仮面ライダージオウ~Crossover Stories~   作:壱肆陸

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トウキ
仮面ライダー闘鬼に変身した男性。37歳。本名は戸倉寅正。音撃射屈指の達人だが過度な酒飲みが災いして人望は薄い男。原典とは異なり離婚しており、来年中学生になる娘がいるが仕事でほとんど留守にしているせいで大分嫌われている。サバキは同期のライバルで20年来の付き合い。妖館護衛班だが、旅に出まくる蜻蛉の専属という特殊な役割を持っている。2005年ではアナザー響鬼に敗れるが戦線に復帰し、アナザー響鬼討伐に貢献した。修正された歴史でも酒癖の悪さで離婚するダメ親父、娘が結婚する際には大泣きしながら30年来の友人と一晩飲み明かしたらしい。

本来の歴史では・・・
出番が少ない。蜻蛉が帰ってきたとき限定のゲスト扱い。故にあんまり活躍しないが、実は海外で発生する魔化魍の討伐及び調査という立ち位置で、1人で猛士の研究をかなり進めた凄い人。


デュエマでガイギンガを当てた146です。凄いです。幸運で生きていく男です。
永斗メインの前回から、なんと今回永斗の出番ほぼ無し!出番は平等理論!できるだけスクールアイドル方面に寄せて行きたかった回です。

ラブダブルでご無沙汰の「アイツ」も出ます。

今回も「ここすき」よろしくお願いします!


みんなの力で

窓から陽の光が指し、一日の始まりを告げる。

寝ぼけまなこで始まるいつもとは違い意識ははっきりとしている。なのに、起き上がれる気がしないのは何故だろう。

 

それはきっと、高海千歌の太陽はそこに昇っていないから。

 

 

『ごめん……千歌ちゃん……!!』

 

 

朝陽の最期の言葉だけが耳に残る。

このまま歴史も消えてしまう。何をしたところで先に残ることはないという虚無感に囚われ、ここから一歩も進めない。

 

 

「朝陽くん…やっぱり私…朝陽くんがいないとダメみたい」

 

 

虚無感のせいじゃない。動けないのは単に恐怖のせいだ。

眼魔やガンマイザー、アナザーゴーストにアナザー電王。朝陽という『守ってくれる人』が消えた今、普通なら到底耐えるはずのない恐怖が鮮烈に心を刺す。

 

 

「もう2日もこうしてる。朝陽くんに怒られちゃうなぁ…『若いんだからお日様浴びて遊んできなさい』って、おじいちゃんみたいなこと言って……」

 

 

気まぐれか自分でも分からない。それでも呼ばれているような気がして、千歌はふらりと立ち上がって扉を開けた。

 

 

 

無気力なまま、導かれるまま、山道を進んで足が向かう先は幼いころ何度も行ったあの場所。今は何も見えないが、間違えようも無い。モノリスが佇む地だ。

 

千歌が幼いころ冒険と称して辿り着いたこの場所で、千歌は朝陽と初めて出会った。

 

 

『おにいちゃん、だれ?』

 

『僕が……見えるの……!?』

 

 

よくは覚えていないが、これだけは記憶に焼き付いている。朝陽は千歌の顔を見て、泣きそうな顔をした。幽霊だから涙が出なかっただけで、きっと泣いていたのだろう。

 

 

「なんで泣いてたのか、最後まで教えてくれなかったよね…」

 

 

そこから志満や美渡、曜や果南にも朝陽を紹介しようとしたが、朝陽を見ることができたのは千歌だけだった。いつだったかそれがふと気になって、朝陽に尋ねたことがある。

 

 

『どうして私にだけ朝陽くんが見えるの?』

 

『それは千歌ちゃんが凄い子だからだよ』

 

『もー、そればっかり!もっとちゃんとした理由が知りたいよ!はっ…!もしかして才能かな!?えくそしすとの才能があるんだよきっと!』

 

『エクソシストだと祓われちゃうんだけど…まぁそうかもしれないね。だとしても本当に凄いのは才能じゃなくて、千歌ちゃん自身だと僕は思うな』

 

『えー、どうして?』

 

『僕に命をくれたから。あの日、千歌ちゃんが僕を見つけてくれたから、僕は今こうして()()()()。僕という命を生み出したのは君だから、千歌ちゃんにしか見えない…そう思うよ』

 

『うーん……?わかんない!』

 

『千歌ちゃんは僕を見る天才ってこと。もし僕がどこかに消えちゃっても、千歌ちゃんがそこにいると思えば僕はそこにいる。千歌ちゃんが思ってくれる限り、僕は永遠に不滅なんだ』

 

 

翳んでいた景色が色づいたように感じた。

やっと思い出して、理解した。朝陽はまだ消えてなんていない。

 

 

「朝陽くんが居た証はここにある。ちゃんと私が覚えてる!朝陽くんはそこにいるって、私のこと見てくれてるって…信じればいいんだ!」

 

 

姿は見えない。声も聞こえない。

それでも『いる』。だからもう怖さなんて忘れてしまえばいい。

 

砕けてしまったオレ眼魂を握りしめ、千歌は大きな歩幅で走り出した。

 

 

_____________

 

 

Aqoursの集まりに一人目立つ大きな姿、神楽月蔵真。

慣れているはずのメンバーも、今は全員が彼に注意を向けざるを得ない、何故なら…

 

 

「……蔵真さん。いい加減貧乏ゆすりはおやめなさい」

 

「すまん」

 

「って言いながら加速する一方…よっぽどリオちゃんのことが心配ずらね…」

 

 

この2日間、蔵真は尋常ではないくらい落ち着きが無かった。昨日に関してはたこ焼きと間違えて眼魂を食べようとしていたくらいだ。

 

 

「そんなに心配ならリオちゃんを送り出さなきゃよかったのに」

 

「曜さんの言う通りですわ。それでその始末なら世話ありません」

 

「馬鹿を言うな。アリオスにはもっと外の世界を見せてやりたい。しかし心配なものは心配だ!男と二人で東京とニューヨークと過去だぞ!?ダイヤ、アリオスに電話をかけろ。今すぐにだ」

 

「過去に連絡できるわけありませんわ!大体つい先ほどもこの話をしたばかりで……」

 

 

願いは天に届くと言うが、ここまで早いと神の勤勉さに引くレベルだ。

壮間のファイズフォンⅩから着信。未来の携帯電話なら過去から未来に電話するのも頷けてしまう説得力がある。2009年からに違いない。

 

 

「俺が出る!!」

 

「ちょっと蔵真!重要な連絡かもしれないんだからストップストップ!鞠莉、そっち抑えて!」

 

