仮面ライダージオウ~Crossover Stories~ 作:壱肆陸
今回はニューヨーク編。もちろん行ったことないので捜索描写はガバガバです。
今回も「ここすき」よろしくお願いします!
壮間たちが東京で出会った、元・μ’sの西木野真姫。彼女からウォッチを持つ高坂穂乃果はニューヨークにいるかもしれないという情報を得た。
思い立ったが吉日。そして、東京からタイムマジーンで15時間以上。
「これバレませんよね!?めっちゃ密入国ですけど!ああああ…ごめんなさいお母さん、俺は犯罪者になりました……」
「パスポート発行まで待てないのだ、仕方が無い。気を落とすな壮間。…私も人間界の法を犯したという事実は心にきているが」
「歴史変わるし、仕方ないってことに……
でも、来ましたねアリオスさん…!ここが……!」
タイムマジーンの窓から見える背の高いビル群。海外ドラマで見た街並み。何よりも象徴的な自由の女神像。
景色が叫ぶその単語を、二人も目を輝かせて叫ぶ。
「「ニューヨーク!!」」
__________
「壮間!この国の言語は喋れるか!私は人間界の主要言語として履修済みだ!」
「俺は英検2級持ってます!面接ギリだったけど、今はテンションでイケる気がします!」
「よし!まずどこから遊…探そうか!私はセントラルパークに行きたい!」
「採用!」
上陸と同時にテンション爆上がりの二人。
アリオスは異世界の箱入りお嬢様だし、壮間もこうなると予想していた。
しかし、予想外だったのは壮間自身の方。
初の外国だが、この未体験領域というワクワク感が思いのほか高火力だった。
自分の中に流れる旅好き両親の血が、はしゃげと囁く。
「セントラルパーク、あと自由の女神見て…タイムズスクエアは外せませんよね!そうなると順路は……時間が無い、動きながら考えましょう!ヤッホー!」
壮間、旅好きの遺伝子の前に完全敗北。
ここからは男女二人のニューヨーク観光記をダイジェストでお送りしよう。
ブルックリン・ブリッジにて。ビルを見上げるように橋を見上げる二人。
「橋だ!そうか…これがあのレインボーブリッジか!?」
「それ日本です。てかデッカぁ……!眺め、良っ!」
ロックフェラー・センターの展望台、トップ・オブ・ザ・ロックにて。今度は上からニューヨークを一望。
「エレベーターに4000円かかったんですけど…でも眺め、良っっ!!」
「これは…感動だ。私は今世界を一望しているぞ…!」
「地平線までビルがビッシリですよ!あれ見てください自由の女神!」
船に乗って島に上陸。自由の女神像の前にて。
「「本物だ…!」」
「凄いですよアリオスさん!本物!本物の自由の女神像!」
「壮間!写真を撮るぞ!ポーズだ、ポーズを取れ!そうだ、右手を上げて…よし!次は私を撮ってくれ!完璧な一枚を頼むぞ!」
こうして他にも色々回って楽しんだ。それはもう、命をかける勢いでニューヨークという異文化を堪能した。そして……
「何をやっていたんだ私たちは」
「いやもう全く本当に」
ほとんど丸一日遊んだ後、二人はようやく我に返った。
今の彼らは、ただの密入国で観光しに来た迷惑な人。日本人の恥でしかない事に気付き、言葉にできない羞恥の感情がこみ上げてくる。
「完全に意識を持っていかれていた…恐るべしニューヨーク。はっ!これが話に聞く『アメリカンドリーム』というものなのか…!」
「全然違いますアリオスさん。俺は現状ただの馬鹿ですよ…この状況に及んで浮かれに浮かれた、馬に鹿と書いて馬鹿です。あはは……」
「壮間をサポートするつもりが情けない…『穴があったら入りたい』…これは合ってるか?」
「合ってます。あ、アリオスさん。合ってるけど穴は探さないで大丈夫ですよ」
