仮面ライダージオウ~Crossover Stories~   作:壱肆陸

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ヒビキ
仮面ライダー響鬼に変身した男性。27歳。本名は飛牛坂彦匡。妖怪「牛鬼」の先祖返り。猛士に所属する中で史上最強の鬼で、その戦闘力は全ライダーの中でもトップクラス。アナザー響鬼に殺害されたことで響鬼の歴史が消滅した。2005年では自ら死ぬことで歴史を変えようとしていたが、壮間の「強さ」を認めて響鬼の力を託した。修正された歴史では2018年で二十歳前後で、妖館にてシークレットサービスとして働いている。

本来の歴史では・・・
九十九の記憶は戻らなかったが、響鬼編とは別の方法で過去や運命との決着を付けた。魔化魍頻出の大元を探るうちに見えてきたのは、かつての師匠のカブキ。再び過去と向き合い、今の仲間と共に悲劇の断絶に挑む。


146です。今回からダブル×ラブライブ編やっていきます。
僕が連載してるラブダブルの話になりますが、まぁ読まなくても大丈夫です。まずはラブライブっぽいパートから進めていきましょう。

今回も「ここすき」よろしくお願いします!


EP11 Wのタンテイ/2009
Wを探せ/女神の足跡


「この本によれば、普通の青年、日寺壮間。彼は2018年にタイムリープし、王となる使命を得た。幽霊の仮面ライダーの物語にて、我が王は消えゆく命と向き合った末に仮面ライダーゴーストの力を受け継いだ。

 

しかし、アナザー電王こと令央が介入。そして撃破したアナザーゴーストからはアナザーダブルが現れてしまう。こうして物語は最悪のバッドエンドを迎えてしまいました」

 

 

ウィルが瞼と共に本を閉じた。

彼にも予想できなかった最悪の事態。あの令央という男は、タイムジャッカーよりも遥かに危険過ぎる。

 

だが、まだ終わりではない。物語の大いなる流れは無数の本棚として、預言者の前に現れる。

 

 

「バッドエンドは覆す。それが我が王が歩む覇道です。

そのために必要なのは別の戦士の力……新たなるキーワードは『女神』と『探偵』。そして───」

 

 

__________

 

 

 

「ミカド……」

 

 

あの惨劇の後、なんとか負傷者を病院に運ぶことができ、彼らの命をつなぎとめる事はできた。だが、未だに予断を許さない状況。壮間には、こうして治療室で眠るミカドを見守ることしかできない。

 

アリオスと蔵真も意識が戻らない重篤状態。

このまま現代の治療を続けていても望みが薄い。だが、人体の治療が可能なナイチンゲール眼魂は令央に持ち去られ、打つ手が無い。

 

それに、朝陽は令央に眼魂を砕かれて消滅してしまった。

香奈はアナザーゴーストに取り込まれてしまった。

 

 

「最悪だ。最初と同じだ、また俺だけ残されて……!」

 

 

嫌でも思い出すアナザービルドの惨劇。

令央も言っていた。『お前はまた、繰り返すんだ』と。

 

 

「逃げるしかない…とはもう思わないだろうね。我が王よ」

 

 

あの時と似た台詞で、ウィルが壮間の背後に立つ。

 

 

「ウィル…お前、なんで何もしてくれなかったんだ!お前は時間を止められるし強い!お前なら……皆を救えたんじゃないのか!?」

 

「お言葉だが我が王。それは私が干渉する場面ではない」

 

「は…!?なんだよそれ!」

 

「これは君の物語だ。君を守ることは物語の守護を意味するが、ミカド少年や姫君は違う。君を王にするためには力を尽くすが、それ以外を期待するのはお門違いというものだよ」

 

「……そうかよ分かった。だったら、お前は当てにしない」

 

 

壮間はもう道の提示を待たない。

繰り返すのなら上等だ。また前と同じように、覆してみせる。

 

 

「香奈もミカドもいない。俺一人だとしても、絶対に助ける!」

 

 

それを言葉にした時、壮間の心に一つの不安が浮かび上がる。これまでの戦いで、何か一つでも一人で成し遂げられたのか、と。

 

湧き出る不安は腹の内に留めた。

 

 

__________

 

 

 

戦いの最後に起こった惨劇。その中に謎が多いが、何より優先すべきは二つ。

 

一つは令央が持ち去ったナイチンゲール眼魂だ。それさえ取り戻せばミカドたちを救える。

もう一つはアナザーゴーストに取り込まれた香奈。だが、ゴーストウォッチは力を失ってしまった。そしてアナザーゴーストから生まれた『半分半分のアナザーライダー』の正体も分からない。