「OK果南!ハーイ蔵真~Stayよ~!」

 

「完全に犬の扱いずら」

「地獄の番犬…ケルベロスペクターね」

「それカッコいいと思ってるずら?」

 

 

なんとか蔵真の暴走が収まったのを確認すると、ダイヤは落ち着いて電話に出た。荒ぶっている人を見た後だと、より冷静になるというのは本当らしい。

 

 

「もしもし壮間さん?今回はどんなご用事で……えぇ、本当に過去からかけているんですのね……えぇ…えええぇぇぇぇっ!!!????現役の…み、みゅみゅ、みゅ、μ'sに会ったあぁあぁぁ!!???」

 

 

落ち着けと諭していた人物は何処に。驚きと絶叫で激しく取り乱すダイヤを見て、蔵真が若干静かになるくらいだ。それはそうと、受話器越しの壮間の鼓膜も危ぶまれる。

 

そこから先の壮間の報告は、2015年の真姫と穂乃果に出会い、2009年に行ってμ's全員に会って1年組とラーメンも食べに行ったという爆弾連投案件。羨ましさのあまりダイヤが血涙を流す前に、梨子がダイヤから電話を取り上げた。

 

 

「ごめんなさい、ダイヤさんちょっと動揺してるみたいだから私が…え、香奈ちゃんを助けるために……時間を超えてμ'sとAqoursで合同ライブ!?」

 

「μ’sと合同ライブですってえぇぇええええっ!!!??」

 

「おい!しっかりしろダイヤ!ダイヤぁぁぁぁぁっ!」

 

 

喜びと衝撃が脳天から噴出し、倒れたダイヤは蔵真に受け止められる。

 

 

「これは夢……!?そうですわこんなの夢以外にあり得ません!蔵真さん、わたくしの顔を全力で殴りなさい!」

 

「よし分かった。行くぞダイヤ!」

 

 

それで気を確かに持ってくれるならと、拳を握り固める蔵真を全員で止める。

 

 

「ルビィちゃん、しっかりずら」

 

「μ'sとライブ……?ルビィたちが……!?」

 

 

妹のルビィはダイヤのように叫びはしないものの、やはり姉妹揃ってアイドルファンの黒澤姉妹、現実が呑み込めないのか思考が機能停止している。妹の方はなんとかお嬢様の威厳を保てているから良いが。

 

総じてカオス。突然の爆弾情報により、この場に冷静な精神状態の者は誰もいない。

 

 

____________

 

 

 

「ごめんなさい。お見苦しい所を……」

 

『いや分かりますよ。落ち着いて…はいないみたいですけど、とにかく説明しますね』

 

 

テレビ電話に切り替え、音ノ木坂の生徒だったからか比較的冷静な梨子が壮間との会話を再開する。

 

 

「合同ライブをアナザーゴーストに見せれば香奈ちゃんを救える…ってこと?」

 

『理論上…ですけど。今詳しい計算をこっちの仮面ライダーがやってくれてます』

 

「多分合ってると思う。私もそうだったから分かるの。アナザーゴーストになってる時、私の中の誰かが色んな事を囁いて来て、まるで私と一つになろうとしてたみたいだったから」

 

『それでライブの方はどうです?やってくれますか?』

 

「もちろんですわ!!!やります、やらせていただきます!!」

「うん!ルビィも!ルビィもやりたい!μ'sとライブ!」

 

 

ここぞとばかりに出しゃばる黒澤姉妹。

しかし、ふとある事を思い出してその勢いも減衰した。断る理由は無いのだが、一つの懸念要素が皆の決断を鈍らせているのだ。

 

 

『…どうしました?』

 

「やりたいけど…千歌ちゃんが。朝陽くんが消えちゃってから、千歌ちゃんずっと顔も見せてくれないし、そんな状態じゃとてもライブなんて……」

 

「……大丈夫っ!!」

 

 

保留の流れを張りのある大声で断ち切ったのは、汗をかいて息を切らした千歌本人だった。眼魂を握ったその姿を見れば、懸念要素はもう消えたことなんて仲間なら分かる。

 

 

「千歌ちゃん!」

 

「大丈夫だよ梨子ちゃん!みんな!

やろう!μ'sとAqoursのライブ!やってみんなで奇跡を起こそう!」

 

 

朝陽が見ている。だから情けない姿は見せられない。

 

千歌が来たことでAqoursの決意は固まった。

スクールアイドルフェスティバルの開催が、ここに決定したのだ。

 

 

_____________

 

 

 

「……というわけです!」

 

 

Aqoursの参加意思をμ'sに伝え、否応にも彼女たちの士気が高まる。

 

 

「やった!本当にAqoursとライブできるんだよ、みんな!」

 

「穂乃果は適応力が高すぎます…私はまだ飲み込みきれてないんですよ?」

 

「その割には冷静じゃない。この1年、非現実が多すぎて皆随分慣れたでしょ?」

 

 

真姫の言葉に海未も思わず納得。

本当にその通りだ。殺人事件、密室事件に怪盗や世界滅亡まで非現実が毎日のようにやって来る日々。もう未来と言われても困惑の体裁を保つくらいで終わってしまう。

 

 

「盛り上がってんな。後は打ち合わせの内容に即して俺たちでライブ準備か。俺がアイツらのライブにあれこれ口出すのも最後だしな」

 

 

それを見守るアラシも、なんだか嬉しそうだ。μ'sのためにこのライブを企画したのはアラシなのだから、当然か。

 

話によると、アラシはμ'sのライブ企画やスケジュール調整を担当していたらしい。振付けやコーチなどμ'sのために彼に出来ることを模索していった結果、ここに落ち着いたとか。粗暴に見えて、仲間のために献身的な男だ。

 

アラシも永斗も、この一大イベントの中で役割を持っている。それを見れば、壮間だってじっとしてはいられない。

 

 

「アラシさん、俺に出来ることは無いですか!?俺の役目はアナザーダブルを倒すこと…そのために俺はどうすれば…!」

 

「出来ること?無ぇよ。アイツらのドリンクでも作っとけ」

 

 

先輩戦士からのアドバイス等を期待していたが、返答は凄まじく雑だった。

 

 

「アラシさんめちゃくちゃ強いじゃないですか!修行とかつけてくれたり…」

 

「ライブまでの高々数日で修行もクソもあるか。ただまぁ仮に、短い時間を圧縮して連戦修行する方法があったとしても、お前じゃ大して強くなれねぇ。荒療治で強くなれんのは日頃から人殴って来た奴だけだ」

 

「それじゃ俺はどうすれば……」

 

 

