった。過労で気絶したのだろう。

 

知ったことかと放置しようとするミカド。壮間が何処で野垂れ死のうが、ミカドにとって問題ではない。息は荒く、とても健康とは言えない様相で眠る壮間に背を向け、ミカドはどこかへ―――

 

 

「チッ……」

 

 

聞こえるくらい大きな舌打ちをして、ミカドは壮間の体を持ち上げた。といってもほとんど引きずっているようで、雑な扱いは否めないが。

 

適当な宿にでも放り込めば看病してくれるだろう、しかし何故俺がこんなことを…という風に、苛立ちながらも壮間を運ぶミカド。

 

そんな彼の前に、少し危なっかしい動きで一台の車が止まった。しかも初心者マーク付き。すると窓が開き、その素人運転手が顔を出した。

 

 

「貴様は……」

 

 

 

_________

 

 

 

「………あ」

 

 

妙に充実した寝心地の中で、壮間が目を覚ました。

夢も見ないほどの熟睡だった。自分が体力切れで倒れたのは分かっていたが、それにしては思ったよりも気分は悪くない。

 

 

「てかどこだここ…ホテル…!?なんで…?まさかミカドがここまで俺を…いや百歩譲ってあったとしても看病は流石に……」

 

 

体を起こして前を向く。そこに居たのはミカドでは無く、金髪美女。一瞬夢かと思って二度寝しようとしたが、それは見たことのある最近知った顔だった。

 

 

「おわあぁぁぁぁッ!?」

 

「Good morning!」

 

「え嘘、俺朝まで寝てた!?ってまだ深夜じゃないっすか…小原鞠莉さん」

 

「It's joke!聞いてた通り悪い子じゃなさそうだね、もう一人のKiller Boyはこーんな目で睨んできたけど」

 

 

目じりを指で吊り上げてミカドを表す彼女は、Aqoursのメンバーの一人である小原鞠莉。これまで姿を見ていなかったメンバーだ。

 

 

「ここは私の実家、ホテルオハラ!ルビィとダイヤに言われて、アナタたちをSupportしに来たのデース!」

 

「実家ホテル!?金持ちなんですね……」

 

「ちなみに一泊このくらい…」

 

「じゅ…はぁッ!?高っ!いや無理無理無理!無理ですって!」

 

「It's joke!」

 

「なんなんですかもう…」

 

 

寝起き直後からトップギアなテンションに、とてもじゃないが付いていけない壮間。からかい甲斐のある反応をするせいか、鞠莉はなんだか楽しそうだ。

 

 

「それより…ミカドは?」

 

「Killer Boyは“貴様の世話になどなるか。その荷物はくれてやる”って行っちゃったよ。もしかして喧嘩してる?ちゃんと本音で仲直りしてLet's shake hands!」

 

「…聞いてないんですか。俺がゴーストの歴史を消しに来たって」

 

「聞いたよ。ダイヤから全部」

 

 

お茶らけていた鞠莉の雰囲気が、その一言を皮切りに一転した。真っ直ぐに壮間を見つめる視線が、どこか怖くも感じてしまった。

 

 

「朝陽もアリオスも蔵真も、私の大切な友達。だから…忘れるなんて絶対に嫌。でもルビィとダイヤがアナタは信じられるって言ったから、私はダイヤたちを信じたの」

 

 

ダイヤも壮間を支持してくれたことに驚き、素直に嬉しさがこみ上げてくる。だがきっと信頼を得たわけじゃないし、許してくれたわけでもない。それは多分、目の前で険しい顔を見せる鞠莉も同じだ。

 

 

「憎いですよね…俺たちのこと」

 

「憎いよ。悪いのはアナタたちだとは思わないけど、アナタたちが来なければ…って思っちゃう自分がいる。だからもし、本当に私たちの歩んだ物語をゼロにするって言うなら……私は絶対に許さない」

 

 

背筋を寒気が這う。罪悪感に心を刺される。

2005年で時間の重さは分かったつもりだった。それを受け継ぐに足るだけの王になろうとも誓った。だが、こうも拒絶されてしまうのは初めてで、自責とは比べ物にならない苦しみに息もできなくなってしまいそうだ。