とは言いつつも、二人がいるのはファストフード店。
なんやかんや未だにしっかり楽しんでいる最中のようだ。
((ハンバーガーめちゃくちゃ美味しい))
流石は本場のファストフード、また幸福に意識を持っていかれそうになる。この街は食べ物やら景観やら楽しむ要素が余りに多くて参ってしまう。
「…駄目です。このままじゃ本当にただの旅番組ですよ!俺たちの目的は!」
「高坂穂乃果を探しに来た!そうだまだ間に合うはずだ、今から挽回するぞ!夜の街で情報収集だ!」
「でもどうやって…もう夜になりますよ?ニューヨークって場所によっちゃ治安良くないって聞いた気が…」
「…?それがどうした。いいから行くぞ」
「少しは気にしましょうよ…アリオスさん女の子なんですから……」
_________
「えっと…Excuse me. Do you know this Japanese person?」
探り探りの英語で道行くアメリカ人に尋ねる壮間。高校二年生時代の高坂穂乃果の写真を見せるも、手掛かりは見つからない。というか、なかなか取り合ってくれすらしない。
「アリオスさんは…大丈夫かな…」
結局別々で聞き込みをすることになったが、やはり夜の街に真面目そうな女性が一人というのは心配になってしまう。
と思ったが、よく考えればアリオスだ。女性とはいえ腕っぷしはかなり立つ。その辺のゴロツキにいいようにされる事は無いだろう。
「あれ、でも俺は?足速くない、変身できなきゃ雑魚、英語もそこそこ……むしろ危ないの俺の方じゃ……」
その心配はすぐに具現化してしまう。
オロオロとしている日本人少年は夜の街で目立つ。ので、壮間はいつの間にかガタイのいい黒人男性3人くらいに囲まれてしまっていた。
「あ…Hello…や、違う。Good evening…?」
凄まじく緊張する壮間のリスニング能力は、平常時の10分の1。黒人男性たちが何を言っているのか全く分からない。
すると、彼らは何やら、壮間にCDのようなものを押し付けてくる。
「え…CD?いやいらない…No thank you…」
駄目だった。彼らは拒絶を受け入れる気はないようで、更にグイグイとCDを売りつけようとして来る。ちなみに値段は300ドルらしい。いくら壮間でもCDに3万円がおかしいのは分かる。
ここまで来て壮間はやっと気付いた。
今、自分はカツアゲにあっているのだと。
まぁまず逃げられないのを確認。壮間は早々に降参し、財布を取り出した。この男、こんなでも一応仮面ライダーなのだが。
「300ドルですよね…え、600!?いやでも300って…」
財布の中を見て男たちが値段を変えてきた。しかし600まで行くとほぼ全財産だ。アリオスも嘉神に1000万を渡しているため、このままでは明日以降の生活が不可能になってしまう。
男たちは更に強気に金を要求。壮間は更に縮こまる。
そんな時、壮間の前に立っていた男の体が吹っ飛んだ。
「…!?」
多分だが誰かが男の顔面を蹴っ飛ばした気がする。
しかし新たに現れた人物は、その派手な事象に反して一人の女性だった。
「日本人だ!だよねだよね!ちょっとお話いいかな!Japanの話いろいろ聞きたいんだけど!」
「日本語!?」
この女性が男を蹴り倒したのだろうか。当然他の男たちがそれを黙って見ている事は無く、嬉々として壮間に話しかけている女性に襲い掛かろうとする。
しかし、そのうち一人が音を立てて倒れた。
「
英語のことわざを口に出したのは、また新たに現れた男だった。恐らく彼がカツアゲの男を倒したと察せられた。なんというか、『やってそうな』雰囲気が凄い。
カツアゲ集団が逃げたのを見届けると、男は女性に怒りの眼差しを向けた。
