仮面ライダージオウ~Crossover Stories~ 作:壱肆陸
仮面ライダー天鬼に変身した少女。19歳。本名は嵐山藍。敬語口調で学級委員長タイプの真面目ちゃん。主な護衛対象は3号室の住人とSS。イブキを師匠に持ち、修行の末にアマキの名前を貰ったが、変身できるようになるまで長く音撃習得も順調ではなかったため、自分の才能にコンプレックスを持っている。2005年では壮間の修行相手を務め、アナザー響鬼討伐にも貢献した。修正された歴史では高校時代の先輩と交際することになったが、ダメ人間の彼に手を焼いているらしい。
本来の歴史では・・・自分と他人に厳しい性格が災いし最初は周囲に馴染めなかったが、妖館護衛班の仕事を通してそれも改善され、毎日が楽しいと思うようになった。しかしそんな時、両親の仇である強豪魔化魍「ヌエ」が出現し……
もうじき大学3年になる146です。シンプルにしんどいです。
前回アラシと邂逅した壮間ですが…アイツはこれまでの主役レジェンドとは訳が違い、死ぬほど厄介です。今回はラブダブル読者にも馴染みのないキャラが数名出ますので、頑張ってついて来てください。
前回と今回登場のウィンター・ドーパントの考案者、τ素子さんからウィンターメモリのロゴを頂きました!
【挿絵表示】
今回も「ここすき」をよろしくお願いします!
2009年、年末の東京で、超局地的な「厳冬」が訪れるという事件が勃発。それにより低体温症で病院送りになった者が多数。被害は甚大。その始まりは数日前、ビルの足元で雑誌記者が凍死していたことから始まったとされる。
その犯人はウィンター・ドーパント。
謎の仮面ライダーから逃走したウィンターは変身を解除。東京のスクールアイドル「AERO-Castle」の
「おっそーいですよ円佳先輩、わたしのコーラちゃんと買って来ましたー?」
「う…うん。ごめんごめん!外凄い吹雪じゃん?ちょっと迷っちった!マジウケない!?」
「ウケるウケる。というか凄い暇なんだけど、怪物って本当迷惑。…そうだ!トランプしよ!ババ抜き!どう?」
だが、何食わぬ顔というわけでは無いようだ。寮で待っていた他4人の不審を訴える視線に耐えかね、鳩原はコーラを投げ渡して部屋から出て行ってしまった。
あの子たちは鳩原がドーパントだと知らない。知らないまま変わらない友愛を向けてくる。
そう、あの子たちのほとんどは。
「どう?今度は何人凍らせて来たの?」
鳩原を追って来た一人のメンバーが、膝を抱える鳩原に普段と違う口調で話しかける。全ては彼女が始めたことだ。鳩原にウィンターメモリを渡したのも、彼女。
「……もう無理。返すよ!このメモリは返す!もうウィンターにはならない!」
「何を言ってるの。あんなに楽しそうにしておいて」
「違う!確かに最初は発散だった…全然注目されなくて、μ’sにも話題取られてイライラしてて…ウィンターになってる間は全部忘れられた!でも……」
最初は気付かれないように、吹雪になって空を飛んだり。いたずらで物を凍らせたりする程度だった。あのガイアメモリを使っているというスリルを楽しむ程度だった。
しかし、AERO-Castleがラブライブ地区予選で敗退し、素行が良くないからと目を付けていた悪徳記者がそれをきっかけに出鱈目な記事を書いたせいで、世間からの評価が地に堕ちた。
そんな怒りを、メモリは増幅させる。
「あの記者を凍らせてから…もう抑えられないの!誰かを凍らせたい、ウィンターになって暴れたくてしょうがなくなって……気付いたらメモリ使ってて、知らない人が冷たくなってて……!」
「それでいいじゃない。あなたがやったことで街は大騒ぎ、みーんなあなたを怖がって意識してる。最高に目立ってアイドル冥利に尽きない?」
「そんな───」
反発の言葉はそこで途切れた。
そのメンバーが出したのはアナザーダブルのウォッチ。それを起動させ、鳩原に埋め込んだのだ。
「が…あぁ゛っ…いや゛あぁ…!」
「我慢しちゃダメ。聖人になれない私たちは落っこちるしかないんだから。一緒に行きましょう?赤信号の向こう側に」
《ダブルゥ…》
__________
「探偵……!?」
2009年に来た壮間。突然現れたドーパントとの戦いの直後に気を失った彼は、気が付くと探偵事務所に。そしてそこにいた切風アラシという青年は、「探偵」と名乗ったのだった。
探偵と言われると思いつくのは、パイプ片手に虫眼鏡を覗くシャーロックホームズみたいなイメージ。それに比べると目の前の彼はイメージと離れている。というか悪人面だ。
「…やっぱ見えないなぁ」
「んだとコラ。文句垂れる前にさっさと出てけ。ほら、そっちのテメェもさっさと起きろ」
アラシはクッションを掴み、寒さでシャットダウンしているアリオスに向けて投げつける。その剛速球はアリオスの頭部に直撃し、殴った古いテレビのように彼女は目覚めた。
「……なんだ…私はどこに……?な…寒い!猛烈に寒いぞ!屋内なのに!」
「あ、起きた。そりゃびしょ濡れですからね…風邪ひきますって、俺もだけど」
「…んだその目は。いいぜ別に、服くらい貸してやるよ。一着1000円、二着で2000円だ。しっかり金は取るぞ、俺は慈善事業ってのが大嫌いなんだ」
「なんなんだこの男は。初対面で悪いが、私はあまり彼が好きではないぞ」
「探偵…らしいです。知らないですけど」
「俺だってもうテメェが嫌いだ。おら、着替えたけりゃそこの部屋に小さめの服あるから適当に見繕ってこい」
アラシはアリオスを奥の部屋に押し込み、壮間をタンスの前に蹴飛ばす。一挙一動が乱暴な男だ。
言われた通り適当に服を選んだが、少しサイズが大きい程度で助かった。乾いた服に安心を覚えるのも束の間、アラシの視線が怖いので壮間は慌てて財布を開ける。
「……ドル札でいいですか?」
「いいわけねぇだろ日本人舐めんな」
持ち金全てアメリカ仕様の壮間、詰む。
そんなピンチにはハプニングが重なるもので、奥の部屋から高い悲鳴が上がった。
かと思うと、鈍い打撲音の後に何かが壁に衝突。ボロい事務所が揺れる。
思ったよりも悲鳴が高かったせいで、それがアリオスのものだと気付くのに時間がかかった。