 

 

「でも…俺は……!」

 

 

その先の言葉が出せない壮間に、鞠莉は表情を緩めてデコピンを一発。本当に豆鉄砲を喰らったようで混乱する彼をからかうように、また笑う。

 

 

「It's joke!大丈夫、壮間も蔵真と同じMasked Riderなんでしょ?つまりOur hero、千歌っちや朝陽が言うところの“英雄”ってことデース!」

 

「ヒーロー…英雄…?どういう…」

 

「期待してるってことだよ。それでは、Shiny!」

 

 

去り際は明るく鞠莉は退室。最後に残した相反する二つの言葉のどちらが本音なのか、壮間には前者がそうであるように思えてならなかった。

 

一人残された深夜のルームで、壮間は考える。

 

 

(眼魂の願いを叶える力なら歴史を消さずに済むんじゃ…でも朝陽さんが生き返らない。じゃあ叶える願いを3つくらいに増やせば…って流石に無しだろそれは)

 

 

体はまだ疲れているのに寝付けない。一人になるといつもこうやって悩んでしまうのは、壮間の治らない悪癖だ。

 

電気を消そうと立ち上がった壮間。だが、いつの間にか壁に寄りかかっていた存在に気付き、驚くよりも嫌悪感を全面に表す表情を出した。

 

 

「こんなに良き夜だというのに、何を悩んでいるのかな我が王」

 

「…どこにでもいるよね、ウィル」

 

「鍵が開いていたからね。そればかりは君の不用心だ」

 

「戸締まりすればいいんだ…それはいいこと聞いた!じゃあ出てって不審者!」

 

 

大きい身体を押して部屋から追い出そうとする壮間に、本を閉じたウィルは抵抗しながら一つの問いを投げかける。

 

 

「まさかとは思うが、君は物語を受け継ぐことに躊躇しているのかい?」

 

「っ……それは…」

 

 

図星だ。これまで状況を受け入れてくれたレジェンドとは違い、あくまでも拒絶するというのなら…壮間は自分の野望のために、それを無下にすることはできない。そうしなくてもいい可能性があるなら、それを探したい。

 

結局また気付かされた。成長していたつもりだったが、壮間はこれまで出会った主人公たちの選択に甘えていたのだ。

 

 

「はぁ…あまり落胆させないでくれるかな。

いいだろう。この際だから明言をしておくとしよう。まず一つ“朝陽が死んだのは第二次世界大戦の戦時中”。ゴーストの歴史が消えれば、彼は生きて高海千歌に出会うことも、幽霊として出会うこともない」

 

 

新たにまた一つ、壮間の迷いに重しが圧し掛かる。

歴史を変える=命が消える。その事実は2005年でも一片を突きつけられたが、そう簡単に割り切れるものでは決してない。

 

 

「二つ目“例え君が王となっても、この物語を元に戻すことはできない”。2014年ではその旨を宣言していたが、不可能だ。淡い期待を持つのはやめたまえ。

 

そして三つ目“君がここで立ち止まれば、どのみち未来は滅びる”。君はそれを、その目で見たはずだ」

 

「分かってる!でも…なんかないの!?俺がゴーストの力を受け継いで、それでも歴史は消さずに…みんながハッピーエンドになれる方法が!」

 

「それは強欲とは言わず、愚かと呼ぶんだ。では君は、寿命で死にゆく者も助けたい。それが正しいと思うのかい?人類が不老不死になることこそがハッピーエンドだとでも?いくら王とはいえ、助けられない命は存在するんだ。それから逃げることはできない」

 

 

壮間の言葉がまた詰まった。反論も来ないことに落胆したのか、ウィルは溜息を吐いて本を開いた。

 

 

「誰かが言った“才能だけで偉人になれるはずもない”。君が目指すのはあくまでも王。この先、君がライダーの力だけを求めるというのなら、その覇道に未来は無い」

 

 

壮間が顔を上げたら、ウィルは居なくなっていた。

 

 

「どいつもこいつも…言うだけ言って消えるなよ……!」

 

 

頭が痛くなる。悩みの夜は続く。

 