「全く、お前はまた…なるほど彼か。
身勝手、軽率、傍迷惑。いい加減に日本人を見たら連れて行こうとする癖を直せ」
「え~いいじゃん!そこまで言うならJapanに連れてってよ!アタシもう25歳だよ、早くしないとオバアチャンになっちゃうよ~」
「却下だ」
何やら壮間を放って言い合いを始めた。多分ノリ的にはペットを拾った時のような感じだと思う。自分がペットって、考えてて悲しくなる。
「そうだ…あの、お礼をしたいんで話くらいなら……俺でよければ」
壮間がそう話を切りだし、女性の目が輝く。
このまま言い合いを見ていても時間の無駄になる。そもそも彼女は恩人になるし、彼女に付き合うしかない。
そうして適当な店に入り、ケーキを注文。さっき食べたばかりだが、6万円のCDに比べれば安いものだ。
「で、で、で!キミはどこから来たの!?ナゴヤ!?ホッカイドウ!?まさかのオキナワ!?」
「えっと…東京…ですね。一応直前には静岡に」
「シズオカ!それどんなところなの!?食べ物は?楽しい場所とかオマツリとかある!?」
「俺も住んでるわけじゃないんで…あ、でも海はすっげぇ綺麗でした。本当に」
「Ocean view…!あ~やっぱりいいなー!ねー行こうよJapan!仕事なんかいいじゃんかー」
「駄目に決まっているだろう。何度言わせる」
室内だと二人の容姿がよく分かる。
女性の方は日本人のように見えた。口を開くと八重歯が見え、ふわふわした茶髪。体は意外とガッシリしている印象で、総じて猫…というより『豹』や『虎』のような人だ。
また、男性の方は明らかな外国人。背は高くて眼鏡をしている、冷たい雰囲気の仕事人といった感じか。発する存在感は絶対に堅気ではなく、時たま凄まじい殺気を感じる。こっちは例えるなら『蛇』だろうか。
「日本人…ですよね?」
「アタシ?そうだよ、でもちょっとワケアリでJapanに行った事ないんだよね。だからこうやって話聞くだけでガマンしてるの」
「そうなんですね…で、その仕事って……」
と、ここまで言って壮間は止めた。なんとなくだが、そこに踏み込んじゃいけない気がする。具体的には闇社会的な何かを、この二人から感じてしまう。
「勘がいいな。草食動物的直感か」
「そう…ですかね…!?」
「まぁいい。話は十分だろう、そろそろ行くぞ」
「あ、っと…ちょっと待ってください。折角だし…この人、見たこと無いですか?」
壮間は二人を呼び止め、高坂穂乃果の写真を見せた。
もし本当に裏の人間なら、それなりに人の顔を知っているはずだ。それに、日本人に強い関心がある彼女のことだ。少しでも見ていたのなら必ず……
「あ!この人知ってる!」
「本当ですか!?どこにいるかとか分かります!?」
「タイムズスクエアの近くで…確か…ね、覚えてるでしょ?ちょっと前に歌を歌ってた……」
「…あぁ、彼女か。場所はブロードウェイ近くだが、劇場の無い市街路の外れで目立たない場所だった。同じ場所で何度か見かけている、そこに行けば会える可能性は高いな」
ビンゴだ。まさかここまで詳細な情報が手に入るとは思わなかった。カツアゲから助けてもらったことといい、運の良さには感謝しかない。
「あの本当に…色々とありがとうございました!」
男性から詳しい場所を聞くと、壮間は急いでそこへ向かった。
そんな壮間を見ていた彼女は一言。
「フツーの子だったね」
「そうだな。珍しくも無い普通だ。だが妙に気になる少年だった」
「ふーん…まぁわかるかも。それでさ、やっぱJapanに行くのはナシ?いいじゃん一日だけ!一日だけでいいからさ!」
「…日本で仕事があったらな、ミヤコ」
「言ったからね、クリフ!