もっと言うと、誰かがアリオスの着替え中に部屋に入り、その誰かが蹴っ飛ばされたという状況だと気付くには更に時間がかかった。
「…なんだ、テメェ女だったのか」
「貴様…!何食わぬ顔で入って来るな!壮間!お前は見るんじゃない!見たら殺す!」
「見ませんよっ!」
わざとらしく背を向ける壮間に対し、アラシは本気で興味が無いという顔で部屋を覗いて状況を確認している。感情が死んでいるのだろうかと心内ツッコミをする壮間。
それよりも気になるのは、激しく蹴っ飛ばされた誰かの方だ。あのアリオスが本気で蹴ったのだから、骨くらい折れてても不思議ではないが……
「あのー…部屋に戻ったらイケメン女子が着替えてて、半裸美女に蹴られるって僕は喜んだらいいんでしょうか悲しんだらいいんでしょうか。いや声に出すとご褒美要素しかないね」
「死んだらいいんじゃねぇか?」
何事も無かったようによっこらせと起き上がったのは、ヘアピンを付けた気だるげな少年だった。
なお、着替えたアリオスにまた蹴られた。
「コイツは士門永斗…………働かない社会のゴミだ」
「迷った末の紹介がそれってどうなの。
僕はこの極悪顔面太郎の相棒やってます。よろしく。で、この人たち依頼人?」
「いや、ただの迷子なんで…もう帰ります」
「あ、そっすか。なにそれ自己紹介し損じゃん」
新しく現れた二人目の探偵、士門永斗。
アラシに比べると彼は、なんというか無職引きこもりの雰囲気が漂っている。少なくとも身なりに気を付けるタイプの人間ではなさそうだ。
細身なのにアリオスの蹴りを痛がっている様子もない辺り、こう見えて腕っぷしは立つ方なのだろうか。
「じゃ俺ら帰りますんで…お金は揃い次第すぐに返しに来ます」
「濡れた服は洗濯しといてやる。追加料金500円で合計2500円だ」
「おい早く行くぞ。恩には着るが、金にがめつい男は嫌いだ」
「聞こえてんだよ男モドキ。さっさと行け」
「ステイ!アリオスさんステイっ!すいません!ではさようなら!」
アリオスが殴りかかる前に、壮間は颯爽と退場。
したかと思うと、すぐに壮間が扉から顔を出した。
「すいません…探偵っていうんで、折角だしちょっと聞きたいんですけど…」
「なんだ」
「仮面ライダーダブル…って知ってます?俺たち、その人を探してるんです」
「…聞かねぇな。依頼ってことで調べてやってもいい。ただし報酬は別途支払いだ」
「えぇ……でも、わかりました。お願いします」
礼をすると、今度こそ壮間は事務所を後にしたようだ。
来訪者は特に何を残すわけでも無く消えた。
「永斗、気付いたか?」
「もちろん。あの子…意外とスタイル良かった」
「くたばれ。凛に言いつけるぞ」
「冗談に決まってるじゃないっスかやだな~も~。
彼、『ダブル』って言ったよね。その名前知ってるのは大分臭いってことでしょ。まぁ…
「ウィンターを追ってたら見た。アイツは仮面ライダー、しかも多分
アラシは隠していたソレらを、永斗の前に置く。
ジクウドライバーにライドウォッチ一式。壮間が気絶している間に盗み取った、変身装備だ。
「本棚とコイツで奴らの正体を調べてくれ」
「わー、相変わらずの手癖の悪さ。さーて…今度も世界の危機?勘弁して欲しいよね」
「どうだろうな。勘だが…世界の危機っつーか、もっと大事なもんが揺れる。もっとどうしようもねぇ事が起きる…そんな気がするんだ」
「……アラシの勘って基本当たるの分かってる?」
自分の中で渦巻く違和感。探偵である彼らは、それを敏感に嗅ぎ取れてしまう。
これまでとは比べられない何かが訪れるのは分かった。
だが、彼らの選択は揺れない。彼らの選択の指針は、了然にして不変なのだから。
___________
「何なのだあの探偵たちは!変態と凄く嫌な奴!」
「確かにイメージとは違いましたけど…というかアリオスさん、男物の服でも薄着だと女性っぽさ際立ちますね」
「上着を借りられなかったのは痛手だ……何より寒い!早く音ノ木坂に行くぞ!」
ウィンターが去ったことで猛吹雪こそ消失したが、それでも雪は降ってるし積もってるしで真冬なりに相当寒い。
彼らにダブルを調べるように依頼はしたが、それを当てにし過ぎるのは良くない。というわけで壮間たちは、μ’sのいる音ノ木坂学院に向かうことにした。
「2015年でも行きましたけど、変わってないですね…」
「だがこの時代には伝説のアイドル、μ’sがいる」
「…待ってください!校門の前、誰かいます。あれは……」
ここまで不気味なほど誰もいなかったが、音ノ木坂が見えると同時に複数の人影が確認できた。背の低い3つの姿と、その前に立つ大きい姿。近づいて確認すると、その正体の大方は判明する。
「穂乃果さんだ…!後の二人も見たことあります」
「矢澤にこと星空凛だな。しかし、あの男は誰だ?」
項垂れるμ’sの3人。彼女たちを威圧感たっぷりに睨み付けているのは、長袖革ジャンで腕章を付けた男。ニューヨークで会った男やアラシも怖かったが、彼らの野生生物のような怖さとは違い、彼のオーラはまるで拳銃といった武器のようだ。
「答えろ頭の弱い女学生3人。警察から外に出るなと通達があったはずだが、校庭に出て何をしていた」
「……せっかく雪が降ってるんだから遊ぼうって…凛ちゃんが」
「違うにゃ!どーしても雪合戦がしたいって言うから!…にこちゃんが」
「はぁ!?一番最初に飛び出したのは穂乃果じゃない!」
「俺には全員楽しく遊んでいるように見えたが気のせいか」
「「「おっしゃる通りです」」」
状況を把握。どうやら説教を受けているらしい。
「ドーパントを撃破するまで民間人の外出は禁じる。事情がある場合は警察に連絡をすれば電話一本で護衛を付ける。そう言ったのは聞こえていたはずだ、そこの民間人2人」
「…っ!?バレてた……」
男の説教の矛先は、木影に隠れていた壮間とアリオスにも向けられた。観念して2人も穂乃果たちに並ぶ。
しかし、そこで食い下がるのがアリオスだ。
「待て。貴様は何者だ。知らない男に説教をされる謂れは無い!」
「黙れ。俺は正義だ。俺は万人に正しさを説く義務と権利がある」
「……この人は赤嶺甲って言って、刑事さんなんです…一応」
「刑事…!?この人が!?」
穂乃果から彼の正体を耳打ちされたが、その派手さと奇特さに肩書が似合わず思わず二度見。やっぱり刑事には見えない。
