仮面ライダージオウ~Crossover Stories~ 作:壱肆陸
「よぅ、お前だけでも生き残ってくれてうれしいぜ。011」
街の片隅にある使われていない倉庫。ガイストは嬉しそうにそこに足を踏み入れる。
その瞬間、倉庫の奥から彫刻刀がガイストに飛来した。
「挨拶にしちゃ乱暴じゃないか。もしかして鑑賞会の邪魔をしたか?そりゃ悪いことをした」
「002…いや、ガイスト。勝手に他人のアトリエに踏み込むなど、実に、相変わらず、理解が足りない奴だ」
彫刻刀はガイストの指で受け止められ、奥から一人の痩せこけた男が現れる。その男はうんざりした様子で姿を変えた。仮面ライダードライブが倒し損ねた、ロイミュード011だ。
「まぁ、いい。ところで、後ろのソレは、何だ?」
「あぁそうだった、コイツの紹介に来たんだった。俺たちの新しい家族だ」
ガイストの後ろに隠れていたのは、中学生から高校生くらいの少年。少年は011を前に、慣れない様子で口を開き、声を出した。
「……トーヤ…」
「それは『名前』か?新たな進化態、ということか」
「いや、これは誕生日プレゼントで俺が付けた。いい名前だろ?」
「なるほど、それは道理だ。やはり、お前は、理解が足りてない。
不愉快だ。その『半端者』、二度と、俺の前に見せるな」
011は少年―――トーヤに指の銃口を向けた。脅しではなく、本気で殺意があったのはガイストにも伝わっている。だがガイストは011の手を下ろさせ、諭すように言葉をかける。
「そう言ってやるな。いずれコイツは、俺たちロイミュードの希望となる」
「妄言は、聞き飽きた。それよりも、他の奴らの進化は、まだか。
すぐにでも『約束の数』を集め、俺は、東京に置いてきた作品たちを迎えに、行かねばならない…」
「『進化態プログラム』の適応に時間がかかっている奴らも多い。でもすぐに俺たちに追いつくさ。気長に待とうぜ、なぁ
ガイストはトーヤを後ろに下げ、倉庫に飾られた彼の『作品』に目をやる。
それは悲痛の表情を浮かべた、少女たちの彫像だった。
_________
木組みの街に赴任した警察官、栗夢走大。彼の正体は機械生命体ロイミュードと戦う、仮面ライダードライブだった。そんな彼の正体を目撃してしまったチノは、戦いの後に交番まで連行されていた。
「私、捕まるんですか…!?走大さんの秘密、見ちゃったから口封じに…!」
「発想がマッドだな女子中学生。そう身構えなくてもいいよ、ただ見られたからには放置ってわけにもいかないから」
警戒は解かないままのチノは、交番の奥に連れ込まれる。
生活感が見える部屋で、交番というより駐在所が正しいか。走大はここで生活をしているらしく、私物も多い。私物が多いというか、部屋中ケースに入った高そうなミニカーだらけで交番を私物化しているのが分かりやすい。
「交番……?」
「コレクターの性なんだから仕方ないだろっ!ほらチノちゃん、こっち」
部屋の更に奥に、下に続く階段が。
そこを降りるた先のゲートをくぐると、狭い交番からは考えられない広さのメカニックな空間が広がっていた。
「ここは…秘密基地ですか…!」
「そ、ドライブピットってんだ。にしても重加速の中で動けてるの変だとは思ったけど、やっぱりスパイクの奴が勝手やってたんだな」
さっき011に襲われた時、重加速の中でもチノが動けたのは「ファンキースパイク」というシフトカーがチノのポケットに入り込んでいたかららしい。シフトカーにもそれぞれ性格があり、スパイクは気分次第でフラフラして困っていると走大がぼやいていた。
そんなスパイクは「ジャスティスハンター」というパトカーのシフトカーの見張りの下、小さな檻に閉じ込められている。
走大はスパイクの檻を軽く叩くと、ドライブピットの中央にある赤い車に手を乗せ、チノに視線を向けた。
「よし、本題に移ろうか。君はうっかり俺たちの戦いを見ちゃったワケだけど…」