…?なーんか、久しぶりに名前呼んでくれた気がする……気のせいかな」
__________
アリオスに連絡し、壮間は先に教えてもらった場所の近くをうろついてみる。全く知らない街並みだが、そこから先はそう時間がかからなかった。
動くと徐々に近づく歌声が、その居場所を教えてくれたから。
「……本当、俺って運だけはいいかもしれない…!」
マイクを立て、少ない観衆の前で歌う彼女は、数年の時で雰囲気は変われど不思議と見間違えはしない。
「μ’sの高坂穂乃果さん…ですよね!」
「へ……!?」
突如現れた日本人少年に名を呼ばれ、痙攣したような派手なリアクションを取る。マイクを直方体のケースに仕舞い、後ずさりし、そして彼女は……
逃げた。
「あっ…!逃げないでください!なんで逃げるんですか!!」
「ごめーん!でも…っと…ほんとにごめん!」
「説明に…なってないですよ!」
それなりに足は速い彼女だが、流石にマイクケースを持っていたら手ぶらの男からは逃げられない…はずなのだがかなり追いかけっこが続く。壮間の体力が無いのか、彼女が凄いのか。
しかしこのままでは民衆から誤解され、警察に捕まりかねないのは壮間だ。
「あっ」
そんな心配をしていると、壮間の視界の奥で彼女が転んだ。それはもう普通に転んで、その勢いでマイクケースも転がる。
「いけない、マイクは…!よかったぁ…壊れてない」
「…すいません。捕まえました」
「あ」
マイクの心配で壮間の事を忘れるという、脅威のうっかり。
こうして逃走劇は早々に終結した。
_________
「彼女がμ’sのリーダー、高坂穂乃果か…あの伝説の…」
「あっははー…どうも…あなたは?」
「申し遅れた、私はアリオス。静岡のスクールアイドルAqoursの友人だ」
穂乃果を捕まえ、アリオスもそこに合流した。
二人が会話している間、壮間は2015年の穂乃果を観察する。そこまで大人っぽくなったという感じではないが、雰囲気は別人のようだ。髪は長くなっており、高校時代とは違って結んでいない。
「Aqours!知ってるよ!人気急上昇で話題になってたよね!」
「なっ…あの高坂穂乃果に認知されているとは…流石は私の友…!」
「スクールアイドルは、ここにいる間もずーっと見てきたんだ。私たちの時よりもずっと高いところで、もっとたくさんの子が頑張ってて…安心した。スクールアイドルは飛べたんだ…って」
「飛べた…ですか」
「うん。それで…わざわざ私に会いに来た理由って?」
壮間とアリオスは、まず何を言うべきか考える。何せ、彼女の行動や現状は謎しか無いのだから。だが、やはりここは本題から触れるべきだろう。
「これ…持ってませんか?西木野真姫さんから、穂乃果さんが持ってるって聞きました」
「真姫ちゃんに会ったんだ!これ……は…
うん、持ってる。これのことだよね」
意外にもあっさりと、穂乃果はカバンからソレを取り出した。
黒いウォッチで、「2009」と白黒別れた「W」のクレスト。間違いなく仮面ライダーダブルのプロトウォッチだ。
「やっぱり!穂乃果さん、それを俺にくれませんか?」
「これを知ってるんだね。でも…ダメかな。私にもこれが必要なんだ」
「それが必要?どういうことだ壮間、このウォッチには何か特別な力があるのか?」
「いや…普通の人が持ってて何かあるなんて、聞いたことないけど…どういうことですか穂乃果さん?」
「…そうだよね。こんなところにまで来てくれたんだから、話すよ。信じてもらえないかもしれないけど……
声が聞こえたんだ。この、時計から」
穂乃果は語り始める。μ’s解散後の日々に、何があったのかを。
高坂穂乃果、高校三年生の夏。
「うへぇ…疲れたぁ…でも、今日もパンが美味い!」
音ノ木坂の生徒会長は彼女が続投されることになり、忙しい毎日が続く。そんな彼女は今日の分の仕事を終え、アイドル研究部の部室で一人パンにかぶりつく。
そう、その日は珍しく一人だった。皆が部室来るまでの間、穂乃果は部屋を眺めて思いを馳せる。
数か月しか経っていないが、『μ’s』の面影はもうほとんど無い。今はもう全く違うグループを始め、妹の雪穂たちも入部してきて、あの時とはまるで違う日々が流れてゆく。