「ドーパントによる被害者は多数。既に死者も出ている状況だ。これ以上の被害者を出さず平穏な年末を送らせるためにも徹底する必要がある。よって警察の指示に従わない貴様らは、警告に沿って警察監視下のもと牢により保護する」
「それ投獄じゃないですか!?」
「警察とはいえ、いくらなんでも横暴ではないのか!」
「そもそも、いつまで引きこもってろって言うのよ!」
「犯人が出てこないんだったら意味ないにゃ!」
「もっといい作戦があると思いまーす!」
「黙れ貴様ら。俺が正義だ」
口々に飛び出す不平不満を一言で断絶。基本的に「正義だ」の一点張りのため、赤嶺に口論を挑むという事は岩に相撲を挑むことに等しい。
「心配せずとも今日中に片を付ける。街を徘徊する私服警察官がドーパントに遭遇すれば、すぐにでも……」
融通が利かない男、それが赤嶺甲。頑固にも5人を投獄しようとパトカーを呼ぼうとした矢先、氷点下の風が肌を切った。それを赤嶺は逃さない。
「連行の必要は無くなった。今ここで騒動を終わらせる」
一気に寒さが増した。ウィンターの到来だ。
甲高い笑い声を上げる吹雪が、通り道にある命を凍らせんと温度を更に降下させる。特に不自然に風が集まるのは壮間の場所だ。
降雪の中でウィンターの不意打ちを予測できる者は居ない。本気を出されれば、気付いた頃には体内の水分が全て凍らせられてしまう。
しかし、そこにはウィンターのミスがあった。仮面ライダーである壮間を見つけて考え無しに攻撃を仕掛けた事と、赤嶺を放置した事だ。
「甲さん!」
「俺を名前で呼ぶな、女学生」
赤嶺の名を呼ぶ穂乃果。それに応えるように、赤嶺はバイクから外した鋼の大剣「エンジンブレード」で吹雪を切り裂いた。
圧倒的重量の剣と赤嶺の腕力により、ウィンターが壮間から引き剥がされる。そして現れるドーパントの姿。
「俺の前で市民を襲うか。その目には正義は眩しすぎたようだな」
「なんなの…!邪魔!邪魔!邪魔!あたしの前、出てくんな邪魔すんな…このオッサンがぁぁぁああああああッ!マジぶっ凍らすっ!」
「メモリに呑まれたか。つまり貴様はそちらに行くべきでは無い人間ということだ。すぐに叩き戻してやる」
赤嶺が赤い装置を鳴らす。あのUSBメモリのような装置こそ、地球の記憶を内包したガイアメモリ。そして赤嶺のメモリに封じられているのは…『加速の記憶』。
《アクセル!》
「変……身!」
ドライバーを装着し、メモリを装填。バイクのスピードメーターのようなドライバーにはハンドルも存在する。熱を帯びるドライバーのエネルギーを解放するように、赤嶺はハンドルを回した。
《アクセル!》
「さぁ…振り切るぜ!」
真っ赤な装甲と激しい熱を纏い、赤嶺甲は仮面ライダーへと変身した。その仮面ライダーはまるでバイクの化身のようで、同じバイクライダーのマッハとは違い、こちらは見るからに重戦士の出で立ちだ。
「あれがこの時代の仮面ライダーか…!」
「でもアナザーダブルとは見た目が違い過ぎます。あれはダブルじゃない…?」
「あんた、ダブルを知ってるの!?」
疑問を口に出す壮間、アリオス。それに答えを与えたのは、既に半分隠れていた矢澤にこだった。
「あれはダブルじゃないわよ。あの赤いのは……」
「仮面ライダーアクセルにゃ!」
「凛!それ私のセリフ!」
Aの単眼を持つ加速戦士、仮面ライダーアクセル。
彼女たちがわちゃわちゃやっている内に、なんだか肌寒さが薄れていることに気付く。戦いの中で加速していくエネルギーを、アクセルが熱として大気に放出しているのだ。
《スチーム!》
エンジンメモリをブレードに装填し、三つの機構のうち「蒸気」を選択。エンジンブレードから放出される高温の蒸気が、更に気温を上昇させる。
ウィンターの双剣が折られ、重い一撃が次々に刻まれる。だが、ウィンターは逃げることが出来ない。
ウィンターが体を吹雪にしようものなら、この蒸気に触れてたちまち溶けてしまうだろう。ウィンターの逃走手段は完全に封じられた。
「熱いっ…あたしの…あたしの雪が!何してくれんだクソがああぁぁッ!」
「相手が悪かったな。その程度の寒さでは、俺のエンジンは凍らない」
《アクセル!マキシマムドライブ!!》
もう一度ハンドルを回すと、最高潮に達した加速に急ブレーキがかかる。そうなると全てのエネルギーは一気に出力され、冬を掻き消す熱は足元の雪を溶かし尽くす。
もはやウィンターの攻撃は意味を成さない。動きが鈍ったウィンターに向け、アクセルが放つ必殺の回し蹴り「アクセルグランツァー」が炸裂した。
「絶望がお前のゴールだ」
積もった雪に倒れたウィンターが爆散。その姿は雪煙が隠したが、飛び出た水色のメモリは空中で破裂したのを確認する。
壮間が助けに入るまでも無く、決着は速攻でついた。
しかし、雪煙の奥で悪意は途絶えていないことを、誰もが感じていた。
赤い双眸が怪しく輝く。そして、今度は純粋な「風」が、雪煙を吹き飛ばす。
《ダブルゥ…》
「ああははははははっ!マジ最高!あたし目立ってる!最っ高に楽しいじゃん!」
感情の箍が外れたような笑いで現れたアナザーダブル。やはり既に誕生していた。未来の穂乃果を動かした事件の発端は、この時点だ。
「あの格好…まるでダブルみたい…!?」
「構うものか。もう一度倒す」
動揺する穂乃果だが、アクセルの方は躊躇なく戦闘を再開する。だが、すぐにさっきまでとは訳が違うことに気付く。
攻撃の精度は変わらないのに、威力は段違いで攻撃が防ぎきれない。その上、速度はウィンターを遥かに上回る。ただ暴れているだけで、アクセルには手が付けられない。
「マズい、俺が行きます!アリオスさんはμ’sの皆さんを───」
アナザーライダーの前で物語は減衰する。そのルールがある限り、アナザーライダーはジオウでしか倒せない。しかし、壮間はそこで初めてドライバーが消えていることを知る。
気付いて動きが止まった時には、竜巻が目の前に。
壮間の体は吹き飛ばされ、音ノ木坂の校舎に叩きつけられてしまった。
「あぁー……気持ちイイーっ!もうなんでもいーや!全部何もかも、あたしが吹き飛ばしてやる!なにその世界マジ爽快!あははは!