先人に答えを求めるのは身勝手かもしれない。

それでも今はそうするしかないのだ。今を切り抜けるためにも、これから戦っていくためにも、壮間には一人で戦える強さが必要なのだから。

 

切り詰めた表情があからさまな壮間に、アラシは首をかきながら少し悩む。こういう『誰かにアドバイス』みたいな真似は、なんとなく柄では無く困ってしまう。

 

 

「……言っておくが、俺ならあのクソルールが無けりゃナギにギリ勝てる」

 

「え、はぁ…」

 

「だからだな……っと、アレだ。そもそもあんな力を持ってるお前が、負けるわけねぇ。それで勝てねぇって思うんだったら、それはお前に何かが足りてないって話だ」

 

 

舌足らずな感じが否めず、アラシはそれ以上話してくれなかった。

しかし、壮間はこう捉えた。とどのつまり、単なる壮間の力不足でしかないと。

 

アラシならナギに勝てる。つまり、継承したレジェンドの力を完全に使えたのなら、どんな相手だろうと戦えるはずという話だろう。しかし現状、壮間はレジェンドライダーの力を半分も使いこなせていない。

 

 

(俺に何が足りないか……そんなの、多すぎて分かるわけない)

 

 

足りてなさ過ぎたから、今こうして最悪の中に居るのだ。香奈を失うというバッドエンドを無様に繰り返してしまったのだ。壮間には全てが足りてなさ過ぎるから、いつも誰かに教えてもらい、助けてもらわなければ先に進めない。

 

思考が何一つ前進しない。このままじゃ勝てないという焦りだけが、チェーンの外れた自転車みたいに無意味な藻掻きを続ける。

 

 

「あー!アラシくんが壮間くんをイジメてるにゃ!」

 

「凛さん、やっと帰って来た」

「おいコラおつかいにどんだけ時間かけてんだ。小学生かテメェは」

 

 

永斗に頼まれて買い物に行っていた凛が帰ってきて、μ'sも面子が揃う。しかし、凛の方を向いたアラシと壮間は、そこに並んでやって来た姿を見て、心の像が揺らぐほど戦慄した。

 

 

「はいっ壮間くんにもお菓子買って来たよ!これ食べて元気出すにゃ!」

 

「凛さん……なんで、その人達と一緒に……!?」

「………クソが」

 

「ややっ、そっちの男の子は昨日の!改めてこんにちは、スクールアイドル火兎ナギです!……よろしくっ☆」

 

「やぁ()()()()()。私は令央、ただの彼女の付き添いさ。邪魔はしないからそう怖い顔をしないでくれ」

 

 

少しも目を離すべきじゃなかったと、アラシは後悔した。

事情を知らない凛に引っ付いて白昼堂々現れたナギと令央、この2人こそこの絶望の根源。

 

凛と引き離そうとした壮間だが、アラシがそれを止めた。

今、ナギと令央は凛の近くを陣取っている。下手に動けば凛に何をされるか分かったものではない。それを分かっているナギは、激情を煽る笑顔で人差し指を口元に立てた。

 

 

「さっきばったり会ったんだ!あんな事があったから心配だったけど、なんかもうバッチリ元気みたいにゃ!」

 

「キュートでポップで不死身のアイドル、ナギちゃん!もう歌ったり踊ったりもできちゃうよ!ちょっとデート中だったんだけど、嬉しくてつい押しかけちゃった!」

 

「アイドルが堂々と彼氏を連れ歩きって、相変わらずみたいね…」

 

「恋愛禁止とは言わないけど…そういうのは気を付けなきゃダメだよ!ナギちゃんはスクールアイドルでも有名なんだから!」

 

 

呆れる絵里に、慣れた様子で釘を刺す花陽。アラシがナギの事を話さないため、恐ろしい事にμ'sにとっては彼女はただの友人でしかない。

 

 

「私も彼女のライバルに興味があるから来てみたが…何か取り込み中みたいだな。邪魔になるなら帰ろうか」

 

「いえいえ!せっかく来てくれたんですから、令央さんもゆっくりしていってください♪」

 

「今度は不思議な人ね。あなたのタイプって本当に分かんない」

 

「ささっ、ここにどうぞ!海未ちゃーん!お茶とお菓子持ってきて!」

「穂乃果の分はありませんよ!?」

 

 

そんな友人が連れて来た人物を必要以上に勘繰ることもなく、ことりはいつもの柔らかな態度で令央を歓迎。真姫は令央を観察しているが、疑っているわけではない。

 

令央までも受け入れる雰囲気が出来上がっている。彼を知り、憎む壮間にとって、この状況は控えめに地獄だ。

 

 

「いや、長居はしないさ。彼女もそのつもりだ」

 

「色々忙しいんだよねーこっちも。私は凛ちゃんが言ってた『凄いこと』が気になって付いてきただけだし?」

 

「え、凛そんなこと言ったっけ……」

 

「言ったじゃーん!もったいつけてないで教えてよ!」

 

「おい待っ……!」

 

 

アラシの言葉も、ナギの動く素振りを見て止まってしまう。2人がここにいる間、余計な言葉を挟むことも許されない。

 

 

「それで?」

 

「あ…えっとね。詳しくは言いにくいっていうか、信じられないようなことなんだけど…とっても遠くのスクールアイドルと一緒にライブすることになったんだ!その時はナギちゃんにも見て欲しいにゃ!」

 

「へぇ…()()()()()()()()()()()ねぇ。分かった!それはぜひとも……楽しみにしとくね☆」

 

 

アラシの意図を汲んだわけではないだろうが、凛はぼかした表現でナギに伝えた。しかしそれも無駄だったか、ナギは全てを理解したように頷き、振り返った先のアラシと壮間に見せつけるのは下卑た笑み。

 

 

「あれ、ナギちゃんもう帰っちゃうの?海未ちゃんがお茶持ってきてくれるのに…」

 

「ごめんねー穂乃果ちゃん、今の時間勘違いしてて。もう行かなきゃ。ほら行こ、令央さん?」

 

「あぁ。そのライブ、必ず見に行かせてもらうよ。μ'sの皆様方」

 

 

立ち去るナギと令央。ようやくμ'sから離れてくれたが、ここで手を出して戦いになれば合同ライブじゃなくなる。相手が何もしないのなら、ここは黙って見送るしかない。

 

 

「……テメェが令央か。壮間から聞いた通り、気色の悪い雰囲気だな」

 

「気安く話しかけるな贋作風情が。ただのヤクザ崩れと交せるほど安い言葉は持ち合わせていない」

 