悲しくはない。寂しくはない。
μ’sはすべてをやりとげた。あの日々に忘れてきたものなんて、何も───
『昼間っからボケっとしやがって。さっさと練習行けバカ穂乃果!』
「…誰……!?」
どこからか怒鳴りつけるような声が聞こえた。そんな気がした。
でも誰もいないし、知らない声だ。少し考えているうちに、その言葉はセミの鳴き声に紛れて記憶から溶け落ちていく。
でも、どうにも気になってしまう。あの声を忘れぬうちにと、キョロキョロ辺りを見渡す穂乃果。今まで気にしてこなかった棚のダンボール箱の隙間に、何かがあるのを見つけた。
「これ…なんだろ?時計……なのかな」
時計というには無理のある見た目の装置だが、無意識に「時計」とそう呼んでしまった。その時計をじっと見ていると、
「───!?」
何かの腕が意識だけを引っ張ったように、時計の中に全ての感覚が引きずり込まれる。そして、そこから一瞬の出来事が、穂乃果の記憶や心を覆した。
『俺は■■■■■、こっちは……』
『その4人に俺は入ってねぇだろうな?』
『いつ何時でも、俺たちを信じろ。命に代えてでも、お前たちは必ず守る』
『ありがとな。ずっとそうだった…お前に会えて、俺は───』
『■■…テメェが俺の罪だってんなら、俺がテメェの罰になってやるよ』
『後は頼んだぞ、穂乃果───』
理解したというにはとても不確か。
夢を見たというにはとても克明。
思い出した、というのは少し違う気がした。何かを見たという方が正しいか。
でも一つだけ確かなのは、知らない大切な誰かが、穂乃果に何かを託したということ。
「行かなきゃ……!」
穂乃果は使命感に駆られ、動き出した。
頭に浮かび上がってきたのは、近頃頻発しているスクールアイドルの不祥事。不正やいじめ、暴力事件に至るまで、ここ数ヶ月でスクールアイドルが起こした騒ぎは不自然なほど多く、そのせいで社会ではスクールアイドルの存在を疑問視する声も増えてきていた。
悲しい偶然だと思っていたが、違うと知った。
あの時計は覚えていた。その事件の
「あなたが犯人。そうだよね、■■さん……」
気付けば、穂乃果はその人物の前に立っていた。
犯人はスクールアイドルたちを操り、転落させている。その秘密は『アナザーダブルウォッチ』。二人で一人の仮面ライダーの力を持つそのウォッチは、他人に使わせることでその人物の悪意を自在に操ることが出来る。
このまま犯人を放っておけば、スクールアイドルは終わる。
μ’sが守りたかったスクールアイドルの未来は断たれることになる。
それだけは絶対に許せない。あっちゃいけない。
これ以上、スクールアイドルが不幸にならないように。
だから穂乃果は、確かな自分の意志で───
犯人が持つウォッチを、自分の体に取り込んだ。
「「はぁ!?」」
「…やっぱ信じてくれない?そりゃそうだよね…時計の声とか犯人とかめちゃくちゃだよねぇ…」
「いやそこじゃないですよ!え、だってウォッチで人を操る犯人なんですよね!?それを体に…って、えっとつまり……穂乃果さん、大丈夫なんですか??」
「そうなんだよ!あの後、私の中にその子が入って来て、私を飲み込もうとした。でも、この時計を持ってると力が出たんだ。負けるなー!って励ましてくれてるみたいで。それでも…いつ変になっちゃうか自信が無くて、そうなっちゃうと今度は別の子が~って思うと…みんなとは一緒にいない方が良い、そう思ったんだ」
これが穂乃果の行動の真相だ。
話によると、すぐに犯人の名前も顔も忘れてしまい、ウォッチに残っていた記憶も覚えていられなかったらしい。ただ彼女に残ったのは『みんなを守りたい』という衝動のみ。そんな状態で話をして納得させるのはとても不可能だ。
「とにかく、スクールアイドルから離れて生きなきゃ…って思ってこの街に決めたんだ。ここなら思い出が残ってる。寂しくない。一人で戦える。もしかしたらこのマイクも返せるかも……なんて」
「マイク?」
「預かりものなの、このマイク。この街で出会って、大事なことを教えてくれた人の忘れ物」
