仮面ライダージオウ~Crossover Stories~ 作:壱肆陸
仮面ライダー裁鬼に変身した男。38歳。本名は榊原作之進。煙草が似合う渋い男で見た目はそれなりに老けている。バンキの師匠で現役最年長の鬼。指導はストイックで特に有名なのが「一週間シフト修行」。彼自身が三流派を全てマスターした唯一の鬼であるため、実際仕事は多い。周りから見ても謎が多く、「昔は軍人だった」とか「忍者の家系」とかあらぬ噂が乱立している。2005年では壮間とミカドに修行をつけ、アナザー響鬼討伐にも貢献した。修正された歴史では、様々な分野でコーチを請け負っては結果を残す謎の男として、都市伝説にもなっているとか。
本来の歴史では・・・才能しかない弟子に手を焼いていたが、彼の成長を見て自分はもう必要ないと思うようになる。そして、バンキの魔化魍「ヌエ」の討伐をきっかけに、サバキは引退を宣言し……
遅くなった理由はレンティル地方で写真を撮ってたからです146です。僕のアップリューが内定してないのだけが解せない、あの神ゲー。
今回からはダブル×ラブライブ編……というかラブライブクロス編の最終章です。ゴースト編から続いてきた話も終わりに近づいていきます。まずは彼の掘り下げから。
今回も「ここすき」よろしくお願いします!
僕のノーベル賞
「この本によれば、普通の青年、日寺壮間。彼は2018年にタイムリープし、王となる使命を得た。2015年で最悪の結末を迎えてしまった我が王は、救いを求めて2009年へ。そこで突き止めた全ての元凶の正体、その名は火兎ナギ。
スクールアイドルが繋いだ二つの時代。それぞれに生きる仮面ライダー。我が王が試練に打ち克った時、奇跡が起こる───かどうかは私にも分かりません。ただ、信じて祈るとしましょう」
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拳銃を作っている工場の人間は犯罪者か?
違う。使って悪事をする人間が悪い。
僕はそうは思わない。理由はどうあれ、火の無い所で火事は起きない。
誰に許され、誰に愛されようとも、僕は僕という悪魔を永遠に許すことは無い。
「って…思ってたんだけどねぇ…」
「永斗くんどうしたの?」
「ん、いや。何でもないよ凛ちゃん」
「全員集まったな。色々あってデカいライブする事にした。雑に説明すっからよく聞けよ」
探偵事務所に集まったのはμ’sの9人。
これまで会っていたのは所謂3バカと未来での真姫だけであったため、その光景にμ’sをよく知らない壮間ですら感動を覚えていた。
「これがμ’s……やっぱこう…オーラが違いますね。流石伝説のスクールアイドル」
「μ’sの衣装デザイナー、南ことり。スクールアイドル界トップクラスのダンサー、綾瀬絵里……話に聞いていた伝説が勢ぞろいだ…!」
アリオスと壮間が感激している間に、アラシがμ’sの9人に本当に雑に説明。ナギの事や歴史消滅の事を伏せても十二分に常軌を逸していたその内容に、それぞれ頭上に疑問符を浮かべるか頭を抱えるかしか出来ないようだ。
特に頭痛が酷そうだったのは園田海未だ。
「全く分かりませんが分かりました。それで、そちらの方々が…」
「未来から来た仮面ライダーだ」
「またですか……!今度は何が起こるというのですか!」
「別に何も起こんねぇよ。ただお前らには、未来のスクールアイドルとライブをしてもらいたい」
「未来のアイドルと一緒にライブ!?」
嬉しそうに声を上げたのは海未ではなく穂乃果。『未来のアイドル』という単語にソワソワしだしたのは、アイドルマニアの小泉花陽とにこ。他のメンバーの感触も悪くは無い。突拍子の無い内容で半数はフリーズしているが。
「未来のアイドルって…もしかしてAqours!?」
「本当に偶然にもな。説明省くが未来って言っても前とは違ぇから、アイツらは居ない未来だぞ」
「なっ…高坂穂乃果!Aqoursを知っているのか!?」
「初代Aqoursが千歌さんの時ですから、この時代にはまだ無いですよね!?」
ちなみに壮間の言う初代の前にも、ダイヤ達3年生が短期ではあるがAqoursとして活動していたのだが、Aqoursを知ったばかりの壮間がそんなマニア情報を知る由もない。
「前に色々あったんだ、気にすんな。
そんでライブ方法だが……壮間、お前らのタイムマシンは何人乗りだ?」
「μ’sを2015年に連れて行くつもりかい?それはお勧めできないな、切風アラシ」
似たような顔でウンザリする壮間とアラシ。説明のタイミングで決まって現れるウィルだ。新鮮な驚きをしているμ’sの9人が羨ましくも感じる。
「なんでだ解説ロングコート。タイムパラドックスってやつか?」
「大雑把に言えばね。詳しくは言えないが、特定の条件を満たす者以外がタイムジャンプをするのは危険なんだ。μ’sを2015年に連れて行って時間の修正が始まってしまうと、彼女たちはいるべきじゃない時間にいることになり、時間の復元力でも直せない大きな歪みが生じてしまう。最悪の場合、存在自体の消滅にも繋がり得るんだ」
「…待て。そうなると私はどうなる?」
「もちろん君も危険だよ、アリオス」
「はぁ!?なんでそんな大事なこと言わなかったんだよ!」
「今回は事態が事態だからね、やむを得ないと判断したまでさ。言ったはず、私は君を王にすることを最優先とする……と」
「その割には親切だな、有難ぇことだが。そうなりゃナシだ。コイツらを危険に晒す訳にはいかねぇ」
「…全然話がわかんないにゃ。真姫ちゃん絵里ちゃん教えてー!」
「いや私にもさっぱりよ…多分誰も分かってないんじゃない?」
絵里の返答に淡い期待を込めて真姫を見る凛だが、真姫はどうせ聞いても分からないと、完全に興味を失って毛先で遊んでいた。しかし流石に医者志望。話の要点は理解している。
「結局未来には行けないってことでしょう?だったらその未来のアイドルとのライブ…?できるわけないじゃない」
「うるせぇよ。やるって言ったら意地でもやるんだ。こっちで方法考えてる間、お前らは文句意外にも色々考えとけ」
「穂乃果さん…アラシさんの態度、喧嘩になったりしないんですか?」
「うん?大丈夫だよ、アラシ君って本当は優しいから!」
「口の悪さだけはどうしようも無いのは…否定できませんが。聞いた内容を丁寧語に翻訳すれば本人の言いたい事と大体合うと思いますよ」