「俺には冷てぇじゃねぇか。それにヤバいオーラだだ漏らしの割には何もせず帰る辺り、さてはただの女好き変態か?」

 

「これだから贋作は。キャンバスに乗せる絵の具にも順番がある。私の思い描くバッドエンドのため、一筆ずつ慎重に乗せていくんだ。今、私が描くべき一つ目の絶望はこの時代じゃない」

 

「何…?」

 

「蒔いた種が実った頃だ。落ちた果実は醜いグラデーションで世界を塗り潰す」

 

「意味わかんないけどそーゆーこと。じゃ、また会おうね2人とも!」

 

 

知らぬ者から見たら活気のいい挨拶。

知る者から見たら邪悪極まる『犯行声明』。ナギはそんな言葉を残して消えた。

 

ナギがライブに対して何かしらの妨害を行うのは明白。しかし、それよりも気になるのは令央の言葉。奴は既に、何かを完遂した後だ。

 

 

「……永斗に急がせる。一刻も早く練習環境を確保するぞ」

 

 

幾度も感じた胸のざわつき。嫌な予感。

アラシの本能はそれを正確に嗅ぎ当てる。一度も外したことのないその『勘』が、更なる最悪の到来を予見していた。

 

 

___________

 

 

 

「鞠莉さん!テレビは!?」

 

「とびっきり大きいのを用意したよ!画質もso beautiful!」

 

「曜さん!接続の手順の方は!?」

 

「有線で携帯をテレビに繋げて、カメラも別に用意して…うん、できそうだよ!」

 

「果南さん!花丸さん!千歌さん!」

 

「「「なに!?」」」

 

「あなた達は機材に触れることも許しません!良いですか?これは奇跡の通信なのです!現役時代のμ'sと!伝説の中にいるμ'sと会話できるという、人類史に刻まれるべき偉業!もし雑に扱って通信が途切れるようなことがあれば……!」

 

「わかったから落ち着けダイヤ。荒ぶったって電話が来るわけじゃない」

 

 

壮間から2015年側で必要な手順は聞くことができた。時を超える通信はあちらで特殊な装置が使えれば、こちらは受信した映像を画面に映すだけでいいという。

 

そうと決まれば爆速で準備が進められ、後はあちらからの着信を待つのみ。しかしダイヤにとってこれが長く、ソワソワが地震レベルになっては蔵真が諫めるの繰り返しとなっている。

 

 

そんなこんなで待つこと暫く。

待ちに待った着信が、ついに音を鳴らした。

 

 

「来たぞダイヤ!」

 

「お、おおお姉ちゃんどうしよう!出ていいんだよね!?」

 

「おおおおお待ちなさいルビィ!気を確かに!深呼吸!そう深呼吸ですわ!気を落ち着かせて、もしμ'sが現れても礼儀よく挨拶から入れるように……」

 

「いざ……堕天!」

 

「「あぁっ!?」」

 

 

こういう時に空気を読まないのが善子。取り乱しまくる黒澤姉妹をよそに、テレビ電話は開始された。

 

そして、大画面テレビに映る屋外の景色。恐らく学校の屋上。

その中央には、穂乃果のこの上ないワクワク顔がデカデカと映し出された。

 

 

『あ、繋がった!Aqoursのみなさんこんにちは!スクールアイドルμ'sの、高坂穂乃果です!』

 

「ほ…穂乃果さんだ…!!凄いよ本当に……!…!?」

 

 

千歌がダイヤとルビィの方を見ると、完全に脳がパンクしている状態だった。端的に言うと体を震わせてフリーズしていた。ただただ目の前の理想的非現実に打ちのめされ、そして……涙したのだった。

 

 

礼儀云々よりも会話にすらならないため、Aqoursチーム(主に黒澤姉妹)のテンションが落ち着くまで割愛。続々とμ'sのメンツも現れたため、本当に時間がかかった。

 

 

『えーっと……お話しても大丈夫?』

 

「大変な失礼を…申し訳ございません。わたくしはAqoursの黒澤ダイヤ、不肖の身ながら浦の星女学院の生徒会長を務めております!こっちは妹の……」

 

「く、黒澤ルビィです!ルビィもお姉ちゃんも、μ'sの大ファンなんです!これからよろしくお願いします!」

 

『うん!よろしくねルビィちゃん!』

 

「穂乃果さんが…穂乃果さんがルビィの名前を…!」

「わ、わたくしも!どうか『ダイヤちゃん』と……!」

 

『へぇ、生徒会長。奇遇ね、穂乃果と私も新旧の生徒会長なの』

 

『絵里ちゃんと合わせて3人…同じ生徒会長アイドルでも全然違うタイプ…興味深いです…!』

 

「エ…エリーチカ……!」

「花陽ちゃんだぁ……!」

 

『すいません。これ多分頭数増やすと一生進まないので、一旦穂乃果さんだけ話す感じで』

 

 

壮間の仕切りで穂乃果以外退場。ファン波動は少しずつ慣らしていく方針を固め、取り合えず打ち合わせを進める事を優先する。

 

 

『元気そうでよかったです、千歌さん』

 

「もう大丈夫!今はもうμ'sとのライブ頑張ろう!ってなってるから!それに、朝陽くんはきっとまだ消えてない。私はそう信じてるから、消えてないんだよ!」

 

『…?は、はい。俺もそう思います…多分。

ちょっと聞きたいんですけど、今のとこそっちに何か異常は?』

 

「異常って…?別になんともないけど……あれ?みんなどうかした?」

 

「千歌ちゃんは昨日いなかったけど…あったんだ、異常。それもちょっとしんどいのが…」

 

 

耀の言う通り、千歌以外はその異常というものに心当たりがあるようだった。それを思い出そうとすると、視線は自然と蔵真の方に向けられる。

 

 

 

 

昨日のことだ。

あの戦いで姿を消したと思われたアナザーゴーストが、再び街中に現れた。それもこれまでのような無気力な状態ではなく、明確な衝動のままに暴れる姿を見せていた。

 

恐らく香奈とナギの精神がぶつかり合っているのだろう。被害を食い止め、アナザーゴーストを捕縛すべく、蔵真が現場へと向かった。

 

 

「最早戦えるのは俺だけだ。それも万全とは言い難い。だが、俺は俺の魂に懸け、俺の生き様を遂行する!」

 

 

アナザー電王の不意打ちに敗れ、仮面ライダースペクターの力はライドウォッチとして令央の手に渡ってしまった。しかし、戦う手段は健在だ。

 

蔵真が腕に装着したのは『プロトメガウルオウダー』。アリオスが持つ正規のものを真っ黒にしたブレスに、青いネクロム眼魂を装填する。

 

 