ともかくこれで大体の事情や状況が見えてきた。目立った事件が起こらず、アナザーダブルが認知されてすらいなかったのは、穂乃果がその行動を制限していたから。全ての悲劇を一人で背負っていたからなのだ。
壮間から逃げた理由は、ファンや別のアイドルを巻き込まないため。
ウォッチを渡せない理由は、これからもアナザーダブルを止め続けるため。
「穂乃果さんは6年もの間、アナザーダブルを腹に留め続けた。それで煮えを切らした犯人が、タイムジャッカーによってアナザーゴーストに
「己は姿を見せず、内から人を不幸に落とす……卑劣な外道だ!」
「待って!それってどういうこと?あの犯人さんが、別の人に取り憑いてる……!?」
「…今度は俺たちから話します。こっちも信じにくい話ですけど」
壮間は自分が未来から来たことや、アナザーゴーストの一件の詳細、そのウォッチで過去に行き歴史を変えようとしていることを説明した。
「そっか…それじゃあ、私はもう戦えないんだね…」
穂乃果は自分の役目が終わったことを悟る。だから未練も無い。穂乃果は、ダブルのプロトウォッチを壮間に持たせた。
次の時代に思いを託すのは、これで二度目。どちらかといえば辛い日々だったはずなのに、少し寂しく感じるのは何故だろう。それはきっと、ウォッチの中の『誰か』と、もう会えないと思ったから。
「後はお願い。スクールアイドルを守れるのは、あなたたちしかいない!」
「高坂穂乃果…貴女は偉大だった。貴女が守り抜いたこの6年が無ければ、Aqoursは無い。私がこうしてこの世界を愛することも無かった。感謝の意を込め、必ず……!」
「はい。必ず変えてきます。穂乃果さんのためにも、ミカドと香奈のためにも…俺のためにも。あ、そうだ…穂乃果さんに会えたら渡して欲しいって、真姫さんから……」
真姫から受け取った新曲の楽譜を、穂乃果に渡す。
懐かしそうな、嬉しそうな、泣きそうな顔で楽譜に視線を滑らせる穂乃果。だが、穂乃果は満足そうに楽譜を壮間へと返した。
「この曲は昔のμ’sに渡して。多分、そっちの方がいいと思う」
「そう…ですか?そういうことなら…」
「あ、あとそうそう!これもお願い。昔の私に伝言なんだけど……」
今から壮間たちが出会う穂乃果は、この言葉を知らないはずだ。
「もし私が悩んでたり、迷ってたりしたら言ってあげて。
『いつだって飛べるよ。あの頃みたいに』。多分……大丈夫だと思うけど」
マイクケースだけ持ち、穂乃果は行ってしまった。
これから彼女はどこに向かうのだろう。役目を終え、仲間たちの所に戻るのかもしれない。でも違う気がする。この時間軸では、もう「あの頃」は戻ってこない。そんな気がした。
たった一人でスクールアイドルを守り続けた。その代償は大きい。
だから戻って、変えてこなければいけない。高坂穂乃果の6年を取り戻すために。
「本当に行くんですか?アリオスさん」
「ここまで来れば当たり前だ。今の私はとても怒っている!とてもだ!
しかし…それにしても彼女は凄いな。友を突き放し、独りで未来を守る…私には不可能だ」
「そうですかね?俺は…できるんじゃないかって思いますけど」
「過大評価が過ぎる。私は彼女のようにはなれないさ。私は高坂穂乃果を尊敬する…あぁいうのを確か……『ハードボイルド』と言うらしいな。合っているか?」
「ハードボイルド…って言うにはちょっと穏やかというか…」
ハードボイルドと言うと、探偵小説なんかで聞く単語だ。冷酷非情で強い心と体を持つような、非道徳的で独りで完結する完全無欠な性格。言われてみればアリオスの理想である「完璧」が、それに近いのかもしれない。
だが穂乃果と照らし合わせると、どうしても「冷酷非情」の所で躓く。そもそも彼女は存在が道徳的だし違う気がする。しかし、その勇気と行動は確かにハードボイルドと言いたくなる。
「『ハーフボイルド』…なんじゃないですかね。いやこれもなんか違う気が…」
ハーフボイルド、つまり『半熟』。二人はそんな彼女を讃え、ウォッチを起動した。
「時空転移システム、起動!」
2009年への扉が開く。その瞬間に感じた、あの異質な力。
間違いなく居る。この扉の先には、あの令央という男が待っている。