「そうです!あのロボットや遅くなったのはなんなんですか!走大さんが変身したのは一体…」
「Be cool、それを話すためにここを明かしたんだ。まず約束だけど、ここで聞いたことは他言無用で頼むぜ」
一度口元に指を立てると、走大はチノに彼の秘密を明かした。
ロイミュードの事、仮面ライダードライブの事、つい最近ロイミュードがこの街に拠点を移した事。一片でも知られたからには、全て話すのが礼儀だ。
「信じられません…この街にあんな怪物が100体以上いるなんて…それに、あのロイミュードはシャロさんを狙ってました!それに、姿を真似れるなら街のみんなが危ないです!早くこのことを知らせないと……!」
「いや、それはダメだ」
怯えて焦るチノ。だが、その口から出るのは自分より他人の心配だ。しかし、走大は即座に彼女の言葉を否定した。
「なんでですか!?急がないと、ロイミュードが暴れだしてしまったら…」
「他言無用って言ったろ?奴らにとっても人間は有用。この街から皆で脱走でもしない限り、無暗に襲ったりしない。それより一番恐れるべきなのは、『ロイミュードの事を知られて疑心暗鬼に駆られる』ことなんだ」
それを聞いて、チノは面食らった表情を見せた。
人間の姿も記憶も真似られる怪物。そんなのを知ってしまえば、周りを疑わずになんていられない。
隣にいる彼がロイミュードかもしれない。そんな考えが波及し、街が滅茶苦茶になるには時間はかからないだろう。そんなものを、とても平和なんて呼べない。
「ごめんな、厳しいこと言っちゃって」
「…いえ、私が浅かったです」
そうなると、今度は悔しくて仕方がない。
チノはこの街で育った。この街が好きだ。ココアが、リゼが、シャロが、千夜が、マヤが、メグが、この街に生きるみんなが大好きだ。
だからこそ、木組みの街の危機に自分は何もできないのが、その小さな体には収まりきらないほど、悔しいのだ。
「走大さんは…すごいです。仮面ライダーになれて。戦えて。みんなを守る、正義のヒーローですね」
「正義のヒーロー…か」
悔し紛れと嫉妬と憧れ、そんな感情が混じった言葉だった。
しかし、走大はその賛辞を受け取りたくない。そんな様子だった。
「また言葉を返すけど、俺は…正義のヒーローには成れない。成っちゃいけないんだ」
その言葉の真意が分からないまま、全てがひっくり返ったその日は終わった。
______
仮面ライダードライブとロイミュードの事は、口外してはいけない。
その言いつけは守るのだが、あの衝撃的な出来事を忘れろと言われてもそれは無理と言うものだ。
チノはどうしても不安で、ついシャロの働くフルール・ド・ラパンまでやって来てしまった。
「珍しいわね、チノちゃんが一人でウチ来るなんて。ラビットハウスはどうしたの?」
「いえ、ちょっと…えっと…紅茶の気分だったんです!
お店は……ココアさんに任せてきました…」
「本当に珍しいわね!それ大丈夫なのっ!?」
シャロに言われて今思うと、早まった判断な気がしてならない。
ココアは揚々と「お姉ちゃんに任せなさーい!」と言っていたけど、最悪帰ったら店が爆発しているかもしれない。
流石にないと思うが、こんな冗談が少しでも現実味を帯びるのだから、あの自称姉は凄まじい。
「そ…それよりシャロさん。最近、少し物騒と聞きます。なにか…んーっと…不審者が出たり…って」
「そうなの?まぁ確かに。変な事と言えば、昨日はお店で体が急に重くなったけど…あれ何だったの…?」
チノが思わず顔に出る程度にドキッとしてしまう。
昨日、ロイミュードを目撃したのはチノだけ。重加速の当事者たちは、あの一件を何かの怪奇現象だと騒ぎ立てただけだった。
「と…とにかく。シャロさんはお嬢様っぽいから、特に気を付けなきゃダメですっ!」
「お…お嬢様っぽい…?」
「あんまり外も出ちゃダメです!なんならウチに泊まってください!バイトもお休みしてください!給料なら私が出しますから!」
「何もしなくてお給料が…ってダメよ!