 

令央はアナザーゴーストの中に消えてしまい所在不明。

ならばまず手を付けるべきはあのアナザーライダー。あのアナザーライダーをその時代のライダーの力で撃破しなければ、アナザーゴーストを倒してもさっきのように復活してしまうだろう。

 

 

「あのアナザーライダー……体に書いてあった年代は『2009年』、名前は…『DOUBLE』、アナザーダブル……!?」

 

 

2009年に行くため、プロトウォッチを手に入れなければならない。

これまでの傾向通りなら、アナザーライダーを追っていればプロトウォッチが見つかるはずだ。

 

 

「2009年は今よりも前だから、アナザーダブルがアナザーゴーストを操っているとすると……その元を辿るならうってつけの人がいる」

 

 

アナザーダブルが何処から来たのか、それを知るにはアナザーゴースト本人に聞くしかない。香奈が入れ替わった事で解放された、本人に。

 

 

「……話を聞かせてください。梨子さん」

 

「話さなきゃいけないって思ってました。私のせいだとしても…今こうして力になれるなら」

 

 

アナザーゴーストとして2018年まで暴走していた、桜内梨子。

記憶が無かった上に無意識だったとしても、その罪悪感は計り知れないだろう。酷かもしれないが、手掛かりはここにしかない。

 

 

「話さなきゃいけないって…じゃあ…!」

 

「思い出したんです。私の中に『誰か』が居て、私の心にずっと囁いてた。その『誰か』がいつ私に入ったのか。あれは…私が内浦に来る前だった」

 

「梨子さんは引っ越して来たんですか。その元居た場所っていうのは…」

 

「東京です。前の学校にいたとき、さっきも現れた白い髪の女の子が、私の中に時計を……」

 

 

白い髪の女の子、オゼだ。

 

 

「彼女が関わったという事は煩雑な事件であることの証左だ。だから私が一つ助言をしよう」

 

「ウィル…だからお前は当てにしないって…」

 

「そんな事を言ってる場合かな?意地の使いどころは選ぶべきだよ。

色々と情報が錯綜しているが、君が追うべきはアナザーダブルだ。そして、それは彼女の前の学校に答えがある」

 

 

その名が出たのが合図のように、ウィルがそこに口をはさむ。

彼の事を何処まで信じていいかは分からない壮間は、ウィルではなく梨子に尋ねる。

 

 

「それで梨子さん、前の学校って……」

 

「音ノ木坂女学院です。一年の時はそこに」

 

「音ノ木坂女学院……2009年の音ノ木坂…!?どっかで見た名前だけど…」

 

「2009年…スクールアイドル黄金期ですわ」

 

 

答えたのは様子を見に来たダイヤだった。

それを聞いて壮間も思い出し、目を見開く。それはAqoursのことを調べていた時に出てきた、スクールアイドル界隈で伝説と呼ばれるグループ。

 

 

「μ’s…ですね。ダイヤさん」

 

 

『μ’s』。香奈も名前を出していた、第二回ラブライブにて優勝を果たした9人グループ。結成から解散までたったの一年未満だが、廃校の危機にあった音ノ木坂を救い、その後のスクールアイドル文化発展にまで大きく影響を及ぼした伝説のスクールアイドルだ。

 

 

「そうですわ壮間さん。2009年で音ノ木坂といえばそれ以外有り得ません。その白髪の女性が壮間さんのように未来から来たのなら、梨子さんがスクールアイドルになるのも知っていたはず。標的の共通点にスクールアイドルがある可能性は高いですわ」

 

「流石は黒澤ダイヤ、慧眼だ。彼女の言う通りだよ我が王。事件の始まりを辿るんだ。そのために伝説のスクールアイドル、μ’sを探すといい」

 

 

突飛な推理とは言い切れない。アナザーゴーストになった梨子と香奈の共通点は『女子高生』と『スクールアイドルと関りがある』くらい。最も、香奈はただのファンなのだが。

 

何よりウィルのお墨付きだ。なんだかんだ言っても、彼が嘘を教えた事は一度も無い。

 

 

「分かった。俺が今から東京に戻ってμ’sを……」

 

 

そこまで提案をしかけて、壮間は思い止まった。

今は壮間以外に戦闘要員が居ない。もしそこにアナザーゴーストが現れれば、最悪の事態になるのは目に見えている。

 