「初めての人は怖がっちゃうかもだけど…やっぱり慣れ…かな?」
「にこさんめっちゃ喧嘩してますけど…」
「アレはお約束です」
壮間の心配をあしらう2年生組。これは信頼と呼ぶべきなのか。
ちなみに彼の悪態に逐一噛みつくのはにこだけ。今もあれこれ反抗している。
ラブライブ本戦はどうするだとか、もっと状況を教えろだとか、そんな急に言われてもだとか…にこ本人も未来のアイドルには興味津々の癖に、アラシに言われると素直になれないのが彼女だ。
「───だから!ライブしろって言われても曲もダンスもどうするのよ!」
「言ったろうが、未来の真姫が書いた曲がある。丁寧に歌詞付きだ。こいつは多分…未来の海未が書いたんじゃねぇか?」
「なっ…!?未来の私が!?勝手に見ないでください!恥ずかしいです!」
「未来の真姫ちゃんの曲…真姫ちゃん本人も気になってるんとちゃう?アラシ君に『見せてー!お願い♡』ってやらんでええの?」
「な、なに言ってるのよ!そんなこと言うわけ…
ていうか!合同ライブなら相手グループと話し合わなきゃ始まらないわよ!いつライブするのかは知らないけど、話し合いくらいは早くしないと」
真姫に言われてアラシも考えこむ。言われてみれば話し合いが出来なければ何も決められない。
「時間を超えた通信か…過去から未来はともかく、双方向となると無理だ。そこなんとかしねぇと話が進まねぇ」
「二つの時代で会話できる夢みたいな方法なんて、皆目見当も……」
壮間もアラシと一緒に頭を悩ませていたが、アリオスとウィルが何やらキョトンとした顔でこちらを見てくる。その視線に合わせ、壮間も自分のカバンに目を向けた。そして、気付いた。
「あーっ!あります!ありました!時間通信機器、ファイズフォンⅩ!」
「良かったよ。てっきり我が王は私のプレゼントなど覚えていないものと…」
「面倒臭いこと言わないで。とにかく、これがあれば2015年と通信できます!相手が普通の携帯でも時間を選択すれば!ビデオ通話も多分できますし!」
「これで話が進むな。いや待てよ。双方向コミュニケーションが可能で、ビデオ…つまり映像も可能ってことは……これだ!永斗…!……!?」
永斗の名を呼んだ。しかし、返事は無いどころか姿も無い。
妙だとは思ったのだ。全く会話に入ってこないから。
「永斗さんどこに…?」
「永斗くんなら、買いたい漫画があるってさっきコンビニに……」
アラシとにこの喧嘩腰が恒例行事なら、永斗のサボり癖も恒例行事。呆れているのはアリオスだけで、見慣れた彼女たちは苦笑いか無表情のどちらかだ。
一方でアラシの反応もいつも通り。凛の報告を最後まで聞かず、事務所を飛び出していった。壮間が一瞬だけ見たすれ違いざまの顔は、鬼の様相をしていたという。
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「なんでテメェはこんな大事な時にサボってんだ?あ゛ぁ?」
「いやだってなんか話決まらなそうだったし…それならちょちょいと漫画買うくらい許されるかなーと…」
「分厚い単行本立ち読みしてた奴が何言ってんだ!一大イベントなんだよ働けクソニート!」
表情で「働いたら負け」と訴えかける永斗。それを蹴り飛ばすアラシ。
士門永斗。『2人で1人の仮面ライダー』であるダブルの片割れ。そういえば、壮間は彼の事をあまり知らない。知っているのは頭が良く、地球の本棚を持つGoogle人間ということ。後は今知ったこの面倒くさがり屋という一面くらいか。
「壮間、携帯寄越せ」
「あ、はい」
「コイツが時間を超えて通信できるガジェット。コイツを見てライブ方法も思い付いた。『合成映像』だ!μ’sのライブとAqoursのライブをピッタリ重ねて一つのライブにする!」
「そりゃ凄い。でもそれ僕の出番ないじゃん。タイムカプセルにでも入れて未来に映像残せばいい話でしょ?」
「歴史が消えるんだ。あっちでは俺たちのやった事は綺麗さっぱり無くなってんだよ、映像なんか残せるか。それに映像残せばいいって話でもねぇ。合同ライブの体で作るんだから、それを合成でやるとなるとかなりの精度が必要になる。そこにこんな携帯のビデオ付き通話じゃ練習効率もあったもんじゃねぇ」
歴史が消えるという所だけ小声で言い、後はにこや絵里から聞いた意見を永斗に伝えた。そうなると必要になるのは追加の機材。
「ここでお前の出番だ。この携帯を分析して、テレビくらいデカい画面で全身見ながら通話できる機器を作ってくれ。体感、Aqoursの連中と同じ場所にいるみたいな環境がベストだ」
「無理」
「あぁ?」
天才と聞いていたが、その返答は即答且つ簡素なものだった。これには壮間とアリオスも拍子抜けしてしまう。
「そんな未知のテクノロジーを解析して改造?短時間で?地球の本棚にも載ってないんだから無理なものは無理よ。そんな面倒なこと、いくら僕みたいな天才でもね~じゃ僕、録画したアニメ見てくる」
「士門永斗…本当に無理なんだろうな!?ただ貴様が働きたくないだけなのではないのか!?壮間の友人を救うため、皆が一丸になっているんだ!それなのにその態度は……!」
「アリオスさん!落ち着いて!」
逃げようとする永斗にアリオスが掴みかかって激昂する。壮間も止めるが、正直な話をすると永斗をイマイチ信頼しきれないのは事実だ。アラシの相棒と言うが、頭脳にかまけた怠惰な少年にしか見えない。
「そうだ落ち着け男モドキ」
「誰が男モドキだ!」
「分かった。じゃあ永斗、何が必要だ?」
アラシはさっきのように叱りつけるでもなく、淡々とそう問いかけた。先程までとは永斗に向き合う姿勢が明らかに違う。その簡単な問いには、奥の部屋に行こうとする永斗も淡々と返す。
「知識がいる。未来の科学技術に明るい人間が欲しい」
「上等だ。すぐ用意してやっから働けよ」
それだけ残し、永斗は欠伸をしながら奥の部屋に消えてしまった。
このやり取りで壮間が感じた、得も言われぬ関係性。この二人は友人なのか、ビジネスパートナーなのか、よく分からない。
「とにかく未来の科学に詳しい人がいればいいんですよね!それならウィルが…」
「勘違いしないでほしいな我が王。私にそこまでの知識を期待するのは無駄というものさ」
「なんだこの解説ロングコート、役立たずじゃねぇか」
「酷い言われようだね。ならば早速名誉挽回と行こうじゃないか。
未来と言わず消滅した歴史まで、あらゆる知識を求めて貪る存在……未来から来た2人には心当たりがあるんじゃないかな?」