チノちゃんどうしちゃったの。心配してくれるの嬉しいけど、今日のチノちゃんちょっと変よ?」
やはりダメだ。ロイミュード011がシャロを狙っていたのは明白なのに、それを伝えようとしても危機感の温度差が埋まらない。
シャロを一刻も早く保護しなければいけない。いっそ言いつけを破って、シャロだけにロイミュードの事を話すべきなんじゃないだろうか。というか、この期に及んで走大はどこで何を……
(走大さん……!?)
いた。普通にいた。
いや、チノはすぐにそれを撤回した。普通では無かった。
チノがふと窓に目を向けると、その先にサングラスと帽子で変装した姿の走大が隠れていた。アンパンと牛乳瓶に入った水を持って、じっとこちらを観察している。張り込みのつもりだろうか。
走大もチノに気付いているらしく、すごい圧で「言っちゃダメ!」とジェスチャーをしてくる。というか、そこまでするなら店に入ってくればいいのに。
「…チノちゃんの言う通り、気を付けるわね。特にストーカーとか」
「え…あ、お願いします」
シャロも走大に気付いたようで、早速ストーカー認定されたようだ。あの格好なら無理もない。
何だか予想しなかった方向で、シャロに危機感を持たせることには成功した。
_______
「チノちゃん言ってないだろうな…!シャロちゃん無事でよかったけど…」
ストーカー認定されているとも知らず、警戒心の高まったシャロの観察を続ける走大。しかし、しっかりと監視しながらも違和感を覚えていた。
「遅い…011がもう襲いに来てもおかしくないはずなのに…」
011が東京で起こした事件は、女子高生連続誘拐事件。その被害者は18人にも上る。そして捜査の末に見つけた奴のアジトからは、被害者たちの「彫像」が発見された。驚くことにその彫像からは脳波が検出され、彫像の正体は「生きたままの人間」であることが判明した。
011は物質の材質を変化させる能力を持つ。その力を使い、人間を彫像に変えていたのだ。事件は011の撃破で終わったが、コアは破壊出来なかったため、その彫像は未だ警察が厳重に保管している。
コピー元の人間は未判明なままだが、この事件を経て011の癖の強い性格は理解していた。彼は芸術家気質の精神的潔癖症。獲物を取り逃がしたとなれば、すぐにでも奪還しに現れるはずなのだが…
「…何か見落としてる気がする。致命的な何かを…」
かつて共に戦った「ベルト」が、こんな事を言っていた。
『ロイミュードの真の恐ろしさは『進化』だ。それを可能にするプログラムは、ある街に隠してある。それに気づかれる前に、私達でロイミュードを殲滅するんだ』
しかし、走大は彼の期待を裏切り、最後の戦いまでロイミュードのコアを破壊できる「赤いドライブ」に成ることは出来なかった。その結果、木組みの街にまで危険が及んでしまった。
そもそも「進化」とは何だ。ただ人間の悪意をなぞれば辿り着くものなのか、学んだ感情を満たせばいいのか。そうなると011の求める感情は「芸術欲」ではないのか。
「…俺が止めてやる。俺一人でも…絶対に」
まずシャロを襲いに来ない理由が知りたい。そのためには、こんなところで監視しているより店に入るのが手っ取り早いのだが…
「……もうちょっと観察してから入ろう。そうしよう」
栗夢走大 24歳。交際経験無し。女性への免疫無し。
この男、フルールに一度入ったっきり、衣装の刺激が強くて店に入れないのである。
______
今日の捜査が終了。情けないことに、走大はフルールに入ることが出来なかったが、シャロが襲われることも無かった。
しかし、その間にまた一人が行方不明になってしまった。
美少女、働いている、18歳以下、条件は一致している。ほぼ間違いなく011の犯行だ。
「…クソっ……!」
被害にあったのは
この街で攫われたのは、レストランで働いていた
「011の性格を見誤った…これが焦りすぎた結果か。でも…急がなきゃダメなんだ。ベルトさんが愛したこの街を、今度こそ俺が……!」
周りに何も見えない、真っ暗な道。