 

「どうしよう…俺が守らないといけないのに、それじゃダブルのウォッチを探しに行けない。俺がやるしか無いのに……!」

 

「心配には及びませんわ、壮間さん。わたくし達を守ってくださる戦士はちゃんと健在です」

 

「そういう訳だ壮間。守護は私たちに任せろ」

 

 

ダイヤの言葉に合わせて颯爽と病室に入って来たのは、重症を負っていたはずのアリオス。そして、蔵真だった。

 

 

「アリオスさん…蔵真さん!?動けるような怪我じゃなかったのに…!?」

 

「…そっか!眼魂の身体ね、リオちゃん!」

 

「その通りだ梨子。本当の身体は動けなくとも、眼魔眼魂を使えばアバターを使って行動可能だ。眼魔世界から予備を二つ持ち出しておいたのが功を奏した!」

 

「誰かが言った“備えあれば多少憂いあれど問題なし”。素晴らしい心がけだよアリオス」

 

「でも、大丈夫じゃないはずです。あんなボロボロの身体で意識を外すなんて…」

 

 

壮間の中ではやはり懸念は拭えない。こうしている間にも、アリオスたちの心臓がいつ鼓動を止めるのかも分からないのだ。

 

 

「私は…朝陽が消えたと聞いた」

 

「それは……!っ…はい、俺は…朝陽さんが消えるのを見てるしかできなかった……」

 

「私はその最期を見ることもできなかった。怒りに身を任せて無様に敗北した。私たちの歴史が消えてしまうのならば…命など惜しくは無い!今度こそこの眼で…壮間、お前が作る結末を見届けたい!私たちに協力させてくれ!」

 

 

アリオスが壮間に手を差し出す。

今は何よりも事態の解決を優先すべきだし、アリオスと蔵真が手を貸してくれるのは有難い。

 

 

「…はい、内浦は任せます」

 

 

迷う余地は無い。なのに、この胸を覆うようなモヤは何なのだろう。

 

 

「待て、カタカナ未来人」

 

 

カタカナ未来人とは壮間のことだろうか。これまで黙っていた蔵真がそう呼び止めた。

 

 

「東京に行くと聞いた。それなら…アリオスを連れて行け」

 

「なっ…何を言う蔵真!所詮は仮初の身体だ、お前一人に任せるわけにはいかない!」

 

「そうですよ蔵真さん!東京の方は俺一人でも…」

 

「俺一人で護衛には十分。今は攻めの姿勢に力を投じるべきじゃないのか。それともなんだ、アリオスは俺が信用できず、未来人はアリオスじゃ手助けにもならないと?」

 

 

そう言われると二人とも言葉が止まってしまう。

黙って壮間に目を合わせるアリオスに、蔵真は笑って背中を押す。

 

 

「人間界を見てこい、アリオス」

 

「……恩に着る。ありがとう」

 

 

壮間の後に続くアリオスを見送った蔵真に、ダイヤは呆れつつも、微笑むような目線を投げる。

 

 

「全く…蔵真さんは甘いですわね。アリオスさんを可愛がりすぎですわ」

 

「かもしれないな。良いだろう、妹煩悩はお互い様だ」

 

 

__________

 

 

 

アリオスの出発準備を待ち、タイムマジーンで15分足らず。

二人は2015年の東京に到着した。

 

 

「よし、μ’sを探すぞ壮間」

 

「いや、待ってください。俺まだ納得してないですよ!やっぱりアリオスさんは内浦に戻って皆さんを守った方が!」

 

「私がいると不都合か?」

 

「そういうわけじゃないんですけど…!2009年のアナザーライダーについては俺がやるべきというか…アリオスさんがやるのは畑違いというか……」

 

「あの赤いアナザーライダーを追うのだろう?奴は朝陽の仇だ、私も借りを返さなければいけない。それに……」

 

「それに?」

 

「不謹慎だと分かっているが…私は東京に来るのは初めてなんだ。だからその……新天地に多少高揚している」

 

 

アリオスの表情から溢れる、隠しきれないワクワク感。壮間にとってはただの地元だが、彼女の気持ち自体はよく分かる。というか、ほのぼのするし何でもいいやみたいな気持ちになってくる。

 

壮間も団体行動を拒否する理由は考えないことにした。

どうせ自分勝手な理由なのは間違いない。皆を救えるのなら、それでいいはずだ。

 

 

 

数時間後

 

 

 

「見つからねぇよ……」

 

 