そう言われてすぐ、その姿は脳内で輪郭を描いた。
狂気的なまでに知識に執着し、そのためにあらゆる権利の侵害をも厭わない知的侵略者。壮間とアリオスは、その名前を同時に口に出す。
「「タイムジャッカー、オゼ!」」
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「ふぇっくち!」
「うわ、なに?オゼってば風邪…なわけないか。誰かが噂したのかな?」
「噂をされるとくしゃみが出る!?その二つの事象にどんな相関関係が…そうかバタフライエフェクト!詳しく教えて欲しいんだよヴォード!」
「あーごめん忘れて。適当言った僕が馬鹿だった」
興味に瞳をギラつかせるオゼを引き剥がし、ヴォードは長いヒモ状のグミをかじる。オゼが相手だと何が原因で彼女の感情が暴発するか分からないため、非常に気が疲れて嫌だ。今はアヴニルが居ない分、面倒を見る猛獣が少ないから楽ではあるが。
「そういや、アナザーダブルのことだけど。アナザーゴーストってアナザーダブルから作ったんだ。というかやっぱそういうのも出来るんだ。僕知らなかったんだけど」
「物語を繋げる要素があってこそだよ。アレを作るのに多くの興味深い仮説を立証でき、非常に有意義だった!それにより誕生した『二つの力を持つ不死身の王』、これはソラナキにも匹敵する最高、最強、覇王的な成果なんだよっ!わかるかな!?」
「わかるわかる」
「二つのアナザーウォッチに耐えうる素質!桁外れの悪意!尚且つライダーの力との親和性も高い!火兎ナギは逸材だったよ!彼女無しではこの研究は成就しなかった!」
「選んだの僕だけどね。アナザーダブル」
ヴォードが選んだ王をわざわざ横取りし、ここまで手の凝った仕掛けを施した。その一連の動きに、僅かながらヴォードは違和感を覚えていた。興味が根源なのは間違いないが、その矛先はもっと先にある感じがする。
「で、どうするのオゼ?こっからさ」
「決まってるよ。物語を繋げて幾重にも惨劇を起こした。あの落書き男も来た。それ即ち、わたしが介入しても釣り合うくらいのカオスが生成されたんだよ。全てはこのために!わたしの興味は!欲望は!渇望は!永遠に枯れ果てることのない無限の湖!
世界の全てが収集された
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行動の方向性は決まり、一安心できたのはほんの一瞬。すぐに「オゼからどうやって情報を聞き出すか」という大問題に顔面を打たれる。相手は時間停止ができるサイコ少女、捉えるのですらほぼ不可能なのだ。
あれこれ頭痛がするほど考えていたら、腹の虫が鳴った。そういえば今日はウィンター事件解決に奔走したのだ、疲れもするし腹も減る。
そんな時、壮間たちに声を掛けたのは星空凛だった。
「一緒にご飯食べに行こうよ!」
その一声で勢いのまま壮間とアリオス、ついでに花陽と真姫を加えた一年組が強制連行。その行き先はというと……
「醤油ラーメンチャーシュー大盛りの焼き飯セットにゃ!」
ラーメン屋だった。
伝説のスクールアイドルの一人ともあろう人物が選ぶ店ということで息をのんでいたのだから、凛が迷わずこの店に入った時は大袈裟なアクションで二度見をしてしまった。
しかも入店着席と同時に即注文。常連だというのがよく分かる。
「これがラーメン屋…!飲食店には幾つか行ったが、ここは独特な雰囲気だ…」
「え、リオちゃんラーメン屋初めて!?」
「あぁ、それどころかラーメンというものを食べたことも…待て、何故リオ呼びが既に定着している!?」
「リオちゃん絶対人生損してるにゃ!おっちゃん!この子ラーメン初めてなんだって!」
「そりゃ気合も入るってものよ!お嬢ちゃん、日本一のラーメンってのを味わわせてやるからね!」
「よっ!大将日本一にゃ!」
「店主と仲いいですね…」
妙に高いテンションに包まれながらも各々が注文を済ます。真姫はともかく、花陽は謎に強調して「ご飯大盛り」と注文していたので驚いた。スクールアイドルは思ったより大食いが多いのだろうか。
ラーメンを待つ間、前に座る真姫の様子がよそよそしい。あからさまに何か聞きたいですと目が言っている。
「…質問タイムですよね」
「そうこなくっちゃ!ほら真姫ちゃん、聞きたいことあるなら聞いとくにゃ!」
「私は別に気にしてはないんだけど…未来の私って、どんな感じ?ほら、確認しとかなきゃじゃない!進路とか色々と…」
「結婚とか?」
「何言ってるのよ凛!け…結婚って…誰とっ!?」
真姫は否定しながらも、今日一に血走った眼で壮間の言葉に耳を傾ける。
「指輪はしてなかったと思いますけど…ピアノは弾いてましたよ。忘れないように定期的に弾いてるって。身だしなみは綺麗だったのでいい生活はしてそうでした」
「なんか普通にゃ、未来の真姫ちゃん」
「いいでしょ別に。安定した将来が一番よ」
「かよちんは何か聞かなくても……」
話を振ろうとしたが、花陽は何やらブツブツと独り言ちって止まらない。多分だが、時を超えたライブという言うまでもなく前代未聞のイベントに興奮しきっているのだろう。やけに視線が鋭く、声をかけるのもはばかられる。逆に凛はよく彼女を誘えたものだ。
「じゃあ俺もいいですか?一つ聞いても」
「もちろん!どんと来いにゃ!」
「永斗さんのことなんですけど…彼って、どんな人なんですか?」
「それは私も聞きたい。切風アラシといい、この時代の仮面ライダーは私の仲間たちとは随分と違ったからな。現状、あまりいい印象は持っていないのが事実だが」
永斗のことを聞かれると思って無かったのか、凛は軽い態度から少し悩める表情に。慎重に言葉を選んでいる様子だったが、出てきたのは一言だった。
「面倒くさがり屋さんにゃ」
「それは…まぁ。分かりますけど」
「凛、それ逆効果よ」
「あぁごめんごめん!違くて、えっとね…面倒くさがり屋さんだからやりたいこととかやらなきゃいけないことしかしなくて、アニメとか大好きでゲームがすごく上手でずっとやってて……あれっ!?もしかして永斗くんってそんなに良い人じゃない!?」
「そうね、良い人ではないわよ。アラシと永斗ってアラシが怖がられがちだけど、実は永斗の方が断然冷酷なのよね。アラシは優しいし」
「すいません、結局どうなんですか。俺、あの人信用しても良いんですか!?」