「変身!」

 

《Loading》

《ネクロム!》

 

 

蔵真は黒い身体に青い単眼のネクロム、『ダークネクロム(ブルー)』に変身。苦しむように荒れ狂うアナザーゴーストの拳を受け止め、カウンターで退けた。

 

受け止めた腕が痛む。所詮は応急処置扱いの予備戦力、性能はスペクターに何段も劣る。

 

 

「日寺壮間が俺たちの後を継ぐなら、その少女は俺たちのAqoursの意志を継ぐ者だ。お前如きが縛っていい存在じゃない!失せろ、悪霊!」

 

「あく…りょう…?ひ、ははははは!!」

 

 

香奈の声で寒気を催す笑いが鼓膜に響く。ナギの邪心が、彼女の理性を飲み込もうとしているのだ。

 

その狂った殺意がダークネクロムへと集まった瞬間、凪いだ戦場を搔き乱す風が吹き荒れた。空に浮かぶ紋章は、畳み掛ける災厄を意味する。

 

令央に倒されたガンマイザー・ウィンドが、復活して人間世界へと再び舞い降りた。

 

 

「だれ?」

 

「ここでガンマイザー…!いや……!?」

 

 

ガンマイザーの様子が妙だ。コンピューターのような正確無比な所作に、大きな歪が見える。アナザーゴーストにも似て、内側から別の存在に食い破られそうに、感情の無い存在は確かに苦しむ。

 

 

「解析不能…消去、消去、消消消消消───」

 

 

身体が崩れ去る。四肢も頭部も砕け、その内から出でる別の存在()()がガンマイザー・ウィンドを作り替えていく。

 

金の紋様が入った黒い身体に手足は深緑の爬虫類の肌。そこに巻き付く青いプレートには炎の模様。片腕には白い爪と銀色の刃だが、片腕には銃が埋め込まれ、胸の黄色い球体を覆う機械装甲など人工的要素も確認できる。

 

そして、それらのパーツを繋ぎ合わせる緑のチューブと、鋭い牙から視線を上に映すと見える二本角に気付き、蔵真はその正体を確信した。

 

 

《スペクター》《ネクロム》《ギルス》《カリス》《ゾルダ》《クローズ》

 

「解析不能、六の力を確認……制御、不可能、破壊、排除、消去」

 

「奴は…俺たちの力を吸収したのか!」

 

 

令央はガンマイザーを倒す際、6つのライドウォッチを吸収させた。それが再生の過程を経てガンマイザーと同化し、常識の埒外にある化物を誕生させたのだ。

 

6人の仮面ライダーの力と融合したこの物語の冒涜者は、もはやガンマイザーというよりアナザーライダーに近い存在。『キメラアナザー』と呼んで然るべき存在だ。

 

 

「その力、返してもらうぞ!」

 

 

そう意気込んでキメラアナザーに照準を変えた瞬間、その敵意に反応したのか、蒼炎を帯びた黒い竜巻がアナザーゴーストもろともダークネクロムを吹き飛ばした。

 

攻撃に備える隙を与えず、炎で塞がれた死角から鞭が縦横無尽に襲い掛かる。アナザーゴーストがそこで逃げ出したことで、キメラアナザーの標的はダークネクロムに絞られてしまった。

 

 

《SHOOT VENT》

 

 

仮面ライダーゾルダの巨大大砲武器『ギガランチャー』が、ノブナガ魂の武器複製能力によって二門に。本来両手で扱うその装備を両片手に同化させ、ダウンしているダークネクロムに対し、

 

 

「マズい……!!」

 

 

無慈悲に砲撃を放った。

 

地面が弾け飛び、砲撃の前にあった物全てが塵へと還った。

反動でキメラアナザーの両腕も吹き飛んだが、ネクロムの液状化能力で瞬時に再生。

 

片やダークネクロムは変身解除し、全く動くことができない。

むしろ変身解除で済んだだけ幸運だ。この強さ、スペクターの力があったとしても勝てるかどうか分からない。

 

アナザーゴースト、アナザーダブル、アナザー電王に続く更なる障壁が誕生してしまった。

 

 

 

 

 

「……というわけだ。あくまで仮称だが、あのキメラアナザーの強さは計り知れない。破壊兵器という意味では、間違いなく俺の知る何よりも強大だ」

 

『それでそのキメラアナザーは!?蔵真さん無事…いや現に無事なんですけど…どうなったんですか!?』

 

「その後ほどなくして活動を停止、どこかに消えた。恐らく急激な進化による反動かエネルギー不足だろう」

 

「なんだ…よかったぁ」

 

『全然良くねぇよアホか。そいつがいつ攻めてくるか分かんねぇ、しかも敵の策略がプログラムされてんならお前らを狙ってくるってことだぞ。分かってんのか高海千歌』

 

「ご…ごめんなさい……って、誰!?壮間くんじゃない!」

 

『こちら切風アラシさん、こっちの時代の仮面ライダーです…口悪いのは慣れてだそうです』

 

 

男の声だから壮間かと思ったが、よく考えなくても壮間にしては口が悪すぎる。と思ったら別人のアラシだった。その後ろには作業を終えた永斗と、付き添っていたアリオスもいた。

 

ある程度あの話を聞いたのなら、当然アリオスが通話画面に食らいつく。

 

 

『無事か蔵真!』

「無事かアリオス!」

 

「一緒に心配してどうするのです」

 

「俺は無事だ、眼魂の体にも異常はない。それよりもアリオスは…!」

 

『私の事などどうだっていい!そんな敵が現れたのなら、蔵真一人で戦うのは危険だ!私も今すぐ元の時代に戻る!』

 

「駄目だ」

 

『なっ…何故だ!』

 

「お前もネクロムの力を失っているだろう。来たところで結果は大して変わらない。俺たちの後継者のため、その時代で出来ることがまだあるはずだ」

 

『しかし…蔵真一人では!』

 

「心配するな。戦力が無いなら増やせばいい。ちょうど、そいつが目を覚ます頃だ」

 

 

アリオスを鎮めるための気休めではないと、壮間は直感した。新たな戦力が目を覚ますと聞けば、それなりに聡明な壮間には一つの可能性が思いつく。

 

 

「話は聞いた。例は言っておくぞスペクター、眼魂の体も悪くない。これで俺は戦える」

 

『……やっぱり…ミカド!!』

 

 

通話画面に新たに現れたのは、昏睡状態だったはずのミカドだった。本人が言う通り眼魂の身体を使っているだけで、回復したわけじゃない。それでも、壮間にとってこれは喜ばしい以外の何でもなかった。

 

 