捜査難航。手掛かり皆無。壮間は頭を抱える。

 

 

「まさか音ノ木坂に何も無いなんて……元μ’sメンバーの連絡先どころか、その後を知ってる人すらほぼいないとは……」

 

 

音ノ木坂女学院には行った。だが、私物、ラブライブ優勝の記念品、記録など、μ’sの足跡は何一つとして残ってなかった。立つ鳥跡を濁さずは立派だが、今に限ってすごく恨めしい。

 

これまではアナザーライダーを追っていたら、自然とプロトウォッチが手に入っていた。だが自分からそれを探しに行くとなると、途端に難しくなるのを痛感する。

 

 

「順当に進学したのなら、当時の一年生はまだ大学にいるのだろうが……流石にこうも代が離れると行った大学までは伝わってなかった。どうするか…」

 

「あのアリオスさん。真剣な口調と間抜けな行動&表情の温度差凄いんですよ。何食ってんですか!?」

 

「知らないのか、『かき氷』だ!氷を削って蜜をかけただけの食物がこうも美味だとは…!夏に食べるモノと聞いていたが、この時期にも人気なのは驚いた!」

 

「そういえば流行ってたっけ、2015年にかき氷……」

 

 

ふわふわとした氷を口に入れるたび、頭を抑えながらも幸福オーラを撒き散らすアリオス。壮間が一口貰おうとすると、狂犬の剣幕で手を弾いてくる。氷の結晶一つとてくれてやる気は無いようだ。

 

 

「それにしても変わりましたねアリオスさん。会ったのはつい一昨日だけど、初対面ではもっとキッチリしてた気がするんですけど」

 

「私は完璧を求め続ける。その姿勢に変わりはない。

ただ…少し見栄というものをやめ、自分なりに正直になってみているだけだ。上手くいっているかは…わからないけど」

 

「正直…ですか?」

 

「蔵真は私に世界を見て来いと言った。それは多分、遅かれ早かれ歴史から消える私という人格が、最期の瞬間まで楽しめるようにという心遣いなのだろう。だが、私はそれに大した意味があるとは思わない。

 

壮間、お前に私の全てを見て欲しいんだ。そして未来に繋いでくれ。そうすれば私は不滅だ、そうだろう?」

 

 

完璧を求めて虚勢を張る顔も、真面目過ぎる顔も、未知への好奇心が抑えられない顔も、全部彼女の顔だ。ライダーたちの心を繋ぐと決意した壮間には、それを見届ける義務がある。

 

いや、見ていたい。そう思った。

 

 

「そういう事なら…ばっちり見ます!アリオスさんをガン見しながらμ’sを探します!そうだメモと写真も撮った方がいいっすかね」

 

「おいやめろ見つめるな!お前も大概真面目だな……」

 

「いや頑張らなきゃって思うとつい…香奈の影響受けたかな」

 

 

アリオスに顔を無理やり逸らされ、壮間の目にあるポスターが映った。

そこに記されていたのは女性の姿。Aqoursを調べた時に見たその姿と不意に出した「香奈」の名前が偶発的に結びついた。

 

 

「アリオスさん、あのポスター。3人組アイドルで、前に香奈から聞いたスクールアイドルの中にあの人たちが。名前は…」

 

「あれは…A-RISEだ。2009年で卒業したUTX学園のスクールアイドルで、ラブライブ最初の優勝グループ。卒業後もプロとして活動しているらしいな」

 

「そうそれです!同期ってことはμ’sとはライバル関係にあったかも…だから!」

 

「そうか!連絡先を知っていてもおかしくない!」

 

 

ようやく見えたμ’sの手掛かり。

しかしそれは余りに高嶺の花だ。どうやって芸能人である彼女たちに会えばいいのだろう。

 

なんて壮間が悩んでいるうちに、アリオスが席を立つ。

 

 

「行くぞ。A-RISEに会いに行く」

 

「会うって…どうやって!?」

 

「芸能人に会う方法は一つ。前にテレビ番組で見たことがある。

『パパラッチ』だ!!」

 

 

仮にもお嬢様から活発に飛び出したのは、思ったよりも汚い単語だった。

 

 

___________

 

 

 

アリオスに連れられてやって来たのは雑誌の出版社。

そこで刷られる雑誌は、所謂ニュース系の週刊誌。有名人の不祥事など、テレビでは流しにくい情報を取り扱っているらしい。

 

半ば強引に押しかけてどうなるかと思ったが、何故か会社の中に通されてしまった。

 

 