その中心にただ一人。目的地さえも分からない。その先に一つだけ光り輝くのが「正義」。
でも、それを追ってしまったら最後だ。その光に当てられれば道を間違っても気付くことは無く、今度は眩しさで何も見えなくなり、果てには身を焦がす。それが戦うということだ。警察として、仮面ライダーとして、そうにだけはなってはいけない。
だから、走大は正義を名乗らない。
今の走大は、真っ暗な道で一歩も動けていない。正義の光から目を背け、踏み外す恐怖と動けないことの焦燥に心が蝕まれていく。
走大が戦ってこれたのは、彼が導いてくれたから。
彼を助け、支え、共に戦った「ベルト」は、もう居ない。
「…お疲れ様です」
その声と香ばしい匂いで、走大が顔を上げた。
「チノちゃん…と、コーヒー?」
走大の言葉の通り、ドライブピットにいつの間にか訪れていたチノが、走大の顔の前にコーヒーを運んでいた。ここがラビットハウスかと錯覚してしまいそうな空気だ。
「…いや。なんでチノちゃんが?あ、そういえば昼前に…」
「シャロさんには内緒のままです」
「あそう、てっきりバラした事を相談しに来たのかと…じゃあ猶更なんでここに?」
「この状況でわかりませんか?私はただ、走大さんにコーヒーを淹れに来たんです。お父さんからコーヒーメーカーを借りてきました」
いつもの起伏の少ない表情だが、ドヤ顔しているのは分かった。
しかし、それを聞いても顔に疑問符を浮かべている走大に、やれやれとチノが息を吐き出す。
「走大さんが凄いのは私にもわかります。でも、無理してるのだってわかりますよ。さっきもずっと考えこんでて、心配するのも当然です」
「心配……か…」
「走大さんは街のために戦ってくれます。走大さんは否定したけど、私にとっては正義のヒーローなんですっ。だから…私も力になりたいんです」
だから走大を元気づけるため、コーヒーを淹れた。走大はようやくその事を理解し、顔を伏せて「あぁ…」と声を漏らした。
再び顔を上げた走大は、緊張の解けた表情だった。
「力になりたい」、その一言で途端に体が軽くなった気がした。
「チノよ。この男はコーヒーが苦手なのではなかったか?」
「あ…そうでした!すいません走大さん…」
「別に嫌いなわけじゃないんだ。ただ、一人でちゃんとしなきゃって思うと…どうも飲む気になれなくてさ。というか今の腹話術?えらくダンディーだったけど」
そう言う走大の表情は、昨日サボっていた時よりも柔らかかった。
ずっと気を張っていた。この街に来てからずっと、一人で戦うしかないと思っていた。それがどうしても怖かった。
「やはり君は一人じゃ何もできない」って彼が見たら笑うだろうか。
いいさ、それでも構わない。一人じゃないって知るだけでこんなにも軽くなるなら、俺はもっと速く走れる。
「…って、それ何?」
「あっ…これはフルールのチラシです。お店で貰ったのをポケットに入れたままでした」
走大はチノのポケットからはみ出る紙切れを指さし、それを広げて見せてもらった。「心も体も癒します」がキャッチコピーのフルール・ド・ラパンのチラシだ。
「やっぱどう考えてもいかがわしいよな…入りづらいったらない。裏面には店員の顔写真と名前付きだし、絶対確信犯だよ取り締まってやろうか。あ、でもこの名前のとこ、これじゃ……」
チラシを見て、何かに気付く。
その瞬間。走大の記憶がパズルのピースのように意識を飛び交い、組み上げられていく。
『011が狙うのは働いている少女』
『011はシャロに興味を無くした』
『この街で攫われた4人の少女』
『進化に必要な感情』
『理解が足りていない』
『コレクターの性なんだから仕方ないだろっ!』
「繋がった…!」
チノのお陰だ。力を抜いて視野が広がったからこそ辿り着けた真実。
そうなると、011を捕えるには少し情報が必要だ。だが、011討伐までの道筋はほぼ見えた。
次に走大が掴んだのはチノの手。この作戦を成功させるには、彼女の力が必要不可欠だ。だから、走大は新しい「仲間」に誠心誠意の言葉を投げかける。
「頼みがあるんだ…