全然フォローになってない紹介が続き、流石に不安になってしまう。永斗が動いてくれなければ香奈を救うこともできないのだから。
しかし、信用してもいいかという問いに対しては、一切の迷いなしに凛は言い切った。
「大丈夫にゃ。永斗くんはちゃんとしてくれるから」
「…分からないな。そう言い切れる根拠が今のところ見えないのだが」
「永斗くんは面倒くさい面倒くさいって言ってても、やらなきゃいけないことは絶対にやる人なんだ。それに言い忘れてたけど、永斗くんはカッコいいんだよ!」
「カッコいい…ですか?なんかボケーっとしてますけど…」
「凛は永斗くんに何回も助けられたんだ。あとね、永斗くんは優しくはないかもしれないけど、だからこそ言うことは絶対正しいにゃ。そんな永斗くんが褒めてくれたから、凛は怖くても勇気が出せた」
『弱虫なんかじゃないよ。凛ちゃんは』
『前にも言ったでしょ。凛ちゃんは可愛いって』
彼の言葉があったからここまで来れた。事件に巻き込まれ、怪物との戦いに巻き込まれ、死と不幸の渦の中で怖くて怖くて仕方なくなっても、勇気を持ってここまで進み続けられたのだ。
「凛は永斗くんのぜーんぶを、とびっきりに信じてるにゃ!だって凛は、永斗くんのこと……」
「はいよっ!ラーメンお待ち!」
その続きは店主の声に重なって聞こえなかった。
凛もラーメンが来た喜びに表情がすっかり変わってしまっており、何を言おうとしてたのかは分からない。アリオスもラーメンを前に、さっきの話はもう気にもしていないようだ。
「まぁいいか。聞くのも多分、野暮だろうし…」
凛の行きつけというだけあり、ラーメンはとても美味しかった。
妙にナルトが大きかった気がしたが、気のせいだろう。
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夕飯も終え、事務所に戻ると再びどん詰まりがぶり返す。と思いきや、戻って来てアラシを見ると、何かに気付いた顔つきをしていた。
「やっと戻って来たか。聞け、さっき解説ロングコートにそのオゼってヤツの事を色々と聞いた。要は快楽欲が知識欲にすげ変わっただけのナギだろ?」
「そう言われればヤバい感じは確かに似てますけど…」
「そんな奴が永斗を放置は有り得ねぇ。必ず永斗の『地球の本棚』を狙って来るはずだ。そこをとっ捕まえればいい」
「地球上の全てを記した書庫…だったか。彼女は眼魔世界の冥術学も求めていた。知っていれば必ず欲しがるのは間違いないだろう」
「問題はいつ来るか、どうやって本棚を奪おうとするか、だ。一応永斗にも聞いたが、皆目見当もつかんらしい。だが一つ断言できることはある。そいつを利用して……」
アラシが引っ張り出したのは、途轍もなく嫌そうで眠そうな顔で縛られた永斗。それを見て未来組も色々と察した。
「楽しい釣りの時間だ」
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「いや、釣りしようぜ!餌はお前な!って酷くない?普通に考えて」
「俺もそう思いますけど…でもこれが一番可能性ある方法なんで…」
「壮間くん結構エグいね。いや僕が嫌われてるだけか」
オゼが永斗を狙ってくるなら、その動向を観察している可能性は高い。永斗が引きこもっていては埒が明かないので、こうして夜の街を散歩するという狙われやすい状況を作ったのだ。
しかも護衛は壮間だけ。連絡すればすぐに来れる場所でアラシ達も待機しているのだが、それにしても拭えない心許なさが狙ってくださいオーラを更に醸し出している。
「言われてみればだけど、見られてるって感じはしてたんだよね。ここ最近。でもどうなるんだろ、僕を攫ったとこで歴史消えて僕も消えるんだけど」
「さぁ…?地球の本棚…って、盗めるものなんですか?」
「インターネットって強奪できると思う?それと同じ。僕は本棚へアクセスできるってだけで、僕が何か持ってるわけじゃない」
「凄いですけどね十分に。なんでも調べれるインターネットなんて……でも、永斗さんはどうやってそんな凄い物を?」
「それ聞いちゃう?理屈抜きに背景だけにしても、嫌な話になるけど」
「はい。言いたくなくてもお願いします。俺はそれを、ちゃんと知って受け継がなきゃいけないので」
「面倒くさい人だね…ま、ちょうどいいよ。僕は正直、どっちでもいいんだけどさ」
溜息を吐いた永斗が、少し目を閉じた。
その一瞬だけ過去に思いを馳せるように。
「歴史からドーパントが消えて、僕がやったことも全部無かったことになる。たくさんの人がこれで幸せになる。でも僕は、それで許されちゃいけないって思った。僕の怠惰が生んだ罪は、永遠に償い続けるべき罪だから」
「……もしかして、ドーパントのメモリを作ったのって…!」
「察しがいいね。そう、物心ついた時には地球の本棚を持ってた僕は、生まれてからずっと組織でメモリを作ってた。でもそれだけじゃないよ。僕は責任から逃げようとして、結果大勢の人をこの手で直接殺した。多分だけど僕以上に人を殺した悪人はそういないと思うよ」
永斗が必要以上に自分を悪く言っているのは分かる。でも、その全てに嘘は含まれていないことも、話しぶりから分かってしまう。
「壮間くんはさ、拳銃を作る工場の人は悪人だと思う?同じようにダイナマイトの発明で戦争を激化させた死の商人、アルフレッド・ノーベルは?」
「思いません。そんなの結果論じゃないですか。使う人が悪人ならどうしようもない」
「僕はド悪人だと思うね。だって普通分かるでしょ、そんなの作ったら悪いヤツが欲しがるなんて。ノーベルは分かった上で見ないふりして研究を推し進め、巨万の富を築いたんだ。ダイナマイトが積み上げた屍の山は、ノーベルの怠惰が生んだ大罪でしかない」
「でもノーベルは…!」
「そう、ノーベルは勤勉だった。ノーベルは絶望しながら死に、その遺産をほとんど使ってノーベル賞を創り、それは後世の科学発展を急激に加速させた。彼にしかできない永久の償いだよ。だから僕もそれに倣って、絶望しながら永遠に償い続けるって決めたんだ。でも、僕の罪は消えて許される。君はそんな面倒くさい罪も受け継ぎたいって…本当にそう思う?」
凛の言っていたことが分かった。確かに彼は優しくはない。
とぼけた雰囲気をしながら重苦しい刃を平気で向けてくる。他人にも、自分にも。