………違う。え、なにこれ。あたしこんなの知らない…いや、頭痛い…!やめて!あたしに入ってこないで!!いやああああああっっ!!」
まるで八つ裂き寸前。相対する二つの人格が、アナザーダブルの中で反発を続ける。脳が右と左に引っ張られるような苦痛に耐えきれず、アナザーダブルは荒れ狂いながらどこかへ飛んで行った。
運良く助かったが、ドライバーが行方不明の窮地は続行している。しかし、内心激しく平静を欠きながらも、壮間の頭は一つの可能性を示していた。
壮間は底抜けなほどお人好しではない。疑うべきは一人だ。
「あちゃ、ちょっと遅かったね」
「悪かったな赤嶺、別件で調べ事があった。凍ってなさそうで何よりだ」
壮間の脳裏に浮かんだ二人が、待ち合わせたように現れた。その懐疑の意識をアラシも壮間に向け返す。ヒヤリとした空気のせいで、心臓が縮まるみたいに苦しい。
「切風、あのドーパントは何者だ。まるでお前達のような容姿をしていた」
「…!てことは、アラシさんが…!?」
「聞いたか赤嶺。どうやら、俺よりそっちの奴の方が詳しそうだぞ」
アラシが投げたジクウドライバー、ライドウォッチが壮間の前に落ちる。そしてアラシが持って見せるのは、ダブルのプロトウォッチだ。
「やっぱりアラシさんが盗ったんですね。俺を拉致したのも…」
「俺に決まってんだろ。文句あるなら聞くぜ、未来の仮面ライダー」
「…!?自己紹介した覚えはないですけどね……仮面ライダーダブルさん」
「探偵舐めんなよ。まずこの状況で薄着で外出てる時点で現在の状況知らねぇで確定。ドル札しかねぇってんだから外国帰りかと思ったんだが、テメェが持ってたデバイスに4桁数字が入ってた。ダブルのマークが入ったコイツが『2009』だから年でほぼ間違いねぇ。一番先で『2018』、一番昔で『2005』、2018の奴はテメェが変身した姿のカタカナ顔面になってたから、大方テメェは2018年出身。他のは色んな時代の仮面ライダーってことか?」
2017年での天介も、ちょっとしたきっかけで壮間が未来人だと当ててみせた。だが彼らはもっと堅実に、外堀を埋めていくように真実に侵攻してくる。
「永斗がパッと見で何も分かんねぇデバイスってのもそうだ。しかも本棚に本が出てないってことは、
更に素性を考えると、未来から他の仮面ライダーの力を貰うってとこだろ。理由はさっきの偽ダブルか?脚に年代とダブルの文字があった。ナンバリングがあるってのは他もあるってことだからアイツもタイムスリップ絡みだ。さて、推理はこんくらいでいいだろ」
積み上げられた情報の山を、推測のハーケンで登り進める。それが探偵。その推理は恐るべき精度で当たっている。
「ちなみに推理の割合は僕が6割、アラシが4割くらいです」
「余計なこと言ってんじゃねぇ。で、実際のとこどうなんだ。答えろ」
「……あれはアナザーダブル。アイツを倒すために仮面ライダーダブルの力が必要です」
「わざわざダブルを探せって頼んだ辺り、ライダーの力は直接受け取らないといけねぇってことか。それで、何のためにヤツを倒したいんだ?」
「俺の仲間を二人、助けたいんです。一人はアナザーダブルを倒さなきゃ助けられない。もう一人は今の俺の力じゃ勝てない敵を倒さなきゃいけない。どっちもダブルの力が必要です。だから…ダブルの力を俺に下さい」
「……そうか。知ったこっちゃねぇ」
壮間の言葉を聞いたうえで、アラシは一切の情を感じさせず、その懇願を拒絶した。これまで出会った誰とも違う。今目の前にいる男の感覚は、先輩戦士というより立ちはだかる敵だ。
「テメェ、まだ何か隠してんだろ。具体的には力を渡すデメリットだ」
「隠してるつもりは無いですよ。その代償もちゃんと伝えた上で力を貰います」
「貰えなきゃテメェが困るからな。でも俺らがそいつを聞いてやる筋合いはねぇ。他の奴らがどうだったかは知らねぇが、俺は知らねぇ野郎に協力してやる気は皆無だ」
「…でも、俺がやるしかないんです。納得できないっていうなら…力ずくでやり遂げます。どんな手を使ったって…!」
「ゴミみてぇな威勢で抜かすな。力ずく?じゃあ今ここで殴り合いでもするか?俺は別に、テメェを殺したって何も思わねぇぞ」
向けられていた殺意が一気に濃くなり、壮間の体を走る恐怖が汗を押し出す。これまでの誰とも違う敵意。そして比べ物にならない暴威。
人間と会話しているように思えない。まるで獣と向き合ってるような異様な空気に鼓動が早まる。
「はいストップ。警察の前で殴り合い宣言は流石にマズいでしょ。ですよね赤嶺刑事?」
「決闘罪で現行犯逮捕だ」
「だってさアラシ。名実共に犯罪者になっていいわけ?」
「誰が犯罪者だ」
空気を断ち切ったのは永斗の軽い声。このギスギスに耐えかねたらしく、永斗は面倒くさそうに一つの提案をした。
「力ずくがお望みなら、こういうのはどう?互いのメンバーで10話に分けて五番勝負……」
「ざけんな。クソ展開しか見えねぇから没だ」
「じゃあこうしよう。先にあのアナザーダブルの正体を掴んだ方の勝ち。僕らが負けたらダブルの力を渡す。君らが負けたら諦めて未来に帰る。これでどうよ」
永斗が持ち掛けたのはいわば「探偵勝負」。
あちらは本職、言うまでもなく能力には差がある。勝てる気は全くしない。しかもこれを受けて負ければ、香奈とミカドを救えない。
でも、この切風アラシという男に譲歩を期待するだけ無意味。条件を取り付けられただけ幸運だ。壮間はもう、この試練を乗り越えるしかない。
「分かりました。約束は守ってくださいよ」
「心配しねぇでも嘘は嫌いだ。手加減もな」
______________
「どーしましょう……」
「しっかりしろ壮間!友を救うのだろう!今すぐアナザーダブルの正体を掴みに行くぞ!」
「でもアリオスさん。一体何をどうやって調べればいいのか…相手は探偵ですし…」
早くも壮間が弱気に。冬休み中の音ノ木坂に入れてもらい、廊下を歩きながらぶつぶつと頭を抱えている。いつも以上にお先真っ暗だ。
そんな壮間を興味深そうに見つめるのは、穂乃果、にこ、凛の3人。
「未来から来たって本当!?」
「2018年って9年後?すごいにゃ!やっぱり車が空飛んでたりするのかな?」
「たった9年でそんな変わるわけないでしょ。それよりアイドルの話よ!あんた、矢澤にこって知ってる?知ってるわよね!?」
思ったよりもグイグイくる3人。特に穂乃果は2015年で会った姿とかなり印象が違い、驚いた。写真で見てはいたが、実際に会うと未来よりも元気ハツラツ具合が強い。
その間に割り込み、アリオスは壮間と3人を引き離す。
「すまないが私たちは忙しい。先を越される前に行動をしなければいけないのでな。行くぞ、壮間」
「何よ。別にいいじゃない、どうせアラシたちに勝てっこなんてないんだから」
「なんだと?」
にこがそう毒づく。しかし、穂乃果と凛も概ね同意見という顔をしていた。