______
翌日。
走大の頼み通り、チノはチラシを持って通りに立っていた。ただし、若干普段より可愛らしい姿で。
「…これ本当に必要なんでしょうか…?」
ラビットハウスの制服ではなく、フルールのような若干際どい服。しかも何故か名札付き。出る前にココアからは「可愛いよっ!大丈夫!」と言われたけど不安だし恥ずかしい。
しかも配っているチラシは「Rabbit Horse」の誤字を直し忘れていたため、更に恥ずかしい。
しかし、やめるわけにもいかない。
「危険な役目だ。でも、絶対に俺が守る。だから力を貸してくれ」。走大はそう言ったのだ。
「そんなこと言われたら、断れるわけないじゃないですか…」
何より、チノが力になれる好機だ。彼女だって協力できることなら努力を惜しむつもりはない。小声ながらも頑張ってチラシを配る。
「………いい」
その声を零したのは、痩せこけた前髪の長い男性。その視線も興味も、間違いなくチノへ向けられている。
「ラ…ラビットハウスをよろしくお願いします…」
「いいや。素晴らしいのは、君だ。
決めた…君は、『水晶』だ」
手が伸ばされて、チノはその「悪意」を察した。
一瞬で指先にまで恐怖が広がる。叫びだしたくなるその感覚は、前にロイミュードと対峙した時と同じ。
「君は水晶?酷い口説き文句だなそいつは」
男の腕を掴む、別の腕。走大だ。
あの時とチノの恐怖は同じだった。でも、今はすぐそばに頼れるヒーローがいる。
「貴様、仮面ライダー…!」
「隠す気は無いみたいだな011!」
その男、011の人間態は誤魔化すこともせず、引きつった顔で走大を睨み付ける。ここに走大がいるということは、011はまんまと彼の罠に掛かったということだ。その事実が011に激しい屈辱を抱かせる。
「…何故、だ。俺の狙いが、何故分かった…!?」
「知りたいんだったら教えてやる。
まず、お前はシャロちゃんに興味を無くした。それが『いつ』だったのか、そいつは俺が思っていたよりも早い…そう、最初にシャロちゃんを襲った時。厳密に言えば『シャロちゃんの名前が呼ばれた時』だ」
スーパーマーケットにロイミュードが襲撃に来た時、重加速を免れていたチノがシャロの名前を叫んだ。その時、011は何故か動きを止めていた。
「その理由はこのフルールのビラを見て分かった。お前もこれを見たんだろ?このビラには店員の名前が漢字表記で書いてあるが
シャロのフルネームは漢字で書くと桐間紗路。
被害者にいた瀬良亜里紗は、シャロと同じ「紗」の字で「さ」と読んでいた。011にとってそれが記憶に残っているはずだ。誤読しても不自然ではない。
「だからお前はシャロちゃんをターゲットから外した。何故なら、被害者の中に『紫亜』がいた。お前は既に『し』は持っていたからだ」
「貴様、そこまで…!」
「お前の進化のための感情は『芸術欲』じゃない。慢性的な犯行に見えて、そこには確かなゴールがあった。お前の目的は
東京での被害者の名前を確認したところ、見事に頭文字がバラけていた。シャロを諦めた直後に「桜」という女性をさらったのも、逃した「さ」を手に入れるためだろう。
あとは011が見たフルールのチラシが配られていた場所、他の被害者の職種や職場などを考えて調査すると、よく店のチラシ配りが行われているこの通りが浮かび上がった。
そして、まだ「ち」の被害者がいないことを確認し、これまで攫われた女性の傾向を考えてチノをコーディネート。確実に011が食いつくような条件を完璧に揃え、狙い通りこうして011は現れた。
「無粋、極まりない…!人間の女性とは、大人と、子供の、その違いに大きく隔てりが、ある。まるで変態する、昆虫のように。その境界にある、儚く尊い美しい女性、それを、品定めする格好の聖地を…汚すような真似を…!」
「やっぱり、お前の感性はどこか評論家寄りだ。だからこそ分かったんだ。同じコレクター同士だからその違和感に気付き、お前に辿り着いた。
どうだ?理解は足りてたか?」
「黙れ、この、冒涜者が…!!」
男が怒りを露にし、ロイミュード態へと姿を変えた。