『蔵真、眼魂は2つしか無かったはずじゃ…』

 

「怪奇現象管理協会が保管していたものを無断で持ち出した。魂のダウンロードにはそれなりに時間がかかったがな」

 

「蔵真さんも滅茶苦茶するようになりましたわね…」

「割と前からこんなのだったずら。でも、壮間さんとミカドさん、時を超えた感動の再会……!って感じでもなさそうずら…」

 

 

壮間の方は喜びが分かりやすいが、ミカドの方は全くそうではない。どっちかというと壮間の顔を見たくないし、この空間自体に喜びの要素が無いと言っているようだ。

 

 

「日寺。俺が眠っている間に過去に行き、ライダーと接触か。それで出し抜いたつもりか?」

 

『出し抜く…?いや、言ってる場合じゃないだろ』

 

「ふざけるな!俺も今すぐその時代に向かい、ダブルを殺して力を手に入れる!貴様の好きにはさせない!今度こそ、ライダーの力は俺が手に入れる!」

 

 

勝手なことを言い出して誰もが頭を抱えた。少しでもこの男を知っていれば分かるが、ミカドをライダーに協力させるなんて割と無理難題なのだった。

 

 

『はぁ!?何言ってんだよ、ミカドにはそっちの時代で頑張ってもらわないと!キメラアナザーとまともに戦えるのミカドしかいないんだぞ!俺がアナザー電王倒してミカドを回復させるから、協力してくれよ!』

 

「知った事か!ゴーストは消え、この時代にはもはや何も残されていない!アナザー電王だって俺が倒せばいい話だ!貴様の手など誰が借りるか!」

 

『いやだからさ…!』

 

「貴様のお膳立てになど二度とならないと言っている!俺は俺の目的のためライダーの力を手に入れ、俺一人で戦い抜く!貴様に俺を決める権利は無い!俺に歯向かうというなら、その時代で真っ先に貴様を殺す!」

 

『だから……お前ダブルのプロトウォッチ持ってないじゃん。来れないよねって話なんだけど……』

 

 

ヒートアップしていた論争が一気に冷えた。

論点が違ったことが判明し、ミカドも唇を震わせて目線を逸らす。逸らした先に笑いをこらえる鞠莉がいたのが更に不運だった。

 

 

「っ……!貴様が俺を迎えに来ればいい話だ!出し抜くつもりが無いのなら来れるだろう!来い!今すぐに来い!来なければ殺す!!」

 

『行くわけないだろ馬鹿なの!?』

 

「誰が馬鹿だ!もういい、とにかく俺は好きにやらせてもらう!どけ!」

 

『あっ、おい…!なんでアイツはこうも……』

 

 

ロクに話も聞かずにミカドは出ていってしまった。

しかし状況の解決にはなっていないものの、ミカドが戻ってきてくれたのには壮間も表情が緩む。これで共に戦ってくれれば有難いのだが。

 

 

『すいませんウチのミカドが…』

 

「ミカドさんは余り頼りにしない方が良さそうですわね。あの感じでは」

 

『そうだな。もしかすると呑気にライブの話し合いしてる暇も無いかもしれねぇ。そっちもこっちも、敵に居場所を把握されてるって事だからな』

 

「えーっ!?そっちの場所もバレちゃってるんですか!?ヤバいじゃん!」

『そうなのアラシ君!?てゆうか敵って誰だっけ?』

 

『アナザーダブルだ。ちょっと静かにしてろオレンジ馬鹿コンビ』

 

「『オレンジ馬鹿コンビ……』」

 

 

場所が割れているこの状況では、敵の気まぐれ次第でライブの計画など容易く崩れ去る。そんな状況下でライブ成功+香奈救出は無謀な賭けにも程がある。

 

その戦況でアラシが出した結論は、

 

 

『なるだけ遠くに逃げるぞ。ライブ準備はそこでする』

 

「逃げる!?って…どこに?沼津くらい?」

「千歌ちゃん、それは近すぎ……」

 

「お待ちなさい。逃げるのはいいですが、逃げた先でライブ練習をするとなれば話が変わりますわ。土地勘のない場所では練習はおろか寝泊まりですら一苦労。長距離移動にも時間がかかります。そんなことをしている暇は無いと思いますが」

 

「あと、この画面を持ち運ぶのはちょっと……」

 

「仕方ないわね……堕天使ヨハネの空間転移の出番!」

「本当にできるなら頼りにするずら」

「うっ…」

 

『んなもん現地で調達しろ。どうせ無かった事になんだ、全財産はたいてでも買え。移動手段は……飛行機の荷物にでも紛れ込めばいいだろうが』

 

 

ダイヤ、梨子の常識的意見を脳筋犯罪意見で捻じ伏せるアラシ。

まぁ流石にそれを実行するのはマズいということで、誰も賛同はしなかった。

 

 

『それよか問題はこっちだ。こっちは永斗の作ったコイツを運ばなきゃだからな。一旦バラして現地で組み立てさせるか』

 

『永斗さん過労死しますよ……』

 

「あーもう何か無いの!?こう一瞬で移動できる魔法のアイテムとか、必殺技とか……ああぁっ!!」

 

 

頭をわしゃわしゃしながら声を張ると一緒にアイデアも飛び出して来たようで、千歌が「これだ!」と立ち上がった。

 

 

「先生に頼もう!今こそその時だよ!」

 

『そうか…兄上の力を借りれば!それだ千歌!』

 

 

千歌にアリオス、2015年組はそのアイデアに揃って指をさすが、それ以外の者には何が何だか分からない。

 

 

『兄上?先生?何の話だ説明しろ』

 

『私の兄上、眼魔世界の第二王子のことだ。兄上は人間界が好きすぎる余り眼魔世界を百年単位で留守にする放蕩息子……意味は合ってるか梨子?』

 

「大体合ってる……と思うけど」

 

『よしっ!……と、すまない。それで兄上は今、浦の星で社会教師をしている。そして兄上は人間界の各地を転々とするため行った先にゲートを繋げているのだ。一度眼魔世界を経由する必要があるが、それなら一瞬で長距離移動が可能になる!』

 

「その話聞いて、先生に旅行連れて行ってって頼んだんだけど…『ズルは認められない!』『交通機関に金を落とせ!』って怒られちゃったんだよね」

 

『兄上は何でもできるが故に規則には従順らしいから……千歌はもう少し真面目になった方がいいと思う』

 

『よし、それならそいつに手伝わせろ。断るようならこめかみに銃口でも突きつけてやれ』

 

『人の兄上になんて真似を!?』

 

『言ってる場合じゃねぇんだよ』

 

 