そして、彼はやはり面倒くさがり屋だ。余計な事を考えようともしない。会ったばかりの他人である壮間が自分の後を受け継ごうが、どうだっていい。多分だが香奈を救う話に関しても、どうだっていい。
彼にとって大事なのは罪の償いと守りたい人たちだけ。罪の塊である自分は記憶が消えようが、その歴史が全て消えようが、どうだっていいのだ。
でも、こうも感じた。彼もきっと、尊敬できる主人公だ。
「思いません」
「だよね」
「でも…やるしかないんです。永斗さんは無かったことにはしたくない、ってそう思うんですよね?じゃなきゃそもそも話しません。だったら嫌でも俺が受け継ぎますよ。俺が『ダブル』になるって決めましたから」
「はぁ~勤勉。真面目だねぇ」
「それに、別に初めてじゃないです。今まで行った時代にもいました。永斗さんみたいに怪物を作った罪を償おうと戦ってた…天才科学者が。あの覚悟だけは、あれからずっと揺らいでません」
「それで妙に察しが良かったわけね…へー、世界は広い」
「そう、世界は広いんです。前の俺は世界は普通なんだと思ってて、そうであって欲しいと思ってました。でも違ったんです。俺の想像を飛び越えた物語なんて身近に沢山あって、そこにはとんでもない主人公がウジャウジャいて…だから永斗さんだけが世紀の大悪人なんて、そんなの違いますよ」
アリオスも言っていた。壮間が眩しいと憧れる人たちだって完璧じゃない。過ちを犯して、それでも進み続けた人は沢山いた。
「世界から見れば、永斗さんも案外普通かもしれませんよ。だから最後くらい…少しは自分に優しくなってもいいんじゃないんですか?」
突然の励ましに、永斗は面食らって目をぱちくりさせる。
永斗に復讐しに来た者、永斗の罪を受け入れた者、様々な相手に会ったが、よりにもよって『普通』と言ってのけた人物は初めてだ。思わず腹から笑いがこみ上げてくる。
「普通…普通かぁ…!いい響きだね。ずっとそうなりたかったのかもしれない。普通にグータラ生きて、何の運命も関係なく普通に誰かを愛したかった…なんて」
「できますよ、変わった時間で必ず。永斗さんを縛り付けた罪は、全部俺が引き受けますから!」
「……そうだね。何にも考えずにニート生活…楽しみ…って痛っ!?」
しんみりとしていた永斗が顔面から何かに激突。しかし、壮間の目には何も映っていない。映っていたのは、随分と人気のない辺りの風景のみ。
「散歩のつもりが辺鄙な場所に…ってこれ、透明な壁?」
「いてて…どうやら求めてない方の面倒が釣れたみたいだね」
透明な壁は壮間たちの前後にあり、左右は建物の壁。四方が塞がれて逃げ場のない状態に陥ってしまった。そこに現れたのは、いかにもヤンチャしてそうな風貌の若者たち。
「ようこそ!オレ達のナワバリへ!」
「ナワバリ…この壁張ったのお前達か!?」
「すぐ分かる。時間計っとけよお前ら、今日こそレコード更新行くぞ!」
一人だけ壁の内側にいる銀髪の青年の手が開き、見えたのはドーパントの歪なガイアメモリ。内包する記憶を表す『文字』は、這うトカゲが形作る『L』。
《リザード!》
『蜥蜴の記憶』が内包されたリザードメモリを手の甲に挿入し、青年の姿が鱗に包まれた。鰭や羽毛が半身を駆け抜け、爬虫類らしい質感のもう半身に舌が巻き付く。その隙間から見える、鱗から伸びた鎧のような棘。
「だよねー、ドーパントだよねそりゃ」
「トカゲ…!?前のは『ウィンター』だったのに、法則どうなってんですか!?」
「メモリは本棚から抽出した地球の記憶。本棚はクソデカ百科事典みたいなものだから、辞典に載ってるものなら大体メモリになるよ。『絞首台』とか『静寂』とかもいるし」
「ドーパントって滅茶苦茶すぎません!?」
壮間がどうでもいい文句を垂れている間、リザード・ドーパントのギョロリとした眼は壮間と永斗を交互に品定め。しかし、その目線はすぐに壮間に止まった。
「そっちの奴に決めたぜ!条件どうする?」
「昨日と同じでいいんじゃない?両手足の関節壊すで」
「よし、それで。記録は17秒だったよな!タイムアタック開始だ!」
リザードが外の仲間と物騒な会話を交わすと、尻尾を伸ばして壮間を捕えにかかった。そしてまんまと左腕を掴まれた壮間。このまま引き寄せられれば、宣言通りに関節が壊されるのは明白。
「こんなチンピラに黙ってやられてたまるか!」
《ジオウ!》
「変身!」
《ライダータイム!》
《仮面ライダー!ジオウ!!》
幸運にも片手は自由のままだったため、ドライバーを装着してウォッチの装填までできた。そして、十分に近づいたところでドライバーを回転。
ジオウに変身した壮間はリザードの尻尾を振りほどき、油断だらけの体に蹴りをお見舞いした。
「おぉぉっ!仮面ライダー…!マジか!条件変えっぜ、コイツぶっ倒したらボーナスタイムだ!今日は追加で2回ずつ、エクストラゲームさせてやんよ!」
リザードの宣言に仲間たちが湧き上がる。
その会話の内容で、永斗は彼らの正体を察した。赤嶺たち超常犯罪捜査課が追っていたウィンター事件とは別のもう一つの事件、それがコイツらによる暴行事件だ。
犯人の集団は全員がガイアメモリを所持しており、毎晩通りがかった一般人を相手に様々なルールを課して『ゲーム』を行っているという。いかにもな街のチンピラ集団だ。
「多分そいつがリーダーだ。頑張れ壮間くん、ファイトだよー」
「何言ってんですか手伝ってくださいよ!」
「そうしたいのは山々なんだけどね。どうもあの中の誰かが妨害電波出してるっぽくて、アラシに連絡取れないのよ。あっちがドライバー付けてくれないと変身できないし…というわけで1人でガンバ」
「えぇ…あぁもう!やりますよ!全然やれますし!」
気合を入れて反撃しようとすると、リザードは後ろに飛び上がったかと思うと、空中に
「トカゲってそういう…!」
ジオウもジカンギレードのジュウモードで応戦。高い位置にいるリザードを撃ち落とそうとするも、素早い動きを捉えきれない。
壁を蹴り、ジオウに飛びつくリザード。しかし流石に多少は鍛えられた反射神経で、ジカンギレードを瞬時にケンモードへと変形させる。そして、迫るリザードの右腕を易々と断ち切った。
「いや斬れやすすぎる…!嫌な予感が……」
斬れやすいということは、つまりくっつきやすいか再生しやすいということ。その後の展開は予想通りで、腕は瞬時に生え変わり、千切れた腕がジオウを掴んでリザードに引き寄せる。