更にもう一段階姿が変わる。石膏像のような頭部と胸部に、左腕。それ以外の箇所は機械的ではあるが、まるでスーツで正装をしているよう。そして左目のモノクルと右腕の彫刻刀のような装備で、その姿は完成する。
「俺は、スタチュー…!その少女は、水晶にして、必ず回収する。貴様は木像だ。粉にした後、兎のエサにでも混ぜてやろう」
「上等。なら俺も表明だ。お前のコアを砕いて、彫像にされた全員を救い出す!」
走大は言い切ると、持っていた紙コップのコーヒーを一気に飲み干した。これはチノに用意させたものだが、この期に及んで何故とはチノも思った。
しかし、これは彼の決意の証だ。
彼は彼らしく、己のやり方でこの街を守るという、決意の。
「Fire my engine!ゴールは見えた!全速全霊でぶっち切るッ!!」
走大のギアが入った。それも、エンジンは一気に灼熱に。
ドライブドライバーを装着してキーを回し、シフトスピードをブレスに装填。
「変身!」
《DRIVE!》
《type-SPEED!》
スタチューは重加速を展開し、走大は飛来したタイヤを装備しドライブに変身。間髪入れずにスタチューに拳を叩き付ける。
「ぐあァっ!」
「まだだ!」
《SP!SPEED!!》
材質変化による防御が間に合わず、吹っ飛ぶスタチュー。
ドライブは更にそこからシフトアップし、飛んで行くスタチューに追いつくと顔面を強打。防御の体勢に入らせない速度で連撃を浴びせる。
がしかし、胴体に決めた一発でスタチューの体は激しく吹っ飛び、ドライブの視界から消えた。スタチューが攻撃の寸前に体の一部をゴムに変化させ、攻撃の反動で距離を取れるようにしたのだ。
「逃がすか!」
すぐに追いかけた先は、公園の噴水。
噴水の中でドライブを待ち構えるスタチューは、ドライブの動きに合わせて足元の水をかき上げ、壁を作る。
水のカーテンは能力で鋼鉄に変化し、本当の壁となってドライブの攻撃を阻む。
能力が解除されると、今度はスタチューが手に含んだ水を投げつけ、水は瞬時に鋼鉄に。ロイミュードの腕力で放たれた鉄の雫は、弾丸の速度を優に超える。
「くっ…能力が強くなってやがる!これが進化態か!」
「その、通りだ。つまるところ、貴様は理解が、足りなかった。貴様に勝ち目は、無い」
隙をついてドライブが攻撃しても、既に全身の硬化が完了しているためダメージが通らない。スタチューに時間を与えればこうなることは想像していたが、予想を大きく上回っている。
攻撃を受けながら、ゆったりとスタチューは右腕の武装を振り上げ、猛スピードで振り下ろす。
すんでの所で避けるドライブだったが、その斬撃は背後の木を縦に一刀両断する破格の切れ味を見せた。
「避けたか。今度は、上手く避けられるか」
次に繰り出されるのは、鋭い突き。
またもドライブはギリギリで回避。向こう数メートルの木が綺麗に三角に抉り取れた。
最初は平刀、斬りは切り出し刀、突きは三角刀。腕の彫刻刀の形状を、攻撃に合わせて変形させている。これが進化で得た能力だとするなら、考えていたよりずっと進化態の脅威は深刻だ。
「あぁ…何も問題ねぇ。俺だって進化する!仲間と共に!一人じゃなけりゃ、お前らなんか余裕で追い越してみせる!」
チノは力を貸してくれた。彼女だけじゃない。深く考えなくたって
「Come on!シフトカー!」
ドライブが掴んだのは、リムジンのシフトカー「ドリームベガス」。
しかし、ロイミュードもシフトカーの危険性は理解している。スタチューは迷いなく土を掴み、鉄に変化させてドライブへと放った。
投げた土の一部を火薬に変化させることで、着弾と同時に爆破。ドライブは爆炎に飲み込まれたが…
《タイヤコウカーン!》
《Dream Vegas!》
ドライブの両手の「ドラムシールド」が攻撃を完全に防いだ。銃弾は跳ね返し、エネルギーは吸収する、驚異的な防御性能のドライブ最強の盾だ。
先ほど余波だけで木を抉った突きさえも、ドラムシールドは受け止める。
が、ベガスの真価は防御では無い。