どこに行くかという問題は残るが、ひとまず2015年側の移動手段は確保できた。後は2009年組。このクソデカい機材を運びつつ、移動先の練習場所、寝泊まり場所も用意する方法があればいいのだが。

 

壮間も考えるが、両方の時代の事情もよく知らない壮間には何も思いつかない。黙って議論を見守るしかできないのが、何だかムズムズする。

 

 

『そっちは凄いねぇ、こっちもそういう凄い人いたらいいんだけどなぁ』

 

「人脈?ってやつですよ!もしかして人脈に関してはμ'sに勝ってる…!?」

「千歌さん!?穂乃果さんに対してなんて口を……!」

 

『でもでも!こっちにも色んな人がいるよ!μ'sのみんなだって真姫ちゃんピアノ上手だし、ことりちゃん絵が上手だし、海未ちゃん怖いし……あと情報屋の留人先輩とか…』

 

『今そいつ役に立たねぇだろ…いや待て。人脈……そうか!どうせ無かった事になるんだ、やれることやらせるしかねぇよな』

 

「それなら俺も思い付いた。練習場所諸々、奴らの力を借りたらどうだ」

 

 

アラシの思考に光が射す。蔵真もそれを聞き、提案を掲げる。それぞれが各々の陣営に考えを伝えると、グループの熱意に火が灯ったのを感じた。

 

こんな絶望的ピンチなのに、更に盛り上がっていくような、そんな予感がこみ上げる。

 

 

『ライブのためだ。使えそうな奴は使い倒す作戦で行くぞ』

 

「言い方!もっとあるでしょ他に!」

『そうだよアラシ君!使うとかそうゆうのじゃなくて……!』

 

「『みんなの力で、悪い未来をやっつけよう大作戦!!』」

 

『ダセぇ』

 

 

千歌と穂乃果のセンスはアラシに一刀両断されたが、向かう先は整った。μ's+Aqours+仮面ライダー、ここに上乗せされるのは、これまでの物語が繋いだ絆だ。

 

 

___________

 

 

 

2015年ではなんとかアリオスの兄に話をつけられたらしく、移動の手はずは整った。が、2009年ではそれを遥かに凌ぐ難易度が立ち塞がる。

 

令央とナギに気付かれれば終わり。ライブまでバレては駄目のかくれんぼ、これはそういうゲームだ。そのためには、まずは鬼に「もういいかい」して貰わないと始まらない。

 

鬼の目を30秒塞ぐ役割は、()()が請け負ってくれた。

 

 

「わざわざ潰れに来てくれるとは好都合。ちょうど、贋作と同じ空気を吸い込むのが不快になってきた所だ」

 

「贋作ではない正義だ。俺は正しい。俺が誤りであることは有り得ない、有り得てはならない。俺という唯一絶対の真理を、貴様という悪に刻み込んでやる!」

 

《アクセル!》

 

 

令央を相手取るのは仮面ライダーアクセル、赤嶺甲。他者の時間を踏みにじる令央という悪を知って、この男が一秒とて黙っているはずがない。

 

そしてもう一人の鬼、火兎ナギは。

 

 

「…ツイてるっ!まさかあなたに会えるなんて!どんな風の吹き回し!?」

 

「愚問だねгоспожа(お嬢さん)

ただ、なんでもない風が吹いただけさ。風の吹くまま、風が呼ぶまま、オレは『楽しい』がある所に舞い降りる」

 

 

軍服とスーツが合わさったような、黒い衣装。仮面の後ろで笑う青い瞳が、ナギの身体の奥を見据える。

 

探偵、警察、そこに一つ加えるとするなら『怪盗』。

彼こそが、現代に生きる怪盗にして2009年最強の仮面ライダー。

 

 

「予告状の無いブレイを許してくれるかい?

怪盗エターナル、キミの中の『時計』を頂きに参上した」

 

《エターナル!》

 

 

地獄の怪盗団頭領、彼の名は『ミツバ』。

最強であり不死身の生物兵器NEVERである彼にとって、命の基準は曖昧である。故に彼が定めた生きるという定義は『楽しむ』ということ。

 

楽しんでなければ死んでいるのと同義。

今この瞬間、楽しみの気配…則ち『命の匂い』が最も濃いのは彼女だ。

 

 

「私、怪盗エターナルのファンなんだよね!不死身だなんて、そんなの最高に壊し甲斐あるじゃん!」

 

「いいね。さぁ……一緒に地獄を楽しもう!」

 

 

ロストドライバーにエターナルメモリを装填し、展開。

黒いマントと蒼き炎を纏った白い死神。永遠を司る戦士、『仮面ライダーエターナル』が舞い踊る。

 

 

 

____________

 

 

 

「赤嶺さんとあと一人、ミツバさんでしたよね。大丈夫ですかね……」

 

「赤嶺は死んでも死なねぇし、クソ怪盗は心配するだけ時間の無駄だ。さっさと練習環境作りに取り掛かるぞ。壮間もこれ運べ」

 

 

大きい通信装置を運ぶのに使ったのは、地獄の怪盗団の飛行船『コルヴォ・ビアンコ』だ。何故怪盗と連絡が取れたかと言うと、穂乃果の妹の雪穂が怪盗と知り合いだからである。どの程度の関係なのかはアラシも知らないのだが。

 

移動も飛行船を使い、迅速かつ隠密に済ませた。μ'sの現在地は東京から西に向かって大阪。何故ここに来たかと言うと、大阪なら『彼女たち』が環境を用意できるとのことだからだ。

 

 

「おかげで上手く事を運べそうだ。ありがとな、ツバサ」

 

『何を言ってるのかしら?μ'sは私たちに勝ったの。強者に相応の利得が入るのは当然のことだと思うけれど』

 

「流石元絶対王者、器が違ぇな」

 

 

アラシの電話の相手は、スクールアイドルランキング不動のトップ『A-RISE』のリーダー、綺羅ツバサ。A-RISEは学生ながら全国ツアーもする関係上、全国各地に顔が効く。こんなに急でも練習場所を確保できた。

 

A-RISEとコネクションがある理由は、赤嶺だ。ある事件をきっかけに、それ以来赤嶺とA-RISEは深い関係を築いている。奇跡的に繋がった関係性のおかげで、なんとか希望が途絶えずに済んだ。

 

 

「A-RISEって知ってますよ、この時のトップアイドルですよね。流石トップ、こんなふざけた状況もすぐ理解して動いてくれるなんて……」

 

「それは若干違ぇぞ壮間。赤嶺曰く、トップらしくあろうと常にクールの表情作るのがツバサの癖らしい。実際のとこ内心パニクってるからあんま刺激してやんなって赤嶺に……」