「それで、若い二人が今日はどのような用件で?窓口からは、どうしても対面で情報提供したいと伺ったのですが」

 

 

壮間とアリオスの前に現れた記者。

「若い」と言われたが、逆にこっちも同じように言い返したくなるような若々しい男性記者だ。新人なのだろうか。

 

渡された名刺には「嘉神留人」と名前が記されていた。

 

 

「情報提供というのは嘘だ」

 

 

アリオスが初手爆弾発言。出された茶を吹き出しそうになる壮間。

 

 

「…へぇ、それで本当の用件ってのは?」

 

「情報を提供してほしい。どうしても会いたい人物がいる」

 

「それでウチにねぇ。どうしてまた」

 

「他人の個人情報やプライベートを一切の躊躇なく食い物にする道徳心の低さを持つこの会社なら、プライバシーという概念を取り払った取引ができると思ったからだ」

 

 

再び爆弾発言。今度は吹き出した壮間。

声が大きいせいで社内がザワつく。しかし、当の嘉神は一層興味を惹かれたように、アリオスの取引に食いついた。

 

 

「ははははっ!その通り、情報は何にも代えがたい資源、命を賭して心を失ってでも得る価値がある。目と鼻と口と耳さえあれば世界を支配できる。何を知ろうともしない猿をペンで指揮する、それが記者なのさ。よく分かってますねお嬢さん」

 

「お嬢さん…!?壮間、私は……!」

 

「すいません今はスルーします。

それで嘉神さん。俺たちが欲しい情報っていうのは、この3人と会える場所なんですけど……」

 

「ふーん、綺羅ツバサ、藤堂英玲奈、優木あんじゅ…A-RISEの3人か。今時どうしてまた」

 

「……μ’sに会いたいんです。そのためにA-RISEの誰かから話を聞きたい」

 

 

「なーるほどねぇ」と一旦席を外す嘉神。

すると、彼はお菓子を持って帰って来た。塩味の焼き煎餅。壮間たちにも一つずつ、それを渡す。

 

 

「よし、じゃあいくら出せる?元トップスクールアイドルの個人情報、結構いいお値段するけど、取引できるの?」

 

「そっかお金……どうしよう、俺万札しか…」

 

「1000万出そう」

 

「1000万!!!????」

 

 

アリオスがカバンを開けると、1㎝ほどの厚みの札束が10個。これで社内に通された魔法も納得した。金の力は偉大だ。

 

 

「そんな大金どこから…!?」

 

「東京に行く前、自宅や所有物全部を担保に入れてある人物から借りた。これで足りないのなら、私が出せるものなら何でも出そう。これでどうだ」

 

「…お願いします!俺も出せるものなら出します!どうしてもμ’sに会わなきゃいけないんです!」

 

 

頭を下げる二人に、嘉神は……

 

 

「すいませーん。ウチはそういうの取り扱ってないんで、お引き取りを」

 

 

人が変わったようににこやかに、わざとらしく二人を会社から追い出してしまった。

 

 

「そんな……行けそうな流れだったじゃん…」

 

「仕方が無い。次は別の出版社か、最悪警察か……」

 

 

意気消沈した壮間は、気を紛らわせるように貰った煎餅の袋を破こうとする。

 

 

「……これって…!?」

 

「どうした壮間」

 

「見てください!さっき貰った煎餅の裏側!」

 

 

袋の裏に手書きの文字が書いてある。

壮間とアリオスが貰った2つを繋げて読むと、出てきた文章は「時刻」と「場所」。

 

 

「取引成立…ですよね!」

 

 

___________

 

 

 

街を照らすのが太陽から街灯に変わり、指定された時間ピッタリに指定場所に到着。そこは駅から少し離れたホテルで、人の少ない「穴場」とでも言うべき場所だった。

 

 

「お待たせぇ。昼間は悪かったね、君らとは個人的な取引をしたかったんだ」

 

 

ヘラヘラと現れた嘉神に、アリオスが若干イラつきを見せる。指定時刻より数分遅れているからだろう。

 

 

「これが約束の1000万です。確認してください」

 

「毎度アリぃー。色々と貰いたいもんは他にもあるけど…若い子にあくどい商売はしないさ。これで取引終了だ」

 

「待て!A-RISEの情報を教えるという約束だったはずだ!」

 

「声大きいよお嬢さん。君らはμ’sに会いたいんだったよね。それならもう情報なんていらないはずさ。ただ静かに待ってればいい」

 

 