「チンピラと思いきやまぁまぁ強いのジワるなぁ。しかもあの壁、変身前で使ってたしハイドープでしょ。流石にこの時期まで来るとインフレ酷いなー」
「いや冷静に分析してる場合じゃ…ヘブぅっ!」
「はっはー!そんなもんかよ仮面ライダー!」
腕を引き剥がすまでに引っかかれたり、殴られたり、とにかくかなりの痛手を負った。永斗の見立て通りこのドーパントは、普通のアナザーライダーやスマッシュ、魔化魍と比べてもかなり強い。
「せめて少しでも動きが止めれれば……」
「…見てらんない。面倒くさいけど、さっきのお礼にちょっと動こうか」
「永斗さん…?変身できないのに何を…」
リザードはジオウにのみ意識を向けており、その暗闇対応の視野でも永斗は見えていない。一切の警戒心を備えることも無く、戦いの流れのままリザードは永斗の付近に降り立った。
その瞬間、永斗はリザードの体にしがみついた。尻尾だけ切り離されないよう、全身をがっちりと固定するように。
「隙あり…なんつって」
「んだテメ……放せ!」
しかし所詮は女子に比べても非力な永斗。永斗の体はすぐに放り出され、リザードの苛立ちの矛先が向けられた。怒りはリザードの爪先にまで満ち───
爪の一閃が、永斗の体を引き裂いた。
「ッ……!」
「永斗さん!!?……クソっ!」
一見無駄な犠牲が生んだのは、確かな隙。
ジカンギレードにマッハウォッチを装填したジオウは、腕にこみ上げる力を全て速度に変換し、背を向けたリザードに刃を振るう。
《フィニッシュタイム!》
《マッハ!ギリギリスラッシュ!!》
「再生能力持ちには追っつかない程の連打…ですよね!」
リペアー・ロイミュードの時と同じように、目にも止まらぬ連続攻撃ならぬ連続斬撃が再生能力ごと細切れにする。最後に白い横一閃がタイヤ痕を刻みこみ、リザードの体は爆発四散した。
「リーダーがやられた…!?」
「おいざけんな…逃げろ!逃げるぞ!」
「待て…!……っ…」
今は奴らを追うよりも永斗だ。リザードの攻撃を生身で喰らって無事で済むはずがない、最悪即死だ。深く痛々しい三本の傷から、血が………
「血が……あれ、血?あれぇ!?」
こんな状況で出てきた間抜けな声も仕方がない。確かに斬られた瞬間は血が噴き出していたのに、確認してみると血だまりなんて何処にも無いからだ。
「ドッキリ大成功。テッテレー」
「わあぁっ!?永斗さん生き返った!?」
しかも永斗が普通に起き上がったのだから驚くなという方が無理だ。服は斬られたままだが、傷に関しては完全に塞がっていたし。
「ドッキリって…なんかのトリックですか?マジック的な…まぁ無事でよかったんですけど……」
「いや、僕じゃなきゃ死んでたよ。僕は色々あって完全データ人間なんだ。だから死んでも死ぬ直前がロードされる。同じ理屈で年もとらない。不変の存在ってわけ、凄いでしょ」
傷も流血もリセットされたということだろう。正真正銘の不老不死だ。それを聞き、永斗が言う『永遠の償い』も理解できた。
彼は死なない。その永遠の時間を孤独に絶望しながらでも、償いに捧げ続ける。それが士門永斗の選んだ道なのだ。
「凛さんの言う通り、本当に面倒くさがりですね…自分の体なんてどうせ治るから、大事にするのも面倒くさい…って、滅茶苦茶だ。でも助かりました。ありがとうございます」
「いいよ別に。てか凛ちゃんから聞いたんだ、僕のこと。なんて?」
「良い人ではないって」
「辛辣。凛ちゃんそういうとこあるよね、意外に毒舌って感じ。でも正直どうよ、そういうとこも超可愛くない?凛ちゃんって」
そう言った永斗の表情は、事務所で見た眠たそうな表情よりもさらに柔らかく、心からの安息を感じた。きっと彼にとってのμ’sは、そういう特別な存在なのだろう。
「可愛いと思います。猫みたいで」
「でしょ。でも実は魚嫌いだしお外で元気いっぱい少女だし、犬っぽいんだよね。しかも猫アレルギー。それとショートカットね、プラス貧乳。萌える」
「そこ大事ですか…?」
「大事。でもロング凛ちゃんも見てみたい…あとは凛ちゃんって、あぁ見えてマジで自分に自信が無かったんだよ。あんなに可愛いのにさ、『凛はみんなみたいにアイドルっぽくない』とか『可愛くない』とか『スカート似合わない』とか、何言ってんだクソ可愛いけどふざけとんのかって話なんだけどね」
段々と加速していく口調。俗に言う『オタク』という奴だろう。香奈に似た物を感じた。
「しかも人の事ばっか見て、人にばっかり優しい。僕なんかを受け入れるし、友達として引くくらい距離近いし、他人のいい所たくさん挙げてって言ったら一番多く言えちゃうタイプ。本当に…尊いと思う」
「好きなんですか?凛さんのこと」
「好き。大好き。永遠に、僕の最高の推しだよ」
面倒くさがりの永斗が、これだけ熱心に見て、感じて、それだけで飾りの無い本音であることが壮間にも分かる。
しかし、ファンとアイドル。不死者と生者。罪人と無垢。近いように見えて、この二人の距離は永久に遠い。
「…恥ずかしいこと言ったとこで、仕方ないし仕事しようかな。タイムジャッカーさんも来ないみたいだし、とりあえずさっきのチンピラ集団の足取りでも探ろっか。壮間くん、検索するから周囲の色々お願い」
「検索?あ…!」
「そ、本棚使うの。まぁ見てて」
そう言って永斗が持ったのは分厚い本。それを右手に持つと目を閉じ、腕を開いて深く呼吸をする。壮間目線では何も変わっていないが、永斗の意識は確かに肉体から抜け出て、別の次元へと移動していた。
眼を開けると、そこは無数の本棚が浮かんだ白い空間。見慣れた景色、これが無限のデータベース『地球の本棚』。
「さーて検索項目は…っと……」
何から探しに行こうかと考えるが、今回は直接犯人の姿も見ている。適当に検索しても絞り込みに難航はしないだろうと考え、適当に検索ワードを入れていく方針を定めた。
だが、そこでピタリと止まった。それは動きだけでなく、思考も。
有り得るはずの無い感覚。孤独でしかないはずのこの空間で感じる、『誰かの気配』。
「なるほどね……冗談でしょ。そう来るのは流石にさ」
「君が士門永斗だよね?わたしは三番目の想像主、タイムジャッカーのオゼ。わたしはその知識が欲しいんだよ。そうだね…まずはお友達から始めようか」
_____________
「壮間!永斗は…!」
「ここです!本棚に入ったっきり戻って来ません。今も話してます…タイムジャッカーのオゼと」
携帯電話が復活し、壮間はすぐさまアラシに連絡した。