「運試しと行こうか!」
ドラムシールドがタイヤと合体し、ドライブの体に3列のスロットが形成。スロットは高速回転し、走大の意志でピタリと止まった。
現れた文字は「777」。
「Jackpot!大当たりだ持ってきな!」
タイヤからコインが大量に噴出。スタチューにダメージこそ入らないが、コインの激流はスタチューの体を最初の通りまで押し流すのに十分だ。
《Massive Monster!》
次はマッシブモンスターに交換。破砕武器「モンスター」で、コインで体勢が崩れたスタチューに次々と追い打ちをかけ、遂には硬質化した体に亀裂が入った。
だが、スタチューも黙ってやられはしない。
ゴム化させた左腕を伸ばし、ドライブの足首を掴んだ。すぐに振り払うも、触れられた場所から宣言通り木材に変わっていく。
「木彫り仮面ライダーだと?冗談じゃねぇ!木彫りは熊で十分だ!来い、キャブ!」
《タイヤコウカーン!》
《Dimension Cab!》
タクシーのシフトカー「ディメンションキャブ」は、空間操作のスペシャリスト。
タイヤが真ん中で分裂し、それに合わせてボディも分離。下半身と左腕は完全に木像になってしまったが、上半身と右腕は分裂したタイヤと共に健在だ。
「姑息な、手品だ。馬鹿げた、能力を…!」
上半身をタイヤの中の亜空間に収納し、スタチューの攻撃を躱しながら地を這って接近。背後に回り込んでスタチューの体を這い上がり、胸の高さに到達したところで上半身を出し、右腕で連続パンチを浴びせる。
その場所は、ベガス、モンスターで集中攻撃したヒビの入った箇所。傷口に塩を塗るのと同義となった攻撃は、ようやくスタチューにダメージを与えた。
「ぐあ…ァ…っ!そんな、はずは…!」
分かれたボディを元に戻すと、木像となっていた下半身も戻っていた。前の戦いで分かっていたが、材質変化が定着する前にダメージを与えることで、能力は解除されるのだ。
「ふざけるな…俺の、崇高な、美の追求を…!それが、人間の正義とでも、言うのか!反吐が出る…!!」
「正義なんて守るつもりはないさ。俺たち警察が守るのは、いつだって街の人々だ!さぁ、お縄につけスタチューロイミュード!」
《タイヤコウカーン!》
《Justice Hunter!》
ジャスティスハンターにタイヤコウカン。苦し紛れのスタチューの斬撃を「ジャスティスケージ」で見事に防ぐと、スタチューに触れられる前にケージを投擲。
ジャスティスケージはスタチューの頭上で鉄格子を展開し、檻を形成してスタチューを閉じ込めた。
脆い材質に変えて脱出を図るも、ジャスティスケージの売りは強度ではない。この檻は触れた傍から高圧電流で投獄者を制圧する、脱出不能の電磁檻だ。
《タイヤコウカーン!》
《Max Flare!》
「トドメだ!」
燃え盛るタイヤ「マックスフレア」にタイヤコウカンすると、キーを回してブレスのイグナイターを押し、スタチューの反対方向に駆け出した。
ドライブは一本道の通りの端まで移動すると、身をかがめ、遥か遠くのスタチューに狙いを定める。
《ヒッサーツ!》
《Full Throttle!!Flare!》
レバーを上げると、ドライブとスタチューの間の道に、無数のタイヤの対が出現。
フレアタイヤが炎を噴出させ、高速で回転。ドライブは拳を握り固めて熱いエネルギーを宿す。そして、ドライブが走り出すと同時に二つのタイヤが体を挟み込んで、ドライブを弾き出して一気に加速させた。
それを複数回繰り返し、数秒と経たず残像を残す程に加速する。
燃え上がって一直線に駆けるその姿は、車でも銃弾でもなく、隕石と呼ぶに相応しい。
「おらぁぁぁぁぁッ!!」
追突の寸前にジャスティスケージが消滅。超絶速度で迫ったドライブは、寸分の狂いも無く、スタチューの傷に炎を帯びた拳を叩き込んだ。
「認め、ない…!俺の、俺だけの、芸術が、こんなところで……!」
二つの焦げたタイヤ痕が残る通りの真ん中で、スタチューは屈辱の断末魔を上げる。ドライブの一撃で砕かれたボディは存在を維持することが出来ず、凄まじいエネルギーを放出して爆散した。