壮間は少し不自然に感じていた。どう考えても裏の取引をするのに、人が少ないとはいえ一般のホテルを選んだ点。しかも場所はロビーだ。

 

外で車が止まったのを確認すると、嘉神は去ってしまった。

追おうとした二人だったが、入れ違いで現れた人物を見てその足は止まる。

 

 

「あれって……」

 

 

その女性はチェックインするでもなく、ロビーの一角にあったピアノに向かい、椅子に腰を掛けた。

 

そこは誰でも自由に使える、ストリートピアノだった。

しかし、そこで奏でられたのは道端に相応しくない美しいメロディ。楽譜は広げずに慣れた手つきで。見せびらかすのではなく、まるで「確かめる」ように旋律を紡ぐ。

 

それは数分にも満たないひと時だったが、聞き終わった壮間とアリオスは思わず拍手を送っていた。

 

 

「あ…ありがとう…」

 

 

女性もそれに気付き、驚きながらも礼を返す。

席を立とうとする彼女を、二人は引き留める。容姿とこのピアノの腕前で、彼女の正体を確信したからだ。

 

 

「μ’sの作曲担当。お前の事は梨子と千歌から聞いていた」

 

「綺麗な演奏でした……元μ’sの、西木野真姫さん」

 

「久しぶりね、そうやって呼ばれるのも」

 

 

写真で見た大人びた雰囲気は、今になると年相応にも見える。現役時代よりも美しさに磨きがかかり、夜が似合う雰囲気を纏う女性に成長している。

 

μ’sの当時一年生の一人、作曲担当の西木野真姫。

足跡を辿り、その姿をようやく捉えた。

 

 

___________

 

 

 

「月に一回、ここで演奏させてもらってるの。もうアイドルは続けてないけど、あの頃の音楽は大事にしたいから」

 

 

嘉神の言っていた事がようやく腑に落ちた。

彼は最初からA-RISEではなく、μ’sに直接合わせようとしていたのだ。それにしても月に一回をピンポイントで引くとは、幸運だった。

 

 

「私に用って何?記者やファンには見えないけど…」

 

「いくつか聞きたい事があるんです。えっと……2009年かその辺か、音ノ木坂で怪物とか見たこと無いですか?こう…左右で色が違う…」

 

 

「左右で色が違う」という言葉に、少し頭が痛むような反応をする真姫。だが、これは何かを隠しているような反応ではない。

 

 

「…意味わかんない。見たこと無いわよ、そんなの」

 

「じゃあ私も質問がしたい。その頃に音ノ木坂や付近で不可解な事件が起きなかっただろうか。それか、見知らぬ白髪の女子を見たとか」

 

「知らないわよ!もういい?私もそんなに暇じゃないの」

 

 

手応え無し。アナザーライダーの痕跡は見えない。

音ノ木坂でスクールアイドルという観点が違っていたのだろうか。アナザーダブルが2009年に生まれているのは間違いないし、そうである以上何かしらの惨劇を起こしているはずなのだが……

 

 

「待ってください!そうだ、じゃあこれは!これを持ってませんか!?」

 

 

ようやく得た好機を逃すまいと、壮間は力を失ったゴーストのプロトウォッチを真姫に見せる。彼女がダブルのプロトウォッチを持っている可能性は十分なはずだ。

 

 

「これ……!」

 

 

反応を見せた。ヒットだ。

このまま一気に釣り上げれば、2009年に行って元凶であるアナザーダブルを倒せる。

 

 

「持ってないわ」

 

「マジか……」

 

 

駄目だった。ここまで来て新たな情報無し。振出しに戻ってしまった。

 

 

「でも、見たことはある。多分、昔に…一度だけ」

 

「えっ!?本当ですか真姫さん!」

 

「その話を詳しく!誰だ、誰が持っている!」

 

「ちょ…話すから!落ち着きなさいって!」

 

 

μ’sから離れるしかないと思っていた矢先、真姫の口から出た吉報。二人は掴みかかる勢いで真姫に詰め寄る。

 

一旦二人を落ち着かせた真姫は、今一度考える。

これを彼らに言うべきか。できれば部外者には言いたくない情報なのだから、吟味したい。

 

 

「あなた達は…それを手に入れて何がしたいの?理由も聞かずに教えられない」

 

「…目的は色々ありますけど、今は何より大切な人たちを助けたいです。どうしようもない状況かもしれないけど、俺に出来るのはそれしかないから…!」

 