『私が描く最大の大作で、日寺壮間という最低の贋作を無き者に』
彼はそう言った。ならば、戦いの場はこの時代だ。
アナザーダブルを倒して香奈を救う。アナザー電王を倒してミカドを救う。
壮間自身のバッドエンドを覆す戦いが始まる。
____________
2009
タイムトンネルを抜けて驚いた。なにせ、出発地点はニューヨークだったのに到着したのは東京だったからだ。タイムジャンプ先の日付や時刻も選べない辺り、プロトウォッチでのタイムジャンプは特殊なのが分かる。
とにかく2009年の東京には辿り着いた。
ここでタイムスリップに興奮しないわけがない人物が一人、アリオスだ。またしても旅番組のようになるかと思いきや……
「寒い………」
降りた時点は12月末、2009年の終わりだった。つまり真冬なわけで、そうなると雪が降っていてもおかしくはない。それが結構な吹雪でも、まぁおかしくはない。
ただ、その厚着から分かるようにアリオスは相当な寒がり。
そんな彼女にとって、この環境は過酷を極めていた。
「これが人間界の冬…なんと恐ろしい…壮間、私に構わず先に……」
「アリオスさん!?倒れた!え、ちょ…寝たら死にますよ!」
「心配するな眼魂の体だから死ぬことは無い。だがやはり長官の部屋から盗んできた前世代の眼魂、エネルギー保持に食事が必要なうえにこうした不要な感覚に苦しむことになる…人間らしいのは嬉しかったが、それがここに来て仇になるとは……」
「凄い喋りますね、元気ですか。
あ違う。これ喋らないと気が保てないのか…ってしっかりしてください!」
大げさな反応だが確かに寒い。地球温暖化の影響か、未来の方がまだ暖かかった。
いや、大げさなんかじゃない。寒い。そりゃ防寒着は何も無いから当然だが、そう考えても寒すぎる。息がし辛くなり、肌が痛むほどの寒さ。
その異常に気付いたのは、垂れた鼻水が凍った時だった。
あとアリオスは完全に冬眠モードだ。
「これはマズい…!死ぬ!本当に凍死する!何がどうなってんだよ…ここ日本だろ!?」
よく見れば誰も外出してない。真っ白な背景の中で彷徨うたった二人の影は、日本では無く北極か南極で遭難をしているようだ。
「ウケる。だれもいないと思ったら丸腰がいんじゃん!」
ホワイトアウトの中で聞こえた女性の下品な笑い。
吹雪の中で遭難すれば出会う女性と言えば『雪女』だが、壮間は
少なくとも、目の前に現れたそれは、雪女と呼ぶには醜すぎた。
「あたしの雪祭りにようこそ!雪像になっちゃいな!」
「…やっぱり…!怪人か!」
吹雪が一つに収束し、雪だるま怪人の姿を造り上げた。
体から生やした木の枝が甲冑のようで将軍のようにも見える。他にもペンギンの要素も入っているだろうか。これまで出会って来た怪人と比べると、なんとも奇妙な雰囲気だ。
『吹雪』『雪だるま』『冬将軍』『ペンギン』
まるで『冬』という要素を人の形に固めたような怪人。それが地球の記憶をドーピングした人間の姿、『ドーパント』。この怪人は『冬の記憶』で変身した『ウィンター・ドーパント』だ。
ジクウドライバーにジオウウォッチを装填し、腰に巻く。しかし機能停止状態のアリオスを持っているわけにもいかないので、仕方なく歩道の脇に安置。
「すいませんアリオスさん…変身!」
《ライダータイム!》
《仮面ライダー!ジオウ!!》
「はぁ、仮面ライダー!?聞いてないしそんなの!意味不明!」
「俺の台詞だよそんなの!いきなり凍ってたまるか!あーもう寒い!」
既に寒さの限界が来ているジオウ。ろくに拳に力も込められない状態だった。
まずはこの異常な気温に対処しなければ戦いどころではない。
《ヒビキ!》
「とにかく火を!」
《アーマータイム!》
《ヒビ・キー!》
ジオウは響鬼アーマーにアーマータイムし、音撃棒を振り回して炎を撒き散らす。ウィンターを牽制するのと同時に凍てついた大気が溶けていくのを感じる。これでようやく普通の真冬だ。
「うっざ!?顔カタカナとかダサいし火ぃ使うしマジ有り得ない!」
「顔カタカナは関係ないだろ!このっ!」
「熱っ!こっち近づけないでよ!来んな変態!」
「誰が変態だ!?」