何故なら本棚に入った永斗が明らかに誰かと会話を始めたから。その内容を聞いていれば、相手がオゼだというのはすぐに分かる。
「まさか地球の本棚にカチコミかけてくるとは思わねぇよ」
「出来るんですかそんなこと!?」
「知らねぇが現に出来てんだろうが。こうなりゃ俺たちに出来ることはねぇ」
オゼの本体が見つけられるなら最初からそうしている。本棚に干渉できない者たちはここから先、戦いの舞台に立つことすらできない。
「信じるしか無いってことですよね…永斗さんを」
____________
「君がオゼちゃんか。思ったよか大分可愛くて驚いてる。まぁ見た目と人格に大した相関無いのはよーく知ってるけど」
「あなたに褒められると悪い気はしないんだよ。それよりさぁ、さっきの返事を」
「焦らないで。ここにお客さんなんて初めてなんだ、ちょっとお喋りしようよ。そうだ、君どうやってここに来たの?」
何か意図があるのか、永斗は会話を持ちかけた。邪悪ではあるが無垢で裏の無いオゼは、相手の言葉の裏を読むということをしない。聞かれたままに、嬉々として自身の研究を語り始めた。
「地球の本棚!それは地球の意思と深く繋がった者のみが入れる究極至高の書庫!とっても苦労したんだよ。世界をわたしが介入できる状態に調整し、なおかつ身体を君のようなデータの組成に寄せなきゃいけなかったからね」
「組成を寄せた…?ガイアゲートにでも飛び込んだワケ?」
「わたしも死にたいわけじゃないんだよ、そんなことしない。だから地球の意思を
「なーるほどねドン引き。君がしっかりめにイカれてるのはよく分かった」
だが、オゼは不満そうに本棚の本に触れる。その手は本をすり抜けてしまい、読むどころか持つこともできないのだ。
「生命活動維持限界まで移植したけど、シンクロ率が足りないんだ。わたしはこの知識たちに触れることができないっ!実に!真に!疑いようも無く!これはこの上の無い無念!!わたしの『願い』は目の前にあるのに!漸近線の如く無と有の境を超えることは叶わないッ!」
「うわびっくりした。急に叫ばないでよ」
「そこで相談なんだよ。あなたにはわたしの助手になって、本を開いて欲しい。見るだけならわたしもできるから。どうかな?悪い話じゃないんじゃないかな?」
「どこが?可愛いくても悪いヤツの手下として本開きバイトなんて、全体的にナシだと思うけど」
「どうして?わたしと一緒に来るのは幸福じゃないの?
あなたの出生は知ってるよ。ダブルの物語が消えれば、あなたは
オゼが発した一言に、敢えて永斗は反応しなかった。
ここで言葉を発せば外の壮間たちにもこの事実を知られてしまう。そもそも、永斗だって自分の出生は知っているのだ。そんなことは壮間の話を聞いた時から察していた。
「わたしならあなたと地球の本棚だけは保存させられる。それでも嫌?何が不満なのかな?欲しいものがあればなんでも言って欲しいんだよ」
「欲しいもの……ねぇ。そこまで言うなら聞いてもらおうかな」
アラシ達とは違い、永斗は存在そのものが消滅するだろう。それが嫌じゃないといえば絶対に嘘だ。どんな手を使ってでも生きたいに決まっている。
それでも、生きるよりも譲れないことが永斗にはある。
「同調に時間がかかった。シンクロ率操作なんて初めてだからさ」
オゼの場所まで浮かび上がり、意図的にオゼとシンクロ率を合わせた永斗が、彼女の頭部を両手で掴んだ。
その瞬間、オゼの全身に何かが吸い取られる感覚が駆けた。今の両者の体は完全なデータ。吸い取られるとすれば情報、つまり記憶しかない。
「やったらできるもんだね。君の知識をコピーして僕の記憶にペーストする。消える前に仕事があるんだ、そのためにちょっと知見を貰うよ、物理的に」
「っ……!イイ…すごいよ士門永斗!あなたはわたしの想像を超えてる!でもやっぱりわからないんだよ!わたしの交渉の何が足りなかったのかなぁっ!?」
「そんなの決まってる。死を覆してまで働きたくない、ってだけさ」
永斗の捨て台詞を聞いたオゼは恍惚と笑い出し、それを捨て台詞にはさせなかった。オゼも同じように永斗の情報へと干渉し、記憶のコピー&ペーストを始めたのだ。
「やっば」
「不変の身体、無限の知識量に卓越した頭脳!そして揺らがない信念っ!あなたは心も頭脳も身体も全部完璧だよ!あなたの同意は得られないことは分かった!でもわたしはあなたが欲しい!絶対に!」
双方共に尋常じゃない知識を持った存在。それを読み解き、自分の記憶に定着させるなんて情報処理能力がいくらあっても足りない。これはどちらが先に脳の限界が来るかの勝負だ。
しかし、オゼも永斗も分かっている。
それは単純な生きた時間の差。タイムジャッカーとして時間を超え、無尽蔵の時間を研究に投じてきたオゼの方が圧倒的に知識量が多い。このままでは必要な情報を探ることもできない。
「あぁ…っ!身体が熱い!これはなんだろう!そうか、これが恋というものなのかな!?わたしはあなたが好きかもしれないよ、士門永斗!」
「ただの熱暴走だから安心して!あと僕は君みたいな面倒くさい女の子大嫌いだから!」
「恋人はダメならやっぱりお友達でどう!?さっき言ったみたいに助手は!?なんでもいい、あなたとお近づきになりたいんだよ!」
「猛烈なアプローチどうも!でもね、生憎様なわけ」
オゼの体に流れ込む情報量が、急激に増した。
これは永斗の記憶ではない。もっと一塊に纏まった、例えるなら情報の鈍器。
永斗は情報を読み取りながら本棚を操作。そして、この攻防と同じ要領で本から情報をコピーし、オゼにペーストしているのだ。それも片っ端から見境なく叩き込んでいく。
「好きな人。好きだった人。友達。相棒。それに後継者。
狭い部屋で怠惰だった僕は、どれも欲しいとすら思わなかった。それが今はどこも満席だ。僕の中で君が入れる場所なんて……どこにも無い!」
オゼの意識が情報で押し流される。
押し勝つだけじゃ何も達成できてはいない。目的はオゼの知識なのだから、この膨大なデータの中から必要な情報を選ばなければ。
「最期までこんな感じかぁ…本当、僕ってなんだかんだ働き者だよね」
永斗は消える。オゼを拒絶した今、それは確定した。
それによって永斗が犯した罪は消えてしまう。それでも壮間は、その罪は消させないと、永斗の罪は自分が向き合うと言ってのけた。
もし、永斗のおかげで王様になった壮間が世界を平和にすれば、それは永斗の償いの代わりになるだろうか。