「そう…不思議ね。ちょうどそれを持ってる彼女もだけど、他にも一人誰かいた気がする。今のあなたみたいに、疑う気も起きない愚直で正直な事を言う人」

 

「その、持っている彼女…というのは」

 

 

アリオスが尋ねる。

真姫も決心した。彼らなら悪いようにはしない。それに、仲間ですら分からなかった彼女のことも、明かしてくれる気がする。

 

 

「μ’sを知ってるなら、知ってる名前よ。

高坂穂乃果。私たちのリーダーだった人。μ’sが解散して新しい部が始まった頃……穂乃果がそれを持ってたのを見たわ。よく覚えてる。だって、穂乃果の様子が変わったのは、その日からだったから……」

 

 

高坂穂乃果はμ’sの当時二年生。彼女が言ったように、μ’sの事実上のリーダーだった人物。

 

そんな彼女がどうしたのか、それは真姫の口から語られ続ける。

 

 

「穂乃果は3年生になってから、時々黙って何処かに行くようになったの。その頻度は段々と短くなっていって、最後にはスクールアイドルの活動もやらなくなった」

 

「μ’sのリーダーが…アイドルを途中で辞めた…?」

 

 

これまでアナザーライダーによるバッドエンドは沢山見てきた。才能を持つ60人の消滅、街一つの完全停止、百鬼夜行の再来、廃校になった学校の亡霊……

 

それらに比べれば規模は小さく、被害が出る訳でもない。それなのに、この出来事が途轍もなく大きな「歪」であると、そう感じてしまう。

 

 

「最終的には学校もやめたわ。家族や仲間に書置きを残して、そのままどこかに……行き先は誰にも分からない」

 

「…大事件じゃないですか!穂乃果さん行方不明ってことですよね!?」

 

「しかし参ったな。高坂穂乃果の場所が分からなければ、ウォッチは手に入らない…」

 

「でも、全く分からないわけじゃない。穂乃果は消える直前に、私にお金の相談をしに来たわ。あの時は真剣な顔で、言ってた。『ごめん。でも、私がやらなきゃいけない。そう頼まれたから』…って」

 

 

話を聞けば聞くほど、謎は深まっていく。

高坂穂乃果の失踪とアナザーダブルに関連性があるとして、穂乃果はアナザーダブルの何を知っていたのか。

 

 

「その時の金額や準備から行き先は推測できたわ。でも、誰も探しに行かなかった。穂乃果がそこまでするなんて、考えられなくて…どうすればいいか分からなかったから……」

 

 

そこまで言うと、真姫の携帯電話に着信が入る。

 

 

「もしもし…岸戸先生?もうこんな時間…!ごめんなさい、今すぐに…」

 

 

少し焦った様子で真姫は通話を切る。どうやら用が入ったようだ。

 

 

「もう時間みたいだから、手短に伝えるわね。私たちは、一人でいたいっていう穂乃果の意志を尊重したい。でも私たちに黙っていなくなったことに納得は出来ない。理由を知りたい。こうやって葛藤して何年も過ぎたわ。今も…葛藤してる。

 

だからあなた達に伝えるのはこれだけ。穂乃果が行ったのは───アメリカよ」

 

 

真姫は席を立ち、壮間に紙の束を渡す。

それは、曲名の無い楽譜だった。

 

 

「もし穂乃果に会えたら渡してちょうだい。またいつか、皆で歌いたい…って」

 

 

ピアノ椅子を仕舞い、ロビーの従業員に礼をして真姫は去って行った。最後まで優雅な人だ。穂乃果といい、μ’sは立つ鳥跡を濁さずがルールなのだろうか。

 

いや、今回は幾つも残してくれた。

手元に残った楽譜、それに穂乃果の居場所。

 

 

「μ’sの新曲…ですよねこれって。香奈が見たら倒れそう」

 

「ダイヤとルビィは気絶するかもしれないな…それより、彼女はアメリカ合衆国にいると言っていたがどうする気だ?」

 

「それですよね…いくらなんでも広すぎというか……」

 

 

国を指定されても居場所特定できたかと言われると、否だ。アメリカは日本の何倍広いと思っている。せめてもう少しヒントが必要だ。

 

 

(考えろ俺…今のところアリオスさんに頼りっきりだぞ!?真姫さんが楽譜を俺に持たせたってことは、それなりに会う望みがある…ってことだと思う。多分。てことは真姫さんの言葉に何かヒントが……?)