「確かに…アラシ君たちはすごい探偵です。これまでたくさんの事件を解決してきたし、世界を救ったこともありますし…」
「世界!?」
「永斗くんはもっとすごいにゃ!地球の本棚っていって、世界中のことを知ってる世界一頭のいい人なんだよ!」
「世界!!??」
「そうよ!いくら未来から来たっていっても、あんた達なんかが勝てる相手じゃないの!あんたの仲間のことは気の毒だけど、別の方法を探すことね!」
思ったよりスケールの大きい話が飛び出てきて、壮間が「世界…」と呟くだけの粗大ゴミと化してしまった。
「ひどいよにこちゃん!かわいそうだよ!」
「言い方っていうのがあるにゃ!」
「私が悪いっていうの!?そんなに言うなら、あんた達がアラシを説得しに行きなさいよ!」
「えぇー…あ、待って!アラシ君からメールだ!」
穂乃果の携帯がメールを受信。それを読んだ穂乃果は声を出して驚き、それを凛とにこにも見せる。
その内容に顔を見合わせて頷いた穂乃果と凛は、意気消沈した壮間の肩を叩いた。
「穂乃果さん…?」
「私たちもあなたを手伝います!一緒に犯人を見つけましょう!」
「みんなで一緒に打倒切風探偵事務所にゃ!」
穂乃果が持つ携帯に表示されていたのは、『力を貸してやれ3バカ』という文面。力の差を考慮しての、援軍の指令だった。
心強いかどうかは分からないが、人手が増えることは有難く、壮間は喜んでその手を取る。しかし、にこだけはそこに加わろうとしなかった。
「私は嫌よ」
「そんなこと言わないでよー!にこちゃんがいれば百人力だよ!」
「嫌ったら嫌。私たちはね、暇じゃないのよ。ラブライブ決勝大会の準備もしなきゃってのに、そんなことしてていいわけ?」
「……さっき雪遊びして怒られてなかったか?」
「うるっさいわね部外者のくせに!そもそもこんな時期に余計な事をさせるなんて、一応マネージャーの癖に何考えてんのよアイツ!」
「そんなに文句あるなら、アラシくんに直接言えばいいにゃ」
「言えばいいんでしょ!?いいわ、徹底講義してやるから!」
にこは強気な態度で電話をかける。繋がった途端に怒鳴り声の不平不満から始まり、そこからガミガミと口論開始。しかし間もなくにこの口数が減り始め、今度は顔を真っ赤にして噴火の如く罵詈雑言が。
携帯を壊す勢いで通話を切り、にこは一言。
「行くわよあんた達!あの最低脳筋男の鼻っ柱を折ってやるんだから!」
「急にやる気になったんですけど…」
「多分アラシ君と喧嘩したんじゃないかな?」
「今の一瞬で!?」
「にこちゃんはチョロいにゃ」
____________
「光栄に思いなさい!この、宇宙最強No1アイドルの矢澤にこが!あんた達の力になってあげるわ!」
「…頼もしいです」
「だったらもっと嬉しそうな顔をしなさい!死んでんのよ、顔が!」
鼻息を荒くするにこ。安心感があるかと聞かれれば確実に「否」である状況に、壮間はつい視線を逸らしてしまう。
「でも嬉しいです。俺たち二人よりも、皆さんの力を借りた方が強いに決まってますから」
「そうだよ!だって私たちは音ノ木坂探偵部!」
「アラシくんや永斗くんからも認められた、立派な探偵にゃ!」
「そうなんですか!?」
「これは幸運だぞ壮間!思っていたよりもずっと強力な助っ人だ、流石はμ’s!それで、私たちはまず何から始めればいい!?」
素人かと思いきや予想外の情報が飛び出て、絶望的状況から一気に歓喜へと急上昇する未来人組。目を輝かせて3人に指示を乞う。
しかし、3人の目が泳ぐ。というのも、彼女たちが探偵として活動してきたのは事実だが、それらのほとんどはアラシたちの指示のもと行ってきたものなのだ。
だが目の前には、自分たちに期待する一応後輩。頭を悩ませ、穂乃果が一つの言葉を捻りだす。
「現場百回!現場に行こう!」
というわけで、先程アナザーダブルと戦った場所に逆戻り。常識の無いアリオスは「なるほど…」と感動しているが、壮間は知っている。それは刑事の心がけで、刑事ドラマでよく聞く単語だということを。
「やっぱ大丈夫かなこの人たち……」
心配になりながらも、手掛かりを探す。先の戦闘で一部が溶けているものの、足場のほとんどは深く雪が積もったままであり、動くのにも一苦労だ。アリオスは既に寒さでキツそうだし。
「…何もないわよ穂乃果。どうすんのよ、あんなこと勝手に言っちゃって」
「でも私たちだって探偵部だよ!それに…友達を助けるって言ってたし、力になってあげたいんだ」
「凛もそう思うけど…なんで永斗くんは協力してあげないんだろう?アラシくんは…まぁ……いっつもすぐ喧嘩するし」
「うーん…でも、アラシ君は私たちに『手伝え』って言ったから。何か考えがあるんじゃないかな?私たちはそれを信じればいいと思うよ!」
「ほんと、穂乃果はあんな奴をよく信じられるわね。すぐ悪口言うしデリカシー無いし冷たいし超鈍感だし男として最悪よ最悪。まぁ…気持ちはわかるけど」
何やら喋っている3人を気にしながら、壮間が雪の中に何かを見つけた。
「これ……なんでしょう?」
見つけたものを穂乃果たちとも共有。
それは袋に包まれた飴玉。しかし見たことの無い袋だ。
「これの上に積もってた雪の量から考えて、多分落ちたのはさっきです。穂乃果さんたちはこれに見覚えは?」
「ないかな…ということは、これは犯人の落とし物ってこと…?」
恐らくウィンターを撃破し、変身者がウォッチを取り出した時に落ちたものだろう。ウィンターの影響でこの辺りを通った者がほぼいない以上、これは大きな手掛かりになる。
「これって…どこかで見たことが…
そうだ!ふっふっふ……この美少女探偵にこにーを崇めなさい!犯人がわかったわ!」
自称宇宙No1アイドル矢澤にこ、アリオスの羨望の目線とそれ以外の疑いの目線を受けながら、早くも勝利宣言を掲げた。
__________
「アラシにしては露骨だよねー」
「何がだ」
「色々。助っ人出したり色々だよ。でもなんであの3人?」
アラシと永斗も事務所に戻り、アナザーダブルの捜査を始める。
持ち得る情報はウィンター=アナザーダブルという事実のみ。だが前々からウィンターの正体を探っていたアラシにとって、この勝負は有利以外の何者でもない。
「決まってんだろ。比較的ポンコツを寄越しただけだ」
「大人げない…ってわけでもないか。わかんないなぁ。アラシは勝ちたいの?負けたいの?」
「全力で負かす。あの3バカもろともな。じゃねぇと意味がねぇだろ」
「……まぁ、そうだね」
アラシと永斗の中に渦巻く違和感は、仮面ライダージオウの存在によって実像となった。力を継承させる代償も、なんとなく予測できている。
だからこそ勝つ。未来と存在を賭けたこの戦いに。
「頼むぞ永斗」
「分かってる。さーて、検索を始めようか」
___________
壮間が見つけた飴玉について、にこは以下のように語った。
「これはスクールアイドル『AERO-Castle』のメンバーが配ってる特製キャンディーよ。ライブに来るファンの一部や身内に配られて、しかもやたら美味しいってことでファンの中では有名なの!」