 

『聞こえてるわよ。甲といい、なんで男の人ってこうもデリカシーが……』

 

 

ツバサの素顔も見え始めたところで、壮間の心配は2015年の方に移る。移動の方は大丈夫そうだが、こちらのA-RISEのようなコネクションがあちらにあるのだろうか。

 

 

 

壮間の心配は半分外れ、半分当たった。

コネクションはある。それを頼りにAqoursは、眼魔世界を経由してはるばる北海道までやって来た。

 

幸運にもゲートと目的地が近く、向かったのは函館聖泉女子高等学院。冬休み期間だが、またしても幸運。彼女たちはそこにいた。

 

 

「聖良さん!」

 

「あ…Aqoursの皆さん!?どうしてここに…!?」

 

 

鹿角聖良。Aqoursのライバルグループ『Saint Snow』の一人。

東京のライブで会ってからも連絡を取り続け、千歌と聖良に関しては今や友人の域。Aqoursはそんな彼女を頼ることにしたのだ。

 

 

「蔵真さんも…!言ってくれたのならおもてなしの準備くらいしたのですが……」

 

「すまない聖良、事態が事態なんだ。お前たちに頼みがある」

 

 

聖良と蔵真には別途で面識があるため、事情の説明は蔵真がすることになった。まず理解はできないだろうから要点だけ、つまりかなりピンチだという事と、Aqoursの練習に協力して欲しいとだけ伝える。

 

 

「なるほど……分かりました。そう言う事なら私は協力しましょう」

 

「聖良さん…!ありがとうございます!」

 

「私は嫌」

 

 

上手く行きそうだった流れが止まった。その流れを一言で堰き止めたのはSaint Snowのもう一人のメンバー、聖良の妹の鹿角理亞。

 

 

「理亞……Aqoursのみなさんと蔵真さんの頼みです。引き受けてもいいじゃないですか」

 

「姉さまは特に蔵真に甘すぎ。私たちだって暇じゃない。余所者に構ってる余裕なんて無いんだから」

 

 

姉が最後のラブライブということもあり、理亞の意識は非常に高い。実際は歴史が消えるのだからラブライブ予選がどうとか言ってる場合ではないのだが、この感じだと説明しても納得して協力……なんて流れにはならなさそうだ。

 

今は一秒でも惜しい。こんな所で詰まっていられないという焦りが汗のように滲み出る。そんな時に千歌の携帯に着信、相手は壮間だ。

 

 

「もしもし壮間くん?」

 

『こっちは全部終わりました!そちらはどうですか?』

 

「それが……ちょっとかくかくしかじかでございまして…」

 

 

かくかくしかじかで壮間に伝わるわけが無く、結局状況を伝えることになった。伝えられたはいいものの、またしても壮間には何もできない議題で参ってしまう。

 

 

____________

 

 

 

「それはもう皆さんに頑張ってもらうしか……」

「ふむ、話は聞いたよ我が王。Saint SnowとAqoursの不和、由々しき事態だ」

 

 

大阪にまで付いてきたらしく、ここぞとばかりに出しゃばるウィル。この男は壮間に付属する概念的何かなのだろうか。

 

 

「Saint Snow鹿角理亞はAqoursの黒澤ルビィと友情を築く。本来なら協力を取り付けるのは容易だったろう。しかし、今はその出来事が起こるより前の時間軸……今の彼女を口説き落とすのは至難だ」

 

「それ言いに来たのかウィル」

 

「心外だね、私にも考えというものがある。

Aqoursの中に交渉材料が無いのなら、あらゆる場所から引っ張って来ればいい。例えばまさに、μ'sとの時を超えた合同ライブは非常に魅力的だと思うが?」

 

「そうか…合同ライブの話をしましょう千歌さん!それならもしかすると!」

 

『うーんどうだろう…?だって確かSaint Snowさんって、μ's好きじゃなくてどちらかと言えば───』

 

 

その言葉の続きに、お宝は眠っていた。いくら壮間でもこれが使えるということには気付く。

 

 

「アラシさん!もう一回ツバサさんに連絡を!」

 

「……そう言う事か。思ってたより大分、とんでもねぇことになりそうだ」

 

 

____________

 

 

 

壮間からの報告で、千歌の表情も晴れる。

チャンスは生まれた。しかも、考え得る限り最大で最高のチャンス。もし自分なら、いや実際そうなったが、この話に食いつかない手はない。

 

 

「理亞ちゃん!一つだけお話があるんだ、それだけ聞いて?」

 

「何?どんな話されても、私は手を貸す気なんて……」

 

 

千歌からの耳打ちで、理亞の怪訝な顔が180度反転した。眼を見開き、無意識に口角が上がる。喜びと高揚が隠しきれず、遂には口から言葉が漏れる。

 

 

「時間をまたいで、A-RISEと合同ライブ……!?」

 

 

____________

 

 

 

『…えぇ、そういう事なら引き受けるわ。これが私たちの最後の使命というなら、未来のアイドルと合同イベント、A-RISEは全力を尽くすことを約束する』

 

「あぁ…恩に着るぞツバサ!」

 

 

アラシと壮間のアイコンタクト。両者が同時に頷く。

スクールアイドルフェスティバルにA-RISE、Saint Snowの2グループの参戦が決定。いよいよ本格的にハチャメチャなお祭りらしくなってきた。

 

 

「スクールアイドルフェスティバル、全容が見えてきましたね」

 

「この4グループのライブだ、絶対に成功する。アイドル側の心配は微塵欠片もねぇ。後は荒事を請け負う俺たち仮面ライダー次第だ」

 

 

ライブが完成に近づくにつれ、決戦の足音も近づく。

戦いが肩を叩くその瞬間までに何も変われなかったら、その時は全てが終わる。

 

これ以上頼るわけにはいかない。壮間自身の手で、ひっくり返す以外に道は無い。

 

 

「俺がやるしかない……やってやる…!」

 

 

壮間の心に火が点く。

その心が音を立てて燃えてくれるその瞬間を、壮間はまだ待つしかできない。

 

 




キメラアナザー!もう収集つかねぇよどうしよう!
でも必要な情報量は大体出せたので、次回からは話を一気に進められそうです。

さぁ後は増えに増えたキャラを僕が処理できるか。ライブ準備とライブ描写が上手くいくかの勝負です。しれっと復活したミカドも、そろそろ少し掘り下げの時間です。

ミツバに関してはラブダブルの「アイツはK/永遠を盗んだ怪盗」をよろしくお願いします。それだけなので。その1話しか出てないので!恥ずかしながら!

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