 

 

彼女との会話を思い出してみるが、特にそれらしき文言は見当たらない。そもそもちゃんと覚えているかも怪しい。

 

違う。伝えたいのならそれとなく言うなんてしない。壮間がそこまで切れ者に見えるか?絶対に見えない自信がある。

 

もっと答えは単純かもしれない。真姫にとっては、言わなくても分かる程度のこと。感覚としては常識に近い、そんな感じ───

 

 

「アリオスさん!スマホ持ってますか、至急検索したいことがあるんですけど!」

 

「当然だ。私のスマートフォンは最新機種、高性能新機能搭載の完璧な代物だ。ただし借金をする際に売ってしまい、手元には無いのだが……」

 

 

ここぞという時に発揮されない完璧主義。

 

 

「俺のスマホはタイムスリップで使えないし、せめて通信機器があれば…」

 

「お困りかな、我が王」

 

「ウィル…ほんと生えてくるなら事前に言って……」

 

 

またしても無から発生したウィル。警戒するアリオスを他所に、ウィルは壮間に大きめの携帯電話のようなものを差し出す。

 

 

「王となる身にスマホなど不釣り合いだ。そろそろ君も、相応の物を持つという意識を持った方が良い。というわけでコレを君に献上しよう。未来の携帯ガジェット、『ファイズフォンⅩ』だ」

 

「ゴッツイな…スマートブレインって知らない会社だし。てかこれガラケー!?本当に未来の携帯なんだよな!?」

 

「もちろん。時を超えての通話すら可能で、非常時には銃器としても使える優れものさ」

 

「携帯に付ける機能じゃねぇよ…でも、これで通話ができる!」

 

 

アリオスからダイヤの電話番号を聞き、発信。

スクールアイドル好きの彼女ならば、きっと何か知っているはずだ。

 

 

『もしもし?』

 

「もしもしダイヤさん!俺です、壮間です!」

 

『壮間さん!?それで、μ’sのメンバーには会えたんですの!?あ、ちょっと蔵真さん!今はアリオスさんのことよりμ’sの事を……』

 

 

何やらあっちで揉めているようだ。

結局主導権はダイヤが握ったようで、会話が再開する。

 

 

「はい、会えましたけど…その話はまた後で!

一つ聞きたいんですけど……μ’sでアメリカと聞いて、何か思いつくものあります?」

 

『愚問ですわね!μ’sはラブライブ優勝後、海外のメディアに日本のスクールアイドルのプロモーションをするため、アメリカでライブを行いましたわ!』

 

「それです!その詳しい場所は!?」

 

『ニューヨーク州、タイムズスクエアとセントラルパーク!ちなみに曲名は“Angelic Angel”!μ’sのライブは世界的にも大反響を起こし、アキバドームでのラブライブ開催を盤石なものに……』

 

「ありがとうございます!おかげで先が見えました!」

 

『お待ちなさい!まだ話は終わっ───』

 

 

ダイヤの熱弁は、通話の断絶で終わった。

壮間に悪意は無かったにせよ、あのままではスクールアイドルの歴史まで語られそうな勢いだったのだ、結果として切って正解だった。

 

 

「μ’sは一度、アメリカに行ってる。穂乃果さんが消えたのが『ある特定の場所に行くため』じゃなくて、場所を問わず『どこか遠くに行かなきゃいけなかった』んだとしたら…俺なら思い入れのある場所に行く」

 

 

その行き先を知って、仲間たちは察したのだ。

思い出を辿る、まるで自分探しの旅。彼女は、離れていても思い出に触れられる唯一の場所を選んだ。

 

そういえば真姫も言っていた。それが仲間たちが出した結論。

穂乃果は「一人になりたい」のだと。

 

 

「つまり行き先は……!」

 

「はい。行きましょう、μ’sを探してニューヨークに!」

 

 

吹き抜けた風は羽根を巻き上げ、ふわりと遥か天空に。

女神の足跡が続く先は、海を越える。

 

 

「大変だ壮間!パスポートを持ってるか!?」

 

「持ってません。海外初めてですし…ってもしかして密入国!?」

 

 

大騒ぎする真面目コンビだった。

 

 

 




キャラの贔屓を覚えました。アリオスがここまで出しゃばる予定は無かったんですが、壮間一人じゃアナザーダブルまで到達しねぇよ……彼にはまだ一人は早いってことです。

次回は壮間とアリオスの旅番組「タイムマジーンの車窓から」をお送りします(大嘘)。

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今回の名言
「備えあれば多少憂いあれど問題なし」
「SERVAMP」より、露木修平。
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