「そうなれば壮間くんは僕の……いや、ふざけたこと言ってないでやるか。さーてどっから探して………」
最後くらい自分を許してもいいんじゃないか。壮間の言葉が過ぎる。
そこまで言うなら思いのまま、最後の祭りを楽しもう。そのために、知るべきことなんて絞り込めない。何故って最後なんだから。
「あぁもう面倒くさい───全部だ」
オゼの知識の全てが永斗に押し込まれていく。
地球の本棚が拡大し、更新される。その有り得ない光景の中心で、永斗は溜息を笑い飛ばした。
_____________
「永斗さん……大丈夫ですかね」
「大丈夫だ。それより水とか持ってきてやれ」
「水?って熱っつ!!」
壮間が不意に永斗に触れると、ジュッと熱が肌にこべりつく音がした。言われてみれば若干気温も上がっている。
「なんですかこれ!?人間ストーブ!?」
「話聞いてたろ、情報処理で脳みそがフル回転してんだ。細胞が焼き切れたとこから再生して辛うじて無事って感じだな」
「無事ではないですね。あそっかだから水!」
それを聞くと壮間はすぐに水を取りに行った。
アラシは永斗が戻ってくるのを黙って待つ。だが、心配なんてするまでもない。
「………ふぅ、疲れた」
「やっと帰って来やがった。勝手に何おっ始めてんだお前は」
「流れよ。仕方ないでしょ、あそこまで熱烈歓迎されたんだから。僕の家だけど」
目を開けると同時に永斗は倒れ込んだ。
永斗が戻って来たということは、オゼの知識の全てをダウンロードしたということ。にわかに信じ難い事ではあるが、探偵はお互いが常識外れなんてことは知り尽くしている。
「ご苦労さん」
「おっ、アラシが労わるなんて珍し。でも休ませては?」
「駄目だ。お前にしかできないんだ働けボケ」
「オゼちゃん見つけたのも僕なのに…まぁいいよ。今回は楽しむって決めたからね。たまには僕もやる気出して───」
永斗の口からレアな台詞が飛び出しそうだったその時、永斗の顔面を大量の水が横殴りした。フライパンに水をかけたみたいな音を出し、全身がびしょ濡れに。ついでにアラシもびしょ濡れ。
犯人は言うまでもなく水を取って来た壮間だった。
「いきなりぶっ放す奴があるか。テロだぞそれは」
「壮間くんって実は結構おバカ?」
「えっ…えぇっ!?」
_______________
地球の本棚での壮絶な情報争奪戦が終わり、一夜明けて翌日。
「僕が一晩でやってくれました」
「うおおおおっ!?」
「まさか本当に…これで梨子たち、2015年の者と会話できるのか!?」
あそこから徹夜した永斗が音ノ木坂の屋上に持ってきたのは、超大画面テレビを改造した時間通信機器だった。
「事務所のテレビじゃサイズが話にならなかったから、テレビはあるルートから見繕いました。ウィルさんにファイズフォンⅩの追加も貰って、あとの足りないパーツはリボルギャリーとか色々と分解して……なんでもいいや死ぬほど疲れた」
「永斗くんすごいにゃ!お疲れさま!」
「ありがと凛ちゃん…頭なでなでして」
「気持ち悪い」
疲弊した永斗にも容赦が無いのは真姫だ。
あとのメンバーは驚いているか、その通信が待ち遠しくて仕方ないという様子。
「それでそれで!もう話せる!?Aqoursと一緒に練習できるんだよね!」
「ほのちゃんストップ。がっつかないで、色々設定とかあるから」
穂乃果やにこ、後は花陽を抑えて永斗は機械の裏に回る。そこで設定をするのかと思いきや、永斗はちょいちょいと壮間に「こっち来て」のサインを送る。
「なんですか?」
「いや、実はオゼちゃんの記憶から面白いもの見つけてさ。これ知ってる?」
「……?あー、はい。知ってます。2015年で見ましたけど…それならアリオスさんに聞いた方が」
「無理。女子に話しかけるのキツい。
それなんだけど、それ使えたら一つ作りたいものがあって……」
永斗は壮間にもう一度耳打ちをする。その内容を聞いた壮間は、驚きの余り思わず大声でシャウトしてしまうところだった。それが本当に作れるのならば、目の前のコレが見劣りするくらいの奇跡だ。
「で、でも…なんでそれを俺だけに?」
「皆に言ってから無理ですってなったら気まずいでしょ。それに壮間くんならなんと言うか…気楽っていうか。適当でいいみたいな」
「なんすかそれ。褒めてます?」
「わかんない。考えるのも面倒くさいし。
さて、僕しばらくサボるから。聞いたからには代わりに頑張ってね、僕の………」
永斗は手の平をヒラヒラとさせながら、欠伸をして屋上の日陰に走って行った。色々と言いたい事はある壮間だが、台詞の末尾に聴こえたような気がした単語が、何よりも気になる。
「ノーベル賞…?」
ある天才は死と呼ばれ、後世の科学者に平和を託した。
また別の天才は悪魔と呼ばれ、それでも受け入れてくれた大切な人たちの幸せを願い、
その願いを、一人の普通の少年に託すと決めた。
______________
「オゼ、おーいオゼ。ダメだこりゃちっとも動かない」
ヴォードの前で地球の本棚に入った後、急にオゼが倒れたかと思うと、目を開けたまま声にも衝撃にも一切反応しなくなってしまった。永斗によって送り込まれた情報処理に、頭が全く追いついていないのだ。
「これでしばらく大人しくなるならいっか。アナザーダブルもアナザーゴーストはいい仕組みだし、上手く行けばあの男を出し抜けたり」
あの男、今は令央と名乗る彼のことだ。
タイムジャッカーと令央には巨大な因縁がある。だから彼の恐ろしさ、嫌らしさはよく知っている。仮面ライダーたちがオゼを退けたからといって、ナギと令央の二段構えをどうこうできるとは思えない。
「アイツら頑張っても無駄だと思うけど…どーせゴーストの方は
ヴォードは過ぎる時間が鬱陶しそうに、さきイカを口に入れた。
ゴーストの物語は緩やかに終わりへと近づいている。
戦いの芽は、2015年にも残り、静かに根を張り始めていた。
今回登場したのはMrKINGDAMさん考案の「リザード・ドーパント」でした!なぜ今リザードかと言いますと、Twitterで馴染みの人がイラスト貰ってたので影響受けまして…
ラブダブル見てない人用の永斗の掘り下げ回でした。いや、あっちでもこんなに掘り下げてないからほとんど新情報です。
次回は場面を変えて2015年の話を少しだけする予定です。不十分だったゴーストサイドの掘り下げですね。ドンドン掘っていきましょう。