とはいっても一度は倒れるほど疲労した壮間。ホテルオハラは田舎にしては相当の高級ホテルだということもあり、30分もすれば自然と眠りについてしまった。

 

 

そして、目覚めたのは次の日の昼前だった。

 

 

「最悪だ…あんだけ悩んでて結局グッスリかよ…マジなんなんだ俺…」

 

 

この恐れ多い高級ホテルからさっさとチェックアウトし、バスを使って浦の星に。色々と調べているうちにバスを一本逃し、30分ほど待ちぼうけを食らってしまったが、正午になる前に到着することができた。

 

 

「あ、鞠莉さんにお礼言ってない…結局宿泊費は負担してくれたし、看病もしてくれたんだろうな多分…」

 

 

浦の星の校舎に入り、部室のある体育館に行くまでの間にそんな事を思った。よく考えればホテルに美少女と二人きりと、昨晩はかなりとんでもない状況だったことに気付いてしまう。部室に鞠莉がいたとして、まともに顔を見れる自信が無い。

 

というか、このまま部室に行って誰かいたらどんな反応をされるのか。

そもそも何故、部室に行こうとしているのだろう。話せば分かってもらえると、許してもらえると思っているわけでも無いのに。

 

ダイヤだったり鞠莉だったり色々と世話にはなったが、まず良い感情を持たれていないのは確かなのだ。本音を言えば会いたくない。

 

だが、ここで逃げたら本格的に自分を許せなくなる。

 

 

「頭がごちゃごちゃしてきた…っと着いちゃったよ。誰かいます…?」

 

 

ガラスを覗き込むと、誰かがいた。

見える背中は思ったよりも小さく、髪型は印象に強く残っているツーサイドアップ。

 

 

「ルビィさん…?」

「ピギィ!?」

 

 

変わった驚き方で跳ね上がり、物陰に隠れるルビィ。だが、振り返った先にいたのは壮間で、一安心という風に物陰から出てきた。外見は他のメンバーより幼いと壮間は思っていたが、見た目に反さず臆病な気質らしい。

 

 

「壮間さん…よかった、元気になったんですね。倒れたって聞いたから…」

 

「あ…その節はありがとうございました。鞠莉さんに頼んでくれたって」

 

「い…いやいや…ルビィは何も…」

 

「え…っと、他の皆さんは……」

 

「一回みんなで集まったんですけど…今は朝陽さんを探したり、練習をしたり…ルビィは忘れ物を…」

 

 

ルビィから見れば壮間は年上の三年生で、壮間から見ればルビィは自分より早く生まれた年上。そんな感じで互いに敬語で互いに人見知り。会話が全く進展しない。

 

とはいえ、居たのがルビィで壮間も少し安心している。ルビィはあの時、アリオスから壮間を庇ってくれたのだから。

 

だがきっと、内心は言葉にし辛い感情で溢れかえっているはずだ。

 

 

「みんなのこと、嫌いになっちゃいましたか…?」

 

「え?」

 

 

ルビィが発したそれは、予想してなかった言葉だった。

 

 

「いろんなことにびっくりしちゃって、自分のことだけでいっぱいになっちゃっただけなんです。本当はみんなも、壮間さんはやさしい人だってわかってますから」

 

「あ、嫌いってそういうことか…」

 

 

壮間は納得と同時に解せなかった。Aqoursのことが嫌いになる?自分たちの全てを奪って王になろうとしている男なんて、非難されて当然だ。それをどうして、そんなロクデナシのフォローをしているのだろう。

 

 

「嫌いになんて…駄目なのは俺なんです。王になるなんて言いながら、俺は朝陽さんもこの時間も救えない。ゴーストの歴史を踏み台にしかできない。ルビィさんだって、無理して俺のこと許さなくたっていいんですよ」

 

「ルビィは…朝陽さんが消えちゃうのも、忘れちゃうのも悲しいです。もっといっしょにいたい…けど、これって許せないとか、どっちが悪いとか…そうゆうことじゃないのかなって。

 