煙と共に浮かび上がる、011のコア。
火花を散らして破裂したコアと、隠れていたチノに向けたドライブのサムズアップが、この街の最初の事件を締めくくった。
_______
こうして事件は終結。彫像になっていた人々は元に戻り、011のアトリエから自力で脱出し、東京で保管されていた彫像たちも人間に戻ったと報告があった。
「ええっ!?コーヒーを飲んだら性格が変わる!?」
「そうみたいです。コーヒーじゃなくても色々変わって困るそうです」
コーヒーを意地でも飲まない男性客。その真相をチノから聞いたココアは、声を上げて驚いた。
ラビットハウスの一角で、走大は思わず目を逸らす。
この際にと正直に白状したのだが、走大は飲み物で性格というかテンションが変わるトンデモ体質。コーヒーだとテンションが上がり熱血になる。スタチューとの戦闘も、そう言えば口調が激しかった気がする。
「そうすると、チノの推理は割と当たってたんだな。ほら、シャロと似てるって言ったろ?」
「じゃあ、コーヒー以外を飲んだらどうなるか、チノちゃん知ってる?」
「いえ。聞いても教えてくれないんです。恥ずかしいとかなんとかで」
そんな会話が聞こえ、リゼ、ココア、チノの好奇の目線が刺さる。
「ちょ…何考えてるの。やめてよ…?」
「よしココア!ミルクを持ってこい!あと紅茶もだ!」
「サー!」
「ちょおおおおい!?ココアちゃんストップ!人の体質で遊ばないでくれませんか!?」
「冷蔵庫に野菜ジュースが残ってます。持ってきますね」
「チノまで何やってんだ乗っかってないで止めろ!」
わちゃわちゃし始めたラビットハウスで、ココアがその一言にピクリと耳を動かす。
「あれ?チノちゃんは呼び捨てなんだね」
「あ…っと。それは…色々と…」
「走大さんと私だけの秘密です。秘密の、仲間の証です」
上手く説明できない走大だが、チノが少し笑いを含んだ声でそう言った。「ずるいー!」とココアが漏らす不満を聞き流すチノは、いつになく自慢げだった。
______
スタチューとドライブが繰り広げた激闘。
それを見ていたもう一人の存在。ロイミュードの少年、トーヤだ。
ロイミュードの支配する世界を脅かす仮面ライダーという存在を認識した。そしてもう一つ、スタチューが発した重加速。あれを浴びた時、漠然と理解した。
あれは自分にもできる、と。
「じゅう…かそく…」
手を伸ばし、掌を広げる。
トーヤの掌から放出された波動は辺りを包み込む。いや、「辺り」どころではない。
「っ……!?」
ラビットハウスにいた走大たちも、その波動を感じた。
体がズシンと重くなる感覚。チノには覚えがある、重加速だ。
それが続いたのは僅か数秒。警戒しても、近くにロイミュードがいる気配はない。
「何だったんだ…今の…!?」
思い過ごしで済ませてはいけない。そう直感が告げていた。それほどに鮮烈で鮮明な、途轍もない胸騒ぎ。
その走大の予感は的中していた。
ラビットハウスだけではない。あの数秒だけ、トーヤが発した重加速は
この静止した僅か数秒が、街のすべての人々の記憶に重加速の存在を刻み付けた。
そして、その波動を受け取った者たちは、人間だけではない。
「さっきの…スタチューくん死んじゃったなら、まさか?」
「あぁ。俺の息子の仕業だ。すげぇ奴だろ、アイツはよ」
スタチューの死を惜しみ、ガイストはあるロイミュードを訪ねていた。
スマホを弄る少年の姿をした彼は、ロイミュード004。
「そうだ004.お前もアイツには興味があるだろ?
「やっぱりそうか。彼の情報は嬉しいけどさ、対価に何を要求するわけ?」
「そんなつもりは無かったんだがな…まぁ、聞いてくれるんなら頼みくらいはあらぁ。
お前ならできるだろ?
新たな仲間を得て、一つ目の事件を突破した仮面ライダードライブ、栗夢走大。
その新たな戦いは始まったばかり。そんな彼の背後には、
「黒きドライブ」の存在が、すぐそこにまで迫りつつあった。
NEXT Archive is 2005.
File:KABUKI