「流石は矢澤にこ!μ’sの3年生にしてアイドル研究部部長!博識だ!」
「ふ…ふふん。あんた分かってるじゃない!名前は?」
「私はアリオス。未来のスクールアイドルを友に持つ者だ。貴女のことは友から聞いていたが、やはり素晴らしい人物だった。尊敬する!」
「やっぱり未来でも有名なのよ!この!にこにーは!それほどでもあるわ、もっと尊敬しなさい!」
アリオスの羨望が止まることを知らない。あと有名なのはにこというよりμ’sそのものなのだが、それは言わない方が良さそうだ。
「AERO-Castleかぁ…確かこの間の地区予選にも出てたよね」
「知ってるんですか、穂乃果さん」
「もちろん!ライブは見られなかったけど…一人凄い子がいたの覚えてるよ!」
「そうと決まれば出発だよ!そのエアロなんとかっていうスクールアイドルに殴り込みにゃ!」
というわけで一同は、AERO-Castleを擁する東範女学院に向かった。
とはいえ一般人では学校に入ることすら難しく、捜査どころではない。そこで穂乃果は警察である赤嶺に協力を要請した。
「超常犯罪捜査課巡査の赤嶺だ。事件解決のためこの学校の生徒に事情聴取を行う」
ウィンターの変身者を逮捕するためならばと、赤嶺は協力を快諾。無事に捜査を進めることが出来そうだ。
「俺は別の事件を追う。協力はここまでだ」
だが、赤嶺はそれ以上踏み込むことなく、壮間にそう伝えた。
「え…いいんですか?警察が民間人に捜査を任せても…」
「切風から『お前は手を出すな』と言われている。そもそも切風たちが犯人を追っている以上、俺は別の事件に向かうのが正義というものだ」
「そう…なんですか。いいなら有難いですけど…」
「仲間を助けたいと言ったな。ならば何故他人に許しを請うている。人の命か体裁、お前が守りたいのが前者ならばただ己の最善を貫けばいい。
ただし、ルールを破ることは巨大な責任が生じるのと同義。やるからにはそれら全てを零すことなく完遂しろ。それが正義だ」
走大とは違い、随分と「正義」の圧が強い男だった。警察で仮面ライダーといっても色々いるようだ。
しかし彼の言うことも最も。壮間は香奈やミカドを救うためにここに来たのだから、今はただそのことに集中するべきだ。この事件はあくまで通過点。勝って必ずダブルの力を手に入れ、アナザーダブルとアナザー電王を倒してみせる。
幸い、アラシと永斗はまだここを嗅ぎつけていないようだ。
追いつかれる前に早速、事情聴取開始。
「あ、そうですそうです。私です、その飴ちゃん作ったの」
文面では伝わりづらいが関西訛りが入った口調。AERO-Castleのメンバーの一人、二年生の
最も犯人に近いであろう彼女に、壮間は積極的に質問を投げる。
「これ見て何か分かります?」
「間違いなく私が作ったってのと…あ、そうだ。もしかして誰か舐めたりされました?」
「いえ…一応証拠品ですし」
「よかったー!実は今日の飴ちゃんは下剤混ぜたドッキリ仕様なんですよー。えらいことになる前で一安心です」
「鬼畜ですね。そんなもんファンに配ってるんですか」
「いえいえ!流石に身内だけですよ。今日はメンバーの皆だけ」
「…てことは!?」
その話を聞き、壮間は穂乃果やアリオスと協力して寮のゴミ袋を調べた。話によるとゴミは昨日回収されており、今ゴミ捨て場のある袋は今日のゴミだけ。
調べた結果、証拠品と同じ飴の袋が3枚あった。
AERO-Castleのメンバーは5人。飴を配った国見を除けば、飴の袋は合計4枚あるはず。
つまり飴を食べなかった1人が、現場で飴を落とした。それが犯人だ。
「どれがどこのゴミ箱だったのか分かれば良かったんですけど…」
「でも大きな前進だよ!この調子で行こう!」
「穂乃果の言う通りよ。このままアラシが来る前に解決するわよ!」
犯人はAERO-Castleの中に居る。劇物飴ということで余分は作らなかったらしく、もう飴は手元に無いらしい。国見の偽装工作だとしても、誰か1人だけが飴を食べてないという前提なのは無理がある。
よって犯人は4分の1、一気に狭まった。
その捜査状況を立ち聞きし、焦るのはウィンターメモリを使った張本人である鳩原だ。
「どうしよう……このままじゃバレる…!あたしは嫌って言ったのに、なんで…!」
どう言い繕った所で、感情に任せメモリを使い、人を殺めさえしたのは事実。なんとか誤魔化さなければ何もかもがおしまいだ。
言われてみれば国見が飴を皆に配っていた気がする。メモリのせいで気が動転していたせいか覚えが無いが、そのままポケットに仕舞って現場に落したという事だ。最悪すぎる。
だがまだ特定はされていない。今はとにかく話を合わせるだけ。
大丈夫。きっと
__________
「忙しいところすいません。ちょっと話を聞かせてもらっていいですか?」
AERO-Castleのメンバーを呼び、壮間が話を切りだした。容疑者は4人、早くも詰めに行くつもりだ。
「忙しい…って、それ皮肉ですかぁ?」
「やめなよナオミ、失礼じゃない」
「だって冷羅先輩!これみよがしにμ’sなんて連れてきちゃってさ!嫌味ですよそうに決まってますよ!いいですねぇ、人気者は楽しそうで!」
一緒にいる穂乃果たちに噛み付く一年生、
東範と音ノ木坂は学校も近く、AERO-Castleがμ’sに人気を奪われたというのはあながち間違いではない。実際、先日のラブライブ地区予選でAERO-Castleは敗退している。
「…アラシくんがいなくてよかったにゃ」
「絶対揉めてたわね。穂乃果も気にしなくていいの、あんなの逆恨みなんだから」
「でも……あ、来たみたい。最後の1人!」
遅れてやって来たのは二年生の
「すいません……おそくなっちゃって!」
「よし…これでメンバーが全員揃いましたね。まず最初に確認が…」
「でさぁ、あんた誰なんです?偉そうに仕切っちゃってますけど」
「誰…って言われると…」
瀧に言われ、壮間の言葉が止まる。警察じゃないのは明らかだし、壮間が仕切っているのが不自然なのはまぁ分かることだ。
言い淀んでいる壮間の代わりに声を上げたのは、穂乃果だった。
「探偵です!」
「…高坂穂乃果さんには聞いてないんですけど」
「壮間さんは私たちと同じ、事件解決に向けて頑張る探偵です!だから協力してください、お願いします!」
一緒に頑張りましょう!と、犯人かもしれない瀧に訴えかける穂乃果。その勢いに瀧の反抗的態度も少し勢いを失ってしまった。
絶対に容疑者に向ける態度ではないが、こういう愚直さが彼女の優れた所なのだと理解できる。そう思うと、アラシはしっかりと助っ人を寄越してくれていたのだ。
「しっかりしなさい、アラシに勝つんでしょ?今だけはあんたも、音ノ木坂探偵部の一員よ」
「俺が探偵……にこさん、ありがとうございます。俺も頑張りますよ、皆さんの足を引っ張らないように」