みんなも、ルビィも、最後まで朝陽さんのことをあきらめない。でも壮間さんも、自分の目標があってそれはゆずれない。それって、ルビィたちがラブライブで他のスクールアイドルと競い合うのと似てるな…って思ったんです。だから壮間さんも…がんばルビィ!ですっ!」

 

 

この状況を部活で例えるなんて、優しいが過ぎる。

彼女たちはこんなにも優しく、健気で、努力している凄い少女たちなのに、未来では報われない。

 

 

「ルビィさん。俺は…」

 

 

礼をして出て行こうとするルビィを呼び止めた壮間。だが、何かを言いたいのに、

何を言えばいいか分からない。もうどうすればいいのかも分からない。

 

だから、ルビィが言ったように。一つだけ断言できる正直な気持ちを伝えた。

 

 

「俺はAqoursのことが大好きです!知ったのは香奈のおかげだし、しかも昨日とかだけど…ライブ見て、こうして会って、すごい人たちだって知ったときからずっと!大好きです!」

 

「大好き…!?あ、ありがとう…!ございま…す…?」

 

 

少し顔を赤くして、ルビィは駆け足で逃げて行ってしまった。

壮間も恥ずかしい事を言ったと数秒経ってから気付き、誰もいなくなった部室で悶絶する。

 

 

「あぁ…なんで俺って勢いで変なこと言うんだろう……」

 

 

悩みと恥ずかしさが頭の中でかき混ぜられ、脳が熱い。

しゃがみ込んで一人で頭を抱えていると、バランスを崩して尻もちをついてしまう。何から何まで、今日はなんだか調子が良くない気がする。

 

尻もちをついて、感じたのは痛みともう一つ。

何かを踏んだ感触。少なくとも床ではないそれに触れ、壮間の様相が変わった。

 

 

「砂…!?」

 

 

部室の一か所に、小さな砂の山があった。

白く細かい砂。海岸にある砂とは一目で違うと分かる。

 

その感触には覚えがあった。昨日、アナザーゴーストから噴き出て、アナザー電王になった砂と全く同じ感触だ。

 

 

「ルビィさん、一回皆集まったって言ってた。てことは…アナザーゴーストの正体って……!」

 

 

砂が壮間の手から零れ落ちた瞬間、影から這い出たような気配が、背後に立つのを感じた。確かめるまでもなく、壮間は咄嗟にジクウドライバーを装着する。

 

 

「ッ…!やっぱり!アナザーゴースト!」

 

「あ゛ァ……ひでら…そうま…!」

 

 

アナザーゴーストは前とは違い、明確に壮間を狙って攻撃を仕掛ける。

 

 

《ジオウ!》

 

「変身!」

 

《ライダータイム!》

《仮面ライダー!ジオウ!!》

 

 

腕を振り回す単純な攻撃を躱し、壮間はジオウに変身。だが、ジオウはアナザーゴーストの攻撃を受けるだけで反撃を躊躇っていた。

 

 

「くっ…目を覚ましてください!あなたは…誰なんですか!」

 

「わ…たし……あな…た…だれ……」

 

 

口に出す言葉から、これまでのアナザーライダー以上に自我が無いのは分かる。昨日出現した時に何もしなかったのも、ただ目的が無かっただけなのだろう。

 

だが今回は違い、自我が無い中で、恐らく無意識的に壮間を狙っている。壮間はその理由も分かっていた。

 

揉め合っているうちに部室から出て、学校の外の道路に。

そこに駆け付けた新たな影が、ジオウとアナザーゴーストを殴りつけた。

 

 

「見つけたぞアナザーゴースト!私が…貴様を討つ!」

 

 

現れたのは、既にネクロムへ変身したアリオス。アナザーゴーストに追撃しようとするネクロムを、ジオウが腕を掴んで止める。

 

 

「何をする!やはりお前も、あのタイムジャッカーの仲間か!」

 

「違います!貴女じゃ勝てない!それに…アナザーゴーストの正体はAqoursの誰かです!」

 

 

アナザーゴーストの軽い攻撃がネクロムを跳ね飛ばし、次はジオウに向かう。さっきのネクロムの一撃はまるで効いていないようだった。

 