ウィンターはペンギンの翼を模した双剣『ウィンザーベル』を手にし、ジオウは音撃棒から炎の刃を伸ばし、互いに二振りの剣を装備した。
鬼の炎と炎をも凍らせる超低温の戦い。だがそれはウィンターが力を100%発揮できればの話だ。
ドーパントには『適合率』という概念が存在する。端的に言えば、変身者と地球の記憶との相性のこと。結論から言って、このウィンターの適合率はそれほどでは無く、本来ほどの低温を操ることができないのだ。
「ああぁぁマジ最っ悪!もういいし!全然楽しくない帰る!」
「逃がすわけないだろ!当てずっぽうだけど…鬼棒術、烈火弾!」
逃げ出そうとするウィンターに向け、ジオウは炎を音撃棒に集中して炎弾を発射。サバキから聞いただけの技だが、なんとかイメージ通りに技が出て安心する。
しかし炎はウィンターの体をすり抜けてしまう。ウィンターの体組織は能力によって氷片に変化させることが可能で、それによりウィンターは吹雪となってまんまと逃げおおせてしまった。
「逃げた……あれがこの時代の怪人か。となると早く探さないと…仮面ライダーダブルを───」
アリオスを回収しに行こうとした瞬間、首裏に響く強い衝撃。
「トン」なんてものではない。「ドン」とか「ドカ」とか「ゴギガァン!」とかの方が合ってる痛みで、壮間の意識が瞬時に暗転した。
____________
気を失っていた。目覚めた壮間が最初に思ったのはそれだった。
そして次に思ったのは、「痛い」だ。
「って……痛い!?待ってここどこ!?」
「やっと目ぇ覚ましやがった。手間かけさせやがって」
気を失う前とは違い明らかな屋内。そして痛みは、目の前の男に腕を掴まれてるから。しかも鉛筆を折るくらいのパワーで。あとアリオスは壮間の後ろで機能停止したままだ。
段々と状況が分かってきたが何も見えてこない。だが、そんな壮間に与えられたのは答えでは無く、問いだった。
「答えろ。テメェどっから湧いてきた。人の留守中に空き巣かと思えばグッスリってのはどういうことだ?」
「は、空き巣!?いや、違くて…俺たちは猛吹雪にあってたとこで、急に意識が無くなって気付いたらここに……」
「誰が信じるかそんなもん。大体、ドーパントが暴れてるから外出んなって赤嶺……じゃねぇ、警察が呼びかけてたろうが。外出する方がめっぽう怪しい」
「そう…なんですか。いやそれには事情があって……ちょっと話聞いてくれません?ほら、そもそも誰も外出してないのに空き巣するって方がおかしくないですか!?」
「…確かにそりゃそうだ。分かった、話くらいは聞いてやる」
壮間は出来るだけ正直に置かれていた状況を説明した。ただし流石にタイムスリップとか仮面ライダーのことは伏せたが。
説明している間、壮間はこの青年を観察する。
目つきが悪い。非常に悪い。ヤンキーとはまた異なる殺気や凄みが、壮間の全身にビシビシ刺さってくる。なんとなく『野性っぽい』感じが漂う青年だ。
「なるほど。まぁ一応筋は通ってるな」
壮間の必死の弁解が実を結んだようで、浴びせられていた敵意が少しだけ穏やかになった気がした。気がしただけかもしれないけれど。
「つまりテメェらは本当にいつの間にかここに居た。ここが何処かも分かんねぇ…と」
「そう!そうです!」
「じゃあもう用はねぇな。冷やかしならさっさと帰れ。
ここは…俺の探偵事務所だ」
「探偵…事務所…?」
そう言われ、壮間は辺りを見回す。
いまいちピンとこないが、机の上にチラシが置いてある。やけに可愛らしいイラストと柔らかな字体は気になるが、そこには確かに「切風探偵事務所」と書いてある。
「帰る前にどうせだから覚えていけ。
俺は切風アラシ……探偵だ」
今回登場したのはτ素子さん考案の「ウィンター・ドーパント」です!あ、これラブダブルの方でやってるオリジナルドーパント案募集のやつです。
今回は知らないキャラが出てきましたね。それは多分ラブダブルにいるやつです。
今回の疑問点は大体ラブダブル読めば解決するんで、途中からで良いのでよろしくお願いします!
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