「敬語…!にこ『さん』…!?くぅ~…久々の快感っ…!」
先輩禁止のμ’sでは満たされない何かが、アリオスと壮間の尊敬で満ち満ちていくのを感じる。にこにとっては先輩マウントは動力源に等しく、あからさまに機嫌が良くなっていた。
「さぁ壮間!早速事情聴取よ!何もかも明るみに出しちゃいなさい!」
「え…あ、はい!まずこの飴、皆さんこれを貰いましたよね?」
壮間が出した飴を見て、メンバー全員が頷く。第一関門は突破だ。
「吹雪を操る怪物がこれを落としていきました。つまりあなた達の中に怪物がいます。この飴をどうしたのか、1人ずつ聞かせてください」
できるだけ鋭く、壮間は4人の容疑者たちにそう言った。
犯人がこの中にいるという事実は暫くのパニックを起こしたが、その後なんとか証言の獲得に成功する。
「その飴…食べたよ。袋も自分の部屋に捨てた」
「私も……同じ」
「わたしも食べましたよー。でもこれ食べたらなんかお腹痛くなってぇ…舞雨先輩なんか入れたんじゃないんですか?」
「下剤入れました」
舌を出して謝る国見に全員絶句。同学年の小杉だけは彼女の性格をよく知ってるからか、特に驚くわけでも無く「やっぱり…」と頭を抱えていた。
「円佳はどう?食べたよね」
「冷羅…!?あっ…うん。食べた食べた!すっごいお腹痛くなってマジウケる!みたいな…?」
「鳩原円佳さん…ですよね。袋は学生寮に捨てましたか?」
「う…うん。もちろん」
壮間の質問に鳩原は怯えながらそう答えた。
飴を配った国見を除き、それぞれの証言はほとんど同じになった。
でもこれで誰かが嘘をついていることが確定。そこからもう一つの情報で、容疑者の絞り込みを図る。
「アリバイを確認させてください。昼頃、警察から外に出ないように言われてた時間、全員がアリバイを主張できますか?」
昼頃は壮間がウィンター・ドーパントと戦闘している。幸い、その時間は赤嶺によって外出自粛令が出されていた時間だ。アリバイの有無がハッキリするはず。
しかし、そんな壮間の思惑とは反対に、4人はどうにも言いづらそうにしていた。
「それが…実はちょいちょい外出てたんですわ。鳩原センパイは買い出しに行ってたりもしましたし…」
「というか、舞雨先輩の下剤飴のせいでみーんな腹痛起こしてましたからね。今思うと頻繁に誰かしらトイレ行ってたんじゃないですかぁ?」
「昼頃のアリバイ…は全員言えないですね。もう少し詳しい時間が分かれば……」
国見の衝撃発言。からの瀧、小杉の発言でアリバイ作戦は崩れ去った。そもそも急に出された外出自粛令など誰もが律儀に守るわけがない。
壮間たちがタイムジャンプした時点の時刻は確認していなかったし、その後すぐに気絶したせいで推測もしにくいのが痛い。
「それなら…さっきはどうですか!?一時間くらい前、皆さんはどこで何を?」
負けじと壮間は、二度目のウィンター・ドーパントとの遭遇を攻める。壮間が最初に視線を向けたのは、さっき遅れてきた小杉涙愛だ。それは先ほどまで不在で、アリバイが存在しないことを示している。
「私は…お仕事の話を。どうしても外せなくて…一時間前もいなかったです」
「仕事?」
「涙愛先輩は声優さんの卵なんですよ。最近になってお仕事貰えるようになったとかなんとか」
「声優学校行ってるからあんまり部には顔出さないんだけどね。でもルアはよく練習してくれてたし、地区予選でも頑張ってくれたよ。あと、自分は一時間前は自室で勉強してたよ。多分誰も見てないと思うね」
「わたしは皆で集まってた部屋にずーっといましたよ?舞雨先輩がそこで寝てたの見てましたし」
「飴作るのに徹夜でして…奈桜美ちゃんは寝た時も起きた時もいましたよ。あと寝てたっていっても、うたた寝ってやつでちょっとです。そんで、円佳さんはどうです?」
「えっ……トイレ…かな!うん!舞雨のせいで腹痛ヤバくて!」
瀧奈桜美と国見舞雨が一緒の部屋にいたということは、瀧のアリバイは保証されているということ。国見が寝てたとはいえ、うたた寝ということは睡眠薬ってことも無いだろう。瀧は容疑者から外せそうだ。
残り3人のアリバイを徹底的に洗えば、必ずボロが出るはず。
「あーっ!そうでしたそうでした。忘れてました大事なこと!」
そう思った壮間だったが、国見が急に大声を出して思考が中断される。
「何ですか?」
「飴ですけどね、実はもう一人配ってたんですよ。引きこもりっぱなしは気が滅入るから、散歩してた時に知り合いにバッタリ会いまして」
滅茶苦茶に重要な情報でのけ反りそうになる壮間。これが本当なら、今すぐその人物に確認する必要がある。下手すれば推理を一からやり直し、そんなことをしている間にアラシたちが追いついてしまう。
「誰ですか!?その、飴を渡したもう一人っていうのは…!」
「大阪にいた頃の友達で、今は山梨でスクールアイドルやってる子です。名前は……
「ナギちゃん!?」
「知ってるんですか穂乃果さん?」
「うん!前にイベントで会ってからのアイドル友達なんだ!」
「場所も近いし、よく会うんだよ!でも今こっちにいるなんてビックリにゃ!」
新たに浮上した容疑者は、山梨のアイドル「火兎ナギ」。
穂乃果たちの知り合いを疑うのは気が引けるが、そうも言ってはいられない。
「そのナギさんの連絡先って分かりますか?今すぐ話を聞かないと!」
「あ…それなら私が。実はファンで…」
そう言って手を挙げたのはμ’sの3人ではなく、容疑者の1人である小杉だった。
____________
火兎ナギ。国見と親交がある関係上、鳩原も顔見知りの人物だ。
しかし、彼女に注意が向くというのは鳩原にとって最悪の展開でしかない。
「ナギは…さっき会った……!?それが知られたらあたしは…!」
今日二度目にウィンター・ドーパントとして人を襲い、アナザーダブルに変身していた時。正気を取り戻して撤退した直後に、学校への帰り道で火兎ナギと遭遇してしまったのだ。
その時間はお手洗いに行っていることになっている。それが嘘だと判明すれば、犯人だとバレたも同然。
───黙らせればいいじゃん
自分の中で誰かが囁く。
もうやりたくないとか罪悪感の問題ではない。やらなければ、自分自身が終わるだけ。
怪物になった人間は、後には引けない。
_____________
留守はアリオスに任せ、壮間はμ’sの3人と行動開始。
小杉の仲介で、その後すぐに火兎ナギと会えることになった。
「ここです…すいません、私はちょっと仕事のお話が」
「いえ、ありがとうございます」
何故か指定された場所はファストフード店。小杉が去っても火兎ナギが一向に現れないため、適当に注文し、壮間たちは向かいの席を空けて着席。
「話なら電話でよかったんじゃないですか?」
「ナギちゃんが会いたいって。私もナギちゃんに会いたいし!」
「穂乃果、遊びに来たんじゃないのよ?」
「わかってるよー」
本場のハンバーガーを食べたばかりの壮間。流石に見劣りしてしまうため、仕方なくポテトをかじりながらこの待ち時間を思考で潰す。すると、一つ言っておくべき重要事項を思い出した。