ネクロムがジオウに問い質すのを待たず、アナザーゴーストは姿を消した。だが、それは逃げたわけでは無く「透明化」しただけで、ジオウは姿の見えない敵から攻撃を浴びせられ続ける。

 

 

「そんなのできるのかよ…!クソ、集中!」

 

 

ジオウはジカンギレードを装備。痛みを思考から離し、意識の海に身を沈める。

 

どこから攻撃されているのか、次はどこから来るのか。2005年での修行の成果で、本能的なアナザーゴーストの攻撃に対してなら、カウンターを入れるのは可能だ。

 

 

「そこだ!」

 

 

だが、ジオウは刃を振り切れない。その一瞬でまたアナザーゴーストの気配を見失ってしまった。

 

ここで倒してもアナザーゴーストは蘇る。さらに、恐らく変身者は無意識のうちにアナザーゴーストになっている。ゴーストウォッチが無ければ、いくら倒したところで変身者を苦しめるだけだ。

 

ただ痛めつけられるジオウ。

ネクロムの眼にはアナザーゴーストが映っている。ジオウがアナザーゴーストに反撃を躊躇っているのも見えていた。

 

どうして躊躇するのかが、アリオスには分からない。

いや、分かる。何故なら、あの事実を聞けば自分だって躊躇する。だがそれを考えると、壮間は自分と同じ思いを持っていることになってしまう。アリオスはそれを認めたくない。

 

認めたくないが……

 

 

「……受け取れ!」

 

 

ネクロムはグリム眼魂をジオウに投げ渡す。

眼魂を握ったジオウはアナザーゴーストを視認できるようになり、攻撃を躱した上で、最低限の力でアナザーゴーストを退けた。

 

影の下に入ったアナザーゴーストは、その中に溶けるように姿を消した。今度は本当に逃げたようだ。

 

 

「アリオスさん…ありがとうございました」

 

「…どういうことだ!アナザーゴーストがAqoursの誰かだと!?私の友が、未来で悪事をするとでもいうのか!」

 

 

変身を解除し、グリム眼魂をアリオスに返す壮間。そんな壮間の胸ぐらをまたしても掴み、アリオスは言葉と感情を壮間にぶつけた。

 

 

「そうじゃないです!多分、アナザーゴーストは変身者の深層心理で動く亡霊なんだと思います。今はゴーストの歴史が消える怒りと悲しみから俺を殺しに来た…未来では…」

 

 

それを言いかけて、壮間は踏みとどまった。

だが、言うべきだと思った。友を想うアリオスなら、絶対に分かってくれる。

 

 

「隠してたことを話します…2018年では浦の星女学院は廃校になり、アナザーゴーストはその校舎に当時の生徒の魂を集め、永遠に終わらない学校を作っています。俺たちは、それを変えるためにこの時代に来ました」

 

「何を…ふざけるな!浦の星が廃校だと!?そんなわけがあるか!」

 

「嘘じゃない!!」

 

 

怒りで力が入ったアリオスの腕を、壮間もまた強く握り返して胸ぐらから引き剥がす。アリオスを見下ろす壮間の眼は、その思いを叫んでいるようだった。

 

2018年の未来の事を考えた時、壮間の中で怒りが沸き上がった。

あんなに優しい彼女たちの行く末があの結末だなんて、絶対におかしい。ルビィの言う通り誰にも譲れないものがあって、タイムジャッカーもそうだとしても…

 

勝手な怒りかもしれない。それでも、

あんなバッドエンドだけは、許せるはずがない。

 

 

「俺はゴーストの力を継げないかもしれない。この先で死ぬかもしれない。歴史が消えれば朝陽さんは消えるし、ネクロムの力も消える。それは分かっているはずです。

 

でも…そうじゃない人は違う!ガールズバンドのつぐみさんたち、木組みの街のチノさんたち、妖館の凛々蝶さんたちも!Aqoursの皆さんだって!歴史が変わって、記憶が変わっても、その時間の中で前に進んでいるんです。そんな人たちが苦しむ未来だけは…絶対にあっちゃいけない!」

 

 

2017年で壮間は「自分が王になるために戦う」、そう決意した。

それから多くの主人公に触れて、その思いは大きく育った。しかしその中でもう一つ、育っていた思いもあった。

 