「そういえば…皆さん!俺にも一つありました、この事件に関する大きい手掛かりが!」
「本当なんでしょうね?アラシに勝てるくらいじゃないと話にならないわよ」
「にこちゃんイジワルだよ!」
「そうにゃ。一人じゃアラシくんに勝てないからって、壮間さんに当たるのはよくないよー」
「いや、大丈夫です。ちゃんとそのくらい大事な情報ですから。
今回の犯人……雪の怪人=アナザーダブルとは限りません」
3人の頭上に疑問符が無数に見えた気がした。
実際にウィンターがアナザーダブルに変身したのを目の当たりにしたのだから仕方が無いが、壮間が言っているのは少し違う。
「俺は未来で聞きました。真犯人の狙いはスクールアイドルを暴走させることで、それを裏から操ってるらしいです。確かに信頼できる情報です」
「そっか、わかったにゃ!じゃあアラシくんと永斗くんは今の事件の犯人を探してるけど、もし先を越されてもそれは真犯人じゃないってことだよね!」
これが、未来から来た壮間しか持ち得ない最大のアドバンテージ。未来の穂乃果だけが知るこの情報を知らなければ、アナザーダブルに辿り着くことは出来ないのだ。
「つまり私たちは捕まえた犯人からこっそり真犯人を聞き出して、それをアラシに見せつければ勝ちってわけね…めちゃくちゃに有利じゃない!苦節半年……あの口悪に振り回され、デカい図体で上から見下ろされる日々ももう終わり!ついに年貢を納めてもらうわよ!」
「やや。血気ご盛んですね、矢澤せんぱいっ!」
ドヤ顔でイマジナリーアラシを見下していたにこの額を襲う、二発同時の衝撃。ダブルデコピンの痛みから顔を上げたにこの眼前には、煽るようなピースサインが。
人懐っこい笑顔かつ、人を馬鹿にするようなウインク&ピース。街ですれ違ってもアイドルかと思ってしまうような、分かりやすい可愛らしさと魅力を帯びた少女がそこにいた。
「ナギちゃん!」
「穂乃果ちゃーん!やっほ、呼ばれて来ちゃったよ!地区予選もおめでとう!A-RISE倒しちゃうなんてすごいじゃん!」
「凛も知ってるよ!ナギちゃんも地区予選突破したんだよね!これで決勝大会で会えるにゃ!」
「そうだね。絶対負けてあげないから覚悟しといてよ!
ややっ、そっちの男の子!話は聞いてるよ。どうも!ぴょぴょんと登場、火兎ナギです!ぴーすっ☆」
アイドルらしさの圧が強い少女だ。今まで会った誰よりも「可愛さ」を装備して殺しに来ている、そんな印象を受ける。というか壮間はなんだかんだ女性免疫は無いせいか、顔を近づけられジロジロと観察され、思わず目を逸らしてしまった。
「かわいい!ね、ちゃんとこっち見てよ!ほらほらっ!」
「すいません……それで話、いいですか…?」
「もちろん。そのために来たのはわかってるよ」
他の容疑者同様、壮間はナギに証拠品の飴を見せる。
「これ、貰いましたよね?」
「舞雨ちゃんに昼くらいに会ってね」
「それ…食べました?」
「ううん。あの子がいたずらする時、顔に出るんだ。だから絶対変なモノ入ってるって思って、その辺にポイって捨てちゃった☆」
「ポイ捨てはよくないよ!」
「ごめんごめーん。もう、穂乃果ちゃんは真面目なんだから。
あ、そういえばぁ……」
「どうしました?」
「んー、その前にハンバーガー追加してきていいかな?あとシェイクおかわり!」
気付けば机のハンバーガーが全滅していた。あと壮間のポテトも。主にナギと穂乃果が元凶である。アイドルだが食生活のあれこれは気にしないのだろうか。
穂乃果と凛も追加のバーガーを欲しがり、ナギが代表して買いに行った。
「…よく食べますね」
「そうかな?」
「普通だよー。凛はラーメンならもっと食べれるにゃ!」
「あんた達ねぇ…アイドルの自覚が無さすぎ!特に穂乃果!あんたまたダイエットしたいの!?」
「くっ…にこちゃん…その話はやめてぇ…!」
穂乃果が耳を塞いで現実逃避しようとしたその時、塞いだ手を貫通して複数の悲鳴が店内に響いた。不自然に吹き抜けた嫌な風が、その正体を見せずとも知らせていた。
「っ…ナギさん!?」
荒れた店のカウンターの隅で、アナザーダブルがナギの首を掴んで壁に押し付けていた。アナザーダブル襲来からわずかだが、既にナギの体は痣だらけ。体には幾つもの風の切り傷が。
標的は明らかにナギだ。しかも、確実に殺そうとしている。
「ナギちゃん!」
「クソっ……その人を放せ!!」
壮間がジクウドライバーを装着し、臨戦態勢に移行。
しかしアナザーダブルは壮間でも分かる逃げ腰。ウィンターの時とは違い戦う意思はさほど見えず、その読み通りナギを放して逃げ出してしまった。
追うよりもまずはナギの容態だ。と言っても、壮間に出来ることは救急車を呼ぶことくらい。
「大丈夫!?しっかりしてナギちゃん!ナギちゃん!」
必死に呼びかける穂乃果たちだが、気絶したまま目を開けないナギ。
息がある事だけが唯一の救いだ。なんとしてでも救わないと───
(俺、今何を思った…!?)
壮間の頭を過ぎた思考が、内から嫌悪感を呼び覚ます。
それを掻き消すようにサイレンが近づく。救急車が到着したようだ。
余計なことは考えない。壮間はただ、ナギの無事を祈った。
____________
火兎ナギが搬送されてから数分。
救急車は謎の怪人───恐らくアナザーダブルに襲撃され、火兎ナギは行方不明。車両に乗っていた医師及び運転手は全員死亡した。
「クソ……なんでこうなったんだよ…!」
疑問は愚問に等しい。仮にも殺人事件を追っているのだから、死人が出てもおかしくはない。
それが赤嶺が言っていた「責任」。
探偵として悪を追うということは、そう言うことだ。
壮間が関わって、誰かが傷つく度に思い出す。
バッドエンドの足音が近づく。惨劇が実像に変わりつつあるのを感じた。
その実感は、壮間に複雑な焦燥をもたらす。
___________
「───なるほど」
『検索』を終えた永斗が現実世界に戻ってくる。
電話の先にいるアラシも、永斗の検索結果を聞いて確信したようだ。
「決まりだな、決めに行くぞ永斗。
犯人はスクールアイドルAERO-Castleの鳩原円佳だ。だが、真犯人は別にいる」
方向は違えど、二組の探偵はどちらも同じ場所に辿り着いた。
真実まで残り半歩。それを先に踏み出した方が、未来を決定する。
事件捜査展開あるある、名前が増えて分かりにくい。
というわけでまとめます。
赤嶺甲が仮面ライダーアクセル。火兎ナギがオリジナルライバル枠。この二人がラブダブルの(ちょっと先の)レギュラーです。あとは全員今回のみ登場の事件関係者たちです。
次回でダブル×ラブライブ編の前半が終わりです。知らないキャラが多いし壮間地味だしでごちゃついて来ましたが、頑張って次回で巻き返します。
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