 

「俺は王になりたい!そのためにゴーストの力が欲しい、これは本当です。でも…それ以上に!俺はアナザーゴーストになった誰かを助けたい!未来の皆さんを救いたい!この思いは……きっと嘘じゃない!!だから…力を貸してください、アリオスさん!」

 

 

アリオスの手から力が抜けた。奥歯を食いしばりながらも喉から言葉は出ず、未来に思考を動かそうとする度に、孤独の恐怖で息が止まる。本心は正直に、この男を認めたくないと、嘘だと断じたいと叫んでいる。

 

それは余りに傲慢な選択だと分かっている。が、恐怖との決別はできない。だからこそアリオスには、確かめたい事があった。

 

 

「一つだけ…答えろ。私は……未来の浦の星に、私はいたか…?」

 

「はい。俺は、未来で仮面ライダーネクロムに会いました」

 

「……そうか」

 

 

壮間の答えで決心がついた。

未来の浦の星にアリオスが居たという事は、アリオスの願いもアナザーゴーストを動かしたことを意味する。

 

孤独は怖い。だが、自分のせいで友が未来を奪われるのは、それ以上に怖い。

 

 

「お前を認めたわけじゃない。歴史の改変を阻止することは諦めないし、朝陽は必ず生き返らせる!しかし…私は友を救いたい。そのために、お前が私に協力しろ」

 

「…分かりました。必ず、バッドエンドは変えて見せます」

 

 

互いに悩みと恐怖(見たくないもの)から目を背けた選択かもしれない。それをただ、別のもので塗り替えただけかもしれない。

 

だが、確かに同じ思いが、アリオスと壮間の心を繋げた瞬間だった。

 

 

「…おい」

 

「なんですか、アリオスさん?」

 

「手…手を、放せ…」

 

「あ…」

 

 

そういえばアリオスの腕を掴み返してから、ずっと掴みっぱなしだった。壮間は慌てて手を放し、誤魔化そうと言葉を連ねる。

 

 

「すいません…えっと…なんというか、そういえばアリオスさんって女性だったって忘れてたと言うか…特に変な気持ちは無かったワケで…てかさっきも俺恥ずかしい事言ったし…今日の俺メンタルボロボロだぁ……」

 

「…忘れていた?日寺壮間、つまり私が男に見えていた…という事か?」

 

「え…あ、そう…かもです。昨日からずっと怒鳴られっぱなしだったし、今日も迫力凄かったから…」

 

「そうか…そうかそうか!うむ、やはり完璧な存在…その一つが雌雄同体だというのは正しかった!どうだ日寺壮間、私は完璧に近づいているように見えるか!?」

 

「完璧…?まぁ、雌雄同体っていうか、中性的って意味なら多分…見えるんじゃないですか?」

 

「ふふふ…そうか!いや、全く嬉しくないがな、お前なんかに褒められても嬉しくはないぞ!だがしかし減るものでもないだろう。もう少し褒めていくといい!私が完璧…えへへ…」

 

 

凄い笑顔ではしゃぐアリオス。なんだか可愛らしく見えてきてしまい、一気に男らしさが霧散した。と言ったら落ち込みそうなので言えない壮間だった。

 

 

________

 

 

 

時は少し戻って、部室にAqoursの皆が集まっていた時。

千歌に同行し、香奈もそこに来ていた。というか、全員集合の光景に過呼吸になって死にそうになっていた。

 

 

「美しい…神々しい…ヤバいって…!うんヤバい…マジなんというか…ヤバい!」

 

 

残念過ぎる語彙力で悶える香奈を、取り合えず見ないふりする一同。同じ未来人でも壮間たちとは違い、何故か彼女に対しては「ただのファン」という印象しか湧かない。

 

そんな中、千歌があることに気付いて声を上げた。

 

 

「あー!家に替えの練習着忘れちゃった!あとタオルとか色々一緒の袋に入れてたやつ!ちゃんと寝る前に準備してたのに!」

 

「はいはいはい!私!私が走って取ってきます!」

 

 

生き返った香奈が手を挙げ、率先して名乗り出る。

とはいえバスはさっき来たばかり。香奈の言う通り走って取りに行くしかないが、それには結構な距離がある。

 

 

「でも…もう冬だし、替えの練習着はいらないんじゃないかな?汗だってそんなにかかないし…」

 

「いいえ!Aqoursの皆さんには、万全な状態で練習してもらわなければ困ります!ソッコーで取って帰ってお届けしますので、私にお構いなく!ではっ!」

 

 

梨子の意見を弾き飛ばし、台風のような勢いで香奈は行ってしまった。

 

まさに目にもとまらぬスピード。まるで、やる気をそのまま速度にしたよう。しかし、走り出してしばらく経ってから香奈の脚が止まった。

 

 

「ここどこ…」

 

 

迷った。行きはバスで来てたし、千歌の顔しか見てなかったから景色も覚えてない。タイムスリップの影響か、例によってスマホは使えない。

 

しかし、そんな彼女に光明が差す。

動き回っているうちに、道を歩くミカドに出会ったのだ。

 

 

「ミカドくーん!よかったー!」

 

「…なんだ貴様。朝から喧しい事この上ない」

 

「キサマじゃなくて、香奈だよ!

そんなことよりミカドくん、千歌さんの家知らない?十千万っていう旅館なんだけど!」

 

「とちまん…数字の旅館か。それなら昨日見たか…」

 

「本当!?どっちの方向か教えてくれない!?」

 

 

面倒だから無視しようとしたが、この感じだと答えるまで放してくれなさそうだ。ミカドは少し考えた後、南の方角を指さした。

 

 

「ありがとう!」

 

 

香奈は二つミスを犯していた。

一つは、十千万は海沿いにあるのを忘れていたこと。つまり海岸を進んだ方向にあるのは間違いないのだ。

 

そしてもう一つは、ミカドが方向音痴だと知らなかったこと。

ミカドが指した方角は、海からまるっきり反対だった。

 

 

「だからここどこぉ…!」

 

 

結果、また迷った。

日曜日だというのに、不運にも誰にも会わない。人を探して、香奈は通りがかった寺を訪ねた。

 

しかし、やはり誰もいない。墓場を通り過ぎ、寺の敷地の隅で思わずしゃがみ込んだ。なんだかやる気が空回りしているのが、自分でも分かってしまう。

 

 

「千歌さんたちのために、何かできると思ったんだけどなぁ…」

 

 

思いにふけっていると、本殿の方に誰かの姿が見えた気がした。

飛び上がった香奈は見えた方向に全力ダッシュ。藁にも縋る情熱で声を掛ける。

 

 

「すいません!道をお聞きしたいんですけ…どぉ……!?」

 

 

確かに、そこに人はいた。

しかしその姿は半透明で、しかも宙に浮いていて、端的に言えば「幽霊」だった。

 

 

「ギャアァァァァァ!!幽霊!ゆーれい!お化けぇ!?」

 

「あははっ。その反応…久しぶりかも。見えるんだ、僕のこと」

 

「へ…?」

 

 

冷静になって見てみると、幽霊の姿は自分と同い年くらいの男の子。見た目は地味。普通さは壮間と近いが、雰囲気は長い時間を生きたような、達観している感じがした。

 

他に分かる特徴も、千歌の話で聞いたものと一致する。

 

 

「もしかして…!」

 

「うん、僕は朝陽。影の薄い…ただの幽霊だよ」

 

 

 

 




…響鬼編と同じこと悩んでね?ってのは禁句で。
厳密に視れば違うように書いたつもりなんですが、ぱっと見同じに見える時点で僕の構成力不足ですね…

とにかく、色々と設定を明かしつつ、また悩む壮間に苛立ちつつも、やっと「バッドエンドを覆す」という考えに辿り着かせることができました。

アナザーゴーストの正体にも迫り、朝陽も現れ、最後に奇跡は起こるのか。壮間は「消える命」にどう向き合うのか。次回でクライマックスになる予定です。

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今回の名言
「『才能』だけで偉人になれるはずもない」
「リィンカーネーションの花弁」より、ハンス=ウルリッヒ=ルーデル。

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